石原知事施政方針

平成20年2月20日更新

平成20年第一回都議会定例会知事施政方針表明

平成20年2月20日

 平成20年第一回都議会定例会の開会に当たりまして、都政の施政方針を申し述べ、都議会の皆様と都民の皆様のご理解、ご協力を得たいと思います。

1 危機に挑む東京の決意

(今そこにある危機)

 世界は、今、海面水位の上昇や氷河の後退といった地球温暖化による地球環境の深刻な異変に直面しております。これは、かつてない文明社会を築き上げ、豊かな生活を当たり前のものとして繁栄を謳歌していることの代償にほかなりません。さらに近年、ロシア・東欧や中国・インドなど新興の経済国の経済活動も活発となり、地球にかかる負荷の蓄積は、最早、臨界点目前まで来ております。世界各所の気象観測データや数多くの研究者からの報告が警告を発し、地球温暖化の歯止めをかける実効性のある対策を促しております。

 しかし、CO2排出削減に率先して取り組むべき国々の一部は、北極海の氷の面積が過去最少となる深刻な状況を横目に、我先にと北極海の海底資源を求めてしのぎを削り、また、昨年末のCOP13・バリ会議も、向こう2年間の交渉スケジュールを決めただけに終わりました。こうした状況を見るにつけ、文明の負の循環を思わずにはいられません。

 我が国もまた、実効性のあるCO2排出削減策を政策決定できずにおります。日本は、エネルギーや食糧の大半を輸入に頼り、多くの企業が世界を舞台に事業を展開しております。このため、地球環境の異変により食糧不足や地域紛争が発生し、世界が混乱に陥れば日本の存立すらが危うくなります。政府は、バリ会議での対応を批判されて、ようやくCO2削減の目標値設定に前向きな姿勢を示しましたが、そのための危機感も文明認識も未だに欠けていると言わざるを得ません。

(「都市の世紀」に生きる人類)

 国家が責任を果たさなければ、都市が立ち上がるしかありません。

 世界人口の5割が居住するまでになった都市は、人々の夢をかなえ便利な生活をもたらし、文明社会を発展させる原動力であります。一方、資源やエネルギーを大量に消費し、地球環境に耐え難い負荷もかけております。また、地球環境問題だけでなく、文明社会の発展に伴い生じた少子高齢化や災害に対する脆弱性などの深刻な課題にも直面しております。

 今や、都市のあり方そのものが地球の未来を決定する「都市の世紀」に、人類は生きております。都市の変革なくして、人類が生き残る道はありません。技術や多種多才な人材などの集積から生まれる都市の力で、生活様式や産業構造を省エネ型に転換して環境との調和を図りながら、危機を突破していかなければなりません。

(新しい文明秩序への道を東京から切り拓く)

 こうした観点に立ち、先般、東京で「第1回アジア・エネルギー環境技術ワークショップ」を開催し、東京と日本の持つ優れた技術やノウハウをアジア大都市ネットワーク21の諸都市と共有いたしました。

 世界の諸都市と手を携えるとともに、大きな文明の流れを見極め将来を見通した戦略を持ち、東京という「現場」を踏まえた行動を渾身の力を込めて興してまいります。こうした20世紀の文明社会を超克し、新しい文明秩序への道を切り拓いていきたいと思います。東京は成長から安定の段階を経て成熟へと至る過程で、多くの課題を克服してまいりました。文明社会の光も影も知る東京ならではの複合的な政策を展開し、環境との調和を図り、美しく安全で住み心地のよい都市を実現して、21世紀の都市モデルとして世界に示してまいりたいと思います。

2 21世紀の都市モデルへと飛躍する第一歩を

 このための設計図が「10年後の東京」であり、その基礎を固めるための今後3年間の道筋が「10年後の東京への実行プログラム2008」であります。東京から日本へ、さらに世界へと変革を広げる気概をもって、世界の範となる都市を実現してまいります。

(低炭素型都市への転換)

 まず、環境政策について申し上げます。

 一昨年、都は国に先んじて、2020年までに2000年比でCO2を25%削減する目標を打ち出し、昨年には、気候変動対策方針を策定いたしました。京都議定書の第一約束期間も本年1月よりスタートしておりまして、低炭素型都市への転換を平成20年度から本格化させてまいります。

〈実効ある省エネ・節電対策〉

 CO2の排出削減のためには、社会の隅々にまで省エネ・節電を行き渡らせる仕組みを整えなければなりません。都市レベルでは世界初となる大規模事業所への排出総量の削減義務化と削減量取引制度の導入を実現してまいります。また、本年4月には、環境整備公社に「地球温暖化防止活動推進センター」を設置して、中小事業者や都民の取組みをバックアップいたします。

 世界の太陽光発電装置の半分は日本製であるにもかかわらず、国の政策が後退し国内での普及が足踏みしております。今後10年間で火力発電所1基分に相当する都内消費電力を太陽エネルギーに転換することを目指して、まず3か年で4万世帯に太陽光発電や太陽熱利用機器を導入してまいります。加えて、白熱球の一掃や高効率な給湯器の普及拡大による省エネ・節電を推進いたします。

 都の施設でも率先してCO2削減対策を講じてまいります。下水汚泥の焼却にあたり、全国に先駆けて「汚泥ガス化炉」を導入し、山の手線内側の約半分の面積に相当する森林が吸収する量のCO2を削減するなどの取組みを進めてまいります。

〈緑あふれる東京の実現〉

 快適な都市生活を妨げるヒートアイランド現象を緩和し、エネルギー消費を削減するのみならず、都市に潤いを持たせるには、緑に溢れ、海からの風が吹き抜ける東京へと変わらなければなりません。

 既に、「緑の東京募金」を創設し、ゴミと残土でできた東京湾の埋め立て地を森に再生する海の森づくりにも着手しております。

 3か年で海の森に7万本の植樹を行い、街路樹を現在の48万本から70万本へと増加いたします。また、次代を担う子供たちが緑の上を元気に走り回り、自然の大切さや地球環境問題について学ぶことができる校庭の芝生化を、小中学校や幼稚園・保育園で実施いたします。都市公園の整備や屋上の緑化などとも合わせて、サッカー場500面分相当の新しい緑を創出してまいります。

〈交通渋滞の解消と環境負荷の軽減〉

 環境への負荷を軽減するためには、交通ネットワークを充実して交通渋滞を解消するなど、効率的な都市を実現することも必要です。

 3月30日、いよいよ日暮里・舎人ライナーが開業いたします。6月には、池袋から新宿を経て渋谷までを結ぶ地下鉄副都心線も開業するなど、これまでの都の取組みが着実に進展しております。

 一方、昨年暮れ、外環道がようやく基本計画路線に格上げされましたが、一日も早く整備計画を策定し、平成21年度には事業着手することを国に強く要求いたします。また、中央環状新宿線の残された区間を平成21年度中に完成させるとともに、骨格幹線道路については、22年度までに区部の環状道路の整備率を9割に、多摩南北道路も8割にまで高めてまいります。

 鉄道の連続立体交差事業も引き続き積極的に進め、ボトルネックとなる開かずの踏切等を解消いたします。平成22年度までにJR中央線等の25か所の踏切をなくすことに加えまして、来年度から西武新宿線と京王線においても新しい区間に取り組んでまいります。

 さらに、環境負荷の少ない、最新技術を活用した交通の姿を先駆的に実現いたします。高度な情報通信技術によって効率的に信号を制御し交通の流れをスムーズにする「ハイパースムーズ作戦」を展開するほか、バイオ燃料の利用拡大や都民・事業者に対するハイブリッド車等の低公害・低燃費車の普及を促進いたします。

 道路の整備を支えているのが道路特定財源であり、この暫定税率の期限切れを3月末に控え、現在、国会で議論が行われております。

 大都市の潜在力を引き出す道路の整備は、文明工学的にも必要不可欠なものであることは論を俟ちません。それが滞れば東京の最大の弱点であります渋滞の解消は道半ばで頓挫し、安全で快適な生活の実現やCO2削減も進まず、そのツケは都民・国民に回ることになります。暫定税率の維持など道路整備のための財源確保を国に強く求めたいと思います。

(生き生きと暮らせる安心安全な都市の実現)

 21世紀の都市モデルを実現するためには、地球環境問題に止まらず、東京に先鋭的に現れた都市の課題を解決していかなければなりません。

〈地域と技術で支える超高齢社会〉

 東京は、世界が経験したことのない超高齢社会を迎え、10年後には要介護認定者数が50万人を超えると見込まれております。都民の老後への不安を解消するため、東京の強みである企業やNPOなどの集積を活かして、介護、医療、見守りなどを地域で提供するネットワークの構築を進めてまいります。合わせて、認知症高齢者グループホームの定員を3か年で6200人にまで増加させるとともに、不足する介護人材の確保にも取り組んでまいります。このほか、高齢者が住み慣れた地域において自立した生活を続けるには、最先端技術の活用も重要であります。来年度には、高齢者を見守り生活を支えるロボット等の活用についての新たな研究会を設置いたします。

 他方、高齢者全体の8割を占める元気な高齢者や団塊の世代が持つ経験や能力を社会全体で活かしていく必要があります。介護や子育てなどの分野の担い手として活躍できるよう、必要とする側とのマッチングの仕組みづくりについて着手いたします。こうして、社会を活性化する存在としての新しい高齢者像を東京から造形し発信してまいります。

〈社会全体で子育てを応援する〉

 東京には少子化の潮流も先鋭的に現れておりまして、合計特殊出生率は全国最低であります。これまでも認証保育所の創設など施策を充実させてまいりましたが、仕事と家庭生活の両立が難しい職場環境などが原因となりまして、子育ての負担が大きくなっております。子供を産み育てたいと望む人たちのために、働き方や社会環境を幅広く見直さなければなりません。

 昨年設置した「子育て応援とうきょう会議」を核に、都民・企業等と連携して社会全体で子育てを応援してまいります。3か年で200か所以上の認証保育所を整備するなど、待機児童の多い0歳から2歳を中心に1万5千人分の保育サービスを確保いたします。また、都独自の助成制度により、仕事と子育てを両立させる職場づくりに取り組む中小企業を支援いたします。さらに、授乳やおむつ替えのためのスペースを公共施設などに600か所設置し、子育てにやさしい環境を整えていきたいと思います。

〈障害者の自立を支援〉

 誰もが生き生きと暮らすことのできる社会の実現は世界共通の課題であります。これまでも都は、障害者が地域で自立して暮らすための居住の場の整備や就労支援などに取り組んでまいりました。しかし、東京における障害者雇用数は増加傾向にあるものの、雇用率は全国平均を下回り、特に中小企業での雇用は遅れております。

 障害者就労支援事業を全区市町村に拡大し、特別支援学校においても職業教育と就労支援の充実を図ります。また、都独自に養成した「東京ジョブコーチ」が企業を訪問し、障害者の職場定着をサポートするほか、障害者を採用しようとする中小企業には、一定期間、賃金の一部を助成し、雇用を促進いたします。企業による障害者雇用を目的とした特例子会社の設立支援とも合わせて、3か年で1万人の新たな雇用を生み出してまいりたいと思います。

〈東京発医療改革のさらなる推進〉

 これまで「365日24時間の安心」を目指し、東京発医療改革を進めてまいりました。しかし、近年、小児科・産科を中心に病院に勤務する医師の不足が深刻化し、早急な対策が求められております。

 本年4月に都立病院を活用して開講する東京医師アカデミーは定員の約2倍の応募者が集まるなど期待が高まっておりまして、都も全力を尽くして、高度な専門能力を有する医師の養成に取り組んでまいります。また、病院勤務医の過重労働を緩和するため、医療クラークの導入を支援することに加え、女性医師や看護師の仕事と子育ての両立や再就業も応援して、人材不足の解消に繋げてまいります。

 充実を求める声が強い周産期医療では、地域の医療機関をネットワーク化して、限られた医療資源を有効活用いたします。また、周産期母子医療センターに医療機関相互の患者搬送をコーディネートする医師の配置を促進するなど緊急搬送体制を強化いたします。

〈危機に強い都市への脱皮〉

 世界が時間的・空間的に狭小となった現代、ひとたび東京で危機的事態が起これば、直ちに地球的な規模で影響が及びます。危機への備えは、都民・国民を守るためだけではなく、国際的な信頼を得るためにも不可欠であります。

 平成7年の阪神・淡路大震災では建物の倒壊等が、死因の9割を占め、また消火や救助活動の大きな障害ともなりました。東京は、30年以内にマグニチュード7程度の地震が発生する確率が70%程度と予測されておりまして、「地震がこわくない東京」の実現を強力に進める必要があります。

 今年度に実施した沿道建築物の耐震化モデル事業を、来年度からは緊急輸送道路の全路線に拡大しまして、災害時の道路寸断を防止してまいります。建替え予定のある建物等を除く全ての消防署、警察署、都立病院等を3か年で耐震化し、区市町村や私立学校による小中学校の耐震化への取組みと合わせて、防災上特に重要な建築物の安全性を向上いたします。住宅については、都民が安心して専門家に相談できる体制を区市町村と連携して整備し、マンションへの耐震改修助成制度も新たに創設するなど施策を複合的に講じて、住宅の耐震化率を現在の76%から82%にまで高めてまいりたいと思います。

 卑劣なテロ行為もまた、大都市が備えなければならない危機的な事態であります。テロの封じ込めには、主要な施設の警備はもとより、テロリストや指名手配犯の迅速かつ確実な検挙が求められております。今後、官と民の連携を強化しつつ、最先端技術を活用し、テロ対策として、そうした危険人物の顔を識別できる顔画像自動照合システムを大学や企業と共同で開発し、実用化を目指してまいります。

 また、本年7月に開催される北海道洞爺湖サミットに関連した非常事態を想定して、4月に、国や民間事業者等と連携したテロ警戒対応訓練を東京で実施し、都民の安全安心の確保に力を尽くしてまいります。

 先日、輸入冷凍食品に薬物が混入する事件が発生し、都民・国民の食への不安が高まっております。原因については関係機関が調査中ではありますが、都民の食の安全を守るため、都内に流通する冷凍加工食品への農薬検査等を緊急に実施し、原料原産地名の表示の充実等について検討を開始いたしました。また、国に対しては検疫体制の一層の強化を強く求めてまいります。

(都市の魅力や産業力で東京にさらに磨きをかける)

 大都市東京の力は、最先端技術や人材・企業の集積、豊穣な歴史や伝統・文化にあります。21世紀の都市モデルを作り上げるためにも、都市の力にさらに磨きをかけなければなりません。

〈東京の成熟を支える産業の振興〉

 東京のさらなる発展には、新しい産業やビジネスを育てる必要があります。世界に類を見ない企業・大学・研究機関の集積を活かしまして、今後有望な環境分野や健康分野等の先進的プロジェクトを研究開発から製品化、販売に至るまで継続的に支援してまいります。

 他方、原油や資材価格の高騰が続き、企業系列の崩壊などの構造変化も相まって中小企業は厳しい経営環境にあります。東京の都市の力はもとより日本の競争力を維持するためにも、中小企業の基盤強化は喫緊の課題であります。共同受注体制の構築や技術力強化に取り組む中小企業グループを支援するとともに、中小企業振興公社に「下請取引紛争解決センター(仮称)」を設置し、中小企業の受注機会の確保や下請取引の適正化を図ってまいります。

〈東京の魅力発信〉

 東京には江戸開府以来の豊かな伝統や文化、食文化に加え、渋谷・原宿の若者のファッション、秋葉原の最先端IT技術、そして美術館・博物館等の集積など世界に誇る独自の魅力が溢れております。これらを活かした観光振興を進めて、千客万来の都市としての成熟度を増し、外国人旅行者を現在の約480万人から平成23年度までに700万人へと増加させていきたいと思っております。

 まず、東京からの情報発信をさらに強化するため、都議会からもご提案がありました東京の魅力をPRするDVDを製作し、シティセールスやオリンピック招致に活用してまいります。また、今後、大幅な増加が見込まれる東アジアからの観光客誘致に向け、中国・台湾・韓国の雑誌等のメディアを活用してPRを強化いたします。

 東京の優れた芸術文化も大きな魅力であり、さらに発展させ戦略的に発信していく必要があります。東京芸術文化評議会の提言を基に、伝統芸能・演劇・美術・音楽など様々な分野にわたる大規模な文化プロジェクトを展開してまいります。

 東京は戦後の高度経済成長の中で、無秩序なまでに都市の景観が失われてしまいました。これを反省して、昨年策定した新たな景観計画に基づき、既に指定した景観形成特別地区内で規制対象となっている屋上広告物のほぼ全数を、3年間で撤去いたします。また、東京駅丸の内駅舎の復元や眺望の保全と合わせ、首都東京の正面玄関に相応しいトータルデザインの下、駅周辺地域を整備いたします。さらに、センターコアエリア内はもとより、多摩地域や周辺区部の主要駅周辺、緊急輸送道路などの都道で無電柱化を進め、オリンピックや観光客誘致に繋がる成熟した都市の佇まいを創出してまいります。

(次代にバトンを渡していくための人材育成)

 質の高い教育は社会の発展や変革の原動力でありますが、日本の強みであった教育に今や明らかに揺らぎが見え始めております。人材育成の再構築に今こそ、真剣に取り組まなくてはなりません。

〈学校・家庭・地域の連携で子供の「生きる力」を育む〉

 今日、社会のルールや基本的な学力が身に付いていない子供たちが増え、誠に憂慮に堪えません。こうした中、新たに策定する「新・東京都教育ビジョン」により、学校のみならず子供の教育に重要な役割を担う家庭、地域が連携しながら、社会が総掛かりで次代を担う子供の「生きる力」を育んでまいりたいと思います。

 家庭教育では、社会を生き抜く上での必要な忍耐力や規範意識を養い、健やかな成長の土台となる生活習慣を確立するため、乳幼児期の子供を持つ親に対する支援を充実いたします。また、学校教育では、漢字や九九など全ての児童・生徒が習得すべき内容を、教師が的確に指導するための基準である「東京ミニマム」を作成し、基礎的・基本的な内容に関する指導を徹底いたします。地域でも、退職した団塊の世代が「教育サポーター」として、学校教育や地域教育の支援者となるための取組みを進めてまいります。

 非行少年を立ち直りへと導くワンストップサービス施設の設置や、ひきこもりから自立を促すプログラムの開発などによりまして、子供たちを巡る様々な課題にも積極的に対応してまいります。

〈実践的な産業人材の育成〉

 戦後、日本の繁栄は、終身雇用制度に象徴される日本型雇用慣行の中で訓練された優秀な人材により支えられてきました。しかし、昨今、雇用環境が大きく変化するなかで、人材育成を企業だけに頼るのではなく、一人ひとりが、自らの努力により必要な能力を身につけ、レベルアップを図ることができる環境を整備していく必要があります。

 産業界が求める能力を具体的に定義し体系化した指標である「東京版スキルスタンダード」を、デザイン分野を皮切りに来年度から策定してまいります。これをもとに大学などの教育機関がカリキュラムを再構築することで、学生が産業界のニーズに合った、より実践的な能力を身に付けることができるように取り組んでまいります。

 また、社会人がより高度な知識や技術を学び直し、キャリアアップできるように新たな奨学金を公立大学法人・首都大学東京に創設いたします。

〈職業的自立・生活安定に向けた緊急総合対策〉

 近年、懸命に努力しているにもかかわらず、低所得の状況から抜け出せずに不安定な生活を余儀なくされる人々が増加しております。3か年で300億円を超える規模の緊急対策を実施し、こうした人々の将来への展望や希望を取り戻していきたいと思います。

 全区市町村と連携して相談窓口を創設することに加え、新たに設けるサポートセンターが、住居を失いインターネットカフェ等で生活している人々を対象として生活・就労相談や巡回相談を実施いたします。また、生活・転居・就職のための無利子貸付や職業訓練にも取り組んでまいります。さらに、職業訓練期間中には、生活に困らずに訓練に専念できるよう、訓練生に対して受講奨励金を支給するほか、訓練生を正社員として一定期間継続して雇用した企業には採用助成金を支給いたします。

〈アジアの将来を担う高度な人材の育成〉

 これからの人材育成には、国際的な視野も必要となります。成長著しいアジアとの関係強化は東京の発展に不可欠でありまして、東京がアジアの人材育成を先導することでアジアの若者たちに夢と希望を与えるだけではなく、双方の間に真の友情に支えられた強固な橋が掛かるのであります。

 来年度、「アジア人材育成基金」を創設し、首都大学東京にアジアの優秀な人材を受け入れ、航空機用新素材の開発などアジアの発展に資する高度先端的な研究を支援してまいります。

 受け入れた人材を将来の経済交流や学術交流の橋渡し役にするため、「アジア人材バンク」を創設し人材情報の登録・管理を開始いたします。

(多摩・島しょ地域の発展)

 次に、多摩・島しょ地域について申し上げます。

 多摩シリコンバレーの実現のためには、都域を超えた産学や企業間の交流・連携を一層活性化させ、研究期間から試作、製品化に至るまでの高度で多様な企業集積を促進させる必要があります。

 平成21年度には、中小企業に対する高度な技術・経営支援を行う多摩の産業支援拠点を昭島市に再編整備するほか、広域的な産業ネットワークの形成を見据え、今後、八王子市に産業交流拠点を整備してまいります。また、市町村が行う企業誘致への支援などによりまして、高度な技術力を有する企業の立地を促進していくとともに、アジア、世界へと拡がる事業展開を強力に後押ししてまいります。

 平成25年の東京国体に向けて、本年6月に、都議会の開催決議を添えて、国と日本体育協会に対して開催の申請をいたします。都議会の皆様には、本定例会での決議をよろしくお願いいたします。

 また、来年度からは、区市町村への競技施設整備に対する財政支援を開始し、都立施設の改修等も進めてまいります。

 島しょ地域は、人々を強く引き付ける美しい豊かな自然に恵まれております。今年で返還40周年を迎える小笠原諸島についても豊かな自然の保護を目指し、世界自然遺産登録に向けて準備を進めております。

 また、三宅島の空港再開やバイクイベントの支援、あるいは、小笠原諸島での航空路開設の検討などを進めながら、島しょ地域の自然を活かした観光振興に取り組んでまいります。

3 オリンピック招致の成功に向けて

 実行プログラム2008を着実に実行することで、「人を育て、緑を守り、都市を躍動させる」という東京オリンピックの開催理念を具現化する決意を内外に示してまいります。東京が目に見えて変わることこそ、最も明快で強力なアピールとなります。

 昨年12月の世論調査では6割を超える支持をいただきましたが、国内外でのPRに、なお一層力を尽くしていかなければなりません。北京オリンピックをはじめ国際大会等の場を活用して東京開催の意義や魅力を十二分に発信してまいります。国内では、先日、都議会の皆様とともに副知事及び幹部職員が全国の道府県を直接訪れ、オリンピック招致を目指して日本が一丸となって戦うための協力を呼びかけました。さらに、全国の夏祭りや花火大会などでPR活動を展開するほか、東京マラソン、文化・スポーツイベント、「緑の東京10年プロジェクト」など都の環境施策とともに連携して、都民・国民の招致気運を一層高めてまいります。

 来年2月には、いよいよ立候補ファイルをIOCに提出いたします。国の全面的な支援を強く求め、国際競技団体等とも十分に調整して質の高い大会計画を作成いたします。また、オリンピックの開催に向けて、世界の人々を魅了する文化イベントを行うため、東京芸術文化評議会の答申に基づき、「文化プログラム」を策定し、立候補ファイルに盛り込んでまいります。

 去る17日、東京マラソン2008が盛況のうちに開催されました。大勢のボランティアのサポートの下で3万人を超えるランナーが都内を駆け抜け、沿道では、観衆が熱い声援を送り、昨年を上回る多彩な催しも披露されるなど、まさに東京が一つになったと思います。今大会では、使用する電力を全てグリーン電力で賄い、大会関係者やボランティアは再生素材100%のコートや帽子を着用いたしました。環境に配慮した都市マラソンという新しいモデルを世界に提起できたと思います。

 大会の成功によるスポーツへの関心の高まりを、オリンピック招致の実現はもとより、東京のスポーツ振興に繋げてまいりたいと思います。本年3月に取りまとめられる「東京都競技力向上基本方針」に基づき、東京オリンピックでの活躍が期待されるジュニア世代の競技力向上やスポーツ医科学のサポート体制の充実などを進めてまいります。さらに、4月に「東京国際ユースサッカー大会」、8月には「ジュニアスポーツアジア交流大会」を開催し、東京のみならず、世界のスポーツの振興に貢献致したいと思います。

4 行財政運営について

 東京を21世紀の新しい都市モデルへと高めるためには、都政がその持てる力を十二分に発揮していかなければなりません。

(国との徹底的な交渉)

 これまで日本の首都である東京から、国全体の利益に繋がる施策を展開してまいりました。一方、国政は、この国の将来を真剣に考えているとは到底思えません。天文学的な借金を前にして、政治家は目先の利害に囚われ、官僚は省益に拘泥して、国家のあり方や国民の税負担にかかわる根本的な議論を避け続けております。昨年12月に国が決めた法人事業税の一部国税化も、財政運営の失敗を小手先で糊塗するものに過ぎません。税の原理にももとり、地方分権に逆行し、地方の疲弊の解決にもなりません。

 決して納得できませんが、地方税制の改正については、地方に阻止する術がないことから、福田首相とも会談し、今回の改正をあくまでも暫定措置に止めさせ、日本の発展に繋がる首都東京の重要政策に対して国が最大限の協力をするとの約束を取り付けました。

 こうした経緯で設置された国と都との実務者協議会では、既に、羽田空港の国際化に関する分科会を、千葉県や神奈川県の参加も得て立ち上げております。東南アジアの主要都市との間に国際定期便を就航させるため、就航距離制限の見直しについて国と協議を開始いたしました。また、インフラ整備や首都の治安維持向上等について、平成21年度の予算措置を強く求め、都独自の認証保育所制度の承認等についても国の規制緩和を要求いたします。

 徹底した交渉により、都から突きつけた13項目を国に着実に実行させ、日本の頭脳部・心臓部である首都東京が持つ真の実力と豊かな可能性を官のくびきから解き放ち、日本全体の発展に繋げてまいりたいと思います。

(平成20年度当初予算等)

 今回の国の不合理な措置により、平成21年度と22年度の合計で約6千億円の減収が見込まれます。さらに、米国経済の減速が懸念されることなどから、都税収入の先行きに不透明感が増しております。かつて景気変動の直撃を受けて数千億円単位の税収減に見舞われ、塗炭の苦しみを嘗めながら都議会の皆様と手を携えて財政再建を果たしてまいりました。しかし、今後の都財政運営を楽観できる状況にはありません。

 そうした中にあっても、東京をさらに成熟へと導くため、「10年後の東京」を着実に実行していかなくてはなりません。予算案では、実行プログラム2008に関する事業費を4千7百6億円計上し、投資的経費も7年ぶりに7千億円台に回復させるなど、都民のために「攻め」の姿勢で施策を展開しております。

 他方、都財政の足腰強化を休むことなく続ける必要があります。将来への「備え」に十分に目配りし、税収減や財政需要の増加に弾力的に対処するため、基金を積み増しいたします。また、国や他の自治体に先駆けて導入した新しい公会計制度を本格的に活用し、費用対効果を徹底的に吟味しながら施策を検証して予算案に反映いたしました。1102人の定数を削減するなど手を緩めることなく内部努力も継続してまいります。加えて、職員が首都公務員として、納税者への奉仕という本分を尽くし、東京からこの国を牽引する覚悟を持つよう、益々の意識改革を図ってまいります。こうした取組みにより、質と量の両面から都政のレベルアップを実現してまいります。

5 この国の再生のために

 かつて福沢諭吉は、「立国は公にあらず私なり」「独立の気心なき者、国を思うこと深切ならず」と説きました。「私」という個人の強い意思が国家を動かす原動力であります。また、自立した個人でなければ、国のことを主体的に深く切実には考えられない、という意味であります。

 この言葉から百年以上が経過し、この国は大いに発展し物質的な豊かさを極めたものの、福沢が問うた「私」の姿は荒廃しつつあります。近年、耐震や商品の偽装、国の官僚の国民を蔑ろにした許し難い出来事が続いております。また、親が親である前に極めて自己中心的になり、親としての責任を放棄している姿も見受けられます。これは、社会を形づくる人間同士の連帯を断ち切るものに他なりません。

 一方で、各地で災害が発生した折には、地元消防団や多くの企業、個人ボランティアが黙々と復旧に汗を流す姿も見られます。危機に際して人間や社会の地金が露わとなりますが、まだまだ日本人の根底には、ふるさとを愛し、国を愛し支えんとする心意気が備わっていると思います。これを呼び覚まし、絆を結び直すことができれば、この国は必ず再生するに違いありません。

 そこで、東京に集積した多彩な人材や企業、地域での様々な活動と手を携え、区市町村ともスクラムを組んで、「10年後の東京」実現のために広範囲なムーブメントを展開いたします。東京が一丸となってCO2削減に挑み、また、社会全体で介護や子育て、教育を支えていくことなどを縁にして、この国に人間同士の連帯や価値の基軸を再生する新しいうねりを興してまいりたいと思います。

 21世紀の都市モデルは、都民・国民という自立した個人としての「私」の意思が凝集することで完成に至るものであります。福沢諭吉の言葉から百年を経た今、日本を人々が協力し合い共に支えんとする心意気を備えた国へと再生し、次世代に継承すべく、都政運営に全力を傾けてまいります。

 最後に、新銀行東京について申し上げます。

 新銀行東京は、これまで、既存の金融機関では支援がし難い、赤字や債務超過に陥っている中小企業を含めた約1万7千社に対して支援を行ってまいりました。この中には、新銀行東京の融資を契機に業績を回復させた事業者が約9千社に及ぶなど、中小企業を支える銀行として独自の役割を果たしてまいりました。

 しかし、新銀行東京では、金融環境の劇的変化とリスク認識の甘い旧経営陣の事業運営により、予想をはるかに超える多額の不良債権が発生するなど、経営状況が悪化しております。

 今般、新銀行東京は、高い事業意欲がありながら、資金繰りに窮している中小企業等への支援を継続していくことを目的として、抜本的なリストラを進めるとともに、都の関連団体や他の金融機関のノウハウを活用して、確実に必要な収益を見込める事業を重点化する「再建計画」を策定いたしました。そして、これを着実に実現していくために不可欠な資本の増強を、都に対して求めてきております。

 旧経営陣の経営責任が厳しく問われなければならないのは、もちろんですが、新銀行東京は中小企業を支える銀行として重要な役割を果たしており、懸命に努力している既存融資先の中小企業の経営に重大な影響を及ぼしてはなりません。都民の貴重な税金を再び投入する重みを十分に踏まえつつ、新銀行東京が新たな道を拓き、今後も中小企業金融において適切に役割を果たすことができるよう、追加出資を行い、引き続き支援をしてまいりたいと思います。

 なお、本定例会には、これまで申し上げたものを含め、予算案37件、条例案75件など、合わせて131件の議案を提案しております。よろしくご審議をお願いいたします。

 以上をもちまして、施政方針表明を終わります。