石原知事施政方針

平成21年6月1日更新

平成21年第二回都議会定例会知事所信表明

平成21年6月1日

 平成21年第二回都議会定例会の開会に当たりまして、都政運営に関する所信の一端を申し述べ、都議会の皆様と都民の皆様のご理解、ご協力を得たいと思います。

 ただいま、多年にわたり都政に貢献された4名の議員の皆さんが表彰をお受けになりました。都政の発展に尽くされた功績に対して、深く敬意を表し、心からお喜びを申し上げます。

1 新型インフルエンザへの迅速な対処

(メキシコ発新型インフルエンザの感染拡大)

 さて、世界は文明の発展に伴い時間的・空間的に狭小となっており、メキシコで発生した新型インフルエンザも瞬く間に地球規模で流行し、日本でも多くの方々が罹患されました。

 人・モノ・情報の結節点である日本の首都東京において、新しい感染症に十全に対処することは、都民・国民の生命と健康を守るだけでなく、この国の頭脳部・心臓部を守ることであります。

 都では、発生後直ちに、発熱相談センターを立ち上げ都民からの相談に24時間体制で応じるとともに、都内の全保健所や感染症指定医療機関等に抗インフルエンザウイルス薬や防護服を配備いたしました。一般の患者との接触を防ぎながら感染者を診察する発熱外来も、都内67か所に設置したほか、都内の医療機関や学校などにも都独自のウイルス監視の網をかけ、感染者発生の早期把握に努め、感染の拡大防止に取り組んでおります。

 これまでも東京は、発生が時間の問題とされている強毒型鳥インフルエンザを想定して、「東京都新型インフルエンザ対策行動計画」を設定しており、国に先駆けて抗インフルエンザウイルス薬を400万人分備蓄するなど、重層的な手立てを積極的に講じてまいりました。こうした備えがあったからこそ、迅速で着実な対応ができたのであります。

(都民・国民の生命と健康を守る)

 今日のウイルスの毒性は通常のインフルエンザ並であり、備蓄済みの抗インフルエンザウイルス薬も有効であります。こうした特性を踏まえ、都民・国民の安全と都市機能の維持とのバランスに腐心しながら、柔軟に対処しております。

 一方で、感染の過程でウイルスの毒性が強まることも懸念されることから、医療体制の充実強化を急がなければなりません。都は、新たに「感染症緊急対応病床」を東京都保健医療公社が運営する豊島病院と荏原病院に速やかに整備をいたします。医療機関との連携もさらに強化しながら、都民・国民の生命と健康を守るため、東京の持てる力を結集して、対策に万全を期してまいります。

 都民の皆様には、正確なわかりやすい情報を迅速に提供いたします。引き続き冷静な行動をお願いいたします。

2 大都市の連帯が地球の未来を切り拓く

(マイナスの相乗効果)

 地球温暖化もまた、人類が直面する危機であります。現代文明が繁栄を謳歌する一方で、地球環境の異変は深刻の度を増しております。世界各地で頻発する海面上昇や激しい干ばつは人々から生きる場所も術も奪い、そうした人々が置かれた劣悪な衛生状態や医療の不足は新しい感染症の温床ともなりかねません。

 感染症が発生し世界に拡散すれば、人とモノのグローバルな流れは寸断され、未曾有の経済危機からの脱却は頓挫いたします。地球温暖化を逆手にとっての経済発展を目指す気運も急速に萎むに違いありません。

 地球温暖化は、新しい感染症の流行や経済危機にマイナスの相乗効果をもたらしながら、致命的な事態へと人類を追い込むのであります。

(大都市が国家を突き動かす)

 先般、韓国のソウルで開催されました「世界大都市気候先導グループ(C40)」の総会に出席し、全ての国を国際的枠組みに参加させるべく、COP15に向けて大都市が各国政府に求めていくことを呼びかけてまいりました。また、排出量取引市場の国際的な連携を目指す「国際炭素行動パートナーシップ(ICAP)」へ、このたび都市として東京が世界で初めて加盟いたしました。その活動を通じて、東京の先進的な施策を強く発信してまいります。

 CO2の劇的な削減には、火力発電所や大規模な工場だけではなく、資源・エネルギーを多量に消費している都市のあり様の変革が不可欠なのであります。都は、既にオフィスビルなどを含めた大都市ならではのCO2排出総量の削減義務化を導入し、太陽エネルギー利用機器や次世代自動車の普及にも率先して取り組んでおります。ここで得た経験やノウハウを、この秋に、実務者を集めて開催する「都市型キャップアンドトレード東京ワークショップ(仮称)」を通じて惜しみなく世界に提供してまいります。C40とICAPの両方に唯一加盟する東京からCO2削減の新しいフォーマットを提起し、変革の輪を世界に広げてまいります。

3 現下の危機を突破し、21世紀の都市モデルを造形する

 新型インフルエンザや地球温暖化に止まらず、様々な危機に対して東京から警鐘を鳴らしてまいりました。そして、危機の本質を冷静に捉え、巨きな視点に立ちながら戦略的に、迅速に行動してまいりました。

 行動を通じて実現を目指しているもの、それは、東京と日本の再生であり、21世紀の主役である「都市」のモデルを完成し、未来を切り拓くことなのであります。

 そのためにも、現下の経済危機を打開し、都民・国民の不安を解消しながら、東京と日本の新しい発展やさらなる成熟へと導く布石を着実に打たなければなりません。将来を見据えた東京ならではの施策を、引き続き渾身の力で展開してまいります。また、先般、国が打ち出した「経済危機対策」は、多くの部分を地方に委ねていることから、都は、対策の効果を最大にし、日本のダイナモとしての役割を十全に果たすべく、補正予算案を編成し本定例会に提案いたしました。

 都民・国民に未来への希望を取り戻し、21世紀の都市モデルの造形を揺るぎなく進めてまいります。

(緊急経済・雇用対策)

 これまでも日本経済の力の源泉である小零細企業のために、様々な支援策を切れ目無く講じてまいりました。しかし、直近四半期のGDPが戦後最悪の落ち込みとなるなど、小零細企業の苦境は続いております。

 そこで、経営支援融資の枠を大幅に拡大するなど、資金繰りに万全を期してまいります。売上げの減少に見舞われた小零細企業の販路開拓も支援するなど、多角的に対策を講じてまいります。

 雇用情勢も、有効求人倍率や失業率に急激な悪化が見られ、雇用調整は非正規雇用から正規雇用にまで及んでおります。

 早期の再就職のために、求人と求職のマッチングをよりきめ細かく実施いたしてまいります。職業訓練も、人材の需要が大きい介護やIT分野を中心に対象者数を7倍に拡大し、意欲のある方々の再挑戦を支えてまいります。

(安心と安全の確保)

 経済危機は都民・国民の不安を高めております。こうした時こそ、安心と安全の確保に全力を尽くさなければなりません。

〈子供を安心して産み育てるために〉

 子供を安心して産み育てることができる環境づくりは、この国の未来をも左右する、焦眉の課題であります。

 産科・小児科医師の絶対数が不足する中でも、都は医師会や医療機関と連携して現場に根ざした工夫を凝らし、周産期連携病院を8か所指定したほか、スーパー総合周産期センターを3か所スタートさせております。庁内プロジェクトチームも、先頃、国に対して周産期医療が必然的に赤字となる実態を抜本的に解消するように要求いたしました。

 さらに、小児医療体制を拡充するため、新しく休日・夜間の診療を開始する医療機関に対して都独自の助成をスタートいたします。小児科医師を医療機関に派遣する大学への支援も国に先行して実施し、医師のさらなる確保を図ってまいります。

 これまで大都市の実情に即した認証保育所制度を創設して子育てに欠かせないサービスに育て上げるなど、都民の保育ニーズに積極的に応えてまいりました。国も都の施策を遅まきながら認めて、認証保育所の開設準備経費などに対する国の財政負担が実現したのであります。

 昨今の経済情勢の悪化もあって、保育ニーズは益々高まっております。そこで、今年度の保育所等の整備目標数を5千3百人分から8千人分に引き上げ、保育サービスを一層拡充させてまいります。

〈未届け老人ホーム対策〉

 3月、群馬県の未届け有料老人ホームで火災が発生し、都内から入居していた利用者も被害に遭われる極めて残念な事態となりました。

 現在、都内の類似施設を生活保護受給者約300人が、やむなく利用しております。これまでも法に定められた届出を求め、都が独自に定めた運営ガイドラインの遵守を指導してまいりました。今回の事態を受け、スプリンクラー等の整備を支援しながら届出を強く促し、施設への指導も一層強化して利用者の安心と安全を確保してまいります。

 また、都外の類似施設も、都内の生活保護受給者約500人が利用していることから、区市が施設の所在する自治体と連携して、利用者の生活状況の把握や改善等に取り組むことを支援してまいります。

〈全ての橋梁の安全確保〉

 現在、都が管理する橋の多くは高度経済成長期に建設され、早晩、一斉に耐用年数に達し、架け替えが一時的に集中しかねません。

 そこで、30年先をも見通した「橋梁の管理に関する中長期計画」を策定いたしました。都は、橋梁の定期点検を通じて継続的に蓄積してきた膨大なデータを活かし、独自の新しい管理手法を編み出しております。これを用いて全ての橋の安全を確保しながら、長寿命化と架け替え時期の平準化を図り、経費も大幅に圧縮してまいります。

 今後は、トンネルなどにも同様の手法を拡大してまいります。安心・安全を確保しながら既存のインフラを最大限活用した、環境負荷の少ない都市づくりのモデルを示し、国と全国自治体をリードしてまいります。

(都市機能のさらなる向上)

 東京が快適で利便性の高い都市へと変貌を遂げ、日本のダイナモであり続けるためには、戦略的に都市基盤を整備しなければなりません。

 とりわけ、外環道は東京から全国に伸びる高速道路を繋ぐハブの役割を担うものでありまして、整備後には、関越道から東名高速までの所要時間が現在の5分の1の約12分にまで短縮されるなど、大きな効果があります。これまで国に強く働きかけ、実務者協議会の場でも精力的に交渉を重ねた結果、4月下旬にようやく国の国土開発幹線自動車道建設会議が開催され、整備計画が策定されました。これにより、ようやく着工に目処がつき、今回初めて予算を計上するに至ったのであります。今後は、現場を熟知する強みを活かし、国の用地取得業務を都が積極的に引き受けるなど、国と連携して円滑に事業を進め、早期完成を目指してまいります。

 合わせて予算計上した区部環状線や多摩南北道路の整備、京急線京急蒲田駅や京王線調布駅付近での連続立体交差事業などとともに、道路ネットワークの充実を加速し、都市機能を向上させてまいります。

 東京や首都圏の持つ豊かな潜在力を開花させ、日本の国際競争力の強化にも直結する羽田空港の再拡張・国際化も、国との交渉によりまして前進しております。

 羽田からの昼間の国際便の就航距離を限定する不合理な国の方針も、都の主張によって撤回されることになりました。再拡張を待つことなく、本年10月に北京へ就航することが決まりました。また、国の経済危機対策にC滑走路の延伸も盛り込まれ、羽田と欧米を結ぶ大型機の就航に弾みがつきました。

 今後も昼間の国際線の増加や就航都市の拡充、滑走路の着実な整備を国に強く求め、羽田空港の再拡張・国際化を推進してまいります。

 今日の急速なIT化の進展により、良好な情報通信環境は欠かせない社会資本ともなっております。都内で唯一、情報通信手段が通信衛星に限られている小笠原諸島に海底光ファイバーを敷設し、高速インターネットや地上デジタル放送にも対応できるような環境を整備してまいります。

 こうした社会資本の整備とともに、「10年後の東京」計画で描いた都市像を具体化する取組みも着々と進めております。7月を目途に「東京の新しい都市づくりビジョン」を改定いたします。低炭素型で、水と緑のネットワークで形成された美しい景観を有する東京へと変革する、多面的な都市づくりを全庁を挙げて推進してまいります。

(次世代の育成)

 東京と日本の未来を切り拓いていくためには、次の世代の力を伸ばし可能性を引き出していかなければなりません。

〈子供の体力向上〉

 現在の子供は、親の世代と比べて体格は上回っているものの、体力が大きく低下しております。しかも、東京の子供は全国体力調査の平均を著しく下回っておりまして、極めて憂慮すべき状態にあります。これは、日本の将来の担い手の活力や健康状態の低下をも意味しております。

 今後10年間で、子供たちの体力が最も過去に高かった昭和50年代の水準まで回復することを目標にして、取組みを新たにスタートいたします。「子供の体力向上推進本部」を設置し、綿密な実態調査を行い、現場に根ざした発想や専門家の英知を活かして、次の世代を鍛えてまいります。

〈アジアユースパラゲームズの開催〉

 子供の体力向上と合わせて、障害のある若者たちのために、本年9月、「東京2009アジアユースパラゲームズ」を日本で初めて開催いたします。30の国と地域から約1千人が参加し、陸上や車いすテニスなど6つのパラリンピック正式競技で力と技を競い合います。

 参加する一人ひとりの若者が大きな喜びと将来への糧を得るだけでなく、都民・国民にも言い尽くせぬ感動をもたらす舞台となるように準備し、大会を成功させてまいります。また、この大会を、障害者スポーツを日本とアジアでさらに普及させる起爆剤にして、2013年の東京国体と一体として開催する全国障害者スポーツ大会や、2016年のパラリンピックの成功にも繋げてまいります。

〈全国初の盲ろう者支援センター開設〉

 先月、視覚と聴覚に重複した障害のある盲ろう者の交流や学びの拠点として、全国で初めての「東京都盲ろう者支援センター」を開設いたしました。

 光からも音からも閉ざされた方々が他者との関わりを取り戻すことができるよう、指点字やパソコンを学ぶ機会を提供するほか、専門指導員の養成にも取り組んでまいります。また、社会への参加も後押しし、家族の相談にも応じるなど総合的な支援を行って、この国の福祉政策の新しいモデルを作り上げてまいります。

4 オリンピック・パラリンピックの招致

 次にオリンピック・パラリンピックの招致について申し上げます。

 4月にIOC評価委員会を迎え、「日本だから、できる。あたらしいオリンピック・パラリンピック」の開催理念や計画について説明し、確かな手応えを感じました。

 今月17日から18日までは、ローザンヌでのIOC委員に対する開催計画説明会に出席いたします。東京大会が、世界初のカーボンマイナスオリンピックを実現するほか、平和にも寄与し、スポーツを通じて友情と連帯を育んでいくことを、IOC委員に訴えてまいります。

 近代柔道の創設者である嘉納治五郎がアジアから初めてIOC委員に就任してから百年を経た本年の5月、氏の名前を冠した「嘉納治五郎記念国際スポーツ研究・交流センター」が、民間主導により設立されました。

 嘉納は、高等師範学校の校長などを務め、徳育・知育のほかに、体育にも重点を置いた教育に心血を注いだ日本の優れた先人であります。体育によって若者たちを健全に教育するという方法論を通じて、近代オリンピックの創設者・クーベルタン男爵と親交を持つに至り、1912年の第5回ストックホルム大会への日本初参加や、残念ながら幻に終わりましたが、1940年の東京大会の招致などに繋がったのであります。

 そして百年後の今、スポーツを通じた若者たちの教育に没頭した先人の精神を受け継ぎ、2016年の東京大会は、物質的な豊かさと引き替えに価値の基準が溶けた日本にあって、将来を担うべき子供たちが逞しく生きていくための礎となる心の財産を贈ってまいりたいと思います。

 また、環境や平和など人類が直面する困難な問題についても、日本が誇る最先端の環境技術や平和を希求する国民の心を活かして、五輪の聖火とともに人類の新しい未来を灯していきたいと思います。

 招致実現を勝ち取り21世紀の坂の上の雲を掴むために、都民・国民、都議会の皆様のご支援を賜りながら、最後の最後まで全力を尽くしてまいりたいと思います。

5 おわりに

 本定例会は、都議会の皆様にとりまして、現任期最後の定例会となります。皆様とは、真摯な議論を交わして、数多くの先進的な施策を生み出し、成果を挙げることができたと思っております。困難な時期にあって、都政の発展に力を尽くされたことに心より感謝を申し上げます。

 現任期を最後に勇退される方々には、これまでのご苦労に対し、都民を代表して改めて深く敬意と感謝の意を表します。また、改選を迎える皆様には、心よりのご健闘をお祈りいたします。

 なお、本定例会には、これまで申し上げたものを含め、予算案1件、条例案12件など、合わせて23件の議案を提案しております。よろしくご審議をお願いいたします。

 以上をもちまして、所信表明を終わります。