石原知事施政方針

平成22年2月24日更新

平成22年第一回都議会定例会知事施政方針表明

平成22年2月24日

 平成22年第一回都議会定例会の開会に当たりまして、都政の施政方針を申し述べ、都議会の皆様と都民の皆様のご理解、ご協力を得たいと思います。

 去る12月14日、名誉都民である山下八百子さんが逝去されました。ここに謹んで哀悼の意を表し、心よりご冥福をお祈りいたします。

1 東京から日本を変え、都民・国民の未来を切り拓く

(政治の怠慢)

 さて、多くの国民が希望に溢れた新時代となることを期待した21世紀は、早くも10年目を迎えました。しかし、かつての期待とは異なり、今、国民は大きな不安感に覆われております。

 これは、サブプライムローン問題に端を発した現下の不況ばかりが原因ではありません。根源的には、日本がどこに進むのかが定かでなく、将来への展望を見出すことができないからなのであります。

 この10年を顧みても、国政は、長期はおろか中期の戦略すら欠いて政策の優先順位を決めぬまま場当たりに終始してまいりました。また、我が国は、戦後の長きにわたっていたずらに物質的繁栄を謳歌してこれに慣れ、心の「たが」が緩んできております。社会の一員として、最低限の義務と責任にすら自覚が薄れた、行政への過剰な期待、モンスターペアレント・モンスターペイシェントに表象される甘えを通り越した横暴までが生まれてきました。しかし、リーダーシップを発揮し「たが」を締め直すべき政治は、消費税増税のような痛みを伴う事柄を避けて美辞麗句を並べ、本来は成り立ち得ない高福祉・低負担への幻想を振りまくばかりであります。

 これでは、社会工学上、最も大きな力を託されたはずの政治が、その責務を果たしているとは、到底、言えません。

(東京がこの国の羅針盤となる)

 もとより、日本は、これまで幾多の試練を乗り越えてきたように、本来、優れた力を持っております。今に限って停滞しているのは、持てる力を発揮できず不完全燃焼を続けているからに他なりません。

 国民の不安を真に払拭するのは、政治の甘い約束では決してありません。政治が目指すべき未来図と目標を提示し、それに向けて国民の力を引き出し大きく束ねることなのであります。

 この10年間、国政の担い手たちが国家の大計を立てぬまま漂流してきたのに対して、都政は時には苦い薬をも飲みながら、危機に迅速に対処してまいりました。東京という「現場」にある英知を結集しながら「10年後の東京」計画で示した未来図の実現を目指し、日本の新たな発展の縁ともなる現実性のある政策を戦略的に展開しております。

 今後も、覚悟を持って冷静に考え、確実に物事を実行するという、国政では失われてしまった心構えを保ちながら、東京を21世紀の範となる都市へと進化させてまいります。この国をあるべき航路へと引き戻す羅針盤ともなる気概で力を尽くし、都民・国民の希望を指し示してまいりたいと思います。

2 危機を突破する緊急対策

 都民・国民の未来への道筋を切り拓くためには、国難とも言うべき現下の危機に、正面から立ち向かわなければなりません。

(現下の不況への対処)

 我が国経済は、一部に景気持ち直しの動きが見られるものの、引き続くデフレや厳しい雇用情勢など、未だに行き先は不透明であります。

 東京でも、我が国経済の土台である小零細企業は苦況に置かれ、失業率も高止まりを続けております。現状を座視し、日本のダイナモである東京の経済を毀損させては、この国の再浮上はあり得ません。そこで、都市の活動に不可欠な道路の維持補修や施設改修などを景気への即効薬としても積極的に活用し、小零細企業を支え、雇用を創出してまいります。さらに、困難を乗り越えるための手立てを揺るぎなく講じて、活路を見出してまいります。

〈小零細企業支援〉

 一昨年以来、小零細企業に対して多岐にわたる支援策を重ねましたが、依然として厳しい経営環境が続いております。このため、来年度も制度融資を積極的に推進し、昨年10月に取り扱いを開始した都独自の新たな融資制度とも合わせて、資金繰りに万全を期してまいります。

 また、危機を乗り越えその先に新たな発展を掴むためにも、厳しい今こそ企業としての底力を養わなければなりません。都と中小企業振興公社や東京商工会議所などがスクラムを組んで、経営基盤の弱い小零細企業に対して経営改善から販路開拓までを切れ目無く支援いたします。

 販路開拓にあたり、世界に通用する技術・製品を持ちながらも、情報やノウハウの不足ゆえ、飛躍の絶好の機会が眠るアジア市場への挑戦を躊躇している企業も少なくありません。商社OBが駐在経験などを活かして「東京」でも「現地」でも助言を行い、商社の営業網なども活用することで、海外進出を一貫して後押ししてまいります。

〈就労支援〉

 厳しい雇用情勢の下、就労を目指す方々が一日も早く自らの能力を発揮できる場を得ることができるよう強力に支援しなければなりません。

 これまで都は、東京しごとセンターを開設し、情報提供、相談、仕事の紹介をきめ細かく行ってまいりました。また、生活に困窮している離職者のためには、区市町村とも連携して生活費の支給と一体となった職業訓練を実施し、訓練終了後には就職も斡旋しております。住居がない方々には住居費の貸付を行うなど、実情に即した総合的で一貫した対策を、一昨年から国に先駆けて講じてまいりました。

 来年度も、これまで重ねてきた数々の対策を十二分に機能させつつ、一段と充実させてまいります。雇用調整が及ぶ中高年の再就職を応援するほか、いわゆる就職氷河期世代が正社員になるための支援を拡充いたします。また、就職氷河期の再来とも言える状況に直面した若者が、社会の入り口で門戸を閉ざされないように、先週開催した学生向けの合同就職面接会を規模を拡大して実施いたします。

 さらに、現場を知る地方がその役割をより機動的に発揮できるよう、国には、無料職業紹介権限を地方に移し一本化することを求めます。

(少子化打破)

 少子化もまた、国家の行く末がかかった危機的な事態にあります。

 人口はまさに国力でありまして、その減少は経済のパイを縮小させ、社会保障制度の維持を困難にし、伝統や文化までも失わせます。国家の構造が根本的に揺らぐ人口減少社会に突入し、この国の政治には、局面を大きく転換させる決断が求められております。

 しかし、国が先般発表した「子ども・子育てビジョン」は、現金給付的な施策が新たに加わったものの、現物給付については既存施策を焼き直したに過ぎません。国の省庁の縦割りが随所に顔を出し、現場の創意と工夫を抑えてきた規制も緩和せずに、実行手順も財源確保の見通しも示されておりません。子ども手当に巨額の財源を投じても、出産・子育てを直接支える仕組みが不十分なままでは、子供を産み育てたいと望む家族に勇気を与えることはできません。

 ならば都は、東京の強みでもある、人材、企業、NPOなどの集積を十全に活かして、出産・子育てを確かに支える効果的な施策を展開したいと思います。緊急対策として、3年間で475億円を投入し、保育・医療はもとより働き方や住宅、これまで別個に展開されてきた施策を束ねて、社会全体で出産・子育てを支える態勢へと集中させる新たなモデルビルディングを行い、国に建言いたします。

〈保育サービスのさらなる拡充〉

 保育サービスは、子供を安心して産み育てる上で、重要な支えの一つです。都は、高い地価、国の一律の基準といった問題を、認証保育所の創設など独自の施策で乗り越え、過去5年間で1万7千人を超える定員を確保してきました。一方で、経済情勢の悪化などにより、依然、保育サービスの増設は保育ニーズに追いついておりません。

 認証保育所への補助拡充など現時点で可能な手法を総動員し、3年間で、過去5年を上回る2万2千人分のサービスを確保いたします。とりわけ国の制度の不備ゆえ絶対的に不足している、パートタイム労働者や求職者のための短時間保育は、都が独自に拡充いたします。

 また、学童クラブの多くが保育所よりも子供を預かる時間が短いため、小学校に進学すると保護者が働きにくくなる、「小1の壁」と呼ばれる問題も発生しております。従来の時間を延長し子供を預かる都型の学童クラブ制度を創設して、国の制度では充足できない切実なニーズをしっかりと汲み取ってまいります。

 こうした現場でできる施策を迅速に進めながら、国には時代と乖離した制度・規制を利用者の視点で改めることを強く要求してまいります。

〈周産期・小児医療体制を一段と強化〉

 周産期・小児医療は、産科・小児科医の不足という困難に直面しながらも、医師会や地域の医療機関と手を携え拡充してまいりました。今後も、365日・24時間の安心を目指し、さらに体制を強化いたします。

 周産期医療では、平成26年度末を目標に新生児集中治療管理室(NICU)を320床に増床します。小児救急医療でも、小児の特性を踏まえた専門的な治療ができる「子ども救命センター(仮称)」を4か所指定し、センターを拠点に地域の医療機関が相互に協力し合うネットワークを構築いたします。

 国には、こうした医療体制を支える医師の確保・育成を引き続き求めてまいります。

〈社会の隅々にまで支えの輪を広げる〉

 子育てを支えるサービスを大幅に強化することと並行して、企業や地域などによる子育ての支援の輪を社会の隅々に広げなければなりません。

 長時間労働に加え休暇が取りにくい我が国の企業風土に風穴を開けることなくして、少子化は打破できません。仕事と家庭生活の両立に精力的に取り組む企業が評価され、人材も集まり、経営的にも成功する社会へと舵を切る必要があります。

 在宅勤務の導入など企業の取組みを応援し、先進事例を全国に発信いたします。働き方の見直しについて、お題目を唱えるばかりの国には、両立支援にとって実効性のある全国的な仕組みを産業界や労働界と構築していくことを強く求めてまいります。

 地域もまた、家族を支え、子供を育む、重要な役割があります。かつてこの国に当たり前のようにあった地域の絆を結び直し、子供の見守りの核となる人材を育成したいと思います。

 これまで述べてきたことに加えて、子育てに適した民間賃貸住宅の普及や、子供の遊び場づくりにも取り組むなど、政策分野を広く横断して重層的・複合的に施策を展開いたします。安心して子供を産み、育てることのできる社会への扉を東京から開いてまいります。

3 21世紀の都市モデルを造形

 現下の危機に的確に対処しつつ、都市戦略である「10年後の東京」計画の実現を一段と加速させてまいります。常に10年先を見据えながら、既存の枠組みに横串を通して隘路を打ち破り、50年先・100年先にも繋がる取組みを進めてまいります。

(環境先進都市へと飛躍)

 地球温暖化による気象の異変は深刻の度を増し、もはや引き返せない事態へと突き進みつつあります。しかし、昨年のCOP15でも、先進国と途上国との溝が埋まる気配はありません。さらに、途上国の間では、ツバルのような現に海面上昇の被害を受け沈没しつつある島国などと、経済発展著しい新興国との対立が露わとなり、CO2削減の国際的な枠組みづくりは混迷を極めております。

 袋小路に迷い込んだ国際交渉を日本が打開し、世界の新たな枠組みづくりをリードしていくためにも、既に打ち出した高い目標を実現する具体的な対策に一日も早く移らなければなりません。これは、環境産業を世界のいかなる国よりも早く飛躍させることにもなるのです。

〈低炭素型社会への疾走〉

 我が国の環境政策を牽引してきた東京は、本年4月から、世界初の都市型キャップアンドトレード制度を開始いたします。CO2排出総量削減義務を課せられる大規模事業所には制度開始を先取りして、照明や空調に先端的な省エネ技術を導入する動きも出ております。こうした削減意欲の盛り上がりを緻密な制度運営によって、一層高めてまいります。

 削減義務のない中小規模事業所には「地球温暖化対策報告書制度」を開始し、自主的な対策を促すほか、省エネ設備の導入を「省エネ促進・クレジット創出プロジェクト」で支援いたします。東京から産業・業務部門のCO2排出量を着実に削減し、国には全国レベルのキャップアンドトレード制度の早期実現を迫ってまいります。

 同時に、我々の生活様式自体を低炭素型へと転換させなければなりません。家庭部門では、住宅用太陽エネルギー利用機器を4万世帯に普及させることに加え、専門家を派遣し、住宅の断熱化や省エネ化をサポートいたします。運輸部門でも、次世代自動車の普及を後押しするとともに、急速充電器を概ね5キロメートル圏内に1か所、民間事業者とも連携して設置し電気自動車を安心して利用できる環境を整えます。

 都自らも、CO2を積極的に削減いたします。4年間で排出量を8.4%削減しましたが、来年度には、下水の汚泥処理にあたって、環境への負荷をこれまでの10分の1に激減させる汚泥ガス化炉を新たに稼働させてまいります。さらに、汚泥を資源に変える汚泥炭化炉の増設にも着手するなど、手綱を引き締め取り組んでまいります。

〈緑を守り育てる〉

 CO2の削減で世界の最先端を進むとともに、緑のネットワークを張り巡らす10年プロジェクトを展開し、東京を環境先進都市へと飛躍させてまいります。自分たちの手で緑を増やし、育てようという気運が高まりつつあり、海の森や多摩の森などで、ボランティアとして年間3万人を超える都民・国民、企業、団体の協力を得ておりまして、「緑の東京募金」への拠金も6億円に届こうとしております。緑の創出への熱い支持に力を得ながら、校庭の芝生化や街路樹の整備を着実に進め、公園の面積も4年間で日比谷公園7個分増加させております。

 今後は、緑の創出とともに、樹林地や農地など都市に残された貴重な緑を戦略的に保全いたします。「緑確保の総合的な方針」を策定し、区市町村と合同で選定した300ヘクタールの緑を、都民・地域・企業などとしっかり手を携え、確実に将来に引き継いでまいります。武蔵野の面影を残す多摩川沿いの崖に残された緑も、地元自治体と連携して保全いたします。

(安全と安心の確保)

 東京が真の成熟を遂げるためには、都民が安全に安心して暮らすための仕組みを充実させていかなければなりません。

〈高齢者の新たなすまい「東京モデル」〉

 世界に類を見ないスピードで高齢化が進む一方で、家庭や地域の支え合いが低下しております。従来の「在宅」か「施設」かという選択肢に加えて、高齢者が日常生活へのサポートを必要とするようになってもなお、地域で安心して暮らし続けられる仕組みが求められております。

 そこで、大都市の実情に応じた施設基準を設けるなど現場に根ざしたアイデアを駆使して、民間の投資意欲を引き出しながら、新しい高齢者の「すまい」を実現してまいります。

 緊急時のサポート機能や介護関連施設を備えた「ケア付きすまい」を平成26年度までに約6000戸整備することなどに加え、在宅の高齢者を24時間体制で支援する「シルバー交番(仮称)」も、先ずは22年度に15か所設置いたします。これらを起爆剤に、目配りの行き届いたサービスを備え、高齢者が安心して暮らすことができる「すまい」の普及に東京から道筋をつけてまいります。

〈建物耐震化の推進〉

 阪神・淡路大震災から今年で15年が経過いたしました。建物倒壊等が死因の約9割を占める重い教訓が残されましたが、費用負担の問題などもあり、東京に耐震化すべき建物が依然、数多く存在しております。

 そこで、ひとたび倒壊すれば多大な影響を及ぼす建物にも重点的な対策を講じてまいります。復旧と復興の動脈となる緊急輸送道路の沿道建物について、個別に訪問して耐震化を働きかける「ローラー作戦」を、対象地域を拡大して展開いたします。医療活動の拠点となる救急医療機関にも、補助金を大幅に増額し、強力に耐震化を後押ししてまいります。合わせて、警察署や消防署といった防災上、特に重要な都の建物は、来年度中に耐震化を完了いたします。

 一方で、耐震化は現在の法律では努力義務に過ぎず、その実施は建物所有者に委ねられていることから、対策の進展には限界があるのは否めません。このため、震災時の応急活動に及ぼす影響が大きい建物について、耐震診断の義務化など、一歩踏み込んだ都独自の規制誘導策の検討を開始いたします。災害に強い都市づくりに向けた重い歯車を回し、首都東京の信用を高めてまいりたいと思います。

 ところで、公立小中学校の耐震化は、中国・四川大震災を教訓とし、子供の命を守り、地域の避難場所を確保するため、国と地方が協力して進めてまいりました。しかし、国は、来年度の予算案に、全国の自治体が実施を予定している事業全体に比して、大幅に不足する予算しか計上しておりません。いつ来てもおかしくない直下型地震のリスクに晒された首都東京の知事としては看過できず、苦しい財政をやりくりして取り組んできた区市町村も梯子を外されたとしか言いようがありません。現在、来年度予算が国会で審議中ですが、国政は、地方の事業実施に支障が出ないよう、速やかに必要な手立てを講じることを強く求めます。

〈都市特有の防犯・防災への取組み〉

 豊かで便利な社会ゆえに発生する、新しい種類の犯罪や災害にも迅速に対応し、都民の身近な不安を解消していかなければなりません。

 都内でも広く普及しているインターネットカフェ等では、その匿名性から、ハイテク犯罪などが頻発しております。全国に先駆けて、入店時に本人確認を義務付けることで、犯罪防止に繋げてまいります。

 また、これらの店舗は狭い空間に個室が多数作られた複雑な構造ゆえ、一度火災が発生すれば被害が想像以上に拡大いたします。この種の店舗には避難路確保対策の強化を義務付け、利用者の安全を高めてまいります。

(都市の機能と魅力に磨きをかける)

 この国の活路を拓くには、首都東京の社会資本整備は必須であります。都市の機能や利便性を向上させるだけでなく、経済を活性化させ、国際競争力を高め、その効果は全国にあまねく還流いたします。

〈羽田空港の再拡張・国際化〉

 羽田空港は、従来の自治体の枠組みを超えて国に無利子貸付を行うなど、再拡張・国際化のために重ねた努力がようやく実を結び、10月に新滑走路と国際線ターミナルが完成し、宿願である大幅な容量拡大が成就いたします。既に、年間約6万回の国際線定期便の就航が決定しておりまして、アジア諸都市だけではなく、北米・欧州へも飛び立つことができる24時間利用可能な国際空港となります。

 今後も、羽田空港の昼間の国際線発着枠を拡大し、生まれ変わった羽田空港が、さらに高い次元で日本と世界を繋ぐ役割を果たすことを目指してまいります。

〈道路整備の着実な推進〉

 道路について、中央環状新宿線が、来月、いよいよ全線開通いたします。首都高のピーク時の渋滞の長さを半減させ、そのCO2削減効果は、山手線内側の半分の面積に相当する森林が吸収する量に匹敵します。

 今後とも、東京と日本の持つ可能性・潜在力をさらに引き出すために、幹線道路ネットワークの整備や開かずの踏切を解消する連続立体交差事業などを、一段と促進しなければなりません。

 なかでも、文明工学的見識を欠いた国を動かして、事業再開を認めさせた外環道については、先月より測量・地質調査などが始まり、長い間止まっていた時計の針がようやく動き始めました。今後、着工に必要となるジャンクション部の用地取得を国と連携して重点的に進め、一日も早い完成を目指してまいります。

 合わせて、道路ネットワークをより有効に機能させるために、最先端の情報通信技術を活用した信号制御システムを構築いたします。緊急車両について現場や病院までの走行時間の短縮を図って、都民の安全と安心を高めるほか、空港と主要駅・ホテルとを結ぶ直行バスの所要時間も短縮して、利便性を向上させてまいります。

 一方で国は、来年度の全国の道路関係予算を大幅に削っております。そうした中にあっても、国には、東京の道路整備の効果と重要性を冷静に評価し、必要な財源を確実に東京に配分するよう強く求めます。

〈京浜三港の一体化〉

 港も、都市の活力を伸張させる役割を十全に果たさなければなりません。川崎市・横浜市と取り組む京浜三港の連携について、今月、将来像とそれに向けた戦略を示す「京浜港共同ビジョン」を策定しました。

 今後、このビジョンに基づき、三港が一体となって港湾施設の利用コストを低減し、利便性も向上させるとともに、国内各地と有機的に結びつく道路などの国内輸送ネットワークを形成することで、貨物の集荷を強化し、港湾機能をさらに高めてまいります。首都圏はもとより我が国の経済を支え、アジア諸港との熾烈な競争に勝ち抜いてまいります。

〈歴史の堆積を感じ風格のある都市の佇まいを形成〉

 東京は、豊穣な歴史や多様な文化、多彩な食文化など、魅力に満ち溢れております。これに磨きをかけることは、首都としての風格を増すだけではなく、観光振興にも繋がり日本全体の発展に大きく寄与いたします。

 そこで、東洋のベニスとも喩えられた水の都であった歴史の記憶を呼び覚まし、江戸の暮らしに楽しみと潤いをもたらした隅田川の賑わいを取り戻す「隅田川ルネサンス」事業を展開いたします。川面をのぞむカフェや憩いの場となるテラスなどを整備し、四季折々のイベントを盛り上げるほか、水上から東京を楽しむ新しい舟運ルートを開発して、水と緑の都市文化を再生し未来に引き継いでまいります。

 都内各所に数多く存在し、過去の時代の息吹を今に伝える建造物もまた、かけがえのない財産であります。都が選定した歴史的建造物の保存や修復を応援し、歴史と文化が薫る「まちの顔」に育ててまいります。

〈スポーツとまちが融合した新しい都市文化〉

 歴史と文化の堆積を持つ東京に、都市としてのさらなる奥深さを加える新しい魅力も次々と生まれております。今年も4日後に迫った東京マラソンは、早くも世界最高位・ゴールドラベルの大会にまで成長し、日本を代表する国際イベントとして定着いたしました。大会を機にランニング熱が高まるなどスポーツの裾野を大きく広げております。

 今年は、家族との絆を再認識し、すがすがしい達成感を親子で味わう「東京マラソンファミリーラン」も実施いたします。沿道の東京大マラソン祭りも一段と盛り上げ、スポーツとまちが融合した、これまでにない都市文化にまで高めてまいりたいと思います。

(子供が健全に育つ環境づくり)

 東京は新しい文化や刺激に満ち溢れている一方で、有害な情報も氾濫しております。そうした中で、東京と日本の次代を担う子供たちが健やかに育つ環境を整えることは、我々大人の当然の責務であります。

〈体力・学力の向上〉

 子供が人生を生き抜いていく力の土台は体力にあり、健全な肉体を育て脳幹を鍛えることで、自らを律する強い心も養われます。

 東京の子供の体力は残念ながら全国平均を大きく下回っていることから、昨年、子供の体力向上推進本部を設置し対策に乗り出しました。来月には区市町村対抗の「東京駅伝」を初めて開催し、2千人を超える中学生が襷と友情のリレーを競います。さらに、オリンピアン・パラリンピアンをはじめ優れたアスリートを学校に派遣して、技術はもとより努力の大切さも教えて精神面の成長を促すなど、多様な施策を講じてまいります。

 体力と同時に、学力も徹底して鍛えなくてはなりません。

 なかでも文章を読んで内容を把握することや、情報を整理して判断することなど、物事を読み解く力は、単に知識を吸収するだけでなく、感性を磨き論理性を養うこととも密接に関連いたします。来年度、読み解く力に関する調査を、全ての公立の小中学校で実施し、これを踏まえて指導内容を改善してまいります。

 子供の学力向上のためには、現場の担い手である教員を実情に即して効果的に配置することも不可欠であります。いわゆる小1問題・中1ギャップに対処するために、来年度から両学年に教員を重点的に配置いたします。さらに、外部人材を活用して、公立小中学校で土曜日に補習を実施するほか、都立高校での進学指導も大幅に強化いたします。

〈都立高校における日本史必修化〉

 若者たちは、現代に繋がる我が国の歴史を十分に知らないまま大人になっております。

 歴史を紐解けば、江戸時代は、商品経済が発達し、五街道が整備され、寺子屋などの教育システムが整うなど世界に誇るべき社会が、江戸を中心に形成されておりました。また、ライプニッツやニュートンに先んじて微分積分といった高等数学を考えついた関孝和など優れた才能が開花しました。江戸期に成熟された独特の感性や高い文化・教育水準は、その後の時代に大きな財産として受け継がれ、急速な近代化を遂げ、敗戦の焦土から立ち直り、経済大国に発展する原動力となりました。

 こうした江戸期から現代に至る近代化の歴史を学ぶことで、若者たちが、日本人としての自信と誇りを持つとともに、国際社会の一員として活躍する基礎をも作るために、平成24年度より、全都立高校で日本史を必須化いたします。

〈健全育成・児童ポルノ規制〉

 今日、インターネットや携帯電話によって、あらゆる情報を便利に入手できるようになりました。一方で、犯罪にも繋がりかねない有害な情報から青少年を守らなくてはなりません。携帯電話の有害情報遮断機能が安易に解除されないように手続きを厳格化するほか、子供の年齢に応じた機能に限定された携帯電話を都が推奨する制度も創設いたします。

 また、児童ポルノの氾濫をはじめとする青少年をみだりに性の対象として扱う風潮を見過ごすことはできません。これらは、自分の利益のみに拘泥し、社会的存在としての自覚を欠く一部の大人がもたらした害悪でしかありません。児童ポルノを根絶するなど都と都民の責務を条例で定め、このおぞましい状況に東京から訣別してまいります。

(多摩・島しょのさらなる発展)

 次に多摩・島しょ地域について申し上げます。

 多摩地域は、電子機器・精密機器などの最先端技術やものづくり産業が集積し、大学、研究機関も数多く存在します。こうした多摩の優位性を最大限活かすべく、一昨日、「産業サポートスクエア・TAMA」を開設いたしました。中小企業の新技術・新製品の開発や新事業の創出を支援するなど、今後、多摩地域を我が国の産業の将来を支える一大集積地として発展させてまいります。農林総合研究センターや平成23年度開設予定の多摩職業能力開発センターと一体となって、総合的に産業を振興してまいります。

 医療面でも、多摩総合医療センター・小児総合医療センターを、来月1日に開設いたします。多摩における救急医療体制を強化するため、都内最大規模の総合周産期母子医療センターを設置し、日本初の小児専門ERを開設いたします。がん医療も充実させるなど、日本有数の診療基盤を持つ両センターが一体となって、小児から成人までの多様な疾患に対し総合的な医療を提供してまいります。地域の医療機関と共に、緊密に連携しながら、多摩の安全・安心の拠点として機能させてまいります。

 東京国体は、本年夏、開催が正式に決定される予定でありまして、平成25年に向けて準備を一層加速させなければなりません。多数のトップアスリートの参加を得、障害者スポーツ大会と連携し、人と環境に優しい国体の実現に向けた施設のユニバーサルデザイン化の推進や再生可能エネルギーの導入などにも取り組んでまいります。東京ならではの工夫を凝らし、大会を成功に導いてまいります。

 三宅島は、平成12年の大噴火から今年で10年が経過いたします。約4年半の全島避難生活を経て、復興に向けて歩み出し、生活基盤は着実に回復しております。しかし、島の再生の鍵を握る観光の建て直しはまだまだ道半ばでありまして、観光客数は噴火前の半数程度に止まっております。

 そこで、今年のバイクイベントでは、噴出した溶岩流の跡など三宅島ならではの自然を背景にした手に汗握るオフロードレースを新たに実施いたします。三宅島の魅力をより広く伝え、より多くの方々に島を訪れていただけるよう、引き続き強力に後押しをしてまいります。

4 平成22年度当初予算案等について

 危機を突破し、その先に21世紀にふさわしく成熟を遂げた社会を創り上げるにあたり、都政は、その実行力を問われております。

(平成22年度当初予算案)

 平成22年度の東京都当初予算案は、巨額の税収減に直面し、今後も厳しい財政環境が見込まれる中で、東京の「現在」と「将来」に対し、都が為すべき役割を積極的に果たすべく編成いたしました。

 国のような借金への安易な依存を厳に戒め、基金残高1兆円を維持しながらも、「10年後の東京への実行プログラム2010」のための経費5,999億円全額を計上し、投資的経費も4.7%伸ばす積極予算としました。これができたのは、都議会の皆様の協力も得て財政再建に努力してきたからに他なりません。さらに、このたびの予算編成でも、新しい公会計制度によって作成した財務諸表を活用して事務事業評価を緻密に行い、これまで以上に厳しく検証することで、約200億円の無駄を炙り出して削減し、より費用対効果の高い施策を練り上げました。

 今後も、複式簿記・発生主義を梃子に、職員の金利感覚やコスト意識を高めお役所仕事を払拭するなど、行財政運営のレベルアップを追求してまいります。

 複式簿記・発生主義会計を巡っては、大阪府の強い要請も受けまして、職員を派遣し、都の手法・ノウハウを積極的に提供してまいりました。

 今後は、大阪府と共同プロジェクトを立ち上げ、公会計制度のあるべき姿を全国に発信しながら導入に意欲的な自治体を支援するとともに、国に対して、国も国際公会計基準にも準拠した合理的な会計基準の策定を求めてまいります。太政官制度以来続く官の姿を変え、総合的な財務情報に基づく自律的な行財政運営をこの国に根付かせるべく取り組んでまいります。

 都の健全な行財政運営と対照的に、国の来年度予算案は、借金が税収を上回る異常な状態となっております。とは言え、法人事業税の暫定措置を継続したことは、断じて許せません。これは、国会でもかつて野党時代の民主党の議員諸君が強く反対してくれたものであります。税の原則にもとり、地方分権にも逆行する法人事業税の暫定措置は直ちに撤廃するよう、強く強く求めてまいります。

(豊洲新市場)

 次に、築地市場の豊洲移転について申し上げます。

 築地市場は老朽化が激しく、僅かな地震の揺れでも屋根の一部が落下する事故まで、最近、発生しております。震災に遭えば、機能麻痺により都民生活に甚大な影響を与えることは必至であります。我々に与えられた時間はあまり多くありません。

 もとより、豊洲への市場移転は、移転地の土壌汚染の除去が前提であります。世界に誇る日本の先端技術を活用した汚染対策の実験結果を踏まえ、魚や野菜などの生鮮食料品を取り扱う市場用地として、都民・国民、市場関係者が安心できる十全な対策を着実に講じます。平成26年度の開場に向けて、豊洲新市場を、時代のニーズに応え、将来にわたり都民の食生活を支えていく新しい基幹市場として整備してまいりたいと思います。

(招致活動報告書)

 次に、2016年のオリンピック・パラリンピック競技大会招致活動報告書について申し上げます。これは、今回の招致活動に関わった招致委員会関係者と都のメンバーが、広汎多岐にわたった活動を詳細に記録し、活動を総括して得た課題や教訓をまとめ、日本の再挑戦の海図ともすべく作成いたしました。

 本報告書によって、招致活動に対する都民・国民の皆様、都議会の皆様、スポーツ界・経済界・政府関係者の理解が改めて深まるとともに、我が国へのオリンピック・パラリンピック招致に新たな一歩が踏み出されることを心から願っております。

5 政治と行政のあるべき姿を東京から体現する

 21世紀に入り世界が時間的・空間的に益々狭小となるにつれ、かつてなかった摩擦が各地で生まれております。また、近い将来、自らの文明発展が招いた化石エネルギーの不足や気象の異変による食糧危機により、国家が争い人類の生存も脅かされる事態すら到来しかねません。

 文明発展の皮肉とも言える激しい地殻変動に臨んで、その場しのぎ・先送りをなおも続ければ、日本には衰退の道しかありません。今こそ、危機の本質に本気でメスを入れ、自らの未来を自らの手で創り出すべく、政治を本来の姿へと蘇生させなければならないと思います。

 言うまでもなく、都政は、政治本来の姿を追い求めてまいりました。今後も、日々、生きた現実に直面し、課題の解決を迫られている日本の頭脳部・心臓部から、東京しか為し得ない斬新で実効性の高い政策の実現を通じて、政治と行政のあるべき姿を体現してまいります。そして、都議会の皆様と、共に東京と日本の将来を深く考え、合理的で建設的な議論を真摯に交わして、この国を牽引する施策を確かな形にしてまいりたいと思います。

 なお、本定例会には、これまで申し上げたものを含め、予算案32件、条例案70件など、合わせて115件の議案を提案しております。よろしくご審議をお願いいたします。

 以上をもちまして、施政方針表明を終わります。