石原知事施政方針

平成14年9月18日更新

平成14年第三回都議会定例会 知事所信表明

平成14年9月18日

 平成14年第三回都議会定例会の開会にあたり、都政運営に対する所信の一端を申し述べ、都議会の皆様、都民の皆様のご理解とご協力を得たいと思います。

 ただいま桜井武議員は、栄えある永年在職議員表彰をお受けになりました。都政の発展に尽くされた25年のご功績に対して、深く敬意を表し、心からお喜びを申し上げます。

 冒頭、名誉都民の選定について申し上げます。
 このたび、名誉都民の候補者として、山下八百子さんを選定いたしました。山下八百子さんは、八丈島に古くから伝わる染織工芸、黄八丈の職人として、伝統文化の保存と継承に力を尽くされており、多くの都民が敬愛し、誇りとするにふさわしい方であります。都議会の皆様の同意をいただき、来月1日、都民の日に名誉都民として顕彰したいと考えております。よろしくお願いいたします。

1 首都圏骨格軸の新しいありよう

(三環状道路の整備促進の働きかけ)

 それでは次に、首都圏の骨格を形成するこれからの交通ネットワークについて申し上げます。
 陸海空を問わず、様々な経路を通じて、人、もの、あるいは情報が交流し、そこから生まれる刺激が、文明を発展させてまいりました。よろず運輸の手段は、文明のバロメーターであります。
 わけても道路は、その国の社会資本の豊かさ、成熟の度合いを映し出す鏡であると思います。経済活動に見合って道路が過不足なく整備されていることが、バランスの取れた姿であり、道路だけが立派であったり、逆に、道路整備が追いつかない状態は、その国が、歪みや矛盾を抱えている証左であります。
 日本では、地域間の不均衡が非常に大きく、ここ首都圏では、経済の規模に比べ、明らかに道路整備が立ち遅れております。特に、環状方向の高速道路は、計画の2割しか完成していないため、通過車両までもが都心に集中し、首都高速道路は、慢性的な渋滞に悩まされております。交通渋滞は、余計な排気ガスを充満させ、環境面にも大きな影響があります。
 高速道路に関しては、現在、道路関係四公団民営化推進委員会で議論が行われており、新規路線の扱いが、一つの論点となっております。新規路線には地方負担を求めるようでありますが、例えば、外かん道の関越道から東名高速道路を結ぶ区間は、一日10万台、全国平均の9倍の利用が見込まれており、所要時間を5分の1に短縮いたします。
 都内では、高速道路に限らず、短い路線の開通や部分的な改良であっても、顕著な改善効果を生み出します。例えば、環状8号線井荻地区は、立体交差が完成したことで、通過交通量は2倍に近く増加しながらも、渋滞時の走行時間は1時間以上短縮いたしました。また、東京港臨海道路の部分開通により、臨海トンネルをはさんだ両岸では、往来に要する時間が半分以下に縮まり、レインボーブリッジの交通量も2割減少しております。
 全国でも有数な交通需要と大きな整備効果が見込まれる首都圏の道路整備を、他の地域と一括りにブレーキをかけてしまうのは、日本の再生にとって自殺行為であり、極めて粗雑な考えであります。
 首都圏を網羅するネットワークが完成すれば、人の流れ、物の流れから無駄が消え、首都圏が抱える空港や港湾の機能も、格段に向上いたします。国益を考えた場合、首都圏に作る三本の環状道路は、あくまで国が責任を持つべきであり、相当の覚悟を持って、これからも整備の促進を働きかけていきたいと思います。

(羽田空港の再拡張の促進要求)

 羽田空港の再拡張もまた、国家戦略として捉えるべき問題であります。
 羽田空港は、各地から乗り入れの要望が多数ありながら、この夏の増便を最後に、空港容量は限界に達してしまいました。再拡張をしない限り、今以上の増便は、ほとんど不可能な状態となっております。
 国でも、羽田空港の再拡張を重要課題と位置づけてはいるものの、肝心の工法を絞ることができないまま、徒に時間が経過し、地方負担を求める動きだけが強まっております。国は、地域への利益が生じることを根拠に負担を求めるようでありますが、それでは、国全体に利益をもたらす羽田空港の役割を矮小化しており、説得力に欠けると言わざるを得ません。国家財政だけを優先させた、近視眼的な発想でしかなく、首都圏の環状道路と同様、国益に対する認識が抜け落ちております。
 今、国が為すべきことは、再拡張の道筋を早急に固め、併せて、羽田空港一帯を空の玄関口として相応しい姿に整えていくことであります。国の責任ある対応を強く要求してまいります。

(港湾サービスの向上)

 我が国が、食料の4割、エネルギー資源の8割を海外に依存する中で、東京港は、横浜港などとともに、首都圏の生活や産業を支える重要な拠点であります。しかし、この10年間で、欧米からアジアに向かうコンテナ船の多くが日本に寄港しなくなり、東京港をはじめ、日本の港湾は、相対的な地位を著しく低下させております。日本の港湾が、世界の物流の幹線ルートからはずれることになれば、輸送コストや輸送時間が増加し、国民生活に大きな影響が及ぶようになります。消費物資を安定的に輸入し、輸出産業の競争力を確保するには、日本の港湾は、大型のコンテナ船が寄港する魅力を持つ必要があります。
 そのためにも、港湾物流のIT化は大きな懸案であり、去る7月、東京都が主導して、国内主要9港の港湾管理者が集まる検討委員会を立ち上げました。今後協議を重ねながら、早期に官民の情報を共有化できるシステムを構築し、物流の効率化と顧客へのサービス改善につなげていきたいと思います。また、港湾区域では、様々な規制が必要以上に行動を束縛し、効率的な運営を妨げていることから、東京港を国際港湾特区とし、規制緩和を進めることを国に提案いたしました。
 さらに、この秋からは、港湾計画の改訂に着手し、国際競争力の強化に向けた総合戦略を早急に構築いたします。ハード面では、コンテナ貨物量の増加とコンテナ船の大型化に対応した埠頭の整備について、ソフト面では、コストの削減、荷捌き時間の短縮といったサービスの向上策について、具体策を示したいと思います。

(鉄道ネットワークの充実)

 都心から臨海副都心にかかる地域では、11月から12月にかけて、新駅、新線が相次いで開業し、交通の便が一段と向上いたします。
 大規模な開発が進む汐留地区では、街の活動の開始に時期を合わせ、11月2日、大江戸線と新交通ゆりかもめの汐留駅を開業いたします。りんかい線では、12月1日、大崎から天王洲アイルの区間が開業し、いよいよ全線開通となります。JR埼京線との直通運転も始まり、臨海副都心と渋谷、新宿、池袋や埼玉方面が太い線で結ばれます。

 3300万の人口を擁する首都圏は、イギリス一国やフランス一国と並ぶGDPを持ち、世界でも有数の生産活動、消費活動を営んでおります。その活動を支えるのが交通ネットワークであり、整備の遅れは、能率性の低下、競争力の弱体化となって、首都圏ばかりでなく、日本全体の致命傷となります。国を動かしながら、新しい交通基盤を整備し、首都圏の再生、日本の再生につなげていきたいと思います。

2 環境への等質等量の配慮

(大気汚染に対する認識と今後の取組み)

 一方で、モータリゼーション社会の悪しき副産物である公害に対しては、時代認識、将来展望を持ち得なかったため、未解決の問題が、数多く残されております。先ずこの点について、東京都を含め、関係者は、謙虚に反省すべきであります。
 とりわけ国は、環境問題の最終的な責任者でありながら、必要な策を講じることができず、そのため、大気汚染が、ここまで拡大いたしました。不作為に対する国の責任は、極めて重大であります。しかも、ディーゼル車に対する規制を強化するNOx・PM法の適用開始を、一旦決めた後また大幅に遅らせるなど、この問題を真剣に解決しようとする姿勢が、未だに感じられません。ディーゼル車の排気ガスが、肺がんの原因となっていることについては、これまで度々訴えてきましたが、アメリカ政府からも、先般、公式見解として、同様の指摘をいたしました。
 国の無責任な延期により、東京都の規制対象となるディーゼル車は、9万台から20万台へと、にわかに2倍以上に膨らむことになります。しかし、都民、国民の生命と健康を守るため、東京都は、当初の予定を変えることなく、来年10月から、基準を満たさないディーゼル車の走行を規制いたします。規制を効果的かつ円滑に実施するには、これからの1年間、周到な準備が不可欠であり、全庁的な連携体制の下、本日より「違反ディーゼル車一掃作戦」を開始いたします。
 何よりも必要なことは、使用者の理解と協力であり、自動車Gメンが、4千社の企業に直接立ち入り、内容の周知や協力の要請、指導等を行ってまいります。そのほか、自動車会社や装置メーカーには、新しい基準に合った自動車や装置の供給を拡大することを要請し、同時に、使用者への支援も充実していきたいと思います。都庁は、都内最大の荷主としても、配送や工事の現場から違反ディーゼル車を排除し、さらに、他の事業主へも、違反した車を使わないように働きかけることで、作戦の実効性を高めたいと考えております。
 来年からの規制に先立ち、都内一部のガソリンスタンドでは、今月より、従来の軽油に替えて、排気ガスの軽減に効果の高い低硫黄軽油の供給を開始いたしました。既に140を超えるスタンドで供給が始まっており、来年の4月までには、首都圏全域の軽油が低硫黄軽油となる予定であります。東京都の取組みを理解し、迅速に協力していただいた石油連盟の皆様には、改めて感謝を申し上げます。しかし、これはあくまでも通過点でありまして、石油連盟には、本日、次の措置として、あくまでも全国で速やかに低硫黄軽油を供給するよう要請いたしました。
 違反したディーゼル車をなくし、大気汚染を軽減するため、七都県市での連携も強めながら、様々な施策を展開していきたいと考えております。
 ところで来月には、大気汚染公害訴訟に対する第一審の判決が予定されております。この裁判は、一種の文明批判であり、真摯に受け止める必要がありますが、文明社会の中で生きる我々にとって、裁判を超えて必要なことは、自動車や道路がもたらす功罪に等しく目を向けることであります。東京都は、実行すべきことは速やかに実行し、また、主張すべきことは声を大にして主張することで、今後とも、都民、国民に対する責任を果たしていきたいと思います。

(夏の異常な暑さへの対処)

 ことさら暑苦しい日々が続いた今年の夏も、ようやく峠を越しました。それにしても、東京は、異常な程ねっとりとした、濃密な熱気に包まれていたような気がいたします。多くの方々が、ヒートアイランド現象の深刻化を実感した夏であったと思います。
 ヒートアイランド現象については、人工排熱の増加やアスファルトからの照り返し、緑の減少など、原因の大部分が解明できていながら、これまで、有効な策を講じることができませんでした。ヒートアイランド対策は、重要な都市政策であり、都市づくり、道路整備など多岐にわたる取組みが必要であります。来年早々に、今後の取組方針を策定したいと考えております。

(資源の有効活用を通じた新しい価値の創造)

 環境問題には、規制ばかりでなく、資源の有効活用の観点からも向き合っております。
 森林からは、育成の過程で伐採した間伐材が数多く発生いたしますが、その大半が、何ら活用されないまま放置されております。間伐材については、環境の保全、産業の活性化などの観点から、活用方法を検討しており、先ずは、道路でガードレールに代えて使用することにいたしました。
 今年度は、最初のモデルとして、国、千代田区と連携の上、麹町付近の内堀通りに木製のフェンスを設置いたします。今後、多くの方々の意見を伺いながら、順次拡大し、潤いと温もりを感じる街並みを創り出していきたいと考えております。
 また先般、下水処理の過程で発生する汚泥を土木用建設資材の新たな原料とすることに成功いたしました。既存の商品と比べても、優れた品質を確保しており、今年度中には商品化できる見通しであります。汚泥の減量とコスト節減との両面で、効果があるものと考えております。
 今後とも、こうした取組みを通じて、環境に配慮した社会を目指していきたいと思っております。

3 大都市産業の潜在能力の発掘

 次に、停滞している産業の活性化に向けた取組みについて申し上げます。

(中小企業支援の充実)

 いつの時代、どのような分野においても、新しい勢力が社会を変える原動力となります。しかし、最近の東京では、元気のある企業が満足に育たず、活力の低下が続いております。
 その原因の一つは、優れた発想力や高い技術力を持ちながらも、実績が少ないために、必要な資金を入手できない企業が多いことであります。東京都では、こうした状況を変えていくため、新しい資金調達の手段として、これまで3回にわたりローン担保証券を発行しております。今年度は、新しい仕組みとして、中小企業の社債を束ねて証券化するCBO(社債担保証券)を加えた上で、来年3月を目途に4回目の債券を発行する予定にしております。行政の主導による社債担保証券の発行は、我が国で初めてのことでありまして、東京の中小企業に対して、直接金融の道が開くことができたと思います。
 東京の産業を活性化させるには、総生産の2割を占め、貿易黒字の大半を生み出しているものづくり産業の再生もまた、大きな課題であります。
 中小企業振興対策審議会からは、先月末、競争力のあるものづくり産業の構築に向け、示唆に富んだ答申をいただきました。なかでも、規制改革や知的財産の保護、育成は、これまで取組みが遅れていた分野であり、答申の意を汲んだ早急な対応が必要であります。可能なものは、今年度中にも施策を具体化させたいと考えております。そのためにも、庁内の実行体制を整えることが重要であり、直ちに、実務担当者を集めた横断的な会議を組織いたしました。
 ものづくりは、経済活動の基本であります。その重要性を多くの人々が再認識するよう、社会風土の醸成にも努めながら、世界に通用するものづくり産業の振興に取り組んでいきたいと思います。

(観光産業の充実に向けた新しい展開)

 先のワールドカップでは、世界各地から多くの観光客が集まり、サッカーの祭典を楽しんで帰りました。この一大イベントは、日本の魅力を世界に伝える場にもなったと思います。しかし、日本を訪問する外国人はまだまだ少なく、国際旅行収支は3兆円もの大幅な赤字となっております。
 特に、日本から欧米には、毎年、800万人が出かけていきながら、逆に、欧米からは、150万人しか日本を訪れておりません。こうした状況を改善するため、東京都では、来月施行となる宿泊税を新たな財源として、観光振興に本格的に取り組んでいきたいと考えております。
 先ずは、潜在的な需要が見込まれ、観光客が増える余地の多い欧米の都市への直接ミッションを送り、セミナーや商談会などを通じて、東京の魅力を宣伝いたしたいと思います。また、観光客が東京で快適に滞在できるよう、目的に応じて選べる多様な観光ルートを開発するほか、観光案内機能の充実、宿泊施設のバリアフリー化など、受入体制を整備いたします。
 一方、アジアの都市とは、内外からの観光客を誘致するため、共同してキャンペーンを展開しております。先月には、8都市が東京に集まり、第1回目の観光促進協議会を開催いたしました。活発な議論を通じて、お互いに、連携の重要性を改めて確認することができました。当面は、ロゴマークの制定などを行い、一体感を高めながら、アジアの魅力を世界に訴えてまいります。
 東京が持つ観光名所は、都会の中ばかりでなく、奥多摩や島しょ地域にも数多くあります。とりわけ、小笠原諸島には、多くの人を魅了してやまない美しい自然が豊富に残り、非常に珍しい動植物が生息しております。しかし、観光客が、十分な知識を持たないまま、気ままに出入りするうちに自然が荒れ果て、一部では、見るに耐えない無惨な状況となってしまいました。このままでは、自然は失われる一方であり、それはまた、島の魅力を低下させることになります。
 そのため、7月、小笠原村との間で協定を結び、自然保護と観光の両立を目指すことにいたしました。当面、無人島である南島ほか1か所を自然環境保全促進地域に指定し、一定のルールの下に観光客を受け入れてまいります。地元と連携して、来月から、観光客に同行するガイドの養成を始め、来年の4月から、環境と調和した観光、エコツーリズムを実施する予定であります。

(広域的な連携による産業の振興)

 産業の振興には、ひとり東京の力だけでは限界がある場合は、共同して取り組むことが必要であります。ただ今申し上げた観光ばかりでなく、カジノや航空機の開発についても、地域を超えて積極的に連携しております。
 カジノは、有力な観光資源であると同時に、雇用面でも大きな効果があり、それだけで一つの産業と呼べるほどの存在であります。しかし、我が国では、法律が壁となり、カジノを実施することがなかなかできません。一部には、反対する意見もありますが、百万都市を抱える先進国では、日本を除き、すべての国が、カジノを認めております。我々も、固定観念に引きずられ、頑なに拒絶するのではなく、建設的な議論を行うべきであると思います。
 東京都は、来月、東京商工会議所と共同してイベントを開催し、積極的にカジノの魅力を宣伝いたします。500名程度の関係者を都庁展望台にお招きして、疑似体験などを楽しんでもらう予定であります。今後は、大人の知的な娯楽であるカジノの実現に向け、同じ意見を持つ自治体などと協力しながら、幅広い運動を展開し、国民への理解を広めていきたいと思います。
 また、ジャカルタなどアジアの5都市とは、航空機の開発について、連携を始めております。本来、航空機は、国家が主体となって開発すべきものでありますが、国が責任を果たさない状況を前に、東京都は、独自に行動を開始いたしました。アジアの大都市と連携することは、技術の補完、市場の拡大などの点から高い意義があるものと考えております。
 今世紀、アジアの航空需要は、欧米と比べ、高い伸びを見込むことができます。特に、アジアの地域内では、短距離の路線の新規開設も数多く見込めることから、中小型のジェット旅客機を開発促進することを基本に、協議を重ねております。
 来月には、国際会議「アジア旅客機フォーラム」を開催し、開発の機運を高めていく予定であります。さらに、11月デリーで開催される、アジア大都市ネットワーク21第2回総会でも、環境、教育、観光などとともに議題として取り上げることになっております。
 こうした東京都の行動は、ようやく国を動かしまして、経済産業省は、来年度の予算要求に小型ジェット機の開発経費を盛り込みました。遅ればせながら、国にもようやく問題意識が芽生えてきたようであります。我が国の将来のため、アジアの将来のため、国とも連携をとりながら、取組みをさらに強化していきたいと思います。

4 都政の緊急課題への対応

 次いで、都政の緊急課題について何点か申し上げます。

(防災、防犯対策の強化)

 三宅島の噴火により島民全員が島を離れてから、3度目の秋が訪れております。火山ガスは未だに終息の兆しを見せず、帰島の願いを拒み続けておりますが、島の復旧は着実に進んでおります。
 悪天候、有毒ガスなどの厳しい条件を抱えながらも、寸断されていた道路は、島内を一周できるまでに回復し、泥流対策のための砂防ダムは、年末までに28基が完成する予定であります。来年3月には、島民の滞在用としては初めて、脱硫装置を備えたクリーンハウスが整備でき、島は、一度に300人の島民を受け入れることが可能になります。
 また、これから先、島の安全性を検証し、帰島時期の判断材料としていくために、専門家を交えた検討会を、国と共同で立ち上げることにいたしております。今後も、国や三宅村とともに、島の復旧、島民への支援など、できる限りの対策を講じていきたいと考えております。
 今月1日、直下型の大地震に備えて実施した総合防災訓練では、高層ビルからの救出訓練や、ITを活用した安否確認など、実践的な内容を取り入れ、防災関係機関との連携強化に大きな成果を挙げました。横田基地では、昨年に引き続き、米軍の協力の下、負傷者や救援物資などの輸送訓練を行いました。今年は新たに、基地周辺の5市1町も参加し、地元自治体と一体となって充実した訓練ができたと思います。
 全世界を震撼させたアメリカでの同時多発テロから1年が経過しましたが、テロの脅威は未だに続いております。国際テロから都民を守るため、来月、全国で初めて、テロ対策専門の組織を警視庁に新設いたします。
 また、大都市の治安を致命的に悪化させている来日外国人や暴力団の組織犯罪に対しては、都内96の警察署に専門の組織を設け、覚醒剤や銃器などの取締りを強化いたします。来年度は、警視庁に組織犯罪対策部を新設する予定であり、首都東京の治安の向上、都民生活の安心・安全の確保のため、努力を続けるつもりであります。

(福祉、医療改革の推進)

 福祉と医療は、日々の生活と非常に密着しており、都民が安心して社会活動を行うには、福祉、医療の供給体制を整えておくことが不可欠な要件であります。行政には、今の時代に必要とされるサービスを、適切に提供することが求められます。
 これからの福祉は、多くの事業者が、競い合いの中から多様なサービスを提供し、利用者は、自分に最も合ったサービスを選択できる仕組みとすべきであります。その中で、東京都は、直接サービスを供給することではなく、新しい福祉の枠組みを整え、その実現に向け、区市町村や民間事業者を支援していくことに、比重を移す必要があります。都立の福祉施設は、民間移譲等を進めていくことを基本に、7月に示した改革案について、利用者のサービス水準の確保など環境を整えながら、今後、具体化していきたいと思います。
 一方で、東京は、用地の確保が困難であるなど特有の問題を抱えているため、地域での暮らしを支える施設が依然として不足しております。こうした現況を改善するため、今年度、用地取得に対する独自の補助制度を構築しており、このたび、その最初の事例として、品川区で痴呆性高齢者向けのグループホームの整備に着手する運びになりました。心身障害者施設の緊急整備も着実に進んでおり、高齢者や障害者が住み慣れた地域で安心して生活できるよう、今後さらに、支援を充実したいと考えております。
 小さな子どもを抱える親にとっては、夜間突然の発病にも対応できる救急医療機関を確保しておくことが、切実な願いとなっております。地域における小児医療を強化するため、今月、内科などの開業医に対し、臨床研修を開始いたしました。
 小児医療ばかりでなく、365日24時間、患者中心の医療を実現していくため、東京都は、様々な対策を講じております。なかでも、都立病院改革は、東京の医療を総体として向上させるために不可欠な取組みであります。今定例会には、都立病院改革マスタープランで示したスケジュールのとおり、母子保健院の廃止条例を提案しております。
 なお、地域の小児初期救急医療の充実を求めていた地元世田谷区とは、今後の取組みについて、先月、基本的な合意が形成されました。また、今年3月には、世田谷区内に500床のベッドを持つ国立成育医療センターも開設し、入院患者への対応も進んでいることから、母子保健院については、12月を目途に閉院したいと考えております。
 今後とも、福祉改革、医療改革を着実に推進し、都民が希求するサービスを実現していきたいと思います。

(資金配分基準の策定)

 かつて国が金融機関を手厚く保護していた時代には、資金運用の際、商品の違いによるリスクの差はあっても、預託先金融機関の違いによるリスクの差は、ほとんど存在しませんでした。しかし、ペイオフが解禁となり、金融機関に対しても、また金融商品に対しても、自己責任による厳格な選別が必要となっております。
 このたび策定した資金管理計画は、最小限のリスクの中で、効率的な運用を追求することを基本に、公金の具体的な配分基準を定めたものであります。先ず、取引先については、一部の金融機関に片寄っていた閉鎖的な枠組みを改め、健全な金融機関であれば、広く外国銀行、地方銀行、信用金庫も対象に加えていきたいと考えております。また、金融商品については、元本保証のある商品とすることを前提に分散を進め、銀行預金ばかりでなく、債券の購入を大幅に増やす予定であります。今後さらに実績を積み重ねていきながら、公金の管理、運用に万全を期していきたいと思います。

5 行動の秋を迎えて

 ようやく夏が終わり、これから本格的な秋を迎えます。我が国の現況は、既に秋を通り越し、冬、それも春の到来をなかなか予測できない長い冬に迷い込んでしまったように思えてなりません。
 スイスに本部を置く国際経営開発研究所(IMD)が毎年発表している国際競争力のランキングによれば、10年前、世界のトップにあった日本は、その後毎年順位を下げ、今年は30位にまで転落いたしました。最近では、日本の将来を見限ったのか、商機に敏感な外国資本が、日本の市場から撤退したり、アジアの拠点を他に移すなど、動きが目立っております。他にも、国債の格下げなど、世界から聞こえてくるのは、日本の地位の低下に関する話題ばかりであります。
 情けないことに、このような状況を前にしても、国は、独りよがりな言い訳に終始し、現況を打ち破る具体的な行動をほとんど起こそうといたしません。誰もが、非常に歯がゆい思いをしていることと思います。
 国内経済を眺めても、急きょ策定に着手した国のデフレ対策「緊急対応戦略」は、減税、金融など柱となる政策を巡って内部対立が激しく、国民の信頼を得ることは難しいように思えます。国の機関には、自らの立場を正当化しようとする動きばかりが目につき、ライン化の弊害だけが際立つ、皮肉な様相を呈しております。また、1400兆円とも言われる個人金融資産を活用する戦術も一向に持ち合わせがなく、最近の金融政策は、ペイオフの解禁をめぐり、迷走状態にあります。
 東京都は、このありさまの国に引きずられ、ともに朽ち果てていくことを甘受するのではなく、逆に、国をも立て直す起点となるように、様々な行動を起こそうとしております。
 その一つが、横田基地の返還問題であり、国は端から交渉をあきらめておりますが、東京都は、返還を最終的な目標に、当面は軍民共用化に向け、様々な運動を展開してまいりました。この秋は、出来るだけ早い時期に直接アメリカへ出向き、横田基地の問題を含めた、今後の日米関係の基軸について、多数の政府要人と意見交換したいと考えております。
 また、今月4日には、個人向け地方債「東京再生都債」を募集いたしました。皆様から高い評価をいただき、個人向け地方債としては我が国最大の規模であったにもかかわらず、受付開始からわずか80分で完売となりました。追加の発行を求める声が多数寄せられていることから、11月に2回目の募集を行う予定であります。
 これからの時代、行政には、ラインの垣根を超えた複合的・重層的な力を発揮することが求められております。現在策定中の重要施策は、それを実践する場であり、そこから、都政を活性化していきたいと考えております。
 もちろん財政状況は予断を許さず、来年度予算は、一般歳出をマイナスとせざるを得ない程、極めて厳しい環境にありますが、こうした創意工夫により、今日の危機を乗り越えたいと思っております。

 最後に、小泉総理の北朝鮮訪問について、一言申し上げます。
 昨日、小泉総理が、金正日総書記(国防委員長)と会談し、その過程で、拉致された方々について、非常に痛ましい、衝撃的な内容が伝えられました。死亡を通告された方々、並びにその家族の皆様には、心よりお悔やみを申し上げます。
 北朝鮮は、卑劣極まりない蛮行を繰り返し、我が国に計り知れない被害を与えたことを自ら認めました。欺瞞に満ちた対応を続け、このような事態を招いたことについて、北朝鮮に対し、都民を代表して強く抗議いたします。一方、何の手立ても講じることもないまま、同胞を見殺しにしてきた日本政府の対応には、猛省を促すと同時に、遺憾の意を表わすものであります。
 政府は、今後、国交正常化に向けた交渉を始めるようでありますが、その前に、拉致問題について、得心のできる結論が得られるべきと思います。拉致事件当時、都内に在住しており、昨日の段階では安否が確認されなかった久米裕さんの消息についても、当然、全力を挙げて解明すべきであります。
 拉致問題以外にも、北朝鮮には、不審船による侵入、覚醒剤の密売、核兵器の開発など数多くの疑惑が残されております。せめてこの先、小泉総理には、北朝鮮なる国の本質をしっかりと見極め、国民の生命と財産を守ることを第一に、毅然とした態度を貫くことを強く建言したいと思っております。

 なお、本定例会には、今まで申し上げたものを含め、条例案20件など合わせて28件の議案を提出しております。そのうち、老人医療費の助成などに関する条例改正2件につきましては、老人保健法の改正に合わせて、10月1日から施行したいと考えております。よろしくご審議をお願いいたします。

 以上をもちまして、所信表明を終わります。ありがとうございました。