石原知事施政方針

平成19年12月4日更新

平成19年第四回都議会定例会知事所信表明

平成19年12月4日

 平成19年第四回都議会定例会の開会に当たりまして、都政運営に対する所信の一端を申し述べ、都議会の皆様と都民の皆様のご理解、ご協力を得たいと思います。

1 アジアから新たな国際的枠組みを

 先週、フィリピンの首都マニラで開催されました「アジア大都市ネットワーク21」第六回総会に出席し、地球温暖化対策について議論を深めてまいりました。

 産業革命以来、世界は化石燃料を大量に消費して大いに発展はしたものの、その過程で排出されたCO2の影響により地球は温暖化し、水没の危機に瀕するツバル諸島に象徴される地球環境の異変を引き起こしております。このまま手を拱いていれば、海面上昇に加え、温暖化による気候変動がもたらす台風の巨大化や干ばつなどのために、生きる場所も術も失った難民が世界に多数発生するのは必至であります。これにより南北の格差や貧困は深刻化し、新たな紛争の火種になりかねません。

 発展の代償である地球の異変は国境を越え世界中に広がりつつあり、もはや環境を軸として全ての国を引き込んだ新たな国際的枠組みを構築しなければ、人類に未来はありません。世界も遅まきながらこれに目覚め、足並みが揃わないながらもポスト京都議定書を巡る議論が国連の場で始まりました。来年開催される北海道洞爺湖サミットでも最重要議題となることは確実であります。

 今回のアジア大都市ネットワーク21総会では、東京が環境政策のトップランナーとして参加都市に強く働きかけ、CO2の排出削減に共同して取り組むことを合意できました。アジアは世界の人口の半分以上を占めるとともに、経済の成長が著しく、アメリカやEUに匹敵する第三の極となりつつあります。そのアジア諸国の頭脳部・心臓部を担う大都市が、それぞれの国家の国益や発展段階の差異を超えて、先進国と途上国の利害が複雑に交錯する地球環境問題の解決に向けて連携することは、新たな国際的枠組みの成立への強力な後押しとなります。

 来年2月には東京で、環境技術に関する実務者会議「第1回アジア・エネルギー環境技術ワークショップ(仮称)」を開き、日本が培ってきた技術や東京の先進的政策ノウハウをアジアに提供いたします。東京はアジアと連携していくとともに、大規模なCO2排出事業者に対する削減の義務化など先駆的な施策を着実に推進し、地球温暖化に立ち向かってまいります。

2 地球社会への贈り物 東京オリンピック・パラリンピック

(世界の未来を開くために)

 地球環境問題だけでなく、高齢化や高度な都市化に伴い生じる様々な課題は、21世紀の世界に共通するテーマであります。こうした課題を克服するには、世界が同じ危機意識を持つことが不可欠であり、スポーツで世界の人々の心を一つにするオリンピックは、その重要な機会ともなります。

 東京はこれらの課題を、世界で最初に大規模に経験しつつありますが、既に先進的な政策を講じ取り組んでおります。こうした経験を持ち現代文明の光も影も知る東京こそが、オリンピックを契機に課題の解決策を世界に向けて示すことができると思います。

 先般、開催意義や競技会場の配置などを盛り込んだ「開催基本計画」を公表いたしました。これをもとに2016年オリンピック・パラリンピック東京大会を開催することで、前回の東京大会が東京と日本の復興の扉を開いたように、地球社会の未来のため新たな扉を開いていきたいと思います。

(2016年東京大会の開催意義)

 東京から、スポーツとオリンピックの持つ力を最大限活かして、新たな扉を開ける二つの鍵を世界に示してまいります。

 まず一つは、スポーツを通じて人々に夢と希望を与えていくことであります。私たちは、トップアスリートが表現する肉体の力強さや類い稀なる精神の逞しさに感動し、夢や生きる希望を得る訳です。

 子供たちの気力や体力の低下が懸念される中、オリンピックやパラリンピックを契機に、次代を担う子供たちにかけがえのない心の財産を残すとともに、スポーツに打ち込んで成長する喜びを与え、その生き生きとした瞳の輝きを取り戻していきたいと思います。また、高齢化が進む現在、全ての人々がスポーツを通じて健やかな生活を手に入れ、夢と希望を持って人生を送ることができるようにしたいと思います。

 もう一つは、新しい都市モデルを提案し地球環境を再生することであります。私たちを魅了してやまないトップアスリートにとって、きれいな空気と豊かな水と緑に溢れた都市こそ最高の舞台であります。また、大会に向けた10年間は、地球温暖化を解決するための正念場でもありまして、環境に負荷をかけている都市はその行動を問われております。

 世界中の目が注がれる大会の舞台づくりにあたり、最先端の環境技術や政策ノウハウを用いて都市のあり方を進化させることにより、地球の健康を取り戻す具体的な道筋を世界に示してまいります。

(大会運営の様々な工夫)

 こうした考えのもと、大会運営面に様々な工夫を凝らしてまいります。

 まず、全国の子供たちが一人でも多く会場に足を運び、あるいはメディアを通じて、トップアスリートの最高の活躍を自らの目と耳と肌で感じることができるように、オリンピックの開催期間は、子供たちの夏休み等を考慮しまして、7月29日から8月14日に設定いたしました。

 また、世界一コンパクトな大会を目指し、ほとんどの競技会場を晴海オリンピックスタジアムを中心とした半径8キロメートル圏内に集中させました。環境への影響を極力抑えるため、既存の競技施設をできる限り使用するとともに、観客の輸送等には正確無比で都内を縦横に走る公共交通網を最大限に活用いたします。オリンピックスタジアムへのアクセスには環境に配慮したバス高速輸送システムを導入いたします。

(招致実現に向けた決意)

 開催基本計画に掲げた「人を育て、緑を守り、都市を躍動させるオリンピック」を成功させるためにも、「10年後の東京」に基づき、東京をより高い次元で成熟させ、大会を通じて21世紀の新しい都市モデルとして世界に披瀝してまいります。

 来年はオリンピック・イヤーでありまして、8月、北京大会が開かれます。ソウル大会から20年ぶりとなるアジアでの開催に、多くの都民・国民が現地を訪れ、北京市民はもとより世界中の人々と交歓を深めることになると思います。東京の友好都市北京が、オリンピックの精神を具現化して大会を成功させることを祈念いたします。

 これから北京大会に全世界の耳目が集まる中、2016年大会に立候補した都市への関心も高まります。この機を逃すことなく全力で取り組み、都市間競争を勝ち抜いて、必ずや日本にオリンピックを招致し東京で開催する決意であります。来年1月にはIOCに対して申請ファイルを提出いたします。子供たちに心の財産を残し、環境問題に先進的に取り組む東京の志を世界に示すとともに、充実した都市機能もアピールしてまいります。

 招致議員連盟などから既に100万人を超える数の招致を求める署名をいただきましたが、都民・国民の皆様、都議会の皆様には、2年後の平成21年10月2日に開かれるIOC総会での開催都市決定に向け、さらなるご協力をお願いいたします。

3 地方の真の自立のために

(近視眼的な議論)

 都政がその持てる力を尽くして世界に新しい潮流を作り出そうとしているその一方で、国政には近視眼的な議論が充満し、とりわけ地方税財政制度について本質から外れた動きが続いております。

 本来、中央政府の財源は国税により、地方政府の財源はその地域の住民が納める地方税によるのが基本であります。しかし、霞ヶ関が全てを差配するこの国の構造のもと、地方は国からの財源に依存し、地域における受益と負担の関係が曖昧なまま国の硬直的な行財政運営を後追いせざるを得ませんでした。それゆえに昨今、そのツケに苦しみ、しわ寄せが住民に及んでおります。

 しかし、国は自らの誤りを反省しないばかりか、「都市と地方の格差」を喧伝し、その是正案と称する牽強付会ともいうべき代物で糊塗しようとしております。その最たるものが地方税である法人二税を国が徴収し再配分するという案であります。さらに最近では、地方税である法人事業税について、20年度税制改正で、都から3千億円程度を地方に移すという合意ができたと報道されておりますが、そんな話は全く聞いておりませんし、まして内諾など全くしておりません。これは受益と負担の関係をさらに曖昧にし、地方を真の自立から一層遠ざけるものでしかありません。

 また、東京は300万人を超える昼間流入人口を抱え、都はそのために生じる膨大な行政需要に対処しながら、我が国の頭脳部・心臓部を維持して発展を図っております。さらに、日本の将来に不可欠なインフラ整備を国が遅々として進めないことから、やむなく国に代わって自らの負担で進めております。東京の膨大な行政需要は、日本の屋台骨を支えるためのものであります。

 都は、こうした行政需要に対応するため行財政改革に取り組み、平成以降、職員を4割以上も削減するなど徹底して努力してきました。にもかかわらず、国のご都合主義によって税源を奪われ財政再建団体に転落すれば、まさに「東京の死」であります。これは、「地方自治の死」であり「日本の死」を招くことに繋がります。

 国は小手先の手法に走らず、地方の税財政基盤を確立するために、消費税の税率引き上げや国と地方の配分についての抜本的な検討を進めるとともに、必要十分な地方交付税を確保すべきであります。また、国に対して、東京の懐に手を突っ込む前に、まず自らの身を切る改革を断行し、地方への関与や補助金、二重行政を廃してスリムになることを強く求めます。

(都市と地方の力の総和が日本を再生させる)

 動きの遅い国の分権改革・地方税財政制度改革をただ待つだけでは、地方は国と共倒れになりかねません。今なすべきは、都市と地方がその持てる力を融合させ、共に自らの活路を開くことなのであり、東京は地域に活力を取り戻そうとする自治体や企業などと手を携えてまいります。

 そこで、都が開催する日本最大級の見本市である「産業交流展」に、全国の中小企業が出展する機会を提供いたします。これにより地方と東京の中小企業や大学、研究機関などの交流を進め、新技術・新製品の開発や販路の開拓のために連携を促進してまいります。また、全国の中小企業が東京で活動する拠点を提供いたします。さらに、展望室だけでも国内外から年間約180万の人が訪れるこの都庁舎を「都道府県の情報発信拠点」として最大限活用し、日本の各地域の魅力を、この都庁舎で、とにかく広くPRしてまいります。

 東京と地方がそれぞれの「現場」を踏まえ、知恵を出し合い協力することで共存共栄の道を見出していくとともに、都市と地方の力の総和によって日本全体に新しい活力を生んでまいりたいと思います。

4 都政の課題

 これまで申し述べてきた意欲的な取組みを進めるとともに、東京に存在する多くの課題を積極的に克服していくことで、日本と世界を、この東京がリードしていきたいと思います。

(都市機能の充実強化)

〈環状道路ネットワーク整備〉

 3千4百万人以上の人口が集積する首都圏の最大の弱点は交通渋滞であります。渋滞により発生する経済損失や環境悪化は、東京のみならず日本の発展のボトルネックとなっております。都は、これまで三環状道路をはじめ区部の環状道路や多摩南北道路の整備を促進しており、今月にはいよいよ中央環状線の新宿から池袋までの区間が開通いたします。今後、道路整備をさらに進め、10年後を目途にお盆や正月並みのスムーズで環境に優しい車の流れを実現したいと思っております。

 先般、国が公表した「道路の中期計画」の素案には、都が主張してきた道路ネットワークの整備や高速道路を利用しやすい料金体系の構築などが盛り込まれました。こうした施策を実現するには、道路特定財源に関わる暫定税率を延長して財源を確保し、首都圏に集中的に投入すべきであります。また、外環道についても、都は既に400回以上にわたる地元との意見交換を経て、大深度地下方式への都市計画変更を完了しており、国は一刻も早く整備計画路線に格上げしてしかるべきであります。

 今後とも、首都圏の着実な道路整備のために国を動かしてまいります。都自らも共同事業者となって整備を進めている中央環状品川線については、平成25年度の完成を目指して最速のスケジュールで推進してまいります。

〈空港機能の拡充〉

 もう一つの大きな弱点は、空港容量の絶対的な不足であります。人と物の交流が都市や国家の活力と繁栄に直結するこの現代において、その手段を欠いては世界には太刀打ちできません。このため、都は羽田空港の再拡張・国際化と横田基地の軍民共用化を推進してまいりました。

 羽田空港については、第四滑走路の建設に1千億円の無利子貸付を行うなど、従来の自治体の枠を超えた対応を行い、工事は着実に進んでおります。また、空港の沖合展開に伴う跡地は、国際線ターミナルなど国際化の拠点施設に隣接する重要な空間であり、空港と連携する旅客サービス施設などに活用して再拡張後の空港機能の強化を図っていく必要があります。今年度中に国及び関係自治体との調整を進め、跡地利用の基本計画を取りまとめてまいります。

 一方、横田基地の軍民共用化は、小泉・ブッシュ会談の合意を出発点として、米国政府に早期実現を求めてまいりました。日米両政府によるスタディグループは10月を期限に検討を重ねてまいりましたが、米側の軍事運用に関わるいくつかの課題がまだ残されております。いずれも調整は可能な事項ばかりであります。在日米軍基地の中で戦略上重要な位置を占める三沢基地ですら既に冷戦時代に軍民共用化をしていたのでありまして、米国政府は、主な機能が所詮兵站基地でしかない横田基地の軍民共用化に真摯に対処して当然であります。

 先般、こうした考えを直接にシーファー駐日大使に伝えるとともに、福田総理とも面会し、横田基地の軍民共用化は我が国の国力の維持のために必要不可欠であるとの基本的な立場を確認いたしました。今後も、国の関係省庁と都が一枚岩の結束を保ちながら、米側に対して具体的な提案を持ち掛けるなど、粘り強く協議を続けることにより、軍民共用化の早期実現を目指してまいります。

(都民が安心できる仕組みの構築)

 東京は、そこに住む人々が安心して暮らすための様々な仕組みを充実させ、日本と世界をリードしていく都市に相応しい成熟を遂げる必要があります。

〈地域ケア体制の確立〉

 東京の高齢者は10年後には全国でも群を抜き、300万人を大きく超えるものと見込まれております。超高齢社会を迎えて、誰もが安心して暮らせる都市を実現しなくてはなりません。

 昨日、高齢者の地域での生活を支える基本方針となる「地域ケア体制整備構想」を策定いたしました。この構想をもとに、高齢者が住み慣れた地域での生活を継続できる社会の実現を目指して、地域ケアの拠点となる地域包括支援センターをサポートするとともに、医療、介護、見守り等のネットワーク構築などサービス基盤の充実にも取り組んでまいります。来年度には、具体的な施策展開を明らかにするため、平成21年度から23年度を計画期間として「高齢者保健福祉計画」を改定し、超高齢社会への備えを固めてまいります。

〈がん医療対策の充実〉

 がんは年間3万人の都民の命を奪っております。都民の不安を解消するため、予防や早期発見の取組みを強化するとともに、がんに罹患しても最善の治療を受けられる体制を強化していかなくてはなりません。

 都は、来年3月を目途に「東京都がん対策推進計画」を策定し、がんの早期発見、化学療法・放射線治療・緩和ケア等の多様な治療方法の推進、専門医療従事者の育成などに取り組んでまいります。また、優れた診療機能を備えた病院が集まる東京のメリットを活かして、国が指定する拠点病院と同等の診療能力を有する病院を来年4月から都独自に認定いたします。拠点病院と認定病院とが地域の医療機関を支援する体制を構築し、都全体のがん診療水準の向上に努めてまいります。

〈東京大気汚染訴訟・医療費助成制度の創設〉

 自動車排出ガスによる大気汚染は大都市における20世紀の負の遺産ともいうべきものでありまして、多くの方々が東京大気汚染訴訟の推移を注目しながら、長い間、病に苦しんでこられました。

 都は独自の患者救済策を提案して8月に歴史的な和解に至り、先の第三回定例会で都議会の承認もいただきました。現在、医療費助成制度の実施に向け、窓口となる区市町村との協議を行うとともに、本定例会には制度創設のための条例改正案を提案いたしました。全力で準備を進め、来年8月からの助成開始を目指してまいります。

〈豊洲新市場予定地の詳細な調査〉

 築地市場は、戦前戦後を通じ東京の台所として、役割を果たしておりますが、モータリゼーションやIT技術の進展等に伴う流通環境の変化により市場の施設・設備が時代に合わなくなり、老朽化や場内の狭あい化も進んで市場機能を十分に果たせない状況にあります。このため、市場関係団体との協議を踏まえて、江東区豊洲への移転を進めておりますが、食の安全・安心に万全を期すため、専門家会議を設けて移転予定地に対する土壌汚染対策を評価・検証しております。

 今般、専門家会議の意見を踏まえて、移転予定地の全面にわたり4100箇所の詳細な土壌・地下水調査を行います。この調査結果をもとにして万全の対策を講じて着実に移転を進めてまいります。

(次代を担う子供を育てるために)

 いつの時代も国家・社会の発展の基礎は次代を担う子供であります。東京が日本と世界をリードし続けるには、子供たちに努力する力や社会の発展を担う力を体得させる必要があります。そこでは、子供たちの学力や体力、忍耐力などをバランス良く育まなくてはなりませんが、昨今の学力の低下が懸念されております。

 国は43年ぶりに全国学力テストを実施し、10月、結果を公表いたしました。これは遅きに失したとしか言いようがありません。都は平成15年度から独自に「児童・生徒の学力向上を図るための調査」を実施して授業の改善を進めております。今後も、独自調査と国の調査の結果を徹底活用し、さらに学力を向上させてまいります。

 また、教育課題が複雑化・多様化する中で、教員の資質向上が急がれており、都は「東京教師道場」を設置して、教員の授業力向上を図ってまいりました。また、来年4月に設置される教職大学院に学校教育の中核となる現職教員を派遣するとともに、新人教員の養成・確保のために連携するなど、新たな仕組みを構築してまいります。

(多摩・島しょの発展)

 次に、多摩・島しょの振興について申し上げます。

 多摩の発展のためには、バランスのとれた道路ネットワークの形成、とりわけ、南北方向の交通の円滑化を図っていかなければなりません。

 先般、新しい多摩大橋が開通し、来年春の八王子村山線の全線開通に向け、大きな山場を越えることができました。本路線の全線開通は、現在、整備を進めている多摩南北道路の主要5路線のうちでは最初となるものであります。今後とも着実に整備を進め、首都圏の活力の一翼を担う多摩地域における都市基盤の充実に取り組んでまいります。

 また、この地域は豊かな自然に加えて長い歴史や伝統を持つ観光資源に満ちております。6月には関越道と中央道を結ぶ圏央道の区間が開通したことで都内や近県からのアクセスが大幅に向上し、四季折々の風物に触れ親しむことがより便利になりました。こうした中、都は、多摩産材を活用した案内標識の設置など観光ルートの整備を進め、新たな観光客の流れやまちの賑わいを創出するための地域支援に取り組んでまいります。

 先月16日から18日までの3日間、三宅島においてモーターサイクルフェスティバルが開催されました。全国各地から、のべ200台ものバイクが参加し、関係者を含め1000人近くの人々が島を訪れました。私も17日に訪れて一泊し、レース等を自らの目で確かめ、島の空気を肌で感じてまいりました。島内外の人々が交流し活気に溢れる会場を見て、三宅島の観光・産業振興に大きな弾みがついたと強く実感いたしました。引き続き、復興に向けた三宅島の取組みを積極的に支援してまいります。

5 東京から日本の再生を目指して

(アイデンティティの喪失)

 「東京再起動」を掲げた三期目のスタートから半年余りが経過いたしました。東京大気汚染訴訟では、全国の範となる解決モデルを提案して和解に導き、地球温暖化問題ではニューヨーク、ツバル等を訪れ、次の世代に残す地球を守るためのメッセージを都民・国民はもとより世界に向けて発信いたしました。これらをはじめ、より安心で安全な東京を実現するための取組みを鋭意進めてまいります。

 一方、国政を見ると、政治家は選挙目当ての議論に終始し、官僚は年金や肝炎の問題で本来仕えるべき国民を蔑ろにしている姿を露呈しました。国の舵取りを任された者のこうした姿を眺めるにつけ、国家の強固な意思と行動力を示し得ない日本の厳しい現状に暗然とする思いであります。これは、政治家や官僚の自己保身もさることながら、先の敗戦後、奇跡的な経済復興とは裏腹に、日本自らのアイデンティティを見失い、自らの持てる力を認識できず自信を失ったことに原因があると思われてなりません。

(首都東京の気概)

 かつての東京もまた、自らの力と存在の意義を明確に意識できずにおりました。そこで、知事就任以来、都政を預かる者として、東京のアイデンティティが「日本の首都」という点にあることを強く意識して、いくつかの改革に取り組んでまいりました。三期目を開始するにあたり、職員に「単なる地方公務員ではない。首都公務員としての気概を持て。」と激励したのも、そうした自らが拠って立つ足場を強く意識することを求めた訳であります。

 我が国は今、まさに内憂外患といえる状況にあります。しかし、日本は長い歴史に培われた伝統文化と合わせて、高度で緻密な技術力を持つ国であり、必ずや自分の力と存在意義を再認識する日が来ると信じております。

 東京には、こうした日本の力が集中・集積しております。これを最大限に活かして先進的な取組みを展開し、この国を覚醒させるとともに、21世紀の都市モデルとして世界にも貢献していきたいと思います。

 今後の取組みを着実なものとするため、年内を目途として、都の行財政運営を先導する「10年後の東京の実現に向けた実行プログラム(仮称)」を策定し、今後の事業展開を内外に明らかにいたします。また、首都の誇りと日本への愛着とともに、地球の未来への視座を持って、都政運営に全力を尽くしてまいります。

 なお、本定例会には、これまで申し上げたものを含め、条例案21件、契約案5件など、合わせて36件の議案を提出しております。よろしくご審議をお願いいたします。

 以上をもちまして、所信表明を終わります。