石原知事施政方針

平成14年6月11日更新
平成14年6月11日
          平成14年第二回都議会定例会 知事所信表明

 平成14年第二回都議会定例会の開会にあたり、都政運営に対する所信の一端を申し述
べ、都議会の皆様、都民の皆様のご理解とご協力を得たいと思います。
 名誉都民である中城イマさんが4月29日に、同じく名誉都民である柳家小さん師匠が
5月16日に逝去されました。ここに謹んで哀悼の意を表し、お二人のご冥福を心からお
祈りいたします。
 冒頭に申し上げます。東京都の元局長が、特別養護老人ホームの補助金申請を巡る事件
で逮捕、起訴されたことにつきましては、重く受け止めており、今後の動向を注意深く見
守っていきたいと考えております。
 今回の件を踏まえ、これまでにも増して、補助金の適正な執行を心がけてまいりたいと
思います。
1 首都東京の再生
 それでは次に、東京都の再生に関連して何点か申し上げます。
(都市再生の新たな枠組み)
 かつて、人々は明日への希望を求めて集団を形成し、そこから都市が誕生いたしました。
都市は、拡大を続けることで人々の希望、期待を充足し、都市自体も発展を続けてまいり
ました。発展の過程では、どの都市も戦争、災害、疫病など存亡にかかわる局面に遭遇い
たしましたが、多くの都市が、試練を乗り越え今日の隆盛を導き出しております。
 中でも、東京は、最も輝ける都市の一つであります。しかし、企業の経営者や政治家な
ど指導者となるべき層に良心を忘れた行動が目立ち、問題の解決を先送りする風潮が社会
に蔓延するにつれ、魅力や活力が消え、今日の東京は、日本の縮図として、戦後最大の危
機に直面しております。
 東京は、良くも悪くも、我が国の先行指標となる存在であり、東京の再生が軌道に乗っ
たとき、我が国の再生にも光が射すことになります。国は、東京の再生を国家の再生とし
て捉え、重点的に対策を講じるべきであります。
 東京を再生させるには、道路、空港、港湾など、基盤整備をはじめとして、多岐にわた
る取組みが不可欠でありますが、先ずは緊急課題の解決が必要であり、その一つとして土
地の有効活用が焦眉の急となっております。
 先般成立した都市再生特別措置法は、時間と場所を限定した大胆な措置により、土地利
用の側面から都市の再生を促す制度であります。この法律は、民間の力を引き出すことを
主眼としており、緊急かつ重点的に整備を進める「緊急整備地域」が舞台となります。
 国は、近々、緊急整備地域の第一次指定を行うことになります。その際、首都の顔づく
りを行うとの認識の下に、国際競争力の強化や魅力の向上に大きく寄与できる地域を指定
することが大切であります。
 東京には、条件の整っている地域が多数存在いたしますが、我が国の近代が凝縮された
街である東京駅・有楽町駅周辺地域、海の玄関口としての世界への発信拠点となる東京臨
海地域、IT先端地区としての発展が期待できる秋葉原・神田地域など、7地域2400
ヘクタールを先行して指定すべきと思います。そこでは、地域の機能性や快適性を向上さ
せるため、民間のプロジェクトと一緒になって、駅前広場や歩行者専用空間などの施設が
整備される必要があると考えております。
 国に対しては、直ちに行動を起こし、東京都の見解に沿って地域を指定するよう、強く
建言をいたします。
(民間事業者の活用と規制緩和の推進)
 東京駅の周辺は、風格漂う街並みが形成されておりますが、建物の老朽化が進んでいる
ことから、再整備に取り組んでおります。この区域に適用する特例容積率は、別の敷地へ
の容積の移転を認めて土地の高度利用を図る、我が国初の制度であります。都市再生特別
措置法に基づく金融支援も活用しながら、東京駅周辺をさらに洗練された街に変えていき
たいと思います。
 南青山一丁目では、都営住宅、民間住宅などの官民の施設を一体的に整備する独自の再
生事業が、民間の手で始まろうとしております。容積率を大胆に緩和することで床面積を
大きく増やすことができ、民間事業者にとって、また、地主である東京都にとっても、収
益が拡大することになります。ここでは、福祉、医療の人材育成やグループホームの運営
も始まる予定であり、都有地に誕生する高層ビルが、地域の新しい顔になるものと期待し
ております。
 多摩を含め都内に点在する都営住宅は、敷地を高度利用することで、まとまった面積の
事業用地を生み出すことができ、東京の再生にとって大きな財産となり得るものでありま
す。現在、再編整備に併せて多面的な活用を進めており、新たに、木造住宅密集地域の整
備に都営住宅の用地を提供することにいたしました。安全上問題の多いこうした地域は、
転居用敷地の確保が困難なため整備が遅れておりましたが、高度利用により生み出した都
営住宅の用地を活用することで、整備を促進することができると思います。先ずは、モデ
ルとなる都営住宅を試行的に選び、民間主導による新しい手法も導入しながら、木造住宅
密集地域を整備したいと考えております。
 また、道路や河川、公園などを管理するために設けている各種の規制を緩和し、民間の
活動を側面から支援することも重要であります。光ファイバーの設置許可に関しては、河
川沿いの敷設を認めるほか、占用手続きを一部廃止するなど、民間事業者が光ファイバー
を利用しやすい環境を用意いたします。再開発が進む汐留地区では、民間と共同した道路
の管理を検討しており、こうした新しい試みを実現させることで、東京の再生に弾みをつ
けたいと思います。
(羽田空港再拡張の促進)
 東京へのアクセスを大きく改善させる羽田空港の再拡張については、この4月、国の検
討会で、3つの工法に絞って工期や事業費が示されました。
 羽田空港の再拡張は、極めて重要性の高い国家プロジェクトであり、たとえ東京の発意
により始まったものであっても、本来、国が責任を持つべき範疇の事業であります。国は、
この点を十分認識すべきであり、ようやく動き出した流れを止めることなく、速やかに手
続きを終わらせ、一日も早く工事に着手することを強力に要求いたしてまいります。
(首都移転に対する徹底した反対)
 首都移転は、大半の国民にとって、およそ現実味がなく、関心の湧かない話題であると
思います。しかし、地元への誘致を狙っている一部の国会議員に引きずられ、国は、未だ
に首都移転を断念しておりません。
 これまで都議会の皆様とは、首都移転がいかに無益なものかを共に訴えてまいりました
が、議論することを避けたまま、移転に向けた手続きだけを闇雲に進めるのが、国の手口
でありました。
 しかし、衆議院の特別委員会は、先月末を期限と定めていながら、移転候補地の絞り込
みを行うことができませんでした。自らが決めたスケジュールを守れなかったことは、3
か所の候補地を抱えたこの問題が膠着状態に陥り、これ以上の前進が難しくなった何より
の証左であります。国は、これを潮時として、首都移転の問題を考え直すべきであると思
います。
 国の政治家には、過去の決議にとらわれることなく、我が国の将来を冷静に見通し、首
都移転を白紙撤回することを改めて強く要求いたします。
2 都民の安心と安全の確保
(災害に対する十全の備え)
 地震国日本では、地域を問わず大地震が発生する可能性が非常に高く、従って、首都と
して、災害に対し十全の備えを講じていることが求められております。首都圏を構成する
七都県市は、この点を十分認識し、共通の課題として災害対策に力を入れております。
 首都の場合、万一の際に必要となるのは、首都機能のバックアップであります。首都圏
には大規模な会議場が多数揃っており、国会などの代替機能は確保できますが、自治体相
互の連絡に使う専用の通信回線が極めて不足しております。災害時における首都圏自治体
の機動性、主体性を確保し、十分な連携体制を整えるには、現在の非常用通信網を再構築
し、広域的な防災通信ネットワークを形成する必要があります。
 自治体が円滑に連携するには、ハード面の整備ばかりではなく、関係者が日頃から訓練
を繰り返し、意思の疎通を図ることが不可欠であります。運営本部の間を結んで行う図上
訓練は、様々な場面が設定できるため、指揮官の判断能力を養う上で高い効果があり、昨
年度から重点的に実施しております。今年度は、七都県市にも参加を呼びかけ、ITを活
用した図上訓練を実施する予定であります。
 このほか現在、横浜市、埼玉県などを会場にワールドカップ・サッカー大会が開催中で
ありまして、東京にも多くの旅行者が訪れていることから、不測の事態に備え、警備、医
療面を中心に、危機管理体制を強化しております。広域かつ緊急の対応が必要な場合には、
関係自治体と速やかに連携する用意も整えております。さらにこの先は、ワールドカップ
での対応など、これまでの経験を活かしながら、危機管理全般にわたる首都圏での連携を
一層強化したいと考えております。
 今年の3月には、予防から復興までの総合的な震災対策を盛り込んだ事業計画を策定い
たしました。こうした対策を複合的、重層的に講じながら、災害対応能力を高めていきた
いと思います。
(日常生活の不安の解消)
 住民の生命と財産を守ることは、中央政府ばかりではなく、地方政府においても、最も
基本的な役割であります。しかし、災害のみならず、日常生活の様々な場面で、生命の安
危に関わる事件や事故が多発しており、東京の安全は、著しく低下しております。
 昨年9月、歌舞伎町で発生したビル火災は、多くの人命を奪い、我が国の安全神話をさ
らに風化させました。以後、査察を強化するなど安全対策に努めてまいりましたが、現行
制度では、小規模な雑居ビルに対する安全措置が進まないなど、規制が不十分であり、防
火安全対策の充実が急務となっております。避難路を確保し、消防活動を円滑に行う上で
必要な規制を強化するため、今定例会に、建築安全条例、火災予防条例の改正を提案いた
しました。
 また、以前には予測されなかった迷惑な行為によって、安寧な生活が脅かされておりま
す。例えば、逆恨みなどによって、他人につきまとう行為が目立って増えておりますが、
現在の法令では、恋愛感情のもつれを原因とするもの以外は、十分に取り締まることがで
きません。街頭に氾濫するピンクビラや落書き、盗撮行為も、罰則が軽微であるため、犯
罪を抑止できない状況にあります。誰もが不安を覚え、不快を感じる迷惑な行為に対して
は、厳しく臨むことが当然の姿勢であり、今定例会で、迷惑防止条例を改正したいと考え
ております。
 このほか、東京都に登録している貸金業者からの融資を巡って、都内ばかりでなく、全
国からの苦情相談が急激に増加しております。法外な高金利を取り立てたり、不当な紹介
手数料を要求するような行為は、到底許されるものではありません。業務の停止や登録の
取消しなど、厳格な処分をかつてない規模で行い、悪質な業者を排除したいと思います。
(セーフティネットの充実)
 都民生活の不安を解消するには、社会的不正に目を光らせるとともに、育児や介護、あ
るいは発病時に安心して頼ることのできる体制を整えることが不可欠であります。
 365日24時間、誰に対しても救急医療を行う東京ERは、墨東病院で最初の業務を
開始してから半年余り経過いたしました。治療の優先順位をつける「トリアージ」を行う
など、改善を加えることで、運営も軌道に乗ってまいりました。来月には広尾病院で、年
内には府中病院でERを開始する予定であります。
 他方で、治療中に発生する医療事故が依然として後を絶ちません。医療事故は、医療に
対する信頼を大きく低下させるものであり、早急な対策が必要であります。事故の中には、
医療機器の扱い方を原因とする事例が少なからず存在しており、医療の現場と医療機器メ
ーカーが認識を深め、緊密に連携できれば、その多くを未然に防止できるはずであります。
 そのため、早い段階から情報を交換し、建設的な議論を行う場として、「医療機器安全
情報ネットワーク」を構築し、間もなく運用を開始いたします。今後、多くの関係者に声
をかけ、ネットワークの参加機関を拡大させたいと考えております。このような仕組みを
整えることが、医療の安全性を高めていくことにもなると思います。
 一方、福祉の分野においても、新しい取組みが着実に進んでおります。
 昨年度に開始した認証保育所は、早くも88か所を数え、当初の見込みを大きく上回る
勢いで増加を続けております。大都市の特性を踏まえた仕組みを作れば、多くの事業者が
参入し、住民に喜ばれるサービスを提供することができます。認証保育所の成功は、この
真理を明快に実証いたしました。高齢者や障害者のグループホームなどに対しても、独自
の支援策を講じることで整備を促進したいと考えております。
 先週開設した高齢者向けの病院「江東高齢者医療センター」では、隣接する特別養護老
人ホームなどと一体となって、医療、看護、介護など様々なサービスを複合的に提供いた
します。運営にあたっては、効率性を高めるため、民間の力を活用しております。
 新しい施設の建設と同時に、今ある施設の必要性を精査することも重要な課題でありま
す。都立の福祉施設の今後のあり方については、現在、有識者を交えて抜本的な改革を検
討しており、近く具体的方針を公表する予定であります。
(環境対策の積極的な取組み)
 文明がもたらした病の一つとして、地球規模での温暖化が、異常な速度で進行しており
ます。砂漠の拡大や生態系の変化など、重大な影響が発生しており、その対策が、今後の
大きな課題であります。
 しかし、肝心の国が煮え切らない対応を続け、見過ごせない状況にあることから、東京
都は、本年2月、「地球温暖化阻止 東京作戦」を開始いたしました。現在は、シンポジ
ウムを開催するなど、重点的にキャンペーンを展開しております。7月と8月には、家電
販売店等の協力の下に、省エネルギー型商品の普及拡大を集中的に呼びかける予定であり、
事業者、消費者と一体となって、温暖化を阻止していきたいと考えております。さらにこ
の秋には、東京都が独自に取り組むべき温暖化対策について、基本的な方針を取りまとめ
る予定であります。
 汚染された大気は、日々、健康を冒していながら、この件に関しても、国の取組みは大
きく遅れております。今、最も許しがたい問題は、東京都の強い抗議にもかかわらず、自
動車NOx・PM法の適用を大幅に延期したことであります。環境問題の最終的な責任者
であり、最も強い権限を握っていながら、環境行政を著しく後退させた点について、国に
対し、猛省を促すとともに、再度強く抗議をいたします。
 国の愚策を尻目に、七都県市では、対策を強化しております。東京都、埼玉県、千葉県
は、既にディーゼル車を規制する条例を制定しておりますが、神奈川県でも、先般、条例
化の意向が示されました。3300万人が居住する首都圏全域で、ほぼ同一のディーゼル
車規制が実施されようとしており、大気汚染の抑止に高い効果が期待できます。今月から
は、粒子状物質減少装置の共同指定制度も開始いたしました。
 この問題では、広域行政が着実に動き出しており、今後一層、新しいフォーマットを充
実させていきたいと思っております。
(公金の安全の確保)
 都民から預託されている公金を守ることは、都民の財産を守ることであり、重要な課題
であります。
 これまでは、金融機関の選別基準を設けるなど、ペイオフ解禁以降の公金管理対策に取
り組んでまいりました。しかし、みずほ銀行のシステム障害によって、公金の支払や収納
の運用リスクについても厳密な管理が必要であることを思い知らされました。
 そのため、みずほ銀行が、指定金融機関としての安全性を備えているかどうか確認する
目的で、先月下旬から、国を上回る体制で東京都独自に臨時の検査を実施しております。
このたびの事件は、銀行の最も基本的な機能である決済業務に支障を及ぼした大失態であ
り、2度と許されないものであります。近く検査結果を公表するとともに、どのような対
応が必要か十分吟味し、厳正に対処していきたいと思います。
3 新しい時代を切り拓く新しい政策の推進
 こうした安全対策を強化し、誰もが安心して社会活動を展開できる仕組みを整えながら、
同時に、新しい時代を切り拓く政策を積極的に推進いたします。
(新しい産業政策の展開)
 経済の長期低迷が続く中、産業構造の転換に異論をはさむ者はないと思います。しかし、
産業界には自発的に変化するほどの強い力はなく、国にも新鮮なアイデアが乏しいため、
一向に改革が進みません。
 今月27日に開業するビジネス支援図書館は、創業や事業の拡大を目指す個人、中小企
業経営者に対し、ITを活用して、実用的な情報や知識を提供する我が国初の施設であり
ます。東京には、新しい事業を起こすアイデアや意欲はありながらも、経営のノウハウ、
法律上の専門知識を持ち合わせていないため、能力を発揮できない有為な人材が、数多く
埋もれております。ビジネス支援図書館は、他では入手が困難な情報を豊富に取り揃え、
必要としている専門機関を紹介することで、そうした人達をソフト面から多角的に支援い
たします。
 この取組みは、東京の産業再生に向けた第一歩に過ぎませんが、新しい産業に対する支
援策を充実していくことで、事業所の開設率を大きく高めたいと思っております。
 新しい産業の育成には、産学公の連携もまた不可欠な取組みであります。多くの機関、
多くの分野で研究が続いておりますが、バイオと医療は、具体的な還元が期待できる段階
に近づいております。
 4月には、企業との交流会を開催したほか、都庁内に常設の相談窓口を設置いたしまし
た。今後、交流会を定期的に開催し、東京都が保有している研究開発の成果を民間企業に
積極的に提供したいと思います。情報提供の充実や投資家の紹介など、連携を一層強化す
ることで、新技術の開発や企業の創業などにつなげていきたいと考えております。
(港湾物流の刷新)
 古来より、人類は、物の交流を通じて多くの刺激を得、富を増してきました。四方を海
で囲まれた我が国にとって、港は外国との玄関口であり、流行の先端地でもありました。
航空網の発達した現代社会においても、なお、港湾は、海外貿易量の実に99.7%を扱
っており、極めて重要な役割を担っております。
 しかし、昔ながらの商慣行、国の縦割り行政、ITの立ち遅れなど様々な要因が効率化
を阻害し、日本の港は、すっかり国際競争力を失ってしまいました。
 我が国とは対照的に、国家戦略として高水準のサービスを提供することで、確固たる地
位を築いているのが、シンガポールであります。例えば、東京港では3時間近くかかる通
関手続きが、シンガポールの場合、わずか15分間で完了いたします。先般、日本の技術
を駆使して多量の貨物を次々と荷捌きしている様子を視察し、目の当たりにしました。非
常に無念な思いをいたしました。
 港湾ターミナルにおける所要時間の短縮は、コストの削減にも直結し、消費者に対し安
い商品を提供することが可能になります。企業の国際競争力を高めることにもなり、港湾
物流の効率化は、誰もが求める切実な課題となっております。しかし、国には、多数の利
害関係者を束ねる力がないため、問題を解決することができません。
 このような現況に対しては、今後、東京がリードオフマンとなって、国や関係者に情報
システムの一体化などを強く働きかけることで、早期に効率的な港湾物流を実現させたい
と考えております。
(環境影響評価条例の改正)
 今の時代、環境との共生は、都市において、欠かすことのできない要素であります。環
境に配慮した都市づくりを引き続き推進するため、今定例会に、環境影響評価条例の改正
を提案しております。
 改正案の柱の一つは、全国で初めて、計画段階からのアセスメントを導入することであ
り、昨年までの試行を踏まえ、東京都の大規模事業を対象に実施したいと考えております。
 もう一つの柱は、現行の手続きを簡素、合理化することであります。これまでの運用か
ら得られた知見を活かし、制度の趣旨を損なうことなく改善が可能な部分について、積極
的に見直し、手続き期間の短縮や対象規模の変更などを行いたいと思います。
 今回は、条例制定後20年が経過する中で、初めての本格的な改正となります。この改
正により、新しい時代にふさわしい良好な都市環境を形成したいと考えております。
(教育改革の促進)
 ところで、最近の若者を眺めておりますと、自らの個性をないがしろにしているように
見えてなりません。他人と同じ装飾をし、同じ行動を取ることで、小さな安心を得ている
のかもしれませんが、それでは、せっかく持ち合わせているはずの個性や、そこから育つ
感性、情念を殺すだけであります。同時に、我慢することができず、社会生活上、最低限
求められる秩序すら守ることのできない自分勝手な行動が増えております。
 これらは皆、結果の平等を重視し、画一的に知識を詰め込むことしかできなかった我が
国の教育行政がもたらした報いに他なりません。
 現在進めている都立高校改革は、一人一人の生徒が持つ可能性を引き出すため、高校の
差別化などを通して教育の現場に個性を吹き込む取組みであります。例えば、これからの
時代、ITは欠かすことのできない道具であり、遠隔教育や外国との交流、さらには美術
や音楽まで、広範囲にわたりITを使用する学校があって然るべきと思います。学習に馴
染めない生徒に対しては、基礎的な学力の定着や職業体験に力を入れ、達成感を体得させ
ることも立派な教育になります。また、都民の期待が大きい中高一貫教育校も、積極的に
設置すべきであると考えます。
 平成15年度から学区制が撤廃され、都立高校は選択と競争の時代を迎えます。学校の
経営責任を明確化することが必要であり、改革の実績をあげている学校を重点的に支援し、
意欲のある学校が評価される仕組みにしたいと思います。
 10月には、こうした内容を盛り込んだ都立高校改革の新しい実施計画を策定すること
にしており、都民に信頼される魅力ある都立高校を目指してまいります。
 一方、設立準備を進めている都立の新大学は、3年後に開校を控え、今年が、骨格を形
成する正念場の年となります。
 これまで大学は、教員にとって、また学生にとっても、世間から隔離され、安住できる
場所でありました。しかし、教育水準を高め、社会への貢献を増していくには、努力をし、
実績を残した者が正当に評価される大学としなければなりません。
 新しい大学は、法人化することで主体性を高め、さらに、民間の経営感覚を取り入れた
機動的な大学にしたいと考えております。そのためには、経営責任、教育研究責任を明確
に分離する必要があり、国に対し、法令の整備を強く要求してまいります。
 法人化の利点を最大限に生かすには、教員人事に業績主義を徹底する必要があります。
硬直的な人事を流動性の高いものに改め、優れた成果をあげた教員を優遇するなど、競い
合いの中から、優秀な人材を確保していきたいと考えております。
 社会を支えるのは、結局は人の力であります。都立の高校、大学を変えることで、新
しい時代を支える人材を一人でも多く輩出していきたいと思っております。
(新しい文化の創造と発信)
 都市の魅力、活力は、様々な要素が複雑に絡み合うことで形成されております。とりわ
け文化は、街の個性を創り出す重要な要素であり、伝統を受け継ぐ心と前衛的な発想とを
うまく融合させながら、東京の文化を育てていきたいと考えております。
 都立公園、歩行者天国などを利用して、近々、開始する予定の「ヘブンアーティスト」
事業は、若手のアーティストに公共空間を開放し、芸を磨いてもらう試みであります。こ
の事業が実施されれば、歩行者天国は一層賑わいを増し、地元商店街の振興にも大きく寄
与できると思います。10月には、多くの都民に、東京と世界のアーティストの競演を楽
しんでもらいたいと考えております。
 また、「アジア舞台芸術祭2002東京」を8月18日から開催いたします。これは、
演劇、音楽などアジア各都市の舞台芸術を一堂に集め、競演しながら交流を深める催しで、
アジア大都市ネットワーク21の共同事業の一つであります。多くの方々にご覧いただき、
アジアの舞台芸術を広く世界に紹介したいと思っております。
(平成15年度重要施策の策定)
 昨年新しく開始した重要施策は、重点的に実施すべき優先度の高い施策を予算編成に先
立ち選定するものであります。平成14年度の重要施策では、選定の過程で活発な政策議
論を行い、斬新なアイデアを事業化することができたと思います。
 平成15年度は、厳しさを増す財政状況を踏まえ、より一層効果の高い事業を中心に厳
選する必要があります。近く、重要施策の策定について、基本方針を示したいと考えてお
ります。
4 地方主権の確立を目指した活動
 最後に、地方主権について、一言申し上げます。
 地方分権一括法は、地方自治体や有識者の声に押され、不完全ではありますが、平成11
年に成立いたしました。残された大きな課題は、自主財源を強化することでありますが、
この間、何の変化もなく、地方主権が一向に進まないことに、多くの地方自治体が苛立ち
を覚えていると思います。
 総務大臣は、先月の経済財政諮問会議で国から地方への税源移譲を提案いたしました。
これは東京都税制調査会が既に提言している案と軌を一にするものであり、概ね評価でき
る内容ではありますが、問題は、いつ実現するかであります。国全体で真剣に議論し、速
やかに税源移譲することを強く要求いたしてまいります。
 一方、現在係争中の外形標準課税は、財政再建団体への転落が危惧される中で、法律で
認められた課税自主権を行使することで生み出した税であります。もちろん、導入にあた
っては、様々な角度から検討を重ねました。例えば、一審判決では、法人事業税の応益課
税としての性格を否定しておりますが、事業税が行政サービスの対価として課される応益
課税であることは既に確立した通説であり、この判決は、状況認識にまったく欠けるもの
であります。その上、地方の裁量も極めて限定的に解釈しており、時代の趨勢からもかけ
離れた論旨となっております。
 東京都の主張は、控訴審の中で詳しく訴えてまいりますが、これは地方主権そのものを
賭けた裁判であります。歴史の針を逆戻りさせることのないよう、全力を傾け訴訟を闘い
抜くつもりですので、都議会の皆様、都民、国民の皆様のご理解、ご支援を心からお願い
申し上げます。
 私たちは、今、主権の重みを改めて考える必要があると思います。主権は、それが確保
されることによって初めて、独立した個体としての自由な意思が保障される、極めて重い
存在であります。しかるに、国家の主権を揺るがしかねない事件が立て続けに発生しなが
ら、国の対応はまったく危機意識に欠けております。
 その一例が北朝鮮の工作船事件であり、工作船を通じて多量の覚醒剤が密輸され、若者
の精神と肉体を蝕み、さらには凶悪犯罪を誘発し、大都市の治安を悪化させているとも指
摘されながら、決定的な証拠となり得る沈没船を未だに引き上げておりません。また、瀋
陽での総領事館侵入事件では、いくつもの判断ミスを重ね、国民は、場当たり的な釈明を
聞かされるばかりであります。
 国家の主権すら守れない相手に対し、地方の主権を認めさせることは大きな困難が予測
されますが、主権を確立しない限り、真の自立は到来いたしません。実績を積み重ねるこ
とで国を動かし、地方の主権を獲得したいと思います。
 都議会の皆様、都民の皆様の一層のご理解とご協力を心からお願いいたします。
 なお、本定例会には、これまで申し上げたものを含め、条例案22件、契約案8件など
合わせて33件の議案を提案しております。よろしくご審議をお願いいたします。
 以上をもちまして、所信表明を終わります。