石原知事施政方針

平成13年12月5日更新
平成13年12月4日
          平成13年第四回都議会定例会 知事所信表明
 平成13年第四回都議会定例会の開会にあたり、都政運営に対する所信を申し述べ、都議会
並びに都民の皆様のご理解とご協力を得たいと思います。
 12月1日、めでたく内親王殿下がご誕生されました。首都東京の知事として、都民ととも
に心からお慶びを申し上げます。
 内親王殿下のご誕生は、都民、国民の誰もが久しく待ち望んでいた慶事であります。皇太子、
皇太子妃両殿下のご慈愛の下、内親王殿下が健やかにご成長され、皇室がより一層ご繁栄され
ることを深く祈念いたします。
 一方、名誉都民であるマイケル・ジョセフ・マンスフィールドさんが10月5日に、同じく
金子鴎亭さん(※注 「鴎」は正確には旧字体です)が11月5日に逝去されました。ここに
謹んで哀悼の意を表し、心よりご冥福をお祈りいたします。
 次いで、先般の職員の不祥事について、都議会の皆様、都民の皆様に心からお詫びを申し上
げます。
 一人の職員の愚劣な行為が、都政全体の信頼を著しく低下させたことは、誠に遺憾でありま
す。とりわけ、三宅島の方々が島外への退避を強いられ、島の復旧が都政喫緊の課題となって
いるこの時期に、復旧の当事者が不正を働いたことは、島の方々をはじめ、都民や支援者を冒
とくするものであり、重ねて陳謝申し上げます。三宅島については、この忌まわしい事件が影
響を及ぼすことのないよう、着実に復旧作業を進めます。
 現在、事件の全貌と問題の所在を徹底して究明しております。このような不祥事を二度と起
こすことのないよう、本件を都庁全体の問題として重く受け止め、再発の防止に万全を期し、
信頼の回復に全力を尽くします。
1 新しい首都像の構築
 (連携の重要性の高まり)
  七都県市により構成されてる首都圏は、国家のダイナモとして、我が国の発展に大きな役
 割を果たしてまいりました。しかし現在は、我が国に内在する様々な危機がより先鋭的な形
 で表出し、活力や魅力が大きく薄らいでおります。
  このままでは、首都圏は、世界の中で競争力を失い、それはそのまま、日本の国力の低下
 に連鎖いたします。首都圏の再生は、国家の再生そのものであり、我が国にとって、一刻の
 猶予もならない課題となっております。
  その際の国の役割は、環状道路のような巨大事業を責任を持って遂行することであり、一
 方、地方自治体には、地域特有の課題を主体的に解決することが求められます。加えて、近
 年は、環境や防災、治安など広域的な課題がより増加しており、七都県市を中心にした自治
 体の連携も、欠かすことのできない取組みとして、急速に比重を高めております。
 (環境を守るための実りある連携)
  都県境を越えて走行するディーゼル車は、環境に高い負荷をかけており、低公害車の普及
 促進や統一した基準による規制など、七都県市の連携した取組みが、規制の実効性を高める
 上で不可欠であります。首都高速を走行するディーゼル車から徴収した税を排気ガス対策に
 活用することで、大気汚染の改善が進むことになります。
  また、七都県市は、産業廃棄物に関し、不法投棄の増大など共通した問題を数多く抱えて
 おります。産業廃棄物の対策を効果的に進めるには、処理施設の整備や広域的な監視体制を
 実現し、発生の抑制やリサイクルの促進に、共同して取り組む必要があります。排出事業者
 の責任を明確にするため、共同事業に必要な経費を事業者への課税により賄うことは、有意
 義な手法であると考えております。
  それぞれの自治体は、法定外目的税を共同で導入し、収入を合算した後に改めて配分し直
 すことで、事業規模に応じた財源を確保することが可能になります。
  環境問題は、目に見える形でお互いが恩恵を分かち合うことのできる分野であり、是非と
 も共同して事業を実施したいと考えております。
 (総合的な危機管理体制の強化)
  いつ襲ってくるか分からない大地震や、テロのような人為災害に対しては、広範囲にわた
 り被害が発生することを想定し、十全の備えを講じる必要があります。
  アメリカには、州政府の手に負えない緊急事態に対処する組織として、連邦危機管理庁F
 EMAが設置されており、先の同時多発テロの際も優れた働きを示し、事態の収拾にあたり
 ました。
  翻って我が国では、官僚主義、縦割り行政が依然として続いており、非常時において、統
 一的、機能的な行動を執る体制がまったく整備されておりません。広域災害から、首都圏に
 住む3300万人の生命と財産を守るには、国に頼ることなく、首都圏版のFEMAを立ち
 上げ、情報の一元化、有機的な連携体制の確立、対応策の立案など独自の機能を強化する必
 要があります。
  危機に対する備えとしては、日常の訓練も欠かすことができません。この夏東京都が、関
 係機関と連携して、かつてない規模で実施した図上訓練は、指揮官の判断力を養い、相互の
 ネットワークを強化する上で、非常に有意義なものでありました。緊急事態への対応能力を
 向上するには、近隣自治体や国、自衛隊も巻き込んだ、大規模かつリアリティの高い図上訓
 練を実施することが、必須の条件となっております。
  先月開催された七都県市の首脳会議では、こうした分野で、事業の共同実施、税の共同課
 税、新しい組織の設置などに取り組むことを提案いたしました。これから七都県市で議論が
 始まりますが、連携を強める意義と必要については、理解が深まったと思います。
  今回の取組みは、あくまでも第一歩を踏み出したに過ぎないものであり、首都圏は、今後
 さらに強固に繋がる必要があります。それが、地方主権を確立し、首都州構想など広域行政
 の議論を活性化させることにもなると考えております。
 (首都移転への徹底した反対)
  首都機能を連携して担っている七都県市にとって、首都移転の断固反対もまた、異論をは
 さむ余地のない一致した見解であります。
  この10月、東京都は、必要な情報を提供しない国に代わって、移転費用や国政運営上の
 問題点などについて検証いたしました。その結果、行政機関がすべて移転し、人口56万人
 の都市が形成された場合に、国が12兆3千億と試算している移転費用は、20兆円を超え
 る額に膨らむことが明らかになりました。移転先では、立法、行政、司法の各機能をさらに
 広く分散させるため、業務効率も極めて悪くなります。しかも域内の移動手段として建設す
 る新交通システムは、50年間で数千億の赤字を抱える見込みであります。
  しかし、衆議院の特別委員会は、移転先の絞り込み期限を来年5月に控え、作業を急いで
 おります。そこで、国民の負担の増加など、肝心の問題に一切触れないまま、日程の消化だ
 けを優先させており、委員会の持ち方に重大な欠陥があります。
  そもそも、委員の構成や参考人の人選には、極端な偏りがあります。移転の是非をまっと
 うに議論する土壌すら出来上がっていないことには、怒りよりも先に、一人の国民として、
 非常に大きな不安を覚えます。議論が一向に盛り上がらないのも、国民が、鋭く本質を見抜
 き、既に関心を持つことにすら、倦んでしまっているからに他なりません。
  先般、参考人として特別委員会に出席しましたが、国会は、相変わらず抽象的な議論に終
 始しており、具体的な新首都のイメージはまったく伝わってきませんでした。その中で、審
 議の進め方として、移転候補地を1か所に絞り込んだ上で、改めて東京との比較考量をする
 という手順を確認できただけは、一つの収穫ではありました。
  この問題は、重大な局面に突入をしようとしており、今、我々が首都移転の不当性を訴え
 なければ、我が国は、取り返しのつかない過ちを犯すことになりかねません。声を大にして
 正論を述べ、移転計画を白紙撤回させることが、都民、国民に対する政治家の責務でありま
 す。
  都議会の皆様のご支援とご協力をお願いいたします。
 (首都圏の再生に向けた都市基盤の整備)
  我が国が総力を挙げて取り組むべき国家プロジェクトは、首都移転ではなく、首都圏にお
 ける都市基盤の整備であります。
  とりわけ、アジアの大都市で巨大な空港が次々に開港する中、国際競争力の向上に直結す
 る空港の整備は、焦眉の急となっております。羽田空港の再拡張が早期実現に向け動き出し
 たことは大きな進歩ではありますが、国際化は、再拡張を待つことなく速やかに実施すべき
 課題であります。
  羽田空港は、国内線では使用していない発着枠の一部を転用するだけで、直ちに1日90
 回の国際線の発着が可能となります。これだけでも年間1兆5千億の経済波及効果と8万7
 千人の雇用誘発効果があり、低迷を続ける現下の経済にとって、強力な刺激となることは確
 実であります。
  早急に本格的な国際ターミナルを整備し、国際化を実現することを、そして再拡張を含め
 た予算を不足なく措置することを、国に対して強く要求いたします。
  アメリカ軍が保有する横田飛行場では、滑走路の大規模な改修工事が、ワールドカップを
 前に既に実施されており、同時多発テロに対する軍事行動が始まって以降も、工事は継続さ
 れたままであります。アメリカ軍にとって、有事の際も横田飛行場の機能がすべて必要とな
 ることはなく、戦略上、横田飛行場の比重は極めて低いことが、図らずも明らかになりまし
 た。
  本来なら、こうした実体を見逃すことなく返還交渉の材料とするのが国の役割でありなが
 ら、鈍感な国は、一片の関心も示さず、これまでも、アメリカとは、現状の打開に向けた議
 論すら行おうとしませんでした。せめて東京都は、関係する市町村とともに、現地の最高責
 任者である司令官と直接対話をしたいと考えております。率直な意見交換を重ねることが、
 お互いの立場や主張を認識することにつながり、それが将来、大きな果実をもたらすことに
 なると思います。
  区内を走行する車の平均時速は18キロで、全国の半分しかなく、慢性的な交通渋滞の解
 消も、首都圏を再生する上で大きな課題であります。
  踏切は、交通渋滞ばかりでなく、交通事故や地域分断の要因ともなっており、現在、
 130か所を超える踏切の解消を目指し、7路線40キロにわたり連続立体交差化を進めて
 おります。
  連続立体交差事業は、用地の取得が問題となることも少なく、十分な事業費さえあれば、
 工期の大幅な短縮が可能となります。先般、総理大臣と面談した際には、事業の促進に必要
 な財源として、新しい貸付制度の導入を強く要請いたしました。都民の強い期待に応え、一
 日も早く完成できるよう、今後とも、着実に事業を推進いたします。
2 新しい時代に適合した制度の構築
 (観光振興の新たな財源)
  このほかにも、我が国には多くの難題がありながら、国の対応は相変わらず緩慢で、およ
 そ危機感が感じられません。
  その顕著な事例は観光であり、国が観光振興の哲学を持ち合わせていないため、日本の国
 際旅行収支は、年間で3兆5千億もの赤字となっております。
  初めての法定外目的税として本定例会に提案している宿泊税は、東京の観光振興に必要な
 財源を安定的に確保するため、ホテル等の宿泊客を対象に課税するものであります。大衆課
 税となることのないよう、免税点や負担額には十分配慮したつもりであります。関係者の意
 見も聞きながら、この財源を活用して、外国人向けの観光案内や国際会議の誘致活動、海外
 でのキャンペーンなどを充実し、内外からの訪問客の増加につなげたいと考えております。
  立ち遅れている東京の観光振興を転回させることが、宿泊税導入の最大の眼目であります。
 皆様のご理解とご協力をお願いいたします。
 (公金管理の刷新)
  ペイオフが解禁となる来年の4月が、間近に迫ってまいりました。これまでの地方自治体
 は、金利やリスクに対する感覚がなく、民間企業であれば敏感に反応する市場の動向を意識
 することも、まれでありました。
  これからは、公金管理の失敗が、財政破綻や再建団体への転落を招きかねない時代となり、
 地方自治体の公金管理も大きな変革が求められますが、国は、この分野でも、十分な対応策
 を示しておりません。
  東京は、自らの責任の下、安全で効率的な公金管理を実施するため、金融機関の選択基準
 などペイオフ解禁後の公金管理のあり方について、専門家を交え、検討を進めております。
 4月以降は、常設の委員会を設け、専門家の意見を聞きながら、取引先金融機関の経営状況
 を厳格に判断し、都民から預かっている公金を適切に管理したいと思います。
  併せて、支払い事務の簡素化や出納事務所の全面廃止など、会計制度、執行体制を抜本的
 に見直し、定型的な業務から、制度の企画、指導や公金の管理など専門的な業務へと、出納
 事務をシフトいたします。
  全国に例のない大胆な改革となりますが、金融市場の荒波の中へ船出するには不可欠な取
 組みであると考えております。
 (計画段階からのアセスメントの導入)
  環境影響評価、すなわちアセスメントも東京が先行している分野であります。
  現在、東京都は、大規模な開発事業に対し、条例に基づきアセスメントを実施しておりま
 す。しかし、現行のアセスメントは、事業の実施段階で行うため、計画の抜本的な見直しが
 難しく、改善を求める声が寄せられております。
  そのため、全国初の取組みとして、計画段階でのアセスメントが有効な手法となり得るか
 どうか、杉並区から三鷹市にかかる都市計画道路を対象に試行いたしました。そこでは、複
 数の計画案に対し、環境面から評価を加えることができ、大きな意義があったと思います。
 この取組みを軌道に乗せ、都民の信頼を得るには制度化が必要であり、現行条例の見直しに
 着手いたしました。
  計画段階でのアセスメントの実施が、環境への一層の配慮と事業の円滑な進捗につながる
 よう、既存の手続きを簡素化しながら、計画から事業段階までの一体的な制度を構築するつ
 もりであります。今ある制度との整合を図り、課題を整理した上で、来年、条例改正を提案
 したいと考えております。
3 来年度の都政の骨格の形成
 (逆風の中での予算編成)
  今の時期は、こうした制度の構築に加え、来年度の都政の大きな流れを考える大切な時で
 もあります。
  財政再建が都政の逼迫した課題となっている中では、どのような予算を編成するかが、と
 りわけ大きな案件であります。
  地方交付税の不交付団体である東京都は、歳入の根幹をなす都税収入の動向が、予算編成
 を左右する重要な要素となります。しかし、懸念していたとおり景気は悪化を続け、都税収
 入は、もはや大幅な減少が避けられないところにまで至っております。
  このような状況を踏まえ、来年度予算の編成にあたっては、これまで以上に厳しく歳出額
 を抑制することを基本に据えます。入るを量って、出るを制す−−−−これが、財政の破綻
 を防ぐ唯一の選択肢であると思います。
  財政再建に向けた決意を示すため、特別職と管理職については、給与削減措置を来年度も
 継続いたします。
 (重要施策の策定)
  財政再建の途上であっても、東京が直面する危機を打開するためには、重点的に取り組む
 政策課題を明示することが必要な責務ともなります。
  予算編成に先立ち、このたび策定した平成14年度の重要施策は、限りある予算や人員を
 優先的に措置する施策を選定したもので、いわば、来年度の都政の背骨に相当するものであ
 ります。
  個別事業の選定にあたっては、新規事業や「東京構想2000」で掲げた3か年の推進プ
 ランを中心に精査を重ねました。特に、新規推進プロジェクトは、組織の壁が障害となって
 取組みが遅れているもの、少ない費用で大きな事業効果が期待できるものなどに的を絞り、
 34のプロジェクトを厳選したものであります。
  例えば、荒廃している多摩の森林を効果的に再生するため、数局にまたがる事業を束ね、
 新しい発想に立って、環境保全や林業振興を進めることにしております。また、効率よく渋
 滞を解消するため、残り僅かな区間で開通する道路の整備やバス停留所部分の拡幅工事など
 を優先的に実施いたします。
  来年度は、重要施策を通し、首都圏の再生と都民生活の不安の解消に取り組んでまいりま
 す。
4 政策の苗の着実な育成
 (安心、安全な生活基盤の構築)
  世論調査や都政モニターアンケートを見ると、防犯対策の充実を求める声は、近年急激に
 高まっており、今や、良好な治安の回復は、都民にとって非常に切実な問題となっておりま
 す。実際、刑法犯は、過去最高の認知件数となりながら、検挙率、検挙件数は、ともに昭和
 41年以降最低の水準に留まりました。また、来日外国人の薬物事件がこの1年で倍増する
 など、東京の治安は、致命的に悪化してきております。
  絶対数が不足している留置場の拡充は、治安維持の基礎となるものであり、早急な対策が
 求められております。民間の力を積極的に活用しながら、日本社会事業大学の跡地に、オフ
 ィスビル、警察署などと一体的に、相当の規模の留置場を整備したいと考えております。東
 京都としての原案がまとまった段階で、関係者には十分説明したいと思っております。都民
 の安全を守るため、関係する皆様には、ご理解とご協力を是非ともお願いいたします。
  社会状況が大きく変化し、消費者の価値観や行動が多様化する中で、従来の消費者行政で
 は対応しきれない深刻な問題が、数多く発生しております。現行の規定では、事業者の指導、
 処分に慎重を期すあまり、機動的な対応が取れないため、悪質事業者による被害の拡大を防
 止しきれておりません。新しい形態である電子商取引についても、有効な規制が確立してい
 ないため、トラブルの急増を招いております。
  消費者は、安易に取引を行うことなく、自らが責任を持って行動することが求められます
 が、同時に、行政は、不当な取引に対し厳然たる姿勢で臨む必要があります。
  消費生活の実態に即した措置を迅速、的確に講じるため、次の定例会を目途に消費生活条
 例を改正したいと考えております。
  失業率の悪化が止まらない中で、都民の不安を解消するには、雇用の確保も重要な要素で
 あります。とりわけ東京の失業率は、景気に大きく左右されるため、全国と比べ格段に高く
 なっており、いわゆるフリーターの就業支援を含め、雇用対策が急がれております。職業訓
 練や雇用相談を拡充するなど、現在実施している緊急雇用対策をさらに充実いたします。
  しかし雇用は、国が抜本的な対策を講じない限り、劇的な改善が望めない領域であり、国
 に対し、責任ある取組みを行うよう、あらゆる機会を通じて強く要請してまいります。
 (医療改革の実践)
  昨年から着手した医療改革は、いよいよ具体的な成果を提供できる段階に到達しました。
  東京ERは、誰もが、何時でも、安心して救急診療を利用できるよう、整備を進めてきた
 もので、先月28日、墨東病院で最初の業務を開始いたしました。従来の救命救急機能に加
 えて、内科、小児科などの救急診療科を新たに設けることで、多くの救急患者に、適切、迅
 速な医療サービスを提供できるようになりました。来年度は、広尾病院と府中病院にERを
 広げ、救急診療体制を充実いたします。
  5月に設置した「患者の声相談窓口」には、既に7千件もの声が寄せられております。現
 行の医療に対し、多くの都民が、不満や疑問、意見を持っていることが鮮明になりました。
 これらの貴重な声を今後の医療に活かしていくため、医療を受ける方、医療に携わる方など
 様々な立場の関係者と、より良い医療のあり方について、検討を深めております。そこで交
 わされた議論や都民からの意見、提案を参考にして、患者の視点に立った医療を実現したい
 と思っております。
  都立病院では、民間企業の経営管理手法を取り入れるなど、院長をはじめとする医療従事
 者の意識改革を進めております。都立病院に関わる一連の改革については、年内に策定予定
 の「都立病院改革マスタープラン」において、具体的な姿を明らかにいたします。
  保健医療分野の研究成果を地域経済の活性化に還元することも、医療改革の一つの課題で
 あります。先週開催した研究交流フォーラムは、製薬会社やバイオベンチャーといった民間
 企業との連携の第一歩となるもので、今後、東京都が蓄積してきた研究資源を積極的に提供
 し、先端医療の育成を図ります。
 (福祉改革の次なる展開)
  規制緩和は時代の大きな趨勢であり、福祉の分野においても、その推進が強く求められて
 おります。しかしながら、国が唱える規制緩和は、極めて不十分なものでしかなく、社会福
 祉法人に代表される旧来の体系を温存しようとしているのは明らかであります。その上、大
 規模施設の整備を中心とした画一的な施策から脱却できないため、大都市では、需要と供給
 の乖離が目立ち、大きな矛盾を露呈しております。
  もはや大都市の福祉を全国一律の政策で縛ることは無理であり、東京は、大規模施設への
 措置から、地域での自立と暮らしを支える福祉へと、施策の中心を転換すべき時期を迎えて
 おります。
  急激に増加する高齢者には、住み慣れた地域で、継続して生活できる場を提供することが
 重要であります。特に今後は、高齢者向けのグループホームを重点的に増強したいと考えて
 おり、明日、現場を視察する予定にしております。
  整備にあたっては、NPOや民間事業者などを積極的に支援し、多くの事業者の参入を促
 進いたします。異なる業種の間での健全な競争は、サービスの量の拡大と質の向上の両面で、
 大きな効果があります。
  こうした取組みを通じて「福祉改革推進プラン」を発展させ、新しい福祉の将来像の全貌
 と実現に向けた道筋を示していきたいと思っております。
 (大学改革の実行)
  いつの時代においても、国家を動かすのは、意欲にあふれた人材、特に若い力であります。
 しかし最近は、次の時代を担う若者から、彼らの特権である情熱やエネルギーを感じること
 が、めっきり少なくなってまいりました。その主たる原因は、若者自身より、むしろ、想像
 力や感受性、あるいはひらめきといった、個人が持つ才能を押し潰す教育しかできなかった
 国にあります。
  先月策定した「大学改革大綱」は、教育改革の一環として、新しい大学の役割や目指すべ
 き大学像を示したものであります。
  都立の4大学は、それぞれの長所を活かした上で、より幅広い分野を持った総合大学へと
 発展させるため、平成17年度を目途に再編統合したいと考えております。大学院に、最先
 端の科学技術を研究する学科を新しく設けるほか、高度な専門知識を備えた社会人の育成に
 も力を入れます。教育や研究事業の評価をしっかりと行うことで、教員の意識改革も強力に
 進たいと思います。
  持てる機能を十二分に発揮するため、公立大学法人とする新しい大学には、民間の経営感
 覚を取り入れ、人事会計制度の弾力化など、柔軟な手法を積極的に導入いたします。国に対
 しては、必要となる法令の整備を強く要求してまいります。
  大学改革は、これでようやくスタートラインに立つことができました。策定した大綱の内
 容をどのように具体化していくのか、これからが正念場となります。引き続き、有識者の方
 々の意見を聞きながら、大綱で示した内容を遺漏なく実現し、都立の大学を一新したいと思
 っております。
 (住宅政策の抜本的転換)
  東京の住宅は、日本の首都にふさわしい質の確保が久しく求められていながら、なかなか
 改善が進んでおりません。現在策定中の「住宅マスタープラン」では、都営住宅の建設、管
 理を中心とする従来の政策を大幅に転換し、総合的な居住政策を推進することを目的として
 おります。
  例えば今後は、土地の有効利用を図るため、都内に点在している都営住宅について、敷地
 の高度利用を図りながら集約することを基本といたします。このようにして生み出した土地
 を、都心の再生や木造住宅密集地域の解消に活用し、東京の改造を促進いたします。
  民間住宅は、都内の住宅の9割を占めていながら、必要な情報が不足しているため、中古
 住宅の取引を躊躇する例が、多数見られます。リフォームなどの記録を統一的に残すフォー
 マットを創ることで、良質な住宅の流通を支援し、中古住宅市場を活性化いたします。
  広く都民の意見を聞きながら、今年度中に新しい計画を策定したいと考えております。
 (ディーゼル車規制の大きな前進)
  ディーゼル車に関しては、七都県市への提案以外にも、新しい対策を間断なく進めており
 ます。
  ディーゼル車の排気ガスを軽減するには、車両本体の改良とともに、良質の軽油を使用す
 ることが不可欠であり、低硫黄軽油の流通と不正軽油の撲滅は、特に重要な課題であります。
  低硫黄軽油は、従来の軽油に比べ、粒子状物質の発生を5%から10%軽減し、粒子状物
 質減少装置との組み合わせで、さらに相乗的な削減効果を生み出します。
  このたび、東京都の要請を真摯に受け止め、石油連盟が低硫黄軽油の供給時期の前倒しを
 素早く決めたことは、画期的な対応であったと高く評価しております。この結果、動きの遅
 い国に頼ることなく、平成15年4月から都内のほとんどのすべてのガソリンスタンドで低
 硫黄軽油が供給されることになり、ディーゼル車対策は、大きく前進いたします。
  一方、路上での軽油抜き取り調査をきっかけとして、不正軽油の大規模な密造、販売グル
 ープの存在が明らかになり、先月、福島県など5県と共同して、製造基地など32か所を強
 制調査いたしました。
  ここまで広域にわたる脱税事件の合同調査は全国で初めてのことであり、地道な調査を繰
 り返した結果が、悪質業者の発見に結びついたと思います。他県とも円滑な連携体制を敷く
 ことができ、不正軽油の撲滅に向けた東京都の毅然たる姿勢は、全国に浸透していると感じ
 ました。今後さらに調査を進め、早期に告発したいと考えております。
  こうした取組みを通じ、流通する軽油の質が向上し、大気汚染が改善に向かうと期待して
 おります。
5 21世紀最初の1年を振り返って
  21世紀最初の年も、残すところ一月となりました。実に多くの事件に接し、実に様々な
 ことを考えさせられた1年でありました。
  文明が高度に発達し、多様な価値観が複雑に重なり合って存在する社会にあっては、いか
 に東京が1千万人を超える人口を抱えた世界都市であっても、単独の行動では限界がありま
 す。その点で、多くの共通項を持つ七都県市やアジア大都市との連携をこれまでにも増して
 重視したことは、転換期に不可欠な選択だったと思います。そうした中から、七都県市では
 首都圏としてのアイデンティティが生まれました。また、首都圏再生の取組みを通じて、都
 市の重要性に対する認識が広がったのは大きな成果でありました。
  一方、この夏に起きた歴史を巡るいくつかの事件は、戦後半世紀以上が経過しながら、日
 本が、主権国家としての強固な意志を未だに持ち得ていない実態を露呈いたしました。その
 中で、東京都の教育委員会は、歴史教科書の採択に関し主体的な判断を貫き、それが、歴史
 に対する見方や教科書のあり方について、活発な議論を喚起することになりました。国民が
 歴史、さらに国家を見つめ直す良い機会になったと思います。
  今年の後半は、かつて経験したことのない事件に次々と直面いたしました。とりわけアメ
 リカで発生し、日本人も多く犠牲となった同時多発テロは、世界の構造と秩序を一変させか
 ねない事件でありました。しかし、国権の最高機関であるはずの国会は、世界が、人類の存
 在をも左右しかねない爆弾を抱え込んだ、新しい局面に突入したという時代認識をほとんど
 持ち合わせておりませんでした。国会での議論は、従来の枠組みを守ることだけに拘泥して
 おり、事の本質を見失っていると言わざるを得ません。
  狂牛病の問題では、東京都は、都民の食の安全を確保するため、いち早く独自の検査、監
 視体制を徹底しましたが、国の対応が遅れたために、国民の不安や混乱が、今なお続いてお
 ります。
  総じて、今の日本は、初めて遭遇する多くの出来事を前にして、徒に立ち竦んでいるだけ
 のように思えてなりません。我々には、過去の成功体験は通用しない時代に突入したという
 自覚、頼るべき大樹も存在せず、自らの進路は自らが選択、決断するしか生き残る術はない
 という覚悟が必要であります。
  東京が果たすべき責務は、日本の首都として、今後進むべき道を切り拓き、国家存亡の危
 機を乗り越える牽引役となることであります。都議会の皆様と力を合わせ、新しい国のかた
 ちをここ東京から発信したいと思います。よろしくお願いいたします。
  なお、本定例会には、これまで申し上げたものを含め、条例案27件、契約案2件など合
 わせて34件の議案を提出しております。よろしくご審議をお願いいたします。
  以上をもちまして、所信表明を終わります。ありがとうございました。