石原知事施政方針

平成17年2月23日更新

平成17年第一回都議会定例会知事施政方針表明

平成17年2月23日

 平成17年第一回都議会定例会の開会に当たりまして、都政の施政方針を申し述べ、都議会の皆様と都民の皆様のご理解、ご協力を得たいと思います。

1 都政運営の基本姿勢

(戦後日本の60年)

 戦後60年、日本は、焦土からの復興と産業・経済の飛躍的な発展を経て、欧米へのキャッチアップという明治以来の国家目標を短期間で達成はいたしました。過去に我が国が経験したことのない豊かな社会が実現したのであります。
 その過程で、日本は大きく変化いたしました。昭和25年に就業人口の2分の1を占めていた農業などへの従事者は、今日ではわずか5%に減少し、製造業やサービス業の従事者が圧倒的な多数を占めるようになりました。いわゆるサラリーマンの割合も倍増し、8割以上となったのであります。
 家族や地域のあり方も、大きく変容いたしました。合計特殊出生率は1.29にまで落ち込み、少子化が急速に進んでおります。60年前に5%に過ぎなかった高齢者の割合が現在では20%に迫り、高齢化が先進国の中でも最も早く進行しております。戦後長く続いた右肩上がりの時代が終わり、私たちは本格的な少子高齢社会を迎えようとしているのであります。
 また、東西冷戦が終結し経済のグローバル化が進むなか、我が国は、主体的に考え行動し国際的な責任を果たすことを迫られております。
 私たちは、かつて中世においては何世紀もかけて獲得されたであろう変化を一世代のなかで経験させられている、これが偽らざる実感であります。

(現実の直視)

 日本は、憲法も含め、国家のあり方そのものを根本から見直すことを求められております。
 こうしたなか、政府は構造改革を提唱し、民営化・規制改革、社会保障の見直し、地方分権の確立、財政改革などに曲がりなりにも取り組もうとはしてきました。しかし、いずれも議論をすればするほど利害関係の網の目に絡め取られ、改革は本質から遠ざかる一方であります。いわゆる三位一体改革はその典型であり、改革とは名ばかりの数字合わせ、その場しのぎの辻褄合わせでしかありません。
 国と地方を合わせた長期債務は、数年後には1千兆円という天文学的な額に膨れ上がろうとしており、もはや現状を維持出来ないことは明白であります。にもかかわらず、国の政治にも行政にも、一向に危機感が感じられません。今、政治と行政に求められるのは、正当な歴史観のもとに、現実を直視してリアリティ(現実感覚)を行政に取り戻すことであります。国家全体の利益という視点に立って、地方の営みの総和が国を支える新しいシステムへと、この国のかたちをかえていかなければなりません。

(さらなる改革へ)

 都は、この6年間、日本のダイナモである東京の再生を目指して、都政の新たな展開に取り組んでまいりました。今後、その成果を踏まえ、さらに踏み込んだ自己改革に取り組んでまいります。
 これまでの行政サービスの限界を克服する「効率化」の実現を目標に、新しい「公」のあり方を探っていきたいと思います。民間が行えることは思い切って民間に委ねるとともに、真に行政が担うべきことは何かという視点からサービスのあり方を徹底して見直し、民間に負けない効率性の実現を目指します。
 都議会の行財政改革基本問題特別委員会でも行財政改革大綱の策定を求めております。力を合わせて、新しい発想により東京の再生を実現することが、首都東京の活力と魅力を向上させ、ひいては日本再生にもつながるものと確信しております。

2 東京の新たな発展を目指す政策展開

(都民生活の安全・安心の確保)

〈三宅島帰島の実現〉
 はじめに、三宅島について申し上げます。
 今月1日、4年5か月に及ぶ避難指示が解除され、帰島が始まりました。長期間の避難生活のご苦労に耐え、島に帰る日を待ち望んでいた村民の皆様の気持ちを思うと、胸に迫るものを禁じ得ません。火山ガスのなかでの生活再建には様々な困難がまだあることと思いますが、全島一丸となって、ふるさと三宅島を再建されるよう願っております。
 都は、村民の皆様が一日も早く安定した生活を送れるよう、独自の住宅整備費の補助や事業再開のための融資などに取り組むとともに、砂防施設などの整備を着実に進めてまいります。
 避難期間中、都内の区市町村をはじめ全国の自治体、関係機関の方々から心温まるご支援をいただきました。多くのボランティアの皆さんにもお力添えをいただいております。今後とも、三宅島へのご支援を心よりお願いいたします。

〈大規模災害等への備え〉
 昨年は、集中豪雨や相次ぐ台風の上陸、新潟県中越地震、インド洋大津波など、大規模な自然災害が頻発し、日ごろからの備えの大切さを改めて痛感いたしました。東京でも、直下型地震など大規模災害がいつ起きてもおかしくない状況であります。
 都では、来年度、河川の護岸や防潮堤などを緊急に補修するとともに、東池袋地区と鐘ヶ淵地区において、道路整備と一体で木造住宅密集地域の不燃化を進めるなど、災害に強い都市基盤の整備に取り組んでまいります。
 新潟県中越地震の教訓を踏まえ、多摩地域の山間部における集落の孤立化を防ぐ対策を進めてまいります。情報連絡や救助活動などを円滑に行うため、具体的な計画を今年度中に作成するほか、代替道路の整備や土石流・がけ崩れ対策などを実施してまいります。
 大規模地震発生時の物流を確保するため、東京港の岸壁の耐震強化を引き続き進めるとともに、隣の横浜港、川崎港と岸壁を相互に利用出来るよう協定を結び、輸送ルートの確保を図ってまいります。
 都市部での災害、事故に対応する東京DMATについては、来年度、隊員数を4倍に拡充するほか、NBC災害にも対処出来るよう装備を充実いたします。
 また、最前線での消火・救助活動を強化するため、平成18年度までに全消防署に、必要な資機材と人材を備えた特別消火中隊を配備してまいります。
 武力攻撃や大規模テロなどに対しても、万全の備えが必要であります。緊急時に都民の避難、救援等を適切に行うため、都としての保護計画を来年度策定いたします。今定例会に、計画案を審議する協議会の設置条例などを提案しております。

〈新興感染症対策の推進〉
 近年のSARSや鳥インフルエンザの発生に見られるように、新たな感染症への対応が喫緊の課題となっております。
 アジア大都市の医療機関等が、新興感染症の感染経路や治療方法などの情報をいち早く共有し、拡大防止や早期制圧に取り組んでいくため、来年度、各都市を直接結ぶネットワークを構築いたします。
 都では、昨年12月、新興感染症対策会議を設置し、予防・医療と大規模発生時対策の両面から、行動計画の策定に向け取組みを進めております。現行の法体系では、基本的人権などが制約となる場合が想定されますが、都民・国民の生命を守るため、迅速で的確な対応がとれるよう検討してまいります。

(治安の回復と青少年の健全育成)

〈治安の回復〉
 都は、緊急治安対策本部を設置し、安全・安心のまちづくりや、子どもを犯罪に巻き込まない取組み、外国人組織犯罪の抑止対策に全力を挙げて取り組んでまいりました。
 地域住民による自主的な防犯活動の活発化もあり、強盗やひったくりが大幅に減少するなど、治安回復の兆しも見えはじめています。しかし、振り込め詐欺が急増するなど、依然として都民の不安は解消されず、今年度の都政への要望では、治安対策は初めて第1位になっております。引き続き、手綱を緩めることなく取組みを強化してまいります。

 来年度、治安対策推進担当の理事を設置するとともに、警察官を300人、交番相談員等を390人増員し、都職員の派遣を継続してまいります。平成19年度、臨海地区に警察署を新設し、20年度には、原宿署を移転改築して300人規模の留置場を併設するほか、八王子署等の管轄区域を分割し多摩西警察署(仮称)を新設いたします。
 また、繁華街での犯罪を防止し被害を未然に防止するため、街頭防犯カメラを歌舞伎町で増設するとともに、新たに上野地区でも設置をいたします。IT化の進展に伴って急増している、インターネット取引での詐欺、電子メールによる架空請求、カードの偽造など新しい犯罪についても、商取引などの実態解明を進め、被害の防止に取り組んでまいります。
 留学生・就学生対策では、新宿、渋谷、豊島の3区と合同で実施した調査により、専門学校の一部について、長期欠席者やアルバイトの実態把握をしていないなどの問題が明らかになりました。今後、調査・指導の対象を都内全域に拡大するとともに、近く、留学生・就学生の適正管理のための指針を策定し、これに違反した学校名を公表するなど厳正に対処してまいります。

〈青少年の健全育成〉
 次に、青少年の健全育成についてであります。
 都はこれまで、若年者の就労支援など自立の促進や、子ども家庭支援センターの拡充など地域の子育て支援、有害な情報・環境から子どもを守る取組みなど、青少年の健全育成を総合的に推進してまいりました。
 昨年11月、青少年問題協議会に、青少年健全育成条例のあり方について検討するよう諮問しました。十数回に及ぶ活発な議論をもとにいただいた答申を踏まえ、条例を改正いたします。インターネットによる有害情報から子どもを守るための努力を、プロバイダーに義務づけてまいります。また、保護者を含め関係者には、青少年に対して安易な性行動を戒め、慎重な行動を促すよう求めてまいります。青少年に対するみだらな性行動を禁止し、違反した大人には罰則を課すことといたします。

 脱法ドラッグの健康被害が10代、20代の若者を中心に広がり、犯罪に結びつくケースも生じております。国もようやく、ことの重大さに気づいて検討をはじめましたが、都は独自の条例を制定し、この4月から脱法ドラッグの規制に着手いたします。規制対象となる薬物を都が指定し、製造、販売、使用等の行為を禁止するとともに、罰則を設け厳しく対応してまいります。

 この2年間の取組みを通じて痛感するのは、治安の問題を掘り下げていきますと、青少年の問題に必ず突き当たるということであります。次代を担う青少年を育てるのは、都民の皆さん一人ひとりであります。それぞれの地域で健全育成の取組みをこれからも深めていただきたいと思います。

(産業力の強化)

 次に、東京の産業力の強化について申し上げます。

〈新銀行東京の本格開業〉
 新銀行東京については、これまで精力的に開業準備を進めてまいりましたが、いよいよ本年4月1日から本店で主要業務を開始、その後、段階的に店舗を開設し、7月中には全面的に業務を展開する予定であります。
 新銀行の開業は、多くの中小企業の潜在的力を十分に発揮させ、東京の地域経済を本格的に再生させる画期的な第一歩となるものであります。今後、都民や中小企業にとって信頼性の高い、真に役立つ金融機関として、新銀行東京が着実に成長していくことを強く期待しております。

〈中小企業等への支援〉
 東京の中小企業は、優秀な技術やノウハウを有し、日本の産業を支える重要な役割を担っております。
 一昨日開設したナノテクノロジーセンターにおいて、ナノテク機器の開放や共同研究、技術相談などを行い、中小企業の技術力強化を支援してまいります。
 制度融資の目標額については、過去最大の規模である1兆7500億円を維持するとともに、会計処理の水準を高め情報を積極的に公開する企業への迅速な融資、第三者による事業承継を対象とする融資など新たなメニューを創設し、資金調達の円滑化を図ってまいります。
 また、事業の再生、承継、廃業などの問題を抱えた中小企業を対象に、中小企業振興公社に専門家による相談窓口を設置して、再生ファンドも活用しながら金融支援や経営相談などを行ってまいります。
 商店街は住民の生活の場、地域コミュニティーの核として大きな役割を果たしております。来年度、先進的な取組みへの表彰制度の創設や、地域との連携事業への支援など、施策を拡充してまいります。

〈観光の振興〉
 東京を千客万来の都市としていくため、観光振興策を総合的に推進してまいります。
 平成14年度から開始したシティセールス・ミッションは、今月の派遣で6回目となりました。今回はハリウッドとヒューストンを訪れ、東京が世界に誇るアニメ、ものづくり産業を観光資源としてアピールいたしました。これからも、東京の魅力を広くPRし、海外からの来訪者増加につなげていきたいと思います。
 隅田川や運河などの水辺空間には新旧の魅力のあるスポットが点在しております。こうした貴重な観光資源をネットワーク化し水辺空間の魅力を向上させるため、来年度、全体構想を策定いたします。また、地域の観光まちづくりの核となるリーダーの養成を引き続き進めるとともに、平成18年度には、首都大学東京で公開講座を開設し、20年度の「観光・ツーリズムコース」の開設につなげていきたいと思います。

 伊豆諸島、小笠原諸島にとって、観光は島を支える最も重要な産業であり、それぞれの島の特性を活かしながら、観光を振興してまいります。先日、小笠原の南島と周辺海域の沈水カルスト地形を東京都の天然記念物に指定いたしました。貴重な自然景観の保全と観光の両立を図ってまいります。三宅島については、5月から観光客の受入れを予定しており、村と力を合わせ取り組んでまいります。

(福祉・医療施策の充実)

〈子育て家庭への支援〉
 少子化の進行は、東京において最も顕著に表れております。結婚や出産は、個人の価値観、人生設計に深く係わる問題でありますが、安心して子育てが出来る環境を整備することが求められております。
 本来、子どもの育成については、区市町村の果たす役割が重要であります。来年度、総合的な補助制度を都独自に創設し、区市町村への支援を拡充いたします。学童クラブの安全対策や保育所での一時預かりサービスを充実するなど、幅広い用途に活用出来る制度としてまいります。また引き続き、子ども家庭支援センターへの支援や児童相談所の専門機能の充実などを通じて、地域における子育てを支援してまいります。

 若い親にとって、子どもの突然の病気ほど不安なものはありません。都はこれまで、母と子の電話健康相談の充実やインターネットによる子ども医療ガイドの開設など、対策に努めてまいりました。平成18年度までに、都全域で平日の深夜まで初期救急診療が受けられるようにするとともに、来年度、小児の重篤な患者に迅速に対応出来るよう、三次救急機関のネットワークづくりに着手いたします。

〈高齢者・障害者の自立生活への支援〉
 高齢者が健康で自立した生活が出来る社会を目指して、来年度から都内全域で、介護予防健診を基本健康診査に併せて実施し、一人ひとりに応じた介護予防プランを策定いたします。また、デイサービスセンターなどを身近な介護予防拠点として充実し、筋力トレーニングなどの運動指導や栄養指導を行ってまいります。
 認知症高齢者のグループホームについては、補助金の交付金化など、国の姿勢の後退が懸念されますが、都はこれに左右されることなく区市町村を支援してまいります。また来年度、区市町村が主体的にグループホームの整備に取り組めるよう補助制度を充実いたします。

 認知症や知的障害などで判断能力が十分でない人にとって、成年後見制度は、その権利、財産を守るうえで重要な意義がありますが、制度自体があまり知られておりません。来年度、後見人の紹介などを行う推進機関の立ち上げに向けて区市町村を支援するとともに、都としても後見人の育成などに取り組んでまいります。

 障害者の自立支援の取組みについては、引き続き、知的障害者や重度身体障害者のグループホームの整備を進めるとともに、障害者の就労を促進するため、通所施設に在籍しながら企業が提供する場で働けるよう、都独自の支援事業を創設いたします。

(教育改革と新しい文化政策)

 都はこれまで、21世紀の東京の創造的発展を担う若者を育成するという視点に立ち、独自の教育改革を推進してきました。

〈首都大学東京の開学〉
 この4月、首都大学東京が開学いたします。単位バンク制の導入や語学教育の改革など、既存の大学にない全く新しい教育を実践し、旧態依然とした日本の大学教育を根底から変えていきたいと思っております。西澤潤一学長、橋宏理事長のリーダーシップのもと、次代を担う有為な人材を育成し、大都市の抱える課題解決に役立てていきたいと思います。

〈教育改革の推進〉
 いわゆる「ゆとり教育」の弊害に国もようやく気づきはじめたようでありますが、まさに遅きに失したとしか言いようがありません。都では、昨年度から開始した一斉学力調査の結果をもとに、各小中学校で授業改善推進プランを策定し、学力向上策を実施してまいります。併せて、教員の教える力を高めるため、全公立学校を対象に、来年度から採用2、3年目の教員に授業力強化の研修を行うとともに、平成18年度、優秀な先輩が中堅教員に指導技術を伝授する「東京教師道場」を開設いたします。
 4月に開校する、都立初の中高一貫教育校・白鴎高校附属中学校の応募倍率が14倍を超えました。都民の期待の大きさの表れであると思います。平成18年度には、新たに小石川など3校の中高一貫校を開設する予定であります。
 障害のある児童・生徒については、子ども一人ひとりのニーズに応じた教育を拡充してまいります。近年課題となっている学習障害などにも対象を広げ、特別支援教育への転換を進めるとともに、盲・ろう・養護学校において、社会参加と自立に向けた職業教育や、大学などへの進学を視野に入れた教育の充実を図ってまいります。

〈新しい文化政策の展開〉
 都はこの6年間、公共空間の開放、若い才能への支援、民間の有能な人材の登用など、文化・芸術振興の新たな試みを進めてまいりました。
 一昨日、「東京都の文化施策を語る会」が発足いたしました。都が重点的に支援すべき分野や、指定管理者制度の発足を踏まえた都立文化施設の運営のあり方などについて、今後1年程度をかけて専門家による徹底的な議論を行ってまいります。

(環境問題への対応)

 次に、環境の問題への対応についてであります。

〈大気汚染対策の拡充〉
 一都三県が共同で取り組んでいるディーゼル車排出ガス規制により、東京にきれいな空気がなんとか戻ってきました。最新の調査によれば、規制前と比べ、気象の影響を受けない井荻トンネルでは、浮遊粒子状物質を構成するカーボンが68%、発がん物質が最大で84%減少し、都内34か所の道路沿いの測定地点でも、浮遊粒子状物質の年平均濃度が29%低下しております。
 先月から、石油連盟の協力によりサルファーフリー燃料の供給が開始されました。来年度は、残された課題であるVOC(揮発性有機化合物)排出量削減の取組みに着手いたします。
 また、NOx・PM法の施行に伴い、中小零細企業の車両の買換えを支援するため、新たな都独自の特別融資制度を創設いたします。
 大気汚染の元凶の一つである不正軽油を根絶するには、製造基地への硫酸の供給を絶ち切る必要があります。都は昨年12月、全国に先駆け、税務、廃棄物、毒劇物を所管する部門が連携して、製造業者と運送業者への立入調査を行い、現在、その追跡調査を実施しております。今後、首都圏の自治体と連携して共同調査を行うなど、不正軽油撲滅の取組みを一層強化してまいります。

 DPF申請データを偽造した三井物産に対しては、不正行為の責任を徹底して追及するため、昨年12月に刑事告発及び告訴を行いましたが、本日、補助金相当額等の返還を求め、制裁的加算金を含め損害賠償請求を行いました。今後、データ偽造によって被害を受けた事業者が不利益を被ることのないよう、補償策の実施を厳しく監視してまいります。

 都会に蔓延する花粉症は、大気汚染がもたらした複合汚染の所産にほかなりません。今年は、スギ花粉の飛散量が平年の倍以上、過去最大と予測されており、国は、大気汚染が花粉症などにも関連した重大な健康問題であることを認識して、対策に真剣に取り組むべきであると思います。

〈温暖化対策の新たな取組み〉
 先日、京都議定書が発効しました。国が実効性ある温暖化対策を十分に打ち出せないなか、都は、オフィスなどの大規模事業者に具体的な取組みについて計画の作成を義務づけるとともに、省エネ型の家電製品の普及を促進するなど、独自の対策を講じてきました。
 今回、条例を改正し、これまでの取組みをさらに強化いたします。大規模事業者から取組状況を報告させ、都が評価・公表する仕組みを新設するなど、誘導策を拡充いたします。加えて、都内にエネルギーを供給している事業者に対して、計画の策定と公表を新たに義務づけてまいります。またこの夏から、消費電力の少ない家電製品が一目で分かるラベルの表示を販売店に義務づけ、家庭部門での省エネを促進いたします。

〈ヒートアイランド対策の推進〉
 都はこれまで、モデル事業に取り組むなど、都独自のヒートアイランド対策を進めてきました。都の働きかけにより、国もようやく、ヒートアイランド対策の重大さを認識し、昨年末、都市再生の取組みに位置づけました。今年春にも、モデル地域を決定する予定であります。
 来年度、保水性舗装の拡大、区部の公立学校の校庭芝生化、都立施設における壁面緑化などに取り組むとともに、国と緊密に連携をとりながら、実効性あるヒートアイランド対策を集中的に推進してまいります。

 大規模工場の緑化について、新たな条例を提案しております。壁面緑化の意義を正当に評価し、緑化面積を全体にカウント出来るようにいたします。これによって、工場の建替えを促し、東京の産業力の向上を目指すとともに、これまで進んでこなかった大規模工場の緑化を促進してまいります。

〈産業廃棄物の適正処理〉
 都内では、1年間に約1100万トンの産業廃棄物が発生しておりますが、その一部が不法投棄されるなど、社会問題となっています。
 適正な処理を事業者に促すため、新たな報告・公表制度を導入いたします。大規模な排出事業者等には処理業者の選定や履行確認など、処理業者には処分受託量など、それぞれ実態を報告させ、ホームページなどで広く公開をいたします。
 平成14年度から都市再生の一環として進めてきたスーパーエコタウンについては、今年度稼動した情報機器、建設廃棄物のリサイクル施設に続き、来年度には、PCB処理施設、食品廃棄物リサイクル施設などが相次いで完成いたします。また、18年度にはガス化溶融等発電施設の稼動が予定されており、スーパーエコタウンの完成に向けて着実に整備を進めてまいります。

(東京のまちづくり)

 次に、東京のまちづくりについて申し上げます。

〈空港機能の拡充〉
 まず、羽田空港の再拡張についてであります。
 先月末、国と、新滑走路の建設に総額1千億円の無利子貸付けを行う協定を締結いたしました。来月には、施工者、工法が決定され、平成21年末の供用開始に向けていよいよ事業が動き出します。羽田空港の再拡張・国際化が一日も早く実現するよう、引き続き、国、関係自治体と協力して取り組んでまいります。
 横田基地の軍民共用化については、これまで米国側の状況をも探りながら、政府に早期実現を強く求めてきました。米軍再編の動きが進むなか、昨年秋以降、具体的な協議の段階に入ってきたように思われます。機は熟しつつあります。早期実現に向け、国とともに積極的に取り組んでまいります。

〈公共交通網の整備〉
 東京の公共交通網の整備が、さらに前進いたします。本年8月24日、常磐新線が開業し、秋葉原とつくばが最短45分で結ばれるほか、来年度末には、ゆりかもめの延伸部、有明・豊洲間が開業する予定であります。さらに平成19年度には、日暮里・舎人線と地下鉄13号線の開業も見込まれます。今後とも、関係機関と協力し着実に整備を続けてまいります。

〈道路ネットワークの整備〉
 東京の潜在力を発揮するためには、物流の基盤である道路ネットワークの整備が不可欠であります。
 環状8号線など区部環状道路、調布保谷線などの多摩南北道路の建設を進めるとともに、三環状道路の整備を促進してまいります。中央環状品川線については、有料道路事業に先駆けて、来年度、都が街路整備事業として先行着手をいたします。来月、日の出・あきる野インターチェンジ間が開通する圏央道については、残る区間の早期完成を国に強く働きかけてまいります。
 臨海部の道路交通の円滑化を図るため、国と連携して、東京港臨海道路と新木場・若洲線の整備を進めるとともに、大井コンテナふ頭周辺の渋滞緩和策として、交差点の改良やコンテナ車の専用レーンの設置に取り組んでまいります。
 いわゆる開かずの踏切の半数以上がこの東京に集中し、踏切渋滞の解消が大きな課題となっております。来年度も引き続き、JR中央線や京浜急行線などで連続立体交差事業を着実に進めてまいります。

〈新たな住宅政策など〉
 都民が生活の豊かさを実感出来ない大きな要因の一つに、狭くて高価格な戸建住宅の問題があります。こうした状況を変えるための第一歩として、東村山市本町地区において、低価格で高品質な戸建住宅の実証実験に着手いたしました。先月末事業者を決定し、今年夏ごろには整備が始まる予定でありまして、市場価格よりも間違いなく3割安く高品質な住宅の提供を実現してまいります。これは、市場の分析をしますと、必ず出来ること、やらなかったら大手のエゴであります。この実証実験で得られる成果を活かして、設計の標準化や流通経路の短縮など、生産システムの合理化に関する指針を作成し、安くて質の良い戸建住宅の普及に都の責任において取り組んでまいります。

 地域の個性を活かした魅力的な都市景観を創出するため、屋外広告物条例の改正を提案しております。通り全体でイメージを統一するなど、地域ごとに屋外広告物のルールを設定出来るようにするとともに、違法広告物対策を強化し、新たに広告業者の登録制度を導入します。悪質な違反者に対しては、行政罰を課すことで迅速な対応が出来るようにしてまいります。

(多摩・島しょの振興)

 次に、多摩地域と島しょの振興について申し上げます。

〈多摩リーディングプロジェクトの策定〉
 東京の3分の1の人口を擁する多摩地域は、最先端技術が集積し、製造品出荷額では区部を上回るとともに、豊かな自然環境にも恵まれております。都心へのアクセスの良さも加わって、首都圏を牽引する大きな可能性を秘めた地域であります。
 こうしたポテンシャルを十全に開花させていくため、先月、「多摩リーディングプロジェクト」を策定いたしました。多摩の固有資源の活用、横田基地の軍民共用化、都市間の連携を施策展開の基軸として、都が率先して取り組む20の重点推進事業を中心に、多摩振興に力を注いでまいります。

〈沖ノ鳥島の漁場調査等〉
 小笠原諸島及び沖ノ鳥島周辺の海域は貴重な海洋資源に恵まれ、国益を維持するうえで枢要な位置を占めております。最近、この海域を含む我が国の排他的経済水域で、中国による違法な海洋調査が執拗に繰り返されています。これは我が国の主権に深く係わる重大な問題であり、政府は責任を持って毅然とした対応をすべきであります。
 都は来年度、沖ノ鳥島と周辺海域で、漁場調査や漁礁の設置に着手いたします。先月末、小泉総理大臣に、こうした方針や海洋の温度差を利用した発電所の設置について直接申し入れを行いました。中国は気違いじみたプロジェクトであると言っておりますけど、これはまともな、まともな、ごくまともな国益を反映したプロジェクトだと思います。私自身、現地を訪れ、我が国固有の領土であり、東京都の区域である沖ノ鳥島の実情をこの目で確かめたいと思います。

3 来年度の都政運営

 冒頭で申し述べたように、日本が歴史的に大きな転換点に差しかかり、東京の役割がますます重要性を増していることの認識に立って、平成17年度の予算、職員定数、組織改正案を取りまとめました。
 まず、予算についてであります。都財政は一時の危機的状況を脱したものの、度重なる財源対策により基金残高が底をつくなど、その再建は未だ途半ばにあります。一方、治安回復や都市再生など解決を迫られている課題が数多くあります。そのため、来年度予算は、「東京の新たな発展を目指しつつ、財政構造改革を一層推進する予算」と位置づけ編成しました。
 三宅島の帰島支援や治安対策、ディーゼル車対策など、緊急課題に重点的に財源を投入するとともに、羽田空港の再拡張、中央環状品川線の新規着工、子育て支援など、東京の将来を見据えた施策にも知恵を絞りました。
 財政再建については、手を緩めることなく取り組み、歳入の4割を借金に依存している国と比べ、起債依存度を6%に抑えるなど、着実に成果を上げております。景気の回復による都税収入の大幅な伸びを活用し、いわゆる隠れ借金の圧縮や基金への積立てを行うなど、都財政の体力回復にも努めました。
 しかし、残念ながら、税収増が今後継続する保証はどこにもなく、景気動向にも大きく影響される財政の不安定さには本質変わりはありません。今回の予算で、7年ぶりに臨時的財源対策を施すことなく財源の確保が出来たとはいえ、法人事業税分割基準の理由もない見直しなど、都に対する理不尽な圧力も強まっています。引き続き、気を引き締め財政構造改革を推進していく必要があります。

 職員定数については、新たな施策展開に必要な人員を措置する一方、全体で2223名の定数削減を行いました。少数精鋭による一層効果的な都政運営を目指してまいります。また、知事本局に治安対策推進担当の理事を新たに設置するほか、試験研究機関の地方独立行政法人化や財団化に取り組むなど、執行体制を整備いたします。公の施設に対する指定管理者制度について、平成18年度からの本格導入に向け、関連条例の改正を提案しております。
 区部の商業地等の固定資産税・都市計画税について、負担水準の上限を引き下げ、税負担の不均衡を是正してまいります。また、既に実施している小規模住宅用地をはじめとする都独自の3つの減税措置について、来年度も継続することといたしました。

 なお、本定例会には、これまで申し上げたものを含め、予算案39件、条例案95件など、合わせて147件の議案を提案しております。よろしくご審議をお願いいたします。
 以上をもちまして、施政方針を終わります。