石原知事施政方針

平成19年2月7日更新

平成19年第一回都議会定例会知事施政方針表明

平成19年2月7日

 平成19年第一回都議会定例会の開会に当たりまして、都政の施政方針を述べ、都議会の皆様と都民の皆様のご理解、ご協力を得たいと思います。

 去る12月20日、前東京都知事・青島幸男氏が逝去されました。ここに謹んで哀悼の意を表し、心よりご冥福をお祈りいたします。

1 改革の継続こそ力

(改革の成果を次の4年へ)

 さて、今から8年前、私は、都民の皆様に「東京から日本を変える」と訴え、首都東京の舵取りを担うこととなりました。しかし当時の東京は、バブル崩壊後の長い低迷の中で将来への展望を見出せず、都民生活を支えるべき都財政は、財政再建団体転落の瀬戸際にまで追い詰められておりました。

 こうしたなか、まず、全職員に対して危機意識の喚起を促し、現場を持つ東京の強みを十分に活かしながら、様々な努力を積み重ね、都政の屋台骨の立て直しに取り組んでまいりました。政策の立案に当たっては、職員の創意工夫を積極的に取り入れ、時にはトップダウンの手法も交えまして、国の二歩も三歩も先を行く独自の取組みを展開してきたつもりであります。

 その結果、破綻の危機に瀕していた財政を土俵中央にまで押し戻すことができました。また、八都県市の連携によるディーゼル車の排出ガス規制では、都民、事業者の全面的な協力のもと、大気汚染を大幅に改善する成果を上げ、新たに創設したCLO、CBOの債券市場は1兆円規模にまで成長しました。東京の優秀な中小企業55社が、これによって、上場を果たしました。

 就任当初から主張してきた横田基地の軍民共用化については、日米両政府のスタディグループによる具体的な検討が開始され、ようやく実現の一歩手前まで漕ぎ着けました。既に、空域の一部は返還され、飛行時間の短縮による大きな経済効果も見出しております。

 行財政改革の強力な切り札として都が新たに開発した公会計制度は、長い目で見て、行政のコスト意識の欠如を払拭し、明治の太政官制度以来続く「官」主導のこの国のあり方そのものを、根底から変える大きな起爆剤になるものであると思っております。銀行に対する外形標準課税では、結果として、形こそ違え、国もこれに追従し、事業活動の規模に応じた税負担の原則を企業に浸透させる先駆けを作り得ました。

 しかし、東京発の日本再生は第一章を終えたばかりでありまして、継続的な改革こそ、真の改革の名に値するものであります。この8年間の具体的な実績を次の4年間につなげ、東京の魅力と都民福祉の向上に引き続き全力で取り組むとともに、東京における改革の成果を日本の新たな発展に結実させていかなければなりません。

(10年後の東京を見据えて)

 そのためにも、東京の将来像をしっかりと描くことが必要であります。昨年末に策定した「10年後の東京」は、空想的、抽象的なマニフェストなどではなく、実現可能な東京の具体的な近未来図でありまして、これにより、目指すべき東京の姿を国内外にはっきりと示すことが出来たと思っております。

 10年後の東京を描く際に重要なことは、日本が誇る省エネ技術やユビキタス技術などを都民生活にどう還元し、また、東京に集う多種多才な人材を如何に活用するかであります。東京と世界との関係、なかんずく東アジアの諸都市との連携も欠かすことはできません。こうした視点を重視し、東京のポテンシャルを存分に発揮しながら、より高いレベルの成熟のステージを目指してまいります。

 日本の人口は既に減少局面を迎えておりますが、大都市圏の人口は増加を続けており、とりわけ一都三県の人口は、今後も当面増加すると予測しております。人口をはじめ、東京に集中・集積する様々な力を改革の原動力として、日本のダイナモとしての東京のさらなる発展に取り組んでいく必要があります。

 今後、客観的なシミュレーションに裏付けられた確かな羅針盤を基に、現実的な政策を確実かつ迅速に展開し、東京の未来に向かって新しい一歩を踏み出してまいります。

2 みどりと澄んだ空気の快適な大都市・東京の実現

 10年後の東京の姿を一言で言い表せば、「みどりと澄んだ空気の快適な大都市・東京」であります。

(みどりの倍増が東京を変える)

 しかし、都心部の大規模緑地の総面積は、ニューヨークのセントラルパークの2倍に達しているにもかかわらず、その実感に乏しく、既存のみどりのネットワーク化が十分なされているとは申せません。

 今後、東京湾の埋立地に皇居の広さに匹敵する巨大な森を造成するとともに、都民の積極的な参加を得て、街路樹を現存の2倍、100万本に倍増していきたいと考えております。また、校庭の芝生化は、ヒートアイランド現象の緩和に寄与するだけでなく、屋外で遊び回る子どもたちの元気な声が学校に戻ってくるなど、うれしい効果も生み出しておりまして、都内のすべての公立の小中学校で、校庭の芝生化を進めてまいります。

 屋上・壁面緑化も含め、あらゆる都市空間を活用して緑化を推進するとともに、都民や企業を巻き込み、「緑のムーブメント」を大々的に展開し、サッカー場1500面に相当する1000ヘクタールのみどりを新たに創出したいと思っております。東京をみどりあふれるまちとするため、先月末設置した「緑の都市づくり推進本部」を核として、全庁を挙げて取り組んでまいります。

 同時に、都心部を中心に無電柱化を集中的に推進するほか、世界有数の水辺を持つ東京の特性を活かし、隅田川や運河地域などの水辺に賑わいを取り戻すなど、東京のまちを水とみどりの回廊でつないでまいります。

 現在、東京全体をカバーする景観計画を策定しており、来年度から新たな景観政策をスタートいたします。大都市では困難とされていた建物の色彩の規制に思い切って踏み込むなど、先進的な取組みにより、かつてしっとりとしたモノクロームの街並みが続いていた江戸の伝統を受け継ぎ、みどり豊かで美しい都市空間を復活していきたいと思っております。

(効率的で快適な都市を実現し、きれいな空気を取り戻す)

 大都市における社会資本整備、とりわけ幹線道路の整備は、文明工学的に必然であり、私は、就任以来一貫して首都圏を結ぶ環状道路の必要性を訴え、自ら先頭に立って国を動かしてもまいりました。

 都内を走る自動車の平均時速は、マラソンランナーよりも遅い18キロに過ぎませんが、首都圏を結ぶ三つの環状道路が完成し、幹線道路ネットワークが完備されれば、お盆や正月並みに走行できる25キロにまで改善され、東京の最大の弱点である渋滞は一気に解消されます。東京は、人とモノの流れが歴然と良くなり、都民にとっても訪れる人にとっても、極めて効率的で快適なまちに生まれ変わるのであります。

 中央環状線については、板橋方面から新宿までの区間が今年中に開通するとともに、最後の整備区間である品川線を都が自ら事業者となり事業化に漕ぎ着け、最速のスケジュールで建設を進めております。圏央道については、迅速な土地収用を進めた結果、6月には、あきる野インターチェンジから八王子ジャンクションまでの区間が完成し、いよいよ関越道と中央道が結ばれることとなります。

 残る外環道については、この春、大深度地下方式への都市計画変更を予定しており、一刻も早い事業着手に向け、国に対し早急に整備路線として位置づけるよう、強力に働きかけてまいります。

 合わせて、鉄道の立体交差事業を引き続き積極的に進め、ボトルネックの解消を図ってまいります。来年度、新たに西武池袋線の事業に着手するなど、今後10年間で8路線10か所の立体化を完了させ、100か所以上の踏切を解消する計画であります。また、来年度末、新交通システム「日暮里・舎人ライナー」が開業し、区部北東部の交通アクセスが大きく改善されるものと期待しております。

 幹線道路の整備は、渋滞の解消はもとより、都内の自動車から排出されるCO2の削減に大きく寄与すると同時に、大気汚染の解消にも直結する取組みであります。これまで確かな成果を上げてきたディーゼル車排出ガス対策のさらなる充実に加え、道路整備による複合的な効果により、東京のみならず首都圏全体に、澄んだ空気を取り戻すことができると確信しております。

(世界一の温暖化対策で世界をリードする)

 東京が直面する環境問題は、大気汚染に限りません。地球温暖化対策は、多量のエネルギーを消費する大都市が率先して取り組むべき課題であります。

 先月末、組織横断型の戦略会議として「カーボンマイナス都市づくり推進本部」を設置し、世界最高レベルの温暖化対策の展開に向け、10年プロジェクトを本格的に始動いたしました。その一環として、来月、太陽エネルギーの大幅な利用拡大を目指し、エネルギー事業者等との検討会を立ち上げます。来年度には、都営バスでのバイオディーゼル燃料の導入に取り組むとともに、さらにその品質を高めた次世代のバイオ燃料の実用化に向け、民間企業との共同プロジェクトを開始いたします。

 今後、2020年までにCO2の排出量を2000年比で25%削減するための具体的な道筋を明らかにしていきたいと思います。

 「みどりと澄んだ空気の快適な大都市・東京」を実現するには、まず第一に、都庁の力を組織の壁を越えて結集する必要があります。温暖化対策とみどりの取組みを担う2つの推進本部を一体化した合同会議を設置し、重層的・複合的に政策を展開してまいります。

3 未来を展望する新たな政策の展開

 次に、東京の未来を展望する新たな取組みについて申し上げます。

(都民生活の安心・安全の確保)

〈防災対策のさらなる拡充〉

 都はこれまで、発災時に都民の大きな力となる自衛隊や在日米軍の参加・協力を得て、実践に即した大規模な訓練を繰り返し実施するなど、いつ起きてもおかしくない大地震に対しての備えを講じてまいりました。

 現在、地域防災計画の全面的な改定を進めており、先月発表した素案において、地震による人命の被害を半減するなど具体的な数値目標を示したほか、ターミナル駅での混乱防止やエレベーターの閉じ込め対策など、都市型災害への対応策の強化も明らかにいたしました。

 今後は、建物の耐震化をスピードアップすることで、東京をさらに地震に強いまちにつくり変えていきたいと思います。消防署や警察署、学校などの防災上重要な公共建築物や、百貨店、ホテルなどの大勢の人々が利用する民間の建物はもちろんのこと、災害時の物資の輸送に欠かせない道路交通を確保するため、沿道の建築物についても100%の耐震化を目指してまいります。

 加えて、住宅についても、今後10年間で9割の耐震化を達成していくことを、年度内に策定する「住宅マスタープラン」のなかで明らかにしてまいります。

 平成16年10月の新潟県中越地震におけるハイパーレスキュー隊の活躍は記憶に新しいところでありますが、この春、4番目となる部隊を区部北東部に設置いたします。地域特性を踏まえ、集中豪雨等による水害にも迅速に対応できるようにするなど、引き続き、大規模災害に対する対応力の強化に努めてまいります。

〈地域の防犯力の強化〉

 首都東京の治安を回復するため、この8年間、警察力の量的・質的な増強はもとより、不法滞在外国人対策や繁華街での防犯カメラの設置、「安全・安心まちづくり条例」の制定など、犯罪の芽を摘む独自の施策を広範囲に展開してまいりました。しかし防犯の基本は、地域ぐるみの取組みに他ならず、これに勝る対策はありません。

 来年度、マンションなどの共同住宅において、住民による防犯活動を支援し防犯カメラの設置を促すモデル事業を実施するとともに、防犯パトロール車両への青色回転灯の設置を促進し、まちの体感治安を改善するなど、地域の防犯力の一層の向上に取り組んでまいります。

 また、通学路の安全を確保するため、学校から自宅まで距離がある地域においてスクールバスの購入を補助するなど、子どもの安全を地域全体で守る取組みを積極的に支援してまいります。

〈安全でおいしい水の供給と水資源の有効活用〉

 安全な水が潤沢に供給されることは、都民生活を支えるための最も基本的な要素のひとつであります。

 最新の高度浄水技術によってつくられた東京の水道水は、世界一の安全性を誇っており、また、家庭の蛇口の水と同じ「東京水」が発売以来5万本以上の売り上げを記録するなど、そのおいしさも立証済みであります。来年度から、公立の小学校で、貯水槽を経ずに直接蛇口から水道水が飲めるようにするモデル事業を開始し、日本が誇る水道文化を次代を担う子どもたちに継承していきたいと思います。

 また、下水を高度処理した再生水は、ビルのトイレ用水をはじめ、枯渇した河川の清流復活や、ヒートアイランド対策の一環としての路面散水など、幅広い用途に活用しております。今後とも、都市の貴重な水資源の有効活用を進めるとともに、下水汚泥を最先端技術で炭化し、石炭の代替燃料として火力発電に利用することにより、温暖化防止に積極的に貢献してまいります。

(お年寄りも子どもも、みんながいきいき暮らせる社会の実現)

〈少子高齢社会への対応〉

 10年後の東京の人口構成は、全国的な少子化の進展の影響により、若年者も生産年齢人口も減少傾向が続く一方で、4人に1人が65歳以上の高齢者という、世界に例を見ない超高齢社会になると予測されます。

 300万人を超える高齢者のうち、8割の方々は、健康を保ち高い活動意欲を有する元気な高齢者であります。「支えられる存在」という従来の高齢者像を「社会を活性化する存在」へと180度の転換を図り、高齢者の多様な社会参加を促進し、社会全体に活力を与えていきたいと思います。介護を必要とする高齢者に対しては、老化等に関する最先端の研究成果や技術開発を積極的に活用し、介護予防や認知症対策を一層推進してまいります。

 こうした取組みを通じて、世界に先駆けて超高齢社会の新しい都市モデルを構築していきたいと思っております。

 子育て支援策では、都独自の認証保育所制度の推進や、保育所と幼稚園の垣根を越えた認定こども園の設置など、多様な事業者の競い合いによって、大都市に合った保育サービスを拡充し、待機児童5千人の解消を図ってまいります。

 また来年度、大企業に比べて育児休業が取得しにくい中小企業を対象に、育休を取る社員に係る経費の一部を助成する都独自の制度を創設いたします。仕事と出産・子育ての両立に向けた企業の意識改革を促し、子どもを産み育てやすい社会的な環境を整えてまいります。

〈障害者等の自立支援〉

 障害者が地域で自立して生活を送れるよう、都は、住まいや日中の活動の場など生活基盤の整備を計画的に進め、その結果、グループホームの定員が過去5年間で2倍以上に増加するなど、一定の成果を上げてきました。

 しかし、障害者の雇用状況は、法定雇用率を満たす企業が3割を切るなど、改善の余地を多く残しております。多様な企業が集積する東京の特性を活かし、福祉・保健、教育、労働の各分野の協力はもちろん、企業、経済団体等とともに連携を深め、今後10年間で、東京の障害者雇用を3万人以上増加させていきたいと思います。

 借金を苦にした自殺や自己破産者の増加など、多重債務が社会的な問題となっております。やむを得ない理由で多重債務に陥り、生活を圧迫されている低所得者を対象に、来年度、自治体として初めて、総合的かつ大規模な支援制度を整備し、弁護士等と連携した相談援助や資金貸付を行い、多重債務者の再スタートを支援してまいります。

〈東京発・医療大改革〉

 近年、医療事故が大きく報じられ、医療訴訟が多発するなか、小児科・産婦人科等の医師不足が懸念されるなど、医療に対する都民の不安感が増大しており、生涯を通じて質の高い医療を受けられる環境の創出が強く求められております。

 都は、従来、都民の「365日24時間の安心」を確保するため、東京ERの創設など、東京発の医療改革を進めてまいりました。今後、改革の集大成として、患者中心の医療の実現を目指し、医療の「質」そのものを支える人材の育成に積極的に取り組んでまいります。

 国が定める2年間の初期研修を終えた医師を対象に、「都立病院医師アカデミー(仮称)」を平成20年度に開講し、体系的な臨床研修を通じて質の高い医師を養成してまいります。さらに、中長期的な取組みとして、大学卒業後にも医師を目指すことのできる、もうひとつの道を確保するため、現場重視の教育で臨床能力に優れた医師を育てる専門職大学院「メディカルスクール」の実現に向けた検討を進めてまいります。

 東京発の一連の医療改革により、東京から日本の医師養成システムを大きく変えていきたいと思っております。

(東京のポテンシャルの掘り起こし)

〈東京の発展を支える産業の振興〉

 東京は、高齢化の進行や防災・防犯ニーズの高まり、あるいは地球温暖化、ヒートアイランド現象など、日本を象徴する課題を数多く抱えており、こうした問題を日本の優れた科学技術を駆使して解決する新しい産業やビジネスの創造が期待されております。

 来月、今後の10年を見据えた産業振興の新しい基本戦略を策定いたします。区部と多摩に産業振興の戦略的な拠点を整備し、多摩シリコンバレーを形成するとともに、人材育成の面では、首都大学東京や産業技術大学院大学をフルに活用し、販路開拓では、アジア市場への展開を積極的に支援してまいります。

 技術の集積や巨大で洗練された市場の存在など、東京の強みを存分に活かし、技術と経営の革新によって国際競争力を強化するほか、健康、環境、危機管理など成長が期待される分野で、新しい産業を重点的、戦略的に育成していきたいと思います。

〈東京の魅力の発信〉

 東京には、欧米の都市にはない日本独自の伝統・文化や世界最高水準の各国の食文化に加え、近未来的な都市空間や秋葉原に代表される先端のIT技術の集積など、都市の魅力が溢れております。海外から東京を訪れる観光客は、積極的なシティーセールスの展開などにより、ここ数年、増加はしているものの、依然として低い水準に止まっております。

 今後、羽田空港の国際化を睨んだアジアへのPR・交流の強化や、ヨーロッパへの戦略的なシティセールスの展開などを通じて、最先端技術や多様な文化を世界に発信し、10年後には、外国人旅行者を1000万人に倍増し、世界有数の観光都市としていきたいと思っております。

 東京都美術館の改修と連動し上野恩賜公園を「文化の森」として再生するほか、様々な食の魅力を体感できるよう豊洲の整備を進めるとともに、浅草と両国、芝浦とお台場を船で結ぶ観光ルートを開発し、水辺の周遊性を向上させるなど、東京の多様な魅力を実感できるエリアを形成してまいります。

 世界的な観光都市を目指すには、東京をはじめて訪れた旅行者でも、迷わず安心して一人歩きを楽しめるようにする必要があります。公共空間や交通機関の案内サインのあり方を早急に見直し、誰にも一目でわかり、街並みと調和した案内サインを多摩産材も活用しながら整備してまいります。

 合わせて、これまで進めてきた駅を中心としたまちのバリアフリー化をさらに発展させ、東京に集うすべての人々が、安全で快適な時間を過ごすことができるよう、ユニバーサルデザインの観点から東京のまちを見直していかなければなりません。外国語による案内の拡充など、外国人の視点を取り入れた取組みを積極的に推進するとともに、ユビキタス技術などを大いに活用し、外国人を含むすべての人が不安や不自由を感じることなく歩けるまちづくりを進めてまいります。

〈意欲ある誰もがチャレンジできる社会の実現〉

 戦後日本の繁栄は、終身雇用に象徴される日本型の雇用慣行のなかで訓練された優秀な人材によって支えられてきました。しかし、国際競争の激化などで雇用環境が大きく変化するなか、人材育成を企業や組織にだけ頼ることはできず、一人ひとりが人生のあらゆる段階で、自らの努力によってレベルアップを図っていく必要があります。

 今後、様々な人材が集積する東京の強みをさらに活かし、世代を問わず、すべての人の生き方、働き方の選択肢を広げ、意欲のある人を積極的に支援するシステムを構築してまいります。

 引き続き、しごとセンターにおいて雇用のマッチングを進めるとともに、高等専門学校の拡充等による複線的なものづくり教育システムの確立や、キャリアアップのための「再チャレンジ応援奨学金(仮称)」の創設など、柔軟で多様な人づくりの仕組みをつくり上げていきたいと思います。

 子どもや若者を巡っては、虐待やいじめ、ひきこもり、ニートなど、様々な問題が重層的に生じており、行政はもとより、警察、学校、地域のより一層の連携が強く求められております。このため、組織の垣根を越えた「子ども・若者問題対策会議」を先月設置したほか、来年度、若者の自立・立ち直りを支援するためのインターネットによる相談に加え、新たに電話や面接による総合的な相談窓口を設置いたします。

〈世界をつなぐスポーツの振興〉

 1万人を超えるボランティアに支えられた東京マラソンのスタートが、10日後に迫ってまいりました。沿道で多彩な催しを繰り広げる東京大マラソン祭りは、大都市における新しいスポーツイベントの先駆けでありまして、また来月には、東京体育館においてフィギュアスケートの世界選手権大会が開催されます。さらにこの夏、アジア大都市ネットワークを中心に10を超えるアジアの都市の参加を得て、第一回のジュニアスポーツアジア交流大会を開催いたします。一連の大規模なスポーツイベントを通じて、国際大会の経験を積み重ねていきたいと思っております。

 国際的なスポーツ・ムーブメントの最高峰であるオリンピックの招致に向け、来月初旬までには、東京オリンピック招致委員会をNPO法人化し、名実ともに活動の展開のできる体制を整えます。今年9月のIOCへの正式な立候補申請を第一ステップとして、世界を舞台に、総力を挙げての招致運動を展開してまいります。

 スポーツの興隆を行政としてしっかり支えるため、新たに創設する基金を活用して「東京版スポーツODA」を展開し、ジュニアスポーツ振興の先導的役割を果たすとともに、スポーツ振興の推進体制を強化するため、事業を生活文化局に集約し、名称を「生活文化スポーツ局(仮称)」といたします。

(多摩・島しょ地域の大きな可能性)

 次に、多摩・島しょ地域について申し上げます。

 圏央道が全線開通した暁には、多摩地域とつくばが従来の半分以下となる1時間半で結ばれ、沿線一体が都県境を越えて一つのエリアとしてつながります。また、横田基地の軍民共用化などの都市機能の充実も加わり、多摩地域の可能性はさらに飛躍的な高まりを見せ、「広域多摩」とも呼べる新しい圏域が形成されると予測されます。

 この機を逃さず、最先端技術やものづくり産業の集積、多くの大学、研究機関など、多摩の持つ優位性を存分に活かし、多摩シリコンバレーとして、また航空機関連産業の集積地として、都市型産業の一大拠点の創出を目指したいと思います。

 また、平成25年に開催する東京国体に向け、都議会、区市町村をはじめとする関係者による準備委員会を、来年度に設置するとともに、その所管を総務局に移管し、多摩・島しょ地域の振興と連動して大会の準備を進めてまいります。

 先月改訂した「多摩リーディングプロジェクト」に基づきまして、今後、多摩のさらなる振興に取り組んでまいります。

 小笠原諸島では、現在3名の都レンジャーをこの春6名に増員し、東京に残された貴重な自然を次の世代に引き継ぐための活動を展開しております。自然保護と観光振興の両立を目指し、引き続き、日本で4か所目となる世界自然遺産の登録に向けて準備を進めてまいります。

 三宅島の公道でのオートバイレースが、今年11月に開催されることが決定しました。昨年、マン島において、公道レースの練習走行中に不慮の事故で亡くなった日本人レーサー前田淳さんの遺志を継ぐトライアルでもあり、こうした新しい挑戦こそが島の未来を切り拓いていくのだと思います。

 都としても、多摩・島しょ地域の可能性を大きく開花させるため、引き続き積極的に支援してまいります。

(都政の執行体制の強化)

 これまで述べてきた「10年後の東京」を実現するためには、都政の足腰そのものが丈夫であることが不可欠であります。

 まず財政については、身を削り歳費を切り詰める努力を積み重ねるとともに、現場における地道な徴税活動やインターネット公売などの新たな手法の導入なども実を結び、都財政はようやく厳しい時代を乗り越えて、健全性を回復いたしました。

 この8年を振り返れば、国が依然として、予算の3割以上を国債の発行に頼る借金まみれの体質から抜け出せずにいるのに対して、都は、起債依存度を4%台にまで低減させておりまして、彼我の差は歴然であります。

 平成19年度予算では、1兆円を上回っていた「隠れ借金」の解消に目途をつけるなど、財政再建を達成し、新しいステップに力強い第一歩を踏み出すことができました。直面する課題への対応はもちろん、「福祉・健康安心基金」等3つの基金を創設するなど、将来に対する布石も万全に打ったつもりであります。

 このように都財政は、かつての瀕死の状態から立ち直っただけでなく、未来に向けた体力を備えることが出来たと考えております。

 また、職員定数をこの8年で2万人削減するとともに、国や他の自治体に先んじて職員の給与カットを実行するなど、都が率先して身を削る姿勢を全国に示すことが出来たと思っております。今後とも、「行財政改革実行プログラム」に掲げた目標達成に向け、着実に定数削減を進めるとともに、事務事業の執行体制を徹底して見直し、これまで以上に効率的な行政サービスの実現を目指してまいります。

 組織の機能強化では、組織の殻を破りテーマごとに集結する横断型の戦略会議を複数立ち上げ、都が持つ組織の力を十二分に引き出していきたいと思っております。

4 大都市力の発揮

 最後に、今後の都政にかける決意について申し上げます。

 世界は今、文明の衝突とも言うべき国際情勢と経済のグローバリズムのうねりが交差するなか、先進国の多くが低成長と少子高齢化という難問に直面する一方、発展めざましい新興の国々では、環境問題やエネルギー問題が深刻化するなど、将来に大きな不安を残したまま、混迷の度合いをさらに増しているように見えます。

 しかし、予測不可能な時代にあって未来を予測する最良の方法とは、未来を自らの手で切り拓くことであります。「都市集中の時代」に生きる私たちは、都市の力こそ国力の表象であり、文明の推進力であることを改めて認識する必要があります。

 折しも先日、東京は、都債の格付けでは国を抜き、外債ではトリプルA、国内債ではダブルA2というトップクラスの評価を取得し、オリンピック招致や東京の再生に十分耐え得る財政的な基盤を備えていることを証明しました。また、「10年後の東京」で明らかにしたとおり、東京には、多彩な人材や膨大な情報の集積に加え、世界の都市問題を解決する鍵となる環境技術やユビキタス技術が集積しております。

 こうした東京の優位性を最大限に活かして、今後10年にわたって先進的な取組みを展開し、21世紀の新しい都市モデルを世界の諸都市に発信していくことができると思います。東京が持つ有形無形の大都市力を発揮すれば、この国に「日はまた昇る」の勢いを取り戻し、さらには、国際社会の安定とさらなる発展に東京が大きく貢献することができるのであります。

 東京には、江戸、明治から続く豊穣な歴史があります。その積み重ねを未来につないでいくことは、後の世代に対する私たちの責務に他なりません。私は、「東京から日本を変える」決意を新たにして、このまちを私たちの子孫が胸を張って楽しみながら住める都市としていくために、日本の頭脳部・心臓部である東京の舵取りを、引き続き、身命を賭して担う覚悟であります。どうか、都議会の皆様、都民の皆様のご支持、ご支援をよろしくお願いいたします。

 なお本定例会には、これまで申し上げた事項を含め、予算案39件、条例案77件など、合わせて130件の議案を提案しております。よろしくご審議をお願いいたします。

 以上をもちまして、施政方針を終わります。