石原知事施政方針

平成16年2月25日更新

平成16年第一回都議会定例会知事施政方針表明

平成16年2月25日

 平成16年第一回都議会定例会の開会にあたりまして、都政の施政方針を申し述べ、都議会の皆様と都民の皆様のご理解、ご協力を得たいと思います。

1 都政の基本姿勢

(「国家破綻」に直面する日本)

 日本は今、財政的に「国家破綻」とも言える危機的な状況に直面しています。国家予算の歳出の半分が借金で賄われ、国と地方を合せた債務残高は、GDPの約1.4倍に当たる700兆円という天文学的な数字にまで膨らんでおります。わが国の財政がこのように極度に歪んだ状況に陥ったのは、第二次世界大戦以来のことであります。
 こうした危機を客観的に捉えられないところに、今日の日本の危機の本質があります。国の政治家も官僚も、目の前にある危機を正視しようとせず、その場凌ぎの彌縫策に汲々とするばかりでありまして、事態は修復不可能なレベルに達しようとしております。
 この間、都民、国民、民間企業は、景気低迷や雇用不安に怯むことなく、生き残りを懸けて弛まぬ努力を続けてきました。その結果、景気の先行きにようやく薄日が差し始め、雇用状況の悪化にもどうにか歯止めが掛かってきたように思えます。
 この機会を捉えて、国家全体の利益のために総合的に調整し先導するという、政治本来の機能を発揮し、長期的な国家戦略を示すべきときであります。しかし現実には、戦後の繁栄の陰で増殖した既得権益構造を維持しようとして、無用な駆け引きばかりが繰り広げられ、時間が空費されております。
 国難を乗り切るために断行されるはずの国の「改革」は、国際社会の常識からすれば、「氷河の動き」の如く遅々としており、逆に後退りしているようにさえ感じられます。鳴り物入りで始まった三位一体改革も、地方交付税制度には殆ど手がつけられないなど矮小化されようとしており、改革の本旨から大きく外れたものとなっております。年金や道路公団の改革も、目先の利害に囚われて小手先の辻褄合わせに終始し、本質的な改革が先送りされております。
 既存の利害関係という呪縛から脱することのできないようでは、21世紀に相応しいこの国の新しい行政システムを創り出すことはできないと思います。

(東京から始めた改革の波)

 国政の担い手たちが、現実を直視する勇気を持たず「改革」を掛け声倒れにしているなか、この5年間、東京から日本を変えるという視点に立って、東京の潜在力を引き出し、全国へ波及させることに力を尽くしてまいりました。また、首都圏をはじめ、危機意識を共有する大都市自治体と連携して、国が放置してきた課題に積極的に取り組んでまいりました。
 個々の政策の到達点と今後の展開については、以下、申し述べたいと思いますが、国の怠慢をただ嘆くだけではなく、自らの知恵と発想力を鍛えながら、日本の全体の利益のため行動を起こすことが何よりも重要であります。東京都は、その先頭に立って地方自治の新しい形を模索し、日本再浮上の道筋を切り拓いていきたいと思います。

2 東京再生を目指す政策の展開

(環境問題への積極的な取組み)

<ディーゼル車規制の成果>
 足掛け5年にわたって取り組んできたディーゼル車規制では、首都圏自治体の連携による成果を目に見える形で示すことができました。気象などの影響を受けない環状八号線井荻トンネルでの調査では、排気ガスに含まれるカーボンが2年前に比べて半減し、発癌性物質も最大で6割近く減少いたしました。
 都は来年度も、粒子状物質減少装置の装着費補助を継続し、いわゆる自動車Gメンによる違反車両の取締りを徹底するなど、引き続き大気汚染対策に取り組んでまいります。
 首都圏に止まらず全国の大都市で同様の取組みが展開されてこそ、日本に澄んだ空気を取り戻すことができると思います。本来、大気汚染を改善する責任は国にあり、首都圏以外でも直ちに対策を講じるべきであります。

<地球温暖化対策の推進>
 地球温暖化については、京都議定書の発効が遅れるなか、一向に国の戦略が見えてきません。都は年内を目途に、事業者の自主的な二酸化炭素削減策をさらに促す新しい仕組みづくりなど、大都市の特性を踏まえた独自の具体策を取りまとめてまいります。
 自然エネルギーの利用拡大も、温暖化対策の重要な柱であります。昨年3月、臨海部では風力発電施設「東京風ぐるま」の運転を開始しましたが、これに加えて、朝霞浄水場をはじめ8か所の浄水場で、ろ過池の上部をパネルで覆い太陽光発電を行ってまいります。また、有機性資源であるバイオマスも、大都市にとって貴重なエネルギー源であり、本年4月から森ヶ崎水再生センターにおいて、下水汚泥によるバイオマス発電事業をPFI方式により開始いたします。今後とも、自然エネルギー利用の可能性を追求してまいります。

<自然環境の保護と活用>
 東京に残された自然の保護・活用も重要な課題であります。
 都心から遙か南、1千キロに位置する小笠原諸島には、海洋に浮かぶ島特有の生態系やサンゴ礁など豊富な自然が残されております。しかし、移入種の繁殖や動植物の密猟・不法採取などによって、多くの貴重な固有種が絶滅の危機に瀕しております。既に今年度からエコツーリズムを実施しておりますが、来年度、自然保護の専門家であるレインジャーを都独自に配置いたします。また、ユネスコの世界自然遺産登録を目指し、関係機関と協力して取り組んでまいります。
 御蔵島においても、この4月からエコツーリズムを導入いたします。海域も含めて島全体を自然環境保全促進地域に指定し、観光経路を限定しガイドの同行を義務付けることにより、オオミズナギドリの世界最大の営巣地や、多数生息するバンドウイルカなど、貴重な自然を保護してまいります。

(着実に進める都市再生)

 次に、都市再生についてであります。

<羽田の整備促進と横田の共用化>
 宿願であった羽田空港の再拡張・国際化が、いよいよ来年度から始動いたします。都が沖合再拡張を提案してから3年半、国はようやく新たな滑走路の建設を予算案に盛り込みました。
 都はこの事業に対して、総額一千億の無利子貸付を実施することとし、来年度は、初年度分の15億円を貸し付ける予定であります。事業完成の暁には、年間の離発着回数が28万回から41万回に増大し、首都圏の空の利便性が格段に向上するばかりか、日本経済の活性化にも大きく貢献いたします。都は関係自治体とともに積極的に協力する決意であり、国は全力で整備を進めてほしいと思います。
 また、横田飛行場の軍民共用化についても、ようやく国も重い腰を上げ、具体的な取組みが始まりました。昨年12月、都と国の関係省庁との局長級による連絡会が設置され、事務レベルの協議を開始しております。首都圏の逼迫する空港需要に対応するため、関係自治体とも連携して早期実現を目指してまいります。

<三環状道路等の整備促進>
 次に、首都圏の交通インフラの骨格を成す三環状道路など、幹線道路の整備についてであります。
 先般、圏央道予定地の土地収用を巡り、東京高等裁判所において執行停止を取り消す決定がありました。圏央道をはじめとする三環状道路の整備は、首都圏の再生、日本全体の交通ネットワークの充実のために不可欠な事業であります。この決定を受け、今月上旬から自主的な土地明渡しが進められておりますが、残る箇所についても適正に対応してまいります。
 外環道については、先月から、環境影響評価の現地調査に入っております。中央環状線のうち、新宿線は平成18年度完成を目途に建設を進めており、品川線は来年度中の都市計画決定を目指しています。環状八号線など区部環状道路や多摩の南北道路についても、引き続き重点的に整備を進めるとともに、交差点での渋滞解消を目指す「スムーズ東京21拡大作戦」を5か年で百か所実施してまいります。
 都内の膨大な道路ストックは、東京オリンピックの開催前後に集中して建設されたものが多く、今後10数年のうちに一斉に更新時期を迎えます。都市機能が麻痺してしまうような事態を未然に防ぐため、新たな予防保全型の道路管理手法の導入に向けた取組みを来年度から開始し、経費の最小化と投資効果の最大化を図ってまいります。

<民間賃貸住宅市場の改善>
 次に、住宅政策についてでありますが、民間賃貸住宅は、東京の全所帯の約4割、200万を超える世帯が生活の場としておりますが、退去時の敷金精算などを巡ってトラブルが絶えません。原状回復の費用負担に関する紛争の未然防止を目的とする新たな条例を本定例会に提案しております。併せて、礼金、更新料のない合理的な契約の普及を促進するなど、誰もが安心して住宅を貸し借りできる市場を整備してまいります。

(治安の回復)

 東京が問題提起し、行動を開始した治安回復の取組みは全国へと広がり、国もようやく、警察官の増員など具体的な取組みを始めました。都は、こうした流れをさらに加速し、徹底した対策を講じてまいります。

<子どもを犯罪に巻き込まない取組みの徹底>
 まず、子どもが安心して育つ環境を大人が責任を持って創り出すため、青少年健全育成条例を改正したいと思います。
 不健全図書については、販売業者に対して、図書の包装と自動販売機への年齢識別装置の設置を義務付けてまいります。深夜徘徊を防止するため、保護者に子どもを深夜に外出させない努力義務を課すとともに、保護者の承諾なく大人が深夜に子どもを連れ歩くことを禁止し、新たに漫画喫茶やインターネットカフェなどへの深夜立入りを制限いたします。着用済み下着等の買受けや、風俗店へのスカウトなどの勧誘行為を規制してまいります。また、警察官に深夜立入禁止施設等への立入調査権を付与し、対策の実効性を確保したいと思います。

 子どもを犯罪に巻き込まないため、来年度から3年間で全ての公立学校でセーフティー教室を開催するとともに、警察官OB約100人をスクールサポーターとして定期的に学校に派遣し、教職員へのアドバイスなどを行う制度を導入いたします。
 子どもが犯罪に巻き込まれる兆候を敏感に感じることのできるのは、教え子に日々接している教職員に他なりません。教職員一人ひとりが自覚を高め、さらに真剣に取り組むことを期待したいと思います。

<外国人犯罪対策の強化>
 外国人組織犯罪を封じ込める上で、不法に入国しようとする者を水際で阻止することが重要であり、入国審査の厳格化と体制強化が急務となっております。国に対して、さらに厳しい審査を求めていくとともに、都としても東京入国管理局に15人の職員を派遣し、協力して取り組んでいきたいと思います。
 また、都内の来日外国人刑法犯検挙者の約4割は留学・就学名目で入国した者であり、こうした学生を受け入れている日本語学校等のあり方が厳しく問われております。新宿区、渋谷区、豊島区には都内の留学生の半数以上が集中しております。都は、この三区や警視庁、東京入国管理局などと連携して情報交換、実態把握を進め、今後、問題のある学校に対して改善指導を行うほか、特に不適正なケースについては学校名の公表を検討するなど、効果的な対策を講じてまいりたいと思います。
 先月末、長く日本に居住する心ある中国人の方々と都、法務省などによる意見交換会を開催いたしました。その中で、「検挙者の多くが中国人である現状には恥ずかしさと憤りを禁じ得ない。中国人犯罪の撲滅に向けて都と協力していきたい」との発言が相次ぎました。こうした声に応えて、一致協力して中国人犯罪組織を孤立化させることが必要であり、今後、緊密なコミュニケーションを図りながら、様々な具体策に取り組んでいきたいと思います。

<街頭犯罪の防止>
 街角の交番は、住民にとって最も身近な防犯拠点であり、日本が誇る優れたシステムでありましたが、近年、いわゆる「空き交番」が増加し、「困ったときに警察官がいなくて不安だ」との声が多く聞かれます。
 来年度、当面の対策として、退職警察官による「交番相談員」を200人増員するほか、交番に駆け込むと自動的に警察署とつながる対話型のテレビ電話を導入するなど、空き交番を実質的に解消していきたいと思います。
 この4月から、都職員を100人を警視庁に派遣いたします。派遣職員が内勤業務を担うことで警察官を現場に振り向け、治安回復につなげていきたいと思います。さらに、警察官200人の増員や警察官OBの再雇用拡充などにより、合せて千人規模の警察力を増強いたします。
 また、地域での自主的な活動を支援するため、来年度、防犯カメラなどに対する補助の枠を百か所分確保するほか、「まちかど防犯隊」などのボランティア活動に対する支援策を講じてまいります。
 区市町村においても地域に根ざした防犯対策が進められております。都民の皆さんも一人ひとりが自助共助の精神を大いに発揮し、身近な地域で安全なまちづくりに取り組んでいただきたいと思います。

 都内の留置場は基準の人数を超える収容者で溢れており、その増設が緊急の課題となっております。原宿警察署の移転に当たっては、周辺との調和したまちづくりを民間活力の導入により進めるなかで、大規模な留置場を整備してまいります。また、「臨港警察署」の整備や鮫洲の都有地活用など、様々な機会を捉えて留置場を確保してまいります。
 先日、一都三県の治安担当副知事による連絡会を開催いたしました。都県境を越えた広域的な連携をさらに強化し、治安回復に向けて首都圏が一体となって取り組んでいきたいと思います。

(直面する危機への対応)

 次に、危機管理についてであります。

<東京港の危機管理>
 平成13年9月の同時多発テロ以来、国際的テロへの対策が急務となっております。東京港では来年度、港湾施設に監視カメラやフェンス、照明を設置するなど、24時間の監視体制を強化してまいります。
 また、不法入国、密輸、SARSなど新たな感染症を水際で阻止することも重要であります。現在、国においても、船舶の入港規制に関する法案の検討が進められていますが、住民の安全に責任を持つ自治体としても、欠陥船や無保険船の規制に止まらず、危険な船舶に対して断固たる措置を講じる必要があります。
 船舶の入港により都民生活の安全が害されるおそれが強く、これを防止するため他に適当な手段がないと認められる場合は、港湾を利用させないよう、港湾設備条例を全面的に改正したいと思います。今後、東京湾に港を持つ自治体とも連携を図りながら、危機管理に万全を期してまいります。

<住宅火災への備え>
 住宅の防火性能の向上や火災予防の様々な取組みにもかかわらず、火災による死傷者は増加傾向にあります。火災警報器の設置により、就寝中の逃げ遅れなどを防止することで、死者の発生率を3分の1に抑えることができるといわれております。このため、条例を改正し、全国で初めて、全ての新築住宅に対して火災警報器の設置を義務付けたいと思います。

<都民の健康と食の安全>
 昨年暮れ、韓国で発生した鳥インフルエンザは、瞬く間にアジア全域に拡大し各地で猛威を振るっており、人から人への感染も懸念されております。先月、国内でも79年ぶりに発生しましたが、都は直ちに、全養鶏農家を調査し、感染の事実が無いことを確認いたしました。また、新型インフルエンザへの変異を防止するため、養鶏業者等へのワクチン接種を無料で実施いたしました。今後とも、定期的な調査を行い、先手先手で対応策を講じてまいります。
 このほか、アメリカでのBSE発生などに伴って、食品の安全に対する関心が高まっており、正確な情報提供が強く求められております。生産地や収穫期日、栽培方法、飼料など生産・流通情報を自主的に公開する業者の登録制度を、この春にも都独自で創設し、都民が安心して食品を購入できるようにしてまいります。
 都は昨年から、食品安全情報評価委員会の設置や自主管理認証制度の創設など、様々な取組みを進めております。こうした取組みの集大成として、生産から流通、消費に至る各段階での食の安全、安心を確保するため、「食品安全条例」を提案しております。

<三宅島の復興>
 既に3年半近く全島避難が続く三宅島では、火山活動が徐々に低下してきているものの、火山ガスの放出は依然として終息せず、今後も同程度で続くと予測されております。
 国、三宅村と設置した「帰島プログラム準備検討会」において、安全対策、基盤整備、生活再建など、帰島に向けた課題の検討を続けており、先月末には、6軒の旅館、民宿が復旧作業員の宿泊施設として再開いたしました。「一日も早く帰島を」という島民の皆様の切実な願いに応えるため、着実に準備を進めてまいります。

(東京の産業の活性化)

<中小企業への金融支援の充実>
 次に、中小企業への金融支援についてであります。
 これまで都は、CLO、ローン担保証券やCBO、社債担保証券などの発行を国に先駆けた独自の取組をやってまいりました。中小企業に対する直接金融の道を切り拓いてまいりました。平成12年からは毎年発行を重ね、これまでに7千5百社に対し総額3千億を超える資金供給を行い、参加企業のうち20社が株式上場するなど大きな成果を上げております。
 東京発の新しい中小企業支援策は、福岡、大阪、千葉など全国にも拡がっており、今後、他の自治体との共同発行についても検討していきたいと思います。
 都内には優秀な技術力を持ったベンチャー企業が多数存在しております。成長過程にある企業に十分な資金を提供するため、都の出資による投資法人を来年度新たに設立し、一般投資家からも広く参加を募りながら、新しい産業を担う競争力のある企業を育成してまいります。
 また、中小企業の再生を目的とするファンドを来年度新たに創設いたします。優れた人材や技術を持ち再生の見込みがありながら、既存の金融機関から融資を受けられず資金繰りが悪化している中小企業に対し、都内の地方銀行、信用金庫、信用組合などと協力して、出資や経営支援を行っていきます。
 中小企業制度融資については、融資メニューや貸付期間、金利を見直すなど、さらに利用しやすい制度へ再構築していきたいと思います。

<新銀行の創設>
 このたび、「新銀行東京」の業務運営の基本的な指針となるマスタープランを策定いたしました。来年度予算で、資本金1千5百億円のうち都から1千億を出資することとし、平成17年春以降の開業を目指してまいります。
 業務の中核となる中小企業融資については、ポートフォリオ型融資をはじめ新銀行単独で行うもののほか、シンジケート型融資、金融機関の融資への保証など、地域の金融機関等と様々な局面で提携、協力して取り組んでまいります。人員、店舗数を極限にまで絞り込んだ低コスト体質により、積極的に中小企業向け融資を行うとともに、ICカードを活用して豊富なサービスを実現するなど、特色のある銀行といたします。新銀行の経営陣には優れた人材を各界から迎え、開業3年後には、総資産1兆6千億、自己資本比率は邦銀トップクラスの13パーセントとすることを目指してまいります。東京の中小企業の活性化を支援し、真に都民に役立つ銀行としてまいります。

<しごとセンターの設置>
 都内の失業率は改善の兆しもみられますが、雇用情勢には依然として厳しいものがあります。国のハローワークだけで雇用のミスマッチを解消するには限界があります。民間企業が集中し、旺盛な求人ニーズを抱える東京の強みを活かした雇用就業対策が求められております。
 今年の夏を目途に、就職の相談、紹介、能力開発などをワンストップで行う「しごとセンター」を都独自で開設いたします。豊富な求人情報とノウハウを持つ民間事業者の人材をキャリアカウンセラーとして活用し、一人ひとりにきめ細かく対応することで、確実に就職につなげていきたいと思います。また、求職者の適性に応じた能力開発の需要にも積極的に応えていきたいと思います。
 高い失業率に苦しむ若年層から、雇用機会に恵まれない高齢者まで、幅広い層を対象に、年間就職1万件を目指してまいりたいと思います。

(医療、福祉改革の推進)

<救急医療の充実>
 救急医療の充実は、都民の切実な願いであります。都では、平成13年以降、墨東、広尾、府中の各都立病院に順次、東京ERを開設し、365日間24時間の医療体制の充実を図ってまいりました。
 今年の夏を目途に、ビル火災や大規模な交通事故、NBCテロなど都市型災害の際に活動する「救急災害派遣医療チーム(東京DMAT)」を創設いたします。患者が病院に搬送されるのを待って救命措置を行うのではなく、医師、看護師が現場に急行することで、一刻を争う人命救助につなげてまいります。まず、都立病院を中心に7チームを編成し、将来的には12の医療圏全てに配置していきたいと思います。

 救急車の出動件数は近年増加の一途を辿り、昨年は66万件を超えました。このまま増加が続くと、近い将来、緊急事態に対応できなくなるおそれがあります。来年度、救急隊を増設するとともに、救急車が真に必要とされるケースに確実に対応できるよう、救急搬送の効率的な運用についても検討を進めてまいります。また、気管挿管など救急救命士による措置を拡大し、救命率の向上につなげてまいります。

<脱法ドラッグの規制>
 法律の規制対象となっていない脱法ドラッグが公然と売買され、健康被害や犯罪の誘発など青少年の心身を蝕んでおります。
 被害の多くは潜在化していますが、国の対応を待つことなく一歩踏み込んだ規制策を講じていきたいと思います。来年度、専門家による調査会とドラッグGメンを新設し、健康被害が認められる商品名の公表や販売者への指導など、対策を実施してまいります。

<福祉改革の推進>
 次に、福祉改革についてであります。
 国は保育所についても全国一律の基準を押し付けていますが、都は大都市特有のニーズに的確に応えるため、独自の認証保育所の設置を着実に進めてまいりました。利用者本位の福祉を実現するこの仕組みは、都民、事業者の広範な支持を得て、今年度末には200か所以上に増加する見込みであります。来年度は、民間事業者の参入をさらに促進し、駅前型を中心に増設を図ってまいります。
 高齢者福祉では、都は独自に、民間企業の参入を図ることにより痴呆性高齢者のためのグループホームの整備を積極的に進め、2年前に比べ10倍を超える定員枠を確保いたしました。整備率が特に低い区市町村に対する補助を拡充するなど、今後3年間で集中的に増設を図ってまいります。
 3年後には、都内の高齢者の6人に1人が要介護者になるとも予測されております。高齢者が地域で健康に暮らしていくためには、適切な介護予防対策を講じる必要があります。来年度、区市町村と協力して、福祉・保健・医療の各部門が一体となった介護予防事業を実施する「推進モデル地区」を選定し、重点的に支援していきたいと思います。

 児童虐待の痛ましいニュースが後を絶ちません。児童相談所では相談件数は、10年前の10倍に急増しております。今月初めから、児童相談センターに土日祝日にも対応できる相談窓口を設置し、全国に先駆けて365日間切れ目のない相談体制を整えました。
 児童相談所の職員には立入調査権が認められておりますが、現実には親の抵抗により立入りができないケースがあることから、国に対し法改正を強く求めております。児童虐待の防止には早期発見が不可欠であり、待ちの姿勢では子どもを救うことはできません。都はこれまでも、立入調査権に基づき積極的に対処してきましたが、今後とも学校や警察などと連携し、躊躇することなく子どもの安全を確保していきたいと思います。

<ホームレス対策>
 都と区はこれまで協力して、就労意欲のあるホームレスを対象に、緊急一時保護センターを設置するなど、全国に先駆けて自立支援システムを整備してまいりました。こうした取組みの成果もあり、全国的には増加傾向にあるなかで、区部のホームレスは4年間連続で減少しております。
 ホームレス自身の自立に向けた努力への支援を基本としながら、公園などの公共空間がブルーテントで占拠された状態を是正することが重要な課題でもあります。
 都は国の動きを待つことなく、来年度から区と共同で、公園でテント生活を送るホームレスを対象に、民間アパートや都営住宅を低家賃で貸し付け、就労支援や生活相談などを行う新たな取組みを開始いたします。こうした支援策によって、ホームレスの自立促進と公共空間の適正利用を同時に実現していきたいと思います。

(教育の抜本的な改革)

 次に、教育改革についてであります。

<都立高校改革の推進>
 都はこれまで、生徒の個性と能力に応じた教育を実現するため、都立高校改革を積極的に推進してまいりました。学区制を全廃し競争原理を持ち込むことで、学校経営の改善や教職員の資質向上などを促すとともに、進学指導重点校やエンカレッジスクールなど魅力ある学校づくりを進めてまいりました。
 来年度から、校長の裁量権をさらに拡充し、夏休みなどの日数や時期を弾力的に決められる制度を導入いたします。これにより、体験学習や特別講義を実施する時間を生み出し、各校の創意工夫を活かした特色のある教育をさらに充実してまいります。
 来年開校する都立学校初の台東地区中高一貫校では、学校説明会に延べ約8千人もの保護者・児童が詰めかけ、都民の関心の高さを実感いたしました。6年間を通じた総合的なカリキュラムを組めるメリットを活かして、日本の伝統文化の教育も取り入れながら、生徒一人ひとりの可能性を最大限に引き出してまいります。

<首都大学東京の設立>
 世界の主要大学を評価・比較した「ゴーマン・レポート」によれば、ランキング上位は欧米の大学で占められ、日本の大学は一校も入っておりません。しかし、大学や国の危機感は薄く、国際的な視点に立った質の向上策には殆ど手がつけられていません。
 東京から日本の教育を立て直すため準備を進めている新しい大学については、名称を「首都大学東京」とし、理事長に橋宏氏を、学長には岩手県立大学学長、西澤潤一氏を迎えて、平成17年春の開学を目指してまいります。
 学生一人ひとりの個性と才能を伸ばし、社会が求める人材を育成するため、ボランティアなどの社会貢献を全学生に体験させるほか、弾力的なカリキュラムを設定できる「単位バンク」の導入により、早期卒業、長期在学など将来設計に応じた履修を可能としてまいります。一定以上の英語力を卒業要件にすると同時に、これを満たす学生には語学の受講を免除するなど、これまでの形式的で非実践的な大学の語学教育を変革していきたいと思います。また、企業OBを活用して徹底したキャリア開発と就職支援を実施するなど、学生生活を総合的に支援してまいります。
 東京全体が応援団となってサポートしていきますので、我こそはと思う学生諸君は雄志を抱いて、首都大学東京に集ってほしいと思います。

(観光まちづくりの促進)

 観光は、東京の産業で最も成長が期待される分野のひとつであります。都は、観光振興を産業政策の一環と位置づけ、上野地区と、臨海地区をモデルとして観光まちづくりを進めてまいりました。来年度は、各地域で観光まちづくりの牽引役となるリーダーを養成し、区市町村や民間施設を活用した観光案内窓口を百か所新設するなど、都全域で具体策を展開してまいります。
 かつての江戸・東京は、掘割が縦横に張り巡らされた水の都であり、現在でも、総延長60キロに及ぶ運河が存在しております。この運河を観光資源として大胆に見直し、身辺に水辺を感じることができるよう、まちづくりと一体となった整備を進めることとして、来年度、天王洲や芝浦などで具体策を検討してまいります。
 昨年のロンドン、ミュンヘンに続いて、民間事業者との共同のシティーセールス・ミッションを、先頃、サンフランシスコとロサンゼルスに派遣いたしました。東京の魅力を広く世界にPRし、外国人旅行者の誘致につなげていきたいと思います。

3 改革推進のための都政の新しい枠組み

 都はこれまで、財政再建、行政改革、都独自の政策展開を一体のものとして捉え、都政の構造改革を進めてまいりました。平成16年度重点事業の策定、来年度予算案の編成、組織・定数の見直しに当たっても、こうした視点を堅持してまいりました。
 平成16年度予算案については、「第二次財政再建推進プラン」の初年度として、「財政再建に新たな一歩を踏み出し、東京の再生を確実に進める予算」と位置づけております。
 財政再建は未だ途半ばにあり、来年度も都税収入が引き続き4兆円を割り込むとの見込みでありまして、予算規模は3年連続で緊縮型といたしました。制度の根本にまで遡った事業の見直しや国以上に厳しい退職手当の削減をはじめとする徹底した内部努力を行うとともに、これまで述べてきたように、都民の安全・安心の確保や東京の活力の再生などに限られた財源を重点的に配分し、メリハリのある予算としております。また、将来の都政を見据えて、基金残高の確保に努めるとともに、起債依存度は8%台に抑制いたしました。
 職員定数については、業務の効率化などを進め、1444人を削減する一方で、重点事業などに対して必要な人員を措置いたしました。
 組織については、都市計画局、住宅局、建設局の再編による「都市整備局」や、福祉局と健康局の統合による「福祉保健局」の設置など、直面する政策課題に的確に対応してまいります。併せて、都政を横断的、総合的に調整する役割を明確にするため、知事本部を「知事本局」に改称いたします。

 情報化、IT化の進展は、都民サービスの向上と行政の高度化、効率化に大きく寄与するものであり、新しい自治のあり方を切り拓く可能性をも秘めております。
 日本の情報化は、ここ数年で急速に進展し、ブロードバンドの普及率ではアメリカを抜き去りました。数年前までインターネットにつながってさえいなかった都庁でも、パソコン一人一台体制と各組織を繋ぐネットワーク化を実現し、IT技術は日常の業務に欠かせないものとなっております。
 IT化をさらに進めるため、今月、都と51の区市町村による協議会を立ち上げ、住民票などの電子申請や電子調達の共同運営事業に着手いたしました。全国でも最大規模となる取組みでありまして、来年度には、サービスを開始してまいります。

4 覚醒の時をむかえて

 日本人は戦後半世紀にわたって、空しい夢を見続けてきたような気がいたします。外から与えられた平和や安全を当たり前のものと考え、恵まれた条件の下で達成された経済成長による豊かさが恰も永久に続くかのような錯覚に陥り、厳しい現実を直視することなく過ごしてきたのであります。
 こうした状況の変化に関して鈍感な姿勢は、東西冷戦の終結とも相俟って、この国が克ち得てきた豊かさそのものをも毀損しようとしております。日本は今、国家として歴史的な岐路に差し掛かっており、覚醒を促されているのであります。
 しかし、日本という国はこうした正当な歴史認識を持つことができずに、戦後の成功体験に縛られて身動きができないまま、進むべき針路を見い出せずにおります。今こそ、こうしたタブーから解き放たれるべき時であります。
 私は就任以来、日本全体の利益という視点から、既存の制度や常識の壁を越え、様々な改革の苗を植えてまいりました。心ある都民、国民は、自分の意志で立ち、自分の力で生きるという、国家や国民にとって当たり前のことに気付き始めております。今後とも、現場を踏まえた斬新なアイデアを武器に、いわば行政の前衛として新しいフォーマットを東京から作り出し、全国に発信していきたいと思います。

 なお、本定例会には、これまで申し上げたものを含め、予算案34件、条例案109件など合わせて157件の議案を提出しております。よろしくご審議をお願いいたします。

 以上をもちまして、施政方針を終わります。ありがとうございました。