石原知事施政方針

平成17年12月1日更新

平成17年第四回都議会定例会知事所信表明

平成17年12月1日

 平成17年第四回都議会定例会の開会に当たりまして、都政運営に対する所信の一端を申し述べ、都議会の皆様と都民の皆様のご理解、ご協力を得たいと思います。

 11月15日、紀宮さまが黒田慶樹さんとご結婚されました。心よりお慶びを申し上げます。若いお二人が力を合わせて、これからの人生を歩んでいかれることを祈念しております。

1 スポーツを通じた都市の発展

(「東京マラソン」の開催)

 さて先月はじめ、ニューヨークシティマラソンを視察してまいりました。世界最大規模のこの大会には、百余りの国々から4万人近いランナーが参加し、250万人もの観衆が沿道を埋め尽くすなど、期間中、ニューヨークの街全体は祭りの一体感に包まれておりました。大会の雰囲気を肌で感じ取ることができまして、たいへん参考になりました。
 東京においても、東京国際マラソンと東京シティロードレースを統合した「東京マラソン」、大マラソンを平成19年2月に開催いたします。事前イベントや沿道の地域色豊かな応援など、今回の視察で得たノウハウを十分に活かしながら、トップアスリートから市民ランナーまで3万人が参加するアジア最大の大会に育てていきたいと思っております。
 記録を狙える魅力的なコースを設定するとともに、皇居前や銀座、浅草など都内の名所をつないで観光都市・東京を世界に向けてアピールし、どこにも負けない大マラソン祭りを実現してまいりたいと思います。

(21世紀の東京オリンピックに向けて)

 スポーツ・イベントはマラソンに限らず、都市の発展と密接な関係にあります。かつての東京オリンピックがそうであったように、都市に住み集う人々に高揚感をもたらすとともに、都市の姿を一変させる力をも持っております。
 先月、21世紀の東京オリンピック開催を目指す基本構想懇談会を立ち上げましたが、五輪招致が実現すれば、東京、ひいては日本の可能性を世界の人々に披瀝する絶好の機会となります。10人の委員の方々には、世界的にも類を見ない集中集積の進んだ東京ならではの独創的なコンセプトを提言いただけるものと大いに期待しております。都では、必要となる資金の一部をあらかじめ基金に蓄えておくことで、国家的プロジェクトであるオリンピックに対する十全の備えを講じておきたいと考えております。
 先般、関東地方知事会議や八都県市首脳会議においても、五輪招致に全面的な賛同をいただきました。近隣自治体からの支援・応援はたいへん心強く、様々な面で連携を図ってまいります。
 再来年の「東京マラソン」の開催に続き、平成25年には、多摩・島しょ地区を中心に行われる東京国体も予定されております。今後、あらゆる機会を通じて機運を盛り上げ、都民・国民に夢と感動を与えるオリンピックの実現に全力で取り組んでまいりますので、都民、都議会の皆様のご支持、ご協力をよろしくお願いいたします。

2 東京が先導する新しい政策展開

 続いて、都が進める政策について申し上げます。

(国際都市に相応しい都市整備の推進)

 はじめに、国際都市に相応しい都市整備についてであります。

〈都市の再整備〉

 先月、渋谷駅周辺の約140ヘクタールを都市再生緊急整備地域に指定するよう、国に申し入れを行いました。渋谷は、平成19年度に地下鉄13号線が開業し、その5年後には東急東横線との相互乗り入れも計画されるなど、大きなポテンシャルを持っておりまして、今回の指定によって民間主導の再開発に弾みをつけていきたいと思います。駅周辺の再編や機能更新を通じて、この街が大人も楽しめる賑わいと回遊性のある街に生まれ変わることを期待しております。

 東京の貴重な観光資源である水辺空間の魅力向上も重要であります。景観や水面利用などの観点を重視し、東京の河川、運河等の魅力を高めるため、来年2月、全体構想を策定いたします。隅田川を挟んだ浅草・両国地域、小名木川を軸とする江東内部河川や臨海部で、地域特性を踏まえた景観づくりを進めるとともに、水上レストラン、商業施設の整備や船着場の民間利用を促進するなど、水辺に新しい賑わいを創出してまいりたいと思います。

〈幹線道路整備の必要性〉

 東京を中心とする首都圏の交通渋滞は、依然として慢性的な状況が続いております。
 道路整備の遅れは、経済活動の非効率による高コスト構造をもたらし、CO2の排出などにより環境負荷を増大させるなど、都市の存立にとって致命的な問題であります。国際競争力を高め、首都圏の再生を実現するには、オリンピック招致も視野に入れながら、首都圏全体を見据えた効率的な道路ネットワークを集中的に整備する必要があります。
 現在、国では道路特定財源の一般財源化が検討されていますが、大都市における道路整備の需要は非常に大きく、引き続き必要不可欠な財源であることは論を待ちません。先日、八都県市首脳会議で共同声明を発表したとおり、道路特定財源は用途拡大を図りながら道路関係の施策に重点的に投資されるべきであります。
 首都圏の道路整備はここ10年間が正念場でありまして、都は今後とも、関係自治体と連携しつつ、財源の確保と着実な整備に努めてまいります。

〈空港機能の拡充〉

 首都圏のもう一つの弱点は、空のアクセスが著しく不足していることであります。世界が時間的、空間的に狭小になった現在、人や物の国際的な交流に不便を来たす国家が脱落を余儀なくされることは、至極当然であります。
 このため都は、羽田空港の再拡張・国際化や横田基地の軍民共用化を積極的に促進してまいりました。羽田については、平成21年末の供用開始を目指して着実に事業が進められているものの、横田の共用化は、緩慢な国の動きのために必ずしも順調とは言えません。
 先般、日米両政府による在日米軍再編協議の中間報告が発表されましたが、本来、まったく別物である横田の軍民共用化が米軍再編の動きに巻き込まれてしまったことは、誠に遺憾であります。我が国の防衛力強化の観点から軍軍共用化はやむを得ないとしても、並行して横田基地の滑走路を軍民が共同で利用することは国益総体を考えれば当然でありまして、日本の外交力の貧しさゆえに、要らぬ回り道をさせられたと言わざるを得ません。
 そもそもこの問題は、一昨年、日米両国首脳により実現可能性を検討することが合意されたものでありまして、日米協議を米軍再編とは切り離して加速させるべきであります。先月渡米した折、国防総省高官と会談し、米国も軍民共用化について具体的な協議に応じる意向があることを確認いたしました。今後早急に具体的な検討を行い、早期実現を達成するよう、改めて日米両政府に強く求めてまいります。

〈住宅政策の推進〉

 住宅政策の推進も都市整備にとって大きな課題であります。
 これまで都は、公的住宅の建設を中心とする取組みから、市場を重視しストックを活用する仕組みづくりへと政策を転換するため、民間と連携した南青山一丁目団地の建替えや東村山市本町地区での高品質で低価格な戸建の住宅の実証実験など、先進的政策を打ち出してまいりました。
 今後、こうした方向性をより確かなものとするため、既存住宅の耐震化をはじめ、増大する老朽マンションの建替えを円滑に促進するなど、東京の将来を見据えた課題に率先して取り組んでまいります。

(東京を支える中小企業の振興)

 次に、中小企業の振興についてであります。
 国の力を示すのは経済力や軍事力だけではなく、技術の力こそ、その最たるものであります。今年度のベンチャー技術大賞に接して、この思いを改めて強くいたしました。1千兆分の1秒単位でレーザーを点滅させて物質を分析する装置をはじめ、いずれも独自の技術を実用化したものばかりであり、東京に集積する中小企業の水準の高さを見事に証明しております。
 東京の産業力を維持・発展させるには、中小企業の優れた技術力をさらに伸ばしていく必要があります。そのため、産業技術研究所を地方独立行政法人化し、産学連携の強化により新たな技術の開発や普及に取り組むなど、中小企業への技術支援の中核機関としての機能を拡充いたします。あわせて、区部及び多摩地域に産業支援の拠点を再編整備してまいります。

(環境問題への対応)

 次に環境行政についてであります。
 これまで都は、ディーゼル車排出ガス規制により大気汚染の大幅な改善を実現し、地球温暖化対策計画書制度や屋上緑化をはじめとする先駆的な取組みを全国の自治体に波及させるなど、環境行政を先導してまいりました。しかし、温暖化の影響が懸念される異常気象が世界各地で猛威を振い、国内ではダイオキシン類などの土壌汚染やアスベストによる健康被害など、環境の負の遺産とも言える問題も顕在化しております。
 今後ともこれまでの取組みを継承しつつ、東京の環境再生に向けた多角的な取組みを進め、その成果を全国に発信してまいります。

 とりわけ産業廃棄物対策は喫緊の課題であり、総合的な対策を速やかに実施してまいります。
 東京で発生する有害な産業廃棄物の約6割が他県に持ち出されており、都内での処理体制の確立が急務であります。今後、セメント固化したアスベスト廃棄物を都の処分場に埋め立てる一方、感染性廃棄物については、来年度から都内の施設で全量を焼却するなどにより処理いたします。また、スーパーエコタウンに完成した専用施設において、1都3県のPCB廃棄物を受け入れ、無害化処理を進めてまいります。
 不法投棄も後を絶ちません。なかでも、その7割を占める建設廃棄物については、解体から最終処分まで廃棄物の流れを総合的に管理する仕組みを八都県市から国に提案し、その実現を迫ってまいります。あわせて来年度、都独自の実証実験を開始するなど、不法投棄の撲滅に取り組んでまいります。
 また、リサイクルの一層の推進を図るため、産業界と協力して廃プラスチックのリサイクルを進め、埋立てゼロを目指してまいります。

(福祉と健康を守る総合的な取組み)

 次に、福祉と保健医療についてであります。

〈確かな「安心」を将来世代に〉

 本格的な少子高齢社会に加えて人口減少時代の到来を迎えた現在、社会保障全般に対する漠然とした不安が都民・国民の間に広がっております。しかし、国の改革は遅々として進んでおりません。
 都はこれまで、認証保育所の設置やグループホームの拡充、小児救急医療体制の整備など、大都市のニーズを的確にとらえた施策を展開し、独自の福祉改革と医療改革を進めてまいりました。都民・国民の不安を解消し、これまでの改革をさらに進めるため、改めて福祉と保健医療に対する基本姿勢を明らかにしていきたいと考えております。
 確かな「安心」を将来世代に引き継ぐには、より効率的、効果的に施策を展開しなければならず、そのためには、都民の率先した健康づくりや障害者の就労などを積極的に支援し、一人ひとりの自立を促すことが不可欠であります。
 こうした視点に立ち、今後、民間の力と地域の協力、行政の支援を基本に据えて、福祉と保健医療の施策を総合的に推進してまいります。

〈抜本的な花粉症対策〉

 花粉症は今や、国民の6人に1人、首都圏では4人に1人が苦しむ歴とした国民病であります。ここまで事態を悪化させた原因が国の無為無策にあることは明白であり、国は省庁の枠を超え本腰を入れて対策に取り組むべきであります。
 都は先日、関係14局を束ねる対策本部を設置しました。今後、八都県市などとも連携を深め、総合的かつ抜本的な対策を進めてまいります。発生源から花粉を減らす対策として、多摩地域の人工のスギ林など3万ヘクタールを対象に、花粉の少ない品種への植替えや広葉樹との混交林への転換を図るとともに、住宅建設や公共施設などで多摩産材の利用を促進してまいります。あわせて、臨床医学総合研究所などと連携し根本的な治療方法の研究に取り組むなど、様々な角度から対策を講じてまいります。

〈新興感染症への備え〉

 鳥インフルエンザの被害が、アジア地域にとどまらずヨーロッパにも拡がりを見せており、ウイルスの変異による人から人への感染リスクが急速に高まっております。
 都では新興感染症対策会議を1年前に設置し、新型インフルエンザ対策の準備を進めてまいりました。都内で流行した場合、最大で都民の3割が感染し、死者は1万4千人に達すると予測しており、今月中に、具体的な対策を取りまとめた行動計画を策定いたします。
 流行期に、知事が不要不急の外出や催し物の自粛を呼びかける「流行警戒宣言」を出すとともに、大規模流行期には「緊急事態宣言」を発し、公共交通機関の運行縮小や劇場などの集客施設等に対する事業活動の自粛を要請してまいります。

(「自助・共助・公助」の精神の発揮)

 次に、地域の課題についてであります。

〈地域の防犯力の向上〉

 ひったくりや空き巣など身近な犯罪が減少傾向にあります。これは、警察、行政だけではなく、町会や自治会を含め都内に2千以上ある防犯ボランティアの自主的な活動による大きな成果であると思います。
 地域での自助努力を支援するため、防犯ボランティアがコンビニエンスストアの店舗や敷地を活動の拠点として利用できるよう、先月、業界団体と協定を締結いたしました。パトロールの際の集合・解散場所として利用するなど、店舗数が多く営業時間も長いコンビニを積極的に活用することで、地域の防犯力を一層強化してまいります。
 また、都内では公用、業務用の車が地域の隅々で数多く稼動しており、こうした車両を地域の「動く防犯の眼」として活用していきたいと思います。庁有車はもとより民間事業者の協力も得て宅配便などの車に防犯ステッカーを掲示し、不審者や犯罪発生現場を見かけた場合には率先して通報してもらうようにいたします。地域の防犯力のさらなる向上を目指し、今月中旬にも取組みを開始いたします。

〈ホームレスの自立支援〉

 23区内のホームレスは今年8月時点で、前年に比べて千人以上減少し4200人余りになりました。これまで地元区や関係団体と協力して進めてきた地道な取組みが結果に結びついたのだと思います。昨年9月に開始した民間アパートの借上げ事業では、既に約900人が公園などから移り住み、今年度末までにさらに300人が入居する予定であります。
 引き続き、入居後のフォローアップや公園、河川の適正利用の推進などにも取り組み、ホームレスの自立を支援してまいります。

3 国の不合理な動きにNO

 続いて、国のいわゆる三位一体改革についてであります。
 地方への税源移譲を巡っては、国と地方の役割分担を抜本的に見直す本質的な議論をほとんど行うことなく、政府・与党は昨日、児童手当などの国負担を切り下げ、地方に負担を押し付ける案で決着を図りました。しかし、いくら「省益あって国益なし」の数字合わせで取り繕ってみても、地方が独自性を発揮する余地は無いに等しく、地方分権には何らつながらないのであります。
 また、三位一体改革を隠れ蓑に、大都市や都財政を狙い撃ちにしたさらなる措置が実行される可能性も出てまいりました。
 これまでも国は、文明工学的に見て常軌を逸した理由を持ち出し、大都市から税源を奪い取るための法人事業税の分割基準の見直しを繰り返し行ってきました。今年度の措置では都は、来年度から600億円の減収が見込まれ、これまでの措置と合わせれば1100億円に上る減収を強いられることとなります。さらに新たな動きとして、まったく道理のない法人住民税の分割基準の見直しまで浮上してきているのであります。
 「東京独り勝ち論」といった根拠のない空論を振りかざし、都から税源を吸い上げようとするのは、東京の財政需要を無視した暴挙と言わざるを得ません。不合理極まりない措置を二度と許してはならず、都から搾り取ることしか考えない国の動きに対しては、都議会の皆様と力を合わせ、徹底抗戦の構えで臨んでまいります。

4 都政改革のさらなる推進

 最後に、行財政改革について申し上げます。

(行財政システムの再構築)

 かつて司馬遼太郎氏は「明治の太政官制度以来、この国は何も変わっていない。」と慨嘆しておりました。しかし、近代日本を百数十年にわたって支えてきた中央集権・官治の統治システムが、もはや限界に来ていることは誰の目にも明らかであります。
 これからは、官が「公」のすべてを担うのではなく、民間をはじめ多様な主体が「公」の役割を分担し合い、その中で都が担うべき守備範囲を明らかにしていく必要があります。
 このため、行財政改革基本問題特別委員会の報告も踏まえ、「行財政改革の新たな指針」を策定しました。
 自らの役割を原点から見直し、スリムで効率的な都政を実現するため、公営企業改革や監理団体改革の一層の推進はもとより、地方独立行政法人や指定管理者制度など、新しい経営改革手法を積極的に導入してまいります。また新たな取組みとして、官も民も同じ土俵で競い合う「東京都版市場化テスト」の早期実現に向け、来年度、モデル事業を選定いたします。官から民への流れを確かなものとし、様々な主体が責任を持って「公」を担う仕組みづくりに取り組んでまいります。
 同時に、複式簿記・発生主義の会計制度を国に先駆け来年度から導入し、事業別のバランスシートを活用した事後検証の仕組みを充実させるとともに、少数精鋭で仕事のできる執行体制の確立に取り組むなど、新しい都庁マネジメントを構築してまいります。
 職員の人事給与制度についても、抜本的な見直しに着手いたしました。今回の改革は、国や他団体に先駆け年功的な給与体系を見直し、仕事ぶりに応じたメリハリのある処遇を実現するための基礎となるものであり、団塊の世代の大量退職をにらんだ給与構造の改革であります。これを契機に、職員の士気を高め、都庁全体が持つ組織の力をさらに強化してまいります。
 来年夏を目途に、「新たな指針」に基づく実行プログラムを策定し、行財政改革の具体的な取組みを明らかにしてまいります。

(自治制度の抜本的な改革)

 自治制度のあり方についても時代にそぐわなくなっております。
 従来の制度では、大都市の役割が明確に位置づけられているとは言えず、大都市が地方を牽引し、国を動かす時代にあっては、東京から大都市の自治モデルを全国に発信していく必要があります。行政の簡素・効率化を基本に据えつつ、総合的で一体的な大都市経営の実現が不可欠であると考えております。
 東京における大都市制度である「都区制度」についても、変革が求められております。都が今後とも大都市経営の主体として役割を果たすのか、特別区が都に代わっていかなる役割を担うのかを徹底的に検証し、現行制度の枠にとらわれない抜本的な見直しを行うべきであります。
 今後、指針の中で明らかにした考え方を踏まえ、都として骨太な制度論を展開してまいります。国の動向も見極めながら、東京自治制度懇談会での検討を進め、21世紀に相応しい行政のあり方を提示していきたいと思います。

 なお本定例会には、公の施設に関する指定管理者の指定のための議案を提案しております。来年度からの本格導入に向け、210施設の候補者を選定したものであります。
 ただ今申し上げた事項を含め、条例案44件、契約案5件など、合わせて130件の議案を提案しております。よろしくご審議をお願いいたします。

 以上をもちまして、所信表明を終わります。

 ありがとうございました。