石原知事と議論する会

平成13年12月28日更新

首都東京の安全を考える 〜都市の危機管理のあり方〜
平成13年度第2回「石原知事と議論する会」議事概要


テーマ  首都東京の安全を考える 〜都市の危機管理のあり方〜

日時  平成13年11月29日(木)午後2時から午後3時30分まで

場所  都庁第一本庁舎 5階大会議場

趣旨  アメリカでの同時多発テロ、次々に起こる凶悪な犯罪…。都民の治安に対する不安は、ますます高まっています。日本の首都である東京は、大都市ゆえの新しい危機に直面しています。いまや、平和や安全は、当たり前に存在するのではなく、私たち自身の手で守らなければなりません。
 危機管理は、日頃からの万全な備えが必要であり、被害を受けてから慌てても手遅れです。都民の生命・安全を守るためには、東京の危機管理能力を向上させることが不可欠です。
 今回の「石原知事と議論する会」では、東京の危機管理能力を高めるために何をなすべきかを、都民のみなさんとの議論から探っていきます。
   
参加者
13年度2回知事と議論する会の写真(公募都民)
発言者 4名、一般参加者 321名
(コメンテーター)
佐々淳行さん(元内閣安全保障室長)
(都側出席者)
知事、警視総監、生活文化局長(司会)

発言要旨
 以下は、出席者の発言内容を生活文化局広報広聴部で要約し、取りまとめたものです。

○石原知事

 9月11日、たまたま私はワシントンに行っており、前日ペンタゴンのウォルフォヴィッツ副長官と会談して帰ってきたら、次の日にとんでもないことが起こった。世界にとって非常にショッキングな出来事だったが、このごろ何が起こってもおかしくない時代になった。

 都民の意識調査では、東京の治安に対する不安、不満が非常に増えている。日本は入国管理が非常にずさんで、不法入国する外国人が後を絶たない。不法入国しているため、正式な就労ができないから犯罪要員になりがちであり、そういう人たちの起こす犯罪が非常に増えてきたのが事実である。

 同時多発テロへのアメリカ政府の対処が非常に早いことに驚いた。アメリカにはFEMA(フィーマ:フェデラル・エマージェンシー・マネージメント・エージェンシー)という組織があり、有効に働いた。日本にはまだそういう組織がないが、必要だと思う。日本の首都は東京だけではなく、神奈川、埼玉、千葉県がこれを構成している。その首長さんたちと話し合いをしたときに、日本の心臓部である首都圏をカバーする連帯組織が必要だと提案し、いま準備している。原案は、佐々さんにつくってもらった。

 自衛隊に出動要請し、警察・消防が主力になった災害対策の演習を去年から始めた。今年は7月ごろ、図上訓練というものを初めて行った。これは実際に人間が動く演習以上に効果がある。危機管理に、情報の伝達がいかに大切かを痛感した。首都圏版フィーマを構築し機能させるために、図上訓練を重ねて準備をしている。

 本当に刑務所、拘置所はもっとつくらなくてはいけない。刑務所も満杯で拘置所も足りなくて、警察にある留置場に入れているから、留置場が足りない。容疑者を含めて収容する場所がない。

 犯罪は倍増しているが、検挙率は減っている状況の中で、東京の安全という問題を多角的に考えないといけない。いつ、どこで何が起こるかわからないという状況を直視した上で、行政は行政でできることをできるだけ早くやるが、何といっても都民、市民、国民の理解と協力が不可欠と思う。

○佐々さん(コメンテーター・元内閣安全保障室長)

 私も9月11日、歴史の転換点の目撃者になった。ジュリアーニニューヨーク市長の決断、敏速な行動、陣頭指揮は見事だった。アメリカは日本に比べて対処が断然早い。連邦航空局が全飛行機に緊急着陸命令を出したが、これは情報が早く伝わるかどうかで市民の安全に重大な影響があるといういい例。

 警察官1人の人口負担、日本は欧米の倍。警察官を増員しないと治安は維持できない。

 首都圏版フィーマ構想では、災害の中心地のある都県知事のもとに、首都圏の警察官、消防官、自衛官を集中運用し、その指揮下に入れる。トリアージドクターを指定しておき、非常事態時は動員して生死判定をやり、重傷者から先に治療していく。

 都知事は去年、ビッグレスキュー東京2000という、自衛隊も動員しての合同訓練のときに初めて、トリアージドクターの訓練を取り入れた。今年は横田米軍基地を、災害の際に臨時に使うことを実現した。

 留置場の問題。府中刑務所は定員 2,000人に 2,900人入っており、そのうち 500人が外国人で困っている。服役中の犯人をそれぞれの国に戻し服役させる条約を、日本も批准する動きが出てきた。外国人犯罪や新しい犯罪も増えている。留置場建設に、ぜひ都民の理解をいただきたい。検挙率が戦後最低の23パーセント。パトロール力が落ちている。捕まえても入れるところがないから、ある程度の微罪は大目に見ている。留置施設を都内につくっておかないといけない。みんな反対と言うと、その人たちがまちに溢れる危険な状態になるので問題提起したい。

○野田警視総監

 東京の犯罪は、3K2S1H。3Kの1番目が、犯罪の凶悪化。強盗事件が増えている。3Kの2番目は国際化。被害者や犯人が外国人である事件が増えている。3Kの最後が犯罪自体の巧妙化。最新式の資機材を使いながらの犯罪が進んでいる。

 2Sの1つは、組織化。特にピッキングの窃盗団は、3人ぐらいが組んで組織的に犯罪をする。2番目はスピード化。事件の現場から現場、あるいは次へ逃げるときにスピード化が進んでいる。東京駅で鞄が盗まれ、届けがあった時点で鞄が新宿あたりに来て、最後は杉並で犯人を検挙したが、それぐらいの早さで犯罪者が動いている。

 1Hはハイテク化。コンピュータあるいはコンピュータと回線をつないだシステムが使われるような犯罪が増えている。

 この2年間でますます3K2S1Hという現象が増えている。来日外国人の組織的な犯罪が増えているのをどうするかが非常に問題。昨年は東京で刑法犯事件が戦後最悪の数字になった。今年もさらに上回ろうとしている。

 昨年は、ピッキングによる窃盗事件が11,000件ぐらい発生した。今年はピッキング窃盗対策を行い、昨年の半分以下に抑えられた。今年は侵入窃盗の事件こそ減っているが、全体として自動車盗、自転車盗、車上ねらいが増えて、昨年の数を上回ろうという勢い。

 交通事故による死者は、昨年都内で413人。安全という意味では心配の1つ。

 現在、東京都内でも、米国関連の施設や国の施設等々、テロの対象になる危険性のあるものがあり、テロ、ゲリラ対策ということで取り組んでいる。警察としては災害対策、ハイジャック等突発事案、各種犯罪の水際対策等々に努力している状況。

 留置場の問題。留置人の数は、10年前は一日当たり 1,000人を下回るぐらいの数だったが、今日現在2,700人。定員が2,600人。10年間で2倍半に増え、今後さらに増えることは必然の状況。留置場を少し増やさないといけない。

○高橋さん(都民)

 地下鉄サリン事件の被害者遺族の体験を踏まえて発言。

 まず緊急時における被害者の搬送について。自動車免許取得あるいは更新の際に、自動車には赤い旗を常設し、緊急時に搬送するように義務づけたらどうか。一般車両もいつでもボランティア協力ができるようになる。

 緊急時の多数の負傷者をいつでも受け入れられる病院の体制の整備。地下鉄サリン事件では、医師の情報不足や病院の設備不足で、サリン中毒の治療を施されなかった被害者がいた。一時に多数の患者に対応する場合は、医療関係者の経験と臨機応変な対応が要求される。都の緊急対策室の迅速な情報提供と事態収拾が望まれる。都立病院すべてに救命救急センターとERが設置されることを期待する。

 被害者支援における危機介入の充実を図ってほしい。社会が被害者を支えていく重要性がようやく認められてきた。被害直後の危機介入が適切に行われれば、被害回復を早めることができる。日本でも被害者支援ネットワークを活用し、緊急時の支援活動をスムーズに行うために、支援者の身分や資格を保証するべき。

 最後に、一人ひとりが犯罪や災害被害の悲惨さを知り、危機管理意識を高め、社会の一員として貢献することが必要。学校、企業、地域社会での教育、研修、訓練を繰り返し継続して行うことが有効ではないか。

○石原知事

 日本は、サリンの事件の後、何もやっていない。東京はできるだけのことをやる。多量の犠牲者が出てきたとき救急車が間に合わないのでシステムを考える。

○佐々さん(コメンテーター)

 高橋さんのご主人はまことにご立派で、惜しい方を亡くされた。地下鉄サリンのときは阪神大震災を教訓に、超法規で警視庁と自衛隊が出動したので犠牲者が12名で止まった。警察官や自衛官は自ら進んで第一次的な処置をすべき。警視庁はNBC捜査隊をつくり、装備も最低限のものを買い、炭そ菌の検知器も1台備えた。

 次に搬送の問題。サイレンを鳴らさないとみんな動かない。ドライバーは緊急優先通行権に慣れてない。救急ヘリコプターを集中運用し、重傷者を空中輸送するシステムづくりが必要。トリアージドクターが現場に急行するのに必要な装備、資機材を緊急に調達すべき。

○野田警視総監

 被害者支援の関係で、犯罪被害者給付金制度があるが、犯罪被害者をもっと周りの社会が助けないといけない。被害者の人権が被疑者に比べて足りないという反省が出てきた。警察は被害者の手助けをすべきだと思う。幅広い方々が集まり、被害者支援の都民センターができた。警察も協力していく。多数のけが人や死亡者の発生する事態が起きるときに、組織的な活動ができるようにしていきたい。

○野田さん(都民)

 危機に対して、首都圏の住民がどういうことをしたらいいか具体的にわからない。危機は天災と人災がある。天災には、住んでいる人間が隣同士助け合っていくことを行政も指導してほしい。凶悪犯罪に対して、都民に、どのような行動をとってほしいかを指導してほしい。都民は甘えている。自己責任の時代になっているので、どういうことをしたらいいか教えてほしい。

○石原知事

 災害危機というのは突然やってくる。初めて起こるから危機。その準備が必要。自分でがんばる自助、隣同士が助け合う共助。大きな行政力は最後に出てくる。この自助・共助・公助が災害に対する基本的な対処の姿勢。

○佐々さん(コメンテーター)

 神戸で生き埋めになり、救出された方の後追い調査で、家族や隣人に救出されたのが60%。共助でやっている。公助は40%しかない。

 都民のすべきこと。車で逃げない。車に乗っていたらキーを付けたまま逃げる。日本人は組織への忠誠心が強い。会社へ行かないで、自分の家族を自分で守る。これを3日間やるために3日分の水、食料、医薬品、日用品は持っていてほしい。自分で自分を守るという精神を各人が持たないといけない。

 今は、家庭の電化率が上がり、停電復旧後に電化製品から火が出る。その防止のため、ブレーカーをおろして逃げる。

○芳賀さん(都民)

 ゴールデンサーティという、事故や災害が起こった場合30分以内に方針、対応を決めると、二次災害の被害を最小化できるという言葉がある。災害等が起きたときの対応を、一分一秒を急いで対応してほしい。被害のレベルによっては、中堅幹部が指示を出せるようにできないか。警察、消防等の異なる組織間が効率的に対処できる相互支援体制を整えてほしい。橋梁の強度や地盤の弱いところ等インフラ情報を開示してほしい。病院に備蓄している薬品が何人分、何日分ぐらいあるのか。オープンスペースでのヘリポートの整備が喫緊の課題。首都高を緊急時に利用できるようにしてほしい。帰宅難民の対応で、食料や水、宿泊場所の確保と、携帯電話の充電も行えるようにしてほしい。帰宅するまでの間、家族やお年寄りの面倒を見て、守ってくれる組織づくりもお願いしたい。知事のリーダーシップに期待したい。

○三上さん(都民)

 無差別テロに対応するには、まず住民の危機意識というものが大事。住民の一人ひとりが、明日はわが身という考えを持つことが第一の原点。テロが起こったときの対応体制では、消防、警察に加えて陸上自衛隊も各知事の管轄下に置いたほうがいい。各県に1つの自衛隊というのはむずかしいので、道州制的な考え方を取り入れ、各知事のチームワークで、自衛隊の派遣、出動を決めていく形がいい。代表になった知事が指揮権を発動できる形へ持っていくと、いざ危機が起こった場合に迅速な対応、陣容の確保ができるのではないか。どこで、どういう危機が起きても対応できるような全国規模の考え方を、東京なり首都圏を中心に発展させたい。

○佐々さん(コメンテーター)

 都知事は、三宅島の噴火のとき、非常に早く自衛隊の出動要請をした。海上自衛隊、海上保安庁、警視庁、消防、全部指揮系統が違うのを、石原知事が統括し、副総監を統括指揮官にした。そして全島民避難を早く決断した。アメリカは、だれが何をやるかというのが決まっている。トリアージドクターというのが全国から動員されてきて集中治療をやる。トリアージ(TRIAGE)は、死者を少なくするために、重傷者から優先する制度。日本にそれを導入しないといけない。日本では先着順。

 総合行政で最初の72時間でいかに敏速に対応するかが重要。東京都は航空機、ヘリコプターの運用をしたり、自衛隊を動員して初めて総合防災訓練を行った。平成9年の全国の自治体がやった防災訓練のうち自衛隊と連携したのは3分の1。こういう状況では助けたくても助けられない。自助、共助、公助の精神で、まず自分で自分の家族を守らないといけない。

○石原知事

 自衛隊を要請するのに何ではばかるのかわからない。税金払って自衛隊を育てて、戦争に使うのは最悪のケース。災害だって大変な敵。自衛隊は警察も消防も合わせた装備を持っている。

 トリアージドクターが判断をするタッグに、黒、赤、黄色、緑のビラがついている。赤までちぎられて黒になると、運んでもしかたがないので悪いけど死んでもらう。赤は、いま運んだら助かるので、赤を優先的に運ぶ。黄色は手当てをすればいい。緑は、自分で手当てする。そういう識別を医者がする。赤の人を運ばなくてはいけないが、元気な人間ほど先に行く。本来、助けるべき赤の人や、赤と黒の境目の人がみんな亡くなった。今度、そういう習慣をつけようと思ってやった。

○高橋さん(都民)

 トリアージに関して、聖路加国際病院の例など、病院や医者の間でよいところを学んで広めていけばいいと思う。

佐々さん(コメンテーター)

 人間の治療順位を人間が決めるのはよくないから、先着順が一番公平だという考え方がいまだにはびこっている。医療ミスがあった後の訴訟が怖い。国家賠償制度を考え、医者に判断ミスを押しつけるのはよくない。人命を救う場合には、優先順位をつけないと助かるべき人も死んでしまうことがある。

○石原知事

 災害が起こって建物が崩れると、どこがどこだかよくわからない。

 学校は、避難場所になる。ヘリコプターがおりるスペースがある。川崎市は、学校の校舎の屋根に番号をつけてある。これは非常に助かる。これから関東で統一してやろう。イニシャルつけて、大きな建物の天井に番号を書いておくのは、救出のために便利な方法。ヘリコプターは、いざというとき本当に有効な救出手段。

○佐々さん(コメンテーター)

 日本はアメリカ、カナダに次ぐ世界第3位のヘリコプター保有国。1995年の1月17日から3日間、重傷者をヘリコプターで何人運んだか調べたが、17人しか運んでいない。それは、運輸省航空局の航空管制官が平時のマニュアルで、地震のおそれがあるときは着陸を許可してはならないという状況だったから。ヘリポートがないから降りられず、ヘリコプターで運べない。ある特定の学校は避難民を入れず、ヘリ専用にする。まず一番先に救うのが赤タッグの重傷者。2番目は老幼婦女子、寝たきり老人たちを運ばなければいけない。こういうルールをつくらないといけない。

○野田警視総監

 緊急に警察に来てほしいときは110番が一番。交番に駆け込むよりも110番。

 生活安全相談については#9110という電話番号を用意している。急がない、ゆっくり相談したいものは、ぜひ#9110のほうをお願いしたい。

○佐々さん(コメンテーター)

 避難民の帰宅困難者グループをどうするかというのは行政で考えている。

○石原知事

 東京へ来ている神奈川県、千葉県の人が帰れないときに、海上自衛隊とか保安庁の船を使って帰す訓練もした。後で「実際は、地震で崩れて、あの桟橋は使えません。」と言われた。演習してみないとわからない。そういう忠告を得ることで、準備は完全なものに近くなっていく。やはり繰り返し演習することが必要。

 東京の犯罪に対して強い関心を持ってほしい。日本に不法入国している外国人の犯罪が非常に増えてきた。入国管理は警察にやらせなきゃだめ。こういう認識も国民が持って、国にしっかりしろって言ってもらわないと、いくら東京が逆立ちしたって追いつかない。そういう認識をお互いに持ちましょう。