平成11年5月10日 平成11年第一回都議会臨時会知事発言 (はじめに) 平成11年第一回都議会臨時会の開会に当たり、一言ごあいさつを申し上げます。 本日ここに、一千二百万都民を代表される東京都議会の皆様方にごあいさつできますことを、光栄 に存じます。いま私は、我が国の首都東京の知事として、その重責を改めて痛感し、首都東京を変え 日本を変え、時代を覆う閉塞感を打ち破ろうという、みずからの決意を新たにしております。 (都議会との連携) 私は長らく国政の場に身を置き、国家のためにみずから信ずる道を歩んでまいりました。今後私は、 これまで培ってきたあらゆる力を活かし、全力を挙げて都政の諸課題に取り組む決意でありますが、 いうまでもなく、都政は都議会と執行機関との緊密な連携のもとに運営されるべきものであります。 何よりもまず、都議会の皆様方のご協力を心よりお願い申し上げます。 私は真摯な議論の積み重ねこそが、人間同士の理解を深め合い、連帯感と新しい友情を育み、新し い政策をも生み出すものと確信しております。皆様方と活発な論議を重ねつつ、新しい政治の有りよ うを、首都東京から創り上げていきたいと願っております。 本日は、副知事及び出納長選任の件についてお諮りするためお集まりをいただいた都議会でありま すが、私にとって初めての議会でもありますので、都政運営に当たる私の考えの一端を、申し述べさ せていただきたいと存じます。 (東京の現状に対する認識) 明治以来、一世紀余りの間に、我が国は「西洋に追いつけ追い越せ」という国家目標としての近代 化を、幾たびかの危機を乗り越えつつ、見事に成就してまいりました。このことは、日本人の英知あ る選択と努力の結果によるものであり、誇るべき成果であると思います。 しかしながら、翻って、現在の日本、そして東京を見ると、激しい変革の流れの中で、追求すべき 目標を失っているように思われます。 東京は危機的状況にあり、課題が山積しております。これを乗り越えなければ東京が破綻するだけ ではなく、日本そのものの衰退にも繋がりかねないという事態に陥っております。 景気と雇用対策はもとより、福祉、環境、災害対策、まちづくり、さらには親と子、先生と生徒と いった人間関係を含む教育の危機に至るまで、個々の問題の根源は深く、その解決は決して容易なこ とではありません。しかも都財政は、未曾有の危機に直面し、財政再建団体への転落さえ現実の問題 となりつつあります。 こうした事態が生じたのは、個々の政策や施策に起因するだけではありません。もはやその効用を 失った中央集権的な政治・行政のシステムの中で、時代にそぐわなくなった手法や仕組みに気づこう としない保守性、本質的な課題に対する無関心が、文化遅滞ともいうべき状況を政治の内に生じさせ ていることに最大の原因があります。 (都政運営の基本姿勢) 首都東京は、日本の心臓であり、東京の問題は日本全体の問題でもあります。首都東京から新しい 変革の歴史を創りだすことは、まさに焦眉の急となっております。今こそ、国政に対して新しいメッ セージを力強く発信し、これまでの枠組みを変えて、真の自治を確立することが求められているので はないでしょうか。 今私たちが成さねばならないことは、社会や大都市が目指すべき新しい目標を掲げ、それを実現す るために新たなる発想による有効な政策を提示することにほかなりません。そのために何よりも求め られているのは、これを断行する強い勇気と確固たる決断、そして実現に向かった弛まぬ努力であり ます。 東京には多彩な人材や質の高い情報そして技術が集積しております。こうした潜在的な力を引き出 すための知恵と工夫をこらすことが必要であり、そのことが東京にさらなる価値をもたらし、福祉、 教育、まちづくりの源を創り出すのであります。新しい世紀を前にして、東京都が主体性を取り戻し、 知恵を出し合って、現在の危機的状況を克服しなくてはなりません。 私は、都民の信託を受けて都政の舵取りを担うに当たり、民間の優れた発想力も活かしながら、確 かに育つ新しい政策の苗を着実に植えて、各分野にわたって危機を乗り越える都政運営を展開してま いりたいと考えております。 第一に、首都東京に活力を取り戻し、東京を危機から蘇らせること、第二に、新しい発想を取り入 れ、危機にさらされている都民が安心できる東京に変えること、第三に、都政の構造を抜本的に改革 し、都庁を危機から立て直すこと、第四に、思い切った先駆的な行動を展開し、国と世界に首都東京 からのメッセージを発信していくこと、以上四つの目標を定め、都政運営の基本姿勢といたします。 私は、このような基本姿勢のもとに、公約に掲げた様々な施策の実行に直ちに取り組むとともに、 総合的・体系的な都市構想の策定にも着手し、都民とともに都政を実りあるものにしていこうと考え ております。 (都民への呼びかけ) 最後に、私は、都民の皆さんに、この東京、この日本のあり方を自分自身のこととして考えていた だくことを、強くお願いしたいと存じます。 かつて、明治の先覚者、福沢諭吉は「立国は私なり、公に非ざるなり」「独立の気力なき者は国を 思うこと深切ならず」と説いております。「私」という個人の強い意思が国家を動かす原動力であり、 また、自立した個人でなければ、国のことを主体的に深く切実に考えられない、という意味でありま す。 このことは都政にあっても全く同じことです。一人ひとりの考えが堆積することでより確かな民意 が形成され、地方自治が地についたものとなります。同時に、東京の意思、日本の意思として、力強 い世論が築き上げられ、東京が、そして日本が変わっていくのだと確信いたします。 (おわりに) 以上、私の所信の一端を申し述べましたが、具体的施策につきましては、第二回定例会において申 し上げたいと考えております。都議会の皆様方の今後のご指導とご協力を、重ねてお願い申し上げる 次第であります。 この臨時都議会には、副知事及び出納長選任の議案を提出しております。よろしくご審議のほどを お願い申し上げます。ありがとうございました。