石原知事施政方針

平成15年9月19日更新

平成15年第三回都議会定例会知事所信表明

平成15年9月18日

 ただいま、都議会議長並びに副議長が改選されました。三田敏哉前議長並びに橋本辰二郎前副議長には、2年余にわたり議長、副議長の重責を果たされ、在任中賜りましたご指導ご協力に、心から感謝を申し上げます。新しく選任されました、内田茂議長並びに中山秀雄副議長には、都政発展のために引き続き、ご指導ご協力を賜りますよう、よろしくお願いを申し上げます。

 平成15年第三回都議会定例会の開会に当たりまして、都政運営に対する所信の一端を申し述べ、都議会の皆様と都民の皆様のご理解、ご協力を得たいと思います。

 ただいま、桜井良之助議員、橋本辰二郎議員には、栄えある永年在職議員表彰をお受けになりました。都政の発展に尽くされた30年のご功績に対して、深く敬意を表し、心からお喜びを申し上げます。

 まず、はじめに、名誉都民の選定について申し上げます。
 このたび、名誉都民の候補者として、物理学者の小柴昌俊さんを選定いたしました。小柴さんは、超新星からのニュートリノを初めて観測するなど世界最先端の研究を続け、昨年にはノーベル賞を受賞されました。多くの都民が敬愛し、誇りとするにふさわしい方であります。都議会の皆様の同意をいただき、来月1日、都民の日に名誉都民として顕彰したいと考えております。よろしくお願いいたします。

1 はじめに

 さて、我が国が進むべき方向を見失い、本来の力を発揮できないままに、既に多くの時が流れました。日本の前途には、今年の冷たい夏の空のように雲が重く垂れ込めているかに見えます。日本経済は、依然デフレ傾向が続いておりますが、しかし、株価の持ち直しや設備投資の回復など、再浮上の兆しも垣間見えてまいりました。こうした動きは、新しい技術やアイデアを武器に新たな事業展開に挑戦する、東京を中心とする中小企業の活躍にも後押しされたものであります。
 また、都民の間にも新しい動きがあります。悪化する一方の治安に対して、その対策を警察まかせにすることなく、住民が「自分たちの手で何とかしなければ」と立ち上がり、防犯のための自発的な取組みが各地で始まっております。また、北朝鮮による日本同胞の誘拐、拉致という忌むべき問題を契機として、長い間忘れられていた国家や民族に対する自覚がようやく呼び起こされ、新しい連帯感が生まれつつあります。
 こうした新たな社会潮流を確かなものとし、失われた時を取り戻すには、政治が社会の胎動を敏感に感じ取って進むべき方向を示し、行政がこれを政策として具体的に展開していくことが必要であります。今、この国の力量が試される時を迎えております。しかし残念なことに、国の政治家、官僚には、この国を導く確固たる決意が感じられず、総合的な取組みも未だになされておりません。東京が先んじて動くことで国を動かし、日本再生の端緒を切り開いていきたいと思います。

2 治安対策の推進

(治安対策は焦眉の急)

 今日、都民の最大関心事は、治安の回復であります。
 日本の治安は、今年の上半期、殺人や強盗といった重要犯罪が昨年同期よりも2割近くも増加し、1万件を突破して過去最悪となるなど、悪化の一途を辿っております。とりわけ東京の治安は、殺人が約3割、侵入強盗が4割以上増加するなど急速に蝕まれており、かつてのニューヨークのような事態に陥る前に、抜本的な手立てを講じる必要があります。
 こうしたことから、先月、竹花副知事を本部長とする緊急治安対策本部を設置いたしました。夜の繁華街に赴いて実情を視察し、また地域住民と膝を交えて生の声を聞くなど、精力的な活動を始めております。今後、警視庁など関係機関と協力して、横断的、重点的に取り組むことにより、一刻も早く目に見える形で犯罪を減らし、都民生活に安心を取り戻したいと思っております。
 都民の安全と首都の治安維持を担う東京の警察官の数はとても十分とはいえず、また、留置場や刑務所、拘置所の不足も深刻であります。警視庁が所管する留置場に収容される者の数は、10年前の3倍に膨れ上がり、そのうち4割が外国人という状況であります。警察官や拘置施設などの確保は、本来は国が責任を持つべき事柄であります。首都圏や関西圏の大都市と共同歩調を取り、国に対して強く要求してまいりたいと思います。

(外国人犯罪の徹底取締り)

 東京の治安にとって最大の課題は、外国人犯罪であります。不法入国、不法滞在外国人が犯罪組織を作り上げ、凶悪事件を繰り返すなど、今や社会的な脅威となっております。不法滞在外国人は公式記録によっても全国で20数万にのぼりますが、その過半は東京に居住し、一部が地下社会を形成しております。
 こうした犯罪の温床を取り除くためには、まず、密入国を阻止する必要があります。しかし、国の入国管理に携わる職員は僅か2500人に過ぎません。国は、入国管理の態勢強化と迅速な手続きの実現を目指して、マンパワーの確保と収容施設の拡充に全力で取り組むべきであります。過去1年間、東京港では密入国事件が4件発覚し、合せて76人の中国人が摘発されていますが、これはもうごく氷山の一角に過ぎません。こうした事態に対応するため、先月、東京都の提唱により「東京湾保安対策協議会」が立ち上がりました。行政機関の連携をより強固なものとして、東京港のみならず東京湾全域での水際の守りを固めてまいります。
 これに加え、不法入国、不法滞在外国人対策を強化するため、先月、法務省や警察庁などと連絡会議を設置し、情報交換、意見交換を進めております。歌舞伎町をはじめ都内各地での取締りについても、波状的に実施してまいります。
 都内の日本語学校や専門学校などに就学名目で来日した外国人が、犯罪に手を染めるケースが後を絶たないことも問題であります。こうした事例は一部の学校に集中しているとも指摘されており、今後、正確な実情を把握し、区市などと共に連携して、指導を強化するなど適切に対応してまいります。
 できる限り短期間のうちに、外国人犯罪が減ったという実感が得られるようにしたいと思います。

(子どもを犯罪に巻き込まないための取組み)

 犯罪の被害は、地域社会の隅々にまで及んでおります。万引きの横行で書店の経営が危うくなったり、無法な落書きで街並みが汚され、さらに自転車やバイクの盗難が日常化しております。
 こうした犯罪を見過ごすことなく、犯罪の芽を早期に摘み取ることは、凶悪犯罪を防止する上でも重要であります。軽微な犯罪の放置は、容疑者の大半を占める少年たちに「少しぐらいやっても大丈夫」という間違った考えを植えつけることになります。社会運動家の賀川豊彦はかつて「子どもには叱られる権利がある」と述べていましたが、叱られる権利を奪われた子どもは不幸であります。とりわけ、親には、我が子をまっとうな人間に育てる使命があり、仮に子どもが犯罪を犯した場合には、経済的な償いを含め、親自ら責任を負うべきことを覚悟すべきであります。他人の子どもであっても叱るのが当たり前であった、日本のかつての良き美徳を取り戻すことが、我々大人に課せられた義務であると思います。
 少年犯罪が急増する一方で、子どもが犯罪に巻き込まれるケースも目立っております。少年少女が加害者にも被害者にもならないようにすることが、我々大人の責任だと思います。先月、専門家による「子どもを犯罪に巻き込まないための方策を提言する会」を発足させ、近く具体的な提言をいただく予定であります。

(安全な街角の回復)

 街角で強盗やひったくり、暴行などの犯罪が多発しておりますが、なかでも、新宿、渋谷、池袋の三つの繁華街は、警視庁がホームページで公開している犯罪発生マップを見ますと、発生件数が最も多いことを示す赤い色で塗りつぶされております。都民が歩くのをためらう場所が数多く存在する現況を放置しておくことはできません。昨日、対策本部と、この三つの盛り場を抱える区長、所管の警察署長等が一堂に会し、安全を取り戻すための具体的な対応策について意見交換を行いました。今後、行政と地域が一致協力して防犯対策に取り組んでまいります。
 身近な地域で発生する犯罪を抑止するには、地域に潜む犯罪要因を的確に把握し、有効な対策を講じる必要があります。このため、安全・安心まちづくり条例の来月からの施行を機に、都内全域で緊急の安全総点検を実施いたします。既に今月から、都が管理する公園、駐車場、駅などの公共施設において、犯罪を誘発するおそれのある場所や防犯設備のチェックを実施しており、来月以降、区市町村においても、住民とともに地域の安全点検が一斉に開始される予定であります。さらに、都民に都が作成するチェックリストを配布しまして、一人ひとりが身の回りの安全点検を実施するよう呼びかけてまいります。
 既に都内各地で、自発的なパトロールや商店街ぐるみでの防犯カメラの設置など、住民自らが地域浄化の行動を起こしていただいております。都も警視庁や区市町村とともにバックアップしてまいりますので、都民の皆様にも、自分の地域はまず自分たちで守るという、自助共助の精神を発揮していただきたいと思います。
 街角に安全を取り戻さない限り、東京の治安が回復したとは言えません。都民が安心して街を歩けるようにするために、今後、あらゆる手立てを講じてまいりたいと思います。

 また、ヤミ金融業者の悪質な取立てなどによる被害が広がっております。ヤミ金融からの資金の流れは、暴力団組織の大きな資金源となっています。今回の貸金業規制法等の改正を機に、業務停止や登録取消しをさらに厳格に行いまして、警視庁との緊密な連携のもと、悪質業者や違法行為を厳重に取り締まってまいりたいと思います。
 また、今定例会には、迷惑防止条例の改正を提案しております。これは、悪意によるつきまとい行為等の防止を目的とするものでありますが、こうした行為を芽のうちに摘むことによって、大きな犯罪の発生を抑止していきたいと思います。

3 東京再生に向けた政策の展開

(様々な危機への的確な対応)

 今年の夏は、東京電力の原子力発電所がすべて運転を停止するなか、首都圏での電力危機が懸念されておりましたが、電源立地地域や都民、事業者の理解と協力に加え、冷夏の影響もありまして、危機は何とか回避されました。折りしも先月中旬には、アメリカ北東部からカナダにかけての広範囲な地域で、大規模な停電が発生し、5千万人以上の人が影響を受けました。多量の電力消費に依存する近代文明の脆弱さと、日常的な危機管理の重要性を再認識させられる出来事でありました。都は、こうした実例からも教訓を得ながら、東京の危機管理に万全を期していきたいと思います。
 はじめに、三宅島についてであります。島民全員が島を離れて、今月2日で丸3年が経過いたしました。先月、児童・生徒による二度目の一時帰島が行われ、つかの間、島に子どもたちの笑顔が戻りました。しかし残念ながら、火山ガスの発生状況は未だ改善されず、帰島のタイミングを測る時期にはまだ至っておりません。引き続き、一時帰島の実施や道路などのライフラインの復旧に取り組むとともに、帰島後の生活再建に備え、国、三宅村などと協力し、力を尽くしてまいります。
 7月の宮城県北部地震では、観測史上初めて1日に3回震度6以上の揺れを記録するなど、改めて地震国日本の恐ろしさを思い知らされました。今年は、死者行方不明者14万人以上の被害を出したあの関東大震災から80年目に当たります。東京は大地震がいつ起きてもおかしくない状態に置かれていることを肝に銘じたいと思います。
 大規模地震への対応は、行政だけではなく、住民による自主的な取組みが不可欠であります。今月1日、日野市と合同で行った総合防災訓練では、災害時の住民による自助共助体制の確立を眼目に据えて、住民主体の訓練を実施したほか、傾斜地や河川などで、多摩地域の特性に応じた実践的な訓練を行いました。
 訓練の当日には、アジア八都市の危機管理担当者が視察に訪れました。アジア大都市ネットワーク21の事業の一つである「アジア危機管理会議」の一環として実施したものであります。この会議は、危機管理に関する各都市の経験やノウハウを交換することを目的としておりまして、第一回の今回は、8年前の地下鉄サリン事件などテロ対策を中心に有意義な議論が交わされ、国際連携を深めることができました。
 災害対応能力の向上のためには、首都圏の自治体との連携も欠かすことができません。昨年設置しました八都県市の「広域防災・危機管理対策会議」では現在、共通の防災行動指針の策定に取り組んでおります。今年中には中間のまとめを行い、来年度を目途に策定する考えであります。
 NBCテロの脅威への対応も揺るがせにできない課題であります。年内には図上訓練を実施し、今年度中にNBC災害対処マニュアルを策定するなど、非常事態に対応する備えを固めてまいります。
 今年、人類の新たな脅威となりましたSARSは、一旦終息したかに見えますが、この冬に再度猛威を振るう可能性を否定できません。不法入国や不法滞在の外国人問題とも密接に関わりがありまして、万一の場合に備えた厳重な危機管理が必要であります。先月末、国、千葉県などと合同で、患者の発生から搬送、退院までの流れに沿った情報連絡訓練を実施いたしました。来月には、不法入国者に患者が発生した場合を想定した図上訓練を都独自に実施する予定でありまして、万全の備えで臨みたいと思います。
 また、エイズは欧米諸国での沈静化の傾向が見られるものの、日本では患者・感染者の増加に歯止めがかかっておりません。東京では、1日に一人のペースでエイズの患者が増え続けております。都は、今年度から土日でも検査・相談が受けられるよう体制を拡充しましたが、今後は、ともすれば忘れられがちなエイズ問題について青少年層を中心に注意喚起を図り、国に対しても的確な対応を求めてまいります。

(都独自の食の安全の仕組みづくり)

 次に、食の安全についてであります。
 BSEの発生や偽装表示の発覚といった問題が次々と起こるなかで、都民は食に対する強い不安を抱いており、都民の健康を守るため、食の安全確保が急務となっております。国は、食品安全基本法を制定はしましたが、基準を設けて規制するという事後対応の枠組みを一歩も出ておりません。未然防止の視点が全く欠落したままであります。省庁間の縦割りに阻まれ、食品に関しても総合的な施策の展開が一向にできておりません。
 これに対して都は、この7月、食品による被害を未然に防ぐための情報提供等を行う「食品安全情報評価委員会」を発足させ、先月からは、全国で初めて、食品を扱う業者の自主的な衛生管理を認証する「食品衛生自主管理認証制度」をスタートさせるなど、日本最大の消費地である特性を踏まえた取組みを進めております。
 このような都独自の施策をさらに進め、食品の生産から流通、消費に至る各段階で食の安全を確保する仕組みを総合的に構築するため、年度内を目途に「食品安全基本条例(仮称)」を提案したいと考えております。国の規制だけでは対応が困難な課題に対して、都が独自に安全性の調査、勧告を行い、その情報を他の地方自治体のためにも公表するなど、これまでにない未然防止策を実施していきたいと思います。

(政策課題への着実な対応)

 続いて、都政の重要課題への対応について申し上げます。
 まず、2週間後に迫ったディーゼル車の排ガス規制についてでありますが、多くの事業者、関係者の方々の努力と協力により、PM除去装置の装着や新車への買換え等、規制対応は着実に進んでおります。
 都はこれまで、八都県市と共同で対策本部を立ち上げ、一都三県が同様の規制条例を設定するなど、首都圏全体での取組みを進めてまいりました。あわせて、厳しい経営環境に置かれている中小企業に対するきめ細かな対策として、補助制度の拡充や都独自の融資制度の創設などに取り組んでまいりました。
 規制開始後は、警視庁と合同で検問を実施するほか、自動車公害監察員を総動員しまして事業所への立入検査や物流拠点での取締りを実施し、公共工事での規制適合車使用の徹底を図るなど、違反車の一掃を目指してまいります。
 適合車両やPM減少装置の納期の遅れなどで対応が間に合わない事業者については、八都県市が連携して一種の通行手形ともいえるものを発行し、猶予措置を講じることにいたしました。規制対応に積極的に取り組む事業者が取締りの対象とならないように十分配慮してまいります。
 公平で実効性のあるディーゼル車規制を実現し、東京にきれいな空気を取り戻していきたいと思いますので、都民、事業者の皆様には、ご協力をよろしくお願いいたします。

 次に、福祉改革についてであります。
 「地域」「選択」「競い合い」をキーワードに進めている福祉改革の取組みは、着実に前進しております。国は、福祉サービスの評価についても全国一律の基準を押しつけようとしていますが、東京には、評価機関として活用できるNPOやシンクタンクなどが数多く存在しております。都は、こうした大都市の特性を活かし、利用者のサービス選択を可能とする福祉サービスの第三者評価に取り組んでまいりました。1年間の試行を経て、7月から、評価対象を大幅に拡大して本格的な制度化に踏み出しております。今後、評価結果をインターネットなどを通じて公表するとともに、今年度中に、都立のすべての施設で評価を実施いたします。将来的には、民間や自治体が行う福祉サービスが漏れなく評価を受けるようにしたいと思います。
 来月には、八都県市を中核として自治体による全国レベルの協議会を設置し、都独自の利用者本位の評価システムを広めてまいります。

 次いで、東京発の医療改革では、IT技術を駆使して迅速で質の高い医療サービスを提供してまいります。電子カルテは、先進的な病院で導入の取組みが始まっていますが、これにより、インフォームドコンセント、つまり患者が納得する医療の充実や迅速なカルテ開示、チーム医療の推進など、医療水準の総合的な向上が期待できるほか、他の病院とのネットワーク化が可能となります。都立病院では、府中病院において、電子カルテを中心とする病院情報システムを7月から稼動させましたが、今年度末までには駒込病院にも導入し、来年度以降順次拡大してまいります。 都民サービスの向上と地域医療の一層の充実に向けて、町の診療所を含めた広域的な病院相互のネットワークの構築を目指していきたいと思います。

 次いで、中小企業支援策についてであります。
 ようやく復調の兆しがまあ見えてきたとはいえ、日本経済は依然として低迷から脱し切れてはおりません。
 都はこれまで、東京の産業を支える中小企業の活性化のため、CLO、つまりローン担保証券とCBO、社債担保証券を発行し、中小企業に対する都独自の資金調達手段の拡充を図ってまいりました。既に発行は4回を数え、今年度は、新たに都民が広く購入できるタイプを取り入れた発行を予定しております。
 都のこうした取組みが先駆けとなって、他の自治体でも同様の動きが見られるようになりました。国においてもようやく検討が始まっています。第一回発行の結果では、投資家に対して当初の設定どおりの1%を超える利回りを確保し、参加企業のうち11社が株式上場にステップアップするなど大きな成果をあげたと思います。CLO、CBOは、中小企業の資金調達手段として定着してきたと思います。
 また、第二回定例会で提案した新銀行については、適正なリスク管理のためのポートフォリオ方式や新しい経営形態としての委員会等設置会社方式を採用するなど、最新の手法を積極的に導入してまいります。現在、中小企業経営者との意見交換や中小企業に対する資金需要の把握に努めておりまして、年内には、新銀行のより詳細な内容をお示ししたいと思います。

 次いで、新しい大学についてであります。
 都立大学などを束ねて設置する新大学では、首都東京の立地特性を活かし、都市環境の向上やダイナミックな産業構造による高度な知的社会の構築などを建学の精神として、大都市における人間社会の理想像を追究してまいります。東京でしか学べない都市文化、都市工学などを必須の教養科目とするほか、これまでの学問体系にとらわれずに、新しい大学の使命に沿って学部を再編いたします。
 新しい教育システムとして、「単位バンク(仮称)」を導入します。国内外の他の大学で取得した単位や海外協力など貴重な国際体験を単位として認定することによりまして、修学年数や修学内容を学生一人ひとりの事情に応じて弾力的に設定できるようにしてまいります。
 また、学生が寝食を共にしながら切磋琢磨し、互いの個性や独創性を刺激しあって人格形成をしていく場として、大学に寮を設置いたします。希望する学生を対象に、最初は50人程度の規模でスタートさせるつもりであります。これは新しい教育の構築といいますか、古き良きものを蘇らせる一つの大きな術となり得ると思います。
 これまでの日本の大学にはない様々なシステムを意欲的に導入し、大学教育の限界を打ち破ってまいりたいと思います。現在、新大学にふさわしい名称を広く公募しており、東京ならではの都市型の大学を平成17年4月に開学いたします。

(都市再生の新たな展開)

 続きまして、都市再生の新たな展開について申し上げます。
 国際空港の整備は、21世紀の国力を決定づける重要なファクターであり、国家プロジェクトとして実現すべきものであります。羽田空港の再拡張については、これまで、国、関係自治体と協議を続けてまいりましたが、先月、国は新しい事業スキームを公表し、来年度概算要求に盛り込みました。新しい内容が含まれた提案でありまして、検討に値するものであると思いますが、事業費負担や飛行ルートなど依然未解決の課題も残されております。今後、国は関係自治体などとも十分に合議を重ね、早期着工、早期完成に全力で取り組むべきであります。
 次いで、外かく環状道路の練馬・世田谷間の建設については、国土交通省の依頼を受け、7月から環境影響評価の手続きに入りました。外環道は、東京の渋滞解消や環境改善のため、欠くべからざる道路の一つでありまして、経済効果も計り知れないものがあります。事業着手に向けて一歩を踏み出したことは、東京の発展にとって大きな意義があると思います。今後とも、幅広く意見を聴取しながら早期の実現を目指してまいります。
 都市再生緊急整備地域の一つである大崎駅周辺地域で、民間からの提案がありました。都内初の都市再生特別地区の決定に向け、先月から都市計画の手続きを開始しております。この地域では、りんかい線とJR埼京線の接続によりまして、都市活動のポテンシャルが急速に高まっております。今後、ターミナル機能や業務、商業、文化、居住などの複合的な機能がより一層充実することによって、新幹線の新駅が来月誕生する品川駅周辺の整備とあいまって、東京の南の大きな拠点として発展するものと思います。
 国の都市再生事業とも連動させながら、都独自の取組みによりまして東京の再生を加速させてまいりたいと思います。都内には、都営住宅の建替えなどにより新たに利用が可能となる都有地が相当規模存在しております。こうした土地を活用しながら民間の創意工夫を引き出し、まちづくりを誘導する「先行まちづくりプロジェクト(仮称)」を実施いたします。都心居住の推進や木造住宅密集地域の解消など、地域ごとの課題に対応した目標を設定し、行政分野の縦割りを越えた横断的、総合的な取組みにより、民間プロジェクトを誘導してまいります。こうした取組みを通じて、東京の新しいまちづくりを実践し、目に見える形で東京の街を変えていきたいと思います。来月、第一弾の地区を指定する予定であります。

4 さらなる都政の構造改革

(全庁を挙げた戦略的取組み)

 続いて、都政の構造改革について申し上げます。
 都はこの4年間、第一次の財政再建推進プランに基づき、徹底した内部努力と聖域なき施策の見直しを行うとともに、徴税努力などにより歳入を確保したほか、都債の発行を可能な限り抑制するなど、改革を進めてまいりました。その結果、財政再建団体への転落をかろうじて回避することができました。
 全庁的な行財政システムの改革に取り組み、職員定数約5900人の削減や監理団体への支出約1000億円の削減をはじめ、目に見える形で着実に成果をあげてまいりました。政策面では、都民サービスの充実と東京の再生のため、ディーゼル車規制や福祉改革など、大都市の特性を踏まえた都独自の政策を展開してまいりました。
 これに対し国は、自ら痛みを伴う努力を怠り、肝心の構造改革についても、いわゆる三位一体改革で税源移譲が一向に進まないなど、官僚組織の縦割りの壁に阻まれて、具体的な成果を国民に示すことができておりません。
 これまでの都の努力にもかかわらず、都財政は、7月に発表した「第二次財政再建推進プラン中間のまとめ」で示したとおり、都税収入の大幅な減少と一向に進まぬ国からの税源移譲などにより、依然として危険水域を脱しておりません。財政再建は途半ばといわざるを得ません。むしろ、毎年度3千億から4千億円近い財源不足が見込まれるこれからが、都財政にとって最も過酷な時期になると思います。
 しかし、こうした厳しい状況にあっても、東京の再生と都民サービスの充実を一時たりとも停滞させる訳にはまいりません。政策のさらなる充実を目指すには、都庁全体で改革の目標と危機意識を共有し、横断的、総合的に取り組む必要があります。このため、7月、「都政の構造改革の視点と方向」を示し、都政の各分野で政策と内部改革の両面から構造改革を推進していくことにいたしました。
 来月には、「第二次財政再建推進プラン」を策定し、財政再建を次のステップに進めてまいります。先日、中間のまとめを発表した新たな都庁改革アクションプランについては、公の施設管理の民間開放など業務改革の一層の推進を目指して、さらに検討を深め、年内を目途に策定いたします。
 今後、痛みを伴う困難な過程も予測されますが、都民の理解を得ながら、財政再建、行政改革、都独自の政策展開を一体のものとして、都政の構造改革を前進させたいと思います。

5 おわりに

 さて、このところ、水泳、体操、陸上などスポーツの分野で日本選手の活躍が続いております。世界水泳選手権バルセロナ大会では、荒川区出身の北島康介選手が、金メダル2つを世界新記録で獲得するという快挙を成し遂げました。先日、彼に会う機会がありましたが、まさに彼こそ、有言実行で自らの意思を貫き通し結果を出す、私たちが忘れかけていたタイプの日本人であると実感いたしました。
 今、アメリカの若者の間には、流行っているそうですけども、日本に関する言葉として「ジャパニーズ・クール(Japanese Cool)」という言葉があるようであります。直訳すれば、「日本はかっこいい」ということでしょう。アニメやゲームソフトは言うに及ばず、音楽、映画、芸術など、様々な分野で、日本の文化がようやく世界的な正当な評価を得つつあります。こうした現象を支えているのが、日本の若い才能であり、彼らが中心となって世界に通用する文化的な価値を生み出しております。 
 歴史を紐解くまでもなく、日本人には本来、北島選手や文化の若い担い手たちのように世界に飛翔する才能と意欲が備わっているのであります。こうした潜在的な能力を都民、国民一人ひとりが開花させていくことで、この日本を再び世界の表舞台で躍動させることが可能だと思います。
 東京には、日本全国から才能と可能性を秘めた若者が集まっており、彼らこそ東京再生、ひいては日本再生のダイナモたりうる存在であります。今東京に必要なのは、ことさらに萎縮して悲観論に浸ることではありません。自らの力を信じ、旺盛な意欲と確固たる意思を持って一歩を踏み出す勇気であると思います。

 最後になりますが、銀行業に対する外形標準課税について、条例改正を今定例会に提案したいと考えております。
 これまで、双方の弁護団を中心に精力的な折衝を重ねてまいりましたが、昨日、最高裁において基本的な合意が成立いたしました。今回の改正は、この合意を踏まえ提案するものであります。現在、そのための準備を進めております。新しい税率を0.9%とし、条例制定時の平成12年4月に遡って適用したいと思います。
 銀行は、今なお膨大な不良債権を抱えており、6月には、りそな銀行に2兆円もの公的資金が再注入されました。今回の都の決断は、メガバンクをはじめ今日の日本の金融機関の体力が、条例制定時の予測をはるかに超え、著しく低下していることを斟酌したものであります。
 また、控訴審判決では条例の基本部分をはじめ、都の主張がほとんど認められ、ただ一点、税負担の水準について理解を得られなかったものであります。改正後の税率は、都の条例を契機として導入された国の外形標準課税の考え方と同様、直近10年間の平均税収を基に算出しており、合理的な水準であります。
 条例制定以来、都議会をはじめ、多くの都民、国民の皆様から一貫して力強いご支援をいただいてまいりましたが、今回の条例改正についても、特段のご理解をいただきたいと思います。

 なお、本定例会には、住民による自助共助の精神に基づく地域の復興活動を支援するための「東京都震災対策条例の一部を改正する条例」など、条例案16件、契約案件8件など合わせて28件の議案を提案しております。よろしくご審議をお願いいたします。

 以上をもちまして、所信表明を終わります。ありがとうございました。