石原知事施政方針

平成16年12月1日更新

平成16年第四回都議会定例会知事所信表明

平成16年12月1日

 平成16年第四回都議会定例会の開会に当たりまして、都政運営に対する所信の一端を申し述べ、都議会の皆様と都民の皆様のご理解、ご協力を得たいと思います。

 去る11月26日、名誉都民である島田正吾さんが逝去されました。
ここに謹んで哀悼の意を表し、心よりご冥福をお祈りいたします。

1 分権改革と日本の将来

(歴史の転換点)

 幕末のペリー来航から150年、今日に至るまでの歴史の流れを俯瞰するとき、ある種の感慨を禁じ得ません。開国から明治維新、敗戦、そして近年のバブル崩壊と、日本は、歴史の節目節目で、国の内外から改革を強く迫られてきました。
 一世紀前、近代化という目標に向かって国を挙げ努力を重ねていた我が国は、歴史の大きな岐路に立たされておりました。欧米列強が支配する当時の世界にあって、極東の一小国にすぎなかった日本が、大国ロシアとの国家の存亡をかけた戦いに辛くも勝利できたのは、国際環境を見据えた冷徹で戦略的な思考と弛まぬ自己改革、そして、講和をも視野に入れた周到な準備があったからに他なりません。

(漂流する日本)

 今日の日本もまた、大きな困難に直面し、抜本的な改革を迫られております。しかし、100年前と決定的に異なるのは、国家の進むべき方向を定めることができず、ただ漂流を続けていることであります。
 この10年余り、総論ではだれもが「改革」を唱えるものの、いざ具体化の段になると、抵抗勢力によって改革の芽が摘み取られていくという、同じプロセスが判で押したように繰り返されてきました。国の政治家も官僚も、旧来の枠組みの中に安住し、目先の利益を守ることにのみ明け暮れて、国のかたちを変えるという本質的な課題には目を背けたままであります。

(いわゆる三位一体改革)

 こうした状況を象徴的に表しているのが、国のいわゆる三位一体改革であります。
 先週、政府・与党は「改革の全体像」なるものを発表しましたが、その内容は、地方分権の実現にはほど遠いものであります。3兆円というまず数字ありきの補助金削減、地方の財政的自立に結びつかない税源移譲、地方交付税に至っては制度の改革の発想すらありません。議論の手順が初めから間違っていたのであり、これでは、明治以来続いてきた旧弊な政治の骨組みを根本的に変えることは到底できません。
 義務教育費国庫負担金の削減にしても、国民健康保険への都道府県負担の導入にしても、本質的な議論を行うことなく、削減だけを急いでいるように見えます。国の負担を地方に肩代わりさせるだけであり、分権とは何の関係もありません。
 国の政治が利害調整能力を失い、族議員や官僚の利益が優先されていることが、白日の下に曝されました。分権改革の初心に帰って仕切り直しを行うことを強く求めたいと思います。今必要なのは、日本全体の発展につながる改革を実現することであります。今後、平成17年度予算編成において、東京をはじめ不交付団体に対する不当な財源調整措置を決して許してはならないと考えております。

(真の改革の必要性)

 今回のいわゆる三位一体改革は、真の地方分権改革の実現に向けた道程の入り口にすぎません。都は引き続き、我が国の行財政制度の枠組みを百数十年ぶりに根底から変えるという視点に立ち、分権改革の実現に全力で取り組んでまいります。
 同時に、「まず隗より始めよ」の言葉どおり、東京都自身も根本的で思い切った自己改革を進めていかなければなりません。都自らのさらなる行財政改革はもとより、大都市行政の充実強化や、首都圏全体の広域的な課題への新たな対応など、困難な課題に正面から立ち向かっていくことが、都に課せられた責務であると思います。

2 自然災害への的確な対応

(新潟県中越地震と都の対策)

 去る10月、新潟県中越地方が震度7の激しい地震と度重なる大きな余震に見舞われ、甚大な被害を受けました。犠牲者の皆様に深く哀悼の意を表すとともに、被災された方々に心からお見舞いを申し上げます。
 地震発生の報を受け、直ちに、警視庁、東京消防庁の救援部隊と東京DMATが現地に急行したほか、給水車や、食料・毛布などの支援物資を緊急輸送いたしました。民間事業者の協力も得て、上下水道など生活基盤の復旧活動も行いました。土砂崩れの現場では、東京消防庁のハイパーレスキュー隊が、他県の救助隊員と連携して、2歳の男の子を奇跡的に救い出すことができました。
 また、都の要請により、横田基地から米軍の輸送機が、都と基地周辺自治体の支援物資を被災地に搬送いたしました。この取組みによって、日米の連携プレーによる災害時の米軍基地の有効活用に、新たな道筋をつけることができたと思います。今後さらに、発災後直ちに自治体が米軍基地を有効に使用できる枠組みを早急に構築する必要があると思います。

(地震対策の推進)

 今回の地震では、道路の寸断や通信の途絶などにより、山あいの集落が孤立し、情報連絡体制の確立やヘリコプターなどによる救助活動の迅速化、避難所運営のあり方など、様々な課題が浮き彫りになりました。こうした教訓を踏まえ、同様の事態が予想される多摩地域の山間部を中心に、地元自治体や関係機関と連携して対策を拡充してまいります。
 広域的な対応の強化も不可欠であります。先月、首都圏直下の大規模地震を想定した広域防災計画を八都県市共同で策定いたしました。今年度中に、この計画に基づく合同の図上訓練を実施し、危機管理体制をさらに強化してまいります。

(台風・豪雨への備え)

 今年、日本列島は、台風の上陸が観測史上最多の10回を記録するなど、自然災害の猛威に曝されました。東京も、2つの台風の相次ぐ直撃を受けました。
 環状7号線地下の巨大な調節池などの対策は、所期の成果を上げましたが、区部全体で約1300棟が浸水するなど、都市型水害に対する備えは、決して万全ではありません。既に実施した緊急点検で護岸の亀裂などが認められた河川については、今年度中に、応急対策を完了させるとともに、来年度、本格的な補修を集中的に実施いたします。また、ポンプ所などの下水道施設を整備するほか、東京港の水門、防潮堤の整備を進めるなど、水害・高潮から都民を守る対策を講じてまいります。

(三宅島の帰島に向けて)

 次に、三宅島についてであります。
 全島避難から4年数か月、村民の皆様が待ち望んでいた帰島が、来年2月に迫ってまいりました。火山ガスの放出が依然として続くなか、生命、健康の安全を確保しながら、いかに生活再建を図るかが大きな課題となっております。
 都は既に、港湾や道路、砂防ダム、ライフラインの整備をほぼ完了し、現在、村営住宅の建設や学校の再開、産業基盤の整備など、生活の自立を目指す取組みを村と共に進めております。
 帰島後の生活には、その基礎となる住宅の再建が不可欠でありますが、国の制度は住宅の再建そのものには適用されません。そのため、都は独自の支援策として、住宅の新築や修繕等に要する経費を支給することとし、今定例会に条例を提案いたしました。
 村民の皆様が一日も早く安心して生活できる日々を取り戻せるよう、心から願っております。

3 重点事業の策定

(重点事業の位置づけと狙い)

 次に、重点事業についてであります。
 近年、経済のグローバル化や高度情報化、産業技術の高度化が急速に進展し、少子高齢化がさらに進むなど、都政を取り巻く状況は大きく変化しております。
 そうしたなか、日本経済は、先行きに不安を残しながらも緩やかな回復を続け、地方分権の取組みが国政を揺るがす議論となるなど、新たな動きも見られます。こうした変化を的確に捉え、都財政の負の遺産である「隠れ借金」を解消し、財政再建の取組みをさらに推進するとともに、新たな発展を目指す都民や企業の努力を後押しする政策展開が求められております。
 このため昨日、予算編成に先立ち、平成17年度の重点事業を策定いたしました。時代の変化を見据え新たな行政ニーズを先取りする取組みや、都民不安の解消など緊急課題への対応をはじめ、真に優先度の高い34のプロジェクトを厳選し、集中的に資源を投入することといたしました。 以下に、重点事業の主な取組みと関連する事業について申し上げます。

(東京の活力を高めるまちづくり)

 はじめに、まちづくりについてであります。
 大都市東京の活力と魅力を高めるため、都市インフラの整備を着実に進めるとともに、住宅の質の向上などに取り組んでまいります。
 三環状道路の一つである中央環状線については、先月都市計画決定した品川線の早期整備に向けて積極的に取り組むとともに、東名高速道路方面への結節点となる大橋ジャンクションについては、今年度中に市街地再開発事業に着手し、引き続き周辺のまちづくりと一体となった整備を進めてまいります。
 東京オリンピックの時期をピークとして整備された東京の都市基盤施設は、近い将来、一斉に更新期を迎えます。現在、道路・橋梁で進めている予防保全型の施設管理手法を、河川の護岸、港湾の岸壁などにも拡大し、都市基盤施設の長寿命化と管理コストの縮減に取り組んでまいります。
 品川駅周辺から田町にかけてのエリアでは、新幹線新駅の開業や民間開発により地域のポテンシャルが急速に高まっております。広範な市街地の開発を適切に誘導するため、国、地元区などと協力して全体構想を策定し、東京の南の玄関口として整備してまいります。
 住宅政策について、都は既に、良質で低廉な戸建住宅供給の実証実験に着手しております。今後さらに、安心して取引できる中古戸建住宅の流通促進を図るとともに、増加する老朽マンションの長寿命化に取り組むなど、東京の住宅の質の改善に努めてまいります。

(産業の振興)

 次に、産業振興についてであります。
 将来にわたって東京の産業力を高めていくため、成長が期待される産業分野への支援と人材の育成に取り組んでまいります。
 現代日本文化の一翼を担っている我が国のアニメ・映像産業は、その大部分が東京に集積しております。急速に追い上げる近隣諸国との競争が厳しさを増すなか、アニメ・映像産業の振興を図るため、東京国際アニメフェアの開催等に加え、制作資金や販路開拓に対する支援の仕組みを国と協力して構築してまいります。
 ナノテクノロジーは、今後の成長分野であり、中小企業が大きな役割を担うものと期待されております。そのため、ナノテクセンターを城南地域に設置し、高い技術力を持つ中小企業を対象に、最新機器の開放や、技術相談、共同研究などを実施してまいります。

 新たな産業を発展させるうえで、優れた人材の確保が喫緊の課題となっております。時代の変化を捉えられる高度な開発力・企画力を備えた人材の育成を目指し、平成18年春に、「産業技術大学院(仮称)」を開学いたします。教員に産業界の実務者を招き、既存の大学院ではできない実践的な教育を実施いたします。これと連動して、都立高等専門学校の改革を進めます。2つの高専を統合・再編して専攻科を設け、9年間の一貫した体系的な技術者教育を実現してまいります。
 東京には、多くの外資系企業が進出していますが、近年、撤退する企業が増加傾向にあります。都の調査によれば、行政手続の煩雑さや、病院や学校など生活関連情報の入手の難しさを訴える声が寄せられております。外資系企業の定着を促進するため、専門の窓口を設置し、必要な情報をワンストップで提供してまいりたいと思います。
 また、新銀行東京において、資金繰りで困窮する中小企業の期待に少しでも早く応えるため、従来の方式に加え、地域金融機関とより緊密に連携をとった新しい再生ファンドを今年度から立ち上げ、順次事業を展開してまいります。

(観光の振興)

 隅田川周辺や臨海部には、新旧の魅力のあるスポットが数多くありますが、観光資源として十分に活かされておりません。親水性や景観を向上させ、回遊性を高めるため、水辺へのアクセスの改善、テラスの連続化などに総合的に取り組む必要があります。来年度、隅田川から臨海部に至る東京の水辺空間を観光資源として再生する全体構想の策定に着手するとともに、天王洲や芝浦などにおいて、先行的な取組みを進めてまいります。
 また、ICタグなどのIT技術を活用して、観光情報を都民、来訪者に提供する実験的な取組みを秋葉原や上野などで実施し、まちの賑わいや魅力の向上を図ってまいります。

(教育改革の推進)

 次に、教育改革についてであります。
 児童・生徒の基礎学力や規範意識の低下に対する都民の不安を解消するため、授業内容の改善や教員の資質向上などに取り組んでまいります。
 都が独自に実施している一斉学力調査の結果をもとに、すべての公立小・中学校の全教科で授業改善推進プランを策定し、学力の向上を図ってまいります。また、若手教員に授業を分かりやすく進める力を習得させるため、採用2、3年目の全教員を対象に研修を実施してまいります。
 平成19年度を目途に、奉仕体験活動を、すべての都立高校で必修科目といたします。福祉施設での介助や地域での美化活動などを通じて、人への思いやりや社会の一員としての自覚を身につけさせてまいりたいと思います。
 首都大学東京については、来春の開学に向け、現在、学生の募集を行うなど、順調に準備を進めております。今後、大都市の特色を活かした教育をさらに充実するため、平成18年度には、新しく6研究科からなる大学院を設置するほか、システムデザイン学部にインダストリアル・アート・コースを新設する予定であります。また、青少年を取り巻く環境の総合的な調査分析など、都政と連携した取組みにも力を入れてまいります。

(福祉・医療の充実)

 次に、福祉・医療の充実についてであります。
 都はこれまで、民間企業やNPOの参入を促す独自の取組みにより、痴呆性高齢者のグループホームを積極的に整備してまいりました。今年度からさらに、定員の倍増を目指し、3年間の緊急整備を進めています。
 こうしたなか、国は、痴呆性高齢者グループホームが全国的には充足しつつあることを理由に、来年度から国庫補助金を削減する動きを見せております。都は、国に対し、必要な財源措置を講じるよう強く働きかけていますが、国が責任を放棄したとしても、この事業が滞ることがないよう、着実に整備を促進していく考えであります。
 清瀬、八王子、梅ケ丘の3つの小児病院を移転統合して、「小児総合医療センター(仮称)」を開設いたします。救命救急に対応する小児ICUの設置など、全国初の取組みを積極的に取り入れ、平成21年度開業を目指し、東京における小児医療の拠点として整備してまいります。

(環境問題への対応)

 大気汚染を改善するには、移動発生源、固定発生源両面の対策が不可欠であります。
 移動発生源に対しては、ディーゼル車排出ガス規制をはじめ、不正軽油撲滅作戦の遂行や、サルファーフリー燃料の全面供給促進など、あらゆる対策を講じてまいりました。さらに先月には、自動車メーカー各社に対して、低公害で低燃費な自動車の早期開発、早期普及を強く要請いたしました。都は、開発を後押しする取組みを実施してまいります。固定発生源対策についても、焼却炉の排出ガス対策など、独自の取組みを推進してまいりました。残された課題は、浮遊粒子状物質などの生成要因となっているVOC(揮発性有機化合物)対策であり、今後、関係業界の協力を得て積極的に取り組んでまいります。
 これらの対策を実施することにより、平成22年度までに、すべての測定地点で浮遊粒子状物質の環境基準を達成したいと思います。

 一都三県が共同で実施しているディーゼル車排出ガス規制については、都議会の皆様と一体となった取組みを進め、成果を上げてまいりました。ところがこの度、排出ガス浄化装置(DPF)の不正改造やリコールに続き、データをねつ造した虚偽の申請により、基準に適合しない装置が多量に販売されていた事実が明らかになりました。規制に誠実に対応してきた事業者の努力と、大気汚染の改善を求める都民、国民の願いを裏切る許し難い背信行為であり、その責任を厳しく追及してまいります。

 この夏、東京は、たいへんな猛暑に見舞われました。これは世界的な異常気象に加え、大都市特有のヒートアイランド現象によるところも大きかったと思います。都はこれまで、独自のヒートアイランド対策として、丸の内、汐留などでのモデル事業や壁面緑化等の実証実験に取り組んできました。こうした取組みの成果を踏まえて、推進エリアを設定し、ここを中心に、道路の保水性舗装や下水再生水などの散水、都立施設の緑化、校庭の芝生化などを重点的、集中的に実施してまいります。国に対しては、都市再生の一環として積極的な対策を講じるよう強く働きかけ、連携して取り組んでまいります。

 東京では、毎日約120トンの医療廃棄物が発生しており、不法投棄の防止など適正処理が課題となっております。スーパーエコタウンで現在建設中の施設が平成18年度に稼働すると、都内で発生する全量を処理することが可能になります。こうした状況を踏まえ、来年度、最新の情報技術を活用した追跡システムのモデル事業に取り組みます。合わせて、都内のすべての病院など排出事業者と産廃処理業者に取組状況を報告させ公表するなど、適正処理を促進してまいります。

(危機管理体制の強化)

 次に、危機管理についてであります。
 緊急治安対策本部の設置から1年半、この間の官民挙げての取組みにより、強盗やひったくりなどの認知件数が前年に比べ、大幅に減少するなど、一定の成果が上がりはじめております。今後とも、治安回復の取組みを緩めることなく、警察力の強化や外国人組織犯罪対策の徹底を図るとともに、新たな取組みにも力を注いでまいります。
 都内の盛り場では、路上での悪質な客引きや強引な勧誘が横行し、多くの人が迷惑を被り不安を感じています。いわゆる「迷惑防止条例」等を改正して、性風俗関係の客引き、スカウトなどを禁止し、徹底した取締りを行うことにより、安心して繁華街を訪れることができるようにしたいと思います。
 いわゆる脱法ドラッグが、法の規制を免れて繁華街やインターネット上で公然と売買され、青少年への健康被害の拡大が懸念されております。今年度中に条例を制定し、ドラッグGメンが店舗等に立ち入って調査し監視・指導を行うなど、都独自の対策を講じてまいります。

 今年度から、不整脈を取り除く除細動器を、医療従事者以外の者が使用できるようになりました。新たに消防隊に配備し救命率を向上させるとともに、都立施設や区市町村などにも配備して、現場での救命に役立ててまいります。また、気管挿管や薬剤投与など特定行為を行える救急救命士を、平成18年度までにすべての消防署に配置できるように研修を充実してまいります。
 さらに、東京DMATについては、指定病院の拡大や隊員の増員などを実施し、大規模交通災害やNBC災害などへの対応を強化してまいります。

(青少年総合対策の推進)

 次に、青少年の総合対策についてでありますが、仕事に就いていない若者やフリーターの増加が、その実態は様々でありますが、社会的な関心を呼んでおります。働く意思がある若者の就職を支援するために、協力企業を広く募り、しごとセンターにおいて、一定期間、仕事を体験させるインターンシップなどを実施してまいりたいと思います。高校中退者に対しても、関係機関が協力して、就労や復学のためのきめの細かい情報提供を行ってまいります。
 若者の社会的な自立を促進するには、中学生、高校生の段階から働く場に触れさせることが重要であります。来年度、区市町村と連携して、公立中学校において1週間程度の職場体験を試験的に導入し、実施校を拡大していきたいと思います。都立高校では、卒業生による指導・助言を実施するほか、インターンシップのモデル実施に取り組み、拡大を図ってまいります。

 児童虐待の相談件数が急増し、不登校やひきこもりが社会問題化しております。地域における子育ての支援体制を強化するため、児童福祉司の増員など児童相談所の機能を充実するとともに、児童相談センターの専門機能を拡充した「子ども家庭総合センター(仮称)」の設置に向け、準備を進めてまいります。
 出会い系サイトを通じて犯罪に巻き込まれるなど、子どもたちがネット社会の被害者となったり、ホームページへの書き込みなどがトラブルに発展するケースが多々生じております。有害な情報・環境から子どもを守るため、児童、保護者、教師向けにインターネットの適正利用に関するセミナーを開催するほか、業界にも協力を要請し、自主的な取組みを促進してまいります。
 子どもを取り巻く危機的な状況を、親はもちろん、私たち大人はもっと正しく知る必要があります。都は、子どもたちの実態を周知する取組みを進め、すべての都民が子どもの問題に関心を持つように努めてまいりたいと思います。

(多摩・島しょ地域の振興)

 多摩・島しょ地域では、都市基盤の整備や豊かな自然環境の回復などが課題となっております。
 多摩地域の都市計画道路について、着実に整備を進めるために、新しい方針を策定するとともに、地域の生活道路について、取得済みの道路用地に歩道を先行的に整備するなど、効果が実感できる手法を取り入れてまいります。
 多摩地域の医療拠点として、府中病院の機能を強化した「多摩広域基幹病院(仮称)」を設置いたします。平成21年度の開設を目指し、「小児総合医療センター(仮称)」との一体的な整備を進めてまいります。
 近年、多摩の森では、シカの食害が非常に急速に拡がり、森林の荒廃が進んでおります。これまで進めてきたシカの捕獲頭数を増やすとともに、植生の回復などに取り組んでまいりたいと思います。
 都が独自に設置したレンジャーについては、その成果を検証しつつ、着実に増員を進めるとともに、来年度、首都大学東京にボランティア養成の公開講座を開設いたします。また、世界自然遺産登録を目指す小笠原諸島では、ノヤギの捕獲や固有種の保護などに取り組んでまいります。
 島しょ地域では、東海地震等への対応として、津波対策が緊急の課題となっており、避難階段や標識などの設置について地元自治体と共同で調査を行い、整備を促進してまいります。

4 日本の可能性を信じて

 一国の国力は、経済規模や軍事力だけで測ることはできません。産業技術の高度化が急速に進む21世紀にあっては、国力に占める技術力のウエイトがますます高まってまいります。現在、日本経済が長期にわたる低迷から曲がりなりにも脱しようとしているのも、私たちが長い歴史で培ってきた技術の力によるところが大きいと思います。
 歴史的に見ても、新しい技術の開発が、世の中を変え、人類の発展を支えてきましたが、ピーター・ドラッカーが指摘したとおり、いかに優れた技術であっても、商品化することができなければ、ただの石ころにすぎません。鍵を握るのは、技術の原石を製品化、実用化する力であります。そして、これに最も秀でているのが日本人であり、私たち自身がこのことを正確に認識する必要があります。
 今年で5回目を迎えたベンチャー技術大賞の受賞作品を見て、改めてこのことを実感いたしました。東京には、世界の最先端技術を開発し製品化できる中小企業が数多くあり、日本の国力を下支えする重要な存在となっております。こうした企業をはじめ、都民が持てる力を十分に発揮できるよう支援の仕組みを整えていくことが、行政の重要な役割であります。
 冒頭で述べたように、この国は漂流を未だ続けていますが、東京の力、日本の可能性を信じ、戦略的にこれを伸ばしていくことこそが、東京を預かる者たちとしての責務であると思います。

 なお、本定例会には、これまで申し上げたものを含め、条例案35件、契約案3件など、合わせて42件の議案を提案しております。よろしくご審議をお願いいたします。

 以上をもちまして、所信表明を終わります。

 ありがとうございました。