石原知事施政方針

平成21年2月18日更新

平成21年第一回都議会定例会知事施政方針表明

平成21年2月18日

 平成21年第一回都議会の定例会の開会に当たりまして、都政の施政方針を申し述べ、都議会の皆様と都民の皆様のご理解、ご協力を得たいと思います。

1 未来は自らの手で切り拓く

 今年の正月、この国の行く末に、かつて無い危機感を持って、知事としての10年目の新年を迎えました。

 世界各地で頻発する気象の異変が警告するように、地球環境の循環は大きく狂い、もはや取り返しのつかない事態が刻一刻と迫りつつあります。さらには、未曾有の経済危機が各国を襲い、その震源地・米国は唯一の超大国としての地位を低下させており、世界は多極化の度を増しております。

 このように、人類は、自ら創り出した文明社会の発展ゆえに生起した数々の難題によって、その存在や尊厳を致命的に脅かされており、混迷を脱するためには新しい秩序を創造していかなければなりません。しかし、秩序の創造にあたり日本がどのような役割を果たすかを問われながら、国政は、危機感に乏しいまま別次元での内向きな議論に終始しており、日本がこれからどこに進むかさえも定かではありません。国民は自らの将来を見通すことができずに強い不安と危惧を感じて、いらだちを募らせているのであります。

 一方、都政はこの10年間、文明社会が直面する難題が最も先鋭的に現れた東京という「現場」を踏まえ、明確な目標を掲げ、新しい発想による政策を確固たる決意で進めてまいりました。

 環境分野を例に挙げるならば、動きの遅い国に代わって八都県市で協力して実現したディーゼル車排出ガス規制により、文明発展の悪しき副産物とも言うべき大気汚染を急速にかつ大幅に改善することができました。また、多量消費社会が排出したゴミから成る埋立地を、美しい森へと生まれ変わらせる画期的な取組みも行っております。さらに、昨年には、子や孫への責任を果たさんとする志を胸に、CO2排出総量の削減義務化と排出量取引制度の導入を決め、大都市における地球温暖化対策の端緒を切り拓きました。

 この10年間、東京は、大きな流れを見極めながら日本の再生の起点となり、新しい秩序の創造にも繋がる取組みを進めてまいりました。今、この国に必要なのは、こうした巨きな視点に立って自らの未来を自らの手で切り拓き、国民に希望を取り戻すことであります。

 しかし、今の国政には、それを望むべくもありません。ゆえにも、日本のダイナモたる東京から、この国の羅針盤となる取組みを積み重ねて、国政を動かしていきたいと思います。

2 危機を克服し希望を指し示す

 未来を自らの手で切り拓くためには、都民・国民の生活に甚大な影響を及ぼしている現下の経済危機を一刻も早く突破しなければなりません。そして、危機の先に、日本のさらなる発展の軌道を見出し、今後の文明社会が進むべき道筋をも示す21世紀の都市モデルを造り上げていかなければなりません。

 眼前の危機に果断に対処しつつ、未来を見据えた取組みも重層的・複合的に行って、都民・国民に希望を指し示してまいりたいと思います。

(危機の影響を食い止めるために)

 先ず必要なのは、経済危機の影響が端的に現れている雇用問題への対応や苦境に喘ぐ小零細企業への支援であります。

〈緊急の雇用・就業対策〉

 雇用情勢は厳しさを増しており、全国の製造業の派遣・請負労働者約100万人のうち約40万人が今年3月までに職を失う可能性があるとの業界団体による見通しも出されております。都は、国に先駆けた二度の補正予算で迅速に対策を講じ、即効薬として、都が行う公共事業による雇用の創出に取り組んでおります。

 近年進んだ働き方の多様化には、光と影の側面がありまして、自らの条件に合わせ柔軟に働き方を選択できるようになった反面、就職氷河期世代に代表されるように、やむなく非正規で雇用された方々は十分なスキルを習得できず低所得の生活を余儀なくされております。また、国の雇用保険制度などは実態と乖離しており早急に改めるべきであります。

 こうした状況を踏まえ、実効性のある雇用対策を緊急に実施してまいります。「東京しごとセンター」等をフル回転させるとともに、正規雇用に向けたスキルを身に付ける機会を増やし、非正規雇用者向けの職業訓練の対象年齢を拡大するほか、仕事との両立が可能な夜間訓練も新設いたします。加えて来年度から、就労経験のある若者が学び直すことを支援する「再チャレンジ応援奨学金制度」も首都大学東京にて実施いたします。

 失業者の増大は憂慮すべき問題でありますが、人手不足が続く介護分野では人材を得やすくなり、大企業に比べて採用に苦戦してきた小零細企業も有為な人材を採用することが可能となります。

 そこで、離職者1千人に対して介護資格の取得や介護職場への就職を支援してまいります。また、内定を取り消された学生を含む新規学卒者を対象に、人材を求める企業を幅広く集めて合同就職面接会を開催するなど、雇用のミスマッチの解消にも取り組んでまいります。

 資源のない日本にとって「人」は活力の源であり、人口減少の時代を迎え、その意味合いはさらに増加しております。社会の活力を高めるためにも、意欲のある者の挑戦や再挑戦を多様な方法で後押ししたいと思います。

〈小零細企業への支援〉

 日本経済を支える小零細企業もその痛手は極めて深刻であります。

 切迫する小零細企業の資金繰りを支えるため、昨秋から実施している緊急保証制度など制度融資を拡充するとともに、都と地域の信用金庫や信用組合等が連携して、現在、厳しい経営環境にある小零細企業が新たに資金を調達できる仕組みを創設いたします。また、「機械・設備担保融資制度」も創設し、不動産担保や個人保証だけに頼らない新しい資金調達ルートを作ってまいります。

 経済危機を乗り越えるためには、危機の先を見据え、経営力の強化や生産性の向上など発展の基盤づくりを行うことも重要であります。このため、都と中小企業振興公社や東京商工会議所など小零細企業を支える組織がスクラムを組んで、「経営力向上TOKYOプロジェクト」を立ち上げてまいります。経営指導員が来年度中に2千社を訪問して経営改善を助言するほか、低利なリース方式を活用した最新設備の導入、共同受注や共同仕入れのためのグループ化などの取組みを支援いたします。

 毎年、東京都ベンチャー技術大賞では優れた技術が数多く見出されております。東京にも日本にも宝のような技術がまだまだ眠っております。そこで、都が率先して斬新な発想を活かした新製品を購入し、機能・品質等を実証するなどして、小零細企業の販路開拓を支援してまいります。

(都民・国民の安全と安心を確保するために)

 経済危機に加え、国の医療制度の綻びへの不満や少子高齢化社会への不安などが相まって、都民・国民は閉塞感を強めております。都民・国民に将来への展望を取り戻すためには、日々の生活を支える医療を立て直し福祉を充実させるなど、安全と安心の確保もゆるがせにできません。

〈医療の立て直し〉

 近年、国の政策の失敗により小児科・産婦人科を中心に医師不足が深刻化し、医療の足下が揺らいでおり、昨年、東京でも出産を巡る大変痛ましい事態が発生いたしました。これを受け、「周産期連携病院」の指定を3月に行うなど対策を進めているほか、複数の診療科が連携して、母体救命処置が必要な妊産婦の救急搬送依頼を必ず受け入れる、いわゆる「スーパー総合周産期センター」の創設にも取り組んでおります。

 さらに、「東京都周産期医療協議会」と庁内横断組織のプロジェクトチームが連携しまして、様々な角度から周産期医療体制を検証しております。

 来年度、都立病院において総合周産期母子医療センターを、区部では大塚病院に開設し、多摩では、府中市に来年3月、開設予定の「多摩総合医療センター(仮称)」と「小児総合医療センター(仮称)」とが一体となって運営してまいります。合わせて、分娩や救急業務に対する手当を新設するなど、医師の処遇を一層改善し、診療体制の充実に必要な人材の確保を一段と強化してまいります。

 都民の命綱である救急医療でも、この10年間で医師不足などから救急医療機関が約2割減少する一方、救急患者の搬送件数は約3割増加しており、立て直しは急務であります。

 昨年末には、現場に精通した医師等から成る「救急医療対策協議会」で「救急医療の東京ルール」を策定いたしました。都内24箇所に地域の病院間の連携や患者搬送の調整を行う「東京都地域救急センター(仮称)」を整備するほか、消防庁の指令室に地域間の病院搬送を集中的に調整するコーディネーターを配置いたします。また、いわゆる「コンビニ受診」に代表される救急医療の安易な利用を減らす啓発活動も行い、貴重な医療資源をより有効に活用してまいります。

〈新型インフルエンザ対策〉

 いつ発生してもおかしくない新型インフルエンザは、一度発生すれば爆発的に世界中へ広がることは必至でありまして、これに備えて、都は独自に抗インフルエンザウイルス薬の備蓄等に取り組んでおります。また、感染拡大を防ぎ、被害を最小限に抑えるには、都民一人ひとりが正しい知識や予防方法を身に付けることも求められます。そのため、リーフレットや車内広告など様々な方法により、必要な知識を普及し、都民・国民の意識を高めてまいります。

 いざ発生した際に社会機能を維持するためには、十分な危機管理体制と社会的規制策を整えておかなければなりません。そこで、学校の休校や交通機関の運行自粛等について、遅れている法令整備を急ぐよう国に強く求めるとともに、都独自の対応策についても検討しております。また、都政の事業継続計画であるBCP(Business Continuity Plan)を全国に先駆けて策定し、区市町村にもBCP策定のガイドラインを示し、事業者の策定も支援するなど、社会全体で様々な手立てを講じてまいります。

〈地域で支える超高齢社会〉

 世界に類を見ない速さで超高齢社会を迎える東京では、6年後の平成27年に要介護認定者数が50万人を超えると見込まれております。また一人暮らしの高齢者も増加していることから、在宅サービスを担う企業やNPOなどが集積する東京の強みを活かして、地域で介護、医療、見守りなどを提供するネットワークを構築しなければなりません。

 認知症高齢者グループホームの定員を平成23年度までに6千2百人に増加させ、地域包括支援センターの機能強化も引き続き進めてまいります。来年度は、夜間緊急時の電話対応や地域住民による訪問活動を新たに開始して見守り機能を強化し、高齢者の不安を解消いたします。

 また、高齢者が住み慣れた地域で不安無く暮らし続けるために、介護と医療のより密接な連携が必要であります。このため、診療所や訪問介護事業所等を併設した高齢者専用賃貸住宅の整備に着手するほか、病院と在宅医療との橋渡しが円滑に行われる仕組みも作ってまいります。

〈安心して産み育てるために〉

 これまでも、子育ての不安を解消し、その喜びや魅力を感じられる社会を実現するため、保護者の多様なニーズに応えるべく施策を充実させてまいりました。特に、大都市の実情に合わせて、国の基準を緩和して創設した都独自の認証保育所制度は、約400施設が既に設置され、定員1万3千人を超えるまでにもなりました。都民の子育てに欠かせないサービスに成長しております。従来、大都市のニーズに応じて、利便性が高い駅前での設置を進めてまいりましたが、今後は、大規模マンションの建設により子育て世帯が増加している地域など、より広い範囲でのニーズに応じた設置を促進いたします。また、待機児童の多い0歳から2歳を中心に定員を拡充し、病児・病後児の保育も充実するなど、よりきめ細かい対策に取り組んでまいります。

 中学3年生までの医療費助成については、本年10月から助成内容の拡大を図り、安心して産み育てることができる環境をより一層充実させてまいります。

〈建物耐震化の推進〉

 医療や福祉と並んで建物の耐震化にも取り組み、いつか必ず来るであろう大地震への備えも固め、安心と安全を確保していかなければなりません。

 子供たちを守り、近隣住民の避難場所確保にも繋がる公立小中学校の耐震化は喫緊の課題でありまして、計画を前倒しして平成24年度までに完了し、中でも、倒壊の危険性が高い校舎については、22年度までに完了するよう区市町村を支援いたします。また、災害時の避難路・輸送路となる緊急輸送道路沿道の建物について、耐震診断・改修に対する補助や新しく創設する低利融資制度などにより耐震化を促進してまいります。

 耐震化は、行政の取組みもさることながら、何よりも都民の自発的な行動が必要であります。「耐震化推進都民会議」を中心に、耐震化への気運を高めるとともに、都民が安心して専門家に相談できる総合相談窓口を新設し、加えて、旧耐震基準のマンションには専門家の派遣を開始するなど都民を多角的にサポートしてまいります。

(環境の世紀のトップランナー)

 東京都は、人類の存亡に関わる課題として地球環境問題に取り組み、低炭素型都市の実現を目指して、国に先駆けた先進的な政策を進めてまいりました。

 経済危機が世界中を襲う中、これまで国際的な温暖化対策にブレーキを掛けてきた米国が、遅きに失したとはいえ、環境を梃子にした経済政策に動き出しております。経済と環境をトレードオフの関係で捉えてきた文明観の転換にも繋がる重要な変化でありまして、地球環境問題への対応如何が社会の発展を左右する時代がようやく到来したと思っております。このため、東京は環境の世紀のトップランナーを目指して、日本を次なる発展の軌道に乗せるべく、新しい市場の形成を後押ししてまいります。

 本年は次世代自動車の本格的な市場投入が始まります。事業者と連携しながら、営業車としてはもちろん、レンタカーやカーシェアリング等での活用を進め、5年程度で1万5千台の普及を目指すことと合わせ、都独自に自動車税・自動車取得税を免除し、普及に弾みをつけてまいります。また、太陽エネルギー利用機器の普及に向け家庭の背中を押す新たな助成制度も、いよいよ本年4月からスタートいたします。

 もとより、CO2を削減する取組みの効果は目に見えにくいことから、人々の意識は十分に高まっているとはまだ言えません。

 そこで、臨海地域を舞台に、先進的な環境技術を活用した取組みを集中展開することで、CO2排出削減の効果を都民がわかりやすく実感できる、エネルギー利用や交通などのモデルを作ってまいります。民間事業者と連携して太陽光発電設備を集中設置し、船舶のアイドリング・ストップを日の出ふ頭で実施するほか、電気自動車のための急速充電スタンドの設置や、環境にやさしいレンタサイクルの実証実験なども行います。具体的なモデルを東京から示して、都民・国民の興味・関心を刺激して、低炭素型都市への流れを加速させていきたいと思います。

 温暖化の影響を軽減するためには、CO2排出量を削減していくことが何より重要ですが、地球環境の異変がもたらす自然災害や水不足、食糧不足に関する適応策にも取り組まなくてはなりません。昨年10月のC40東京会議で合意した適応策に関する共同行動について、東京都が率先して取組みを進めてまいります。また、本年には、気候変動が東京に及ぼす影響や課題について本格的な調査・分析に着手いたします。

 昨年11月のアジア大都市ネットワーク21総会で議題となった局地的集中豪雨の対策も着実に進めてまいります。洪水予報システムを整備し、インターネット等を通じて住民に警戒情報を提供するほか、大規模な地下街周辺における下水道施設の能力を引き続き増強するとともに、白子川では地下調節池の整備を進めてまいります。

(東京の都市機能の向上)

 経済危機にある日本の活路を開き、次なる発展へと導くには、日本の頭脳部・心臓部である東京のインフラへの投資も力を尽くさなければなりません。日本の牽引役としての役割を十二分に果たしていくことができるように、都市の機能を大幅に向上させる必要があります。

〈空のアクセスの充実強化〉

 現在、羽田空港では新滑走路の建設が着々と進んでおります。都は、これに無利子貸付を行っておりますが、近年、物価高騰により資材価格が上昇したことから、国は貸付の増額を求めてまいりました。

 羽田空港は、我が国の将来を左右する重要なインフラでありまして、新滑走路の供用開始が遅れることがあってはなりません。仮に遅れるならば、東京のみならず、日本全体に非常に大きな損失をもたらすため、国の要請に応じることにいたしました。これにより、来年10月の供用開始を確実に実現するとともに、昼間の国際線をさらに増加し、就航都市も一層拡大することを国に強く求めてまいります。

 横田基地の軍民共用化も、空のアクセス充実に不可欠であります。首都東京に我が国最大級の滑走路がありながら、それがほとんど使われないまま60年以上も他国が独占使用しているのはまさに理不尽であります。

 米国に対して強く要求し、ようやく昨年、空域の一部返還を実現いたしました。首都圏上空の飛行ルートが大幅に改善され、燃料削減などの経済効果は年間98億円にも上ります。さらに、共用化が実現すれば、増大する航空需要への対応が可能となるばかりか、米国の新政権が重視する日米の同盟関係の強化にも大きく寄与するものであります。日米双方のメリットを掲げながら、米国の新政権に対して共用化を強力に働きかけてまいります。

〈京浜三港の一体化を推進〉

 空の玄関口とともに重要なのが港でありまして、大消費地である首都圏の物流を支えるインフラとしての機能を強化し国際間競争を勝ち抜かなければなりません。昨年、川崎港・横浜港と結んだ基本合意を土台に将来的には東京湾に係るポートオーソリティーを設立するなど、京浜三港を一体化してまいりたいと思います。4月からコンテナ船入港料の一元化を開始するほか、京浜三港の共同ビジョンを来年度中に策定してまいります。

〈交通渋滞の解消〉

 東京の致命的な弱点であります交通渋滞が引き起こす非効率は、東京と日本の発展の大きな障壁であります。そこで、都内を走る車がお盆や正月並みにスムーズに走行できることを目指しまして、道路整備を着実に進めております。平成19年12月に中央環状新宿線の新宿・池袋間が開通したことによりまして、首都高のピーク時の渋滞の長さが約2割減少いたしました。また昨年12月、中央環状品川線では、平成25年度の全線開通に向けてシールドトンネルの掘削が開始され、今年に入っても、首都高速晴海線の東雲ジャンクションから豊洲までの区間が開通し、都心と臨海部のアクセスが向上しております。

 外環道については、沿道地域において、都市計画変更後も80回を超える住民との話し合いを重ねておりまして、機は熟しております。後は、高速道路建設の意思決定を行う国土開発幹線自動車道建設会議を開催し、事業着手に踏み出すばかりであります。先週、私自ら国土交通大臣を訪ねて、この会議を一日も早く国が開催するよう強く求めてまいりました。速やかな決断を、今こそ、すべきであると思います。

 また、道路財源についても、新たに創設される「地域活力基盤創造交付金」が東京に確実に配分されるよう、国に強く求めてまいります。

 今後も、日本を牽引する東京の力をより引き出し、東京を一段と効率的で快適な都市とするため、三環状道路をはじめ、道路ネットワークの充実強化を促進してまいります。

(さらなる成熟を遂げた都市を目指して)

 日本の牽引役であります東京は、経済危機を乗り切りこの国を再生へと導くだけではなく、より高いレベルの成長を遂げた美しく住み心地の良い都市へと変貌し、21世紀の都市モデルとならなければなりません。それには、都市としての魅力により磨きをかけていくことも重要であります。

〈緑の倍増に向けて〉

 都市の成熟のためには、豊かな緑を欠かすことができません。東京を緑溢れる都市に再生するため、本定例会に提案した「自然保護条例」等の改正による緑化計画書制度と開発許可制度の強化に加え、多彩な取組みによって、新しい緑の創出と今ある緑の保全を推進してまいります。

 都民に身近な街路樹については、目で見て楽しむことができるように樹木の種類や美しい樹形など質を重視して整備を進めておりまして、東京マラソンのコースなどで、都民の皆様から託されたマイ・ツリー約1千本を植栽しております。また、道路や河川などを緑の軸とし、その整備を契機とした周辺まちづくりにおいて、緑溢れるオープンスペースや良好な景観などを創出し、広がりと厚みのある緑を形成してまいります。

 新たな緑の創出と合わせ、屋敷林や農地など既存の緑も守らなくてはなりません。守るべき緑を明確化し、戦略的に保全するため、区市町村と合同で来年3月末を目途に「緑確保の総合的な方針」をとりまとめてまいります。

〈東京の魅力発信〉

 豊穣な歴史や独自の文化もまた、都市の魅力を高め、さらなる成熟に寄与いたします。東京は、浮世絵や歌舞伎などの伝統文化を育み、かつアニメなどのポップカルチャーといった、世界の他都市にない特色ある文化を生み出してきました。都では、こうした文化基盤の厚さを活かして、伝統文化を身近に体験する東京大茶会や、東京発の国際的舞台芸術の祭典である「フェスティバル/トーキョー」、映像文化の最先端を紹介する「恵比寿映像祭」など、様々な分野で芸術文化イベントを実施しております「東京文化発信プロジェクト」を展開いたしております。

 今後とも、プロジェクトを発展させ、東京はさらに高いレベルの成熟した文化都市を目指して、国内外に向けた文化芸術の創造発信を行ってまいります。

 東京には「顔」となる様々な文化施設も豊富に存在します。上野恩賜公園には、ホールや複数の美術館・博物館があり、まさに文化の一大集積地であります。こうした資源を活かして、文化と歴史を体感できる、さらなる魅力に溢れた「文化の森」として再生していきたいと思います。今年度末までには、「再生基本計画」を策定し、来年度からは、魅力的で多様な文化イベントを開催できる広場の整備に取り組んでまいります。老朽化の著しい東京都美術館についても、文化の創造・発信拠点としての機能向上を図るため、3年後の全面リニューアルオープンを目指して改修を進めてまいります。

(次代を担う若者を鍛える)

 東京と日本の未来を拓くには、次代を担う優秀な人材を育てなければなりません。そのためには、子供たちの知力・体力・忍耐力をバランス良く鍛えなければなりません。

 ゆとり教育の弊害による学力低下が懸念される中、昨年策定した「児童・生徒の学習のつまずきを防ぐ指導基準(東京ミニマム)」の実践研究の推進校を指定し、この指導基準を活用して、基礎・基本を定着させ応用力も伸長させる具体的な授業改善に取り組んでまいります。

 また、体力は、学力と並んであらゆる活動の源でありまして、意欲や気力といった精神面の充実にも深く関わっております。子供たちにとって、スポーツを通じて、体を鍛えることはもちろん、挫折や達成感など様々な経験を積むことは人生の跳躍台となるに違いありません。

 先般公表された子供たちの体力に関する全国調査では、東京の子供たちの体力低下が著しいことが明らかになりました。誠に残念であります。そこで、来年度、その原因を分析して指導のための目標や計画を作成するほか、スポーツ教育推進校を2百校に拡大して、子供たちの体力を向上させてまいります。また、中学生が自らの努力と仲間とのチームワークによって襷を繋げる「東京駅伝」を開催いたします。さらに、顧問教員の不足から休廃止するおそれのある中学校の部活動に外部指導員を招聘して、子供たちが健康な肉体と健全な精神を涵養する機会を充実させてまいります。

(多摩・島しょのさらなる発展)

 次に多摩・島しょ地域についてであります。

 多摩・島しょ地域においても医師不足は深刻化しております。多摩・島しょの公立病院等に、都が採用した「東京都地域医療支援ドクター」を来年度から順次派遣いたします。また、島しょ等での医療従事者を求める医療機関と就職を希望する医療従事者との効果的なマッチングを目指して、今月から、職業安定法に基づく職業紹介に都が自ら乗り出してまいります。

 多摩地域は、電子・電気機器や精密機器などの優れた開発力や事業化能力を持つ企業や最先端の研究を行う大学、研究機関の集積地でありまして、東京のみならず日本を支える一大産業拠点であります。多摩地域の中小零細企業の経営力強化や技術力の高度化を図るために、来年度、昭島市に多摩産業支援拠点を開設いたします。

 多摩地域の産業力を一層強化して、人と物の円滑な流れを支えるためには、動脈となる道路の整備が必要不可欠であることから、圏央道や多摩を南北に結ぶ幹線道路の整備などに取り組んでまいりました。来月末には、調布保谷線の中央自動車道から東八道路付近までの区間が利用可能となります。都と市が連携、協力しての都道の整備を進める「新みちづくり・まちづくりパートナー事業」も来年度から7年間に渡り行ってまいります。

 これらの施策を含め、この度、多摩の総合的な振興策となる「多摩振興プロジェクト」を策定いたしました。今後とも、多摩のさらなる発展に向けて取り組んでまいります。

3 平成21年度当初予算案等について

 東京から混迷に活路を見出し、その先に21世紀の都市モデルを造り上げていくために、都政は、その底力を問われております。

(平成21年度当初予算案)

 経済危機は都財政にも深刻な影響を与えておりまして、来年度は7千5百億円という過去最大の税収減が見込まれます。これに対して、都政は萎縮するのではなく、今なすべきことを確実に果たすことによって、都民に安心をもたらし、希望を指し示さなければなりません。

 そこで、都民の不安を取り除くために迅速に対応し、危機克服への新たな活力を生み出し、そして東京の将来を創るための中長期的な取組みなどを確実に進めるべく、平成21年度当初予算案を編成いたしました。その中では、「10年後の東京への実行プログラム2009」のための経費5千9百7億円を全額計上し、投資的経費も6.2%伸ばしております。

 今回、巨額の税収減に見舞われながらも積極的な予算が編成できたのは、この10年間、職員定数を約2万人削減し監理団体をほぼ半減させるなど、内部努力とともに施策の見直しも行うなど弛まぬ努力を積み重ね、基金も蓄えて、都財政の体力を回復してきたからに他なりません。無定見に借金を重ねる国との差は明らかでありまして、過去10年間で国債残高は75%増えているのに対して、都債の残高は25%減少しております。

 もとより、この経済危機がどこまで深く、どこまで長いかは全く予断を許しません。今後も継続的に都民サービスを提供していくためには、これまでの蓄えに安易に頼るのではなく、新しい公会計制度も活用しまして施策をより効率的・効果的なものに練り上げるなど、引き続き行財政運営のレベルアップを図ってまいります。

(法人事業税・暫定措置の撤廃を要求)

 都の戦略的な行財政運営と対照的に、昨年度、国は、地方交付税を削減し地方を困窮させた自らの責任を棚上げにして都市と地方の対立を煽り、地方を助けると称して法人事業税を一部国税化して都から3千億円もの財源を奪いました。

 到底納得できるものではありませんでしたが、地方には国の税制改正を阻止する術がないことから、あくまで暫定措置に止めさせ、代わりに日本の発展に繋がる首都東京の重要政策への協力を取り付けました。これを受けて、実務者協議会を設け精力的に交渉を重ね、羽田空港のさらなる国際化、東京港トンネルの平成21年度着工、認証保育所で実施する休日・夜間保育事業への国庫補助導入など、首都東京と日本の可能性をより一層広げる合意を国から引き出しました。

 ところが、今般の経済危機に伴って大幅な税収減による地方の困窮が一層深まる中、国は、地方交付税の総額自体が不足している現実を認め、来年度予算において、赤字国債の発行等により1兆円を復元せざるを得なくなりました。都市の財源を奪うというですね、小手先の手法では何ら問題の解決にはならず、地方の財源不足は国の責任で解消すべき課題であることが改めて明らかとなったのであります。

 問題の解決に繋がらないばかりか、税の原則にもとり、地方分権にも逆行する法人事業税の一部国税化を、国は直ちに撤廃するように求めてまいります。

(豊洲新市場)

 次に築地市場の豊洲移転について申し上げます。

 豊洲新市場の予定地の土壌汚染対策については、生鮮食品を取り扱う市場用地として、食の安全・安心を高いレベルで確保するために、今月6日、技術会議の提言に基づき、世界に誇る日本の先端技術を複合的に活用した土壌汚染対策をとりまとめました。この対策による土壌汚染対策費用は、一般的な技術・工法に比べて大幅に経費が縮減され、総額で約586億円と試算されております。

 今後、都民・国民や市場関係者が安心できる十全な対策を着実に講じながら、平成26年12月の開場に向け、豊洲新市場を、時代のニーズに応え、将来に向かって発展する新しい基幹市場として整備してまいります。

(新銀行東京の再建)

 次に、新銀行東京について申し上げます。

 新銀行東京は、金融庁検査を踏まえ、更なる経営改善を進めております。第3四半期決算では、中小企業向け融資が着実に増加しており、純資産は再建計画を上回る内容となっております。都としては、今後も新銀行東京が、再建計画を着実に達成できるよう、引き続き経営の監視と支援を行ってまいります。

 昨日、新銀行東京の経営悪化に係る法的責任を究明するため、新銀行東京が外部の弁護士に依頼して進めてきた調査の結果とその後の対応について公表されました。これにより、旧経営陣時代における経営上の様々な問題と誤った判断による損失の拡大が、具体かつ詳細に明らかにされております。今後の司法の場における解明を見守ってまいります。

4 オリンピック招致に向けてラストスパート

 いよいよ、本年10月にコペンハーゲンで開かれるIOC総会で、2016年オリンピック・パラリンピックの開催都市が決定いたします。国の財政保証を得たほか、今月12日には立候補ファイルをIOCに提出するなど、準備は着実に進んでおります。残り225日、渾身の力を振るってゴールを目指し、夢と感動をもたらすオリンピック・パラリンピック開催を日本に持ち帰りたいと思っております。

〈日本だからできる〉

 オリンピックは、人間が作り出す劇の中で最も美しい劇であります。その感動がもたらすものは、比類なきものであり、国家や民族の垣根を超えて、努力を通じた自己変革、公正さ、他者を尊重すること、夢を追求することの素晴らしさを広く浸透させて、人々を結ぶのであります。

 日本は、戦後60年以上にわたり、一貫して平和を堅持し、数多くの分野で人類の成長と繁栄を支えてまいりました。その日本で再び東京大会を開催することにより、民族・国家間の協調を培い、世界を一つに結んでいきたいと思います。

 また、今、触れたように、東京は、環境問題への先進的な取組みを積み重ねてまいりました。こうした東京こそが、スポーツによって世界の心が一つとなり、人類が直面する課題を共有できるオリンピックを通じて、地球の健康を取り戻す具体的な道筋を全世界に示し、変化の潮流を創り出し得るのであります。

 世界中の注目を集める大会の舞台を整えるために、きれいな空気と豊かな水、そして、爽やかな風を運ぶ緑に溢れた「水と緑の回廊」を造り上げてまいります。最先端技術を駆使したカーボンマイナス・オリンピックを実現した低炭素型都市・東京は、21世紀の都市モデルとして、後の世代に大きな遺産となるに違いありません。

〈試練の克服に向けて〉

 一方、今日の日本において、経済危機や国政の混乱のみならず、暗く凄惨な事件の続発など日本人の価値観の紊乱にまで至る根の深い試練に直面しております。こうした試練に立ち向かうには、国民全体が共有できる夢と希望に満ちた目標が必要です。オリンピック開催は、21世紀の坂の上の雲となり、その試練を克服する縁となるのであります。

 先月発表された世論調査では、全国で7割を超える方々が東京開催を支持しております。10代の若者たちの支持率が一番高く、日本の将来を担う彼等こそオリンピックを熱望しているのであります。是非とも彼等にオリンピックを自らの目と耳と肌で体験させ、若者たちにとって人生の大きな糧となり、この国を背負っていくための礎ともなる心の財産を贈ってあげたいと思います。それは、日本の新しい歴史を造形することにも繋がり、また、我々大人たちが果たすべき次の世代への責任の履行でもあります。

 こうした想いで、日本だからこそできる新しいオリンピック・パラリンピックの開催を実現していきたいと思います。今般提出した立候補ファイルにも記したように、東京大会の開催を通じて、全世界が直面している難題を克服し、新しい連帯を生んでいく決意であります。

 どうぞ、都議会の皆様、都民・国民の皆様のお力添えを心よりお願いいたします。

 なお、本定例会には、これまで申し上げたものを含め、予算案32件、条例案57件など、合わせて107件の議案を提案しております。よろしくご審議をお願いいたします。

 以上をもちまして、施政方針表明を終わります。