石原知事施政方針

平成19年9月19日更新

平成19年第三回都議会定例会知事所信表明

平成19年9月19日

 平成19年第三回都議会定例会の開会に当たりまして、都政運営に対する所信の一端を申し述べ、都議会の皆様と都民の皆様のご理解、ご協力を得たいと思います。

 ただいま、桜井武議員は、栄えある永年在職議員表彰をお受けになりました。都政の発展に尽くされた30年間のご功績に対して、深く敬意を表しますとともに、心からお喜び申し上げます。

 はじめに、新潟県中越沖地震について申し上げます。

 去る7月16日に発生した地震は、新潟県柏崎市や刈羽村などに大きな被害をもたらしました。犠牲者の皆様に深く哀悼の意を表するとともに、被災された方々に対し心からお見舞い申し上げます。

 都では直ちに警視庁、東京消防庁の部隊を現地に派遣したほか、医療救護班や水道復旧要員の派遣、支援物資の搬送などを迅速に行いました。

 被災地の一日も早い復興を心よりお祈り申し上げております。

 今回の地震で柏崎刈羽原子力発電所が全面停止し、首都圏では深刻な電力不足を生じかねない事態となったことから、都では「省エネ・節電緊急対策本部」を設置し自らも都庁舎の節電に努めるほか、都民への協力を呼び掛けました。国及び東京電力には、危機管理体制の強化と安全対策の実施に全力で取り組むことを求めたいと思います。

 このたび名誉都民の候補者として、加瀬三郎さん、多湖輝さん、松平康隆さんの三名の方々を選定させていただきました。

 加瀬三郎さんは、両目を失明されながらも独学で日本の伝統文化である折り紙を習得し、都内での指導をはじめ世界各地の福祉施設等を訪問して、折り紙を通じた国際交流に熱心に取り組んでこられました。

 多湖輝さんは、心理学者として、執筆活動等を通じてわかりやすく心理学を解説されるとともに、「心の東京革命」推進協議会会長として、東京の青少年を健全に育成する運動に取り組んでこられました。

 松平康隆さんは、全日本男子バレーボールのコーチとして東京五輪で日本に銅メダルをもたらすとともに、監督として二度のオリンピックで金と銀のメダルを獲得する輝かしい功績を残されました。

 お三方は多くの都民が敬愛し、誇りとするにふさわしい方々であります。都議会の皆様のご同意をいただき、来月、名誉都民として顕彰したいと考えております。よろしくお願いいたします。

1 東京にオリンピックを

 さて、今月14日、2016年夏季オリンピック大会への立候補都市がIOCから正式に発表されました。シカゴやリオデジャネイロといった対抗馬も出揃い、招致に向けた戦いがいよいよ本格化いたします。

(世界と結ぶ、未来と結ぶ)

 戦いの旗印となる招致ロゴは、日本伝統の「水引」がモチーフになっております。日本が古来より培ってきた人と人との結びつきを大切にする心で大会を必ず成功させる決意を表現しております。オリンピックは、人種や国境の壁を取り払い、世界を一つに結ぶ地球最大のイベントであります。次代を担う子供たちは、世界最高水準のパフォーマンスを自らの目と耳と肌で感じ、世界から集まった人々と交流することで、何ものにも代え難い心の財産を得るに違いありません。

 この子供たちがこれから生きていく地球は、深刻な環境問題に直面し危機的な状況にあります。オリンピックは、こうした人類の課題について開催都市がメッセージを発信する場でもあります。現在、建築家の安藤忠雄氏を中心とする専門家チームが大会のグランドデザインを練っております。数多くの難題を克服してきた東京は、日本が誇る最先端技術を活用しながら、大会を通じて、人類の輝かしい未来の姿を表現してまいりたいと思っております。

 また、オリンピックの成功のためにも、東京そのものをより高い次元で成熟させていく必要があります。東京を水と緑にあふれ、美しく安全な都市へと生まれ変わらせるため、年内に「10年後の東京実現に向けた実行プログラム(仮称)」を策定し、今後の都の事業展開を明らかにいたします。10年先の東京を見据えながら、新たな成熟への第一歩を踏み出してまいります。

(国民的な気運の醸成)

 言うまでもなく、オリンピックは国家的事業であり、招致に向けた最大の推進力は、国民的な気運の盛り上がりであります。2014年の冬季大会はロシアのソチに決まりましたが、決め手はプーチン大統領が陣頭に立った、国を挙げての運動にあったと伝えられております。先日、オリンピック招致の閣議了解を得ることができましたが、政府が総力を挙げて取り組むことなしに東京への招致はあり得ません。新しい首相にも、財政保証はもちろん、外交的手腕の発揮などを強く求めてまいります。

 都民・国民のスポーツへの関心は、「東京マラソン2008」への参加申込者が既に15万人を突破するなど高まっております。この機を逃さず、集中的なPR活動を全国で展開し、オリンピックへの期待を一気に高めたいと思います。イベントやシンポジウムを開催するとともに、全国のオリンピック出場者・体験者が「ふるさと特使」となって母校を訪れて子供たちと交流するなど、オリンピックへの夢を育ててまいります。

 また、オリンピックでは、競技と合わせて文化や芸術を通じた国際交流も重要なテーマとなります。豊穣な歴史を持つ東京ならではの芸術と文化を世界に向けて発信し、招致への気運を高めるとともに、大会と連動して展開する「文化プログラム」について東京芸術文化評議会で検討し、来年8月を目途に具体案を取りまとめてまいります。

 開催都市は、目前に迫った2年後の平成21年10月2日、コペンハーゲンのIOC総会で決定いたします。限られた700日余りを全力で戦い、是が非でも招致競争を勝ち抜きたいと思います。

 都議会の皆様、都民・国民の皆様の力を招致に結集していただきますよう、よろしくお願いいたします。

2 地球環境の改善に向けて

 続いて環境問題について申し上げます。

(東京大気汚染訴訟の和解)

 先月、東京大気汚染訴訟が和解に至りました。国は、モータリゼーションの進展に伴い発生した自動車排出ガスの問題に正当な認識を欠き、場当たり的な対応を繰り返してきました。今般改正されたNOx・PM法は、極めて有効な排出ガス対策であるべき旧式車の走行規制が依然として盛り込まれておらず、首都圏が一致協力して行ってきた規制に比べ何ら効果が期待できないまやかしであります。

 こうした国の鈍い動きに対し、都は、独自のディーゼル車排出ガス規制や三環状道路の整備による渋滞の解消を進めてまいりました。また、平成14年の一審判決時には文明批判の見地から控訴せず、その後、独自の患者救済策を提案し、積極的に関係者をリードして和解に至ったのであります。

 今回、都、国、メーカー、首都高がそれぞれの社会的責任に応じて財源を拠出する医療費助成制度の枠組みを作り上げました。これまでの取組みなどとも合わせ、東京から大気汚染の解決モデルを示し、都政が環境対策の歴史に新たな一頁を加えたと思っております。

 和解の時機を逸することのないよう専決処分を行いましたが、和解の意義をご理解いただき、本定例会において是非承認をお願いいたします。

(ツバルが発する警告)

 20世紀の負の遺産とも言うべき東京の大気汚染の解決に道を拓いた今、世界に目を向ければ、地球の環境に深刻な異変が起きております。今年の夏、北極圏の氷は観測史上最小を記録し、国内では記録的な猛暑となりました。しかし、自らの身の周りで現実に被害が起こるまでは、地球の異変を実感できず、人間は徒に時を過ごしてしまいかねません。

 そこで、地球の異変をこの目で確かめ都民の皆様にお伝えするために、先週、南太平洋のツバル・フィジー諸島を訪れ、つぶさに検分してまいりました。現地は、地球温暖化による海面の上昇により海岸線を浸食され、水没の正に危機に瀕しておりました。こうした現実は、長大な海岸線を持つ日本、とりわけ国家中枢機能が海に面した東京に重大な警告を発していると思います。

 かつて宇宙物理学者のホーキングは「地球ほど文明が進んだ星は、加速度的に不安定となり自滅してしまう。」と語りました。この言葉が正に現実になりつつあることを、心に留めていかなければならないと思います。

(地球環境の改善に向けたムーブメント)

 地球の異変を前にして、今求められているのは、国家が大きな文明史観・歴史認識を持ち、危機を先取りして対処することであります。

 国は、大気汚染問題の轍を踏むことなく行動すべきにもかかわらず、地球温暖化に対する実効性のある具体策を未だに示しておりません。また、世界的に見ても、都市に比べ政府の努力は乏しいと言わざるを得ません。本来責任を持つべき国家の動きは実に緩慢であり、都民・国民そして人類に取り返しのつかない事態を招きかねないのであります。

 こうしたなか、都は国を動かすために、具体的な取組みを率先して提起し、個人や企業などあらゆる主体を巻き込んで、地球環境の改善に向けたムーブメントを起こしてまいります。

 7月、緑あふれる東京の実現に向けた第一歩として、海の森づくりのための募金を開始いたしました。今後、都民・国民の幅広い参加を得て緑を植え、育て、守る運動につなげていくため、本定例会に「緑の東京募金基金条例」を提案し、来月にも実行委員会を発足させ、税の優遇制度を活用した「緑の東京募金」を創設してまいります。さらに、CO2の削減に向けた事業者の取組みを引き出すため、環境CBOを創設し、環境対策に積極的な中小企業を金融面から支援いたします。

 都議会の皆様、都民・国民の皆様とともに様々な取組みを展開し、東京から国を動かし、地球を守っていきたいと思っております。

3 東京が直面する課題への対応

 次に、東京が直面する課題への対応について申し上げます。

(安心・安全が確保された活力ある首都の実現)

 都民の安心と安全を確保し活力ある首都を実現していくことは、都政の最も基本的な役割であります。

〈震災への備え〉

 今月1日、多摩で直下地震が発生したとの想定のもと、横田基地周辺の4市1町と合同で総合防災訓練を実施いたしました。

 今年は、発災時の機動的な医療連携を重視して、地元医師会等によるトリアージ訓練、自衛隊の野外病院での治療、ヘリコプターによる災害拠点病院への搬送など実践的な訓練を行い多くの収穫を得ました。

 また、台湾からも台北市消防局レスキュー隊が参加してくれまして、アジアとの連携が深まるとともに、在日米軍とは負傷者の医療搬送や揚陸艦を動員した帰宅困難者の搬送などを新たに実施し広範囲な協力態勢をとりました。今後、横田基地や赤坂プレスセンターについて、在日米軍と災害時の使用協定を締結し、首都の危機管理をさらに強化したいと思っております。

 実践に即した防災訓練と合わせて、建物の耐震化にも積極的に取り組んでまいります。今年度、沿道建築物の耐震化モデル事業を実施するとともに、6月、庁内横断型の戦略会議である「建物の耐震化推進会議」を設置いたしました。現在、住宅を9割以上耐震化し、さらに防災上重要性の高い建物については100%耐震化することを目指して検討しておりまして、年内にも効果的な施策を取りまとめてまいります。

 また、既存の建物内に設置する耐震シェルターなどが開発されておりまして、先月、都政ギャラリーで、こうした技術の展示会を開催したところ都民からも大きな反響がありました。今後とも、安価で信頼のできる耐震技術の普及に努めてまいります。

〈治安の向上〉

 震災対策とともに治安対策は、都民の安心・安全の要であります。これまで、防犯カメラの設置促進やスクールサポーターの派遣など地域の防犯力向上に取り組んできました。こうした取組みの成果もありまして、都内の犯罪認知件数は平成15年度以降、減少傾向を示しております。しかし、治安対策の充実を求める都民の声は依然として強いものがあります。

 さらなる治安の確保に向け、7月、管轄区域の広範囲な町田警察署の管内に、警察官が約70人態勢で勤務する大規模な交番を設置し体制の強化を図りました。また現在、臨海地域を複数の警察署で所管しておりますが、居住者や観光客の増加等を踏まえまして、来年3月から「東京湾岸警察署」で一元的に所管し治安を確保してまいります。

 身近な犯罪を防ぎ、体感治安を高めていくことも必要であります。被害が後を絶たない「振り込め詐欺」に対し、金融機関の窓口と警察署とをホットラインで結び、被害を未然に防止する取組みを進めております。また、地域の防犯力を高めて子供の安全を守るため、事業者などに「動く防犯の眼」パトロールへの参加を呼び掛け、10万台を超える車がステッカーを貼り眼を光らせておりますが、今後も参加車両を拡大してまいります。同様の効果を狙った青色防犯パトロール車も既に320台が活動しておりますが、今年度内に100台の増設支援に取り組んでまいります。

〈輸入食品の安全対策〉

 続いて、食の安全を確保することも都政の重要な役割であります。都内に、世界各地から輸入された食品が数多く流通しております。最近、国内外で輸入食品の一部から有害物質が検出され、消費者の不安がかつてなく高まっております。

 国が検疫所で実施する水際対策に加えて、都独自に輸入食品業者への講習会を実施して業者自らによる安全管理を求めるとともに、都内に流通する輸入食品の緊急追加検査を実施しております。さらに、今後、健康安全研究センター、市場衛生検査所に高度検査機器を整備しまして検査の一層の迅速化を図るなど、都民の不安解消に力を注いでまいります。

〈ウイルス肝炎対策〉

 ウイルス肝炎に対する都民の不安を解消することは、喫緊の課題であります。患者は全国で200万から300万人と推定されますが、国の対応は極めて遅れております。

 都は国に先駆けて、今年度から平成23年度までの5年間、「東京都ウイルス肝炎受療促進集中戦略」を実施し、早期発見・早期治療を促してまいります。来月からはC型ウイルス肝炎のインターフェロン治療に係る医療費の助成を開始し、都民の健康を守ってまいります。

〈将来を担う子供の育成〉

 我が国が人口減少時代に突入した今、都民が安心して子供を産み育てることのできる環境を充実させ、東京の活力を高めていかなければなりません。

 社会全体での子育てを支援するために、企業やNPO、マスコミ、行政などで構成する「子育て応援とうきょう会議」を来月、設置いたします。会議の参加団体と連携し、長時間労働の縮減や育児休業制度の導入促進など子育てと両立できる働き方の見直しに取り組んでまいります。

 また、子供を産みやすい、育てやすい職場づくりに取り組む中小企業を増やしていくため、今月から、仕事と子育ての両立を進めるために社内体制を整備する企業への支援を開始いたします。

 教育の分野では、教師の資質を向上させ、授業の内容を工夫して学力の低下に歯止めをかけるほか、社会の一員としての自覚を養う「奉仕」の授業を必修化するなど、独自の改革を進めてまいりました。昨年来の教育基本法の改正や教育再生会議の動きを見ますと、国がようやく東京の取組みに追いついてきた感じがあります。

 都は、さらなる改革に向けて、来年6月を目途に「新・東京都教育ビジョン(仮称)」を策定し、将来を担う人材の育成について新たな方策を提示いたします。

〈将来への展望を切り拓く支援〉

 近年、額に汗して懸命に働いているにもかかわらず、低所得の状態から抜け出せないまま、不安定な生活を余儀なくされている方々が増加しております。こうした方々への支援策は極めて重要であります。

 春以来、個人都民税の軽減による支援を検討してまいりました。しかし、税による一律の対策よりも、きめ細かく的確な施策を重点的に講じることが、より公平で効果的と判断いたしました。

 今後、都議会とともに十分に相談し、こうした方々が自らの人生を切り拓き、将来の展望を見いだすことができるように、生活改善や職業能力の向上などの多様な施策を積極的に講じて、公約を進化させてまいります。

(機能的・効率的な社会資本の整備)

 都民の安心・安全を支え東京のダイナミズムを生むためには、機能的で効率的な社会資本を整備していくことが求められております。

〈航空政策の展開〉

 羽田空港は4本目の滑走路の建設工事が急ピッチで進んでおります。日本が激しい国際競争に勝ち抜くためには、平成22年の供用開始を待つことなく国際化をできる限り前倒しして進める必要があります。

 今月、ソウルに続いて、新たに羽田と上海を結ぶ国際チャーター便が就航いたしますが、今後とも、都心に近い24時間空港の利点を活かした国際線のさらなる拡充が必要でありまして、国の迅速な対応を求めてまいります。

 羽田空港の再拡張・国際化が進展し、東京とアジアの関係が一層緊密なものとなるなか、来月、東京で「第2回アジア旅客機フォーラム」を開催いたします。現在、YS−11以来となる国産旅客機の開発プロジェクトが事業化を目前にしておりますが、国産旅客機の開発は、日本とアジアが共同開発を目指すアジア旅客機の実現に向けた大きな一歩となるものです。国産旅客機の事業化に向けて国が国策として位置づけ、強力にこれを支持するよう求めてまいります。

 横田基地の軍民共用化は、首都圏の航空事情を改善し、ひいては日本全体の国際競争力の強化につながります。スタディグループによる日米協議が来月の期限を間近に控え、大詰めを迎えております。先日のシドニーで開かれた日米首脳会談及び外相会談において、日本側から米側に対し、政府として共用化を早期に実現したいという立場を明確に伝えました。今後とも、日米両政府が軍民共用化の早期実現に一刻も早く合意するよう、様々なルートを活用して強く働きかけてまいります。

〈道路網の整備〉

 三環状道路をはじめとする道路ネットワークは、東京のみならず、首都圏が一体として発展するために欠くべからざるインフラであります。外環道は約400回に及ぶ地元との意見交換を経て、この春、大深度地下方式への都市計画変更を完了いたしました。外環道を一刻も早く整備計画路線へ格上げするよう、国に対して強く求めてまいります。

 12月には中央環状新宿線の板橋から新宿までの区間がいよいよ開通いたします。新宿線の残された区間は平成21年度の完成を、また品川線は平成25年度の完成を目指して着実に整備を促進するとともに、中央環状線の全線開通を見据え、交通の流れをより円滑にするためジャンクションの改良などを進めてまいります。

 日本の頭脳部・心臓部である東京が十全に機能するように、こうした道路ネットワークの整備に国が迅速かつ着実に取り組むことは当然であります。現在、国が策定中の中期計画に東京の道路整備を明確に位置づけ、必要な財源を確保するように国に迫ってまいります。

(多摩・島しょの発展)

 次に、多摩・島しょ地域の振興について申し上げます。

 6月、圏央道のあきる野インターチェンジと八王子ジャンクションの区間が開通いたしました。中央道と関越道がこれで結ばれ、これにより、埼玉・山梨方面へのアクセスが格段に向上し、多摩が首都圏の産業中核拠点として発展する足掛かりを築くことができたと思います。

 また、先月から圏央道で料金割引の社会実験が開始されましたが、首都圏の高速道路ネットワークの機能を最大限に引き出すには、現行の複雑な料金体系を改める必要があります。既に、一都三県が共同して料金の見直しを国に提言いたしましたが、今後とも、利用者の視点に立った料金設定を国に働きかけてまいります。

 平成25年に開催される東京国体の準備が着々と進んでおります。準備委員会の第1回総会では、開会式の会場を「味の素スタジアム」に決定いたしました。競技会場もほぼ決まり、今後、開催基本構想の策定、競技施設の整備促進等に取り組んでまいります。

 東京国体が開催される多摩には、豊かな自然と美しい景観を持つ多摩川が流れております。この多摩川で、羽村市から大田区に至る約50キロメートルのランニングコースを今後、完全に整備いたします。東京マラソンの成功でも明らかなように、ランニングは国民的なスポーツとして定着しております。都内で皇居と並び、多くの都民が健康づくりに汗を流し、市民ランナーが集う東京の新しい名所にしてまいります。

 三宅島では、帰島開始から約2年半が経過し、島民の生活も落ち着きを取り戻しつつありまして、来年春を目指して三宅島空港の再開準備も始まりました。11月にはモーターサイクルフェスティバルを開催いたします。万全な準備で是非とも成功させ、三宅島が再生しつつある姿を広くアピールするとともに、新たな発展の起爆剤にしていきたいと思います。

 都は小笠原諸島の世界自然遺産登録を目指しております。先頃、南硫黄島で、四半世紀ぶりとなる自然環境調査を首都大学東京と連携して行いました。南硫黄島は、急峻な地形や自然環境の厳しさから小笠原諸島の中で人為の影響を唯一受けていない島でありまして、新種と思われる貝類を4種類発見するなど、学術的に貴重な成果が得られました。今後、詳細な分析を行い、登録の準備を進めるとともに、小笠原諸島の自然保護と観光振興に努めてまいります。

4 今、この国のかたちを問う

 次に、分権改革について申し上げます。

 平成12年、地方分権一括法が施行されました。しかし、地方が国から自立することを目指した三位一体改革は、霞ヶ関の頑強な抵抗に遭い単なる数字合わせに終始いたしました。分権改革は遅々として進まず、改革の気運は大きく後退したばかりか、法人事業税の分割基準の見直しなど、本筋から外れた議論を繰り返しております。

 昨今、「都市と地方の格差」なるものが取り沙汰されておりますが、自治体間の税収規模の差のみに着目し、その是正を図る動きがありますが、これは、都市の膨大な財政需要を考慮しない極めて近視眼的なものである。東京を停滞させ、日本全体の活力を削ぐことにしかならないことは明白であります。

 また、過疎化や地域経済の低迷が、都市との対比で語られておりますが、その本質的な要因である国の国土政策・経済政策の問題点に目をつぶり都市の財源を、ただ地方に回すだけでは、真の問題解決には絶対になりません。

 今なすべきは分権改革の初心に立ち返り、地方が自立し自らの才覚と責任で地域を主宰できるよう、この国のかたちを変えることが必要なのであります。格差是正の名の下に、都市と地方が共倒れになってはなりません。

 今後、分権改革や地方税財政制度改革について都の見解を発表いたします。迷走する議論を本筋に引き戻し、都議会の皆様や他の自治体と連携して、この国のかたちを問う戦いを進めてまいりたいと思います。

 最後に、国と地方の関係について一例を申し上げます。

 国から弁慶橋風致地区における参議院宿舎の建設について協議がありましたが、時代の変化や国民意識の変化を踏まえ再度議論すべきことを指摘し、再考を求めました。国に唯々諾々と従うのではなく、主張すべきを主張し、分権の時代にふさわしい地方の姿を示したと思います。

 この問題に対しては、私も以前在籍していた参議院から、「良識の府」としての見識が示されることを心から期待しております。

 なお、本定例会には、これまで申しましたものを含め、条例案16件、契約案5件など、合わせて31件の議案を提案しております。よろしくご審議をお願いいたします。

 以上をもちまして、所信表明を終わります。