石原知事施政方針

平成16年9月21日更新

平成16年第三回都議会定例会知事所信表明

平成16年9月21日

 平成16年第三回都議会定例会の開会に当たりまして、都政運営に対する所信の一端を申し述べ、都議会の皆様と都民の皆様のご理解、ご協力を得たいと思います。

 はじめに、名誉都民について申し上げます。
  このたび、名誉都民の候補者として、緒方貞子さん、篠原儀治さん、宮城まり子さんの三名の方々を選ばせていただきました。
  緒方貞子さんは、ユニセフ執行理事会議長や国連難民高等弁務官を歴任し、児童や難民の救援に取り組むなど、国際的な人道支援活動に力を尽くしておられます。篠原儀治さんは、伝統工芸であるガラス製の風鈴づくりに長年携わるとともに、世界各地に赴き、江戸時代中期から伝わる技能を披露されております。宮城まり子さんは、個性派女優として活躍する傍ら、我が国初の肢体不自由児養護施設「ねむの木学園」を創設し、心身に障害を持つ子どもたちの育成に半生を捧げてこられました。
  お三方は、多くの都民が敬愛し、誇りとするにふさわしい方々であります。都議会の皆様のご同意をいただき、来月1日、都民の日に名誉都民として顕彰したいと考えております。よろしくお願いいたします。

1 はじめに

 さて、古代オリンピックの発祥の地・アテネで開かれたスポーツの祭典から1か月、青春の情熱を傾けたアスリートたちの挑戦は、日本のスポーツの歴史に輝かしい一頁を加えました。なかでも、競泳の北島康介さんをはじめとする東京都在住選手の活躍は目覚しく、柔道、体操を合わせて6名の選手が金メダルを獲得しました。国民に希望と活力を与えてくれた若者たちを顕彰するため、新たに創設した東京都栄誉賞を贈呈したいと思います。

 アテネは、かつて古代ギリシャで隆盛を誇った都市国家のひとつであります。さらに遡って、メソポタミアや黄河文明の時代から、都市は豊かさの源であり、人類の文明を産み育んでまいりました。都市の誕生から数千年を経た今日、経済のグローバル化と高度情報化によって、集中と集積はさらに加速し、都市文明が地球全体を覆うまでになりました。私たちは今、大都市圏の集積のメリットが国境を越えて経済発展をリードするという21世紀の都市文明の歴史的必然に直面しております。
  東京は3300万の人口を擁する首都圏の要の位置にあり、政治、経済、文化など、諸機能が世界的に見ても類のないほど高度に集積しております。しかしその一方で、都民一人ひとりの生活は必ずしも豊かであるとは言えず、環境の悪化や慢性的な交通渋滞、治安や青少年問題の深刻化など、都市の病理ともいうべき様々な問題を生じています。
  都市の持つ文明工学的な功罪が象徴的に現れているのが東京であり、繁栄と歪みの複合が東京の今の姿であります。都市の病理を克服し、集積のメリットを最大限に活かして、都民生活を向上させるとともに、国際競争に勝ち抜いていかなくてはなりません。歴史が私たちに課した使命を果たし、東京の未来、そして日本の未来を切り拓いていきたいと思います。

2 大都市東京が直面する重要課題への対応

(次代を担う子ども・青少年の育成)

<総合的な青少年対策>

 大都市東京の将来を担うのは、子どもたちであります、青少年であります。しかし今、彼らは、かつてない豊かさを享受している反面、これまでになかった様々な問題に直面しております。家族の孤立化や地域社会の衰弱が子どもを育てる力を低下させ、児童虐待や不登校、ひきこもりなどを惹き起こしています。また、フリーターの増加に加え、働く意欲も学ぶ意欲も持たないニートと呼ばれる、このニートとは、Not in Employment,Education or Trainingの頭文字をとったものであるそうで、要するに何もしないということでありますが、これが社会問題となっています。佐世保の同級生殺害事件や新宿の幼児突き落とし事件など異形な事件が相次ぎ、少年の凶悪事件による検挙人数は、この10年で倍増しています。
  こうした現状について、われわれ大人は、無知であるだけでなく、積極的に知ろうともしておりません。都では現在、青少年の実態を記録した映像資料を作成しております。都民の皆様に実態を直視していただき、若者の危機は日本社会そのものの危機であることを正しく認識していただきたいと思います。
  これまでのように関係行政機関が個別に取り組んでいるだけでは、有効な手立てを講じることは困難であり、先月、「青少年育成総合対策推進本部」を設置いたしました。庁内の力を結集し、区市町村、関係機関と協力して、青少年の健全育成に複合的・重層的に取り組んでまいります。若い世代の性への関わり方は大きな社会問題となっており、専門家や現場に詳しい学校の教師などの参加を得て、議論する場を設け、現状の把握と対応策の検討を進めていきます。
  現在生じている様々な問題を解決するには、これまで以上に広範囲な連携が不可欠であり、親や学校ばかりでなく、PTA、おやじの会、地域の方々などにも役割を担っていただく必要があります。明日の東京のため、私たちの子孫のため、是非、力をお貸しいただきたいと思います。

<教育改革>

 次に学校教育についてであります。
  公教育の根幹である義務教育の全国的な水準の確保は、国の責任で行われるべきであり、教職員の人件費に充てられる国庫負担金を廃止しても、分権化には結びつかないばかりか、地方の財政状況によっては、教育水準の低下すら懸念されます。
  本来、義務教育のあり方について、国と地方の役割分担など本質的な議論を尽くすべきであるにもかかわらず、文部科学省をはじめ国において、何ら議論がなされてこなかったことは、不可解としか言いようがありません。
  こうした基本認識に立ち、先月開催された全国知事会議では、義務教育費国庫負担金の廃止、一般財源化に反対の意を表明しましたが、結果として、国庫補助負担金3兆円削減の数字合わせの一環として、廃止の対象にされてしまいました。国家百年の大計を誤らぬために、国の主導で今後、真摯な議論を行うよう強く求めたいと思います。

 都はかねてから、21世紀の東京を担う人材を育成するため、独自の高校改革を進めてまいりました。来春新たに、都立で初の中高一貫教育校を設置するほか、不登校経験者や高校中退の生徒を受け入れるチャレンジスクールなど、7つの高校を開校いたします。
  盲・ろう・養護学校については、知的障害を持ち養護学校に在籍する児童・生徒の数がこの10年で約3割増加しており、その重要性が増しております。知的障害の軽い生徒を対象とした高等部を新設するほか、大学進学を視野に入れた中高一貫のろう学校を全国で初めて設置するなど、生徒一人ひとりの個性に応じた教育を展開していきたいと思います。また、これまで心身障害教育の対象外であった学習障害に関しても、特別支援教室のモデル事業を実施するなど、新たな教育支援体制を構築してまいります。

 都立の4大学の改革に着手することを表明してから4年、この間、大学関係者や有識者などとの議論を積極的にやってまいりましたが、この度、首都大学東京が設置認可される運びとなりました。
  すでに、理事長に橋宏氏を、学長に西澤潤一氏を迎えることを決定し、来年4月の開学に向けて準備を精力的に進めております。「単位バンク」の導入や学生サポートセンターの設置など、独自の工夫を取り入れた新しい大学をつくり上げていきたいと思います。
  新大学の研究成果を、都市環境の向上や産業の活性化、福祉サービスの充実など、大都市が抱える問題の解決に還元するには、大学と行政、産業との連携を強固なものにする必要があります。連携のための推進会議を庁内に設置して、具体的な検討に入っており、新しい大学を東京のシンクタンクとして機能させてまいります。

(雇用と福祉・保健)

 次に、雇用と福祉・保健についてであります。
  雇用のミスマッチを解消するため、この7月、「東京しごとセンター」を開設いたしました。若者から中高年、高齢者まで、連日、予想を上回る約300人の利用者が詰めかけており、「親切、丁寧、確実で満足した」との声が寄せられています。今後、センターの特色である雇用に関するワンストップサービス機能を存分に発揮して、都民の多様な就業ニーズに応えてまいります。

 少子高齢化社会に的確に対応し、都民に総合的なサービスを提供するため、先月、福祉局と健康局を統合し、新たに福祉保健局を設置いたしました。統合のメリットを十分に活かし、高齢者の健康づくりと介護予防の一体的な推進や、子どもに関する保健・医療・福祉サービスの総合的な展開など、新たな取組みを進めてまいります。
  ホームレス問題については、今年度から区と共同で、公園のテント生活からの脱却を目指した新しい自立支援策を実施しています。6月から、戸山公園と新宿中央公園で説明会や個別面接を段階的に実施しており、先般、借上げ住宅への入居を開始いたしました。今後、対象の公園を順次拡大し、ホームレスの地域生活への移行を促すとともに、公園本来の機能を都民のためにも回復を目指してまいります。
  また、都立病院改革の一環として、府中病院を多摩地域の医療拠点となる「多摩広域基幹病院」として再整備いたします。同時に、清瀬、八王子、梅ケ丘の3つの小児病院を移転統合した「小児総合医療センター」を一体的に整備いたします。民間の活力や資金を活用するPFI手法を取り入れ、平成21年度の開設を目指してまいります。

(環境政策の推進)

 次に、環境問題についてであります。

<ヒートアイランド現象への対応>

 この夏、東京は、真夏日の連続記録が過去の最長の記録を達成するなど、記録的な猛暑に見舞われました。これは、今年の世界的な異常気象の影響ばかりでなく、ヒートアイランド現象によるところが大きいと思います。
  この現象は、昼・夜間人口や業務機能が高度に集積した大都市特有の問題であり、都市再生の一環として、国が責任を持って対応すべきであります。都はすでに、昨年度から独自の取組みを開始しました。保水性の高い建材や壁面緑化、反射率の高い塗料などの技術開発を進めているほか、丸の内や汐留など4か所で、保水性舗装や再生水の散水、屋上緑化などの対策を集中的に実施するモデル事業に取り組んでおります。
  都民の間でもこの問題に対する関心が高まっており、先月、伝統的な生活の知恵を活かした「打ち水大作戦」が、東京をはじめ全国各地で繰り広げられました。都民や地元自治体、民間事業者とも連携を図りながら国を動かし、ヒートアイランド現象への取組みを充実してまいります。

<大気汚染対策>

 一都三県が協力して実施してまいりましたディーゼル車排出ガス規制の開始から早くも1年が経とうとしています。運送事業者をはじめ多くの関係者の方々の協力を得て、都民が実感できる大きな成果をあげることができました。昨年度、浮遊粒子状物質が環境基準を超えた日数は、前年度に比べて約6割減少し、都内で最高の濃度を観測している松原橋交差点では、年平均濃度が約25%減少いたしました。
  都はこれまで国と石油業界に対し、軽油・ガソリンの超低硫黄化を強く求めてまいりましたが、この度、石油連盟から「都の要請に応じて、国の目標を前倒しし、来年1月から、10ppm以下の超低硫黄燃料を全面供給する」との報告がありました。ありがたいことです。石油連盟の英断により、最高水準の供給体制が整い、世界一厳しい規制の実現に向けて、最も重要な前提条件がクリアされることになります。国はこれに応えて、一刻も早く徹底した対策を講じるべきでありましょう。

<自然保護の取組み>

 去る6月、アメリカのグランドキャニオンとレッドウッドの二つの国立公園を視察し、改めて我が国との違いを痛感いたしました。自然公園の管理に従事する職員数に圧倒的な差があるのはもとより、公園管理や制度のあり方そのものが決定的に異なっております。日本では、当事者である国にこうした問題意識自体が欠落していたのでありました。
  都は、独自の取組みとしてレンジャー制度を創設し、7月から、一期生が多摩地域と小笠原諸島で活動を開始しております。国も、都の取組みを受けてようやく重い腰を上げようとしているようであります。国に対して自然公園の管理のあり方を抜本的に見直すよう求めるとともに、引き続きレンジャーの育成に取り組んでまいります。
  レンジャーの活躍が期待される小笠原では、世界自然遺産への登録を目指してまいります。貴重な固有種や独特の生態系の保全に努める一方、自然環境・景観を守るため、環境共生型公共事業の小笠原モデルを構築していきたいと思います。また来年には、東京・父島間を約17時間で結ぶ高速船テクノスーパーライナーの就航が予定されておりまして、自然環境の保全と一体となった新たな観光振興に取り組んでまいります。

(中小企業への支援)

 次に、中小企業への支援についてであります。
  企業収益の改善の影響が個人消費に波及しはじめるなど、緩やかながらも景気回復の動きが続いておりますが、中小企業をめぐる状況には未だ厳しいものがあります。そうしたなか、優れた人材や技術を持ちながら既存の金融機関から融資を受けられない中小企業に、生きた資金を注ぎ込むことが強く求められております。
  この4月に発足した新銀行東京は、先月末、大手町に移転し、来年4月以降の開業を目指して精力的に準備を進めております。都も先月、新銀行設立本部を設置しており、新しい体制のもと、開業準備を積極的に支援してまいります。
  今月中に、神奈川県、横浜市、川崎市と共同で、広域CLOを発行する運びとなりました。今年度末までには20の自治体が東京にならってCLOを発行する見込みであり、国もようやく同様の取組みをはじめました。都がこの制度を創設して実績を積み上げてきた東京発の金融改革は、今や大きなうねりとなりつつあります。
  今後の成長が期待されながら過剰債務などで危機に瀕している中小企業の再生を図るため、来月、地域の金融機関などとの共同出資により、ファンドを創設いたします。中小企業振興公社を活用しながら、企業再生に関する相談体制を充実し、ファンドの機能を十分に発揮させてまいります。

(都市機能の拡充と防災など)

<都市機能の拡充>

 次に都市機能の拡充についてであります。
  三環状道路は、日本全体の交通ネットワークの充実のために不可欠であり、着実にその整備を進めてまいります。中央環状については、11月、品川線の都市計画決定を行う予定であり、外環道では、環境影響評価に入り、現在、現地調査を実施しております。また、圏央道では、このほど八王子ジャンクションの土地収用が終了し、整備を進めております。
  三環状道路の整備効果は4兆円に上り、日本の高コスト構造を大幅に是正し、国全体を活性するために不可欠であります。国は、道路特定財源を一般財源化することなく堅持し、都市再生に資する道路を重点的かつ速やかに整備すべきであります。

 広域輸送網の拡大や情報化により流通経路の多元化が進むなど、市場を巡る環境は大きく変化しておりますが、依然として生鮮食品の約7割は市場を経由しており、卸売市場は、都民の食生活を支えるうえで重要な役割を担っております。
  この7月、豊洲新市場の基本計画を策定いたしました。新市場においては、築地市場の約1.6倍の広さの敷地に、新しい時代に見合った施設、機能を整備していきたいと考えております。首都圏の流通におけるハブ機能を十分に発揮するため、他市場への転配送センターを新設するほか、自動搬送装置やICタグの活用による効率的な場内管理システムの構築などに取り組んでまいります。また、一般の都民、観光客が買い物や食事を通じて食文化を現場で楽しめるよう、東京の新しい観光拠点となる千客万来のにぎわいゾーンを創出いたします。平成24年度の開場を目指し、早期着工に向けて準備を進めてまいります。

<防災と危険の防止>

 国の地震調査委員会の発表によれば、南関東で30年以内にマグニチュード7クラスの大地震が発生する確率は70%であり、東京は大地震がいつ起きてもおかしくない状況に置かれております。
  今月一日、台東区、墨田区、荒川区と合同で実施した総合防災訓練では、隅田川、荒川の周辺地域で、多数の住民の参加を得て実践的な訓練を行いました。船による傷病者、帰宅困難者の避難訓練や、中高生による地域住民の避難支援の訓練などを実施したほか、災害医療派遣チーム東京DMATの活動を都民の皆様に初めてご披露いたしました。極めて効果的なものであると認識を新たにしました。

 自動回転ドアでの事故など、「都会の死角」に潜む身近な危険が大きな問題となっております。
  都は、六本木ヒルズでの事故を契機に、約80万件に上る昨年度の救急事故データを緊急に調査しました。その結果、エスカレーターでの事故が多発していることが明らかになり、現在、この問題を巡って様々な議論が行われております。今後とも、救急業務で得られた情報を収集・分析し、普段気づきにくい身近な危険の実態を都民に広く周知し、事故の未然防止につなげていきたいと思っております。
  自動回転ドアについては、全国の約4割が東京に集中し、事故の約7割が高齢者・幼児というのが実態であります。六本木ヒルズで起こったような痛ましい事故が繰り返されないよう、建築安全条例の改正を本定例会に提案いたしました。回転速度の上限を設定するなど、安全対策の強化を設置者に義務付けてまいります。
  また、鉄道の地下駅における防火安全対策を強化するため、火災予防条例の改正を提案しております。駅の地下階層すべてでスプリンクラーの設置を義務化するとともに、避難経路を確保するために、二段降下式シャッターや、停電になっても光り続ける避難誘導板の設置を義務づけるなど対策を拡充し、都民の安全を確保してまいります。

(三宅島帰島に向けて)

 次に、三宅島についてであります。
  この7月、三宅村は、来年2月に避難指示を解除して帰島を実施する方針を決定いたしました。火山ガスの状況や村民の方々の意向、今後の安全対策などを総合的に判断されたものであり、都は、村の決定を尊重することといたしました。
  しかし、火山ガスの放出は依然として続いており、その影響については専門家も100%の保障はできないという状況にあります。したがって、帰島については、こうしたことを十分に踏まえ、自己責任の考え方のもとに、村民の方々がご自身で決断し選択されるべきものと思います。
  都はこれまで、港湾や道路、砂防ダム、ライフラインの復旧・整備に努め、インフラ整備はほぼ完了いたしました。帰島を控え、漁港、村営住宅、学校など、生活に密着した公共施設等の復旧・整備を早急に進めることとし、この度、緊急の支援策を取りまとめました。引き続き、国と連携しながら、帰島に向けた取組みを全力で支援してまいります。

(公平な税の徴収)

 行政サービスを支えているのは、都民の皆様が納める税金であり、その公平な徴収は、都政運営の根幹をなすものであります。
  都はこれまで、創意工夫を重ね、都税徴収率の向上に取り組んでまいりました。その結果、昨年度の徴収率は、過去最高の96%を記録し、滞納繰越額もピーク時のおよそ4分の1にまで圧縮されました。また、かつて全国最下位だった自動車税の徴収率も、全国8位にまで改善するなど、努力の成果が目に見える形で現れてきております。
  先月、全国初の試みとして、インターネットによる公売オークションを実施いたしました。3千人近い参加者がございまして、売却総額は、当初見積額の約7倍になりました。今回の試行で明らかになった問題点を早急に改善して、来月にも第二弾を実施いたします。また、不動産も対象に加えることを検討しており、早期に実施したいと思います。
  都税以外の使用料、手数料、貸付金などの滞納債権の総額は約200億円にも上っております。8月に設置した「都債権特別回収班」を核として、都税徴収で培ったノウハウを活用し、差し押さえや民事訴訟などの手続きを駆使して回収に取り組んでまいります。

3 おわりに

 最後に、地方分権について申し上げます。
  都は5月、地方分権改革に関する基本的見解を明らかにしましたが、6月に入り、国は全体の方向性も示さぬまま、国庫補助負担金3兆円削減リストの作成を地方に委ねてしまいました。全国知事会は、それをそのまま受け入れたばかりか、税源移譲の獲得に目を奪われ、本質的な議論を行うことなく、数字合わせのリストを作成しました。何のための改革かという視点を持ち得ぬまま、財源の保障を交付税に委ねていては、国による地方の支配がただ続くだけであります。私はこの点を強く主張しましたが、衆寡敵せず、結果として議論の対象とさえならなかったのが実情であります。
  現在このリストを巡って、既得権益を死守しようとする国と地方を通じた政官財、各界からの様々な反対の声があがっております。地方分権改革は、日本全体の発展のためという大義を見失い、空中分解の危機に瀕しております。
  しかも、分権改革を東京問題に意図的にすり替え、税源を東京から地方に移転すれば事足れりとする議論さえ横行しかねない状況です。日本が21世紀の熾烈な国際競争に勝ち抜くためには、東京をはじめ、国の発展を牽引する大都市に重点的な投資を行い、そのポテンシャルを十二分に引き出す必要があります。また、冒頭でも述べたとおり、都民一人ひとりに着目すると、その生活の質は決して豊かとは言えません。このほど都が、住宅の広さや公園面積、環境などのデータをもとに、都道府県別の生活の豊かさについて指数化を試みたところ、東京は下位グループに属し、大都市圏の自治体は軒並みに低位にランクされる結果となりました。
  ためにする東京バッシングにうつつを抜かし、目先の利害にとらわれているときではありません。今必要なことは、これまで都が一貫して主張してきたとおり、大都市と地方が共存共栄し、地方の自主・自立の営みの総和が国を支える新しい日本のかたちを創り出すことであります。都は引き続き、真の地方分権改革につながる考え方を具体的に示しながら、世論に訴え国に働きかけていきたいと思います。都議会の皆様と力を合わせて取り組んでまいります。

 なお、本定例会には、給水条例の改正を提案しております。水道事業を取り巻く環境が大きく変化するなか、現行の水道料金の体系は、全使用者の半数近くが画一料金になるなど、水利用の実態にそぐわないものとなってきております。企業努力をさらに徹底するとともに、都民生活への影響に配慮しながら、その見直しを実施するものであります。
  ただ今申し上げた給水条例を含め、条例案13件、予算案1件、契約案5件など、合わせて22件の議案を提案しております。よろしくご審議をお願いいたします。

 以上をもちまして、所信表明を終わります。ありがとうございました。