石原知事施政方針

平成18年12月1日更新

平成18年第四回都議会定例会知事所信表明

平成18年12月1日

 平成18年第四回都議会定例会の開会に当たりまして、都政運営に対する所信の一端を申し述べ、都議会の皆様と都民の皆様のご理解、ご協力を得たいと思います。

1 はじめに

(世界を変える技術の力)

 今年で7回目を迎えたベンチャー技術大賞の授賞式が、去る10月に行われました。これまで数日を要していた食中毒菌の検出をわずか1時間で完了するという世界最速の装置が大賞を受賞したのをはじめ、創意と工夫にあふれた新技術の数々が紹介されました。

 いつの時代にあっても、革新的な技術こそが文明を動かす原動力であります。東京の中小企業が持つ底知れぬ力を改めて思い知らされるとともに、優れた技術が、日本ばかりでなく、世界をも変える大きな可能性を秘めていることを実感いたしました。

 来週からは、銀座を舞台に、ICタグなどを活用した「東京ユビキタス計画」の実証実験を開始いたします。東京には、こうした実用化を待つ高度な技術が数多く眠っておりまして、私たちは自らの力を冷静に見定め、可能性の種を見出し育てていかなければならないと思います。

(私たちが直面する危機の本質)

 技術の進歩は、戦後60年以上にわたる平和を支え、私たちに物質的な豊穣をもたらしました。しかしその一方、文明が高度に発達するのと反比例するかたちで、人間そのものが本質的に衰弱してしまったように思えてなりません。かつて司馬遼太郎氏が慨嘆していたとおり、多くの日本人は、ある種の観念を目の前の現実より現実的であると錯覚し、思考停止の状態に陥っているのであります。

 平和が当たり前と思い込み、眼前の危機を察知する能力までが鈍磨してしまっては、我が国や東アジアの平和と安定を脅かす様々な動きが生じている現状に対して、危機意識を喚起しようもありません。

 北朝鮮による同胞の誘拐・拉致に対しても、私たちはもっと強い関心を持つべきであります。拉致は決して過去の出来事ではなく、現在進行形の問題であり、都は今月中旬、都議会拉致議員連盟などと協力して、拉致被害に関する写真展を都庁舎において開催いたします。

 一人でも多くの都民・国民の皆様に、我が国が直面している危機の実態を自分の目で、是非確かめていただきたいと思います。

2 最近の都政の動き

 次に、最近の主な取組みについて申し上げます。

(日本とアジアの空を巡る政策の推進)

 横田基地の軍民共用化は、私が知事に就任して以来、最大の懸案であります。この10月に設置された日米両政府による公式の検討組織での協議には、12か月以内に結論を出すよう明確な期限が仕切られており、共用化はいよいよ具体化の段階に入ったと考えております。

 先般、安倍首相と会談した際、前内閣で交わされた日米合意に沿って共用化を進めていくよう要請し、快諾を得ました。これを受けて安倍首相は、先月、ベトナムで行われた日米首脳会談の場で、ブッシュ大統領に新内閣もこれまでと同じスタンスで共用化に取り組んでいくことを明確に表明しました。引き続き日米両政府に強く働きかけ、地元の意向を反映させながら一日も早い実現を目指してまいります。

 アメリカの管理下にある横田空域については、かねてから都は全面返還を主張してきましたが、その一部返還が10月に決定されました。日本の空は、戦後60年以上が経過した現在もなお、いわば占領状態が続いております。今回の措置によって、飛行の安全性が高まり所要時間や燃料が節減されるほか、飛行経路の増加も可能となり、再拡張を進めている羽田空港の有用性が一層増すなど、日本全体に大きな便益がもたらされます。

 今後とも軍民共用化と併せ、空域の早期全面返還を国に強く求めてまいります。

 先般、国内の航空機メーカーの開発現場を視察する機会を得ました。これまで日本は、航空機開発の過程で何度となく切歯扼腕して悔しい思いをしてきましたが、今日では、世界最高の水準の技術を駆使して最新鋭の航空機の開発が進められ、いよいよその機体が姿を現しつつあります。

 現在、アジア大都市ネットワークの場でも、中小型ジェット旅客機の共同開発を目指しておりまして、高度な技術を蓄積するアジア各国と日本がスクラムを組めば、旅客機をつくることなど容易いことであります。アジア人の手による旅客機がアジアの大空を飛び交うことで、アジアの一体感がますます醸成されるものと大いに期待しております。

(国の怠慢を突き都民を守る先駆的な取組み)

 東京に依然として蔓延する大気汚染の最大の要因が自動車の排気ガスであることは、誰も否定し得ない事実であります。先般、控訴審が結審した大気汚染訴訟に関連して、先日、東京高等裁判所に出向き、問題の解決に向けた基本的な考え方を、裁判長以下三名の裁判官に直接伝えてまいりました。

 国は、小さな面子や狭い了見に囚われることなく、正当な文明批判という大きな視点に立って、一刻も早く決断を下すべきであります。今後、都は、優柔不断な国を動かし、自動車業界の理解を得ながら、大気汚染による被害者救済のための新たな医療費助成制度を創設するなど、具体的な行動を起こしていきたいと思っております。

 大気汚染に限らず、都民の健康を守ることは都に課せられた責務であります。ウイルス肝炎は、自覚症状のないまま肝がんに進行するおそれのある重大な病気であり、緊急の取組みが求められております。

 国は、予防接種や輸血などを実施する過程で感染予防を怠ってきたにもかかわらず、未だに煮え切らない態度を続け、自らの責任を果たそうとしておりません。国こそが、国民の健康を守るという立場から早急に抜本的な対策に取り組むべきでありますが、都は国に先んじて、来年度から新たに通院医療費助成を開始するなど、短期集中的な対策を実施し、都民の健康を守ってまいります。

 大気汚染や肝炎の問題だけでなく、国は自らの怠慢や失態が招いた結果に対して責任ある行動を取ろうとしておりません。今後とも都は、こうした国の不作為を徹底的に追及するとともに、動きの鈍い国を待つことなく、都民・国民のために、為すべきことを率先して実行に移してまいります。

3 東京と日本の未来を拓く政策の展開

 次に、都が進める新たな政策について、昨日、予算に先行して発表した平成19年度重点事業の取組みを中心に申し上げます。

(首都に相応しい都市機能の拡充)

 3千万人以上の人口が集積する首都圏の最大の欠点である交通渋滞は、未だに解消されておりません。渋滞によって惹き起こされる非効率は、日本経済の発展の大きな障壁になっておりまして、日本をけん引する首都圏の潜在力を引き出し、東京をさらに効率的で快適な都市とするには、三環状道路をはじめとする骨格的な幹線道路ネットワークの整備が急務であります。

 10年後のオリンピックに備え、首都圏を巡る幹線道路をモータリゼーションの時代に相応しい形で完成させる必要があり、なかでも中央環状線は、オリンピックを実現するための必要条件であります。先日着工した品川線については、平成25年度の完成を目指し、首都高速道路株式会社と分担して精力的に整備を進めてまいります。

 また、大深度地下方式への都市計画変更を進めている外環道については、国に対して早急に整備路線として明確に位置づけるように求め、早期の事業化を図ってまいります。さらに圏央道については、10年以内に全線開通させる決意で整備に取り組むよう国に強く働きかけ、一日も早い完成を目指してまいります。

 一国の首都は高い効率性を備えると同時に、世界に誇れる美しい街並みや風格のある景観を有している必要があります。しかし、現在の東京の街には、屋外広告物が氾濫し、建物の色彩、形態に統一感がなく、視覚的な美しさに欠けると言わざるを得ません。

 オリンピック開催を目指す10年後を見据え、景観の面でも世界から賞賛される都市としていくには、行政だけではなく民間の力を結集する必要があります。そこで、先週、都市開発に携わる企業の方々に広く呼び掛け、懇談会を開催し、東京の魅力向上のため、共通認識を持って取り組むよう強く協力を求めました。 

 現在、都全域を対象とする景観計画の策定を進めておりまして、景観上重要な地域を指定し、建築物などの景観誘導と屋外広告物規制を一体的に行うなど、実効性のある対策を講じてまいります。同時に都自らも、センターコア・エリアにおいて電線の地中化を集中的に実施するとともに、地域と連携し上野恩賜公園のグランドデザインを検討するなど、東京に相応しい総合的な景観施策を展開してまいります。

 住宅も良好な都市を構成する基本的な要素であります。都はこれまで、まちづくりと一体となった住宅整備や廉価で高品質な戸建て住宅の実証実験など、先導的な取組みを進めてまいりました。こうした実績を踏まえ、今後の住宅政策の基本的な方向を明らかにするため、本定例会に住宅基本条例の抜本的な改正案を提案しております。

 今後、この条例を将来にわたる住宅政策の指針と位置づけ、住まいの安全・安心の確保や市場の活用、ストックの有効利用を重視し、成熟した都市に相応しい居住環境の創造を目指してまいります。

(日本をリードする産業の振興)

 先進的な技術による新産業の創出こそが、日本経済発展の原動力であります。日本の産業を支える東京の中小企業の技術革新なくして、我が国のさらなる発展はあり得ません。

 今後の成長が見込まれる環境、健康などの分野で新産業の芽を大きく育てていくため、こうした産業の核となる民間の技術開発に対して、研究費の助成や製品化への支援を集中的に実施するなど、「重点戦略プロジェクト」を展開し、中小企業を積極的に支援してまいります。

 産業技術研究センター内のナノテクノロジーセンターを中心に、企業、大学等と連携し、大気汚染の原因ともなる揮発性有機化合物を処理する先進的な浄化技術の開発に取り組み、環境問題の解決と新たな環境ビジネスの創出を目指してまいります。

(都民の働く意欲に応える支援)

 誰もが意欲や能力に応じて活躍できる社会の実現を目指し、若年者、女性、団塊の世代など、様々な世代の就業を支援する必要があります。

 全国で200万人とも言われるフリーターについては、今後、高年齢化が懸念されておりまして、25歳以上の「年長フリーター」に対する合同就職面接会などを通じて、積極的に就職活動を支援いたします。また、出産等を機に退職した女性の再就職を促進するため、スキルアップセミナーや職場実習を組み合わせた支援プログラムを実施するとともに、団塊の世代がこれまで培ってきた専門的な能力を活用し、中小企業が求める高度な人材を育成・紹介してまいります。

 2年前、区部に設置したしごとセンターでは、登録者が4万4千人を超え、そのうち約4割が就職するなど、大きな成果を上げております。400万人の人口を擁し、高いポテンシャルを持つ多摩地域にも新たに拠点を設置し、都民の働く意欲を就業に結びつけてまいります。

(都民の健康を守る新しい取組み)

 新興感染症やエイズなど、都民の様々な健康危機に的確に対応することは、都の重要な役割であります。

 新興感染症の脅威やバイオテロの懸念などへの対応力を強化するため、24時間体制で情報の収集・分析等を行う「健康危機管理センター(仮称)」を整備いたします。また、現行の消防テレホンサービスの機能を拡充した「救急相談センター」を設置し、急病やけがの際の都民の不安を解消するとともに、救急車の適正利用を図ってまいります。

 若い世代を中心に感染が増加しているHIV対策として、若者自身による繁華街での普及啓発や多摩地域の検査・相談体制の充実を図るほか、身近な地域での治療・療養体制の構築を目指すモデル事業を実施いたします。

 全国の自殺者は8年連続で3万人を超え、都内でも交通事故死の6倍近くに及ぶなど、大きな社会問題となっております。社会全体で自殺防止に取り組むため、「自殺総合対策東京会議」を設置し、保健、医療だけでなく、教育、労働、警察など幅広い分野の関係機関が相互に連携して相談・支援ネットワークを構築してまいります。

(都立病院改革の推進)

 高度化・専門化する都民の医療ニーズに対応するため、現在、都立病院の再編整備を進めております。

 駒込病院については、その機能を拡充し、難治がんなどの困難症例に対応する「がん・感染症医療センター(仮称)」の整備に取り組んでまいります。また、松沢病院については、我が国の精神科医療をリードしていくため、「精神医療センター(仮称)」として再編整備を進めるとともに、医療観察法に基づく病棟を整備してまいります。

 医師の質を維持・向上させることは、質の高い医療サービスの提供の要でありまして、喫緊の課題であります。都立病院において、若手医師を対象とした新たな臨床研修医制度である「都立病院医師アカデミー(仮称)」を創設し、小児科・産婦人科等の医師不足にも対応できるよう、優秀な臨床医の育成・確保に取り組んでまいります。

(子ども・子育て施策の充実)

 都はこれまで、独自に認証保育所制度を創設するなど、大都市における子育て環境を充実してまいりました。国はようやく都の取組みや主張を受け入れ、本定例会に条例案を提案している認定こども園制度の法制化に漕ぎ着けました。しかし、その制度は依然不十分でありまして、これを補うために都独自の補助制度を創設し、大都市の実態を踏まえた子育て支援策を拡充してまいります。

 最近の子どもたちは、朝食を摂らない、夜型の生活パターンから抜け出せないなど、基本的な生活習慣が身についておらず、これが学力、体力の低下ばかりか、規範意識の希薄化にもつながっております。「早寝・早起き・朝ご飯」という、子どもとして当然の生活リズムの大切さを再認識し、家庭、学校、地域で浸透させていく必要があります。

 都では、今月中に民間、行政が一体となった協議会を設置するなど、様々な取組みを通じて、子どもの生活習慣の乱れを正してまいりたいと思っております。

(温暖化対策の新たな展開)

 先般、ロンドン市長から、温暖化対策に先進的に取り組む世界の都市が集まる「大都市気候変動先導グループ」への参加要請がありました。地球温暖化を阻止するには大都市の役割が極めて重要であり、都は、志を同じくする諸都市の輪に加わることに決定いたしました。

 今後、世界に先駆けて「CO2半減都市モデル」の実現を目指し、都政のあらゆる分野で先鋭的な排出削減に取り組むとともに、民間企業や都民を巻き込んだ取組みを展開してまいります。

 来年度は、その第一歩として、中小規模の事業者の積極的な省エネ対策を促すため、業種業態別の実証実験を行うほか、IT技術を活用した渋滞回避策の検討や都営バスでのバイオディーゼル燃料の効果実証など、自動車のCO2削減対策にも力を注いでまいります。また、ヒートアイランド対策では、保水性舗装や屋上・壁面緑化、校庭の芝生化など、有効な対策を集中的に実施してまいります。

(芸術文化の一層の振興)

 先日、「トーキョーワンダーサイト青山」を旧国連大学の施設を活用して開館いたしました。アート、デザイン、音楽など幅広いジャンルの新進気鋭のアーティストが国内外から集まる、かつてのパリのモンパルナスのような拠点として、さらには東京の現代美術の迎賓館として、若手芸術家の育成に取り組んでいきたいと思います。

 今後、東京の芸術文化を一層振興していくため、外部の専門家等で構成する「東京芸術文化評議会」を設置いたします。評議会を東京の芸術振興の頭脳部と位置づけ、そこから得られる独創的で斬新な提言をもとに、東京の文化的な魅力のさらなる向上を目指してまいります。

4 おわりに

 次に、スポーツ振興に関する取組みについて申し上げます。

 先週、東京オリンピック招致委員会が設置されました。今後、本委員会が中心となって、国内気運の盛り上げはもとより、世界に向けての東京オリンピックの魅力を強力にアピールし、熾烈な選考レースを勝ち抜いていきたいと思います。

 来年2月には、いよいよ第一回東京マラソンが開催されます。現在、1万人規模のボランティアを募集しており、都民と参加者が一体となって、アジア最大規模の東京大マラソン祭りを盛り上げてまいりたいと思います。

 さらに、スポーツ振興を推進する体制を強化するため、来春、スポーツを専管する組織を設置するとともに、平成25年に開催する東京国体について、多摩・島しょ地域の振興と連動して準備を進めてまいります。また、旧秋川高校の跡地も活用し、トップアスリート養成のための中高一貫校を創設したいと考えております。

 今後、こうした動きを積み重ねながら、スポーツ振興のうねりを東京から日本全国、さらにはアジア全体に広げ、平和の祭典・東京五輪につなげていきたいと思います。

 最後に、本定例会に提案している主な案件について申し上げます。

 高齢者を狙った悪質な住宅リフォームや若者をターゲットにした架空・不当請求など、消費者被害が後を絶ちません。悪質行為を繰り返す事業者への規制を強化するために、全国初となる、行政処分と罰則を盛り込んだ消費生活条例の改正案を提案しております。

 また、心身障害者扶養年金制度については、現状のまま制度を維持するのは困難と判断し、廃止することといたしました。受給者には今後も現行通りの給付を続けるとともに、未受給者に対しては、掛け金を上回る清算金を支払うなど、制度運営者としての責任を果たしてまいります。

 また、本年5月に民事再生手続きを申し立てた臨海三セク3社について、このたび東京地方裁判所を通じて再生計画案が示されました。都としてもこの計画案の成立に協力するため、債権放棄の案件等を提出いたしました。これにより、バブルのつけであった永年の借金が解消されることとなり、今後、3社を合併の上、来年1月に設立する「株式会社東京臨海ホールディングス」の傘下に収め、引き続き臨海地域のさらなる発展に取り組んでまいります。

 本定例会には、これまで申し上げたものを含め、条例案34件、契約案3件など、合わせて51件の議案を提案しております。よろしくご審議をお願いいたします。

 以上をもちまして、所信表明を終わります。