石原知事施政方針

平成11年12月3日更新
平成11年12月1日
          平成11年第四回都議会定例会知事発言
 平成11年第四回都議会定例会の開会に当たり、都政運営に対する所信を申し述べ、都
議会並びに都民の皆様のご理解とご協力を得たいと思います。
 天皇陛下におかせられましては、本年御在位満十周年を迎えられ、去る11月12日、
天皇皇后両陛下御臨席の下に記念式典が挙行されました。首都東京の知事として、1200
万都民とともに、心よりお祝いを申し上げます。
 11月29日、名誉都民の岩本薫さんが逝去されました。ここに謹んで哀悼の意を表し、
心よりご冥福をお祈りいたします。
 はじめに、台湾大地震について申し上げます。
 9月21日、台湾中西部で大地震が発生し、甚大な被害がもたらされました。多数の犠
牲者に対し深く哀悼の意を表します。また、被災者の皆様にお見舞いを申し上げるととも
に、一日も早く大災害からの痛手から立ち直られることを心から願っております。
 東京都は、見舞金の贈呈や支援物資の提供を行うとともに、被害状況、応急対策、さら
には震災復興に向けた取組など、今回の地震の実態を詳しく調査するため、専門家などに
よる調査団を派遣いたしました。
 私も、復興のための都市計画に関する協力要請を受けて、被災地を視察し、大地震の凄
まじさに言葉を失うと同時に、初動時の救援活動が的確に行われたことなど、多くの示唆
を得ることができました。
 東京区部直下での大規模地震に備えるため、来年9月3日に実施する東京都総合防災訓
練などに、これらの教訓を活かしてまいります。
1 首都移転問題
  次に、首都移転問題について申し上げます。
  国会等移転審議会における移転先候補地の選定作業は、当初の予定より遅れており、
 答申はまだ行われておりません。この問題に対する、都民や国民の認識は極めて低く、
 このまま国が手続きだけを進めれば、我が国の将来に取り返しのつかない禍根を残すこ
 とは明らかであります。
  首都移転については、国に対して、この際勇気をもって白紙撤回するよう、改めて強
 く申し入れます。
 (全国への呼びかけ)
  首都移転は、首都東京の問題だけではなく、国家全体を危機に陥れかねぬ、極めて重
 大な問題であります。
  去る9月、私は、衆議院の国会等移転特別委員会において、移転に反対する側の知事
 として初めて意見表明を行いましたが、この場での議論を通じて、国家的見地に立った
 論理展開や、広く国民全体に議論を喚起していく運動の必要性を痛感いたしました。
  このため、都議会をはじめ、区市町村、民間団体などと一体となった「首都移転に断
 固反対する会」を直ちに発足させるとともに、全国の自治体に移転反対を呼びかけるこ
 ととし、副知事を筆頭に幹部職員が多くの自治体を訪問して協力を要請いたしました。
  あわせて、内閣法制局や特別委員会の委員に対して、これまで明らかにされていない
 首都の定義や天皇の国事行為に与える影響などについて、文書で質問を行いました。そ
 の結果、「首都移転に断固反対する会」のメンバーからの回答を除いては、納得のいく
 回答は未だに殆どなく、いかにも国民的議論が不十分であるという印象は否めません。
  我が国は現在、600兆円にものぼる膨大な借金を抱えております。また、低経済成
 長社会を迎え、新たに生み出される国富に限りがある中で、福祉、環境、情報など、新
 時代を切り拓き、豊かな国民生活を確保していくための様々な対応を迫られております。
 国際社会で強い影響力を発揮できる国力も維持していかなくてはなりません。莫大な投
 資を行い、時間をかけて新しい首都を建設することが許される国家的状況にないことは
 明白であります。
  いま、我が国が選択すべき道は、地方分権と規制緩和を徹底的に進め、それぞれの都
 市や地域が、これまで培ってきたストックを最大限に活かしながら互いに個性を競い合
 い、最少の投資で最大の効果を生み出す国土づくり、都市づくりを進めることでありま
 す。現在進められている首都移転計画は、バブルが生んだ不良債権と同様、将来大きな
 負の遺産となりかねません。
  都民や国民の皆さんの中には、首都移転の意義と進め方について、大きな疑問と強い
 不信を抱いている方が大勢いることと思います。私は、来る12月17日、こうした全
 国からの声を結集し、「首都移転に断固反対する国民大集会」を開催いたします。日本
 の将来のあるべき姿を真剣に考えていくため、都民の皆さんはもちろん、全国の皆さん
 にもご参加いただくよう、お願い申し上げます。
 (首都機能は東京圏全体で担う)
  我が国の首都機能はこれまで、東京を核として、東京圏を構成する七都県市が分担・
 連携しながら、その役割を担ってまいりました。
  したがって、日本全体の視点から首都のあり方を考える上では、東京圏自らが、圏域
 全体の将来構想を国民に分かりやすく示していく必要があります。
  私は、人口3300万人を擁する東京圏が、これからも政治、経済、文化などの諸機
 能の中心にふさわしい圏域であり続けることが、我が国全体の国際競争力の強化や経済
 の活性化を図るために不可欠であると考えます。そのためには、東京圏全体の多彩な拠
 点都市が適切に役割を分担しながら、21世紀の首都機能を十全に発揮できる地域づく
 りの戦略を明らかにしなくてはなりません。
  こうした観点に立って、先月開催された七都県市首脳会議において、首都を引き続き
 担っていくための東京圏のあり方について、直ちに調査に着手することを決定いたしま
 した。
  21世紀は、超音速旅客機や情報ハイウェーなどにより、既存の空間構造が大変革を
 遂げる時代であります。東京圏もこれまで蓄積されてきたストックを十分に活用しなが
 ら、衣替えを図っていかなければなりません。
  私は、50年先を見据えた東京のあるべき姿を明らかにすると同時に、七都県市相互
 の連携を一層緊密にしながら、既成市街地の再構築、圏域内での移動時間の短縮、東京
 湾沿岸域の有効利用など、メガロポリスがもつ潜在的な力を引き出すための方策に、全
 力を挙げて取り組んでまいります。
2 行財政改革に向けた当面の取組
  次に、行財政改革に向けた当面の取組について申し上げます。
 (内部努力のさらなる徹底)
  財政再建を成し遂げるためには、何よりもまず、最少のコストで最大の行政効果が発
 揮できるよう、都庁が一丸となって、さらなる徹底した内部努力を行い、行政コストを
 可能な限り縮減していかなくてはなりません。また、懸命な内部努力の推進があってこ
 そ、はじめて聖域を設けることのない、厳しい施策の見直しや再構築に、都民や区市町
 村の理解と協力が得られるものと思います。
  私は、こうした姿勢を都民の皆さまにお示しするために、都政史上かつてない、給料
 の4%削減を含む、全国で最も厳しい内容となる職員給与の削減を、全ての職員を対象
 に時限的措置として実施することといたしました。
  今回の措置は、都自らによる自主的な財政再建の第一歩となるものであります。私は、
 都財政最大の危機を克服し、東京を再生していくため、職員一人ひとりがこの非常事態
 を十分に認識し、それぞれの立場で最善を尽くしてくれることを固く信じており、職員
 とともに全力を挙げて財政再建に取り組んでいく決意であります。
 (行政改革の推進)
  都民に信頼される都政を実現していくためには、時代を先取りし、限られた財源や人
 材を機動的かつ効率的に活用しながら、都民にとって最大の成果をあげていくことが求
 められております。しかしながら、現在の都庁の行政体質の中には、職員自らも指摘す
 る多くの課題があります。都庁内部や外部との情報ネットワークの遅れ、仕事に対する
 創意工夫への評価の欠如、意思決定に要する時間のロス、自発的な見直しが行われにく
 い仕組みなどを改善していくことが急務であります。
  今後、私は、「スピードの重視」と「コスト意識の徹底」、それがもたらす「成果の
 重視」を、都庁の体質を変えていくための基本的な視点とし、各職場において職員一人
 ひとりに改革の意識を浸透させるとともに、都庁の行財政システムを根本から見直して
 まいります。
  行政改革を進めるに当たっては、職員一人ひとりがこれを自らの課題として受け止め、
 取り組むことが必要です。このため、それぞれの職場で「改革推進ミーティング」を設
 置し、自らの仕事を見つめ直しながら、問題点を解決するための方策の検討を開始いた
 しました。今後、各職場における行政改革への取組を活発化し、人事制度や予算・会計
 制度、執行体制などの改革を進めてまいります。
  東京都の行政活動を客観的に評価するため、9月から行政評価制度の試行を実施して
 おります。今後、試行を拡大していくとともに、政策上の目標を示した「東京都政策指
 標」を設定し、行政評価の基本的な指標に位置づけることにより、制度の充実を図って
 まいります。
  地方分権については、来年4月に迫った地方分権一括法の施行による分権改革に対応
 するため、既に国の政令等の改正が行われた事務に関する条例の制定及び改正を、今定
 例会に提案しております。また、都から区市町村への一層の権限移譲を進め、区市町村
 の自主性、自立性の向上を図るため、来年9月を目途に第二次東京都地方分権推進計画
 を策定し、都自らが積極的に、分権時代にふさわしい新たな関係を構築してまいります。
  都区制度改革については、まず清掃事業の移管に関し、これを来年4月に特別区へ円
 滑に引き継ぐため、移管後と同様の執行体制による試行を、2月末から行うことといた
 しました。また、清掃事業を除いた事務事業の具体的内容と範囲を確定し、これに伴い
 必要な条例の改正を今定例会に提案しております。新たな都区財政調整制度の構築に当
 たっては、都区双方ともに厳しい財政状況の中ではありますが、安定的な都区関係を維
 持し、適切な財源配分とするため、引き続き、早期合意に向けて、都区間の協議を鋭意
 進めてまいります。
3 「危機突破・戦略プラン」の策定
  次に、過日策定した「危機突破・戦略プラン」について申し上げます。
  このプランは、東京が直面する危機を打開するため、緊急かつ戦略的に対処すべき課
 題に焦点を絞り、当面、重点的に取り組む具体的な施策を取りまとめた、21世紀への
 第一ステップとなる計画であります。
  首都東京が直面している危機は、雇用や健康、教育、老後への不安など、都民生活に
 直接及ぶ危機に加えて、産業活動の停滞をはじめとする日本の牽引車としての危機が重
 なり、いわば危機の二重構造をなしていることが、大きな特徴となっております。
  いま、東京に必要なことは、潜在的な力を掘り起こし、本来の能力を思う存分発揮さ
 せることであります。このことを通じて、21世紀においてもアジアを代表するグロー
 バルプレイヤーとして、その存在を世界に示すとともに、都民生活に希望の光を灯すこ
 とが可能となります。
  プランでは、こうした認識の下に、現在の危機を乗り越えるため、5つの戦略を立て、
 当面早急に取り組むべき施策・事業を28の「政策の苗」として植えております。また、
 今日の財政危機を招いた要因の一つでもある都庁の行政体質を根本から見直していくた
 め、抜本的な改革に向けた取組の方向性をお示ししました。私は、これらの苗が育ち豊
 かな実りの時を迎えるまで、粘り強く東京の再生に取り組んでいく覚悟であります。
  東京の未来を切り拓いていくためには、まず目標とすべき望ましい東京の姿を掲げな
 ければなりません。私は、第一に「誰もが創造力を発揮できる東京」、第二に「都民が
 安心して生活できる東京」、第三に「先駆的なメッセージを発信できる東京」を提起い
 たしました。
  望ましい東京の姿を実現するためには、自立した個人が失敗を恐れずに行動できる環
 境の下で、その努力の集積が社会の発展に結びつくと同時に、社会が生み出す様々な成
 果が個人の人生の充実のために活かされる、いわば個人と社会の発展的相乗関係が必要
 であります。これからの都政は、「活力と安心」、「自立と連帯」を兼ね備えた東京の
 実現を目指して、都民の皆さんとともに前進してまいります。
  このプランは、変革を進める基点の書ともなるものであります。今後、私は、プラン
 で示した基本的な考え方や具体的な取組を足掛かりとして、総合的・体系的な都市構想
 を来年度に策定いたします。その中で、東京の目指すべき中長期的な将来像を描くとと
 もに、未来を切り拓くためのビジョンと政策展開の道筋を明らかにしてまいります。
4 当面取り組むべき政策の展開
  次に、危機を突破するための戦略に基づく、当面取り組むべき政策の展開について申
 し上げます。
 (安心と自立を支える新たな福祉施策の構築)
  東京都は、昭和40年代に、全国に先駆け、福祉施策を開始し、その後の国や他の地
 方自治体の施策を先導する役割を果たしてまいりました。特に、福祉手当や医療費助成
 などの経済給付的事業は、不十分であった国の所得保障を補完すると同時に、介護サー
 ビスが不足している中で、経済的負担の軽減を通して、福祉水準を確保する役割を担っ
 ていました。
  しかし、今日では、国の社会保障制度やホームヘルプサービスなどの一定の充実が図
 られる中、こうした事業の見直しが必要になっています。都民の所得水準も総体的に向
 上しており、平均的な所得に関しては、高齢者と他の世代との格差はなくなりつつあり
 ます。
  都財政の大幅な伸びが期待できない中で、子育てや介護への支援をはじめ、今後ます
 ます増大が見込まれる在宅サービスなどのニーズに対応していくためにも、現在の社会
 経済状況を踏まえた施策の見直しを図っていかなくてはなりません。
  私は、社会の活力を保ちつつ、誰もが人間として、尊厳をもって安心して暮らせるよ
 う、自分の生活は自らの責任で営むことを基本とした上で、あくまでも自助努力だけで
 は生活が困難な方々を、社会が連帯して支える安心の仕組みが必要であると考えます。
 個人の自立、自助を基本としつつ、地域、民間、行政などが社会的に連帯して支援する、
 自助、共助、公助が適切に組み合わされた福祉システムの構築が求められているのであ
 ります。
  いま、自治体にとって重要な課題は、民間団体や企業の役割を重視しながら、地域の
 実情や利用者のニーズに即したきめの細かいサービスの供給を確保するとともに、健康
 の維持や社会参加の促進など、住民が生きがいをもって暮らせるような取組を推進して
 いくことであります。
  私は、経済給付的事業を、社会経済状況の変化への対応、国の社会保障制度との整合、
 負担の公平性の確保などの観点から見直す一方、緊急性、必要性の高い在宅サービスを
 中心とした、福祉サービスの量的、質的な一層の充実に向け、施策の転換を図ってまい
 ります。
  来年4月から、高齢者の介護を社会全体で支える仕組みとして、いよいよ介護保険制
 度が実施されます。この制度では、利用者自身による選択、主体性の尊重を基本として、
 福祉、保健、医療にわたる介護サービスが、多様な事業者から総合的、効率的に提供さ
 れることになります。
  都の役割は、保険者となる区市町村と連携を密にしながら広域的な調整を行い、介護
 サービスの基盤の整備などを支援していくことにあります。
  このため、年度内に「介護保険事業支援計画」を策定し、介護保険施設の整備目標と
 主な在宅サービスの基盤整備の方向を明らかにいたします。また、介護サービスの情報
 提供システムやサービスを客観的に評価する「第三者評価」のモデル事業の実施、権利
 擁護のための仕組みの整備など、利用者本位のサービス利用を支える仕組みをつくって
 まいります。
 (東京の未来を拓く新しい教育の展開)
  現代は、精神的な価値よりも金銭的・物的価値、社会的責任よりも権利意識が優先す
 るなど、社会における価値のバランスが崩れ、自己中心的な生き方が蔓延しております。
 また、家庭や学校そして地域での子どもの育成に関わる教育力が著しく低下し、これを
 助長する社会風潮も目に余るものがあります。
  過日発生した、若い未熟な母親による幼女殺害という痛ましい出来事は、まさにこう
 した社会の歪みを象徴しているといって過言ではありません。
  いまや、若い親たちも子どもたちも、社会を生きていく上での「基本的なルール」を
 守れず、欲望や衝動を抑制する耐性や言葉による問題解決能力を失いつつあります。
  私は、この危機的状況を克服する取組の必要性を、父親、母親そして社会全体に問い
 かけたいと考え、「心の東京革命」を提唱してきましたが、先月、その推進に向けた取
 組の方向素案を発表いたしました。
  「心の東京革命」とは、次代を担う子どもたちに対して、親と大人が責任をもって正
 義感や倫理観、思いやりの心を育み、人が生きていくための当然の心得を伝えていく取
 組であり、東京都が全国に先駆けて展開していきたいと思います。
  今回の素案では、取組を推進していくための原則として、「親と大人が責任をもつ」、
 「社会全体で取り組んでいく」、「幼児期からのしつけを重視する」、「多くの体験・
 経験を重ねさせていく」の4つを提起し、これらを踏まえて、家庭、学校、地域、そし
 て社会全体が、その教育機能を発揮させていく具体的な施策を掲げております。
  とりわけ、幼児期の子どもに最も大きな影響力をもつ母親への意識啓発を重点的に行
 うため、MXテレビなどによる育児やしつけに関する啓発番組の放送、「子育てマニュ
 アル」作成などを進めます。また、都内の小・中学生を中心に様々な体験活動を行う
 「トライ&チャレンジふれあいキャンペーン」、福祉施設や病院など都庁職場を活用し
 た体験学習、さらには、家庭や地域の教育力を強化するため、「子ども家庭支援センタ
 ー」の整備、ユースワーカーの養成などに取り組みます。
  また、「心の東京革命」を都民と一体となった社会的ムーブメントとして効果的に展
 開していくため、「毎日きちんとあいさつさせよう」「他人の子どもも叱ろう」など、
 分かりやすい標語による「心の東京ルール」を作成し、これをキャンペーンに活用する
 ことといたしました。
  今後、推進体制の整備を図るため、区市町村や関係者団体の参加を得て、「心の東京
 革命推進会議(仮称)」を設置するとともに、今回の素案について、広く都民の皆さん
 や関係者からご意見をいただき、来年6月を目途に「“心の東京革命”の取組方針・行
 動案」を策定いたします。
 (健康で快適に暮らせる都市環境の創出)
  8月末から3か月にわたって展開したディーゼル車NO作戦は、インターネット上で
 熱心な議論が交わされるなど、東京だけではなく全国でも大きな反響を呼び、都民や事
 業者などから、延べ1千件を超える意見や提案が寄せられました。
  また、海外からも東京の取組は注目されております。近年では、ヨーロッパでも、デ
 ィーゼル車排ガス規制は大幅に強化されており、大型貨物車が排出する粒子状物質に対
 する規制値は、現在、将来とも日本よりも厳しくなっております。
  私は、改めて、この問題に対する各方面の関心の高さを思い知らされると同時に、デ
 ィーゼル車対策の強化が急務であることを痛感いたしました。
  最近発表された調査によれば、東京では、ディーゼル車から排出される微粒子が、肺
 がんによる死亡原因の実に16%を占めると推計されており、全国で見た場合の9%を
 大きく上回っております。都民の健康への深刻な影響を考えると、現在のディーゼル車
 は、東京での利用にふさわしくないといわざるを得ません。
  私は、都内を走行するディーゼル車に、ガソリン車などへの代替や微粒子を除去する
 装置の装着を、一定の猶予期間を置いた上で、順次義務づけてまいります。また、ディ
 ーゼル車への経済的優遇措置となっている軽油引取税の是正を国に要請するなど、都民
 一人ひとりに対し、自動車の使い方の転換を促す、経済的手法の導入を図ってまいりま
 す。
  この問題の解決には、自動車メーカーの理解と協力が欠かせません。排ガス浄化や燃
 料改善の早期実現によって、ディーゼル車の環境への負荷をより少なくしていくことが
 大切です。昨日、私は、各ディーゼル車メーカーの代表と意見交換し、技術開発などに
 ついて要請をいたしました。
  今後、都民の皆さんや事業者の方々などからいただいた意見や提案、議論を踏まえて、
 東京が選択すべきディーゼル車対策の基本的な考え方を早急にとりまとめ、新たな展開
 方針をお示ししてまいります。
  今日の環境問題は、自動車公害に見られるように、都民が被害者であると同時に、加
 害者の側面もあるなど、かつての産業型公害とはその性格が異なっております。このた
 め、工場などの固定発生源に対する規制を中心としたこれまでの仕組みでは、十分に対
 応することができません。
  去る10月、東京都環境審議会から、こうした観点を踏まえて、現行の公害防止条例
 の全面改正を目指した、中間のまとめが公表されました。この中では、自動車使用の制
 限をはじめ、21世紀を見据えた先駆的な仕組みを、積極的に導入すべきことが示され
 ております。
  例えば、自動車公害対策に加えて、ダイオキシン類対策として、小型焼却炉に対する
 使用禁止を含む厳しい規制を設けることや、環境負荷の低減に向けた総合的な管理や配
 慮を事業者等に求める、新たな制度の導入を求めております。
  今後、年度内に審議会から最終答申をいただいた上で、さらに検討を積み重ね、来年
 中の条例改正に向けて全力を尽くしてまいります。
 (東京の経済活力の掘り起こし)
  我が国の中小企業がもつ技術力を評価し、多様な資金調達の途を開くための様々な試
 みが活発になっています。私は、この間の東京都の取組が、民間の新たな市場創設の動
 きや政府の対応を加速させ、先導的な役割を果たしてきたものと考えております。
  かねてより検討を進めてまいりました債券市場の創設については、本日、第一弾の債
 券発行の具体的なスキームを公表いたしました。我が国で初めて、行政主導により、数
 多くの中小企業への新規融資をもとに証券化し、来年3月を目途にローン担保証券を発
 行いたします。
  また、将来性のあるベンチャー企業を育成するため、都や国内外のベンチャーキャピ
 タルなどの出資により、経営コンサルティング機能を備えた投資事業有限責任組合を設
 立し、民間からの投資の呼び水となる資金の供給、民間投資ノウハウの活用、さらには
 都の施策との効果的な連携を進めてまいります。
  産業振興ビジョンの中間のまとめを、先月、発表いたしました。新たな策定手法とし
 て、インターネットにより政策提案を公募した「チャレンジ・プロジェクト」には、地
 域や事業者の知恵と力が満ち満ちております。
  例えば、大田区の企業からは、最新の情報技術を駆使し、技術や製品に関する情報を
 共同で国内外に受発信するシステムが提案されております。私は、個々の企業や行政だ
 けでは解決できない問題に、地域のネットワークを活用していく試みとして、こうした
 アイデアのもつ可能性を高く評価いたします。
  東京の産業・都市活動を支える道路は、容量を上回る自動車交通量に加えて、路上駐
 車による通行の阻害などもあり、慢性的な渋滞に見舞われております。このため、交通
 事故の多発や健康への悪影響、環境問題の発生に加えて、渋滞による経済損失は、年間
 実に約4兆9千億円にものぼっています。
  こうした自動車交通に伴う諸問題を解決に導くためには、交通容量の拡大と交通需要
 の調整の両面から、交通円滑化対策を重点的、総合的に展開していくことが必要であり
 ます。
  そのためにまず、通過交通の都心部への流入を避けることで、交通の円滑化に大きな
 効果を発揮する、「首都圏中央連絡道路」、「東京外かく環状道路」、「首都高速中央
 環状線」のいわゆる「3環状道路」について、国及び関係自治体と連携を図りつつ整備
 の促進を図ります。
  とりわけ、整備が遅れている「東京外かく環状道路」については、地域環境の保全や
 まちづくりの観点から、自動車専用部の地下化を基本として、計画の具体化に取り組ん
 でまいります。
  また、自動車の利用者を公共交通機関の利用に誘導するために、鉄道や地下鉄、新交
 通システムなどを体系的に整備するとともに、乗継ぎなどの利便性の向上を図ります。
  先月、東京の交通改善の基本的な考え方を総合的、体系的に示した「交通需要マネジ
 メント東京行動プラン」の案を公表いたしました。このプランでは、現在、時速
 18.5キロに止まっている区部の平均走行速度を、2010年までに25キロ以上に
 することを目標に設定しております。自動車交通量を現在の水準に抑えるため、交通需
 要を調整する手法として、駐車マネジメントや、混雑地域におけるロードプライシング
 の導入など、9つの重点施策を掲げました。
  今後、広く都民・事業者の皆さまからご意見を伺いながら、来年の2月に最終的なプ
 ランを策定いたします。
  港湾、空港、流通業務施設、道路などの物流機能は、産業経済を支える基盤であり、
 物流のトータルコストの低減に向けて、ハード・ソフトの両面から取組を進めていくこ
 とが必要です。私は、首都圏全体を視野に入れ、物流の効率化を推進するため、総合的
 な施策の検討に着手し、来年度策定する都市構想において、その基本的な考え方を明ら
 かにしてまいります。
  首都圏における国際航空需要が増加の一途をたどっている中で、国内はもとより、近
 隣アジアなど海外からも、羽田空港への国際線の乗り入れを求める声が高まっておりま
 す。
  羽田空港は、沖合展開事業の進展により空港容量が拡大するとともに、来年3月の新
 B滑走路の完成を期に、全滑走路の24時間使用が検討されるなど、改めて国際線が就
 航できる空港に生まれ変わりつつあります。こうした時期を捉え、その早期実現に向け
 た諸活動を展開してまいります。
  10月には、横田基地の軍民共用化による効果や影響などを分析した、調査結果を公
 表いたしました。2015年の横田飛行場の民間航空需要は、年間約2万便と予測され、
 その場合の騒音影響範囲は、今回の推計では、米軍機の騒音が最大値となるケースと重
 ねても、現在すでに設定されている防音対策の区域を越えないものと考えられます。経
 済効果は、生産誘発額が約1400億円、雇用誘発が約8300人と推計されます。
  また、先月には「横田基地の民間利用を考える会」を発足させました。軍民共同利用
 のあり方と、それに伴う環境への影響、多摩地域の都市づくりに及ぼす効果、産業や雇
 用への波及など、幅広い視野から継続的に協議を行い、世論喚起のための諸活動を展開
 してまいります。
 (魅力ある首都東京の創造)
  東京が、国際社会の中で強い影響力をもつ首都であり続けていくためには、都市の核
 となる一定の定住人口を確保するとともに、国際都市に必要な諸条件を整え、東京の都
 市としての魅力と活力を一層高めていくことが必要です。
  私はまず、既成市街地の再構築を推進するため、都心部における望ましい職住バラン
 スの目標や、都心居住を推進する上での具体的な方策などを検討し、来年度策定する都
 市構想の中でその方向性を明らかにいたします。また、都心部の機能更新とあわせて、
 東京臨海地域の再編整備を進めます。
  21世紀の魅力ある首都東京を創造する象徴として、都心の再生は急務であります。
 このため、日本の表玄関といえる東京駅舎の復元や行幸通りの景観整備などを、民間投
 資活動を誘発・促進しながら展開してまいります。あわせて、周辺の民間建築物の更新
 を計画的に誘導し、賑わいと活力のあふれた都心の再生を図ります。
  人々の国際的移動と交流がますます活発化し、多くの都市が、世界の人々を引きつけ
 る魅力づくりを競い合っている中で、外国人の滞在しやすい環境の整備の遅れは、東京
 の国際競争力を低下させる大きな要因となっております。
  今後は、積極的なシティーセールスを展開するとともに、来訪者の受入れ環境の改善
 や文化的魅力の向上などを図り、東京を世界に大きなプレゼンスをもつ都市に転換して
 いかなくてはなりません。
  このため、昨日、観光関連の団体や企業などを主体とする「東京シティーセールス・
 キャンペーン推進協議会」を発足し、誘致宣伝活動などを展開していくことを決定いた
 しました。
  また、東京の活力を高め、世界に向けて文化を発信する魅力ある都市とするため、都
 の文化政策の総合的・戦略的な取組を示す「文化政策に関する基本方針」を来年度に策
 定いたします。
  芸術文化の一層の振興を図るためには、企業や市民が芸術文化活動を支える社会的な
 仕組みを整備していかなくてはなりません。私は、こうした活動に対する支援の一環と
 して、芸術文化団体への寄附金に対する税制上の優遇措置の拡充を国に強く要望してま
 いります。
5 おわりに
  現代の科学技術文明は、人間社会に恩恵をもたらすだけではなく、様々な危機もはら
 んでおります。
  コンピューターの誤作動が心配される「西暦2000年問題」については、7月に危
 機管理のプロジェクトを策定し、事前の対策に万全を尽くしてまいりましたが、さらに
 不測の事態の発生に備えるため、12月27日から1月4日までの期間、災害対策本部
 を設置いたします。
  特に、元旦の午前零時以降に、事故や災害の発生が最も危惧されることから、31日
 の17時から元旦の12時までの間は、全庁的に非常配備態勢をとり、情報収集や初動
 対応の準備に当たってまいります。
  今年も残すところあと1か月となりました。
  現下の経済情勢を見ると、依然本格的な景気の回復には至らず、大型合併や大規模な
 再建計画に象徴されるように、多くの企業がまさに生き残りをかけた必死の改革を断行
 しております。
  私は、東京の舵取りを預かって以来、首都東京から新しい変革の歴史を創り出す、と
 いう強い決意の下に、ディーゼル車NO作戦の展開、新たな債券発行の仕組みづくり、
 横田基地の軍民共用化に向けた取組、都立高校の学区制の見直しなど、首都東京の責務
 として、常に国や他の自治体をリードする姿勢で都政運営に臨んでまいりました。
  しかしながら、都政の改革はまだ緒についたばかりであります。都政史上かつてない
 未曾有の財政危機の中で、都庁自らが厳しい自己改革を果たすとともに、山積する難題
 を解決し、都民の希求や東京への期待に応えていかなくてはなりません。
  もとより、行政とは、社会の利害関係のぶつかり合いや衝突を、議会や都民と一体と
 なりながら、調整して新しい価値を生み出していくものであり、そこに新しい政策の源
 があると考えます。また、抱える問題が複雑で困難なものであるほど、強くはっきりと
 したメッセージを発信し、理解を求めていく姿勢が問われます。
  私は、「政策の苗」を着実に育んでいくとともに、自らがグッドコミュニケーターと
 なり、様々なメディアを通じて、東京の抱えている問題を分かりやすく伝え、広範な議
 論を喚起しながら、都民の皆さんとともに新しい都政を築いてまいります。
  東京の確かな未来を切り拓いていくため、改めて、皆様のご理解とご協力を心からお
 願い申し上げます。
  本定例会には、条例案62件、契約案6件など、あわせて70件を提案しております。
よろしくご審議をお願い申し上げます。
  以上をもって、私の発言を終わります。ありがとうございました。
+−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|本文は口述筆記ではありませんので、|
|表現その他に若干の変更があることが|
|あります。                        |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−+