石原知事施政方針

平成12年6月28日
           平成12年第二回都議会定例会知事所信表明
 ※ 本文は口述筆記ではありませんので、表現その他に若干の変更があることがあります。
 平成12年第二回都議会定例会の開会に当たり、私の都政運営に対する所信を申し述べ、都議会並
びに都民の皆様のご理解とご協力を得たいと思います。
 去る6月16日、ご回復を切望する国民の願いもむなしく、皇太后陛下が崩御あそばされました。
 私は、直ちに、奉悼文を奉呈し、哀悼の意を捧げてまいりました。
 皇居の位置する首都東京の知事として、ひときわ胸に迫るものがあります。
 皇太后陛下におかせられましては、昭和天皇とご一緒に、幾たびか都内の施設をご視察いただき、
多くの励ましのお言葉を賜りました。
 皇太后陛下のご生涯は、20世紀そのものであり、これでいよいよ20世紀が終りを告げたという
気がしてなりません。
 皇太后陛下のご崩御を悼み、1200万都民を代表して、衷心より、哀悼の意を表します。
 一方、三宅島では、一昨日夜から火山活動が始まり、予断を許さない状態が続いております。火山
性地震や地殻変動など噴火を予兆させる活動が、断続的に発生しており、多くの方々が、避難生活を
余儀なくされています。
 不安の絶えない島民の皆様には、心よりお見舞い申し上げます。
 私は、警報に接し、直ちに副知事を島へ派遣し、現地での指揮にあたらせるとともに、災害対策本
部を設置し、救援物資の搬送、医療チームの派遣など、現段階で取り得る、あらゆる措置を講じてお
ります。また、大きな機動力を有する自衛隊に対し、災害派遣要請を行い、三宅村には災害救助法を
適用いたしました。
 このまま何事もなく終息に向かうことを願って止みませんが、万一、噴火が発生した場合には、島
民の安全確保に万全を期すとともに、被害を最小限に食い止められるよう、三宅村をはじめ、国、警
察、消防など関係機関と緊密に連携をとりながら、全力を尽くして対応してまいります。
 皆様のご協力を心からお願いいたします。
1 はじめに
  一向に進まない政治改革、世界に取り残された経済構造の転換、崩れつつある安全神話、心の荒
 廃など、昨今の日本の状況は、まさに世紀末的な現象を呈しており、時代の先行きには、不透明感
 が広がっております。
  国民がいま真に求めているのは、この閉塞的な状況をどう打開し、新しい日本をどのように創造
 するか、来るべき21世紀に向けた力強いメッセージであります。
  この度の総選挙は、本来なら、立ちはだかる難問を前に、これからの我が国をどう存立させてい
 くか、その理念と政策について活発な論争を行う絶好の機会でありました。しかし、残念ながら国
 政の場においては、政党は危機意識のないまま、これまでと同様、目先の利益だけを訴えていたと
 の印象を拭いきれません。
  大きな節目となるべき選挙でありながら、投票率が伸び悩んだのは、将来を託するに足る選択肢
 を見つけることのできなかった、国民の失望と怒りの表れであります。
  政治家に課せられた役割は、時代を透徹した高い志を持つとともに、民意を正確に把握し、政治
 に反映させることであります。私は、総選挙で示された政治状況を他山の石として、国民の誰もが
 感じている危機を乗り越えるための明確な方針と具体的な政策を打ち出し、日本の改革につながる
 東京の改革に、議会とともに取り組んでまいりたいと思っております。
2 都民の安全を守る総合的な防災対策
  私は、就任以来、東京が直面する様々な危機に対して警鐘を鳴らし、危機克服に向けた政策を展
 開してまいりました。内側から腐蝕する錆のような構造的危機への対応が、21世紀の東京にとっ
 て最大の課題です。また同時に、今回の三宅島火山活動のように、待ったなしで襲う災害など突発
 的な危機に対して、あらゆる事態を想定し、十全の備えをしておくこと、すなわち危機管理も、私
 の知事としての使命であります。
  直下型の大地震は、いつ発生しても不思議ではない時期にきております。阪神・淡路大震災は、
 迅速な初動対応とともに、地域の助け合いや、復興を円滑に進めるルールづくりがいかに重要であ
 るかを、雄弁に物語っております。
  しかしながら、制定以来四半世紀が経過した震災予防条例は、行政の主導による予防対策が中心
 であり、今日の複雑な社会環境の中では、限界を露呈しております。また、復興に関する国の制度
 も、巨大都市東京の実態に即したものとはいえません。
  私は、これからの震災対策を、都民、事業者及び行政が連携して取り組む、応急・復興事業も含
 めた総合的な対策に転換してまいります。
  震災予防条例については、年内に初めての抜本的改正を行い、新たに、都民・事業者の役割の強
 化、助け合いの仕組みづくり、救出・救助の活動拠点の事前指定など、法律の不備を補う都独自の
 制度を導入いたします。
  東京の復興を迅速に進めるには、国の制度についても、非常時に有効に機能するよう検討される
 べきであります。有識者の意見を聴きながら、本年秋を目途に、新たな私権の制限を含む法的課題
 を取りまとめ、国に対して問題提起してまいります。
  万一東京に大震災が発生した場合は、総力を結集して、非常事態に対処する必要があります。危
 機対応能力を最大限発揮するためには、日頃の備えと訓練が、何よりも重要であります。
  来る9月3日、大都市東京を舞台に「ビッグレスキュー東京2000〜首都を救え〜」と命名し
 た、都政史上、日本史上最大規模の総合防災訓練を実施いたします。
  今回は、警察、消防などのほか、総理大臣を責任者とする陸・海・空3軍が初めて統合して加わ
 るなど、国もかつてない規模で参加し、関係機関が相互に連携を強めながら、極めて実践的に訓練
 を行います。また、災害時に一人でも多くの生命を救出できるよう、多数の負傷者の中から治療の
 優先順位づけを行う「トリアージ」を、この度の訓練で本格的に取り入れてまいります。
  私は、これらの体験、知見を重ねることが都民の防災意識の高揚につながり、安全確保に高い効
 果を上げるものと確信しております。
3 確固たる基盤構築への継続的取組み
(1)長期戦略ビジョンづくりの推進
   次に、都政の将来を見据えて定めるべき、戦略的課題への取組状況について申し上げます。
 (21世紀の東京のデザインづくり)
  国家全体が依って立つべき座標軸を喪失したいまこそ、東京が、再生に向けた長期戦略を打ち出
 し、将来の展望を明示する必要があります。危機の先にあるべき東京の姿は、誰もが創造力を発揮
 できるとともに、安心して生活でき、先駆的な文明のメッセージを発信できる都市であります。
  私は、いち早く東京を危機から蘇らせ、21世紀に誇れる都市を創りだしていくため、「東京構
 想2000(仮称)」を11月を目途に策定いたします。8月末には「中間のまとめ」を行い、
 15年後の東京の将来像を、単に都市像や生活像のみならず、新しい社会の姿やこれからの行政像
 も含めて取りまとめます。
  想像を絶するスピードで社会が変化するこの時代、15年先を展望することは、これまでの一世
 紀分の変化を見通す眼力が要求されます。知事として東京の行く末を託された私は、この困難な作
 業にチャレンジしたいと思います。
  東京の全体像を描くには、都市づくりや都市構造の理念を明確にしておく必要があります。13
 年度に策定を予定している「東京の新しい都市づくりビジョン(仮称)」の基本となる考え方を、
 東京構想に盛り込んでまいります。
  国際的な都市間競争が激化し、人や企業が都市を選ぶ時代を迎えている中で、東京にとっては、
 世界の中枢に位置する都市として、揺るぎない存在感を示し続けることが、極めて重要なテーマで
 あります。私は、「国際都市東京の魅力を高める」ことを都市づくりの基本目標として、業務機能
 のみならず、居住、物流、文化、観光などの様々な機能に着目して、東京の魅力を高め、活力溢れ
 る都市にしてまいります。
  また、これらの機能をもつ都市が、総体として力を発揮するためには、センター・コアとなる
 「首都心」を形成するとともに、環状方向の地域連携を含めたネットワーク化を図ることが重要で
 あります。この東京圏全体を視野に入れた、「環状メガロポリス構造」とも呼ぶべき新しい東京の
 都市構造を目指して、21世紀に向けた都市づくりを積極的に展開いたします。
  東京湾岸に広がる臨海地域は、大きな潜在力・魅力を備えており、東京再生のためのリーディン
 グエリアとして、新しい仕事を育てる新産業空間や、職住近接の生活空間を築いていくことが求め
 られております。現在、新たな整備方針を策定中であり、9月に、骨子となる部分を「中間のまと
 め」として明らかにいたします。
 (航空政策の新たな展開)
  世界全体が時間的・空間的に狭小になっていく中で、東京がアジアを代表するグローバルプレー
 ヤーとしての役割を担っていくためには、増大する国際線の航空需要に、十分応えていく必要があ
 ります。
  羽田空港の国際化に関しては、国も、ようやく重い腰を上げ、検討に着手いたしました。私は、
 当面の対応策として、夜間早朝枠を活用した、国際チャーター便や国際ビジネス機の就航など、具
 体的な活用方法を運輸大臣に強く提案いたしました。
  さらに将来を見据え、首都圏新空港を国策として早期に事業化するよう、国に強く働きかけてま
 いります。
  横田飛行場に関しては、先月「第2回横田基地の民間利用を考える会」を開催いたしました。
  今後とも、国内外の世論を喚起するための行動を展開してまいります。
 (七都県市の連携)
  3300万の人口と七都県市からなる東京圏が、地域全体で首都機能を担いながら発展していく
 には、共同で取り組むべきこれからの政策について明らかにするとともに、国と連携することが不
 可欠です。私は、国が開催した「第2回都市再生推進懇談会」において、七都県市と国が構成メン
 バーとなる常設の協議機関を新規に設置するよう、提案いたしました。
  これまで私は、都議会をはじめ多くの方々と協力しながら、首都の移転に断固反対であることを、
 再三再四、力説してまいりました。
  しかし、衆議院の「国会等移転特別委員会」では、先月、こうした運動・世論を全く無視し、2
 年後を目途に移転先候補地を絞り込むという、愚にもつかぬ決議を採択いたしました。この決議は、
 一言の議論も交わすことなく採決するなど、手続き面でも、極めて乱暴なものであります。選挙を
 前にして、委員会活動を記録に残すための、国民を愚弄したアリバイづくりでしかありません。
  これ以上不毛な議論にエネルギーを浪費するより、東京圏の遅れている社会資本整備に国をあげ
 て力を注ぐことが、我が国の将来にどれだけ有意義であるかは、火を見るよりも明らかであります。
  重ねて訴えます。首都移転は、国家全体のためにも、一刻も早く白紙撤回されるべきであります。
(2)強くしなやかな行財政体質の確立
   次に、強くしなやかな行財政体質の確立に向けた取組みについて申し上げます。
 (危機が続く都財政)
  瀕死の都財政を引き継いだ私は、就任以来、財政再建を都政の最重要課題の一つと位置づけ、給
 与削減をはじめとする内部努力や聖域なき施策の見直しなど、かつてない厳しい取組みを行ったつ
 もりであります。
  しかし、近く発表する予定の11年度一般会計決算では、10年度の大幅な赤字をほとんど解消
 できず、その額は、900億円にもなる見込みであります。財政の弾力性や健全性を表す経常収支
 比率については、昭和53年度以来21年ぶりに100%を超えることが確実な状況であります。
  さらに来年度は、引き続き4300億円もの巨額の財源不足が生じる見込みであります。
  今後急増する公債費などの要因を考え合わせると、東京は、財政再建団体に転落するかどうか、
 まさに徳俵の上に足をかけた瀬戸際の状況が、いまだ続くことを覚悟しなくてはなりません。
  都議会並びに都民の皆様のご理解を得ながら、「財政再建推進プラン」に基づき、今後とも積極
 的に構造改革に取り組み、緒についたばかりである財政再建の達成に向け、全力を傾けてまいりま
 す。
 (経営感覚の積極的導入)
  いま、都庁職員に最も不足しているのは、サービス精神や徹底したコスト意識など、鋭敏なる経
 営感覚であります。私は、経営とは何かを、職員全員に体得させる必要性を痛感しております。
  写真美術館は、日本で唯一の写真・映像専門の美術館として、貴重な作品・資料を多数収蔵して
 おります。しかし、膨大な経費を投入する一方で、入館者は一向に増えず、採算を度外視した運営
 が続いておりました。私は、優れた感覚と大胆な発想を備えた民間経営者に館長就任を依頼し、写
 真美術館の再生を託しました。
  都バスにおける広告料収入の増加策も、最近手がけた取組みの一つであります。条例改正など必
 要な措置を講じた上で、路線バスの車体全面に広告を掲載いたしました。これにより、今年度は約
 5億円の収入の増加を見込んでおります。ちょっと料金が安すぎたので、来年から値上げしようと
 思っています。
  誰もが使いやすい地下鉄となるよう、出入口表示の改善にも取り組んでおります。すでに都営と
 営団地下鉄では、統一案内標識の設置を進めておりますが、さらに、この秋には、現在公募中の動
 くサインを設置し、一層のサービスアップにつなげてまいります。
  民間の資金やノウハウを活用するPFIについては、昨年、地方自治体として初めて、金町浄水
 場の常用発電設備に導入いたしました。今後、都庁全体でPFIの導入に積極的に取り組んでまい
 ります。
  私は、引き続き、爪に灯ともすような努力も厭わず、都政経営の改善に努めるとともに、職員の
 意識改革を徹底したいと思っております。
 (行政改革の推進とITの活用)
  時代の変化を先取りし、柔軟で機敏な都政運営を実現するためには、職員一人ひとりが旧来の殻
 を打ち破るだけではなく、行政システムそのものをも一新しなければなりません。
  私は、根本的な体質改善に向け、執行体制や仕事の進め方など、直ちに取り組むべき改革を「都
 政改革ビジョンI(仮称)」として、年内に取りまとめます。まず、8月末に「中間のまとめ」を
 策定し、現在の行財政システムの課題を整理し、改革の方向を明らかにいたします。
  とりわけ遅れているのは、情報技術(IT)を活用した、都民サービスの向上と事務の効率化で
 あります。現在都庁で使用しているパソコンの多くが、外部と結ばれていないため、デジタルネッ
 トワークの時代を迎えようとする中で、社会の潮流から都庁は取り残されております。議会からの
 強いご指摘もあり、電子都庁の実現に向けた第一ステップとして、本年秋に、約3千台のパソコン
 をインターネットに接続し、都民や関係機関との双方向の情報伝達に活用いたします。
4 新たなメッセージの発信
  次に、国政の変革にもつながる、東京からの新たなメッセージの発信について申し上げます。
 (大学・医療改革ののろし)
  明治以来行われてきた日本の教育は、欧米に追いつき追い越せというこれまでの国家目的にとっ
 ては、有効に機能してはまいりました。しかし、近代文明が幕を閉じ、新しい文明の入り口にさし
 かかっているいま、もはや歴史的に齟齬をきたしている現在の教育システムを、根本から変えてい
 かなくてはなりません。
  すなわち、すべての分野に一通り精通した、いわゆる官僚に表象されるような全天候型の人材を、
 画一的に育成しようとするのではなく、その人しか持ち得ないような能力、創造力を引き出す教育
 が、これからの情報社会を勝ち抜き、21世紀の我が国を支える礎として求められております。
  私は、新しい大学のモデルを東京から発信することにより、日本の大学から、日本のすべての教
 育を変えていく引き金としたいと考え、都立の4大学の改革に着手いたします。
  具体的な内容は、今後明らかにしてまいりますが、大学が、徒な象牙の塔となることなく、教育
 者間にも健全な競争原理が働くように改めるとともに、独立採算制をも視野に入れ、経営面の改革
 に取り組んでいきたいと思っております。また、学生にとっては、生きた学問を修得する場となる
 ためにも、「入学はしやすく卒業しにくい大学」を目指していきたいと思っております。
  日本の医療に対しては、患者への情報提供の不足や相次ぐ医療事故などから、かつてないほど国
 民に不信感が蔓延しております。いま国民の誰もが、医療行政の抜本的な体質改善を希求しており
 ます。
  私は、今回、東京の医療の将来像として、「365日24時間の安心を保障する医療」、「患者
 中心の医療」を掲げ、日本の医療改革の突破口となる「東京発の医療改革」を開始いたしました。
  まず、広尾、墨東、府中の3都立病院に、2年以内を目途として、休日、夜間を含め、あらゆる
 症状に対応できる、「東京ER(イマージャンシールーム)」を設置いたします。また、民間との
 役割分担のあり方などを踏まえ、地域性、医療機能の面から、老人医療センターをあわせた都立病
 院全体を再編整備いたします。このため、近く「都立病院改革懇談会(仮称)」を設置し、中長期
 的な展望も含めた考え方を取りまとめてまいります。
 (東京発の新たな地方自治)
  4月に施行された地方分権一括法は、何よりも大切な地方税源の充実確保を、中長期的な課題と
 して先送りしてしまいました。私は、国が自ら改革する力を失っているのであれば、首都東京が持
 つ発信力を活かし、進んで新しい税制を提言していきたいと思っております。
  このため、都議会の代表の参加も得て「東京都税制調査会」を過日発足させ、地方分権の時代に
 ふさわしい税制全体の望ましいあり方について、諮問いたしました。国・地方間の税源配分や政策
 税制など、4つの分野について審議をお願いしております。
  11月を目途に最初の提言を受け、都議会をはじめ他の地方自治体とも連携を密にしながら、制
 度変革のうねりを巻き起こしてまいりたいと思います。皆様のご支援を心からお願いいたします。
  真の地方主権を確立していくためには、国の動きを座して待つのではなく、東京が独自に取り組
 むことのできる改革を率先して実行し、全国に範を示す必要があります。
  先日公表した「第二次東京都地方分権推進計画」中間のまとめは、都道府県として初めて、区市
 町村への権限移譲が可能な千項目を超える事務をリストアップし、人的、財政的な支援の考え方も
 盛り込むなど、先駆的な内容になっております。
  今後、9月に策定する計画を基に関係機関と協議し、区市町村への分権を進めてまいります。
 (土地収用の新たなルールづくり)
  私は、昭和42年以来抜本的な改正が行われていない土地収用法の見直しを建設大臣に強く提言
 し、国も直ちに検討を開始いたしました。
  適正な手続きを経て合意されているにもかかわらず、事業開始後にわずかな土地を取得した多数
 当事者が、収用手続きの段階で、公共事業の進捗を大幅に遅らせている例が多々あります。
  今後、こうした事態を招くことなく、速やかに社会資本整備が進むよう、新たな土地収用のルー
 ルづくりを促進いたします。
5 苗を大きく育てるための政策展開
  次に、これまで植えてきた政策の苗を、大きく育てるための展開について申し上げます。
 (心の東京革命の推進)
  頻発する未成年者の凶悪犯罪は、青少年問題の深刻化を象徴しております。また、犯罪に至らな
 いまでも、我慢ができない自己中心的な考え方や、社会ルールからはずれた行動をとる子どもたち
 が増えております。我々大人自身が、子どもの人格形成に向けた責任を自覚し、健全に彼らを育て
 る社会環境をつくっていくことが、何よりも重要であります。
  私は、「心の東京革命」を社会全体で取り組む運動にしていくため、地域で活動する団体などで
 構成する「心の東京革命推進会議」を4月に設置し、運動の母体としていくことにいたしました。
  来月策定する「心の東京革命・行動プラン」においては、地元企業と連携した職業体験など具体
 的に取組例を示し、地域や関係団体と一体となった行動を展開してまいります。
  また、メディアによる情報の氾濫が、青少年の意識や行動に様々な影響を与えています。有害な
 情報について効果的な規制を行うとともに、青少年自身の情報に対する主体性、自律性を高めてい
 くことが重要であります。
  今年度中に青少年の健全な育成に関する条例を改正し、健全なメディア環境づくりに向け、社会
 全体へ働きかけてまいります。
 (産業振興ビジョンの策定)
  今日の日本は、待ったなしの経済構造改革が求められていますが、米国競争力評議会によれば、
 「技術革新指数」がOECD加盟国中第一位となるなど、日本は科学技術の面では依然として世界
 最高水準にあります。産業の活性化を図るためには、こうした誇るべき技術や人材がその能力を十
 全に発揮できるよう、支援していく必要があります。
  7月に策定する「産業振興ビジョン」は、情報ネットワークを活用した広範な議論を通じ、都民、
 事業者などの優れた提案を、具体的政策へと結実させるものです。
  すでに、200件に及ぶ提言の中から、先端技術や地域の資源を活かした産業再生の芽が育ち始
 めております。私は、これらのチャレンジ・プロジェクトが自立的発展を遂げ、危機的な産業・雇
 用情勢の打開の糸口となることを期待しております。
  産業の育成にとりわけ重要な、創業者やベンチャー企業の支援策の一つとして、都の空き庁舎を
 無料で提供する制度を新設することにいたしました。まず、旧繊維工業試験場江東分場を活用し、
 で実施してまいります。
 (魅力ある文化都市の創造)
  東京は、政治、経済だけでなく、文化を発展させる様々な要素が凝縮する都市であります。しか
 し、歴史的に蓄積され、また新たに生まれつつある東京の都市文化は、必ずしも広く世界に認識さ
 れてはおりません。
  これからの東京に求められるのは、独自の文化情報を発信するとともに、多様な文化の交流拠点
 となり、世界中の人々を惹きつける、都市としての魅力を高めていくことであります。
  近く発表する、「文化政策に関する基本方針(仮称)」中間のまとめでは、文化による都市戦略
 の方向性や、行政の支援領域など、文化政策の基本的方向を示すとともに、都立文化施設の再編の
 あり方を明らかにいたします。今後、広く各方面から意見を聴いた上で、10月を目途に、世界に
 誇りうる芸術文化都市づくりの基本方針を策定いたします。
  先月オープンした「トーキョーワンダーウォール」は、小さくはあっても新しい文化政策の一つ
 の試みでございます。ここから、国際的な評価を受けるような新進芸術家が、世界に飛躍していく
 ことを心から期待しております。
 (人権施策の推進)
  東京における人権の問題は多様化・複雑化し、プライバシーや遺伝子などの領域において、新た
 な課題が生じております。また、不当な差別に見られるような一方的な人権侵害だけでなく、それ
 ぞれの人権を根拠とした主張が激しく衝突する問題も起きております。
  こうした人権状況に対応して、人間の存在と尊厳を守り、活力と安心、そして国際的な魅力を備
 えた東京を築いていく必要があります。
  本年秋に、人権施策推進のための指針を策定し、基本的人権が尊重される東京を実現するための、
 確かな道しるべといたしてまいります。
 (新しい都市外交の展開)
  経済的なかかわりが深く、価値観にも共通性が見られるアジアは、我が国にとって最も重要な地
 域であります。アジア地域が相互に結びつきを強めながら発展していくためには、各国をリードす
 る大都市が、環境対策や文化、産業の振興など、共通の課題に連携して取り組む必要があります。
  私は、かねて提起していた「アジア大都市ネットワーク(仮称)」の構築に向け、第一歩を踏み
 出します。8月に、アジア各地域を代表する都市であるデリー、クアラルンプール、ソウル及び東
 京が、共同提唱都市首長会議を開催し、ネットワークの理念や取り組むべきテーマについて協議い
 たします。
  この会議を起点として、具体的な案件についてのネットワークの構築を図り、21世紀をリード
 する極の一つとして、アジア地域の発展を目指してまいりたいと思います。
6 おわりに
  都政に身を投じてから、早くも一年余が経過いたしました。この間、私は、自己決定能力を喪失
 しつつあるこの国の中で、新しい政治の有りようを創りあげていくために、東京から日本を変える
 ような引き金を引くことを基本姿勢として、変革につなげるメッセージをも発信してまいりました。
  ディーゼル車NO作戦、外形標準課税、中小企業のためのローン担保証券(CLO)の発行など
 は、東京発の新しい政治スタイルが国を動かした一つの証左でもあります。しかし、こうした過程
 を通じて、国の対応は非常に鈍いことを改めて認識いたしました。今後も、都議会の皆様のご協力
 をいただきながら、改革のための強いボールを国に対して投げ込んでまいります。
  また、私は、これまで、40数か所の現場を直接見て回りました。目で確かめ、肌で感じること
 で、都政には、多くの難問が待ち受けていることをますます強く覚悟させられた一年でもありまし
 た。これからも現場主義を貫き、職員や関係者との対話を通じて、新鮮な発想を掘り起こすととも
 に、課題の発見に努めてまいります。
  人間が成長するためにはライバルが必要であるように、都市の発展にとっても、互いに競い合う
 相手が求められてしかるべきだと思います。人・モノ・情報・資金が世界中から集まる都市・ニュ
 ーヨークは、またとない好敵手であります。
  今後、ニューヨークを政策上のライバルとみなし、一方的ではありますけれども、常に念頭に置
 きながら、日本の首都東京のレベルアップに努めてまいります。
  二年目を迎え、私の責任はますます重くなります。これまで植えた政策の苗を大きく育てていく
 とともに、今後も改革の手を弛めることなく、先頭に立って、新たな政策の苗を植え続けてまいり
 たいと思っております。
  議会の皆様、都民の皆様の一層のご理解とご協力を心からお願い申し上げます。
  なお、本定例会には、情報公開条例の一部改正など条例案15件、契約案8件など、あわせて
 28件を提案しております。よろしくご審議をお願い申し上げます。
  以上をもって、私の発言を終わります。ありがとうございました。