石原知事施政方針

平成23年2月8日更新

平成23年第一回都議会定例会知事施政方針表明

平成23年2月8日

 平成23年第一回都議会定例会の開会に当たりまして、都政の施政方針を申し述べ、都議会の皆様と都民の皆様のご理解、ご協力を得たいと思います。

1 東京から海図無き21世紀の航路を示す

(世界史のうねりの中で)

 人類は、資源・化石燃料を多量に消費しながら物質的な繁栄を追い求め、高度な文明社会を築き上げてきました。そうした営みは深刻な気候の変動を引き起こし、地球にとって耐え難いものになっております。
 一方では、文明の発展の所産である航空機やIT技術によって世界が時間的・空間的に極めて狭小となり、人・モノ・情報の往来が盛んになったことで、豊かさへの願望は巨大なエネルギーとなって世界を覆っております。新興国が力をつけ、長きにわたった欧米による支配は終焉を迎えつつあり、過去の歴史的怨念や宗教対立がテロという形で噴出していることも相まって、世界は混迷の度を深めております。

(国民におもねる政治では、日本は沈む)

 我が国はこうした激しい変化の潮流に晒されており、よろず対米依存できた他力本願な姿勢は、もはや通用いたしません。さらに、少子高齢化という人類がかつて経験したことの無い深刻な事態にも直面しております。「天は自ら助くる者をのみ助く」というこの世の公理に従って、自らの手で自らの未来を創り出すことを迫られているわけであります。
 しかし、我が国の政治は、正当な文明観と歴史認識を致命的に欠き、立ち竦んでおります。日本は、先人達の労苦と英知によって、非白人国家として初めて近代化を遂げ、戦後、歴史上稀な安定した社会を築き上げました。しかし、今日、日本人特有の進取の精神や心意気は忘れ去られ、成功の余禄を食いつぶすことしかできておりません。
 金銭欲・物欲を第一とする刹那的な空気が国中を覆っておりますが、肝心の国政は、国家の将来や日本人としての責任を説くこともなく、財政悪化も顧みず国民におもねるばかりであります。ただ目先の辻褄合わせに汲々としているだけでは、日本は沈むしかありません。

(東京の使命)

 国政がこうした体たらくなら、危機が最も先鋭的に現れる大都市・東京から日本を変えていかなければなりません。
 都政は現場を踏まえて危機の本質を鋭敏に捉え、巨きな視点に立って困難な課題に果敢に挑んでまいりました。
 ディーゼル車の排出ガス規制を事業者の協力を得て実施し、文明発展の悪しき副産物である大気汚染を急速かつ大幅に改善するとともに、環境と調和した21世紀型の社会を実現する一歩として、都市では世界で初めて大規模事業所にCO排出総量の削減義務を課しました。
 我が国の行く末がかかり、将来、アジア諸国も直面することになる少子高齢化に対しても、幅広い政策分野に横串を通して社会全体の力を束ね、重層的・複合的な手立てを講じております。
 また、いかなる政策も、健全な財政基盤無しには絵に描いた餅に終わりかねないことから、血を流す徹底した改革を断行し、新しい公会計制度も導入して、財政を蘇らせました。

 複雑な現実と正面から切り結び、都民・国民、議会、行政が、現場を踏まえて議論を積み上げながら社会の利害関係の衝突を調整して、21世紀にふさわしい成熟を遂げた社会のモデルを体現することこそ、東京の使命であります。
 東京には、数多くの課題に対処して培った経験・技術・人材があります。さらに、都政は韓国やノルウェーの国家予算に匹敵する財政規模を持ち、国家を凌ぐ実行力も持っております。これらを梃子に、東京から海図無き21世紀の航路を示すことで、日本を衰亡から救い、世界を変える大きな一石を投じることもできるのです。

2 21世紀にふさわしく成熟を遂げた社会を造形する

 ゆえにも、東京の将来戦略である「10年後の東京」計画の実現を加速すべく、「実行プログラム」を改定いたしました。都民・国民の不安を払拭するとともに、東京の可能性・潜在力を一段と引き出し、日本の新たな成長に繋げるために、平成23年度予算を編成しております。

(若者が希望を持てる日本へと東京から再生する)

 いつの世も、時代の閉塞を打ち破るのは、意欲に溢れた人材、特に若い力であります。日本の近代化の道程には、欧米に強い好奇心を抱きつつ、その圧迫から日本を守るために行動した若者の姿がありました。戦後の奇跡的な発展を支えたのは、自分の夢や希望を日本の成長に重ね合わせ、身を粉にして働いた若者であります。

〈若者の挑戦を引き出す〉

 翻って、昨今の日本を眺めますと、国政の漂流によって社会は停滞し、築き上げてきた繁栄の終わりすら予感されます。若者は将来への不安から安定・安全志向に流れ、また、身の回りの限られた私事にしか関心を持たない風潮が広がっております。留学に出る者が減りまして、海外勤務を希望しない新入社員が増えているとの指摘もあります。
 世界が激変し国際競争も厳しさを増す中で、若者が未知を恐れその特権である情熱やエネルギーまでを失っては、日本は二度と立ち上がれなくなります。ならばこそ、全国の若者が集まる東京から彼等を刺激して挑戦を引き出し、力強く後押しをしなければなりません。

 日本を代表する国際的大企業も初めは皆小さな町工場でありました。それを世界の檜舞台に飛躍させたのは若者の熱意であります。日本が世界で存在感を持ち得るのも独自の技術で不可能を可能にする中小企業があるからでありまして、小惑星探査機「はやぶさ」の壮挙はそれを改めて示しました。
 日本の国力の源泉である中小企業には、若い力を強く求めている会社が数多くありますが、学生の目が向きにくく情報発信にも限界があることから、ミスマッチが生じております。そこで、東京の中小企業のオンリーワン技術の素晴らしさに若者の目を開かせ、秘めたる可能性を肌で感じさせて双方を結びつけてまいります。中小企業を集めて学生への企業説明会を開催し社員の声を直に聞かせます。また、就職が決まらないまま卒業した若者に、中小企業で数か月仕事を経験させ、正規雇用に繋げる取組みをスタートいたします。高校でも、経営者自らが中小企業の魅力を語る講義を開始し、インターンシップも実施してまいります。
 また、リスクを恐れず果敢に事業を興さんとする若者も応援しなければなりません。みずみずしい発想を競う「学生起業家選手権」を開催するほか、「TOKYO起業塾」では事業計画づくりなど様々なノウハウを提供し、企業や投資・融資機関などとのネットワークづくりも後押しいたします。都内8か所に設置したインキュベーション施設でも、アイデアを形にする手助けをいたします。
 非正規雇用を余儀なくされている方々には、東京しごとセンターできめ細かくサポートするほか、職業能力開発センターでの実践的な職業訓練などで再チャレンジを後押しいたします。
 若い力の可能性が、次の日本を作ります。未来ある若者の挑戦を、強く応援いたします。

〈次代を担う力をつける教育〉

 日本の未来を託す次の世代を逞しく育てるのは大人たちの責任でありますが、我が国の教育制度は、極めて画一的で、結果の平等をいたずらに追い求め、若者の可能性を潰してきました。「ゆとり教育」の弊害ゆえ、計算も満足にできず、先人の足跡も知らないままではいいはずがありません。教育に求められているのは、一人ひとりの才能を徹底して鍛えて伸ばすことであります。
 これまでも、学力の低下を防ぐべく都独自の学力調査によって小中学校の授業を改善してまいりました。高校については、学区制を廃止し、校長に学校の魅力を競わせたほか、進学指導重点校やエンカレッジスクールなど特色ある学校を作って多様な選択肢を整えました。
 今後も、一人ひとりが持つ可能性を発揮できるよう、土台となる健全な肉体と困難に耐える脳幹を鍛え、確かな学力を養います。
 全公立学校で授業・休み時間・放課後をフルに活用して、児童・生徒が体を動かしスポーツに親しむ時間を大幅に増やし、中学校では武道の必修化を機に我が国の伝統的な考え方を理解させ、礼節を体得させてまいります。
 学力面では、土曜日などを使って授業時間を確保し、基礎学力をさらに向上させるほか、国際化の時代に民族や文化の壁を越えて意思を交わす「言葉の力」の養成にも乗り出します。高校生には我が国の近代化の歴史を学ばせて、日本やふるさとへの誇りと愛着を持たせ、国際社会の一員として活躍する基礎も養ってまいります。

〈少子化打破〉

 子供の健やかな成長のために、社会が総力を挙げる必要があります。昨年開始した少子化打破緊急3か年事業を強力に前進させてまいります。
 喫緊の課題である待機児童解消に向けては、3か年で保育サービス利用児童の数を2万2千人増加いたします。同時に、サービスの担い手を着実に確保するため、保育士の資格を眠らせている人材を掘り起こし就職を支援してまいります。医療面でも、こども救命センターを核とした地域の小児医療ネットワークを充実させ、NICU(新生児集中治療管理室)を平成26年度までに320床にまで増やすなど、子供を産み育てたいと望む家族に勇気を与えてまいります。

 後を絶たない児童虐待事件を何としても防がなければなりません。そこで、専門機関である児童相談所の人員を拡充いたします。また、第一線の窓口である区市町村の子供家庭支援センターに新たに配置するコーディネーターを中心として、行政、学校、医療機関が一体となった体制を構築し、家庭にきめ細かく対応してまいります。

(安全と安心の確保)

〈高齢者の暮らしを確かに支える〉

 若い世代に明るい展望を持たせるとともに、高齢者の閉塞感を取り除くことも求められております。
 日本はかつて無い速さで高齢化が進んでおり、東京では4年後に65歳以上の高齢者が約300万人に達し、75歳以上の単独世帯は40万を超えると見込まれております。これまで都は、民間企業やNPOなどと力を合わせ、高い地価など大都市特有の悪条件を創意と工夫で乗り越えて介護基盤の整備を進めており、なかでも認知症高齢者グループホームの定員を飛躍的に増加させております。
 国は、未曾有の高齢社会を前にして、いかなる社会保障制度で国民を守るのか、一向に示しておりません。しかし、国をただ待つわけにはいきません。高齢者が安心して暮らすための仕組みを東京から時代を先取りして提起していかなければなりません。
 緊急時のサポート機能や介護関連施設等を備えた「ケア付きすまい」を、民の力を活かして平成26年度までに約6000戸整備いたします。地域における相談や見守りの核となるシルバー交番も来年度までに60か所設置し、全国トップレベルの集積を誇る訪問介護事業者も活かしつつ、地域で暮らす高齢者を支え孤立を防いでまいります。
 医療面でも施策を加速し、認知症の原因であるアルツハイマー病のワクチン開発では2年後の臨床実験開始を目指します。健康長寿医療センターも再整備して平成25年度に開設いたします。
 人生の仕上げの最も成熟充実した時期を、安心を実感しつつ送ることのできる社会を実現してまいります。

〈障害者の自立を支援〉

 障害者への支援も着実に進めていかなければなりません。
 ハンディキャップを乗り越え、持てる力を十二分に発揮する姿は、人間の持つ真の強さを表象しております。こうした方々のために、生活の拠点となるグループホーム等の定員を10年間で4倍に増やしました。また、官と民が一体となって取り組み、多様な企業が集積する東京の強みによって、障害者雇用はこの3年間で2万人増加いたしました。安心して働けるよう、仕事の上での相談に乗り、日常生活も一体的にサポートする都独自の事業を創設し、ほぼ全ての区市で展開しております。
 今後も、施設整備はもとより、雇用のさらなる拡大に向けて、障害者を雇用しようとする中小企業を、よりきめ細かい手立てで支援してまいります。また、学習障害など発達障害のある子供のために、全公立小中学校への特別支援教室設置を目指すほか、幼児期から成人までの一貫した相談体制も構築いたします。駅をはじめとする公共空間のバリアフリー化なども合わせて進め、障害者を生活全般にわたって支えてまいります。

(環境と経済活動が高度に両立した都市の造形)

 安全と安心を高め活力ある社会を作るためにも、経済の成長は欠かせません。一方で、経済と環境との高度の両立が21世紀の必須課題でありまして、これに国運を賭しても挑む必要があります。

〈地方から国を包囲し環境政策の転換を迫る〉

 世界の経済成長に伴って資源・食糧の需給は、今後、逼迫が見込まれます。その多くを海外に依存する日本は、不安定さを増す国際情勢も睨んで、環境技術によって社会のあり様を変え化石燃料から脱却していくとともに、地球温暖化対策も牽引して世界の干ばつや耕地の荒廃を食い止めなければなりません。
 日本にとって地球を守ることは国民を守ることに他なりませんが、国政では、環境政策の基本を定める「地球温暖化対策基本法」の成立すら目処が立っておりません。国は、環境と経済をトレードオフで捉える旧来の発想を脱しきれず目先のマイナスを嫌っており、大幅なCO削減を実現し環境技術の革新も促す新たな制度づくりに後ろ向きであります。このままでは国際的なCO削減の枠組みづくりをリードすることもできず、日本が21世紀を生き抜く展望も開けません。
 そうした危機感に立って、東京から環境と経済が両立した低炭素型社会への転換を先導すべく、都のキャップアンドトレード制度の全国展開を目指してまいります。先般、都と連携して制度を導入する埼玉県をはじめ、全47都道府県と全19政令指定都市の実務者が参加して「地球温暖化対策全国自治体会議」を開催いたしました。その多くは、既に大規模事業所のCO排出量を把握する仕組みを持っておりまして、これに都のノウハウが加われば、実効性の高い削減策が実現可能であります。
 都内では、キャップアンドトレード制度を契機に民間のオフィスビルで省エネ投資が活発になっております。全国規模で対策が強化されれば、環境産業の国内市場が拡大し技術も飛躍的に進歩して、日本の経済は大きく変わるに違いありません。
 また、都は、中小規模事業所についても、CO削減の取組みを進めておりまして、既に3万の事業所から地球温暖化対策報告書が提出されています。今後、制度を効果的に運用して、中小企業の環境投資を促しつつ、CO削減の裾野を大きく拡大してまいります。
 環境と経済の高度な両立に向け、東京から拡げた地球温暖化対策の包囲網で、国に政策転換を迫ってまいります。

〈東京の優れた技術を世界へ展開〉

 近年、アジアの発展はめざましいものがありますが、環境と調和した国づくり・都市づくりに協力することは、相手国の発展だけでなく、東京と日本の次なる発展にも繋がります。
 1300万人の人口を抱える巨大都市・東京を清潔で機能的に維持する裏には、戦後の都市問題を克服する過程で磨いてきた世界最高水準の上下水道技術や廃棄物処理技術などがありまして、成長著しいアジア諸国での課題を解決する切り札になります。
 都が触媒となって企業連合をも形成するなど、東京の優れた技術力を海外展開してまいります。計画策定や実際のインフラ整備に参画することで、現地の環境・水・衛生問題の解決に寄与し、我が国の景気回復と産業力強化にも貢献してまいります。

〈東京と日本の発展の鍵を握る中小企業を強力に支援〉

 東京と日本が世界の中で存在感を発揮し、さらに発展を遂げるためには、独自の技術を開発し鍛え続けなければなりません。「ベンチャー技術大賞」を受賞した技術・製品を見ても、まだまだ日本には力があり優れた技術が世に出るのを待っております。技術のゆりかごであり、我が国経済の宝である中小企業をいかに支援していくかが重要であります。
 昨年の夏以降続く円高によって、中小企業は依然として厳しい状況に置かれております。円高対策は本来国の責務でありますが、現場を預かる都としては事態を座視できません。今年度の緊急円高対策に引き続き、来年度も資金繰り支援に万全を期すことはもとより、下請取引の適正化や経営力強化のための対策を切れ目無く講じてまいります。

 現下の厳しい状況を乗り越えながら、付加価値のより高い製品を生み出していく必要がありまして、それには、今後成長が期待される分野での技術開発が求められております。そこで、中小企業に対して技術開発を促す指針として「技術戦略ロードマップ」を策定してまいります。今年度の環境分野に引き続いて、来年度は介護や医療など安全・安心分野で策定し、これに沿って技術・製品の開発や実用化を重点的に支援いたします。
 さらに、海外市場も視野に入れ、中小企業に相談・助言を行う「海外販路ナビゲーター」を増員し、展示会への出展機会も拡充してまいります。アジア大都市ネットワーク21で培った都市間のパイプもフルに活用し、成長著しいアジア市場への挑戦を後押ししてまいります。
 中小企業の新しい芽を伸ばすために、産業支援拠点も整備しております。本年5月には、その核となる都立産業技術研究センターの新本部を臨海副都心に開設いたします。国際規格に即した製品開発の相談や試験の依頼にワンストップ体制で応じ、精密機器やバイオなどの時代のニーズが高い分野で世界に通用する製品の開発を支援してまいります。

(首都としての成熟をさらに高める)

 今後の日本の発展のためには、金の卵を産む鶏である東京の力を一段と高めるインフラ整備が必要不可欠であります。
 改めて申し上げるまでもなく、東京の都市機能を向上させることで経済は活性化され、環境は改善し、国際競争力は高まり、その効果は全国にあまねく還流いたします。財政も強化され、福祉も充実できるのであります。
 しかし、文明工学的視点を欠いた国の政治の怠慢によりまして、国家の屋台骨をも支える東京のインフラ整備は大きく立ち後れ、数十年にわたって渋滞や大気汚染が都民・国民を苦しめ、経済成長の足枷ともなってきました。
 それゆえ、就任以来、失われた歳月を取り戻すべく全力を挙げてまいりました。羽田空港の再拡張・国際化によって、国際都市ならば24時間運用のハブ空港を持つという世界の常識にようやく追いつくなど、いくつかの成果も上がっておりますが、横田基地の軍民共用化の早期実現をはじめ、今後も、長期的な視野に立って、戦略的に事業を展開していかなければなりません。来年度予算でも投資的経費を伸ばし、7年連続の増額としております。

〈国際都市としてのインフラの構築〉

 人・モノの、あるいは情報の交流が文明文化を成熟させてきたという歴史の公理を踏まえるならば、首都東京を要とする陸・海・空のネットワークを整備することは、日本のさらなる発展のために不可欠なことは誰の目にも明らかであります。
 東京の環状道路は極めて大きな整備効果が見込まれ、日本全体の交通ネットワーク充実のためにも完成が急がれております。羽田と新宿の所要時間を半減させる中央環状線は、大橋ジャンクションと湾岸線を結ぶ品川線の完成を残すのみであります。品川線の完成により山手線内側の面積の1.3倍に相当する森林が吸収するCOも削減されます。平成25年度の全線開通に向け全速力で整備をしてまいります。
 肝心の外環道については、未だに国の腰が定まっておりません。国には事業の国家的意義を正当に認識し、速やかに工事に着手することは当然のこと、将来にわたって必要な財源を確保するよう強く求めます。

 京浜港を、日本の優れた工業製品を輸出し、大消費地である首都圏を支える海の玄関口としてだけではなく、アジアのハブ港にしていくことは、日本の国際競争力の維持・向上に直結いたします。
 そこで、来年度には東京港臨海道路を全線開通させ、臨海部と内陸部の人とモノの流れを円滑にいたします。また、世界の物流の大動脈である国際基幹航路を維持拡大し、アジア諸港との競争に勝つためにターミナル使用料の低減を図り、川崎市・横浜市と連携して新たな貨物集荷策を展開いたします。さらに、今後の貨物取扱量の増大に備えて、平成25年度の完成に向け、外貿コンテナターミナルの整備を進めてまいります。

 首都に稠密に張り巡らされた地下鉄網も、ネットワークを構成する重要な要素であります。東京の地下鉄は、延べ860万人が毎日、通勤・通学で使用し、多くの観光客も利用していることから、今般、東京メトロと都営地下鉄の経営一元化の協議を継続しつつ、乗換面や運賃面での利便性を向上させる方策を具体的に検討することで国と合意いたしました。また、都は地下鉄走行中に携帯電話のメールを使用できるよう通信事業者に協力することとし、東京メトロにも呼びかけました。
 今後も、世界に誇る首都の地下鉄にふさわしい姿の実現を目指してまいります。

〈災害への備え〉

 災害への備えを固めることは、都民・国民の安全・安心はもとより国際都市・東京の信頼を高めるためにも、ゆるがせにできません。
 近年多発する集中豪雨に対しては、浸水の危険性の高い地域を中心に、迅速かつ集中的に手立てを講じてまいります。石神井川と白子川を地下調節池で結んで機動的に水位の調節を行い、銀座など新たな5つの大規模地下街では浸水対策を強化いたします。市街地での被害を防ぐために、雨水をより速やかに排除すべく新たに下水道幹線などを前倒しして整備し、公共施設を活用した一時貯留施設の設置も促進いたします。

 建物の耐震化については、所有者はその耐震性能を確保する社会的責務を負っておりまして、災害時の救助活動の生命線として、また、復興時の大動脈として、特に重要な緊急輸送道路の沿道建物の耐震化は焦眉の課題であります。沿道建物の所有者に対し耐震診断を義務付け、一部の大規模建物等を除き、診断の費用負担を無くす新たな助成制度を創設いたします。全国初の取組みによって、所有者の自覚と行動を促し、有数の地震国・日本で耐震化が足踏みをしている現状を東京から打破してまいりたいと思います。

 震災対策に限らず災害を防ぐ上では、一人ひとりが己の社会的責任を全うすることが重要であります。この4月から、消防法令に繰り返し違反をしている建物等を公表する制度を開始するにあたり、商店街と協定を結ぶなど連携を強化し、違反建物を無くす地域の自主的な活動を引き出します。災害対策の基本である地域に根ざした自助・共助の取組みを普及させてまいります。

〈都市の魅力向上〉

 江戸から続く歴史と文化の堆積を誇る東京は類い稀なる魅力を放っておりまして、世界の注目を集めております。イギリスの有名な都市専門誌「モノクル」の編集長の言では、大都市・東京は世界で最も住みやすい、とのことでありましたが、現状に安住することなく、より高い次元で成熟を目指さなければなりません。これは観光振興にも繋がります。
 隅田川の賑わいは、かつての「江戸の華」として名を馳せておりました。こうした歴史の記憶を呼び覚ますべく、官民の垣根を越えて、「隅田川ルネサンス」事業を展開いたします。国の規制に縛られてきた河川敷地にオープンカフェを設置するなど、民の力で魅力の溢れる水辺空間を創出したいと思います。隅田川を愛する地元の方々が四季折々に開催するイベントも応援し、東京ならではの文化として次代に伝えてまいりたいと思います。

〈東京マラソンのさらなる進化〉

 歴史と文化の堆積に、都市ならではの魅力が新たに加わることで、東京の成熟は一段と増すことになります。
 平成19年にスタートした東京マラソンは、今年で5回目を迎え、ニューヨークシティマラソンやロンドンマラソンと肩を並べるまでになりました。今回は、走る楽しみだけではなく社会に直接貢献するという新たな一面を大会に与えるために、チャリティ制度を導入いたしました。集まった寄附は、難病と闘う子供たちが家族と一緒に過ごす時間を増やす活動など「家族」、「未来」、「命」、「夢」という4つの分野に使います。
 昨今、都民・国民の間に社会を想う気持ちを積極的に表現したいという気運が高まりつつあります。「緑の東京募金」では、海の森づくりのために5億円を目標に拠金を募っておりましたが、僅か3年余りで達成の見込みであります。施設の子供たちに文房具等を贈る動きも自然発生的に起きております。こうした一人ひとりの志を東京マラソンが集めて繋ぐことで、従来は馴染みの薄かった寄附文化を我が国に根付かせる縁としてまいりたいと思います。

(多摩・島しょの発展)

 次に、多摩・島しょ地域について申し上げます。
 多摩地域は先端産業が集積し、都心へのアクセスの良さに加え数多くの大学や研究機関も立地しております。日本の高度なものづくりを支える中核拠点として、神奈川から埼玉に至る多摩シリコンバレーを形成していかなければなりません。
 その背骨となる圏央道については、来年度、八王子ジャンクションと八王子南インターチェンジの区間が開通いたします。圏央道にアクセスする新滝山街道や、多摩南北道路のうち府中清瀬線も平成24年度に全線開通させ、新事業の創出に結びつく地域内の交流を促進いたします。

 海の森を起点として、街路樹を植え、校庭を芝生化し、公園も増やして、多摩の豊かな自然と結びながら、緑のネットワークを東京全体に拡げております。平成24年秋には、こうした取組みにより形成された緑溢れる東京の佇まいを全国に発信する一大イベントである「全国都市緑化フェア」を開催いたします。平成25年に開催するスポーツ祭東京2013とも合わせて、多摩の歴史や多様な魅力を伝えてまいりたいと思います。
 自然豊かな多摩でも、夏場の暑さは厳しいものがあります。子供たちが夏場に良好な環境で学べるよう、公立小中学校への冷房設備の導入を支援してまいります。

 東京の島々は、美しい自然に恵まれ、真珠の首飾りにも喩えられる東京都の癒しの空間であるだけでなく、海洋大国・日本の戦略的要衝でもあります。
 我が国は、陸地面積では世界で61番目ながら、領海と排他的経済水域を合わせた広さでは世界第6位となり、排他的経済水域のうち東京が占める割合は4割に達しております。そこには豊かな資源が眠っておりまして、なかでも、東京から2000キロメートル離れた絶海に浮かぶ南鳥島周辺のレアメタル等に注目が今では集まっております。それゆえ、昨年の尖閣諸島を巡る事態と同じことが、いつ起こってもおかしくありません。
 これまでも東京は、国家的見地から東京の排他的経済水域を守るために、沖ノ鳥島周辺海域での漁業の操業支援や漁場造成などを行ってきました。昨年、国は新たな法律を作り南鳥島と沖ノ鳥島の管理強化にようやく着手しましたが、都としても、国に可能な限り協力し、かけがえのない豊穣な海を守ってまいりたいと思います。
 また、小笠原の情報格差を是正する海底光ファイバーケーブルの敷設や世界自然遺産登録など、島しょ地域のそれぞれの島の特性を踏まえて振興策を講じてまいります。

(財政の健全性を堅持)

 これまで述べてきた政策を実現し、東京がその使命を十全に果たすためには、都政の足腰そのものが強靱である必要があります。

〈自己改革の仕組みを都政にビルトイン〉

 この10年余りを振り返れば、身を削り歳出を切り詰める努力を積み重ねて財政を健全化し、基金も約1兆円にまで積み上げました。新しい公会計制度の導入により財政の全体像を明らかにして金利感覚とコスト意識を職員に持たせました。事業評価制度も創り上げて、自己改革を当然に進める仕組みを都庁組織に組み込んでまいりました。
 平成23年度予算編成にあたっても、新しく監理団体や特別会計を対象に加え、事業の成果や決算状況を厳しく分析・検証いたしました。現場・都民への影響、将来への見通しなども総合的に判断した結果、210億円の財源を確保し、あわせて890億円の事業費を見直しております。
 今後も、事業の徹底した検証を不断に続けてまいります。また、培ってきた公会計制度のノウハウを惜しみなく全国に提供いたします。

〈国はやるべきことをやれ〉

 一方、国の予算は借金が税収を上回り、国債残高の増加も止まることを知らず、国際的に見ても極めて深刻な状態にあります。一例を挙げれば、EUは加盟に際して債務残高がGDP比で6割以下であることを求めておりますが、我が国はGDPの2倍となっております。もしこの日本がヨーロッパに存在する国で、EUに入ろうと思ったら、これは拒否されるかもしれません。
 歴代の政権は皆、行政改革を声高に叫んでも、一向に実のある結果は出しておりません。先般も国債が格下げされ、それに引きずられて都債も格下げされましたが、国からの危機感は全く感じられません。都が財政再建団体転落のふちに立った際には、職員定数を2万人削減し、監理団体を半減させ、職員団体ともギリギリの交渉をして危機感を共有しながら他の自治体に先んじて給与をカットいたしました。国も、都と同様の措置を、即刻、実行すべきであります。

 財政的に行き詰まる国は、やるべきことをやらないばかりか、暫定措置である法人事業税の一部国税化を、あろうことか継続しました。
 東京は300万人の昼間流入人口を抱え、我が国の頭脳部・心臓部を維持発展させています。全国に効果が及ぶインフラを国に代わって整備し、危機に鈍感な国を待つことなく、少子化対策等で区市町村と協力し先進的な施策を展開してまいりました。国家をも支える政策のための財源を東京から奪うことは、日本の未来を閉ざすことにしかなりません。
 国には、全く道理が通らない法人事業税の暫定措置を一日も早く撤回することを強く求めます。
 また、国は補助金・一括交付金化を進めております。制度の最終的な形は明らかになっておりませんが、国には、首都・東京がその役割を果たすに十分な財源を確実に措置するように求めます。

3 現場の力こそが壁を打ち破る

 かつて毛沢東が「矛盾論」の中で述べたように、目の前の課題を解決するためには、そのさらに背景にある主要矛盾と言うべき大きな動きを確かに捉えなければなりません。課題の表層に目を奪われ、肝心なことにお茶を濁しているうちに、どんどん坂道を転がり落ちているのが、今の日本の姿であります。
 様々な要素が層をなして複雑に絡み合う行政を運用するにあたっては、上辺だけの机上の論をいくら並べたところで、実効性のある政策を導き出せようはずがありません。
 都政においては、都議会の皆様とともに、具体的な問題に正面から対峙する中からその背後にある根源的な動きを掴み、目指すべき目標を掲げ、有効な政策を都民・国民に提示し、勇気を持って決断し実行してまいりました。国政がはるか昔に忘れてしまった決意と覚悟を保ち、巨きな視点に立ちつつ現場に根ざした議論を重ね、日本を変える挑戦を揺るぎなく進めることこそ、首都の政治家たちの責任であります。国家的存在である東京を預かる知事として実効性の高い施策を形にしていくために、皆様と建設的で質の高い議論を交わしていきたいと思います。一層のご理解とご協力をよろしくお願いいたします。

 なお、本定例会には、都民の安全を脅かす暴力団を社会全体で排除するための「東京都暴力団排除条例」をはじめ、これまで申し上げたものも含めて、予算案33件、条例案57件など、合わせて106件の議案を提案しております。よろしくご審議をお願いいたします。

 以上をもちまして、施政方針表明を終わります。