石原知事施政方針

平成13年6月5日更新
平成13年6月4日
          平成13年第二回都議会定例会知事所信表明
 平成13年第二回都議会定例会の開会にあたり、私の都政運営に対する所信の一端を申し
述べ、都議会並びに都民の皆様のご理解とご協力を得たいと思います。
 ただいま、奥山則男議員は、栄えある30年の永年在職議員表彰をお受けになりました。
おめでとうございます。さらに、多年にわたり都政に貢献された9名の議員の皆様が、表彰
をお受けになりました。都政の発展に尽くされた皆様の永年のご功績に対して、深く敬意を
表し、心からお喜びを申し上げます。
 国政では、1か月ほど前、国民の圧倒的な支持の中、新しい政権が誕生いたしました。も
はや現状にそぐわなくなってしまった多くの制度、古い体質を一刻も早く変えて欲しいとい
う国民の切実な願いが、総意となって小泉内閣を創り出したものだと思います。
 小泉内閣の姿勢は、新しい時代の流れを巻き起こすため行動を開始した東京の理念と、相
通ずるものがあります。新内閣に対しては、都民、国民とともに、歴代の内閣が成し得なか
った改革を速やかに断行することを期待いたしております。東京からは、日本を変えるため
の必要な政策を、これまでにも増して積極的に建言していきたいと思っております。
1 首都圏としてのアイデンティティの確立
  日本を変えるためにまず必要なことは、首都圏を変えることであります。七都県市から
 なる首都圏は、イギリスに匹敵するGDPを誇り、3300万人が居住する、世界でも類
 のない巨大文明都市圏を形成しております。
  しかし、今日の首都圏は、空港や幹線道路といった社会資本の整備が立ち遅れているば
 かりではなく、凶悪犯罪、雇用不安、環境汚染などが猖獗し、我が国の危機の本質が、最
 も先鋭的に出現しております。
  首都圏は、七都県市が有機的に連携しながら首都機能を担っている、我が国でも特別な
 地域であります。一致協力した取組みがあれば、今ある危機を乗り越え、さらに発展を遂
 げることも十分に可能であります。しかしこれまでは、国や地方自治体の中で、首都圏全
 域を鳥瞰的に眺めようとする意識が非常に希薄でありました。
  東京都は、首都圏が一体となって強い力を発揮できるよう、様々な角度から、改革に取
 り組んでおります。
 (首都圏の再生に向けた緊急対策)
  今我々が、最優先で取り組むべき課題は、我が国の牽引役として、首都圏の活力を復元
 させることであります。
  集中的、重点的な投資は、首都圏の再生に欠かせないものであり、現下の緊急課題であ
 る景気対策としても、高い効果が期待できます。東京都は、これまで、首都圏に集中的に
 国費を投入するよう、再三再四訴えており、3月には、国が緊急に取り組むべき事業とし
 て、総額10兆円のプロジェクトを与党3党に提言いたしました。
  国は、我々の主張にようやく耳を傾け、4月に決定した「緊急経済対策」の中で、都市
 の再生を柱の一つに位置づけました。先月、政府には「都市再生本部」が設置され、現在、
 具体策の検討が進められております。
  私は、東京都の考えが国の政策に反映されるよう、都市再生本部の設置に合わせ、副知
 事を座長とするプロジェクトチームを庁内に立ち上げ、十全の体制を整えました。先日は、
 総理大臣と面談し、与党3党にも提案した10兆円プロジェクトなど、首都圏の再生策を
 改めて建言いたしました。総理大臣とは、今後も連携を深めながら、協同して再生に取り
 組むことで合意はできたと思います。
  引き続き、七都県市とも意見を交換しながら、国に対し積極的に発言し、都民、国民が
 得心できる政策の実現を目指します。
  急を要するプロジェクトの中でも、3環状道路は、大きな整備効果が見込まれる、とり
 わけ優先度の高い事業であります。
  このうち、外かん道の東京区間は、事業が凍結されたまま、当初の都市計画決定から
 35年が経過し、この間、社会経済情勢は大きく変化をしております。東京都と国は、計
 画の見直しが不可欠であるとの認識に立ち、この4月、幅広い議論の素材として、地下方
 式による新しい計画のたたき台を地元に提案いたしました。
  現在、たたき台を基に地元説明会を開催し、対話を進めておりますが、地元の住民から
 は、原点に立ち返った話し合いが求められております。
  私は、地元の意向を踏まえた対応が必要であると考え、過日、国土交通大臣に対し、現
 時点での国としての見解を示し、その上で幅広く議論するための新たな協議の場を設ける
 よう、要請いたしました。要請に対し、大臣からは、話し合いの場を設置する旨回答があ
 り、その後、国会でも同じ趣旨の発言がありました。
  今後、こうした場を通じて、より多くの方々と議論を重ねることにより、外かん道につ
 いては、新たな段階に進むことができると思います。
 (中長期を展望した新たな首都像の確立)
  首都圏の将来を考える場合、緊急の取組みだけでなく、日本の首都として、また、アジ
 アを代表する世界都市として、中長期を展望した構想を持つ必要があります。
  4月に提唱した「首都圏メガロポリス構想」は、21世紀における新たな首都像を描き、
 その実現に必要な広域的政策を、ハード・ソフトの両面から取りまとめたものであります。
  構想では、広域的な防災連携拠点、物流システムなどを整備し、それぞれの地域が特性
 に応じた機能を分担しながら、緊密なネットワークを構築することを目指しております。
 そこから、集積のメリットを発揮した新しいメガロポリスが生まれることになります。
  構想で掲げた基本的な社会資本が整備されれば、区部の通過交通量は3割減少し、圏域
 全体の自動車走行速度も1割向上する見込みであります。
  この秋に策定する「東京の新しい都市づくりビジョン」に構想の内容を反映させるなど、
 今後、多方面で活用しながら、首都圏の都市づくりを進めていきたいと思います。
 (広域化に対応した自治制度の改革)
  社会が時間的、空間的にますます狭小になる中、交通渋滞や大気汚染、水質汚濁など、
 単独の地方自治体では解決できない多くの問題が、地域を超えて広がり、社会の安寧を脅
 かしております。住民は、行政区域を特に意識することなく、広範に活動するようになっ
 ており、「地域」「地方自治体」の意義そのものが大きく変容しております。地方自治体
 は、こうした変化を敏感に受け止め、自らを見直す必要があります。
  このたび策定に着手した「都政改革ビジョンII」では、これからの首都圏における自治
 体のあり方について、制度改革を含む具体的提言を行います。課題に聖域を設けることな
 く、歴史的必然である道州制をも視野に入れながら、現行の都道府県制度にとらわれない
 広域的自治体の姿や、基礎的自治体の将来像についても、検討したいと考えております。
  多数の関係者を巻き込んで、大いに議論するつもりでおります。都議会の皆様からも忌
 憚のないご意見をお願いいたします。
  これまで、「首都圏」は、非常に漠然とした概念に過ぎませんでしたが、東京の取組み
 が契機となり、首都圏としてのアイデンティティが芽生えつつあります。首都圏をどのよ
 うなかたちにしていくかを考えることは、国家百年の計を考えることでもあります。東京
 のため、そして日本のためにも、首都圏の発展に力を注ぎたいと思います。
  ご理解とご協力を心からお願いいたします。
2 山積する課題への積極的対応
 (震災後の計画的都市づくり)
  東京は、首都圏の核として、国家を支える政治経済の中枢機能が集中しているばかりで
 なく、区部だけに限っても、8百万以上の住民が生活する、最も稠密な人口を抱えた地域
 であります。
  区部に阪神・淡路大震災と同程度の直下型地震が発生した場合、火災による被害は、木
 造住宅密集地域を中心に、神戸市の焼失面積の百倍以上である、9600ヘクタールにも
 達すると想定されております。東京は、災害に対し、非常に脆弱な都市であることを直視
 する必要があります。
  このたび策定した「震災復興グランドデザイン」は、平時の防災都市づくりに加えて、
 我が国で初めて、被災後における都市復興のあり方を示したものであります。震災からの
 復興を機に、東京のまちを抜本的に改造し、震災による被害を二度と繰り返すことのない、
 安全な都市とすることが、この計画の最大の眼目であります。復興の過程で市街地が無秩
 序に形成されることを防ぐため、被災状況に応じて異なった整備方法を提示するなど、計
 画的な都市づくりに力点を置いております。
  実現にあたっては、財源、執行体制、法制度などが大きな課題となります。とりわけ、
 現行の法令には制約が多く、今ある枠組みの中で計画的な復興を迅速に進めることは、事
 実上不可能であります。建築制限の強化や、土地の買収・収用を可能にする新たな土地区
 画整理事業の創設など、早急に法制度を見直すよう、国に対しても、強く働きかけてまい
 ります。
 (三宅島支援体制の強化)
  三宅島は、最初の火山活動から1年が経過しようとしております。過日、火山噴火予知
 連絡会からは、火山の活動は全体としては低下傾向にあり、大規模な噴火の可能性は低い
 との見解が示されました。しかし今なお、多量の火山ガスの放出が続いており、危険な状
 況であることに、何ら変わりはありません。
  現地では、火山の観測体制を整備し、本格的な復旧作業に向けた事前の準備を行うため
 に、20名程度の関係者が夜間滞在を開始いたしました。今月中には、対策を強化するた
 め、滞在者を100名以上増員する予定であります。
  また、退避されている方々への新たな支援として、この春、八王子市で、「げんき農場」
 と名づけた農園を開設いたしました。島の特産物の生産を通して、雇用や交流の機会が拡
 大することを期待しております。
 (医療・福祉改革の確実な実行)
  医療と福祉は、都民生活に直結した、最も基本的な領域でありながら、これまでは、画
 一的な内容のサービスが多く、選択の余地はほとんどありませんでした。ライフスタイル
 や意識の変化、急速な高齢化は、新たな需要を生みだしており、利用者の要望を満たす多
 様なサービスの提供が、強く求められております。
  医療における大きな問題は、患者が弱い立場に置かれ、十分な情報提供や納得のいく説
 明が行われていないことであります。このような事態を解消し、患者からの意見や疑問に
 応えるため、先月7日、「患者の声相談窓口」を開設いたしました。開設当初から多くの
 反響を呼びました。これまでに1500件近い相談が窓口に寄せられております。都民の
 切実な声を、医療従事者の意識改革や、透明性の確保につなげていきたいと思っておりま
 す。
  都立病院では、医療機能の見直しや経営効率の向上が喫緊の課題となっております。こ
 の夏に答申を受ける都立病院改革会議の検討結果を踏まえ、具体的な改革に着手いたしま
 す。
  こうした取組みを通じて、「東京発の医療改革」を精力的に推進いたしたいと思ってお
 ります。
  福祉の分野では、大都市の特性に合わせて、国の基準や規制を見直した東京独自の認証
 保育所が、この夏にも開設できる見込みとなりました。事業者、利用者双方から高い関心
 をすでに集めており、今後、都市型保育の新しいモデルになるものと考えております。
  東京都は、これまで、医療と福祉に関する一連のプランを策定し、改革に向けた布石を
 打ってまいりました。今年は、実行の年として、都民が変化を実感できる政策を確実に進
 めながら、さらなる改革に取り組んでまいります。
 (都市産業としての観光政策の充実)
  観光は、世界の主要国、主要都市が力を入れて取り組んでいる産業であります。関連す
 る産業のすそ野も広く、観光産業の成長は、経済の発展に大きな役割を果たします。
  しかし、海外から東京を訪れる観光客は年間3百万人に満たず、6百万人を超える観光
 客を集める東京の仮想競争都市ニューヨークにも、遠く及びません。GDPに占める観光
 収入の割合も、我が国は、世界の主要国の中で最低の水準にとどまっております。
  これからは、東京の産業を活性化し、同時に都市としての魅力を高めるため、産業政策
 の新しい柱として、観光の一層の振興に努力をいたします。目指すべき目標は、東京の集
 客力を高めることであり、そのために必要な方策を盛り込んだ「観光産業振興プラン」の
 素案を近く発表いたします。
  来年開催されるワールドカップは、東京にとっても、多くの観光客を呼び込む絶好の機
 会となります。こうした好機をシティセールスの場として最大に活用できるよう、素案の
 中では、外国語による標識や観光情報の充実、観光ボランティアの育成など、早急に取り
 組むべき事業を数多く示す予定であります。観光資源の開発やコンベンションの誘致とい
 った観光産業の振興策についても、具体的な事業内容を打ち出します。
  観光は、都民、民間企業、区市町村などと広く連携しない限り、大きな発展を望むこと
 は不可能であります。関係者の意識が高まるよう、素案について積極的に意見を求めなが
 ら、この秋に最終的プランを取りまとめます。
 (教科書の適正な採択)
  高名な歴史学者トインビーは、主著「歴史の研究」の中で、国家衰退の決定的要因は、
 国家が自己決定能力を欠くことにあると記しております。
  国家ばかりでなく、決めるべき立場にある組織や人が決断を放棄したとき、それは自ら
 の存在価値を自ら否定することになります。教育の現場では、まさにそのような事態が発
 生しております。すなわち、教科書の採択は、教育委員会の重要な役割でありながら、下
 部組織からの報告をそのまま追認するなど、職責を十分果たしているとは言えない教育委
 員会が多く存在しております。
  教育委員会は、責任の重さを能く能く自覚し、これまでの対応を改める必要があります。
 今年は、8月までに新学習指導要領に基づく新しい教科書を採択することになっており、
 この2か月が非常に大切な時期となります。
  東京都教育委員会では、現在、新しい教科書について、内容、構成、表現などの点で、
 教科書ごとの違いが明確に分かるよう、調査研究を進めております。近く、その結果を
 「教科書調査研究資料」として取りまとめ、公表する予定であります。
  区市町村の教育委員会には、東京都の資料を有効に活用しながら、適正かつ公正に教科
 書を採択されることを、強く要請いたします。
3 将来を展望した戦略的取組み
 (財政再建の継続)
  財政再建は、就任以来変わらぬ最重要課題の一つであります。
  この間、職員給与の削減や外形標準課税の導入を実現し、財源不足額を圧縮するなど、
 一定の成果を収めることができたと考えております。
  しかし、12年度決算においても3年連続の赤字は避けられない状況であり、財政再建
 の歩みを止めれば、毎年度2千億から3千億円の赤字が発生し、財政構造は悪化の一途を
 たどることになります。
  都財政の厳しい状況を考えた場合、引き続き構造改革を推進して財源不足を早期に解消
 するとともに、施策のスクラップ・アンド・ビルドを徹底することが不可欠であります。
 財政再建が達成できるまで、さらなる努力を重ねます。
  よろしくご協力をお願いいたします。
 (重要施策の選定)
  一方、最近の都庁では、財政危機を過剰に意識し、一律に経費を削減しようとするあま
 り、新しい施策を生み出したり、既定の事業を積極的に再構築しようとする前衛的な気概
 が、失われようとしております。財政再建と重要な施策の積極的展開は、決して相容れな
 いものではありません。今為すべきことは、政策論議を活発に行うことで、首都東京にと
 って必要な事業を厳しく見極め、果敢に実行することであります。
  このため、予算査定に先立ち、来年度重点的に取り組む優先度の高い施策を「重要施策」
 として選定することにいたしました。近く基本方針を示し、庁内に新しい考え方を徹底い
 たします。重要施策に位置づけた事業には、予算や人員を優先的に措置し、総力をあげて
 取り組みたいと思います。重要施策の選定を通して、都政がどのような分野に重点を置く
 のか、東京の進む方向を明確にいたします。
4 アジア大都市との実効ある連携
  今世紀、アジアが、国際社会の中で重要な役割を果たしていくために、東京は、「アジ
 ア大都市ネットワーク21」の構築を提唱しております。ネットワークが形成されれば、
 東京は、アジアの大都市とともに、新技術・新製品の開発や、産業の育成、都市問題の解
 決、新しい文化の創造などを進めることができます。
  すでにバンコク、北京、台北などアジアの各地域を代表する10以上の都市が参加を表
 明しており、10月に、東京で第1回本会議を開催いたします。来週には、本会議に先立
 ち、デリーなど共同提唱都市との間で実務者会議を開き、共同で取り組む事業や運営方針
 などを協議する予定であります。
  アジアにおける新たな連携を通じて、実りのある都市外交を展開したいと考えておりま
 す。
5 おわりに
  皆様にとりましては、本議会が、現任期における最後の定例会となります。
  ともに都民の負託を受けた政治家として、皆様とは、2年余にわたり、幅広い分野で非
 常に活発な議論を重ねることができました。時には、侃々諤々の論に発展することもあり
 ましたが、それは、お互いの熱き思いを腹蔵なくぶつけ合えた何よりの証左であり、そこ
 から、新しい友情を育むこともできたと感じております。
  議会審議を通じて、いくつもの有益な政策を生み出すことができました。東京の発展に
 ご尽力された皆様方に、心より感謝をいたします。
  現任期を最後に、20名近くの方々が、政治の第一線から退く予定であると伺っており
 ます。これまでのご労苦に対し、都民を代表して、改めて深く敬意を表します。
  改めて都民の信を問うことになる方々には、心よりのご健闘をお祈りいたします。
  なお、本定例会には、条例案18件など合わせて28件の議案を提出しております。よ
 ろしくご審議をお願い申し上げます。
  以上をもちまして、私の所信表明を終わります。ありがとうございました。