石原知事施政方針

平成14年12月3日更新

平成14年第四回都議会定例会 知事所信表明

平成14年12月3日

  平成14年第四回都議会定例会の開会にあたり、都政運営に対する所信の一端を申し述べ、都議会の皆様、都民の皆様のご理解とご協力を得たいと思います。

 高円宮憲仁親王殿下におかれましては、11月21日、薨去されました。ここに、都民を代表して哀悼の意を表し、心よりご冥福をお祈りいたします。

1 大気汚染対策の加速

(環境問題に対する正当な時代認識)

 さて私達人類は、有史以来の歴史の中で、文明の発展に針を重ねて成長を遂げてまいりました。しかし、発展、進化の過程で、限界を遥かに超えて無理や無駄を続けた結果、様々な矛盾や歪みが露呈しております。ここ東京では、世界で最も集中、集積が進んだ大都市となりましたが、多くの欲求を満たしてきた場所になると同時に、多くのものをも失ってきた場所となりました。その一つが自然環境であり、特に大気は、ここで歯止めをかけなければ、回復不可能な段階にまで汚染が進んでおります。
 東京の大気汚染の元凶は自動車の排気ガスであります。一日で500ミリペットボトル12万本分が吐き出される粒子状物質をはじめ、二酸化窒素、ベンゼンなどが、東京の空気を汚しております。とりわけ深刻な問題は、ディーゼル車が及ぼす影響であります。都内の肺がん死亡者のうち、2割以上はディーゼル車からの排出粒子が原因であるとされており、都道府県の中では日本で2番目に高い比率となっております。
 私達は、車社会によって便利な生活を享受する一方、その代償として日々命を削っているのであります。アメリカの作家で、20世紀を代表する科学者でもありましたレイチェル・カーソンは、半世紀前、「沈黙の春」という本の中で、環境を破壊する人間の行為は結局は我が身を滅ぼすことになると繰り返し訴えておりました。この偉大な預言者の警告は、まさに今、現実の問題として目の前に出現しております。東京は大いなる危機に瀕しております。もはや環境問題は、経済とのトレードオフではなく、生命とのトレードオフの関係にあることを私達は等しく認識すべきであると思います。

(大気汚染公害訴訟への対応)

 このような中、10月29日に、大気汚染公害訴訟の第一審判決がありました。大気汚染が、原告の方々をはじめ、多くの都民の生命と健康を蝕んでいることに対しては、行政の対応がこれまで不十分であった点を重く受け止め、心からお詫びを申し上げます。しかし、これもひとえに、国が正当な状況認識を持たないまま無為無策を続けてきたことに起因しております。そこに問題の本質があるにもかかわらず、今回の判決は、国の排出ガス規制責任を一切認めておりません。最も重大な論点に目をつぶったものと言わざるを得ず、到底承服できるものではありません。
 しかし、その一方で、誰もが被害者であると同時に加害者でもある大気汚染は、裁判で対応可能な範囲を超え、社会全体の問題として捉えるべき段階を迎えております。これ以上裁判を長期化させても、大気汚染を解決することはできず、健康被害者の救済を先送りするだけであります。
 今必要なことは、裁判で原告の方々と論争することではなく、国と直接対決し、国の政策を転換させることであります。したがって、判決内容を不服とする中での異例の措置とはなりますが、抜本的解決を優先させるため、控訴しないとの判断を下しました。

(今後の大気汚染対策の取組み)

 今後は、大気汚染の早期解決に向け、様々な角度から対策を講じるつ
もりであります。
 最大の課題は、国を動かすことであります。歴史認識がなく、保身と体面だけを気にする国の官僚からは根強い抵抗が想定されますが、現況を放置することは、国民の生命を守る責任を放棄することに他なりません。政治の決断が求められる局面であり、総理大臣に対しては、先般、大気汚染対策の強化を直接要請いたしました。
 国は、判決後、不正軽油対策の検討をようやく開始いたしました。小さな改善ではありますが、その動きは極めて緩慢で、まだまだとても満足できるものではありません。都議会の皆様、都民の皆様とともに世論を形成しながら、今後とも、国の責任ある対応を強く求めていきたいと思います。
 東京都独自の取組みも、これまで以上に加速したいと思います。来年10月から開始するディーゼル車への規制は、大気汚染の軽減に必要な最低限の措置であり、すべての事業者が遵守する必要があります。経済的に苦しい立場に置かれている小規模零細事業者には、新しい融資制度の創設や補助制度の充実を通して、車両の買換え、改良を支援いたします。
 規制を円滑に行うには、粒子状物質除去フィルターDPFの装着態勢を一層充実していくことも必要であります。このため、都内1000か所の整備工場で働く整備士を対象として、来年3月までに、大田など5校の技術専門校において、DPFの装着に関する講習を無料で実施したいと考えております。

(円滑な道路交通の実現)

 また、社会活動に比べて道路の絶対量が不足しているため、大気汚染がさらに悪化していることも、見逃すことのできない東京固有の問題であります。東京では、道路整備は、走行時間の短縮など直接の経済効果だけではなく、大気汚染の軽減など外部不経済の解消にも優れた効果を発揮いたします。中でも環状方向の道路は整備が遅れており、その開通は、首都圏全域に高い波及効果をもたらします。
 先に実施したアンケート調査でも、首都圏に暮らす多くの住民が外環道の開通を待ち望んでいることが明らかになりました。今月25日には、首都高速中央環状王子線が開通し、都心環状線北側の渋滞が緩和される見込みであります。着工以来16年の歳月を要しましたが、それだけの価値を持つ、東京に不可欠な路線であり、引き続き、三環状道路の全線開通を目指して整備を促進いたします。
 ほかにも、渋滞の激しい交差点で違法駐車対策など渋滞対策を集中的に実施し、車の流れを円滑化することで、大気への負担を減らしていきたいと考えております。

2 大都市間の強固な絆

 幹線道路の整備に代表されるような、地域を超えた広域的課題が増加する中で、国を動かし、政策を実現していくには、都市と都市との合従連衡が重要であり、東京は、内外大都市との連携を強化しております。

(国内大都市との連携)

 七都県市からなる首都圏は、相互に補完しながら一体的に生活圏、経済圏を形成しており、3300万の住民が都道府県の垣根を意識することは非常に稀であると思います。現在、七都県市の間では、住民意識を追いかける形で、自治体相互の交流が強まりつつあります。住民サービスの向上のためには七都県市の連携が不可欠であり、この先も、今の流れを大切にすべきであります。首都圏のリーダーが集まる七都県市首脳会議は、お互いの認識を共有する場として、ますます重要性を高めていると思います。
 先月の首脳会議で、危機管理体制について新しい合意が生まれたことは、大きな成果でありました。首都圏のような過密地域で大規模災害が発生した場合、被害を最小限に抑えるために、自治体の連携は欠かすことのできない取組みであります。合同での防災訓練を充実するほか、様々な課題に素早く対応するため、新しい組織を設置し、常設の事務局を東京都に置くことで協議が整いました。
 危機管理に関しては、東京都単独の取組みも強化いたします。情報を迅速に汲み上げ、指揮命令を混乱なく行うために、来年4月、局長級のポスト「危機管理監」を新設いたします。警察、消防、自衛隊などとも常時連絡を取り合う予定であり、これまでにない対策を組み込みながら、都民の生命、財産を守る覚悟であります。
 このほか、先の首脳会議では、ディーゼル車対策、都市再生などについて、進展を見ることができました。ディーゼル車対策としては、国における健康被害者救済制度の創設を緊急提言したほか、推進本部を設置し、来年10月の条例の施行に向け連携体制を強化いたしました。首都圏の再生についても、協力して取り組むことを改めて確認するなど、有意義な会議であったと思います。
 今後は、さいたま市を含めた首都圏八都県市での枠組みが、広域行政の基本となります。しかし、状況に応じてきめ細かく対応していくためには、新しいパターンによる連携にも積極的に乗り出す必要があり、神奈川、大阪などと共同で行動を起こしております。
 その一つとして、神奈川県、横浜市、川崎市とは、国に対し、東京湾の臨海部を対象に経済特区を創設し、減税などを通じて集中投資を促すことを提案いたしました。
 他方、西日本の最大の自治体である大阪府とは、大都会での絶対的に不足している道路整備を促進するため、道路財源の充実などを共に訴えました。日本を代表する2つの経済圏は、車の両輪として国全体を牽引することが求められており、さらに今後は、より大きな形での連携を考えながら、国家の再生に貢献していきたいと思います。

(世界大都市との連携)

 東京は、国内だけでなく、海外、なかんずくアジアの大都市と強い繋がりを築いております。
 先月21日から22日にかけてインドのデリーで開催されたアジア大都市ネットワーク21の第2回総会は、共同宣言を取りまとめて閉会となりました。各都市代表の間で環境をテーマに忌憚なく意見交換したほか、共通の重要課題である危機管理についての検討を開始するなど、実りの多い2日間でありました。
 共同事業として東京が提唱しております中小型ジェット旅客機の開発促進は、国や民間企業を巻き込んで、活発な議論を重ねております。関係する都市の間でも次第に意欲が高まってきたことは、何よりの進歩であります。このほか先の総会では、観光事業の連携、ITを活用した遠隔教育などについても熱心な議論がありました。アジアの大都市が植えた政策の苗は、着実に育っていると思われます。
 また、総会に先立ち、共同事業とも深く関連する航空機メーカーやIT関連企業を現地で視察し、アジアのポテンシャルの高さを目の当たりにすることができました。アジアの各都市、各国が協力すれば、欧米に伍して、世界の三極の一つを形成することは十分可能であり、アジア発展のため、連携の必要性をますます強く感じた次第であります。
 この秋は、ヨーロッパを代表する都市、ロンドン、ベルリンに対しても、新しい関係の構築に向け、行動を開始いたしました。これまで、この2つの都市に限らず、都民がヨーロッパを訪れることは一般的な観光として定着していながら、逆に、ヨーロッパからは限られた数の市民しか東京を訪問しておりません。最先端の科学技術や伝統芸能が併存する東京は、外国人にも十分な満足を提供できる都市であり、条件さえ整えば、多くの外国人が東京を訪問するようになると思います。
 まず必要なことは、東京の魅力をPRすることであり、先般、民間事業者と共同して、シティセールスのミッションをロンドン、ベルリンに派遣いたしました。海外の都市における本格的なシティセールスは、地方自治体としては初めての試みであります。
 どちらの都市でも関心は高く、セミナーや商談会には、現地の旅行会社などから250名、100社を超える参加がありました。実際にツアーの商談が成立した事例もあり、早くも具体的な成果が挙がっております。今後も積極的にシティセールスを展開し、外国人旅行者の誘致に努力したいと思います。

3 次なる跳躍に向けた政策の展開

(都政の構造改革の戦略的指針)

 東京都は、世界最大の地方政府として、人、モノ、カネの別を問わず多くの資源を保有しております。しかし、巨大な体を制御できないまま、全体の戦略を描き切れずにいるのが現実の姿であります。その上、長年にわたり染み付いた仕事のライン化や職員の縦割りの意識など、制度疲労と呼ぶべき構造的な弊害が体質改善を妨げておりまして、都政の基盤は、依然として、脆弱であると言わざるを得ません。
 先日策定した重要施策では、こうした問題を解決するために、すべての分野を網羅する計画ではなく、都政の危機が顕著に現れている7つの分野に限定し、課題と目指すべき方向を明らかにいたしました。そこからさらに、来年度の重点事業として選定した22のプロジェクトには、集中的に資源を投入する予定であります。
 例えば、食の安全は、失われた信頼を回復するために、立て直しが必要であり、独自の取組みを充実いたします。輸入食品倉庫等の監視を強化するほか、消費者などからも発信される情報をいち早く収集、検証し、健康被害を未然に防ぐ手立てを講じます。また、衛生管理に関する認証制度を創設し、民間の自主的な取組みを支援いたします。
 多岐、多様な生産、流通、消費の過程を監視することは非常に困難な仕事でありますが、安心、安全を守る努力を重ねていきたいと考えております。温暖化の阻止に向けても、大規模な事業所に対する二酸化炭素排出量の削減義務など先進的な取組みを検討し、都民の生活環境を守っていきたいと思います。
 そのほか、まちづくりの面では、画一的な規制を見直すことで、事業を促進する仕組みを構築いたします。大規模な都有地が存在する地域においては、地域の特性に応じて規制緩和などを集中的に実施し、民間事業者の手で優良なプロジェクトを推進したいと思います。
 福祉に関しては、高齢者、障害者などが住み慣れた地域で暮らしていけるよう、グループホームや生活寮の整備を重点的に進めます。独自の支援策としまして、今後3年間で3千人分の障害者施設を整備するほか、社宅などを改修して高齢者向けのグループホームに転用する場合には、特別の助成を考えております。
 今回の一連の取組みは、都庁の仕事の進め方についても根本から見直しを図る大きな改革であります。今後、重要施策を通じて育つ新しい執行体制を庁内に広め、構造改革を浸透させたいと思っております。

(新しい文化の育成)

 人間の感性の賜物である文化、芸術は、都市にとって、潤いを醸し出す貴重な存在であり、活力の源泉ともなっております。一方、アーティストは、多くの市民の厳しい評価、視線に応えることで自身の芸を磨いてまいりました。都市と文化は、お互い切り離すことのできない関係にあると思います。
 9月から開始したヘブンアーティスト事業は、東京都の審査に通った大道芸人やミュージシャンに歩行者天国、都立公園など公共の場で、活動の機会を提供するものであります。出演者、観客どちらからも好評を博していることから、現在、2回目の審査を行っており、アーティストの数を増やしていく予定であります。併せて、商店街や歩行者天国での実施を増加し、より多くの方々に演技をご覧いただきたいと考えております。

(住宅ストックを活用した居住環境の改善)

 良好な居住環境を確保することは、日常生活の基本であります。東京の住宅にとって必要なことは質の改善であり、これまでの蓄積を活用することで、居住水準の向上を目指していきたいと考えております。
 アメリカと比較した我が国特有の住宅事情としては、転居の回数が極めて少ない点があげられます。その一因は、中古住宅の市場取引が少ないことであり、多くの消費者は、中古住宅の品質に不安を抱いているため、購入を躊躇しております。
 転居に対する不安や抵抗が少なくなれば、家族構成などが変化した場合、転居することで、希望に適った住宅を選択できる可能性が拡大いたします。消費者の不安解消に向けた最初の取組みとして、一定の水準を確保したマンションを登録し、広く都民に知らせる優良マンション登録表示制度を開始いたします。今年度中に準備を終え、来年4月より稼動させる予定であります。
 マンションの建替えに対する支援も、まだまだ不十分であります。民間のマンションには老朽化が進んでいるものが多く、容積率の緩和など建替え支援策を講じております。しかし、建替え期間中の仮住いを確保できないため、建替えに踏み切れない事例がいくつもあります。マンション建替えの際、都営住宅を一時的に提供することは、所得の少ない方々にとって、強力な支援となります。
 また、若年ファミリーへの住宅支援は、少子化対策の面からも重要であります。若年世帯では都心など便利な地区の需要が多く、より公平に応えていくためには、入居期間を限定する必要があります。
 昨年、国の制約が及ばない都営住宅を対象に、我が国で初めて導入した期限付き入居制度は、都民の関心が極めて高く、充実を求める声が多く寄せられております。国に対しては、地域の実情に応じ期限付き入居制度を実施できるよう、これまでも繰り返し法改正を要求しております。しかし、国には今のところまったく動きがないことから、可能なものについて、国の対応を待つことなく独自に拡大に踏み切るべきと判断いたしました。本定例会には、若年ファミリー層やマンション建替えに伴う一時的な住宅困窮者など緊急性の高い世帯を対象として、国の制約を受ける都営住宅についても、期限付き入居制度を拡げる条例改正を提案しております。
 住宅は、都市の重要な社会資本でもあります。新しい取組みを通じて住宅市場を活性化し、立ち遅れている東京の居住環境を改善していきたいと思っております。

(東京の産業を支える緊急対策)

 国は、止まらないデフレ経済を前に補正予算の編成や金融対策に追われております。しかし、この間の議論を聞く限り、危機的状況にある日本経済を本気で立て直そうとする切迫感は、あまり伝わってまいりません。経済対策の遅れによって深刻な影響を被るのは、都民、中小企業であります。都内の完全失業率は5.8%を記録し、企業倒産件数は最多となるなど、雇用、中小企業対策は、一刻の猶予もならない事態に直面しております。
 先般、中小企業に対しては、年末の資金需要に向け、つなぎ融資や借換融資を新設し、総額2千億円の金融対策を実施いたしました。今後、企業の再生、再建に重点を置いた新規融資を開始するほか、来年度の制度融資は過去最大の規模とする予定であります。同時に、提供する求人情報の大幅な増加や区市町村と連携した相談会の実施など就業支援策も強化し、都民の雇用と中小企業の活動を支えたいと思います。
 また、企業が保有している技術を広く活用することも、重要な課題であります。中小企業には、世界トップレベルの技術を開発しながらも、販路がないばかりに、認知されていない技術や製品が、多数埋もれております。いかに卓抜した技術であっても、製品となって売れなければ、産業を活性化する力とはなり得ません。
 来年度からは、中小企業の技術を製品化に導く新しい手法として、ビジネスナビゲータ制度を導入いたします。これは、海外勤務や今までの営業での豊富な経験、人脈を活かして、商社やメーカーなどの大企業OBに、中小企業の製品販売や技術提携をあっせんしてもらう制度であります。この事業が実を結ぶよう、ナビゲータに対しては、成果主義を徹底いたします。都内の中小製造業を対象に新製品、新技術の掘り起しを図り、産業の再生につなげていきたいと思います。
 今日の景気の低迷に対応するには、産業政策ばかりでなく、税制面などからも複合的に中小企業を支援する必要があります。23区の商業地では、他の地域に比べ固定資産税、都市計画税が過大な負担となっていることから、現在、小規模な非住宅用地を対象に減税を実施しております。また、新築住宅と小規模住宅用地についても軽減措置を講じることで、経済波及効果の大きい新築住宅の建設などを誘導しております。
 税の軽減は今年度をもって終了となりますが、現況を眺めた場合、都民に負担の増加を強いる時期ではないことから、来年度も、3つの措置については、区の協力を受け、いずれも継続したいと思います。東京都の財政は、都税収入の落ち込みが避けられず非常に厳しい環境にありますが、土地税制に対する公平性の確保や景気に対する配慮を継続すべきと考え、判断したものであります。

(外形標準課税訴訟への一致協力した対応)

 ところで、外形標準課税については、誠に不本意ながら、課税対象である金融機関の一部より訴訟を提起されております。
 その控訴審が、3回の口頭弁論をもって、去る11月5日に結審いたしました。外形標準課税は、地方自治の本旨に則った正当な課税であり、東京都は、関係職員が一致協力して対応し、一審判決の不当性や条例の適法性を訴えてまいりました。地方税法の立案に携わった奥野誠亮衆議院議員をはじめ、多くの専門家の方々からいただいた意見書は、東京都の主張を裏付けする極めて有力な証言であります。控訴審を通じて、国の有権解釈と東京都の見解とが一致していることが明確になったと考えております。
 来年1月30日には言い渡される判決では、東京都の主張に沿った結果が得られるものと固く信じております。この間、一貫して支援していただいた都議会の皆様をはじめ、都民、国民の皆様、関係者の皆様のご理解とご協力に対し、心から感謝申し上げます。

4 厳しい社会情勢の中で

 今年もまた、社会の好転する兆しが一向にないまま、時間だけが徒に過ぎ、早くも師走となりました。それにつけても、この頃とみに感じるのは、日本全体がなぜか非常にひ弱になっているという気がしてなりません。
 社会の活気を生み出す原動力は、前を見て突き進む冒険心や横にそれる遊び心の中から湧き出すものであります。然るに、その主役となるはずの若者は、そうした思考、発想を小説やゲームの中だけに閉じ込め、現実の世界で飛び跳ねる活力をあまり持ち合わせておりません。
 これは何も若者だけが責めを負う問題ではなく、そのような育て方しかできなかった上の世代、我々にこそ、重い責任があります。豊かな生活に慣れた国民は、小さな失敗を恐れるあまり、大きな成功をつかむきっかけを自ら放棄しております。その結果、社会はダイナミズムを失い、縮んでいくばかりであります。
 今は、いつしか狂ってしまった歯車を修正できる、最後の段階を迎えていると思います。小柴昌俊さん、田中耕一さんの今回のノーベル賞同時受賞を引き合いに出すまでもなく、日本人は、本来、高い能力を備えております。必要なことは、自らの能力や将来の可能性を信じて、一人ひとりが持てる力を出し切ることであります。たとえ難題に直面したとしても、決して逃げることのない、たくましい行動力が、再生を推し進める力になるのだと思います。
 東京都は、新しい道に進むことで、新しい活力を生み出していきたいと考えております。
 首都圏における空のアクセスの拡充は、対応の遅れがそのまま国家再生の致命傷となる、焦眉の課題であります。そのためにも、羽田空港の再拡張、国際化は、一日も早い着手、完成が必要であり、東京都の働きかけによって、この問題は大きく前進しております。これより先、国は、速やかに事業に着手し、財源の問題も含め、自らの役割を自覚して、総力を挙げてこの国家プロジェクトを推進すべきであると思います。
 首都圏の再生策を巡って、昨日、日本経団連の奥田会長と会談した中でも、羽田空港については、あくまでも国の責任の下、早期に再拡張を完成すべきであるとの見解で一致いたしました。財界のトップが羽田空港の再拡張にようやく強い賛意を示したことは、首都圏の自治体にとっても誠に心強い限りであります。強力な援軍が出現したことで、事業に大きな弾みがつき、我が国の将来に多大な利益をもたらすと思います。
 東京都は、引き続き、国の対応に厳しく目を光らせながら、再拡張を早期に実現させたいと考えております。それが、都民、国民に対する責務であるとも思います。
 今回提案している人事、給与に関するいくつかの条例は、自らの立場を冷静に見直し、内側から都政を改革しようとするものであります。職員給与については、マイナス給与改定にあわせて、2%の上乗せ削減を平成16年3月まで実施したいと考えております。職員団体の活動に対しても、都民の理解が得られるよう、原則に立ち返り、新しい労使関係を築いていきたいと思います。
 都議会の皆様、都民の皆様の一層のご理解とご協力をお願いいたします。

 なお、本定例会には、これまで申し上げたものを含め、条例案25件、契約案6件など合わせて33件の議案を提案しております。よろしくご審議をお願いいたします。

 以上をもちまして、所信表明を終わります。ありがとうございました。