石原知事施政方針

平成12年9月19日
         平成12年第三回都議会定例会 知事所信表明
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 |本文は口述筆記ではありませんので、表現その他に若干の変更があることが|
 |あります。                             |
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 平成12年第三回都議会定例会の開会に当たり、私の都政運営に対する所信を申し述べ、
都議会並びに都民の皆様のご理解とご協力を得たいと思います。
1 首都東京の危機管理
  はじめに、噴火が続く三宅島への対応等、東京の危機管理対策について申し上げます。
 (三宅島噴火災害等への対応)
  伊豆諸島で続いている大規模な噴火や地震は、発端となった火山活動から、はや3か
 月近くが経過した今もなお、今後の推移が全くつかめず、過去に例を見ない異常な事態
 となっております。
  とりわけ三宅島では、度重なる噴火により、島全体が厚い灰に覆われ、所々に火砕流
 や泥流の傷跡を残す、目を覆うばかりの惨状となっております。大規模な火砕流の恐れ
 があるため、9月2日には待避指示が発令され、防災・ライフライン関係者を除く全島
 民が、島外へ避難いたしました。
  新島、神津島などの島々でも、地震によるがけ崩れなどが相次ぎ、一部の住民が、待
 避生活を余儀なくされております。
  多くの島民が生命の危険に曝されるとともに、港湾や道路など生活の基盤となる施設
 に大きな被害が発生し、観光、漁業など伊豆諸島の基幹産業は、軒並み多大な損害を被
 っております。
  東京都は、災害対策本部を設置し、地元の村や国など関係機関と連携を密にし、さら
 に近隣の自治体や民間の団体などからも協力を得て、島での応急対策や避難先での生活
 の確保に全力を尽くしております。
  島外避難を強いられておられる方々に対しては、居住環境に最大限配慮して、希望者
 全員に速やかに住宅を提供いたしました。このほか、病弱な高齢者や児童・生徒の受入
 れ、緊急就労対策、相談所の開設、都税の減免、資金の貸付など、日常生活の支障が少
 しでも解消されるよう、可能な限りの対策を講じております。
  このたびの災害に対して、多数の関係者が、粉骨砕身対応に当たっております。特に
 三宅島では、2百人を超える人々が、危険が残る中、昼夜を分かたずライフラインの確
 保に力を尽くしております。この方々の労苦に、心より感謝を申し上げます。
  島の人々は、先行きの分からない極めて不安な状況に置かれています。多くの人が、
 不慣れな土地で不便を感じ、ストレスなどを抱えながら、懸命の生活を続けていること
 と察します。心よりお見舞いを申し上げます。
  噴火と地震による被害がこれ以上拡大することなく、早期に終結することを切に願っ
 ております。
  伊豆諸島は、先人が、ときには尊い生命をも犠牲にしながら、幾たびもの噴火災害を
 乗り越え、今日の生活を築き上げてきた、歴史ある地です。我々は、災害を克服する英
 知と勇気を持ち合わせております。
  島民の皆さん、決してあきらめることなく、希望を持ち続けて下さい。
  この先も、帰島時期、生活再建、復興対策など極めて困難な課題が山積しております
 が、私は、都議会のご協力をいただきながら、国に対しても強力な支援を要請するなど、
 万全の体制を整え、島の再生に全力を尽くす決意であります。
  先般、天皇皇后両陛下には、島民及び関係者へ、暖かいねぎらいのお言葉を賜りまし
 た。また、秋川高校に待避している児童、生徒などに、お見舞いの品を賜りました。
  さらに、国内外から、義援金や救援物資をはじめ、ボランティア活動の申し出など、
 多くのご支援をいただいております。都民を代表して厚く御礼を申し上げます。
 (災害に対する日常の備え)
  伊豆諸島に限らず、世界有数の火山帯の上で生活する我々は、地震や噴火がいつ起こ
 っても不思議でないことを、日頃より十分自覚し、万一の場合に備えておく必要があり
 ます。
  9月3日に実施した総合防災訓練「ビッグレスキュー東京2000」は、都民の防災
 意識を高揚し、関係機関相互の連携を飛躍的に強化するなど災害対応能力を高める点で、
 画期的なものでありました。総理大臣の指揮する自衛隊7千人余が出動するなど、全体
 で2万5千人が参加する、類ない規模の防災訓練を実施し、他の大都市に先駆けて、都
 市型防災の範を示すことができたと考えます。
  災害時に一人でも多くの命を救うためには、災害発生直後に適切かつ迅速な行動を起
 こすことが求められます。今回は、初動対応の確立に特に重点を置き、羽田空港での自
 衛隊機の離発着、大江戸線を利用した人員・物資の搬送など、救助活動に威力を発揮す
 る多くの新しい訓練を取り入れました。
  災害が発生した場合、東京都は、人命の救助に全力を尽くしますが、住民にとって先
 ず求められることは、自らの生命は自らが守ること、すなわち「自助」を基本とするこ
 との自覚であります。ついで不可欠なのが、近隣同士が助け合う「共助」であります。
 地域と一体となった訓練を継続し、共助の必要性を多くの都民が体験することによって、
 今日の日本人が失いかけている、連帯を取り戻す効果もあるのではないかと思います。
  私は、予断を許さない三宅島噴火災害への対応を含め、今後のあらゆる活動に今回の
 成果を活かし、首都東京の危機管理に万全を期してまいります。
  こうした取組みとともに、災害後の復興にも備えておく必要があります。都民生活の
 安定を図るためには、災害時の迅速な措置とともに、長期的視点に立った災害に強いま
 ちづくりが重要であります。東京が大地震に襲われた場合、甚大な被害が生じると想定
 されますが、被災を繰り返さないためには、抜本的に都市を改造することが不可欠であ
 り、この点の認識を都民と共有しておくべきであります。
  このような考えの下に策定した「震災復興グランドデザイン」中間のまとめには、主
 要な復興事業として、安全な住宅市街地の形成や環状緑地帯構想などを盛り込んでおり
 ます。来年3月を目途に、課題を整理し、震災復興グランドデザインを完成させたいと
 考えております。
  この計画を画餅に終わらせることなく、東京の都市復興を実現するには、制約の多い
 現行の法制度を抜本的に見直す必要があります。今後、計画の策定に併せて、新たな私
 権の制限など、まちづくりを計画的に推進する上での必要な法的課題を検討し、国に対
 し、法令の整備を強力に働きかてかけてまいります。
2 ディーゼル車対策への総力を挙げた取組み
  次に、ディーゼル車対策への総力を挙げた取組みについて申し上げます。
  東京の大気汚染の大きな原因は自動車の排気ガスにあり、中でも、ディーゼル車から
 排出される微粒子が、都民の生命と健康を脅かしております。ディーゼル微粒子の削減
 を早急に進めるためには、現在使用されている車を排出量の少ない車に転換させていく
 ことが、極めて重要であります。
  私は、この1年間「ディーゼル車NO作戦」を展開し、ディーゼル車からの買替えや
 微粒子除去装置、すなわちDPFの装着が促進されるよう、広く都民、事業者に協力を
 呼びかけてまいりました。すでに産業界では、我々の取組みを敏感に受け止め、低公害
 車の導入やDPF開発などの動きを速めております。
  また、先日は、「世界肺癌会議」に出席し、ディーゼル車対策に取り組む決意を述べ、
 医学関係者の協力を求めました。私のメッセージに応え、会議では、ディーゼル車など
 の排気ガス対策を政府、業界に要望し、積極的に大気汚染対策を進めている、東京の取
 組みを評価するとの意見表明がなされました。いまや、医学界でも、この問題に対し、
 効果的な対策を求める動きが急速に拡がっております。
  にもかかわらず、国には、依然、深刻な事態への認識が欠如しており、迅速な対応も
 見受けられません。今月公表された中央環境審議会報告では、DPF装着の義務づけが
 見送られるなど、国民の健康被害をくい止めるに当たって、国の対応は全く不十分と言
 わざるを得ません。環境問題への率先した取組みは、国民に対する国の重大な責務であ
 ります。鈍感な国がその姿勢を変えるまで、粘り強く、東京都としては働きかけを続け
 てまいります。
  ディーゼル車に替わる低公害車としては、天然ガスや液化石油ガスを燃料とする車が
 有効ですが、これらの車は利用者が少ないために燃料スタンドが増えず、また、燃料ス
 タンドが増えないために利用者が少ないという、悪循環に陥っております。行政には、
 悪循環を断ち切り、低公害車の普及に弾みをつける先導役となることが、求められてお
 ります。
  6月に立ち上げた「新市場創造戦略会議」は、自動車メーカー、ユーザー、スタンド
 事業者、東京都が協力し、低公害車の普及策を検討するものであります。近く、会議で
 の意見を集約し、天然ガス車の導入やスタンドの設置など、具体的な取組みを発表いた
 します。
  こうした自主的な取組みだけでなく、規制をさらに強化し、現在のような大気が著し
 く汚染された状態を、早期に改善する必要があります。
  私は、次の定例会で公害防止条例を大幅に改正し、都独自の排出基準の設定、基準を
 満たしていない車両の走行規制など、我が国で最も厳しいディーゼル車規制を導入した
 いと考えております。
  排気ガスの浄化をさらに徹底するためには、燃料となる軽油の硫黄分を低減すること
 も不可欠であります。ヨーロッパではすでに、厳しい基準が定められているのに対し、
 我が国は、規制強化の具体的内容を未だに明確にしておりません。
  本日、私は、国の動きを待つことなく、都営バス34台に低硫黄軽油を使用すること
 を指令いたしました。これは、全国初の取組みとして、石油事業者の協力により11月
 から開始するもので、低硫黄軽油の有効性を実証すると同時に、その導入を全国に広げ
 る一矢を放つ、画期的な対策と信じております。
  平成8年に石油製品の輸入が自由化されて以降、多くの中小業者が石油の取引きに参
 入する中で、無責任に質の悪い軽油が流通し、同時に、脱税や滞納が全国的に多発して
 おります。
  7月には、税収確保の観点はもとより、環境対策としても軽油の流通の適正化が重要
 であることから、鳥取県と共同し、全国で初めて、脱税の刑事告発に向けた強制調査を
 実施いたしました。
  今後も手を休めることなく、悪質な業者の摘発に努めてまいりますが、根本的な解決
 には、法制度の改正が必要であります。都議会のご協力も得ながら、軽油引取税の改正
 を実現するよう、国に対しさらに強力に要請してまいりたいと思います。
3 名誉都民の選考
  次に、名誉都民の選考について申し上げます。
  このたび、名誉都民選考委員会から、隅谷三喜男さん、山田五十鈴さんを候補者とし
 てご推薦いただきました。
  隅谷三喜男さんは、長年教育に携わり、新たな労働経済理論の形成や社会保障研究の
 先駆的な取組みを行うとともに、私学教育の充実・発展に貢献されました。山田五十鈴
 さんは、我が国の映画界、演劇界を代表する大女優として、数々の名画、名舞台を生み
 出し、華やかな芸風と確かな演技は、多くの人々に深い感銘を与えております。
  お二人は、それぞれの分野において多大な功績を上げられ、多くの都民が敬愛し、誇
 りとするにふさわしい方々です。都議会の同意をいただき、来月、顕彰したいと考えて
 おります。
4 都政の要となる二つの長期戦略
  次に、都政の要となる二つの長期戦略、「東京構想2000」及び「都政改革ビジョ
 ンI」について申し上げます。
(1)東京構想2000中間のまとめ
 (構想策定のねらい)
  東京は、江戸開闢以来、日本の首都として4百年の歴史を有し、戦後は、奇跡とも言
 われた我が国の高度成長の牽引役となってまいりました。しかし今日、企業活力の低下
 や環境問題の深刻化など、低迷する日本を表象する様々な危機が、東京に蔓延しており
 ます。我々は、確かな将来展望と再生に向けた長期戦略を打ち出し、立ちはだかる危機
 を果断に乗り越えていかなければなりません。
  「東京構想2000」は、都政の基本構想として、50年先を展望しながら、今後
 15年間で目指すべき東京の将来像や、取り組むべき政策を明らかにするものでありま
 す。
 (目指すべき東京の将来像と実現に向けた道筋)
  21世紀に目を向けた場合、高齢化の進展や人口の減少など大きな変化が予測される
 中で、社会の活力を維持していくためには、個性が活き、能力が十分に発揮される社会
 を構築することが不可欠であります。そのような社会においては、個人の努力が社会の
 発展に結びつくとともに、社会の発展が個人の生活を豊かにする、円滑な社会循環が生
 まれるでしょう。
  15年後には、4人にひとりが65歳以上となることが見込まれる中、豊富な知識と
 経験を持ち、多くの可処分時間を有する元気な高齢者は、社会の貴重な財産であります。
 この「円熟シニア」とも呼ぶべき人々が、これまでの体験を活用して社会に貢献しなが
 ら実りのある人生を送ることを、都市型高齢社会のモデルとして目指します。
  一方、都市づくりに当たっては、幹線道路ネットワークや業務核都市などを整備し、
 骨格的な都市構造を実現するとともに、住宅や公益施設などの機能を集約した、コンパ
 クトな生活圏を形成することが必要であります。
  今回発表した「中間のまとめ」は、こうした新しい東京の生活像や都市像を実現して
 いくために、今後展開すべき政策の目標を、16の分野にわたり示しました。
  東京のまちづくりがどの程度進んでいるか、都民に明らかにすることも、行政の大切
 な役割であります。中間のまとめでは、15年後の東京が目指すべき姿を分かりやすい
 数値で示すため、「政策指標」を導入いたしました。通勤通学に要する時間、高齢者の
 社会参加の進展を表す60歳台の就業率、環境改善の目安となる二酸化窒素の濃度など、
 66項目を案として示しております。
  今後は、都議会をはじめ各方面からの意見を広く聴いた上で、年内に3か年の重点事
 業も含めた構想の最終的な形を取りまとめ、魅力と活力に満ちた「千客万来の世界都市」
 東京の姿を明らかにしてまいりたいと思います。
 (新しい行政像)
  社会の変化に対応し、自治体も、そのあり方を大きく変えていかなくてはなりません。
 成熟化が進む中、我が国が今後も発展を続けていくためには、民間企業が最大限に能力
 を発揮できるよう、行政による規制は、極力緩和すべきであります。また、事業はでき
 る限り民間に委ね、行政の役割は、民間での対応が困難な分野に限定すべきです。
  東京都は、このような理念に基づき、広域的自治体として、政策の形成や区市町村・
 民間などの調整役に業務の重点を移し、できる限り小さな政府を目指します。
  広域的自治体としての機能をさらに強化していくためには、より広範な地域を一元的
 に統括する必要があります。今後は、現在の都道府県制度にとらわれない新しい行政の
 枠組みについて、深く掘り下げて検討したいと考えております。
  一方、基礎的自治体である区市町村は、行政サービスを提供する中心的な存在として、
 自らの判断と責任がますます強く求められます。
  8月に策定した「第2次東京都地方分権推進計画」は、この考えに基づいて、東京都
 が独自に区市町村へ事務や権限の移譲を進めるものであります。
  また、区市町村が組織をスリム化しながら持てる力を高め、住民に質の高いサービス
 を提供する上で、合併は、大きな効果をもたらします。今年度中に、市町村の合併に関
 する検討指針を作成し、都内市町村の合併気運が高まるよう、積極的に支援してまいり
 ます。
  田無市と保谷市の間では、合併に向け、かねてから進められていた協議がこのたび整
 いました。来年1月に予定されている合併は、事前に市民の意向を調査するなど、周到
 な準備の下でここまで漕ぎつけたものであります。両市の取組みに、深く敬意を表しま
 す。今定例会には、21世紀最初の対等合併として、西東京市の誕生を求める議案を提
 出しております。
(2)都政改革ビジョンI中間のまとめ
 (行政改革の推進)
  基本構想の策定と並び、行政改革の推進も、東京の危機を乗り越える上で避けられな
 い焦眉の問題であります。
  これまでの行政には、前例に固執して、大胆な改革を回避しようとする傾向がありま
 した。いわゆる役所仕事と批判されているもので、社会の一般常識との間には大きなず
 れがあります。こうした旧態依然とした行動や意識を改めない限り、都民の信頼を得る
 ことはできません。
  都庁の本質を改善し、都民が求めるサービスを効率的に提供していくためには、行政
 の役割を根本から見直した上で、仕事の進め方や組織のあり方など、行財政システム全
 般に鋭くメスを入れる必要があります。
  外部監査は、外部の目を通して都政が抱える問題点を客観的に究明する制度でありま
 す。初めて導入した昨年度は、都立病院の経営管理など198項目に及ぶ、実に適切な
 指摘を初めて受けました。これを基に改善を進めた結果、早くも、多くの効果が上がっ
 ており、都政を変える手法のひとつとして引き続き活用してまいります。
  しかし、外部監査を待つだけではなく、自己改革にも率先して取り組む必要が絶対に
 あります。
  私は、こうした基本的認識の下に、新しい行政を具体的に示すために、「都政改革ビ
 ジョン」を作成しております。
  その第一段階として年内に策定する「都政改革ビジョンI」では、直ちに取り組むべ
 き改革を、15年度までの4か年計画としてまとめます。このたび発表した「中間のま
 とめ」は、行政改革の基本的考え方と、行政評価制度の導入、監理団体の見直し、IT
 化の推進など直面する課題を明らかにしたものであります。
 (都民サービスの向上とコスト管理に向けた具体的な取組み例)
  多くの民間企業は、技術進歩の著しい情報通信機器を活用して、経営革新を積極的に
 進めております。都庁もまた、情報技術を活用し、効率的で迅速な事務の執行体制を確
 立するとともに、時代に合った都民サービスを提供することが喫緊の課題となっており
 ます。
  書類のやり取りひとつを例に取っても、改善すべき点が多々あります。9月からは、
 インターネットで入手できる用紙等の種類を大幅に拡大しましたが、その先は、相変わ
 らず窓口まで足を運ぶことが原則となっております。自宅のパソコンから各種の手続き
 を行うことのできる「電子申請」を、早急に開始いたします。
  さらに、近い将来、国、区市町村ともネットワークを結び、1か所の窓口ですべての
 受付を済ませることのできる「ワンストップサービス」を、実現したいと考えておりま
 す。
  こうした改善を積み重ねることにより、都政を住民本位の行政に転換してまいりたい
 と思います。
  また、東京都は、土地・建物など多くの資産を保有しておりますが、中には長年にわ
 たり放置されたままのものがあり、活用の余地が十二分に残っております。現在、財産
 の利用実態を調査、評価する資産アセスメントを実施中であり、その結果を見て、「財
 産利活用総合計画」を策定し、財産の処分や転用などに取り組んでまいります。
5 東京の再生に向けた取組み
  次に、東京の再生に向けた最近の取組みについて申し上げます。
 (安心と自立を支える新しい福祉)
  福祉はいま、大きな転換期を迎えております。少子・高齢化が進み、住民ニーズが多
 様化する中、住民が必要なサービスを、自らの責任で選択する時代が到来しています。
 これからは、行政が型にはまったサービスを提供するのではなく、事業者が互いに競い
 合いながら、住民の要望に応じた様々なサービスを提供していくことになります。
  本年4月に開始した介護保険は、今後本格化するこうした構造改革の流れの先駆けと
 なるものであります。
  行政は、規制緩和により多様な事業者の参入を促すとともに、住民に身近な区市町村
 を中心に、事業者が公正に競争し、住民がより良いサービスを受けるための支援をする
 ことが、主な役割となります。私は、東京都が担うべき役割と、新しい福祉施策の具体
 的展望を明らかにするため、年内を目途に「福祉改革推進プラン」を策定いたします。
  高齢者や障害者が、快適な日常生活を送るには、段差などの障害をなくし、自由に行
 動できるまちづくりに取り組むことが重要であります。制定から5年が経過した福祉の
 まちづくり条例について、対象施設の拡大や新たな整備項目の追加などを内容とする初
 めての改正案を、今定例会に提出いたしました。
  また、経済的、社会的に不利な立場にある、精神障害者の自立と社会参加が一層促進
 されるよう、都営交通が利用できるパスを発行するための新たな条例を提案しておりま
 す。
 (都市産業の活性化)
  東京の産業が消費者ニーズの変化や社会の潮流を的確に捉えていくためには、技術革
 新や新しい事業の開始、すなわち「起業」を活発化することが重要であります。
  7月には、総額700億円のローン担保証券の参加企業をはじめ、約3500社を会
 員とする「東京都中小企業ネットクラブ」を立ち上げ、世界に向けた情報発信を開始い
 たしました。今後、会員の企業の拡大や登載データの一層の充実を図ってまいります。
  ローン担保証券については、第2回の発行に向けて、金融機関からの提案に基づき、
 発行方法を検討するなど準備を進めております。
  また、投資と経営指導を通じ、創業期にある企業を支援するため、先日、地方自治体
 として最初の投資事業有限責任組合を設立いたしました。
  私は、将来性の高い中小企業を支援するこうした様々な施策を推進し、潜在的な東京
 の産業活力を引き出していきたいと考えております。
  観光は、運輸、飲食など多くの分野に経済効果が波及する複合産業であります。ロン
 ドン、パリなどでは、年間1千万を超える訪問客を外国から集め、観光が都市の発展に
 大きく寄与しております。一方、東京は、世界屈指の大都市でありながら、残念ながら
 観光が都市産業に占める比重は非常に低い状況にあります。
  観光は、取組み方次第では、大きな発展が見込める産業であると考えております。私
 は、観光産業の充実を主要な政策のひとつと位置づけ、東京を訪れる外国人観光客の増
 大などを目標に、これからの観光政策に関する基本方針の策定に着手いたします。
  商店街は、買い物の場であると同時に、地域のコミュニティーを支える場として、重
 要な役割を果たしてまいりました。ところが近年、空き店舗の増加などにより、商店街
 は危機的な状況に陥っております。
  商店街の再生には、何よりも先ず自助努力が求められますが、東京都の支援もまた不
 可欠な要素であります。来年3月を目途に「21世紀商店街づくり振興プラン」を策定
 し、目指すべき商店街の将来像と実現に向けた道筋を明らかにしたいと思っております。
 (心の東京革命の実践)
  フランスの思想家ルジャンドルは「若者が崩壊しているのは、大人が背負いきれなく
 なった重荷を彼らに背負わせた結果なのだ。」と指摘しております。青少年の犯罪や社
 会のルールを逸脱した行動が、大きな問題となっていますが、それは、我々大人や社会
 全体の責任であります。
  大人が先ず自らの生き方を反省し、実際の行動を通じて、守るべき基本的ルールや社
 会に対する責任を、子どもに教えていかなくてはなりません。
  このため、私は、「心の東京革命行動プラン」を策定し、家庭、学校、地域、そして
 社会全体それぞれが取り組むべき行動、そしてそれを支える行政の役割を明らかにいた
 しました。
  来月には、都民や各種の団体が参加する5千人規模の「心の東京革命都民集会」を開
 催いたします。これを契機として、都民と一体となった社会全体の運動を積極的に展開
 し、次の時代を担う子どもを健全に育成していきたいと考えております。
 (安全な都市東京の構築)
  東京は、世界でも有数の治安の良好な都市でありましたが、その評価にも翳りが見え
 つつあります。ニューヨークでは、ジュリアーニ市長の断固とした取組みにより、犯罪
 が大幅に減少したのに対し、東京では、犯罪の増加が続いており、今年上半期の件数は
 過去最悪となっております。
  首都東京の治安を維持し、都民生活の安全を確保することは、知事としての最も基本
 的な使命であります。必要があれば、独自に条例を制定し、犯罪の防止や摘発に全力を
 尽くしてまいります。
  近年、繁華街の性風俗店等において、不当に高額な料金を乱暴な手段で奪い取る悪質
 な事件が相次いでおり、まちを訪れる人ばかりでなく、地域の安全や健全な発展をも脅
 かしております。
  こうした行為を未然に防止し、まちの安全を取り戻すため、不当な勧誘や料金の取立
 てなどを禁止する、いわゆるぼったくり防止条例を、国や全国の自治体に先駆けて今定
 例会に提案いたしました。
6 都市間の連携の強化
  次に、東京の魅力を高めることにつながる、都市間の連携の新しい取組みについて申
 し上げます。
 (東京圏メガロポリス構想)
  国は、長年にわたり無駄が指摘され続けてきた公共事業の見直しに、ようやく着手い
 たしましたが、膨大な経費を要し、無駄な典型とも言える首都移転については、未だそ
 の旗を降ろそうとしておりません。国際社会における我が国の地位を高めていく上で最
 も重要なことは、七都県市からなる東京圏が、これまで蓄積してきた社会資本を活用し
 ながら、首都として世界に誇りうる政治、経済、文化活動を展開することであります。
  そのためには、都議会の皆様とも協力しながら首都移転に断固反対し、首都移転が白
 紙撤回されるまで徹底的に闘うとともに、より一層魅力にあふれた、新しい東京圏を形
 成していきたいと思います。
  私は、首都機能を引き続き担うための基盤整備として、いわゆる圏央道や外かん道な
 ど環状方向の道路整備や、湾岸地域の一体的開発などを進め、環状メガロポリス型の都
 市づくりを目指す必要があると考えております。また、物流ネットワークの整備や国際
 空港機能の強化なども重要な課題であります。
  今後、七都県市が互いに知恵を出し合いながら、共同して東京圏全体の都市ビジョン
 を策定するよう、早急に関係者間で協議したいと思っております。
  その際には、国をも巻き込んだ連携体制を強化することが是非とも必要であります。
 私は、これまでも常設の協議機関の設置を提案してまいりましたが、国の決断を促すた
 めに、この問題を、過日も、総理大臣に直接強く建言しました。
 (アジア大都市ネットワーク21)
  先月、私は、デリー、クアラルンプール、ソウルの首長と一堂に会し、かねて提唱し
 ていたアジアにおける大都市間のネットワークの構築について、議論を交わしてまいり
 ました。
  都市の間では、政治的立場の相違を超えて、共通の目的に向かって協力することが可
 能であります。それぞれの国の心臓部であり頭脳である大都市が相互に連携と協力を深
 めることは、アジア全体の平和と繁栄に大きく貢献できると確信しております。
  こうした認識の下、4都市は、アジア地域の発展を目指す新たな協力の枠組みとして、
 「アジア大都市ネットワーク21」を構築することに合意し、共同宣言を採択しました。
 近く、他のアジア各地域の代表的な都市に参加を呼びかけます。
  この取組みに賛同する大都市の首長により、来年、東京で「アジア大都市ネットワー
 ク21」の第一回会議を開催し、技術開発や、環境、都市計画、観光振興、災害対策な
 どの分野で協力し、事業を展開してまいります。
  私は、この会議が、アジアの新しいアイデンティティを確立し、「アジアの時代」の
 幕開けを世界に告げる場になるものと考えております。
7 おわりに
  今日の日本は、国際競争力が著しく低下し、国そのものが溶けてなくなろうとしてい
 る、まさに国家存亡の秋に直面していながら、どうも永田町の政治家や霞ヶ関の官僚の
 大半には、およそ危機意識が感じられません。来年1月の省庁再編を目前に控えても、
 21世紀の国家ビジョンや新しい省庁で取り組むべき政策など、本質に迫る議論は、一
 向に伝わってまいりません。ただ聞こえてくるのは、族議員と省庁が保有している権益
 をいかに守り通すかという、あまり次元の高くない話ばかりであります。このような状
 況を目の当たりにするとき、国民と共に、国に対し東京こそが厳しく変革を迫っていく
 必要を、痛感いたしております。
  私は今後も、日本の改革につながる東京の改革に、全力で取り組んでまいりたいと思
 います。それと同時に、東京単独では力が及ばない点は、国を揺り動かすことで変革に
 つなげてまいりたいと思います。先月末に開催された第3回都市再生推進懇談会におい
 ては、環境問題のほか、地方税財源の充実などを総理大臣に強く提言いたしました。今
 月に入ってからは、三宅島復興に関する緊急支援をはじめ、来年度予算に関して、国直
 轄事業負担金制度の見直し、米軍基地対策の推進などを要求いたしました。
  今後も、都議会の皆様と力を合わせながら、東京を変え、そして日本を変えていきた
 いと思います。
  都議会並びに都民の皆様の一層のご理解とご協力を心からお願い申し上げます。
 なお、本定例会には、これまで申し上げたものを含め、条例案37件、契約案5件など
合わせて44件を提案しております。よろしくご審議をお願い申し上げます。
 おわりに当たり、再度、伊豆諸島の皆様に心よりお見舞いを申し上げて、私の発言を終
わります。ありがとうございました。