石原知事施政方針

平成12年12月1日
           平成12年第四回都議会定例会知事所信表明
+−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|本文は口述筆記ではありませんので、|
|表現その他に若干の変更があることが|
|あります。            |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−+
 今世紀最後の定例会となる平成12年第四回都議会定例会の開会に当たり、私の都政運営に対する
所信の一端を申し述べ、都議会並びに都民の皆様のご理解とご協力を得たいと思います。
1 緊急課題への迅速な取組み
(三宅島噴火災害等への対応)
  三宅島は、最初の火山活動から5か月以上が経過いたしました。爆発的な噴火の可能性は低くな
 ったものの、依然、有毒な火山ガスが多量に発生しており、島民全員が島外での退避生活を余儀な
 くされております。
  9月中旬からは、保安要員が島へ上陸することさえ危険な状態が続いており、誠に残念ながら、
 退避生活がさらに長引くことも覚悟しておく必要があると考えます。
  東京都は、安全が確認できた際に、一日も早く帰島が叶うよう、可能な限りの対策を講じており
 ます。10月には、現地の災害対策本部を神津島に移すとともに、専門家による「三宅島火山活動
 検討委員会」を設置いたしました。現地では、観測態勢と通信機能の確保、ライフラインの維持活
 動に力を尽くしております。
  一方、新島、神津島などで長期間にわたり続いていた地震活動は、地殻変動も含め、ほぼ収まっ
 たと言われております。本格的な復興に向け、住宅、道路、漁港などの復旧作業を急ピッチで進め
 ております。
  冬の到来を前に、生活支援のための応急措置や、道路・河川の復旧、産業振興などを滞りなく実
 施するため、伊豆諸島の災害対策に必要な補正予算案を編成いたしました。
  政府は、昨日、三宅島からの避難が長期化することも念頭に、支援策を講じることを決定してお
 り、東京都は、本日、全世帯を対象に被災者生活再建支援法を適用することにいたしました。今後、
 関係機関と連携しながら、同法に基づく支援金の支給手続きを早急に進めるとともに、就労対策や
 教育面での支援を強化してまいります。
  この間、非常に多くの方々から心温まるご支援をいただいております。東京都などに寄せられた
 義援金については、昨日までに、三宅村、新島村、神津島村へ合わせて14億円を配分いたしまし
 た。これまでの皆様のご厚情に対し、深く感謝申し上げます。
  島の方々、とりわけ帰島を願いながら果たすことのできない三宅島の方々に、心よりお見舞いを
 申し上げるとともに、一刻も早い災害の終息と島の復興を希っております。島が安寧を取り戻すま
 で、関係機関と連携を密にしながら、全力で支援を続けてまいります。皆さんには、直面する困難
 に決して負けることなく、この危機を乗り越えていただきたいと思います。
(都民の健康と安全の確保)
  東京の大気は、他の大都市と比べ汚染が進んでおり、多くの都民の健康が蝕まれております。
  大気汚染の元凶であるディーゼル車対策として、昨年より、ディーゼル車NO作戦を展開してお
 りますが、いよいよ本格的な規制に乗り出すことにいたしました。
  9月には、大気汚染を増幅し、脱税の温床ともなっている粗悪な軽油を追放するため、「不正軽
 油撲滅作戦」を開始いたしました。悪質な小売業者の摘発はもちろんのこと、製造、流通の段階か
 らメスを入れるべく、路上における抜取検査、販売元・製造元への追跡調査などを行い、製造基地
 の発見に努めております。さらに、都内最大の事業者として、東京都発注の工事現場から不正軽油
 を排除いたします。
  私は、この大規模な作戦を成功させるため、ときに陣頭指揮を執りながら、東京都の総力を傾け
 る決意であります。
  今定例会には、自動車公害対策をはじめとする環境問題全般への取組みを強化するため、制定以
 来30年以上が経過した公害防止条例の全面改正を提案しております。名称を「都民の健康と安全
 を確保する環境に関する条例」に変更するとともに、数多くの新しい対策を講じております。
  条例改正の中心となるディーゼル車規制は、全国で最も厳しいものとなります。東京都独自の排
 出ガスの基準を設定し、基準を満たさないディーゼル車に対して走行を禁止するとともに、大規模
 事業者には、低公害車の導入を義務づけました。規制が遵守されるよう、自動車Gメンを新設し、
 検査・摘発に当たるほか、罰金刑など厳しい制裁をもって臨むことにしております。
  このほか、温暖化やオゾン層の破壊が進む地球環境を守るため、二酸化炭素の削減やフロン規制
 の強化を重点的に推進いたします。さらに、トリクロロエチレンの適正管理など、有害化学物質対
 策に取り組んでまいります。
  一連の対策は、拱手傍観している国に代わり環境を守る、画期的なものであると考えております。
  環境問題は、我々が現代文明による恩恵を享受する限り、継続的な取組みを必要とする分野であ
 ります。平成9年に策定した環境基本計画は、時代の変化に立ち遅れており、全庁的な推進体制の
 再構築が必要なことから、早急に全面改正し、都民の健康と安全を守るために必要な、先駆的な施
 策を展開いたします。
2 財政再建と東京再生の舵取り
(危機が続く都財政)
  財政再建は、就任以来、最も腐心している問題であります。
  これまで東京都は、巨額の歳入欠陥を、他会計からの借入金や減債基金積立ての一部先送りなど
 によりなんとか穴埋めし、財政再建団体への転落を回避してまいりました。
  今や、このような「隠れ借金」は、総額で8千億円近くに達しております。これは、非常事態を
 乗り切るための緊急避難的な措置であり、一日も早く解消すべき性格のものです。
  今年度の都税収入は、相当程度の増加が見込まれておりますが、隠れ借金を解消させるには、な
 お不十分な額としか言いようがありません。7兆円を超える都債残高や2年連続の財政赤字に加え、
 老朽化した施設の更新など、将来に大きな負担となる事業が多数存在することを考え合わせると、
 都財政は、危機的状況が続き、まだまだ前途多難であります。
  現在、財政再建2年目となる来年度の予算編成を進めておりますが、都債の償還経費や退職手当
 が増大し、財政の硬直化はさらに進行するばかりであります。施策の見直しなど思い切った構造改
 革を一層強力に進める必要があります。
(首都東京の再生)
  間もなく21世紀を迎えようとする今日、世界に目を転ずると、東京は、躍動を続ける国際的な
 大都市と比べ、多くの致命的欠陥を有し、競争力を失っております。東京の将来を考えた場合、都
 財政がいかに厳しくとも、首都機能の充実、新しい産業の創出、福祉・医療の改革など、都市の活
 性化につながる事業には、時機を逸することなく財源を重点的に投入することも必要であります。
  施策を厳選し、将来の財政負担を見通すことで、財政再建を成し遂げながら、東京を再生させる
 政策を早急に取りまとめ、これを緻密に進めていきたいと考えております。
  財政再建と東京の再生という二つの大きな課題を抱え、極めて難しい舵取りを迫られております
 が、都議会並びに都民の皆様のご協力を得ながら、この難局を乗り切ってまいります。よろしくお
 願いいたします。
3 東京圏全体を視野に入れた都市基盤の整備
  次に、我が国の発展と東京の再生に直結する、東京圏のこれからの都市基盤整備のあり方につい
 て申し上げます。
(膨大な損失をもたらす首都移転)
  国家の大事を考える場合、広範な議論と、その前提となる多くの基礎調査及び情報公開があって
 然るべきですが、こと首都移転に関しては、そうした手続きがまったく欠落しております。
  例えば、政府は、すべての新規公共事業に、費用対効果の分析を義務づけており、今年度の道路
 整備だけでも、すでに200か所を超える新規事業を評価しております。しかしながら、史上最大
 の公共事業とも言うべき首都移転については、調査分析を怠り、経済的妥当性すら確認しておりま
 せん。
  そのため東京都は、対応の遅い国に代わって、先月、3か所の候補地すべてを対象に、移転に要
 する費用と、移転がもたらす便益とを比較検証いたしました。その結果、移転を遂行した場合、我
 が国に4兆円から6兆円を超える巨大な無駄の発生することが明らかになりました。
  首都移転は、社会的、国際的、文化的な面、どの面から見ても、国民の利益を損なうものでしか
 ありませんが、経済的な面からも、論ずるに足りない計画であることを裏づけるものとなりました。
  今日、先進国と呼ばれ、世界をリードすべき地位にある国の中で、このような膨大な手間と経費、
 そして大きな混乱をもたらす事業を計画している国は、日本だけであります。国家の間で生き残り
 をかけた必死の競争が進行している今、首都移転に国力を割いている暇など決してないはずです。
  首都移転は、最後まで残されたバブルの大いなる負の遺産であり、移転反対は、東京のみならず、
 東京圏を構成する七都県市すべての一致した見解であります。
  私は、日本の将来のため、都議会の皆様と固く連携しながら、国に対し、首都移転の白紙撤回を
 強く強く働きかけてまいります。
(国費による幹線道路の整備促進)
  今、政府が国家戦略として取り組むべきことは、日本のダイナモである東京圏に国家予算を重点
 的、集中的に配分することであります。
  圏央道、外かん道などいわゆる3環状道路は、完成に約9兆円の事業費を要する巨大プロジェク
 トでありますが、一方で、経費の9倍を超える整備効果が期待できます。連続立体交差事業は、交
 通混雑の解消や沿線市街地の一体化はもとより、安全対策や環境改善にも結びつく多面的な効果を
 生み出す事業であります。このほか、環状2号線と晴海通りの延伸、湾岸道路の東京港トンネル部
 分、城南島と若洲を結ぶ臨海道路は、開通すれば、湾岸エリアへのアクセスを大きく改善いたしま
 す。
  愚にもつかぬ首都移転に比べ、極めて大きな効果を生み出す東京圏の道路整備に、思い切って国
 費を投入し、短期間で整備するよう、国に強く要求してまいります。
(効率的な空港の整備)
  現在の羽田空港及び成田空港は、増加を続ける首都圏の航空需要に十分な対応ができず、新空港
 の整備は火急の事案となっております。このままでは、早晩、空港問題が我が国発展のブレーキと
 なるのは明らかであり、国もようやく、首都圏新空港の本格的な検討に動き出しました。
  私は、この機会を捉え、桟橋方式により羽田空港を沖合に拡張する、実現可能性の高い具体的な
 空港整備策を国に提案いたしました。
  この方式は、新滑走路を1本整備するだけで、羽田空港の発着枠が5割増加し、新空港を建設す
 る場合と比べ、工期と経費を大幅に圧縮することができます。埋立方式による拡張と比べても、既
 存の航路への影響が少なく、環境に配慮した手法であります。国に対し働きかけを強めるなど、早
 期実現に向け、全力で取り組んでまいります。
  このほか、航空行政を進める上で、羽田空港の国際化、首都圏の空域の効率的な利用などが、重
 要な課題となっております。今月、東京都が策定する予定の「航空政策基本方針」では、こうした
 内容を盛り込みながら、四半世紀後の空港のあるべき姿や取り組むべき政策の方向性を明らかにい
 たします。
  横田飛行場に関しては、10月に開催した「第3回横田基地の民間利用を考える会」において、
 ワールドカップ期間中の共同利用を働きかけることで、意見がまとまりました。先月には、地元の
 経済団体から、民間航空利用の早期実現のために、世論を喚起することやアメリカ政府へ要望を伝
 えることを、要請されました。また、横田基地周辺の自治体とは、基地の整理・縮小・返還につい
 て、今後協議していくことを合意しております。
  しかし、ワールドカップ開催と同じ時期に横田飛行場滑走路の全面大改修が予定されるなど、相
 手のガードには非常に固いものがあります。返還を最終的な目標に置きながら、あらゆる手だてを
 講じてまいります。
  ただ今申し上げたように、東京圏は、国際競争力の強化に必要不可欠な都市基盤の多くが未完成
 となっており、国をあげた整備の促進が焦眉の急となっております。従来の枠組みにとらわれず、
 新年度予算を手厚く措置するよう、国に強く迫ってまいります。
  建設大臣が主催し、私も委員を務めた「都市再生推進懇談会」が、昨日、重要な提言を出しまし
 た。国際都市東京の魅力を高めていくために、都市の再生を国政の最重点課題とすべきであるとの、
 極めて的確で明快な見解が論じられております。私がかねて提案していた常設の協議組織について
 も、この提言に盛り込まれております。国と七都県市との連携を深めながら、共通の諸課題を解決
 し、東京圏全体の発展に取り組んでまいります。
4 行財政改革の促進
  次に、都政の基盤となる行財政システムを強化する取組みについて申し上げます。
(監理団体の改革)
  都政の改革を進める上で避けて通れないのが、監理団体の抜本的見直しであります。先日取りま
 とめた「監理団体改革実施計画」は、半年以上にわたって進めてきた総点検の結果を基に、経験豊
 富な民間企業経営者の提言を受け、15年度までの具体的な改革の内容を示したものです。
  都民サービスの向上が今後も期待できる団体は、事業の再編など必要な見直しを行った上で活用
 を続ける一方、もはや存続させる意義を失った団体などは、躊躇なく統廃合することにいたしまし
 た。経営責任の明確化、業績を反映した人事・給与制度の導入等、これまでの都政が成し得なかっ
 た、経営の基本にまで踏み込んだ改革プランを作成することができたと考えております。
  ここで最も大切なことは、この実施計画を確実に実行していくことであります。早速この内容を
 来年度予算に反映させるとともに、計画を進行管理する組織を早急に立ち上げ、不退転の決意で監
 理団体を改革いたします。
(東京発新しい税のかたち)
  税は、すべての行政サービスの根幹をなすものであり、真の地方自治を確立するには、税制度の
 改革が不可欠となっております。新しい制度の構築にあたっては、地方自治体が、自らの問題とし
 て十全の議論を重ね、意見を発していくべきであります。
  昨日は、21世紀の地方主権を支える税財政制度のあり方について、「東京都税制調査会」から、
 極めて有意義な答申を受けました。
  大きな特徴は、7兆円を超す国から地方への税源移譲を、国庫支出金及び地方交付税の見直しと
 結びつけて、現実的かつ具体的に示している点であります。国と地方の税額が同程度になることを
 基本に、消費税、所得税、たばこ税の一定額を三段階に分けて無理なく移譲するシナリオが描かれ
 ております。
  また、環境重視の視点に立った自動車税制の見直しや軽油引取税の課税の適正化など、今後の税
 制のあり方について、大胆かつ明快な問題提起を受けました。さらに、大型ディーゼル車高速道路
 利用税をはじめとした東京にふさわしい法定外税や、都民が高い関心を持っている資産課税の今後
 のあり方など、幅広い項目にわたって、提言がありました。
  この答申に盛り込まれた内容は、地方自治体が自らの財源と自らの責任に基づく行政運営を行う
 上で、いずれも大きな役割を果たすものです。国に対し制度改正を強く建言するなど、今後、答申
 を有力な武器として最大限に活用し、東京から、新しい税のかたちを造り上げます。
5 活力と魅力ある東京の創造に向けた政策の展開
  次に、活力と魅力にあふれた東京の創造に向けた、新しい政策の展開について申し上げます。
(総合的な震災対策の構築)
  私は、多くの人命と財産を奪った数々の地震災害を教訓として、東京の災害対策に心血を注いで
 おります。
  今回提案している震災対策条例は、現行条例が、行政の主導による震災の予防を中心としており、
 震災の被害に対応する上で限界があることから、これを全面改正し、東京独自の総合的な震災対策
 を構築するものです。
  条例では、「自らの生命は自らが守る」という自己責任の原則を基本理念に据え、都民、事業者
 の責務を明確化いたします。さらに、「自分たちのまちは自分たちで守る」こと、すなわち共助の
 確立を目指し、地域住民や事業者の助け合いを促す仕組みを整備するとともに、ボランティア活動
 への支援を充実いたします。
  応急・復興対策としては、自衛隊、警察、消防などの活動拠点や仮設住宅建設用地などを事前に
 指定する制度を導入いたしました。また、都民生活の再建を速やかに進めるため、震災復興計画の
 策定を条例に盛り込み、震災に対する備えを強化しております。
  今後、基礎的自治体として第一義的責任を持つ区市町村、広域的役割を担う東京都、そして国が
 一体となって、都民、事業者と連携し、震災対策を推進してまいります。
(中小企業の活力を高める支援)
  これまで我が国の経済発展の源泉となってきたのは、未知の分野に挑む中小企業経営者の起業家
 精神でありました。社会経済がますます激しく変化する中で、中小企業が活力を持続していくには、
 資金をはじめとする経営資源の確保が不可欠であります。
  過日、中小企業の多様な資金調達を促進するため、第2回のローン担保証券のスキームを決定し、
 参加企業の募集を開始いたしました。今回は、信用保証協会の保証を裏づけとする前回と同様の債
 券に加え、企業の信用力を裏づけとする債券も発行することで、より直接金融に近いスキームにし
 ております。
  また、ベンチャー企業や経営革新期の中小企業の支援を強化するため、先月、中小企業振興公社
 に総合相談窓口を開設いたしました。各企業の必要に応じて関係機関と連携しながら、技術や経営
 など様々な面できめ細かく支援してまいります。
(東京の産業を活性化するまちづくりの推進)
  東京には、機械・金属の城南、繊維・雑貨の城東など、我が国の「ものづくり」を支えてきた産
 業集積地が数多く存在しております。しかし、近年、海外生産の増加や長期化する不況の中で、地
 域内の企業数が減少し、支え合いの構造が崩れ、ひいては技術力が低下することへの懸念が高まっ
 ております。
  まちづくりと産業政策の両面から、今ある集積地をさらに支援するとともに、ビジネスや人材の
 苗床となる新たな集積地の形成を、積極的に推進していくことが必要であります。
  電子機器販売の集積地として世界的に有名な秋葉原は、神田市場の移転跡地などを中心に区画整
 理を進めている地区であり、大きく発展する可能性を持っております。秋葉原が持つ集客力と情報
 発信力を活かし、新しい産業や技術が生まれ育っていく拠点にしたいと考えております。
  地元、関係機関などと調整しながら、近く「秋葉原地区まちづくりガイドライン」を策定し、来
 年度中に土地処分を実施いたします。
  臨海副都心は、これからの企業活動に重要な役割を果たす、大容量の情報通信網が整備されてお
 り、交通施設の充実などに伴って一層の発展が期待されております。
  先月、進出を希望する事業者の申し込みを常時受け付ける、新方式による誘致を開始するととも
 に、情報通信の機能集積を促進するため、民間企業と共同の研究組織を発足させました。今後、企
 業の意向を把握しながら、臨海副都心への誘致活動を積極的に展開してまいります。
(福祉改革のさらなる推進)
  これまでの福祉システムは、戦後55年が経過する中で制度疲労を起こしており、今日の生活実
 態を踏まえた見直しが急務となっております。現在進めている福祉改革は、限りある資源を最大限
 効果的に活用し、利用者の希求に応じた福祉の実現を目指すものであります。東京都は、事業者間
 の競争を促しながら、都民が質の高いサービスを住み慣れた地域の中で選択し、利用できるよう、
 条件を整備する必要があります。
  例えば、都会で子育てと仕事の両立を望む人にとって、通勤経路にあり時間延長も可能な保育所
 は欠かすことのできない施設です。大都市の特性に合った設置基準を東京都が独自に定め、企業の
 参入を容易にすることにより、都市型の駅前保育所の設置を促進したいと考えております。
  また、自宅での生活が困難になった高齢者、障害者は、現状では、特別養護老人ホームなど、手
 厚い介護が用意されている施設に頼らざるを得ない状況となっております。今後は、ケアハウスや
 グループホームなど、より家庭に近い環境で生活を支援する施設を重点的に整備し、都民の多様な
 ニーズに応えてまいります。
  今月中に策定する「福祉改革推進プラン」において、こうした具体的取組みを明らかにし、福祉
 改革を着実に推進してまいります。
(住宅政策の抜本的見直し)
  東京都の住宅政策は、これまで、都営住宅など公共住宅の整備に重点を置いてまいりました。
  しかし、世帯数を上回る住宅戸数が確保され、居住形態が多様化した現況では、住宅政策は、市
 場の活用を重視すべきであり、抜本的な見直しが必要であります。
  都営住宅には、必ずしも公的な住宅を必要としていない人が入居していたり、敷地が十分に活用
 されていないなど、多くの課題があります。このため、期限付入居制度の創設や募集方式の見直し
 など、公平性を高める改善に取り組んでまいります。また、建替えなどの際、民間住宅や福祉施設
 等を積極的に併設いたします。
  一方、市場原理だけでは、良質な住宅の供給や望ましい住環境の形成が不十分なため、行政には、
 適切な誘導策が必要となります。老朽化が進む分譲マンションの増加に対応し、相談体制の充実な
 ど円滑な建替えを支援するとともに、中古住宅の流通の活性化に向け、品質の評価や保証などの仕
 組みを整備いたします。
  さらに、マンションの建替えに都営住宅の空家を仮住居として提供するなど、民間住宅を対象と
 する施策を、都営住宅制度の見直しと連動させながら展開してまいります。
  今後、公営住宅法の改正など、こうした住宅政策の改革に必要な法制度の整備を国に対し強く働
 きかけるとともに、早期に新しい住宅政策の全体像を明らかにいたします。
6 新世紀を目前に控えて
  現在、新世紀の東京を展望する上で欠かすことのできない二つのプラン、「東京構想2000」
 及び「都政改革ビジョンI」を作成しております。それぞれ9月に中間のまとめを発表して以降、
 多くの方から意見をいただきました。そうした意見や都議会で審議された内容を十分踏まえながら、
 今月中に最終的な取りまとめを行い、東京の将来像と行政改革の具体的内容をお示しいたします。
  今月12日に全線開通する大江戸線は、今世紀最後の鉄道の開通を飾るにふさわしい、大きな効
 果を生み出す路線となります。大江戸線の全線開通により、山手線内側のほぼ全域が、鉄道の駅ま
 で徒歩10分以内で到達できるようになり、稠密な人口を抱える世界の大都市の中で、最も便利で
 使いやすい公共交通網が形成されます。
  なお同時に、都営バスでは、大江戸線と重複した路線などを再編整備いたします。ご理解を願い
 ます。
  今世紀最後の日には、カウントダウンイベントのほか、歌舞伎やオペラなど、様々な文化を取り
 入れた世界劇「源氏物語」を、東京国際フォーラムで上演いたします。これをもって、都民や企業、
 団体などの参加を得ながら1年間にわたり展開した「東京2000年祭」は、終了となります。こ
 の間に開催した事業を通じ、江戸東京の歴史文化を、次の世紀にいささかなりとも伝承することが
 できたのではないかと考えます。
  激動の20世紀も、あと1か月でその幕を閉じます。
  今世紀、日本は大きな発展を遂げながらも、戦後長い間平和と繁栄が続く中で、いつの間にか、
 依って立つべき価値の基軸を喪失したように感じられます。そして今、環境、教育などの様々な危
 機が露呈し、大きな混迷のうちに世紀の終わりを迎えようとしております。
  我々が、来るべき21世紀において、坂の上に輝く雲を再び掴むためには、我々自身の手で明確
 な進路を定め、強固な意志を持ってその実現に取り組む必要があります。
  この先、どのような困難、予期せぬ事態が訪れようとも、私は、揺らぐことのない確かな時代認
 識を持ち、皆さんとともに新しい東京、新しい日本を築き上げていきたいと思います。
  都議会並びに都民の皆様の一層のご理解とご協力を心からお願い申し上げます。
  なお、本定例会には、これまで申し上げた予算案、条例案に加え、自然の保護と回復に関する条
 例の全面改正など、合わせて34件の議案を提案しております。よろしくご審議をお願い申し上げ
 ます。
  以上をもちまして、私の所信表明を終わります。