石原知事施政方針

平成18年2月22日更新

平成18年第一回都議会定例会知事施政方針表明

平成18年2月22日

 平成18年第一回都議会定例会の開会に当たりまして、都政の施政方針を申し述べ、都議会の皆様と都民の皆様のご理解、ご協力を得たいと思います。

 去る1月25日、名誉都民である三田政吉さんが逝去されました。ここに謹んで哀悼の意を表し、心よりご冥福をお祈りいたします。

1 今、この国に「志」はあるか

 さて、今からちょうど半世紀前、「もはや戦後ではない」と高らかに宣言した我が国は、経済成長の階段を一気に駆け上がり、世界第二位の経済大国にまで登り詰めました。その後、幾たびかの浮沈を繰り返し、今日、バブル崩壊後の長いトンネルをようやく抜け、景気回復の足取りに本来の力強さが戻りつつあるように見えます。
 この間、少子高齢化が先進国の中でも異例のスピードで進展し、日本の総人口は昨年、明治維新以来初めて自然減に転じるなど、社会構造は大きく変化いたしました。
 経済的な繁栄を手にし成熟社会に到達した私たちは、いったい何を得て何を失ったのか、両者を天秤に掛けたとき、喪失したものの大きさに慄然とせざるを得ません。現在、私たちの眼前で繰り広げられているのは、拝金趣味に染まった利己主義と合理主義の仮面を被ったご都合主義の狂態でしかないのであり、社会の肝心な部分で心柱がすっかり溶けてしまったように感じられます。
 こうした日本のありさまは、物質的な豊かさを極めた文明社会が行き着く当然の帰結にほかなりません。消費に溺れモノに囲まれた生活と引き換えに、私たちは大きな価値的な混乱の渦に巻き込まれ、時代、立場を超えて持ち続けるべき鉛直な価値の基軸、言い換えれば、日本人としての「志」をどこかに置き去りにしてきたのであります。

 日本は数千年に及ぶ歴史のなかで、その時代時代の大国、強国と真正面から向き合い、その時々のグローバル・スタンダードを咀嚼して自らの体内に取り込んできました。そこからさらに、世界に類を見ない固有の文化、感性、価値観を生み出してきたのであり、遥か先祖から続く営みをもう一度ここで思いかえす必要があります。
 今為すべきは、他国の狡猾な収奪や隷属の強要によって国益が損なわれようとしている現実から目を逸らさず、国家・民族として真に向かうべき方向を定めて、「自ら立つ国」としての自己を取り戻していくことであります。

2 オリンピックで示す東京と日本の存在感

(21世紀の東京五輪)

 そうした意味からも、2016年の開催を目指す東京オリンピックは、日本の底力と成熟都市・東京の存在を世界に対して、はっきりと示す大きな縁としなければなりません。
 東京は、他の追随を許さない都市機能の集中や縦横に整備された正確無比な公共交通網、そして安全で清潔な都市空間など、どの都市にも真似のできない魅力を備えております。また、日本独自の文化、各国の文化が溶け合った多様な食文化や芸術に、誰もが接することのできるのも、東京ならではの特徴と言えます。
 日本の縮図でもある東京の様々な優位性が、オリンピックを契機として世界の大都市問題の解決に大いに貢献し、21世紀の新しい都市モデルを提示できるものと確信しております。

 開会に当たっては、都心部を中心とする半径10キロメートル圏内に競技場や関連施設を集中的に配置するとともに、近隣自治体の協力も得て首都圏全体が有する競技施設等を最大限に活かしていきたいと思っております。既存施設の有効活用などにより環境への影響を極力抑え、選手の移動距離を短くするなど、コンパクトな大会を目指してまいります。さらには、世界最先端のハイテク技術を駆使して、これまでにない近未来的な大会を演出したいと構想を練っております。
 開催都市に欠かせないのが、もてなしの精神であります。東京には、100万都市・江戸で醸成された「江戸しぐさ」という他人を思いやる伝統があります。雨の日に、狭い道で行き交う際に傘を傾げる何気ない仕草の中に、過密都市ならではの気配りが表現されております。私たち自身が忘れかけているこうした良き文化を再認識し、日本人のもてなしの心で、選手はもとより東京に集うすべての人々を歓迎したいと思っております。

 オリンピックは、中長期にわたる国家的な一大プロジェクトであり、粘り強い継続的な取組みが不可欠であります。国も、相応の覚悟を持って五輪招致に取り組むべきであると思います。都は、来年度予算において開催準備基金を立ち上げ、1千億を積み立てるとともに、来年2月に開催する東京大マラソン祭りをオリンピックのプレ・イベントとして位置づけ、準備に全力で取り組んでまいります。
 日本が誇るITなどの高度技術と長い歴史が培ってきた独自の文化、そして日本人ならではのホスピタリティーを融合し、唯一無二の東京五輪を実現したいと熱望しておりますので、都民、都議会の皆様のご賛同をよろしくお願いいたします。

(待ったなしの都市基盤整備)

 五輪開催に向けては、幹線道路ネットワークなどの広域的な交通基盤の集中的な整備や、羽田空港の再拡張・国際化、横田基地の軍民共用化による空のアクセスの拡充、さらには世界に誇れる都市空間の創出など、前世紀に積み残してきた様々な問題を解決する必要があります。
 来月、ゆりかもめの延伸部・有明−豊洲間が開業し、同時に、晴海と有明地区が都道で結ばれます。都心と臨海部のアクセスがさらに充実することで、臨海副都心の開発に一層の弾みがつくものと期待しております。
 構想から20年を経た臨海副都心開発は、来年度から仕上げの10年に入ります。今後、青海地区北側に新しいビジネス・商業地域を整備するとともに、土地売却方法に新しい手法を取り入れるなど、財政基盤の強化に一層努めながら、平成27年のまちづくりの完成を目指してまいります。
 5月には、環状8号線が全線開通いたします。都市計画決定から60年、最後の未完成区間であった住宅密集地に半地下式のトンネルを通す難工事を経ての完成であります。都が今年度、街路事業に先行着手した中央環状品川線では、来年度から有料道路事業者と共同で整備に取り組み、早期完成を目指して事業を進めてまいります。多摩地域の道路についても、今後10年間で優先的に取り組むべき路線を関係自治体と協力して選定し、集中的に整備を進めてまいります。
 しかし、こうした長期にわたる都市基盤整備にもかかわらず、首都圏の道路ネットワークは、その機能を未だ十分に発揮できない状況にあります。10年後の五輪開催に向けて、三環状道路をはじめとする骨格的な道路ネットワークの整備に全力で取り組んでまいります。

(快適な環境、都市空間の創出)

 先進的な環境政策は、東京が世界に誇るべきものの一つであり、五輪招致の重要な要素でもあります。
 国内外を問わず多くの大都市が大気汚染で悩まされるなか、都は都民、事業者の幅広い理解と協力を得て、ディーゼル車排出ガス規制を実施し、大気汚染を大幅に改善いたしました。また、ヒートアイランド対策や地球温暖化対策について、先駆的な取組みを全国に波及させるなど、我が国の環境行政を先導してまいりました。
 しかし、東京の環境は、異常気象の頻発など温暖化の影響が顕在化するとともに、みどりの減少に歯止めが掛からないなど、依然として重い課題に直面しております。このため、東京が都市として存立し続けるための新しい戦略プログラムを先日、策定いたしました。
 深刻化する温暖化へのさらなる挑戦として、より多くの大規模事業者にCO2削減計画の策定を義務づけるほか、再生可能エネルギーへの転換を図るため、都の大規模施設での導入に向けルール化を進めてまいります。民間の金融機関との連携により、環境改善への取組みが優遇される金融商品の開発を進めるなど、金融や税財政手法を環境問題の解決に活かす手立てを検討してまいります。東京にみどりを蘇らせる取組みとして、一定規模以上の建築や開発に対してより厳しい緑化義務を課すなど、有効な対策を講じてまいります。
 また、先月策定した「みどりの新戦略」に基づき、これまでの公園整備の手法に加え、企業のグラウンドや屋敷林などの民有地を活用した「民設公園」制度を創設し、公共と民間のみどりが一体となったネットワークに広がりと厚みを増していきたいと思います。
 今後とも、都独自の工夫を加えながら、東京をみどりの首都につくり変える努力を続けてまいります。

 都はこれまで、観光こそ都市の活力の源泉であるとの認識に立ち、シティセールスの展開や民間と連携した観光案内窓口の整備など、東京の観光振興を進めてまいりました。オリンピック開催を睨み、都内に眠る観光資源をさらに発掘し、東京の魅力を一層向上させる必要があります。
 特に、水辺の再生は重要な課題であり、先週、水辺空間の魅力向上に関する全体構想を策定いたしました。隅田川テラスの連続化や、江戸時代の「塩の道」であった小名木川の整備を進めるとともに、運河地域で商業施設や遊歩道の整備を促進してまいります。一昨日、天王洲地区に水上レストランがオープンしましたが、今後とも、水辺の賑わいの創出に努めるとともに、水辺を活かした観光ルートの開発や水上から見た景観の向上に取り組むなど、水の都の復活を目指してまいります。

3 都民生活の向上を目指す政策の展開

 続いて、都民生活の向上を目指す主な政策について申し上げます。

(災害への万全の備え)

 災害がもたらす様々な被害を最小限に抑え、都民の安全の確保と都市機能の速やかな復旧・復興を図るには、日頃からの備えはもちろんのこと、防災体制を常に見直していく必要があります。
 近年全国各地で発生した大規模地震によって、エレベータによる閉じ込めなど新たな課題が顕在化いたしました。こうした事態も踏まえ、都民の生命と財産を守る立場から、新たな首都直下地震の被害想定を今年度中に作成いたします。被害の集中する地域を鮮明にするために、マグニチュード6クラスの地震を想定に加えるとともに、国の想定より詳細なデータに基づき、区市町村別の建物の倒壊数やターミナル駅ごとの帰宅困難者数などを明らかにいたします。来年度、これらを基に地域防災計画を見直すなど、より実態に即した防災対策に取り組んでまいります。

 災害時の困難な救出活動に携わるハイパーレスキュー隊については、一昨年の新潟県中越地震において、その高い能力と活躍ぶりを都民のみならず全国に示すことができました。現在、都内には3部隊が配置されており、来春、建物倒壊や火災発生の危険性が高い区部東北部の災害対応力を強化するため、新たな部隊を配備いたします。
 大規模交通事故などの都市型災害が発生した場合、早急の救命処置が重要であります。一昨年発足した災害医療派遣チーム東京DMATは現在、都立病院をはじめ13か所の病院に配置されておりますが、来年度、さらに4か所の病院を指定し、テロや航空機事故、多摩山間部における災害などにも対処できるようにしてまいります。

 都内には、約2万3千ヘクタールの木造住宅密集地域が存在しております。震災時、建物の倒壊や火災の延焼など甚大な被害が想定されており、木造住宅の耐震化が喫緊の課題となっております。
 来年度、震災時の避難路を確保するため、地域危険度が高く特に老朽木造建築物が集積する都内27地域を対象に、木造住宅の耐震診断や改修に対する助成を地元自治体と連携して実施いたします。
 また、昨年公募を行った耐震改修工法の実例や関連装置について、経済性や使い勝手の優れたものをホームページなどを通じて広く都民に情報提供するとともに、耐震診断技術者や改修施工者の育成などに取り組んでまいります。
 マンションの耐震化も緊急の課題であります。昭和56年の新耐震基準以前に建築確認を受けたすべての分譲マンションを対象に、来年度から3年間、耐震診断の助成を行ってまいります。
 今後とも自助・共助・公助の精神を基本に、都民の皆さんと連携しながら、いつ起きてもおかしくない災害に万全の備えで臨んでまいりたいと思います。

 昨年11月に発覚した構造計算書の偽装事件では、耐震強度が不足するマンションやホテルが次々に判明し、居住者のみならず、社会全体に大きな不安を招来しております。
 そもそもこの問題は、国の建築確認・検査制度自体の欠陥に起因するものであって、国の責任は極めて重大であります。本来であれば、国において特別法などで対応するのが筋でありますが、都民の生命が直に掛かっており、都としては、国や関係自治体と連携し、耐震性に著しく問題がある分譲マンション居住者への公的支援を行うことといたしました。
 今回の事件で損なわれた建築行政の信頼を回復するには、制度全般にわたる徹底した検証と見直しが不可欠であります。このため先週、国、特定行政庁、民間確認検査機関それぞれの役割と責任を明確にし実効性のある再発防止策を講じるよう、関係自治体と連携し国に要求をいたしました。引き続き、国に対して強く働きかけてまいります。

(健康危機への的確な対応)

 鳥インフルエンザが世界各地で発生し、大きな脅威となっております。
 都でも、流行が懸念される新型インフルエンザの対策の一環として、都民への情報提供や医療体制の整備など具体策を示した行動計画を、昨年末に策定いたしました。先月末には、アジア各都市の行政機関、研究・医療機関をインターネットで結び、感染症の発生情報や診療情報等を迅速かつ効率的に共有化するネットワークシステムの運用を開始いたしました。今後とも、治療薬の確保に努めるなど、新興感染症の予防と拡大防止に万全を期してまいります。

 国の対応の遅れが目立つアスベスト対策については、これまで、解体工事現場への立入指導の実施や相談窓口の充実など、都民の不安解消に全力を挙げてまいりました。今月から、都内で発生しセメント固化された飛散性アスベスト廃棄物について、都の処分場への受入れを開始いたしました。さらに来年度、アスベストを含む飛散性の少ない建材についても、専門家や関係業界と連携した検討会を設置し、解体マニュアルの充実を図るなど、現場に即したきめ細かい対策を講じてまいります。

 花粉症は、首都圏でおよそ4人に1人が苦しみ、経済損失が全国で年間2900億とも言われており、その蔓延が国の怠慢に起因していることは明白であります。今年は例年に比べ花粉の飛散が少量と予測されていますが、罹患されている方々の苦しみが消えるわけではありません。
 都では、昨年設置した全庁的な対策本部において、総合的な対策を進めております。来年度、根本的な治療方法である舌下減感作療法の実用化に向けた研究を臨床医学総合研究所などで実施するとともに、スギの伐採や植林に必要な基金を創設するため、募金運動を活用するなど、都民、企業等から幅広い協力を得る仕組みを構築してまいります。
 引き続き、八都県市とともに連携を図りながら花粉症対策に取り組んでまいります。

(治安回復は最大の都民福祉)

 この7年間、治安の維持・回復こそ最大の都民福祉であるとの考えに基づき、全国に先駆け都独自の対策を展開してまいりました。その成果もあり、街頭犯罪や侵入犯罪など都民の身近なところで発生する犯罪は、平成12年をピークに減少傾向を続けております。
 この2年間、実質1千人以上の増強を行った警察力について、来年度、さらに警察官を280人増員するほか、6月から、都内12区43署において違法駐車事務を民間に委託するなど、実質的な強化を図ってまいります。また、引き続き警察官OBによる交番相談員の拡充に取り組むとともに、来春、町田市西部地域に大規模な地区交番を設置し、広範囲な管轄地区をカバーしてまいります。
 街頭防犯カメラについては、50台を設置した歌舞伎町で犯罪の認知件数が2割以上も減少する効果が報告されており、来年度、新たに六本木地区に設置し、繁華街の防犯力の向上を図ってまいります。

(子どもを犯罪から守る取組みの拡充)

 子どもを取り巻く環境は、昨今の連れ去り事件の多発など、たいへん憂慮すべき状況にあると思います。
 これまで、小中学校でのセーフティ教室の開催や警察官OBによるスクールサポーターの派遣など対策を講じてきましたが、来年度、社会全体で子どもを守る取組みをさらに強化いたします。全公立小中学校への防犯カメラの設置を促進するとともに、子どもたち自身が通学路などの安全を点検し、地域安全マップを作成する活動を授業に取り入れてまいります。また、小学校ごとに保護者や町会などから募った「子ども安全ボランティア」を結成し、登下校時に通学路や地域のパトロールを実施いたします。これに加え春からは、30校以上の都立高校において、各地域の高校生が小学生の集団下校をサポートする取組みも開始いたします。
 今後とも、行政、警察、学校、地域住民の総力を結集し、次代を担う子どもたちを卑劣な犯罪から守っていきたいと思います。

(新しい福祉保健施策の展開)

 次に、福祉保健施策についてであります。
 都はこれまで、誰もが必要なサービスを自ら選択し、地域で安心して生活できるよう、様々な施策を展開してまいりました。しかし、少子高齢化が進行し人口減少時代が現実のものとなった今、将来に向けてサービスの水準や制度の安定性を確保するには、福祉・保健サービスの提供システムをさらに変革していく必要があります。
 このことから先日、「福祉・健康都市東京ビジョン」を策定いたしました。今後は、都が事業者に対する指導・監視や利用者支援を担うレフェリー役となり、サービスの直接の提供者からシステム全体の調整者へと役割を転換させ、より効率的・効果的に福祉保健施策を展開することで、サービス提供の力を社会全体で高めてまいります。あわせて、官民の役割分担をさらに徹底し、現在、民間移譲などを進めている都立施設改革をさらに推進していくなど、確かな安心を次世代に引き継いでいきたいと思います。

 10年後には、都内人口の4人に1人が65歳以上の高齢者で占められると予測されており、高齢者が地域で様々な支援を受けながら健康で自立した生活を営める期間をできるだけ伸ばすことが、ますます重要になっております。来年度、「介護予防サポートセンター(仮称)」を創設し、老人総合研究所などの協力を得て、効果的な介護予防プランを検証するなど、区市町村の取組みを支援いたします。また、かかりつけ医による認知症の早期発見や専門医療機関との連携促進などにも取り組んでまいります。
 すべての障害者が可能な限り地域で生活を送るためには、生活基盤の重点的な整備など、障害者の自立を総合的に支援していく必要があります。先月策定した3か年プランに基づき、グループホームを1300人分増設するとともに、日中の活動場所である通所施設等を1600人分増やすなど、障害者の地域での生活支援と就労促進を積極的に進めてまいります。
 児童虐待の多発など、子育てを巡る環境は深刻な状況にあります。子どもと子育て家庭を、福祉・保健・医療の領域に止まらず、教育機関や警察などとも連携して総合的に支援するために、「子ども家庭総合センター(仮称)」を、平成21年度を目途に整備いたします。あわせて来年度、子育て推進交付金や包括補助制度を創設し、区市町村が地域の実情に沿って独自の子育てサービスを充実できるようにしてまいります。

(産業力のさらなる強化)

 東京には優れた人材、技術が集積し、旺盛な経済活動が展開されております。東京の産業が持つ可能性を最大限に引き出し、日本経済を牽引していくには、さらなる技術力の向上や商店街などが持つ地域力の発揮を行政が支援するとともに、物流改革や観光振興など都市政策との連携により、産業活動を支える基盤の強化に向けた方策を検討する必要があります。

 今月、東京発の物流改革を進める「総合物流ビジョン」を策定しました。今後10年間で物流コストの2割削減を目指し、三環状道路の早期整備はもとより、東京港のコンテナターミナルの整備や羽田空港の再拡張・国際化に伴う物流の効率化などに取り組み、陸・海・空の広域ネットワークを構築してまいります。
 また、企業の経営や技術開発をより効果的に支援するため、独立行政法人化する産業技術研究所や多摩中小企業振興センターを整理統合するなど、区部及び多摩地域の産業支援拠点の再整備を進めてまいります。
 来年度、中小企業への制度融資の目標を今年度と同額の1兆7500億円とするとともに、研究開発から事業化に至る取組みを総合的に支援するため、さらに中小企業事業化支援ファンドを創設いたします。
 産業を支える人材の育成では、働くことに踏み出そうとする前向きな若者への支援を拡充いたします。来年度、就労に向けた基礎訓練や就労体験を提供する新プログラムを展開するほか、若者が活動主体となっているNPOから企画・提案を募集し助成を行うなど、就業による自立を促進してまいります。

(教育改革と文化振興の推進)

 この春、両国、小石川など3つの中高一貫6年制学校が新たに設置されるほか、総合学科や単位制などの新しいタイプの高校が相次いで開校いたします。日比谷高校の応募倍率が過去最高を記録し、また中高一貫校4校の平均倍率は10倍近くになりました。これまで進めてきた都立高校改革が都民の理解と支持を得つつある証左であり、都立復活の手応えを感じております。
 来年度、すべての公立小中学校で実施している一斉学力調査に加え、教科の枠を超えて児童・生徒の応用力や問題解決能力を測定する調査を導入いたします。また、4月に開設する「東京教師道場」では、2年間にわたり優秀な先輩教師が中堅教員に指導技術を伝授し、学習指導のリーダーとなる教員を育成してまいります。

 この1年間、有識者による「文化施策を語る会」において、東京の新しい文化政策の方向性について議論してまいりました。先月発表された提言でも謳われているように、文化への投資は未来への投資そのものであります。都では、来年度、新進若手芸術家の滞在・交流のための活動拠点となる「アートヴィレッジIN東京(仮称)」の整備に着手するとともに、トーキョーワンダーウォールの取組みを通じて海外進出をバックアップするなど、若手アーティストの創造活動を支援してまいります。
 今後、語る会の提言を踏まえ、本年5月に新たな文化振興指針を策定し、東京ならではの戦略的な文化政策を打ち出していきたいと思います。

(多摩・島しょの可能性の発揮)

 避難指示解除から1年、三宅島では火山ガスの噴出が未だ続くなか、復興に向けた懸命な取組みが続けられております。4年5か月に及ぶ全島避難の間止まっていた時計の針を再び動かし島に活気を取り戻すには、なお多くの困難が予想されますが、村民の皆さんが知恵と力を出し合って取り組んでいかれることを期待しております。都としては、来年度も、生活再建支援など一連の支援策を継続するとともに、空港の再開に向け、準備を早急に進めてまいります。

 貴重な自然環境の宝庫である小笠原諸島においては、世界自然遺産登録を目指し、ヤギなどの移入種対策など必要な手立てを講じるとともに、航空路を含めたアクセスの改善や観光振興など、直面する課題に積極的に取り組んでまいります。また、豊富な海洋資源に恵まれた沖ノ鳥島周辺の海域で、カツオ・マグロ漁の操業を支援するため、魚礁の設置や漁場調査を進め、経済活動の場としての価値を高めてまいります。あわせて、周辺海域の監視を強化するため、来年度、調査指導船を建造いたします。
 多摩・島しょ地域は大きな可能性を秘めた地域であり、区部地域とともに首都東京を担う両翼の一つであります。市町村が自らの創意工夫で地域の発展を進めることができるよう、来年度、新たな交付金制度を創設し、市町村の自主性・自立性をさらに向上してまいります。
 今後とも、多摩・島しょ地域の一層の振興を図ってまいります。

4 平成18年度都政の執行体制

 続いて、来年度の都政の執行体制について申し上げます。
 昨年来の景気回復の影響で、都税収入は大幅に増加する見込みでありますが、こうした時期だからこそ、目先の活況に浮かれることなく、気を引き締めて都政運営に臨んでいきたいと思います。

(平成18年度予算)

 まず、平成18年度予算についてであります。
 編成に当たっては、財政の健全性の回復に全力を注ぎ、その上で、今後の新たな都政の発展を目指すことを基本に据えました。予算の眼目を、財政再建を徹底して進め、強固で弾力的な財政基盤を構築することと、都民の負託に積極的に応えていくことの二つに定め、都民福祉の一層の向上を図るとともに、東京の活力をさらに高めるよう努力をいたしました。重点事業を100%予算化するなど、直面する課題への対応はもちろんのこと、オリンピック開催に向けた取組みをはじめ、将来に対する布石もしっかりと打ったつもりであります。
 来年度は、「第二次財政再建推進プラン」の最終年度となりますが、プランの目標である「巨額の財源不足の解消」を達成するとともに、「隠れ借金」も大幅に圧縮し、さらに、隠れ借金を上回る水準まで基金を積み増すなど、将来に向けた十全の備えを講じました。これにより、念願であった財政再建に一つの区切りをつけることができたと考えております。

 こうして編成した予算は、5年ぶりに一般会計ベースで6兆円を超えましたが、政策的な経費である一般歳出の増加を都税収入の伸びよりも低く抑えるなど、全体としては抑制を利かせたものといたしました。
 国は来年度の国債発行額を30兆円以下に削減したと、まあ、誇らしげに発表していますが、依然、歳入の4割近くを借金に依存し、国債の残高が税収の12倍に達するなど、常軌を逸した財政状況であることに変わりありません。それに比べ、都債残高は税収の1.5倍に過ぎず、これまでの財政再建の取組みの違いは一目瞭然であります。
 知事に就任した当初、都財政はまさに徳俵に足が掛かり土俵を割る寸前であったものの、なんとか土俵中央まで押し返すことができました。今回の予算は、都政にとって大きな節目となる予算に仕上がりましたが、この先を考えれば、決して順風満帆と言う訳にはまいりません。まったく道理のない法人事業税の分割基準の見直しに続き、法人住民税にも手をつけようとする動きが未だに国には燻ぶっております。いわゆる三位一体改革もまた、その本質は国から地方への負担の転嫁に過ぎないのであります。
 このような状況に加え、人口減少社会の到来が及ぼす影響などを考え合わせれば、これまでの財政再建の成果に決して安住することなく、今後さらに一層、財政構造改革を推進していく必要があると考えております。

(来年度の定数・組織等)

 職員の定数については、重点事業等の実施に必要な人員を措置する一方、全体で1984人の削減を行い、「第二次財政再建推進プラン」に掲げた4千人の削減目標を1600人余り超過して達成いたしました。
 今後とも、「行財政改革の新たな指針」に基づき、職員定数のさらなる見直しを継続することは当然であり、事務事業の執行体制を徹底して見直し、これまで以上に効率的な行政サービスの実現に努めるとともに、監理団体を含めた人件費総体の抑制にも積極的に取り組んでまいります。
 主な組織改正についてでありますが、知事本局に、東京オリンピック招致担当理事及び東京マラソン事業担当参事を新たに設置するほか、産業技術研究所を地方独立行政法人化するなど、体制を整備いたします。

 国に先駆け我が国初となる複式簿記・発生主義会計の新年度からの導入が間近に迫ってまいりました。新しい公会計制度により、都の財務状況をより明確に把握できるようにするとともに、金利感覚やコスト意識の醸成など、職員の意識改革を推進してまいります。今後、強力なツールであるこの制度にさらに改良を加え、不断の行財政改革につなげていきたいと思っております。

 なお、平成18年度の都区財政調整については、先日、今後の都と区のあり方を共同で検討していくことを含め、合意に至りました。首都東京の発展と都民生活の向上を図るには、都区双方の協力が欠かせません。今後、東京の将来を見据えて、都と区の新しい関係の構築、さらには行政区分の再編などについて、根本的かつ発展的な議論を行ってまいりたいと思います。

5 自ら切り拓く未来

 申すまでもなく、東京は日本の頭脳部・心臓部であります。この東京を立ち直らせることが、世界に存在感を示し得ないこの国を、まさに「日はまた昇る」というかたちで蘇らせるのでありまして、この想いこそが、首都東京を預かる者の「志」であります。
 今後とも、重要施策をはじめとする独自の政策展開と「行財政改革の新たな指針」に基づく改革を都政運営の二本柱として、首都東京の舵取りを担ってまいりたいと思います。国内にあっては八都県市を中心に、また国際的には、思いを同じくするアジア大都市ネットワークに集う都市との連携を通じて、東京、そしてこの国の未来を切り拓いていきたいと思います。

 なお本定例会には、これまで申し上げたものを含め、予算案34件、条例案90件など、合わせて141件の議案を提案しております。よろしくご審議をお願いいたします。

 以上をもちまして、施政方針を終わります。

 ありがとうございました。