石原知事施政方針

平成13年9月20日更新
平成13年9月19日
          平成13年第三回都議会定例会 知事所信表明
 都議会議員選挙後最初の定例会となる平成13年第三回都議会定例会の開会にあたり、都政運営に
対する所信を申し述べ、都議会並びに都民の皆様のご理解とご協力を得たいと思います。
1 テロへの強い憤り
 今月11日、アメリカの心臓部であるニューヨークとワシントンを襲った同時多発テロは、平和な
社会で起きた最悪の惨事となり、今なお数千人にのぼる一般市民の行方不明のままであります。一週
間以上が経過しながら、未だに被害の全貌を把握することができず、全世界に計り知れない衝撃と戦
慄を与えております。人々は、深い悲しみの中に沈み、凶悪な犯行に対する強い怒りは、政治的立場
や思想、信条、国境を超えた共通の思いとなっております。
 私は、たまたまワシントンDCで事件に遭遇し、厳戒態勢の中、3日間にわたり足止めを強いられ
ました。強いアメリカの象徴であった国防総省ペンタゴンは、前日に訪問した時とは一変して、半ば
廃虚と見紛うほどの無惨な姿をさらけ出し、2日に及んで多量の煙が目の前の空を覆っておりました。
多くの人命が奪われ、政治、経済が一瞬にして機能を麻痺する惨状を身を以て体験し、首都の知事と
して、強い衝撃を受け、多くの教訓を得ました。
 我々は、テロを断固許すことなく、その根絶に力を合わせる必要があります。アメリカ及び姉妹都
市ニューヨークには、都議会の皆様とともに、できるだけの支援を行いたいと思っております。
 お亡くなりになった方々に対し、深く哀悼の意を表し、心からご冥福をお祈りいたします。
 一方、東京では、今月1日未明、新宿歌舞伎町のビルで火災が発生し、44名の方々が命を失う悲
痛な結末となりました。お亡くなりになりました方々に、深く哀悼の意を表し、心からご冥福をお祈
りいたします。
 現在、消防を中心に区市町村などと連携して、4千棟のビルを対象とした緊急特別査察を進めてお
ります。誰もが安心して暮らせるまちとするため、防火対策を徹底いたします。
 7月20日には、中学生原優介君が、多摩川で溺れている友人を救おうとして力尽き、13歳の若
い命を落とされました。
 自らの危険を顧みず友人の救助に向かった勇気あふれる行為が、無念の結果をもたらしたことは、
誠に痛ましい限りであり、都民を代表して、顕彰させていただきました。
 ここに深く哀悼の意を表し、心からご冥福をお祈りいたします。
2 文明の転換期を迎えて
(危機の根底に流れる国家と国民の変質)
 百数十年前、我が国は、欧米の列強がしのぎを削る世界の荒波の中へ船出をいたしました。爾来、
世界でも比類のない国民の勤勉性を支えとして、度重なる逆境を克服しながら、奇跡と呼ばれるほど
の発展を遂げてまいりました。
 しかし、戦後半世紀にわたる平和と繁栄の中で、人々は豊かで贅沢な暮らしに慣れるあまり、地道
な活動を軽んじ、株や不動産を一攫千金の対象とするような安易な風潮が蔓延いたしました。その上
さらに、バブルが崩壊した後の対応の失敗が、今なお我が国経済に深い傷を残しております。
 時代の変遷とともに、国民の気質も変化し、社会の規律を形成していた我が国固有の価値の基軸が
消えようとしております。かつての日本人は、職人気質という言葉に表象されるように、責任感や克
己心、仕事へのこだわりといった矜持を当然の気風として備えておりました。それがいつしか、難し
いことには目を向けようとせず、今が楽しければそれで満足する、非常に享楽的で刹那的な、かつ場
当たりな行動ばかりが目立つようになりました。他人に対する無関心や自己中心的な考えは、無分別
な行動を容認し、少年非行や凶悪犯罪の温床となっております。
 こうした状況が複合的、重層的に重なり、我が国は、今や戦後最悪の危機に直面しております。
 世界に目を転じると、文明の悪しき副産物である環境問題は、地球全体に広がり、生命の維持に不
可欠な循環のサイクルが次々に破壊されております。先進国は人口の減少に悩む一方で、発展途上国
は爆発的な人口増加を続けるなど、解決の糸口すら見えない問題が世界の矛盾を拡大しております。
異なる文明の衝突は、先般のテロのように大きな歪みとなって惨事を引き起こしており、現代文明は、
明らかに転換期の中にあります。
 世界は今、法の存在しない暗黒の地に転げ落ちてしまうか、それとも理性が通用する社会に踏みと
どまることができるのか、瀬戸際にまで追いつめられております。
(存在をかけた取組み)
 我々は、このような事態を率直に受け止め、その上で進むべき選択をする必要があります。
 これまでの社会は、経済成長を価値判断の最大の基準に置き、どのようにすれば豊富な物質に囲ま
れた便利な生活が実現するかに大きな関心を払ってまいりました。
 しかし、地球環境の悪化が端的に示すとおり、20世紀を支配した発想は行き詰まり、豊かさを追
求する生活スタイルは、その代償として、我々の存在自体を脅かすまでになろうとしております。成
長は未来永劫に続くものではなく、地球は無理な負荷には耐えられない繊細な生命体であることを、
認識する必要があります。
 誰もがこの状況を正しく理解すれば、我慢することの必要性や耐えることの大切さが共通の認識と
して浸透し、節度をわきまえた社会が実現できると思います。それこそが、危機の根を断ち切る力と
なります。
 こうした価値観の転換は容易に実現するものではありませんが、そこにこそ、有力な社会的方法と
しての政治の存在の意味があると考えます。これは、国家の土台を守り、人類の存亡に直結する取組
みであります。国民のリーダーたる政治家に、その自覚と、困難を乗り越えてでもやり抜く覚悟があ
れば、国民の理解は必ず得られるはずであります。
 私は、失われた価値の基軸を回復し、社会の安定を取り戻すため、東京を預かる政治家として、率
先して行動したいと思います。都議会の皆様とともに、東京を変えることで、日本を変え、世界にも
問題提起をしたいと思います。
3 都政運営の基本姿勢
(日本再生につながる東京再生の実現)
 以上のような時代認識の下、この先は、危機意識の徹底などこれまでの基本姿勢に、さらに次の2
点を加えて都政運営を進めてまいります。
 第一は、日本の再生につながる東京の再生を実現することであります。
 文明の揺籃期、人々は、効率的な活動の基盤や刺激あるいは夢を求めて集まり、都市を形成いたし
ました。国家が成長する過程で、都市には相乗的に人材、資本、技術、情報が集中し、都市は国家よ
りも速く発展を遂げました。都市への集中、集積は、文明の進展に伴う歴史の公理であり、社会活力
の源泉でもあります。
 それが今、文明の転換期を迎えて、国家の成長を支えた都市が大きく病んでおります。とりわけ東
京は、大気汚染や交通渋滞など、他の地域とは比較にならない深刻な問題を抱えております。
 我が国はこれまで、国土の均衡ある発展を基本とし、地方の振興策はあっても、大都市を重要視す
る政策はまったくと言っていいほどありませんでした。しかし、都市特有の問題が発生し、それが国
家の命運を左右しかねない危機的状況の中で、全国を一律に束ねようとするような政策が破綻するこ
とは、誰の目にも明らかであります。
 東京は、我が国最大の都市として、大きな影響力を持っております。東京の活性化こそが全国を活
性化させるのであり、東京において、環境対策や防災対策、交通政策が成功すれば、全国共通のフォ
ーマットとなり得ます。
 今必要なことは、東京を核とする首都圏に焦点を当てた再生策を打ち出し、それを我が国の危機克
服の起爆剤とすることであります。
 国はようやく都市の再生を重点分野に位置づけましたが、極めてまだ動きの鈍い国に任せているだ
けでは、非常に心許ない状況にあります。東京は、国に先んじて行動することで、国も動かざるを得
ないような場面を次々と作り出し、都市再生の範を示したいと思います。
 1日も早く東京を再生し、それを首都圏の再生、日本の再生につなげていきたいと考えております。
(都庁の本質の改革)
 第二は、都庁の本質を変えることであります。
 これまで長い間、官公庁では、前例の踏襲、安定性・継続性の重視など、社会一般とは別の価値観
が組織を支配しておりました。例えば、都民から預かっている公金に関して、金利の観念がまったく
欠落しておりました。さらに、それを運用して行う事業にどの程度のリスクがあるのかを考えること
もなく、民間ではとても通用しない極めて甘い見通しの下で事業を進めております。すなわち、保障、
あるいは保険といった観念も金利と同様欠落しているのであります。
 その結果、時代の変化を敏感に察知することができず、社会の動きから一歩も二歩も取り残された
存在となっておりました。
 都庁も決してその例外ではなく、巨大な組織を活かしきれないまま、多くの無駄が発生しておりま
した。行政改革は喫緊の課題であり、この2年間は、職員の意識改革を通じて組織を再生することを
主眼に置き、都庁の改革を着実に進めてまいりました。
 これまでの取組みによって、職員に危機意識が浸透するなど、かなりの改善も見受けられます。し
かし一方では、まだまだ観念が先行し、具体的な行動がなかなか伴わないなど、不十分な点も多く残
っております。
 今後職員には、政策の成果を目に見える形で都民に還元することを厳しく求めてまいりたいと思い
ます。都民に信頼される都政を築くには、職員一人ひとりが経営者の視点を持ち、「スピード感覚」
「コスト意識」「チャレンジ精神」を発揮しながら果敢に実行する必要があります。
 職員の意識を改革するのは、実際に現場を体験させることが一番確実な道であります。
 昨年来取り組んできている不正軽油の摘発は、これまでの都庁の職域を超え、社会の悪と直接対決
することが求められる非常に困難な、かつまた危険な職務でもあります。現在進めているカラス対策
も、庁内からプロジェクトチームの人員を公募し、興味と意欲ある職員に斬新なアイディアを求める
試みであります。こうした新しい取組みを積み重ねることで、都庁の本質を変えていきたいと思って
おります。
4 首都東京の安全の確保
(危機管理の強化)
 このたびの同時多発テロでは、高度な文明も、理不尽な原始的暴力の前には、非常に脆い存在であ
ることが明らかになりました。
 危機管理については日本の数段上を行くはずのアメリカでさえテロの攻撃を防げなかった中、我が
国の危機管理は、残念ながら、寒心に堪えないと言わざるを得ません。危機管理は、被害を受けてか
ら慌てても、もはや手遅れでしかなく、日頃の万全の備えがあって初めて、実を結ぶことになります。
平和や安全は、当たり前に存在するのではなく、我々が命がけで守り抜く対象であることを認識し直
す必要があります。
 都民の生命と安全を守るためには、今回の事件から多くを学び、東京の危機管理能力を向上させる
ことが不可欠であります。国に対し、危機管理の充実を強く求めるとともに、七都県市による首都機
能のバックアップ体制の確立、警備体制の強化など独自の取組みを進めてまいります。
(都民の安心と安全の確保)
 良好な治安は、我が国が誇る大きな長所でありましたが、最近の国の世論調査では、治安に対する
国民の不安が顕著に高まっております。世界中が称賛した日本の安全神話は、もはや過去の伝説とな
りつつあります。
 東京では特に治安の悪化が深刻であり、パソコンや携帯電話を悪用したハイテク犯罪、不良外国人
のグループと暴力団が結託した組織犯罪、路上での凶暴な少年犯罪などが、近年、目に余る事態とな
っております。
 犯罪の増加に伴い、留置人員は、この10年間で、外国人に限っても8倍以上、全体でも3倍近く
にまで増加しており、留置場の不足は極めて深刻な問題であります。現在、多額の経費を費やすこと
なく、できればPFI方式で留置場を増設するよう検討を進めております。
 凶悪な事件ばかりでなく、消費生活のトラブルにより、都民から寄せられる相談件数も大きく増加
しております。
 悪質商法による被害が後を断たない中、7月には、被害の拡大を予防するため、消費生活条例に基
づき、極めて悪質な事業者2社を全国で初めて公表、告発いたしました。今後も、市場のルールを逸
脱した行為には断固たる措置を講じることで、善良な都民の生活を守ってまいります。
 東京の犯罪は、量的な増加だけでなく、質的にも明らかな変化を示しております。豊かな社会ゆえ
に発生する新しい類の都市型犯罪から都民を守るため、警察と連携しながら、都民の安心、安全を取
り戻したいと思っております。
(防災対策の充実)
 昨年発生した伊豆諸島の地震、噴火は、我々に、自然の脅威をまざまざと見せつけました。
 とりわけ三宅島では、今なお多量の有毒ガスが発生しており、全島民が、1年以上の長期にわたり、
島外への退避を余儀なくされております。東京都は、島民の方々から強い要望のある一時帰宅の実現
に向け準備を進めておりましたが、爆発の危険性が低下し、ガスなどに対する安全が確保できたこと
から、一昨日、一時帰宅を開始いたしました。無事に一時帰宅が終了するよう、関係機関と協力し、
万全の体制で取り組んでまいります。
 火山活動が沈静化した段階で、1日も早く島民が帰島できるよう、明後日、現地対策本部を神津島
から三宅島に戻し、復旧作業を本格的に進めたいと思っております。
 伊豆諸島ばかりでなく、東京は、いつ直下型の大地震に襲われても不思議でない危険な状況の中に
あります。災害への対応力を高め、住民の防災意識を喚起することは、行政の重要な役割であります。
万一の際、十全の行動がとれるかどうかは、日頃の備えにかかっており、東京都は、防災訓練の充実
に一貫して取り組んでおります。
 昨年の9月には、自衛隊の本格的な参加を得た極めて実践的な防災訓練を行い、今年7月には、災
害時の指令基地となる各機関の本部運営訓練をかつてない規模で実施いたしました。こうした訓練は、
大きな成果を上げておりますが、ITを活用した情報の共有化、区市町村との連携などの点で、今後
取り組むべき課題も明らかになっております。
 今月1日、多摩地域を中心に実施した総合防災訓練「ビッグレスキュー東京2001」では、こう
した点を補強するため、新たな視点として、地元自治体との連携や地域住民の訓練活動を充実いたし
ました。
 また今回は、米軍の協力を得て、横田飛行場と赤坂プレスセンターの2か所の米軍基地を全国で初
めて防災訓練に活用することができました。横田飛行場は、羽田空港と並ぶ広域輸送拠点として非常
に重要な役割を果たすことが、訓練を通じて実証されたと思います。
 災害時の被害を最小限に抑えるためには、横田飛行場をはじめとする広大な米軍基地を活用するこ
とが、我が国にとって是非とも必要であります。国に対しては、国策として、米軍基地を災害時の防
災活動拠点に組み込むことを強く建言いたします。
 今年の訓練は、これまでの取組みの一つの集大成となり、東京の防災能力を大きく高めることがで
きました。この2年間で学んだ成果は、都市災害に対するフォーマットとして、国や他の自治体に積
極的に提供していきたいと思います。
5 首都圏再生の強力な推進
(都市再生プロジェクトの始動)
 東京は、首都圏の再生を、最優先で取り組む国家プロジェクトとするよう、国に対して、繰り返し
訴えてまいりました。強力な推進体制を敷くため、国と首都圏を構成する七都県市が共同して常設の
組織を設置することも、併せて提案しております。まもなく実現すると思います。東京の意欲的な行
動は、国の都市再生本部の設置とその後のプロジェクトの選定となって実を結び、先日の国土交通大
臣との会談でも、一致協力することで、強い合意が形成できました。焦眉の急となっている首都圏の
再生は、ようやく動き始めていると思います。
 先月決定された国の第2次プロジェクトに、羽田空港の再拡張と首都圏3環状道路の整備が盛り込
まれたことは、この先非常に大きな国益をもたらすことになると考えております。
 ただし、国は、再拡張が終了した後に羽田空港の国際化を進める考えであり、それでは、逼迫した
国際線の需要には、到底応えることができません。国に対しては、朝と夜に残る未利用枠を活用し、
国際化を速やかに進めることを強く要求してまいります。
 首都圏の空のアクセスは、新宿から30キロの距離にあり、交通網も既に整備されている横田飛行
場を利用できれば、格段に向上いたします。横田飛行場は、当面の措置として、軍民共用化すること
を建言します。先の訪米では、国防総省、国務省の要人の多くと面談して、今後の日米関係を基軸に
意見交換し、横田飛行場についての考えも説明いたしました。
 環状道路については、平成19年度までに暫定的な環状機能を確保するとの方向が示されました。
東京都は、外かん道の東京区間と首都高速の中央環状品川線が1日も早く工事に着手できるよう、地
元との対話を精力的に進めております。国には、不退転の決意で取り組み、計画どおり整備を進める
ことを強く要望してまいります。
 東京都は、このほかにも交通渋滞の解消に向け、本年4月JR中央線の連続立体交差の工事に着手
したほか、今年度中には京浜急行線でも工事に着手する予定であり、積極的に都市基盤を整備してお
ります。
(新しい制度と財源の導入)
 こうした事業は、いずれも急を要するものであり、同時に、多額の経費を必要とするものでありま
す。
 財源を確保する新しい手法としては、国に対して、かねてより、都市基盤整備のための無利子貸付
制度の導入を求めております。国と地方が一体となって事業に取り組む基盤を築くためにも、早急に
実施すべきものであると思います。
 道路特定財源もまた、首都圏の交通問題を解決する上で有用な財源となり得るものであります。道
路特定財源は、本来、受益者負担の原則により、道路の利用者が税を通じて整備費用を負担する制度
であります。しかし、首都圏では、負担額のおよそ半分しか整備費が配分されず、非常に不合理で不
公平な実態となっております。
 道路特定財源の見直しが来年度予算の概算要求基準に明記されたのも、東京都が指摘したとおり、
この問題がもはや抜き差しならぬ段階に立ち至っていることを、国もようやく認めたからに他なりま
せん。
 見直しにあたっては、一般財源化するのではなく、負担額に応じた配分額とするようにルールを定
め、首都圏への配分割合を拡大することを強く求めてまいります。加えて、より一層利用しやすい制
度とするために、財源の充当をできる事業を拡大することも要求いたします。
 国の都市再生の第2次プロジェクトは、このほか、南青山一丁目の都営住宅の建替えを選定いたし
ました。この事業は、都営住宅や民間住宅、公共施設等を民間事業者が一体的に整備するもので、全
国でも初めての取組みであります。都心の公共用地を有効に活用して、民間から貸付料を受け取り、
同時に快適な生活環境を提供する、都心居住のモデル事業になると思います。
 東京都は、6月の段階で先行して決定された第1次プロジェクトでも、中心的な役割を担っており
ます。
 ゴミゼロ型都市の再構築に向けた動きの中では、民間の力を活用して、PCB処理施設、ガス化溶
融発電施設などを臨海部に整備したいと考えております。広域防災拠点については、臨海副都心の中
に基幹施設が整備されるよう働きかけてまいります。
 都市再生プロジェクトを成功させるには、従来の発想を超える取組みが必要であります。国に対し
ては、法律の改正、財源配分の見直しなど、新しい制度を導入し、国費を重点的、集中的に投入する
ことを強く要求いたします。
(首都圏の情報戦略)
 首都圏の再生に必要な国の取組みのうち、最も遅れているのが、情報戦略であります。超高速イン
ターネット網の普及は、シンガポールや韓国に大きく遅れを取っており、情報基盤の整備は、我が国
がアジアの情報拠点となる上で、欠かすことのできない要件であります。3月に国に提言した、5か
年間で10兆円のプロジェクトの中でも、投資効果の高い首都圏に集中的にIT予算を投入すること
を訴えましたが、国からは、未だに明確な方策が何一つ示されておりません。
 東京都は、独自に首都圏の電子都市化を促進するため、近く、有識者による懇談会を設置し、世界
最高レベルの光ファイバー網の構築、秋葉原のIT拠点化などを具体化していきたいと考えておりま
す。
(新たな広域的自治体のあり方)
 首都圏は、日本の最先端を走る地として、世界が注目する多種多様の技術や産業が集積し、3300
万の人が一体となった巨大な生活圏を形成しております。その一方、相互の連携が不十分であるため、
大気汚染や交通渋滞が行政区域を超えて広がり、先送りできない問題を数多く抱えております。
 首都圏の自治体には、立地条件、文化的背景など多くの共通基盤があり、連携を深めることで、高
い利益が生まれます。
 例えば、ディーゼル車に対する規制は、首都圏七都県市で統一基準を設けることにより、効果的な
規制や事業者の負担の緩和が期待できます。道路特定財源の配分割合の見直しは、同一歩調をとるこ
とで、国に強い圧力をかけることができます。また、水は、管轄を超えた相互融通がこれまでほとん
どなく、近隣の自治体との間で送水管が整備できれば、災害などの非常時において、水への安心を格
段に高めることができます。
 近く、首都圏の新しい広域的自治体のあり方について、共同で取り組むべき事業をいくつか盛り込
んだ提案を行いたいと思っております。
(首都移転に対する断固反対)
 多くの危機に晒されている我が国には、国家の存亡をかけた課題が山積しており、首都移転に、膨
大な時間、経費、労力を費やす余裕などまったく存在しないはずであります。
 然るに国会は、東京や移転候補地を視察するなど、未だに移転作業を愚かしくも続けております。
バブルの時期に思いついた開発の数々が、不良債権の山となって国民に重くのしかかり、今日の低迷
を招いているにもかかわらず、国は、何の反省もなく、巨大プロジェクトを未だに進めようとしてお
ります。このままでは、さらに膨大な負債を国民に押し付けかねない状況であります。
 国家を再生するには、政治、経済の中枢機能が一体となって集積している首都圏を最大限に活かす
ことが不可欠であります。これは、東京のみならず、首都圏七都県市の一致した意見であります。し
かし、国には首都圏の重要性についての認識が未だに欠落しており、国家経綸の哲学がまったくない
としか言いようがありません。
 首都移転がいかに愚かな行為であるかを国民に正しく伝えることは、東京の責務であり、移転を阻
止することは、国民の負担を大きく軽減することにつながります。移転がもたらす悪影響を客観的、
総合的に実証し、来月にはその調査結果を広く公表したいと考えております。
 皆さん、首都移転の白紙撤回に向け、ともに闘おうではありませんか。都議会の協力を強く期待し
ております。
6 道半ばの財政再建
(将来に懸念を抱える都財政)
 首都東京が再生するには、その基盤として、強固な財政体質を構築することが不可欠であります。
 東京都は、巨額の赤字を抱え、崩壊寸前にあった財政を建て直すための、現在、全庁を挙げての、
財政構造の改革に取り組んでおります。
 これまで、財政再建団体転落という最悪の事態は何とか回避してきたものの、昨年度は3年連続と
なる赤字決算になりました。経常収支比率などの指標も健全な水準からはまだ程遠く、財政再建は、
まだまだ道半ばであることが改めて浮き彫りになりました。
 しかも、都債残高は7兆4千億を超え、平成15年度には償還費だけで8千億の財源を確保する必
要があります。2年前、「財政再建推進プラン」を策定した時点では明らかになっていなかった、市
街地再開発の事業の欠損金など、いわゆる「隠れ借金」も1兆円に迫っており、将来の圧迫要因が重
く存在しております。
(かつてなく厳しい財政環境)
 その上、我が国経済には、5%を超えた失業率、歯止めのかからない株価の下落など、2年前とは
比較にならない悪条件が重なっております。平成13年度第一四半期のGDPは、年率換算で3.2
%となるマイナスを記録し、このままでは、今年度は、政府見通しである1.7%の成長はおろか、
プラスを維持することすら非常に困難であると思われます。アメリカ経済が失速し、救世主のいない
世界経済は、今回のテロの後遺症もあり、このまま同時大不況に陥る懸念が、高まっております。
 なかなか進展しない構造改革も将来に対する不安材料となっております。ITバブル崩壊の影響を
受け、電機産業をはじめ企業の業績は軒並み急激に悪化しており、来年度以降の都税収入は、再び減
少に転じることは覚悟しなければなりません。
 かつて経験したことのない極めて厳しい環境の中、財政再建推進プランの内容以上にシビアに取り
組まなければ、都財政は破綻を免れ得ない状態にあることを、誰もが強く認識する必要があります。
東京の再生を実現するため、より一層の財政構造の改革に取り組んでまいります。
(構造改革に不可欠な取組み)
 構造改革には、改めて申し上げるまでもなく、歳入歳出両面からさらに徹底して見直すことが不可
欠であります。
 何よりも、都庁自らが都民とともに痛みを分かち合うことが必要であり、今後とも、全庁を挙げて、
厳しい内部努力に努めてまいります。また、使用料、手数料は、受益者負担を適正化するため、改善
すべきものは速やかに見直したいと考えております。
 これからが正念場であり、あらゆる措置を講じて、財政再建を実現したいと思います。皆様のご理
解とご協力をよろしくお願いいたします。
 臨海副都心の開発を支える臨海地域開発事業会計の見直しも避けて通ることのできない課題であり
ます。
 臨海副都心は、職・住・学・遊の機能が複合した魅力のあふれる未来型の街として、大きく成長す
る可能性を持っております。そのためには、都庁一丸となって大胆に事業を見直し、収支を長期的に
安定させる必要があります。今後さらに財政基盤を強化するため、土地の売却と効率的運用を積極的
に推進し、経費についても大幅な削減に取り組んでいきたいと考えております。
 国に対しても大きな影響を与えた「東京都税制調査会」は、一昨日から、今年度の活動を開始いた
しました。今回は、大都市財源のあり方と東京に必要な政策税制について、具体的な検討を行う予定
であります。
 税制調査会を大いに活用しながら、時機を逸することなく行動し、地方主権の時代にふさわしい税
財政制度の実現を国に迫っていきたいと思います。
7 都政の重要課題への対応
(重要施策の立案)
 閉塞感漂う不透明な時代にあって、知事として果たすべき責任は、都政がこの先何に重点を置き、
どの方向に進もうとしているのか、明確なビジョンを示すことにあると思います。
 来年度の都政の重点課題を明らかにするため、新しく取組みを開始した「重要施策」の立案は、現
在、首都圏の再生や都民生活の不安の解消といった視点から、庁内で検討が続いております。スクラ
ップ・アンド・ビルドを徹底することで行政の肥大化を防ぎ、新規事業にも積極的に光を当てていき
たいと思います。また、民間企業との積極的な連携、首都圏の自治体との共同事業化など、手法の点
においても、先進的な取組みにチャレンジしたいと思っております。
 予算査定に先立ち、全体を集約する予定であります。重要施策として選定した事業には、予算、人
員を優先的に配置し、万全の体制で実行することで、都民の希求に応えていきたいと思います。
(観光産業の育成に向けた取組み)
 文明が成熟し、人々の欲求が高まるにつれ、異なる文化圏との交流、遠方への移動が活発化するの
は、必然的な推移であり、観光は、今世紀、大きな成長が確実な産業であります。
 今後、都市や国家が人を惹きつける魅力を持つ上で、観光産業の発展は、欠かすことのできない条
件であります。しかし、我が国は、この点の現状認識が非常に希薄であり、そのため、外国に向けて、
効果的な観光政策を打ち出すこともまったくありませんでした。
 日本を訪れる外国人旅行者は、海外に出かける日本人の4分の1に留まり、国家レベルでの観光客
誘致は一向に進みませんが、東京は、先頭に立って観光産業を育成し、観光客の増加を目指したいと
思います。
 そのためには、既成概念に囚われない活性化策を実施する必要があります。
 例えばカジノは、知的な駆け引きを楽しみながら非日常的な時間、空間を演出する優れて都会的な
娯楽であります。雇用対策としても大きな効果があり、産業、雇用の分野における構造改革の呼び水
となり得るものであります。実現には、法制度の整備が必要であり、国に対し、強く働きかけてまい
ります。
 一方では、東京は、奥多摩と島しょに豊かな自然を抱えております。特に、東洋のガラパゴスとも
呼ばれている小笠原は、自然保護と観光をうまく両立することができれば、他にない魅力を発揮する
ことができます。
 小笠原への観光の振興と島民の生活の安定を図るため、新しい足として、高速船テクノスーパーラ
イナーの就航を実現させたいと考えております。航空路の開設については、費用、環境面から検討し、
関係機関と協議を進めております。
 このたび策定した「観光産業振興プラン」の素案は、これからの観光振興の議論のたたき台として
取りまとめたものであります。広く各方面からの意見をいただき、年内にはプランを確定し、国にも
働きかけながら、積極的に観光振興に取り組んでまいります。
(緊急雇用・経済 東京プロジェクト)
 観光の振興は大きな経済効果をもたらしますが、最悪の失業率となった雇用情勢や景気の落ち込み
を考えた場合、即効性の高い対策が必要であり、先般、緊急の雇用、経済対策を国に先がけて開始い
たしました。
 新しい雇用対策としては、来月、産業界、教育機関と共同で、新規卒業予定者やいわゆるフリータ
ーを対象とした、若年者向け合同就職説明会を初めて開催いたします。中高年の離職者向けには、IT
訓練やホームヘルパーの養成研修などを追加して実施いたします。
 中小企業に対しては、制度融資を拡充し、3千億円の融資を増加するほか、連鎖倒産の防止や資金
調達の多様化を目指した法改正を国に働きかけてまいります。
 庁内に雇用と経営の緊急相談窓口を設置するなど、相談業務も含め、様々な雇用対策、経済対策を
講じながら、都民の就労や中小企業の業績の回復を支援したいと思います。
(ディーゼル車規制の広がり)
 自動車は現代の生活になくてはならない存在でありますが、その一方では、大都市を中心に深刻な
大気汚染をもたらしております。わけてもディーゼル車の排気ガスは、都内の窒素酸化物の5割、浮
遊粒子状物質の4割を占め、都市環境に大きな負荷を与えております。
 東京都はこれまで、「ディーゼル車NO作戦」を展開し、都民や事業者、国に対し、ディーゼル車
の使用を規制し、利用のあり方を改めるよう働きかけてまいりました。
 昨年12月には、全国で最も厳しい内容となる環境確保条例を制定し、今月10日、条例に基づき、
粒子状物質減少装置の第一回目の指定を行いました。指定した減少装置を購入する事業者に対しては、
来年度までの2か年にわたり補助を行い、装置の普及に努めます。また、低公害車の普及を促すため、
天然ガスを使用するトラックにも補助を行うことを本日、決定いたしました。排気ガスを削減するに
は、低硫黄軽油の普及も欠かすことのできない要件であり、現在、独自の助成制度を設け供給を促進
しております。
 こうした東京都の先進的な取組みは、国内外でも世論を形成し、全国にディーゼル車規制を広げる
大きな原動力となってまいりました。国は、ようやく東京都の提案を受け入れ、低硫黄軽油の導入を
決定したのをはじめ、この6月には自動車NOx法を改正し、粒子状物質を規制の対象に初めて加え
るなど、いくつもの規制を大幅に強化するようになりました。
 今後も、規制を加えるだけでなく、不正軽油の摘発、道路整備による渋滞解消といった施策を有機
的に結合し、自動車のもたらす大気汚染をできるだけ軽減してまいります。
(次の世代を育てる教育)
 次いで大学は、学校教育の最終の到達点であるにもかかわらず、多くの学生は、学問の場でなしに、
社交場としてはき違えているように思えてなりません。その責任は、学生ばかりでなく、魅力のある
学問を提供できなかった大学側にもあります。東京の教育を建て直す大きな柱として、現在、都立の
大学の改革を進めております。
 大学が有用な人材に門戸を開くには、要領よく知識を暗記する学生ばかりが入学するのではなく、
個性や独創性のある学生を評価する選抜方法に改める必要があります。一方、教育に対する学生の需
要は大きく変化しており、例えば、夜間課程は見直すべき時期を迎えております。大学院においては、
ビジネススクールのように、高度な専門性を備えた人材の養成に期待が高まっております。
 こうした変化を敏感に受け止め、社会をリードする人材を育てる大学とするために、有識者の方々
に、諮問会議の委員として、検討をお願いいたしました。侃々諤々の議論が続けられており、貴重な
ご意見が聞こえてまいります。委員の熱意に接し、改革の決意を改めて強く持ち直しました。
 委員のご意見に耳を傾けながら、早期に大学改革大綱を取りまとめ、東京にふさわしい大学のあり
方を具体的に示したいと思います。
 都立高校の学区制は、生徒の選択の幅を狭め、学校間の競争意欲を低下させるなど弊害が目立って
おります。これまで見直しが進められてきましたが、平成15年度の入学者選抜からは完全に学区制
が撤廃されることになりました。それぞれの高校は、他の学校にない個性を磨き魅力を高めて欲しい
と思います。都立高校を志望する生徒には、よく考え、自分に合った学校を選択することを期待して
おります。
 鋭い感性と豊かな情念を備えた子どもを育成するには、教育機関に加えて、家庭と社会がそれぞれ
の役割と責務を全うすることが求められます。
 社会運動家として有名な賀川豊彦は、子どもには叱られる権利があると述べております。しかし、
最近の家庭は、しつけを含めた子どもの人格形成までを全て学校に依存し、地域は、他人の子どもに
まったく関心を示そうとしません。子どもの教育の最終的責任者はあくまで親であり、周りの大人に
も未熟な子どもを叱る責任があることを、誰もが自覚する必要があります。
 東京都は、消えかけている社会の規範を大人が思い起こし、子どもたちに正義感や倫理観を伝えて
いくため、「心の東京革命」に取り組んでおります。
 来月からは、地域でのリーダーや相談役となる地域アドバイザーの育成を開始いたします。また、
街頭キャンペーンや体験学習を通して運動の趣旨を広め、多くの都民に活動への参加を呼びかけてま
いります。
 引き続き、多方面から教育改革を進め、次の世代を担う子どもの教育と健全な育成に力を注ぎたい
と考えております。
(医療、福祉サービス改革の進展)
 都立病院はこれまで、一般の医療機関では対応が困難な、いわゆる行政的医療ばかりでなく、幅広
い分野でサービスを供給してまいりました。かつて医療機関が不足していた時代から提供していた地
域医療についても、今日に至るまで継続しております。
 しかし、現在では数多くの民間診療所や病院が整備され、大学病院のような高度先進医療機関も集
積するなど、都内の医療環境は大きく発展しております。
 限られた医療資源のもとで、都立病院が急速に変化する医療需要に的確に応えていくためには、各
病院が持つべき守備範囲を定め直す必要があります。行政は、一般の医療機関では対応できない分野
に限定することを基本とし、大学や民間病院、地域の診療所と有機的に連携することで、都民に対す
る医療サービス総体の向上を目指してまいります。
 「都立病院改革会議」からは、この7月、今後の都立病院のあり方について、極めて有益な提言を
受けました。そこでは、都立病院の医療機能の集約や再編整備についての具体的な方策が示されてお
ります。この提言を踏まえ、年内には、「都立病院改革マスタープラン」を策定するつもりでありま
す。
 こうした取組みを通じて都立病院を抜本的に改革し、公立病院の新しいかたちを全国に示していき
たいと思っております。
 医療と同様、福祉の分野でも改革の歩みを着実に進めております。
 先月第1号となる施設が開設した認証保育所は、既に6か所で運営が始まっております。利用者か
らは予想以上の好評を博しており、都民の声に敏感に応えるため、現在の計画を大幅に前倒しして整
備を促進したいと考えております。国や他の大都市に対しても、これからの都市型保育の新しい選択
肢として、先進的な事例が発信できたと信じております。
 一方、ホームレスは、大都市固有の構造的な社会問題となっており、公共施設の占拠、本人の健康
悪化など、様々な問題が発生しております。長引く不況の影響もあり、区部におけるホームレスの数
は、この5年間で2倍近くにまで増えております。
 東京都は、特別区と共同して、緊急保護から社会復帰まで、一貫した自立支援を進めており、昨年
度は自立支援センターを2か所整備いたしました。この11月には、最初の緊急一時保護センターを
開設する予定であります。
 しかし、ホームレス対策は、国が第一義的に責任を負うべき課題であります。抜本的解決に向け、
国の対応を厳しく迫ってまいります。
 最近の福祉の問題は、複雑な背景の中から出現しているものが多く、従来にない対応が求められま
す。都民の要望の本質を見い出し、「福祉改革推進プラン」で掲げた理念を矢継ぎ早に具体化してい
くことで、利用者本位の福祉サービスを展開したいと考えております。
(公平、公正な住宅の供給)
 都営住宅は、都民共通の財産であり、何よりも公平な利用が徹底されなければなりません。しかし、
所得基準を大幅に上回る高額所得者が転出を拒んだり、2世代50年以上にわたって住み続ける世帯
があるなど、到底都民の理解を得られないような実態があります。
 都営住宅の利用機会を拡大し、公平性を確保するには、定期借家権を活用した期限付入居制度に高
い効果が期待できます。
 期限付入居制度を公営住宅で本格的に導入するには法律の改正が必要であり、国には要求を続けて
おりますが、まったく動きが見られません。国が怠慢なため未だに例はありませんが、一部の都営住
宅だけでも期限付入居制度を導入すべきと考え、本定例会に条例改正を提案いたしました。年内には
入居者を募集したいと思っております。
 先般実施した都政モニターアンケートでは、立地条件の良い都営住宅に入居期限を設けることに、
7割以上の賛意を得ました。国に対しては、実績を示しながら、引き続き法改正を強く求めてまいり
ます。
 社会的に立場の弱い高齢者所帯は、アパートの建替えの際に立退きを求められ、住替え先が見つけ
にくいなど、住宅の確保に困難を強いられることが多々あります。
 国は、高齢者向けに10月から、住宅登録制度や家賃保証など新しい制度を導入しますが、そこに
は不十分な点がまだ多く見られます。東京都は、高齢者が安心して居住できる仕組みとするため、国
の制度に入院費の保証などを加えた上で、独自の居住支援を行いたいと考えております。
(アジア大都市ネットワーク21の発足)
 アジアが、今世紀世界の三極の一つとして力を発揮するには、域内の大都市が有形無形の強い共通
項でつながり、全体の牽引役となる必要があります。都市の間では、文化や文明の相違を超え、平和
な社会の実現に向け協力することも可能であります。東京都は、新しい連帯の枠組みとして「アジア
大都市ネットワーク21」の構築を主唱し、率先して行動してまいりました。
 来月、東京で開催される第一回本会議で、いよいよネットワークが正式に発足し、共同して取り組
む具体的事業が決定されることになります。
 会議では、東京からは増加するアジアの航空需要に対応するため、独自の性能を備えた航空機の開
発を提案する予定であります。そのほかにも、ITを活用した都市間での相互遠隔教育、エイズ診療
の共同研修、女性の能力開発などについて、参加都市の間で活発な議論が展開されることと思います。
 アジア大都市ネットワーク21を通じて実質的な都市外交を展開し、21世紀が「アジアの世紀」
であることを世界に向けて発信いたします。
8 千客万来の世界都市を目指して
 スイスにある著名な研究教育機関IMD国際経営開発研究所が発表した国際競争力のランキングに
よれば、我が国は、今年もまた順位を下げ、主要49か国の中で26位になりました。
 危機の中にありながら、何の哲学もないまま、その場その場を取り繕うだけの状況主義に終始した
ここ10年間のつけが、国際競争力の長期低落となって如実に現れております。
 国際社会での敗北は、国民の気力を奪い、それがさらにデフレスパイラルのような悪循環を引き起
こしております。
 今何よりも必要なことは、理論の構築や議論の繰り返しではなく、目に見える成果や成功を既成事
実として積み重ね、国家の自信を取り戻すことであります。我が国は、技術力、教育水準、あるいは
貯金、そうした面で高い能力を持ち合わせております。強固な意志を持ちながら、冷静に相対感覚と
緻密な戦略が発揮できれば、必ずや、陽はまた昇るはずであります。
 東京は、実際に行動して先例を創ることで、あるいは、具体的な政策を建言することで、国が何を
為すべきか示していきたいと考えております。それは、東京が生き残るための道でもあります。
 混迷の社会に終止符を打ち、新しい歴史の中で、日本が再び輝きを取り戻すために、そしてまた東
京が魅力にあふれた「千客万来の世界都市」となるため、総力を挙げて取り組む覚悟であります。も
ちろん、その前提には、公平、公正なルールを共通の基盤とする国際社会の存在が不可欠であります。
持てる力をできる限り発揮し、健全な社会の持続、発展に貢献していきたいと考えております。
 都議会の皆さん、都民の皆さん、一層のご理解とご協力を心からお願いいたします。
9 名誉都民の選考
 最後に、名誉都民の選考について申し上げます。
 このたび、名誉都民の候補者として、金田一春彦さん、小宮康孝さん、島田正吾さんの三名の方々
を選考いたしました。
 金田一春彦さんは、日本語のアクセントや方言の研究を通じて、言語学の発展に大きな功績を挙げ、
多彩な活動は、多くの都民に親しまれております。小宮康孝さんは東京の伝統工芸である江戸小紋の
職人として、以前の明快な小紋染めの再現に成功するなど、技術の保存と継承に大きな力を尽くされ
ました。島田正吾さんは、95歳の今なお、現役最年長の舞台俳優として第一線で活躍され、芝居一
筋に情熱を傾ける姿は人々に大きな深い感銘を与え続けております。
 三氏は、それぞれの分野において多大な功績をお持ちであり、多くの都民が敬愛し、誇りとするに
ふさわしい方々だと信じます。都議会の皆様の同意をいただき、来月1日、都民の日に名誉都民とし
て顕彰したいと考えております。よろしくお願いいたします。
 なお、本定例会には、これまで申し上げたものを含め、条例案9件、契約案10件など合わせて21
件の議案を提出しております。よろしくご審議をお願いいたします。
 以上をもちまして、私の所信表明を終わります。ありがとうございました。