平成15年第四回都議会定例会知事所信表明
平成15年12月2日
平成15年第四回都議会定例会の開会に当たりまして、都政運営に対する所信の一端を申し述べ、都議会の皆様と都民の皆様のご理解、ご協力を得たいと思います。
去る10月5日、織田拓郎議員が逝去されました。ここに謹んで哀悼の意を表し、心よりご冥福をお祈りいたします。
1 はじめに
さて、江戸開府400年に当たる今年、多くの都民が、江戸東京の歴史に思いを馳せ、その洗練された文化を改めて認識したことと思います。
世界最大の百万都市であった江戸は、大名屋敷や寺院の豊かな緑が広がるなか、瓦葺の屋根と白壁によるモノトーンの美しい街並みがつづいておりました。社会学者のスーザン・ハンレーが「18・9世紀に生きるなら、このまちに庶民として住みたい」と述べているように、江戸は、上水道が完備され、近郊農村を背景としたリサイクルの仕組みや寺子屋などの教育システムが整った先進都市でありました。
この時代には世界的に閉ざされた暗いイメージがありますが、200年以上にわたる鎖国によって都市文化と人々の感性に磨きがかけられ、江戸は世界に誇るべき成熟した社会が形成されておりました。商品経済が発達し、水陸の流通ネットワークが江戸と地方を縦横に結んでおりました。
これらの営みがその後の近代国家の発展の礎となったのであります。しかし日本は、戦後半世紀の成長の過程で、長い歴史が育んできた独自の文化や美意識を無自覚のうちに置き去りにしてまいりました。太政官制度以来連綿と続く官僚体制は、アレックス・カーが指摘したとおり、OFFスイッチのないターミネーターさながら、環境の変化にもかかわらず一旦立案した計画をそのまま達成しようとして、美しい国土を傷つけてきました。東京のまちも、機能が高密度に集積した大都市に成長はしましたが、効率を優先するあまり、美しく優雅な江戸のまちからはかけ離れた姿に変貌してしまったのです。
日本の良い点、悪い点が象徴的に現れている東京を再生することにより、この国の歪みと停滞を克服し、機能不全に陥った官僚統制国家の壁を打ち破っていきたいと思います。
2 首都圏をにらんだ重要課題への対応
(空の利便性の向上)
足掛け5年にわたり取り組んできた横田基地の軍民共用化について、先日ハワイにおいて、横田基地の指揮権を持つファーゴ・アメリカ太平洋軍司令官と会談し、今後の具体的な協議に向けてお互いの理解を深めることができました。これにより、事態を大きく前進させることができたと思います。すでに、都と国の関係省庁による連絡会の設置が決まっておりまして、年内にも実務レベルの協議を始める予定であります。首都圏の逼迫した空港需要に対応するため、羽田空港の再拡張とともに、横田基地の共用化を一日も早く実現させたいと思います。
(ディーゼル車排ガス規制の実施)
次に、ディーゼル車の排ガス規制についてであります。
10月1日の規制開始から2か月が経過いたしました。11月末の違反車の割合が2%を下回るという大きな成果は、関係者の深い理解と骨身を削る協力によるものであり、皆様のご努力に心から感謝をいたします。先月、違反を続けた事業者4社に運行禁止命令を発動しましたが、今後とも違反車両に対し厳正に対処してまいります。
初冬の大気が以前よりも澄んでいると感じる都民が増えております。都庁に寄せられた幹線道路沿いの住民の声などによっても、「空気がきれいになった」「洗濯物が汚れなくなった」など、生活実感として大気汚染が大幅に改善されている状況が明らかとなっております。私自身も、規制が未実施の関西に出掛けた折に、空気の違いを実感いたしました。
自動車からの浮遊粒子状物質の排出量は、規制対応が進展した結果、1日当たりかつてペットボトル12万本分が、5万本分にまで減少していると推計されております。また、実際の観測結果は、気象条件などに左右されるため、ある程度時間をかけて推移を見守る必要がありますが、現時点においても昨年に比べて著しい減少傾向にあります。引き続き、東京にきれいな空気を取り戻すための努力を徹底して行ってまいります。
今回の取組みによって、首都圏の自治体は、広域行政の新しい連携の形を全国に先駆けて示すことができました。しかし、大気汚染は一都三県だけで解決できるものではなく、全国的な取組みが不可欠であります。国もようやく世界一厳しい規制を行うとは言明しましたが、効果的な規制を速やかに実施することはもとより、不正軽油の撲滅、さらには大気汚染健康被害者に対する救済制度の早期確立などとこれに伴うメーカー負担の検討など、行うべきことは多岐にわたっております。国は、自らの権限と責任において直ちに取り組むべきであります。
(環状道路の整備)
次に、環状道路の整備についてであります。
10月、東京地方裁判所において、圏央道あきる野インター予定地周辺の土地収用代執行手続を停止するとの決定がありました。この判断は、首都圏の交通事情の深刻さをまったく考慮することなく、歴史の針を逆戻りさせるものであります。極めて遺憾であり、東京高等裁判所に即時抗告をいたしました。
環状方向の道路整備の遅れが、首都東京の集積メリットの発現を著しく阻害し、加えて、大気汚染を深刻化させていることは紛れもない事実であります。さらに、日本全体の交通ネットワークの形成を損ない、物流コストを増大させて経済に悪影響を及ぼしていることも明らかであります。都は今後とも、国民全体の利益を実現するため、圏央道の早期整備を促進してまいります。
また現在、環境影響評価の手続きを進めている外環道については、インターチェンジの設置を巡り様々な意見が出されておりますが、高速道路の機能を発揮する上で、インターチェンジは欠くべからざるものであります。都民にとっても、首都圏にとっても交通利便性が向上するよう、広く関係自治体や都民の意見を受け止めて検討すべきであると思います。
(治安対策の強化)
次に、治安の回復についてであります。
<外国人犯罪への重点的取組み>
東京の治安は、1分45秒に1件の割で犯罪が発生するなど、危機的な状況に直面しております。なかでも憂うべきは、外国人犯罪者の跋扈であります。日本人の警戒心の薄さや量刑の軽さに目をつけた彼らにとって、日本は不正に一攫千金のチャンスを狙える無防備な国となっております。
こうした外国人組織犯罪の温床となっている不法滞在者問題を解決するため、都は10月、これまでの縦割り行政の弊害を改め相互に協力して対応することを目指し、法務省、警視庁と共同宣言を発表いたしました。 入国審査を厳格化するとともに、警視庁が摘発した不法滞在者を入国管理局に速やかに引き渡し、迅速に強制退去処分を行うなど、三者が協力して対策を講じ、不法入国者の水際阻止と不法滞在者の徹底取締りを進めてまいります。こうした連携により、不法滞在者を短期間で激減させていきたいと思っております。
留学・就学名目による滞在者の違法行為にも、入国管理局や警視庁と連携して警戒を強めてまいります。東京には日本語学校の約半数が集中しており、先月、関係団体や文部科学省とともに、「留学生・就学生の違法活動防止のための連絡協議会」を設置いたしました。関係者が協力して、就学やアルバイトの実態をチェックし、学生が犯罪に手を染めないように対策を講じてまいります。
また、不法入国者や犯罪者を日本に出国させないよう、関係国に対し働きかけを行う必要があります。外国人犯罪を元から絶つため、国家間での連携強化を国に求めてまいります。さらに、外国人組織犯罪の脅威に晒されている日本在住の外国人の方々とも力を合わせて対抗していくことも重要であり、今後、新たな方策を模索していきたいと思います。
<子どもが関係する犯罪の抑止>
未成年を連れ去る卑劣な事件が、この一年間、全国で150件以上も発生するなど、子どもに関係する犯罪が後を断ちません。
10月、「子どもを犯罪に巻き込まないための方策を提言する会」からの緊急提言をいただきました。今後、この提言に沿って、対策の具体化を早急に進めてまいります。
教育の現場では、先月から小中学生を対象に犯罪から身を守るための「セーフティー教室」を実施しておりますが、非行や犯罪を防止する教育をさらに拡充するため、今月中に専門家による委員会を立ち上げ、速やかに具体策を検討してまいります。
まちに氾濫する性に関する情報や犯罪を誘発しかねない風俗などから子どもたちを守るのは、我々大人の責務であります。子どもにとって好ましい社会環境を実現するため、青少年健全育成条例の改正を視野に入れ、様々な手立てを講じていきたいと思います。
非行や虐待など深刻な事態に陥った子どもを保護、援助することも重要な課題であります。児童福祉司の増員や弁護士の配置を進め児童相談所の機能の充実を図るなど、対応を強化してまいります。
少年による凶悪犯罪が多発しておりますが、これを防止する上で、軽微な罪を犯した段階で早期に深い反省を促すことが不可欠であります。
罪を犯した少年の約8割は家庭裁判所での審判や処分を受けないなど、十分な反省の機会が与えられていないのが現状であり、少年に対して多様な措置を講じることが必要であります。保護観察処分を受けた少年に対する再発防止に有効な仕組みを新設することも不可欠であります。このため、必要な法改正を国に強く求めてまいります。
また、少年による万引きは、殆ど罪の意識がないまま常習化することが多く、また、書店などの経営にも無視できない影響を与えております。このため、万引きの被害を受けている書店業界をはじめ、出版や警備などの関係団体と協力して「万引防止対策協議会(仮称)」を今月中に設置し、総合的かつ具体的な対策を検討してまいります。
<安全・安心のまちづくり>
10月、「東京都安全・安心まちづくり協議会」を町会や学校、PTAなど60の関係団体の参加を得て設立いたしました。今後、この協議会を中心に、持ち場持ち場で知恵を出し合って防犯対策を進めてまいります。都も、防犯ボランティアの活動を支援するとともに、ひったくりの発生場所などの犯罪情報を提供するほか、防犯カメラの設置費用を補助するなど、地域住民の取組みを積極的に支援してまいります。また、都の管理する公園や道路など公共空間を対象として全庁的に実施した安全総点検の結果を踏まえ、街路灯や防犯カメラを増設するなど、直ちに対策を進めてまいります。
防犯カメラの設置には慎重な意見もありますが、安全がプライバシーの前提であることは自明の理であります。都が設置している防犯カメラについては、プライバシーにも配慮して、統一的な運用基準を年内に策定いたします。広くこの基準を役立てていただきたいと思います。
まちの安全を警察だけに委ねていれば済む時代は過ぎ去りました。これからは、都民一人ひとりが自助共助の精神を発揮して、住み慣れた地域で行動を起こしていただきたいと思います。昭島市の中学二年生 鈴木実樹さんが考案した安全・安心のまちづくりの標語のように
「いいなぁ 安心」と心から感じられる安全な社会を取り戻していきたいと思います。
<危機への不断の備え>
先日、イラクにおいて日本人外交官が襲撃を受け殺害されるという痛ましい事件が起こりました。謹んで哀悼の意を表し、心よりご冥福をお祈りいたします。日本に対するテロの脅威が増大していることを改めて実感いたしました。
昨日、新たな脅威であるNBC災害に対処するため、天然痘ウィルスによる生物テロを想定した図上訓練を都独自に実施いたしました。私も訓練に参加しましたが、感染の拡大防止のために大変厳しい判断を迫られる局面もあり、有意義な訓練であったと思います。得られた知見を活かし、今年度中にNBC災害対処マニュアルを作成するなど、非常事態に備えていきたいと思います。
本格的な冬の訪れを前に、SARSの再流行に対する警戒を緩めることもできません。10月末、繁華街に潜伏した不法入国者の間でSARSが発生したと想定した訓練を、入国管理局、警視庁、東京消防庁等と合同で実施しました。現行の国の対処方針の下では、不法入国者などで感染のおそれのある者に対して、経過観察のための行動制限ができない、収容施設がないなどの問題が明らかになりました。こうした事態を早急に改善するよう、先月末、国に対して緊急提案をいたしました。
また、先月ハノイで開催されたアジア大都市ネットワーク21の総会では、SARSを実際に経験した各都市から具体的な生きた情報を得ることができました。これからの対策に活かしていきたいと思います。 今後とも、SARSに対して万全の体制で臨んでまいります。
三宅島の火山ガスの発生は小康状態にあるものの、安全を確保できるレベルには至っておりません。島民の皆様は、島を離れてから4度目の正月を迎えることになりますが、悲願である帰島に備えて、今から着実に準備を進めておく必要があります。都はこれまでも、道路などライフラインの復旧や一時帰島の支援に取り組んでまいりました。現在、10月に立ち上げた帰島プログラム準備検討会において、国、三宅村と協議を重ねており、帰島後の安全対策や基盤整備などの方策を今年度中に取りまとめてまいります。
3 都政改革の一体的な推進
次に、都政改革について申し上げます。
都政の構造改革を全庁挙げて一体的に推進するため、第二次財政再建推進プラン、第二次都庁改革アクションプラン、平成16年度重点事業を策定しました。今後、これらに基づいて、政策、財政運営、執行体制の改革を総合的に進め、都民サービスの充実と東京の再生という都民からの負託に応えていきたいと思います。
(財政再建への取組み)
私は就任当初から、財政再建を最重要の課題の一つと考え全力を挙げて取り組んできましたが、未だ途半ばであり、取組みをさらに充実、強化していく必要があります。今回のプランでは、4000人規模の人員削減を含む内部努力や制度の根本に遡った施策の見直し、さらには地方税財政制度の改善など、具体的方策を明らかにしました。平成18年度までに巨額の財源不足を解消し、経常収支比率90%以下に引き下げることを目指してまいります。
財政再建は、単なる経費削減を狙いとするものではありません。将来を見通して、都民ニーズの変化に応え、東京の活力を呼び戻す政策を推進するために、強固で弾力的な財政基盤を確立することが真の目的であります。このため、今後、中長期的な課題や構造的な課題を抱え財政再建に当たって検討すべき30の事業を例示し、率直に問題提起を行いました。今後、全庁的に議論を深め、都民、都議会、区市町村などの十分な理解と協力を得つつ、財政再建を進めてまいります。
(行政改革の推進)
財政再建と同時に、全庁的な行財政システムの改革にも取り組み、新たな課題に迅速に対応できる執行体制を構築いたします。
PFIやネーミングライツなどにより民間の活力や資金をこれまで以上に活用するとともに、都立公園や体育・文化施設などの公の施設については、民間事業者の参入を可能とする指定管理者制度を導入し、管理・運営の効率化を進めてまいります。
また、給与や福利厚生などの総務事務についてIT化・委託化による事務処理のセンター化を進めるほか、資産の利活用、公共工事や施設の維持管理のコスト削減にも積極的に取り組み、より効率的で効果的な都政運営を実現してまいります。
これまで都は、知事本部の設置や福祉局と高齢者施策推進室の統合など、時代の変化に即応した組織改革を行ってきました。こうした取組みをさらに進め、まちづくりや福祉・医療改革など現下の政策課題に的確に対応するため、都市計画局、住宅局、建設局の再編や、福祉局と健康局の統合を行い、新たな執行体制を整備いたします。
監理団体は、都民ニーズに応じた柔軟な運営が求められており、その時々の社会経済状況を踏まえ、常に存在意義を検証する必要があります。
今後、コスト、サービス両面で、民間との厳しい競争が不可避であり、団体自らが経営改革を進め、真に自立的な経営を確立する必要があります。都も監理団体改革を誘導するため、統廃合や職員数の見直し、財政支出の削減を図りつつ、経営努力へのインセンティブを高める仕組みの導入などを積極的に進めてまいります。
(重点事業の選定)
都政改革の取組みを政策面でも進めるために、予算編成に先立って、平成16年度の重点事業を策定いたしました。選定した30のプロジェクトには、厳しい財政状況にあっても財源を優先的に投入する考えであります。
主な取組みについて、以下申し上げます。
<住み・働く場の再生>
まちづくりの分野では、都有地を活用し民間の創意工夫を引き出す「先行まちづくりプロジェクト」を推進いたします。先般、目黒駅前と東村山市本町地区の2か所を指定しましたが、今後さらに地区を追加し、新しいまちづくりを本格的に展開してまいります。
また、広く質が良く低廉な住宅の供給が重要な課題でありますが、そのためには、住宅ストックの9割を占める民間住宅市場を活性化する必要があります。例えば、戸建住宅の生産供給は、設計や資材調達、施工など各段階での合理化の遅れにより、都民が求める品質や価格を実現できてはおりません。今後、戸建の住宅の品質確保とコスト低減、中古住宅の流通促進など生産供給の仕組みを工夫することにより、東京の住宅の質の改善を進めてまいります。
<東京の産業の活性化>
次に、産業の活性化についてであります。
東京には多くの大学や研究機関が集積し、ものづくりの優秀な技術を持った中小企業も数多く存在するにもかかわらず、両者の連携が不十分なため、研究成果が必ずしも製品開発に結びついておりません。
東京のものづくり産業の競争力を強化するため、来年度、ナノメートル、すなわち1メートルの10億分の1のレベルで製品開発や微少量生産システムの構築を目指す「ナノテクノロジーセンター(仮称)」を城南地区に設置し、民間企業、大学、都の研究機関の共同研究を行ってまいります。併せて、ものづくり技術の実践的な研究を進め、即戦力となる優秀な技術者を養成するため、産業技術の大学院を新しい都立の大学の一環として平成18年春に開設したいと思います。
また、中小企業が自らの技術を競争力の向上に活かすためには、知的財産の保護・活用が重要であります。そのため、本年4月に開設した知的財産総合センターなどにおいて、外国での模倣品被害への対策やデザイン力の強化への支援を充実してまいります。
<物流ネットワークの構築>
都民生活と東京の産業を支えているのは、首都圏さらに全国に拡がる経済の動脈、物流ネットワークであります。
近年の物流を取り巻く状況の変化を踏まえ、首都圏をにらんだ長期的な物流環境の改善を目指して、「総合物流ビジョン(仮称)」の策定に向けた検討を来年度から始めたいと思います。
当面の課題として、圏央道の建設に合わせた多摩地区の物流拠点の整備と、昭和40年代に設置された区部4か所の拠点の機能更新について検討を進めてまいります。
東京港においては、物流情報システムの構築やターミナルの24時間365日フルオープン化の推進などにより、港湾コストの3割削減、接岸から貨物搬出までの時間の大幅短縮を目指してまいります。
<グループホームの整備促進>
高齢化が急速に進むなか、都は、高齢者が地域で自立して生活するための施策を推進してまいりました。大幅な増設が急務となっている痴呆性高齢者のグループホームについては、昨年度、民間企業に対する補助制度を創設し、今年度は、社員寮などを改修して活用する仕組みを取り入れるなど、様々な工夫を凝らしてまいりました。
こうした取組みをさらに加速するため、整備率が特に低い区市町村などに重点的に補助を行うほか、未利用の都有地を廉価で事業者に貸し付ける都独自の制度を創設するなど、3年間集中的にグループホームの整備を促進してまいります。
<都民の健康と医療>
少子化、核家族化などによって、家庭における救急対応能力は著しく低下しております。最近では、若い親が突然熱を出した子どもを前にうろたえることも決して珍しくありません。
都は、インターネット版のこども医療ガイドシステムを開発し、10月から、育児経験の少ない、また身近に相談相手のいない親を対象に、病気や子育てに関する基本的な知識の提供を始めました。11月末までのアクセスは10万件を既に超えており、インターネット時代の知恵袋として活用していただきたいと思います。
子育て世代の不安を解消する上で、小児救急医療体制の確立も急務となっております。小児初期救急の平日準夜間診療を平成18年度までに都内全域で実現させるほか、「小児科医師人材情報センター(仮称)」の設置や開業医に対する小児医療研修の充実などに取り組んでまいります。
また、都民に身近な健康の安心スポットを確保することも重要な課題であります。地域の薬局などに着目し、その情報をインターネットなどを活用してきめ細かく提供するほか、薬剤師の研修を充実し、健康相談に幅広く対応できるようにしてまいります。
<教育改革の推進>
次に、教育改革についてであります。
近年、都内の不登校の児童・生徒の数は減少を続け、現在では全国平均を下回る水準にまで急速に改善されております。これは、スクールカウンセラーを国の計画よりも2年前倒しで公立中学全校に配置するとともに、習熟度別学習を大幅に取り入れるなど、「わかる授業」を積極的に展開した成果であると思います。
しかし一方では、「ゆとり教育」に関する議論が高まりをみせるなか、都民の間に子どもの学力低下に対する懸念が拡がっております。
都は、国の緩慢な対応を待つことなく、義務教育に対する都民の信頼を回復するため、区市町村と連携した取組みを進めてまいります。今年度から中学二年生を対象に、来年度からは小学五年生を加えて、すべての公立小中学校で一斉学力調査を実施し、この結果を都民に公表するとともに、授業改善計画を策定するなど、生きる力の土台となる学力の向上を目指してまいります。
また、教頭が校長とともに学校経営の一翼を担う立場であることを明確にするため、教頭の権限を拡充し、名称を「副校長」としたいと思います。来年度からすべての都立学校に適用してまいります。
次に、東京における自然と緑についてであります。
<都レンジャーの創設>
この秋、白神山地に同行したアルピニストの野口健さんは、小笠原の自然について「国立公園である以上、環境省がスペシャリストを育てなければならない。しかし、国は何もせず、レンジャーを一人も常駐させていない」と慨嘆していました。豊かな自然も、人間の無秩序な侵入を許せば瞬く間に荒れ果ててしまいます。
都は独自に自然保護の専門家を公募し、いわゆる「都レンジャー」として育成することとしました。来年度から、小笠原諸島、多摩地域の自然公園などに配置し、密猟や不法採取の監視、観光客への指導・啓発などの任務に当たらせたいと思います。
<都市と自然の新しい関係>
日本の都市計画公園の嚆矢である日比谷公園では、今年開園100周年を迎え、様々な記念行事が行われており、都心のオアシスとして都民に親しまれております。こうした都民の財産である都市の緑をさらに充実させて、次の世代に継承していきたいと思います。
そのためには、時代の変化に対応した新しい公園整備や緑の保全のあり方を検討する必要があります。これまでの行政主体による整備には限界があり、民間の力を活用する手法を新たに取り入れるなど、東京に相応しい緑の創造戦略を立ててまいります。
また街路樹は、神宮外苑の銀杏並木に代表されるように、都市における貴重な緑の空間を形成しております。今後、東京駅前の歴史ある行幸通りの街路樹の再生などを進め、都市に風格と潤いを生み出していきたいと思います。
4 新銀行の設立
東京の中小企業の活性化と金融システムの再生を目指す新銀行について、このたび、金融機関をはじめ多方面の企業の協力を得て、基本的スキームを構築いたしました。提携企業、金融機関、行政機関などが持つそれぞれの専門機能を連携させることにより、これまでの銀行にない効率性・機能性に優れた、新しいタイプの銀行モデルを提示してまいります。
貸し渋りや貸しはがしに苦しむ中小企業に対して、信用金庫をはじめとする地域金融機関と連携し、生きた資金を迅速かつ円滑に供給するため、キャッシュフローを重視し原則無担保で融資する「ポートフォリオ型融資」や、企業の持つ技術力を独自に審査し融資を行う「技術力・将来性重視型融資」など、新たな仕組みを積極的に取り入れてまいります。
また、都銀、郵便局などと広範なATMネットワークを構築するとともに、交通機関や百貨店などと提携した多機能ICカードの発行により、生活に密着した様々な場面で利用できる新サービスを提供し、豊かな都民生活の実現に貢献してまいります。
平成16年度初めには準備会社を発足させ、17年4月以降の開業を目指してまいります。東京の経済再生と都民生活の向上に貢献する新銀行の設立、発展により、東京発の金融改革を進めてまいりたいと思います。都民、都議会の皆様及び各方面からのご意見、ご提案をいただきたいと思います。
5 おわりに
この一年、様々な機会を通じて、多くの都民、国民に接し、切実な声を身近に聞くことができました。そうしたなかで、聞こえはいいが実体のない言葉だけが氾濫し、一向にこの国のあり方や改革の方向性、具体的な手立てが示されないことに、苛立ちやもどかしさを感じている人がいかに多いかを実感いたしました。
イギリスの歴史家トインビーは「いかに発展栄華を極めた国家も必ず衰弱し滅亡する。最大の原因は、自分で自分のことを決めることができなくなることである」と述べております。日本の発展を支えていると自負してきた政治家や国家官僚たちは、この国にとって何が本質的な問題なのかを判断する能力を既に喪失しております。
私たちは、今一度自分の足で立ち、頭で考えることで、自らの運命を選び取っていかなければなりません。日本の進路を決めるのは、日々生きた現実に直面し、その課題の解決を迫られている私たち地方であり、改革の志を持った都民、国民であります。今こそ、自立した国の新しい形を造形すべきときであります。
100年後、21世紀の初頭の現在が変革のはじまりであったと評価されるように、江戸開府500年に向けて、皆様とともに新しい一歩を踏み出したいと思います。
なお、職員の給与について、引き続く厳しい経済状況や雇用情勢を勘案してベースダウンなどを行うとともに、国や民間の動向を踏まえた退職手当の引下げを行うため、条例改正を提案しております。
本定例会には、ただ今申し上げた給与等に関する条例を含め、条例案28件、予算案1件、契約案5件など、合わせて41件の議案を提出しております。よろしくご審議をお願いいたします。
以上をもちまして、所信表明を終わります。ありがとうございました。
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