石原知事施政方針

平成15年6月26日更新

平成15年第ニ回都議会定例会知事所信表明

平成15年6月24日

 平成15年第二回都議会の定例会の開会に当たり、今後の都政運営についての基本的な姿勢を申し述べ、都議会の皆様と都民の皆様のご理解、ご協力を得たいと思います。

1 都政運営の基本的な姿勢

(危機的状況の認識)

 世界は今、人類の新たな災害ともいうべき疫病や間断なく繰り返されるテロの脅威にさらされ、重苦しい不安に覆われています。加えて我が国では、長期にわたって低迷する経済の先行きが一向に見えず、治安悪化などの社会不安と重なり、国民の間には閉塞感が充満しております。我が国は、潜在的な力を持ちながら、自己の主張と存在を世界に示せないばかりか、進むべき日本の将来すら描くことができぬまま、緩慢で無自覚な後退を続けております。

(東京発・都市革命)

 こうした危機的状況を打ち破り、東京から変革の引き金を引くべく行動を起こしたのが、4年前のことでありました。以来、東京から日本を変えるための政策の苗を植え、そのいくつかは芽を伸ばし、新しい動きも生み出されてきております。その一方で、国の不作為の壁に阻まれる場面も数多く、日本再生への取組みは、未だ道半ばと痛感しております。
 都民の皆様から負託された二期目、植えた苗がしっかりと根を張り枝葉を広げるのを見極めつつ、新たな手立てを複合的に提起し、日本の頭脳であり心臓である東京から、日本再生の活路を切り開いていきたいと思います。

2 喫緊の課題への対応

(治安の回復)

 喫緊の課題として、まず取り組むべきは、治安の回復であります。
 かつて我が国は、世界最高水準の治安を誇っておりましたが、近年では、犯罪認知件数や検挙率が戦後最悪を更新し続け、都民生活に深刻な影響を及ぼしております。治安の崩壊は、杜撰な入国管理や不法残留者の手ぬるい摘発、刑務所、拘置所の絶対的な不足など、国が本来の役割を十分果たさず、国民の生命財産を軽視してきたことに起因しております。 東京都はこうした事態を座視することなく、あらゆる方策を講じて都民の不安を大幅に軽減していきたいと思っております。
 不法入国・不法滞在外国人に対しては、新宿歌舞伎町において、既に警視庁と入国管理局が合同で、一斉取締りをこの3か月間連続して実施しております。今後とも、繁華街を中心に波状的な取締りを行い、外国人犯罪組織を壊滅に追い込んでいきたいと思っております。また、東京湾での密入国事件が相次いでおり、水際の守りを固める必要があります。東京都は、国に対して東京港全域の警備強化を強く求めるほか、港湾管理者として埠頭の密入国防止策を強化してまいります。
 近年では、ひったくり、車上狙いといった街頭犯罪や空き巣などの侵入犯罪が増加し、都民が治安の悪化を感じる大きな要因ともなっています。東京の街に再び安全を取り戻すためには、身近な地域で安全・安心を実感できる水準にまで警察力を高めていく必要があります。すでに、機動隊による街頭活動を開始するなど対策を講じておりますが、これに加えて今後は、国に対して警察官の増員を求めるほか、警視庁の業務の効率化や行政サイドからの支援など、様々な方策を通じて街頭パトロールを強化してまいります。
 先日、繁華街の防犯パトロールを行っているボランティアの若者達と話をする機会がありました。彼らの自主的な活動に見られるように、治安の回復には、地域、地域で犯罪を抑止することが大変重要であります。今定例会には、地域と自治体、民間企業などが力を合わせて、安全なまちを実現するため、「安全・安心まちづくり条例」を提案しております。これにより、都民と行政が協力して協議会を立ち上げボランティアなどの結集を図るほか、スーパー防犯灯や防犯カメラなどの設備の普及により、犯罪の起こりにくいまちづくりを進めてまいります。都民の皆様にも、これを機に、是非、地域の防犯を自分自身で担う問題として考えていただきたいと思います。
 治安の維持こそ最大の都民福祉であると言っても過言ではありません。この重要な任務の要の位置に、新たに担当の副知事を置きたいと考えております。治安対策担当副知事には、警視庁や国、首都圏自治体とのコーディネーターの役のほか、都民、事業者、NPOなどと一体となって、犯罪のないまちづくりを進める牽引役として活躍してもらいたいと思っております。

(新銀行の設立)

 次に、新銀行の設立についてであります。
 日本経済は、経済有事ともいうべき緊急事態に直面しております。デフレの進行には歯止めがかからず、都内の企業倒産は、過去最悪の水準で推移し、景気回復の兆しは未だに見えません。こうした事態に対して国は、経済再生のための有効な手立てを講じることができず、立ち遅れた金融政策などのため、日本経済は苦境から抜け出せずにおります。
 経済活動の血液である資金の流れは、担保主義にしがみつく銀行の貸し渋りや貸し剥がしにより著しく滞留し、技術力のある優れた中小企業が必要な資金を調達できずにおります。
 東京都はこれまで、独自の仕組みとして、CLO、ローン担保証券、CBO、社債担保証券の発行により累計で3000億円を超える資金供給を行い、中小企業の資金調達の幅を広げてまいりました。これからは、東京の中小企業の活性化と金融システム再生を目指して、東京都が中心となって、負の遺産のない、まったく新しいタイプの銀行を設立いたします。
 すでに今月から準備組織を立ち上げており、今後、内外の有力企業と提携を進め、技術力や将来性に優れた中小企業を総合的に支援する銀行を平成16年度中に創設したいと考えております。
 新しい銀行の設立により、従来の担保主義に縛られない新しい融資モデルを構築し、日本経済の抱える負の連鎖を断ち切るための突破口としたいと思っております。

(大気汚染の改善)

 次に、大気汚染についてであります。
 5月に発表した東京都の調査結果により、ディーゼル車の排気ガスが花粉症の要因であることが科学的に裏付けられました。ディーゼル車対策の重要性、緊急性が改めて確認されたと思います。
 小泉総理は、年初の施政方針の中で「世界一厳しい排気ガス規制を実施する」と口にしましたが、しかし、先月送付した東京都の質問状に対する国の回答は具体性に欠け、また自動車NOx・PM法の適用延期を正当化するなど、本来の問題の本質を理解しようとしておりません。大気汚染の改善には、自動車の大半を占める使用過程車対策こそ焦眉の急であるにもかかわらず、国は何ら抜本的な対策に取り組もうとせず、危機意識の欠如を露呈しております。
 しかも国は、去る6月11日、PM減少装置に対する補助申請の受付を、予算切れを理由に一方的に終了しました。この突然の打ち切りは、国と協調して事業者の支援を行っている全国の自治体の努力に、冷水を浴びせるものであり、国に対して早急に必要な措置を講ずるよう、強く求めてまいりたいと思います。
 また、国が不正軽油撲滅の重要性について一向に認識できないことも、大きな問題であります。東京都は、国が一向に対策に乗り出さない中にあって、全庁を挙げて不正軽油撲滅作戦を進めてまいりました。その結果、昨年度の抜き取り調査による不正軽油の検出率は、平成12年度の14%からわずか1%に激減しており、悪質な脱税業者に大きなダメージを与えております。今後も、不正軽油の供給を元から絶つため、手を緩めることなく厳しく取り締まってまいります。
 本来の責任者である国が正当な現状認識を持ち得ず、実効性ある対策を講じようとしない以上、東京都は、引き続いて大気汚染対策を強力に前進させていかない訳にはまいりません。
 当面最大の課題は、100日後に迫ったディーゼル車規制の確実な実施であります。厳しい経営環境におかれている中小企業への支援を強化するため、本年3月、買替えのための新しい融資制度を創設しており、また、個別相談会の開催や総合相談窓口の設置など、きめの細かい対応を進めております。今年度に入り、事業者などの規制への対応は着実に進んでおり、PM減少装置の補助申請数は2万5千台を突破したほか、都内を走る路線バスなど3600台への対応は、今月中に完了いたします。また、4月からは、東京都の要請に応えて、石油連盟が低硫黄軽油の全国供給を開始しており、軽油に含まれる硫黄分は確実に低減しております。
 今後とも、国との対峙を恐れることなく、都民の皆様のご理解と、関係機関の全面的なご協力を得ながら、東京都の総力を挙げてディーゼル車規制に取り組んでまいります。

3 政策の苗の育成

 続いて、都政の抱える主要な課題について、申し上げます。

(交通インフラの整備)

 はじめに、交通インフラの整備についてであります。
 時間的、空間的に狭小となった今日の世界では、交通インフラの量と質が、国や地域の将来を左右するほど大きな影響力を持っております。
 首都圏の空のアクセスを見れば、国際線も国内線も空港の容量はパンク寸前であり、残された時間はわずかしかありません。首都圏全体をにらんだ羽田空港の再拡張と国際化は、国家が背負うべき最優先の課題であります。先般開催された八都県市と国による協議会でも、国際化の必要性と今後解決すべき課題に対する共通認識を持つことができました。東京都は、国が自らの負担と責任において、一日も早い実現に向け具体的な行動を起こすよう、首都圏の関係自治体とともに、引き続き強力に働きかけてまいります。
 かねてより主張してまいりました横田基地の軍民共用化については、5月に開催された日米首脳会談の場で、実現可能性を検討することが合意をされました。大きな岩がようやく動き始めたと感じております。軍民共用化は日本経済の再生、ひいては国力の回復につながるものでありまして、今後は、実務レベルでの協議を早急に開始し、国が主体的に取り組むことを強く要求してまいります。
 また、東京は、道路交通網が決定的に不足しております。このことが都市活動の効率を著しく損ねております。
 首都圏交通の骨格を形成する三環状道路については、早期の全線開通を目指し、引き続き国を動かしてまいります。
 多摩地域を縦断する圏央道については、国の事業推進に東京都として全面的に協力してまいります。国と大深度地下の利用で合意した外かく環状道路については、地元区市とも協議を重ね、近く具体化に向けて計画を取りまとめてまいります。また、中央環状線のうち羽田につながる最終区間の品川線については、平成16年度中の都市計画決定を目指し、早急に手続きに入りたいと考えております。
 一方、連続立体交差事業では、JR中央線三鷹・立川間の西側区間が未着工となっていましたが、今月、西国分寺・立川間で工事を開始いたしました。多摩地域における南北交通の円滑化は、地元住民の悲願であり、一日も早い完成を目指したいと思います。 
 東京は、渋滞という交通アクセスの中での致命的な欠陥を抱えております。新規の道路整備と合わせて、既存の道路をより効率的に活用し、渋滞解消に結び付けていく必要があります。即効性のある解消策として、これまで違法駐車対策「スムーズ東京21」を進めてきましたが、来月から、対象となる交差点を大幅に増やす拡大作戦を開始いたします。国道を含む140か所の交差点を集中的に整備し、混雑時の通過時間を2割削減したいと思います。併せて、多摩地域を中心に、路線バス専用の停車帯の整備や、踏切内の歩道の新設・拡幅を行い、渋滞の解消を図ってまいります。
 東京港については、アジアの主要な港との国際競争に勝ち抜くため、構造改革特区第一号として実施する通関業務の時間延長など、港湾機能の強化を進めてまいります。
 以上のような整備を積み重ねることで、陸・海・空の交通インフラを縦横につなげ、東京の潜在力を存分に発揮して行きたいと思っております。

(都市型エンターテイメントの創造)

 次に、文化の振興についてでありますが、これまで東京都は、従来の枠組みに囚われることなく、若手芸術家に発表の場を提供するトーキョーワンダーサイトや都内の映画ロケの総合窓口である東京ロケーションボックス、あるいはアジア舞台芸術祭など、独自の取組みを進めてまいりました。
 街角に驚きと笑いを醸し出すヘブンアーティストは、登録数が既に200組を超え、新しい都市文化として根付き始めております。5月の連休には、銀座の中央通りに約40万の観客を集め、大変な盛況でありました。今後は、大道芸に限らず広く公共空間を開放し、都有施設の壁面をキャンバスとしても活用したり、空きスペースを演劇の練習場として提供するなど、都市の中の芸術空間の拡大につなげていきたいと思っております。また、東京都の文化施設を活用して、東京発の新たな舞台芸術の創造や世界の著名な音楽家が集う国際的な音楽祭の開催などに取り組んでまいりたいと思っております。
 知的で都会的な娯楽であるカジノについては、日本全体で関心と期待が高まっております。受け入れの素地が整いつつあると思います。現在、大阪府など方向性を同じくする自治体と共同で、国への具体的な提言に向けて研究を重ねております。今後、都民、国民の理解を深め、法改正に向けた迅速な対応を国に求めてまいります。
 都市型の新しいエンターテイメントの試みとして、東京ドームの施設を活用した競輪を再開したいと思います。これまでの常識を覆す、若者や女性も楽しめる斬新でスマートな競輪を目指し、賭け事という古いイメージを打ち破っていきたいと考えております。これにより、経済波及効果や雇用創出効果、歳入確保が見込まれております。新たな観光スポットとしても期待されると思います。今後、こうしたメリットを関係者に十分ご理解いただきながら、早期の実施を目指して準備を進めてまいります。
 東京は、ロンドンやパリ、ニューヨークなど、世界の大都市と比べても遜色のない歴史と伝統を有し、優れた文化施設も数多く存在しております。今後、東京が有する文化的な資源をさらに活用しながら、東京の魅力を世界に発信していきたいと思っております。

(雇用のミスマッチの解消)

 次に、深刻な雇用状況への対応についてであります。
 都内の平均失業率は、ここ数年5%台という最悪の水準で推移しております。景気の低迷による求人の減少が雇用状況の悪化の根底にありますが、求人と求職のミスマッチも実は大きな原因となっております。
 しかし、国のやっているハローワークだけでは、昔の職安ですが、縦割り行政の弊害に阻まれて、就職を希望する人に必要な情報が行き届かないばかりか、職業訓練との連携も十分ではありません。転職者のうち、ハローワーク経由で就職先を見つけた人は1割にも満たないといわれております。
 ミスマッチを解消するために、多様な情報を一元的に提供するとともに、職業能力の開発と連動して就業の場を確保していく必要があります。このため、東京都では、仕事に関するあらゆる情報を一か所で提供できる「しごとセンター」を来年度開設したいと思います。相談体制の充実を図り、きめの細かいカウンセリングを実施することで、求職者の能力や適性に応じた仕事の紹介に結び付けていきたいと思います。さらには、商工関係団体と協力して求人を開拓するなど、都独自の就業支援策を展開してまいります。

(福祉・医療の改革)

 次に、福祉と医療の改革についてであります。
 これまでの施設偏重、行政中心の福祉が行き詰まりを見せる中、東京都は福祉改革に取り組み、多様な主体の参入による競争を促進し、利用者がサービスを選択できる仕組みづくりを推進してまいります。
 平成13年8月に創設した認証保育所は、現在、既に158か所にまで拡大していますが、これは、民間の参入を促し良質なサービスを提供することにより、利用者のニーズをつかんだ結果であると思います。しかし、国はこの制度を規格外として、あくまで認めようとしておりません。東京都は、これまでの成果と利用者の声を背景に、国に対して制度の認知を強く迫ってまいります。
 また、痴呆性高齢者や障害者が地域で住み続けられるように、生活の場である街中のグループホームを大幅に増設する必要があります。すでに、民間企業などによる高齢者グループホームを対象とした、都独自の補助制度を創設していますが、今年度新たに、未利用の都有地を設置者に廉価で貸し出す方式を導入し、福祉インフラの整備を加速いたします。
 こうした認証保育所やグループホームの取組みを福祉改革の起爆剤として、民間参入を促進し、福祉サービスの充実を図り、大都市の特性に応じた福祉の新しいあり方を東京から発信してまいります。
 医療の分野では、東京ERを墨東、広尾、府中の3つの都立病院に設置し、365日24時間の安心を提供する医療体制の整備を進めてまいりました。また、患者中心の医療をさらに推進するため、4月から、全ての都立病院に「患者の声相談窓口」を設けており、来月からは、大塚病院に女性医師による女性のための専門外来を開設いたします。今後とも、患者の声に真摯に耳を傾け、東京発の医療改革を進めていきたいと思います。

(教育改革の取り組み)

 次に、教育改革について申し上げます。
 この春、学区制を全廃した都立高校の入学選抜では、進学指導重点校を中心に、近年最高の応募倍率を記録しました。横並びを廃したことにより、高校間に健全な競争意識が芽生え始めていると思います。
 今後は、競争原理の導入による効果を教員の質の向上に結び付けていく必要があります。このため、来年度から全ての都立高校で、生徒による授業評価制度を開始します。現在、全都立高校の約8割で試行されており、この制度の導入によって、教員と生徒の意識改革に弾みをつけ、都立高校改革をさらに進めていきたいと思います。
 教育の担い手である教員の育成もまた重要であります。高い志を持った教員を学生の段階から養成するために、教員養成系の大学に呼びかけ、都独自の養成塾を来年度から開講いたします。東京都の教員を志す学生を対象に、学校現場での1年間にわたる実習や奉仕体験活動を通じ、実践的な指導力や強い使命感を持った教員を育てて行きたいと思います。
 大学改革については、日本の教育の建て直しのため、今までにないまったく新しい大学を、平成17年度に実現いたします。新しい大学では、教育と経営を分離し、知事が選任する経営責任者と、教育研究の責任を負う学長との役割を明確に区別してまいります。併せて、教員に対する業績評価を徹底し、その結果を給与に反映させる仕組みを導入いたします。
 現在、専門家による検討会で、新しい大学における教育研究の具体的な内容について精力的に議論しており、夏までに一定の成果を得て、大学の全体像を明らかにしたいと考えております。
 目指すのは、学生の感性に応え、若い可能性を育てる大学、言わば「面白くて楽しい学舎」であります。開学後も引き続いて手を加え、新しい大学を長期の視点に立って造形してまいりたいと思います。
 教育改革は、個別の高校改革や大学改革を進める一方で、小学校、中学校、高校、大学といった枠組みを超えた視点に立って取り組む必要があります。そこで、学校、家庭、地域全体を視野に入れた教育ビジョンを今年度策定し、次代を担う人材を育てる観点から新しい教育のあり方を示してまいります。

(目前の危機への対応)

 さて、文明の進展は、時に思いもよらぬ災禍をもたらし、不測の事態への対応如何で、その国や自治体の力量が試されることになります。新型肺炎、SARSの東アジアを中心にする蔓延は、皮肉にも、近代文明が生み出した大型旅客機が感染の恐怖を瞬時に拡大させるという文明の逆説をまざまざと見せつけました。
 我が国においても、台湾人医師の来日中の発病が明らかになった際、国の初動対策のミスが重なり、国民に不安が広がったことは記憶に新しいところであります。東京都では、都内全ての医療機関の協力を得て、24時間の医療体制を確保するとともに、全ての救急隊に感染防止用の防護服を配備し、また帰国児童・生徒等への対応方針を示すなど、いち早く初期対応の体制を整えました。万一の場合には、この4月に設置した危機管理監を中心に対策本部を迅速に立ち上げ、機敏に対応してまいります。
 東京は、電力不足という事態への対応も迫られております。今回の電力需給の逼迫は、東京電力の不祥事に端を発するものであります。国と東京電力は、原子力発電所の安全確保と地元の信頼回復に全力を尽くすべきであります。東京は最大の電力消費地であり、東京都はこれまでも節電、省エネルギーに努めてきており、本年2月からは、全庁挙げての省エネルギー運動を推進しております。電力需給が逼迫する夏に向け、本日より、ピークカット対策を強化した第二次省エネルギー運動を開始いたします。電源立地地域の住民の皆様の痛みを自らのものとして受け止めることが、なによりも必要であり、都民、事業者の皆様にも、一層の節電に取り組んでいただきたいと思います。
 さて、三宅島の噴火によって全島民が避難して以来、すでに3年近くが経とうとしております。この4月から、短期滞在型の一時帰島を順次実施しておりますが、依然、火山ガスの発生が続いており、今後とも、推移を注意深く見極める必要があると思います。先日、都民広場で開催された五木ひろしさんによる復興応援コンサートでは、千人近い人々が応援歌に聞き入っておりました。長期にわたる避難生活を強いられている島民の皆様の望郷の想いは、察して余りあるものがあります。東京都は引き続き、国とともに帰島後の復興策も含め支援に努めてまいります。
 これからも予期せぬ災禍が東京を襲ってくるかもしれません。危機管理監を先頭に、自然災害、大規模な事故・事件に対して、間髪を入れず対応できる体制をしっかりと整えてまいります。

4 都政の構造改革

(都政改革の第二ステップ)

 東京都はこれまで、時代の変化に即応して都民サービスの充実と東京の再生を実現するため、ディーゼル車規制や福祉改革、都市インフラの整備など行政の各分野で、先進的な取組みを進めてきました。こうした政策展開を可能とするため、私は、就任後直ちに、第一次の財政再建推進プランを策定し、これを確実に実行する努力を重ねた結果、かろうじて財政再建団体への転落を回避することはできました。
 また行政改革では、職員定数を5900人近く削減し、監理団体への財政支出を約1000億円削減するなど、着実に成果を挙げております。その一環として、かねてから懸案となっておりました東京国際フォーラムについては、民間から優秀な経営者を社長に迎え、来月には、株式会社化して再生への第一歩を踏み出すことといたしました。
 こうした努力を続けてきたにもかかわらず、都財政は依然として危機的な状況にあります。都税収入は減少の一途を続け、国からの税源移譲も一向に進んでおりません。今後、毎年度4000億円近い財源不足が見込まれておりまして、これまでのように臨時的な財源対策によって、背伸びをした財政運営を続けることはもはや不可能となっております。
 こうした厳しい状況を打開し、今後とも、東京に活力を呼び戻す先進的な取組みを進めるために、第二次財政再建推進プランをこの秋までに策定し、財政再建に向けての新たな道筋を明らかにいたします。
 この取組みと並行して、新しい都庁改革アクションプランを策定し、「まず隗よりはじめよ」の言葉どおり、さらに徹底した内部努力を推し進めてまいります。
 今後取組む改革では、都民サービスの更なる充実のために、仕事のやり方や中身を大胆な発想で見直し、アウトソーシングの徹底や公営企業経営のあり方の検討などを進めてまいります。各種補助金をはじめ高止まりしている経常経費にメスを入れるなど、聖域なしの施策見直しを行ってまいりたいと思います。
 改革の推進に当たっては、その目標と危機意識を都庁全体で共有することによって、相乗効果を発揮していくことが不可欠であります。行政改革、財政再建、人事制度改革、さらには分野ごとの政策展開を、今まで以上に一体化し、総合的に取り組んでまいりたいと思います。

(地方分権の推進)

 (さて、今般の国の三位一体改革についてですが、)補助金を4兆円減少、削減するとしながら、その内訳が示されず、また、削減分の8割しか税源移譲を行わないとする根拠など、これにより生ずる地方負担の解消策、さらには、移譲する税目も明らかにされておりません。加えて、地方交付税については総額抑制の方向性が示されるに止まっております。
 このような今回の改革案は、内容が抽象的で具体性に乏しく、自治体が自らの責任と判断により主体的に施策を展開できる条件を整え、地方分権を実のあるものにするには、なお多くの課題が残されていると言わざるを得ません。
 また、東京をはじめとする大都市は、都市再生や環境問題、治安対策など特有の課題を抱えております。こうした行政需要に見合った財政基盤が確保されるべきであることは、大都市共通の悲願であり、これまでも八都県市や大阪府と共同でアピールを行ってきました。しかし、国の原案では、大都市圏のこうした実情に対する言及はまったくありませんでした。
 国が今なすべきことは、地方分権に名を借りて国の財政負担を減らすことではなく、国と地方の役割分担を明確にして、地方主権を確立することであります。東京都は、国に対して、三位一体改革を着実に実現するよう、引き続き強く要求してまいります。

5 おわりに

 さて、今年は、江戸に幕府が開かれてからちょうど400年目に当たります。東京は、江戸、明治以来今日に連なる長い歴史の上に築かれた大都市であります。先人達の努力が蓄積され、政治、行政、経済の機能が高密度に集中する東京は、日本を牽引していく大きな役割を担っております。しかし、国は、こうした認識を持ち得ず、未だに首都移転の幻想に振り回されておりますが、一刻も早く移転論議に終止符を打ち、白紙に戻すべきであり、それが歴史の必然、また蓋然でもあります。
 羽村の取水堰にはじまる玉川上水は、開削されて350年になります。18世紀半ば、江戸はすでに、上水道の設備やリサイクルの仕組みが整備された、世界最先端の100万都市に成長しておりました。武蔵野の大地を流れる玉川上水が、江戸の産業と文化を支え、明治以降の近代日本の基礎づくりにも貢献したのであります。
 今年はまた、多摩三郡が神奈川県から東京府に移管されてから110年目の年に当たります。多摩地域には、水や緑など豊かな自然の魅力に加え、大学や先端技術産業などが集積しており、大きな発展の可能性を有しております。多摩地域の発展なくして東京の再生もあり得ません。今後とも、東京の一翼を担う存在感のある多摩の地域づくりを推進してまいります。
 さて、眼を南に転じますと、小笠原諸島は6月26日、返還35周年を迎えます。捕鯨とサトウキビの島は大きく変貌を遂げました。今やエコツーリズムの先進地として新たな歴史を刻み始めております。この度、世界自然遺産の国内候補地に選定されたことは、小笠原の未来をさらに明るくするものであると思います。
 こうした一連の節目に当たる今年、東京を築いた先人達の苦闘の歴史を振り返り、将来の世代のために東京の再生に全力を傾ける決意を新たにしております。東京を変え、さらに日本を変えていくためには、なによりも国を動かすことが大切であります。
 良かれと信じるときには、たとえ国との衝突があったとしても、それを新たな価値の創造に向けたエネルギーに転換していきたいと思います。それが、都民のため、国民のために採るべき最善の方策であります。
 東京の起こす新しいうねりが国を変える力となるには、行政の取組みだけでなく、都民、国民の一人ひとりの自覚もまた必要となります。
 「立国は私なり。公に非ず。」福沢諭吉がこう訴えているように、東京を想い、国を想うことこそが最も大切な私ごとであり、その意思の積み重ねが国を動かす力となります。都民、国民の皆様には、是非とも東京の将来、国家の将来を自分の問題として深く考えることを厚くお願いいたします。

 以上、私の考えの一端を申し述べました。
 都議会の皆様とは、今後とも、都政を推進する両輪として東京の更なる発展のため、より一層緊密に連携していきたいと考えておりますので、よろしくご協力をお願い申し上げます。

 最後に本日提案しております副知事の選任の同意に関する議案について一言申し上げます。再任をお願いしております福永氏に加えて、治安対策の推進のため、外部からこの分野に精通した竹花豊氏を登用したいと考えております。現職のM渦副知事と合わせて、当面、3人体制で公約の実現に向けて取り組んでまいりますので、よろしくお願い申し上げます。

 なお、本定例会には、先ほど申し上げました行政改革の一環として、都民の目線から抜本的に見直しを行い、知事部局で特殊勤務手当を約3割削減する内容の「東京都職員の特殊勤務手当に関する条例の一部を改正する条例」のほか条例案21件、契約案8件など、合わせて34件の議案を提案しております。よろしくご審議をお願いいたします。

 以上をもちまして、所信表明を終わります。ありがとうございました。