石原知事施政方針

平成17年6月1日更新

平成17年第二回都議会定例会知事所信表明

平成17年6月1日

 平成17年第二回都議会定例会の開会に当たりまして、都政運営に対する所信の一端を申し述べ、都議会の皆様と都民の皆様のご理解、ご協力を得たいと思います。

 ただいま、多年にわたり都政に貢献された13名の議員の皆様が表彰をお受けになりました。都政の発展に尽くされたご功績に対して、深く敬意を表し、心からお喜びを申し上げます。

1 二つの島から

 今、東京の二つの島に注目が集まっております。
 避難指示解除から4か月、三宅島には1700人近い方々が帰島され、未だ火山ガスの噴出が続くなか、生活再建に取り組まれております。
 今後の産業の柱として期待される観光については、旅館、民宿の営業再開に続き、先月から釣りやダイビングなど観光客の受入れが始まりました。ゴールデンウィークには2千人以上の方が訪れ、島はおよそ5年ぶりに活気を取り戻しました。
 4月には学校も再開されましたが、農地の復旧や漁業の再開など生活再建は始まったばかりであります。一日も早く島の復興が実現し、村民の皆様が安心して暮らせるようになることを願っております。

 先日、日本の最南端に位置する沖ノ鳥島を視察してまいりました。東京から南へ1700キロメートル、波頭を越えて東小島に上陸し360度の水平線を見渡したときに、深い感慨を覚えました。我が国固有の領土であるこの島が、国土全体に匹敵する排他的経済水域を支えております。また、米国が重要な戦略基地を擁する沖縄とグアム島との中間に位置し、日米安全保障条約を踏まえた我が国にとって極めて重要・不可欠な存在となっているのであります。
 今必要なのは、日本が沖ノ鳥島を実効支配している事実を世界にはっきりと示すことであります。この4月、小笠原島漁業協同組合の協力により漁業操業を試験的に実施したところ、マグロなど約2トンの水揚げがありました。周辺には豊穣な海が広がっており、大きな可能性を秘めております。排他的経済水域の維持には国の役割が決定的に重要でありますが、都としては漁場調査や魚礁の設置など、できる限りの支援を行うとともに、周辺海域での諸開発の可能性も探ってまいります。

 三宅島と沖ノ鳥島、この二つの島から見えてくるものは、都民の自立した生活を支えることの大切さと、国家の利益を考え行動することの重要性であります。首都東京の舵取りを担ううえで、引き続きこの二つの視点を大切にしていきたいと思っております。

2 都政の主な動き

(教育改革の推進)

 この春、首都大学東京では、第一期生約2400名が新しい大学の門をくぐりました。入学式において私は、「東京には他の都市にはない様々なものが集中集積しております。これを大いに利用し互いに切磋琢磨して、強い個性と誰にも負けない発想力を養ってほしい。」と励ましの言葉を贈りました。首都大学東京が、東京など大都市を舞台に活躍する有為な人材を輩出することを期待しております。

 一方、都立高校の進学指導重点校では、現役合格者が国公立大学では約4割、私立の難関大学では3割以上増加するなど、高い実績を上げてまいりました。また、不登校経験を持つ生徒などを受け入れるチャレンジスクールや、基礎学習に力を入れるエンカレッジスクールでは、全日制普通科を大きく上回る応募がありました。生徒の多様な希望に応える都独自の高校改革の成果がようやく現れ始めたものと思います。
 若者にやり直しの機会を与えることも重要であります。高校中退者のために総合相談窓口を4月に開設いたしました。再入学や高卒資格の取得方法などを助言するとともに、しごとセンターと連携して就労を支援するなど、社会で逞しく生きていく力を培ってまいります。

(青少年の健全育成・治安対策)

 都は、青少年の健全育成と治安の回復を目指して、二つの本部を設置し積極的に施策を展開してまいりました。夏に向けて、さらに一体的、総合的な取組みを強化するための体制整備を図ってまいります。
 青少年を健全に育成するうえで、地に足のついた勤労観や職業観を身に付けさせることが重要であります。既に多くの学校で一日職場体験などが実施されていますが、今年度から公立中学2年生を対象に、地域の商店や企業、公的な施設などにおける5日間程度の職場体験を導入いたします。今後段階的に拡大し、すべての公立中学での実施を目指してまいります。
 こうした職場体験をはじめ健全育成の具体的な取組みを進めるには、行政はもとより、地域、学校、家庭、さらには事業者、関係団体などの参加が不可欠であります。全都を挙げて総合的に取り組むため、来週、「東京子ども応援協議会」を設立いたします。

 迷惑防止条例を4月に改正いたしました。歌舞伎町で客引きがほとんど見られなくなるなど、主要な繁華街でその効果が現れ始めております。
 痴漢・盗撮は卑劣な犯罪であります。都では、対策について警視庁、鉄道事業者と昨年7月から協議を重ねてまいりました。その結果、先月、鉄道各社が朝のラッシュ時を中心に女性専用車両を導入いたしました。
 電車内や駅構内などの公共空間で、傍若無人な座り方や携帯電話の使用など他人に迷惑をかける行為が横行しております。現在、公共空間での迷惑行為の防止・改善策について、有識者などからなる検討会で議論を進めており、年内には一定の方向を示したいと思います。

(都市活動の活性化)

 中小企業の海外展開を支援するため、今年度、外国での工場設置や出資などを対象とする新たな融資制度を創設いたしました。また、東京に進出した外国企業の定着を図るため、ビジネスや生活関連の情報を的確に提供することが求められておりまして、8月、外資系企業向けのワンストップ総合窓口を開設いたします。
 産業技術大学院については、平成18年4月の開学を目指して、今定例会に開学手続きに必要な首都大学東京の定款変更を提案しております。高度なIT技術を有する人材や、商品開発のノウハウを持つ優れた技術者を育成してまいりたいと思います。

 秋葉原は電気部品なら何でも揃う専門店街から発展し、今日では電気製品やIT技術などに関する情報が集積し、人材が交流する、世界的にも例を見ない街に成長いたしました。3月末、産学連携機能を有するIT拠点・ダイビルがオープンいたしました。この秋上野公園で行いますICタグなどを活用した観光情報提供の実証実験についても、ダイビルを活用して国内外にPRしてまいります。日本の財産といえるこの街が、IT関連産業の国際的なセンターとしてさらに大きく成長していくことを期待しております。

 横田基地の軍民共用化については、都はこれまで、日米両政府に早期実現を強く働きかけてまいりましたが、この4月、米国側から非常に前向きな回答があり、近く日米双方による具体的な協議が始められることになりました。共用化の実現のためには、地元の理解と協力を得ることが不可欠であります。都としても日米協議に参加し、今後、国と力を合わせ、早期具体化に向けて取組みを加速させてまいります。

(都民福祉の向上)

 次に、福祉保健施策についてであります。
 都はこれまで、高齢者や子育て家庭、障害者など、誰もが地域で自立できる社会の実現を目指して、積極的な施策展開を図ってまいりました。
 ところが国は、施設やサービスの担い手が不十分な状況を直視せず、補助金改革に名を借りて、福祉施設整備について実質的な負担増を地方に押し付けようとしております。今年度、民間保育所の整備費に区市町村負担が導入され、高齢者のショートステイが補助対象から突然外されたばかりか、障害者施設の整備費補助についても一方的な絞り込みが行われてまいりました。現在国会で審議中の障害者自立支援法は、サービス提供の一元化と国の財政責任の明確化をうたってはいるものの、全国の自治体の間で負担増が危惧されております。
 福祉の充実には、地域の実情に応じたサービス水準の維持・向上が不可欠であり、その達成には国の役割が極めて重大であります。国に対して、財政負担を含め自らの責任を全うするよう強く要求してまいります。

 都内のホームレスは、今年2月時点で4年ぶりに5千人を大きく下回りました。全国的に横ばい傾向にあるなか、大幅に減少したのは東京だけであります。都がこれまで23区と共同で、緊急一時保護や就労支援、地域生活への移行促進など独自の取組みを地道に続けてきた成果であると思います。
 既に新宿中央公園や戸山公園、隅田公園では借上げ住宅への入居を終え、ホームレスが激減しており、現在、代々木公園においても事業を進めております。都民の皆様の理解と協力を得ながら、引き続きホームレスの自立支援と公園の機能回復に取り組んでまいります。

 4月から、都独自の薬物濫用防止条例が施行されました。先月末、脱法ドラッグ3種類を知事指定の薬物として告示しましたが、本日から、ドラッグGメンによる店舗への立入調査や監視・指導など、徹底した取組みを開始いたします。

(環境問題への対応)

 ヒートアイランド現象は大都市特有の問題であります。国はこの4月、都が提案した4つのエリアを対策モデル地域として指定しました。都は国と緊密に連携をとりながら、校庭の芝生化や保水性舗装、屋上・壁面緑化などの対策に取り組んでまいります。
 花粉症は複合汚染の所産であり、原因が国の環境行政と林野行政の怠慢にあることは明白であります。今年、私もはじめてその辛さを身をもって体験いたしました。都はディーゼル車排出ガス規制や杉の間伐、花粉の少ない品種の普及など独自の取組みを進めてまいりましたが、国は国民の6分の1が苦しんでいるといわれる花粉症を未だに軽視したままであります。首都圏、八都県市などと連携しながら、国に対して抜本的な対策を講じるよう強く求めてまいります。

(東京都社会福祉総合学院について)

 最後に、東京都社会福祉総合学院について申し上げます。包括外部監査の意見を受け、特別職による調査改善委員会を設置して、実態を調査し、将来に向けた改善策を検討してまいりました。その結果、東京都社会福祉事業団と敬心学園との間の契約は有効に成立しており、この間の経緯にも違法な点は認められませんでした。しかし、同学院は設立後の状況変化により、先駆的な役割が消滅していることなどから、平成18年度末をもって終了することといたしました。
 校舎等の建物は都の所有とし、全庁的な視点での有効活用を今後図るものとしますが、臨床福祉専門学校の在学生には十分配慮をしてまいります。活用の具体的内容については、関係者等と協議を重ね、今日の状況において都民の納得の得られる、合理的・効率的な対応策を詰めていく考えであります。

3 おわりに

 本定例会は、都議会の皆様にとりまして、現任期最後の定例会となります。皆様とは、都政の進路をめぐり真摯な議論を交わさせていただきました。大きな変動の時期にあって、都政の前進に尽力されたことに心より感謝を申し上げます。
 現任期を最後にご勇退される方々には、これまでのご労苦に対し、都民を代表して改めて深く敬意と感謝の意を表します。また、改選を迎える皆様には、心よりご健闘をお祈りいたします。

 なお、本定例会には、これまで申し上げたものを含め、条例案11件、契約案2件など、合わせて20件の議案を提案しております。よろしくご審議をお願い申し上げます。

 以上をもちまして、所信表明を終わります。

 ありがとうございました。