石原知事施政方針

平成18年9月20日更新

平成18年第三回都議会定例会知事所信表明

平成18年9月20日

 平成18年第三回都議会定例会の開会に当たりまして、都政運営に対する所信の一端を申し述べ、都議会の皆様と都民の皆様のご理解、ご協力を得たいと思います。

 9月6日、悠仁親王殿下が誕生されました。首都東京の知事として、都民とともに心よりお慶びを申し上げます。親王のご誕生は、都民、国民が久しく待ち望んでいた慶事でありまして、親王殿下が秋篠宮ご一家の深い愛情に包まれながら健やかに成長され、皇室が益々、繁栄されることを祈念いたします。

 去る7月16日、桜井良之助議員が逝去されました。ここに謹んで哀悼の意を表し、ご冥福をお祈りいたします。

 先ほど、栄えある永年在職議員表彰を、三田敏哉議員、立石晴康議員がお受けになりました。都政の発展に尽くされた25年間のご功績に対して深く敬意を表し、お喜びを申し上げます。

 このたび名誉都民の候補者として、ドナルド・キーンさん、辻清明さん、西山鴻月さんの三名の方々を選定させていただきました。

 ドナルド・キーンさんは、芭蕉や西鶴など近世日本文学の碩学として知られ、東京を拠点とした意欲的な著作・翻訳活動に長年に携わり、世界に向けた日本文化の紹介に精力的に取り組まれております。

 辻清明さんは、多摩の高台に登り窯を築き、無釉による焼締めという高度な陶芸技法により独自の境地を切り拓いて、日本を代表する陶芸家として国際的に活躍されていらっしゃいます。

 西山鴻月さんは、江戸文化である押絵羽子板を70年間つくり続け、浅草の羽子板市に毎年、作品を出展される傍ら、自宅に資料館を開館するなど、東京の伝統工芸の保存と継承に尽力されております。

 お三方は多くの都民が敬愛し、誇りとするにふさわしい方々であります。都議会の皆様のご同意をいただき、来月、名誉都民として顕彰したいと考えております。よろしくお願いいたします。

1 平和の祭典・東京五輪の実現

(成熟した都市の新しい可能性)

 さて、夏の甲子園大会において、西東京代表の早稲田実業が球史に残る激闘を制して初の全国制覇を成し遂げ、深紅の大優勝旗を東京に持ち帰りました。白球を追う彼らのひたむきな姿は、東京のみならず日本全体に大きな夢を与え、同時に、スポーツが持つ無限の可能性を示してくれました。

 そのスポーツの世界最高の舞台であるオリンピックの国内立候補都市が、先月末、東京に決定いたしました。2016年の五輪招致はこれからが本番であり、来月にも招致組織を立ち上げ、国内での気運の盛り上げはもとより、国際社会での招致活動を積極的に展開してまいります。

 東京で再びオリンピックを開催することは、私たち日本人が失いつつある自信をこの手に取り戻すための大きなきっかけとなるに違いありません。2016年の東京オリンピックは、日本の存在感を様々なかたちで世界に示す絶好の機会であり、ロボットやIT技術など、東京に集積する日本の最先端技術を存分に駆使して、誰も体験したことのない21世紀型の大会を実現してまいります。

 二回目となる東京五輪を成功させるには、交通渋滞の解消や先駆的な環境対策だけでなく、生活、文化、産業など様々な分野で東京の将来像を国内外に明らかにし、成熟した都市の新しい可能性を世界に示す必要があります。集中集積の過程で数多くの課題を克服してきた東京のあり方そのものが世界の範となるよう、さらに高いレベルを目指して東京の未来をしっかりと描き、リアリティのある政策を重層的に講じていきたいと思います。

(世界の平和と発展のために)

 オリンピックは、単に世界最高峰のスポーツ大会としてだけではなく、「文化と平和の祭典」として、世界全体の発展に寄与する大きな役割を担っております。

 東京は、戦後60年以上にわたり平和を堅持してきた日本の首都として成長を遂げ、多くの人々がここを故郷と思い定めて住み続け、代を重ねてきたまちであります。都市の成長と成熟は、都市機能の拡大・充実ばかりではなく、住む人の地域への愛着や洗練された暮らしぶりによってもたらされるものに他なりません。

 太平の世が250年続いた江戸では、日本独特の文化・芸術が花開くとともに、「江戸っ子」と呼ばれる、当時世界最大の都市・江戸ならではの気質も育まれてまいりました。その多様で厚みのある歴史と伝統は、確実に現在の東京へと引き継がれております。世代を超えて連なるかけがえのないものを未来につないでいくことは、後の世代に対する私たちの責任であり、こうした営みの積み重ねこそが、平和であり続けることの何よりの証しであると思います。

 2016年の東京オリンピックでは、最先端技術の成果を世界に広く還元するとともに、東京大会を、世界の人と人、過去と未来を結ぶ大会と位置づけ、私たちの熱意と可能性を全世界に披瀝し、世界の平和と発展に大いに貢献してまいります。

 今後、JOC・日本オリンピック委員会をはじめ、国、関係機関と綿密な連携を図りながら、日本の英知を尽くして複合的・戦略的に活動を展開し、熾烈な招致レースを勝ち抜いていきたいと思っております。

 オリンピックは国を挙げての一大プロジェクトでありまして、開催国として、日本全体のスポーツの底上げが急務であります。都としても、JOCの意向を十分に踏まえ、旧・都立秋川高校などの都有地を活用しながら、ハード、ソフトの両面から、アスリート育成のための支援策を積極的に講じてまいります。

 東京が持つ都市の力と日本の底力を存分に発揮して取り組んでまいりますので、都民の皆さま、都議会の皆さま一人ひとりの力をオリンピック招致に結集していただきますよう、心からお願いいたします。

2 成熟した都市に相応しい政策の展開

(都市機能のさらなる充実)

 10年後の五輪開催を見据え、東京を成熟した都市に相応しい、より魅力的なまちとしていくことは、都に課せられた責務であります。

 都はこれまでも国に先駆けて、東京の特色のある景観を保全する取組みを進めてまいりました。今後、さらに首都東京ならではの風格ある景観を形成していくため、大規模建築物に関する事前協議の制度化など新たな仕組みを取り入れ、建物の色彩や屋外広告物などを強制力をもって規制してまいります。本定例会に条例の改正案を提案しており、これに基づき東京全体の景観計画を策定してまいります。

 日本が誇る先端技術をまちの中で有効に活用していくことも、魅力のあるまちの実現に欠かせない要素であります。昨年秋、上野地区で実施したICタグの実証実験の成果を踏まえ、この秋から上野動物園で本格的な展開を図るとともに、年内にも、銀座を舞台にした商店街などと連携した新しい取組みを開始いたします。

 この実験を、誰もが必要な情報をいつでもどこでもやり取りできるという社会の実現に向けた第一歩としていきたいと思っております。

 オリンピックを梃子に、東京をさらに先進的な環境都市としていく必要があります。このため、年明けにも全庁的な推進組織を設置し、都政のあらゆる分野でCO2の大幅な削減を目指す新たな10年プロジェクトを開始したいと思います。

 全てのオリンピック関連施設を最新の省エネ仕様とするなど、環境最優先の大会を実現するための環境ガイドラインを来年度、策定するとともに、東京全体で緑の大幅な増加や自然エネルギーの多量普及を図るなど、民間企業や都民を巻き込みながら、東京を世界で最も環境負荷の少ない都市としてまいります。

 地球温暖化の進行を阻止するには、21世紀の半ばに全世界でCO2の排出量を劇的に減少させる必要があり、今後、都は世界に先んじて「CO2半減都市モデル」の実現を目指していきたいと思います。

 東京のみならず首都圏全体が直面する交通渋滞の解消に向け、これからの10年間はまさに正念場でありまして、日本の新しい発展のため、財源の確保を含め、幹線道路の集中的な整備が不可欠であります。

 なかでも三環状道路の整備は一刻の猶予も許されません。圏央道については、来年6月、あきる野・八王子間が開通し中央自動車道と接続いたします。外環道については、現在、大深度地下方式への都市計画の変更の手続を着実に進めており、中央環状品川線では、11月に工事に着手し、平成25年度の完成を目指してまいります。

 また臨海部では、来月、環状第2号線の築地・晴海間について、都市計画の手続を開始し平成27年度の完成を目指すほか、11月には晴海通りが全線開通いたします。これにより、メインスタジアムなどオリンピックの主要施設がひとつに結ばれ、臨海部周辺のアクセスが格段に改善されるものと大いに期待しております。

(安全で活力ある都民生活の実現)

 先月中旬、首都圏の広い範囲で大規模な停電が発生いたしました。これまで日本ではあり得ないとされた大停電により、鉄道をはじめとする交通機関などに多大な影響が生じ、都民生活が大きく混乱いたしました。

 直ちに都の施設への影響を点検するとともに、事故発生時の体制やマニュアルを再確認いたしましたが、停電により一国の首都機能が麻痺することは絶対にあってはならないことであります。先日、国、関係機関に対して早急に対策を講じるよう要請するとともに、今後、都としても停電時の体制を強化してまいります。

 首都直下地震の被害想定を9年ぶりに見直してはじめてとなる総合防災訓練を、今月1日、2万6千人以上の参加を得て行いました。陸海空の三自衛隊がはじめて統合して訓練を実施したほか、全国初の試みとして、外国の支援部隊との連携にも取り組みました。

 在日米軍の艦船が晴海ふ頭から横須賀まで帰宅困難者の輸送訓練に携わるとともに、6年間連続で会場となった横田基地において、韓国のソウル特別市のレスキュー隊が東京消防庁と合流し訓練に加わるなど、都民の安全を守るうえで大きな収穫を得ることができたと思います。

 次いで、新興感染症による健康被害から都民を守ることも、危機管理上の重要な課題であります。都では、昨年12月、新型インフルエンザ発生時の対応を行動計画にまとめるとともに、今年1月には、アジアの大都市と連携し感染症の情報ネットワークを構築いたしました。さらに、早期治療薬として効果が期待される抗インフルエンザ薬について、国の備蓄計画よりも1年前倒しして、年内にも約100万人分を確保いたします。

 危機管理の徹底こそ都民福祉の基本でありまして、今後とも、大規模災害はもちろん、テロや伝染病など不測の事態に対し万全を期してまいります。

 感染者が全国で200万から300万人と推計されるウイルス肝炎について、先般、国と製薬会社の責任を認める司法判断が相次いで出され、社会的な関心が高まっております。ウイルス肝炎は、自覚症状のないまま肝硬変、肝がんへと進行する重大な病気でありまして、国は早急に抜本的な対策を講じるべきであります。都は、早期発見・早期治療の促進をするため、来年度から、通院医療費の助成など短期集中的な対策を講じ、都民の健康を率先して守ってまいります。

 高齢化の急速な進展により、4人に1人が65歳以上の高齢者という社会が間近に迫っておりまして、高齢者の特性を踏まえた医療の提供や老化に関する高度な研究が喫緊の課題となっております。

 このため、我が国随一の高齢者専門医療機関である老人医療センターと、老化のメカニズムや高齢者に関する研究のパイオニアである老人総合研究所を統合し、地方独立行政法人として「健康長寿医療センター(仮称)」を設立いたします。研究と臨床の一体的な取組みとともに、これまで以上に柔軟で効率的な運営を目指し、高齢者に関する最新の医療を広く都民に提供する新たな拠点として整備してまいります。

 東京、ひいては日本の産業を支えているのは、言うまでもなく都内の優秀な中小企業であります。彼らの競争力をさらに高めるには、独自の技術やデザインを活用した付加価値の高い製品を、中小企業自らが生み出していく必要があります。

 先週、産業技術研究センターに、技術の側面からデザインの活用を支援するデザインセンターを開設するとともに、来月、産業技術大学院大学にデザイナーの養成講座を開講し、製品開発からマーケティング、販売までの一連のプロセスを担う人材を育成してまいります。

 オリンピックが開催される10年後、今の10代の若者たちは社会の一翼を担う存在となっており、彼らの可能性を大きく伸ばすことが重要であります。来春、チャレンジスクールや単位制・総合学科の設置など、新しく9つの学校を開設いたします。

 商業科と工業科を融合させ、ものづくりから流通・消費に到る基礎知識や技術を総合的に学習できる「産業科」を、区部・多摩地域に1校ずつ新設するなど、独自の取組みにより、生徒一人ひとりの能力を引き出す都立高校改革を一層推進してまいります。

(スポーツ振興による東京の活性化)

 次に、来年2月の東京大マラソン祭りと平成25年に開催予定の東京国体についてであります。

 東京マラソンには、定員の3倍を超える10万人近い参加申込みがあるなど、都民はもとより日本全国、世界各国の方々から大きな期待が寄せられております。開催までの間に、コース沿道のバリアフリー化など必要な整備を推進するとともに、地元自治会、商店街、都民有志による趣向を凝らした応援イベントの実施や、広範なボランティアの参加などにより、都民と一体となった気運の盛り上げに取り組んでまいります。

 54年ぶりの開催となる東京国体が7年後に迫ってまいりました。先月から本格的な競技会場選定の調査を実施しておりまして、今後、多摩・島しょ地区を中心とする関係自治体などと協力し着実に準備を進め、地域に根ざしたジュニア選手の育成に積極的に取り組むなど、国内最大のスポーツの祭典を成功に導いてまいりたいと思います。

 マラソンと国体の成果を、国体の3年後に控える東京オリンピックに確実につなげ、国全体に複合的、重層的にインパクトを与える連続的なスポーツ・ムーブメントとしていきたいと思っております。

3 おわりに

 最後に、都政改革の一層の推進について申し上げます。

 この7月、「行財政改革実行プログラム」と「今後の財政運営の指針」を相次いで発表いたしました。

 都はこれまでも、身を削る徹底した改革を進めてきましたが、今回の実行プログラムでは、来年度から3年間でさらに4千人規模の定数を削減するなど、具体的な数値目標と年次計画を明示し、さらなる改革に取り組んでまいります。

 指定管理者制度や市場化テストなど多様な手法を駆使するとともに、監理団体改革や公営企業改革についても一層の推進を図り、新しい世紀に相応しい行財政システムの構築を目指してまいります。

 また、7年前、破綻寸前であった都財政については、二度の財政再建推進プランに掲げた取組みにより巨額の財源不足を解消するなど、財政再建にひとつの区切りをつけることができました。今後は、中長期的な視点に立って、東京の将来を展望する新たな取組みにも十分対応できる、強固で弾力的な財政基盤を構築していく必要があります。

 今回指針で示した中期の財政フレームに基づき、基金の積極的な活用や負の遺産への的確な対応などを基本に据えて、来年度以降の都財政の舵取りを担ってまいります。

 これからも、改革の手を緩めることなく、東京のさらなる発展と都民福祉の向上に全力で取り組んでいきたいと思います。

 なお、本定例会には、これまで申し上げたものを含め、条例案27件、契約案6件など、合わせて36件の議案を提案しております。よろしくご審議をお願いいたします。

 以上をもちまして、所信表明を終わります。