石原知事施政方針

平成22年11月30日更新

平成22年第四回都議会定例会知事所信表明

平成22年11月30日

 平成22年第四回都議会定例会の開会に当たりまして、都政運営に対する所信の一端を申し述べ、都議会の皆様と都民の皆様のご理解、ご協力を得たいと思います。

1 築地市場の豊洲移転について

 先ず、築地市場の豊洲移転について申し上げます。

(築地市場の再整備は「昭和からの宿題」)

 築地市場の再整備が持ち上がったのは25年以上前でありまして、いわば「昭和からの宿題」であります。築地現在地での10年の歳月を費やした再整備が頓挫した後、議会で必要な予算も認めていただきながら、豊洲の地で平成26年度に新市場を開設することを目指してまいりました。
 この4月からは、議会自ら現在地再整備を改めて検討されました。執行機関としても、副知事をトップとする特別チームを編成して全面的に協力したところ、現在地再整備は仮に全てが順調に運んでも十数年かかる致命的な事実が明らかになりました。
 現在地再整備の可能性についての議論は、第三回定例会で尽くされたと思います。しかし、議会としての結論は、先の展望も示されぬまま先送りされました。

(歯車を大きく回す)

 築地市場を取り巻く情勢は政治の不決断を全く許しておりません。
 開場から75年が経過し、僅かな揺れの地震でさえ屋根の一部が落下するまで老朽化は窮まり、清潔とは言い難くなっております。観光客の賑わいとは裏腹に、耐用年数の限界を大きく超えた施設ゆえ、3千万人を超える首都圏の食の安全・安心を支える拠点市場として、今後求められる品質管理・衛生管理の水準に応えることは不可能であります。事業者も、産地・顧客が求めるニーズへの対応がままならず、ただでさえ厳しい経営環境に新市場開設の先送りが加われば、益々疲弊し、じり貧となります。遠い将来、いかに立派な施設ができても、担い手がいなくては元も子もありません。
 業界の大多数も豊洲移転を望んでおり、慎重な検討・丁寧な議論なる美名の下で、現場に先の見えぬままそれを待つ不安・焦燥・混乱を強い続けるわけにはいきません。過日、国土交通大臣が八ッ場ダムの現地を自らの目で確かめたことで中止ありきの方針が撤回されましたが、現場に即して柔軟かつ冷静に判断することが何よりも必要であります。
 議会として決めかねるのなら、現実を直視し、25年以上にわたる経緯、都民・国民の生活への影響、財政面なども併せて総合的に判断し、行政の主体者としての責任で大きく歯車を回すしかありません。

(議会に呼びかける)

 ゆえにも、今後、豊洲移転に全力を挙げてまいります。
 豊洲の移転予定地の土壌汚染対策については、我が国最高権威の学者の方々の英知もお借りして、日本の優れた先端技術を活用した汚染除去手法を編み出しました。現地での実験も済ませており、安全・安心の確保は十分に可能であります。これまでにあった行政としての不手際は真摯に反省し手綱を締め直して、万全を期してまいります。
 庁内体制を強化し、昨日、「豊洲移転サポート相談室」も開設いたしました。土壌汚染対策とともに、事業者が抱える課題・心配・不安に丁寧に耳を傾け、効果的な支援に繋げてまいります。
 都議会でもこれまで様々な議論がありましたが、「より良い豊洲移転」に向け共に知恵を出し合っていくことを呼びかけます。

2 政治に与えられた力と責任

 市場の問題に限らず、意見の対立や様々な摩擦・相克は世の必然であります。それを乗り越え未来を切り拓くために、国政であれ都政であれ政治には、現実に立ち多様な声を踏まえて複合的に発想した上で自ら決断できるだけの、社会工学上、最も大きな力が与えられております。何が肝心なのかを政治が正当に認識せずに、困難な課題を前に時間を空費し先送りすれば、都民・国民が多大な損失を被ることにしかなりません。
 我が国の混迷は一段と深まっておりますが、そこからの脱却は、政治が理念ともつかぬセンチメントと訣別し、現実と切り結んで練り上げた怜悧な手立てを選ぶことなくしては為し得ません。
 ゆえにも政治のあるべき姿を東京から体現すべく、都政運営において地に足のついた実効性の高い施策に力を尽くしてまいります。

3 都政の諸課題を現場ならではの知恵と工夫で解決していく

(安心・安全の確保)

 都民・国民の生命と財産を守ることは、政治の最も基本的な役割であります。生きた現場を持つ東京から危機の本質を肌で感じ取り、安心・安全の確保に全力を挙げていかなければなりません。

〈治安の確保・維持〉

 この十年余の間、治安の確保・維持こそ最大の都民福祉との考えに立って、職員定数を大幅に削減する中でも1千4百人を上回る警察官の増員を行い、不法滞在外国人対策や繁華街での防犯カメラの設置なども進めてまいりました。「安全・安心まちづくり条例」を制定するなど、犯罪を芽から摘む施策を幅広く展開しております。多くの方々も自ら街を守るべく立ち上がり、防犯ボランティア団体は約3千9百を数えるまでになっております。警察を中心に都民・事業者・行政が一丸となった結果、犯罪認知件数は7年連続で減少し、昭和40年代の水準となっております。
 しかし、我が国の暴力団構成員・準構成員の実に5人に1人が東京で活動しておりまして、日本経済の中心地ゆえ、正当な経済取引を巧妙に装い不当な利益を上げる行為が横行しております。そこで、有識者からの提言も踏まえ、現在、「暴力団排除条例(仮称)」の制定を準備しております。社会全体で暴力団を排除する動きを後押しし、資金源を断つためにも、今後、速やかに議会に提案してまいります。

〈青少年健全育成条例の改正〉

 同時に、子供が健やかに育つ環境を整えなければなりません。
 そのためにも、犯罪に巻き込まれかねないインターネット上の有害情報から子供たちを大人の責任で守る必要があります。また、子供たちの目に決して触れさせてはならない漫画が、通常の書籍と並んで店頭に置かれている状況を改善する取組みにこれ以上の猶予は許されないと思います。
 これまでの議会での議論などを踏まえ、改めて青少年健全育成条例の改正を提案いたします。

〈豪雨対策の総合的な展開〉

 近年、局地的な集中豪雨が多発しておりまして、人口や高度な都市機能が密集し、地下へと街が広がる首都東京は、浸水リスクが高まっております。
 そこで、浸水被害の危険性が高い地域へ集中的に緊急豪雨対策を講じます。流域の異なる川と川とを地下調節池で結んで機動的に水位を調整する新たな河川氾濫防止策を導入いたします。雨水の貯留施設を大規模地下街周辺に増強し、学校の校庭の地下にも効果的に配置するなど、総合的な方策で集中豪雨から都民・国民の生命と財産を守ってまいりたいと思います。

〈震災への備え〉

 安心・安全のためには、いつか必ず来る大地震への備えも欠かせません。警察署あるいは消防署等の防災上の特に重要な都の建物については、建て替える予定のあるもの以外は今年度中に耐震化すべく取り組んでおり、地域の避難所となる公立小中学校も平成24年度の完了に向け区市町村を支援しております。
 高度に都市化した東京において建物が倒壊すれば、周囲に対する影響は計り知れません。建物の所有者は、自らの生命と財産を守るだけではなく、隣地などへの被害を生じさせないよう建物の耐震性能を確保する社会的責務があります。
 とりわけ、緊急輸送道路で沿道の建物が倒壊し、災害時の救急救命活動の生命線、復旧・復興の大動脈としての機能を大きく低下させれば、その影響は甚大であります。耐震性が低く倒壊によって道路を寸断しかねない建物の所有者に対して、ローラー作戦を展開し耐震化を個別に働きかけてまいりました。しかし、国の法律が耐震化を所有者の意思に委ねていることが壁になっております。
 耐震化の重要性に鑑みれば、このまま手を拱くわけにはいきません。先ずは緊急輸送道路の沿道から強力な対策を緊急に打つことが必要であります。沿道建物の耐震診断を義務化し改修も誘導すべく、今後、必要な条例の内容などを詰めてまいります。国の法律の限界を東京から乗り越えて所有者に耐震化の決断を促す全国初の仕組みを構築いたしたいと思います。

(厳しい景気情勢に現場だからできる手立てで対処)

 安全・安心を土台に日本の再生を目指さなければなりません。それには、厳しい景気情勢にあって、現場を踏まえ、打つべき手を機を逸することなく打つ必要があります。

〈現場実態に即した就労・生活支援〉

 昨年、一昨年の「年越し派遣村」を巡る国の対応は、いかに「現場」を知らないとはいえ、あまりにも場当たりでありました。これに対して都は、生活費の支給と一体となった職業訓練など独自の先駆的な施策を重ねてきた実績を踏まえて国を真っ当な対処へと引き戻し、今年の年末に向けて重層的に施策を実施いたします。
 国やNPOと連携し、ハローワークにおいて、就労支援と合わせて住居や生活に関する相談を一体的に提供いたします。同時に、民間からも事業を公募して緊急に雇用を創出するなど、働く意欲のある方々を生活全般にわたって応援してまいります。
 また、都は、厳しい就職活動を余儀なくされる大学生・高校生と、ものづくりの魅力に溢れながらも学生の目に留まりにくく人材確保に悩んでいる中小企業とを結びつけるために取り組んでおります。地方は、地域を熟知し、雇用部門と福祉・産業振興・教育部門とを有機的に連携させることが可能であります。複合的できめの細かい取組みをより進めるためにも、ハローワークの地方移管は当然でありますが、国は現行体制を温存しようとしております。国にはハローワークを速やかに地方へ移管するように求めます。

〈中小企業を支える緊急円高対策〉

 今年の夏以降の円高は長引く様相を呈しておりまして、我が国経済の屋台骨を支える中小企業を取り巻く環境は急速に厳しさを増しております。
 申し上げるまでもなく円高対策は本来は国の責務であります。しかし、現場を預かる都として現下の事態を座視するわけにいかないことから、中小企業のため緊急円高対策に速やかに着手いたします。企業に専門家チームを一定期間集中的に派遣して経営改善を助言するほか、制度融資のメニューを拡充し資金繰りにも万全を期してまいります。
 また、下請けの立場の弱さに付け込んだ不当なしわ寄せの深刻化が懸念されます。そこで、自治体が設けた組織では全国で唯一、裁判外で紛争を解決できる「下請センター東京」を最大限活用して、下請企業の相談に丁寧に応じ、親企業との間に立ち調停や和解に取り組みます。さらに、専門相談員が下請企業を巡回訪問して助言し、親企業への啓発も行うなど取引の適正化に手を尽くしてまいります。
 今後の景気動向も見極めながら来年度予算においても円高対策を講じ、日本の宝とも言うべき東京の中小企業を確かに支えてまいります。

(首都東京から日本再生の先陣を切る)

 一方で、新しい成長に向けた布石も着実に打たなければなりません。
 日本人は、技術力やそれを生み出す独自の感性など秀でた特性を持っております。我が国の力が集中・集積した東京から、日本が本来持つ力を新しい成長に確実に結びつけていくことが必要であります。

〈驚くべき技術を掘り起こし、世界へ発信〉

 今年も、将来性ある優れた企業を世に知らしめ発展を促すために、7社にベンチャー技術大賞を贈りました。いかに優れた技術であっても、商品化することができなければ石ころに過ぎませんが、この賞をバネにして昨年まで受賞した85社のうち5社が株式上場を果たし、他の社の多くも業績を伸ばしております。
 本年度の産業交流展を「アジア大都市ネットワーク21」東京総会と連動して開催したように、今後も、世に出るチャンスを待つ技術を強力に発信し、国内だけでなくアジア企業との交流を深め、新事業の創出や販路開拓を支援してまいります。
 企業の海外進出では、特許や商標を効果的に活用して模倣品による被害への守りを固める必要があります。知的財産総合センターで百戦錬磨の企業OBによる個別相談を実施し、特許出願に関するセミナーも開催するなど、中小企業における知的財産の戦略的活用を支援いたします。

〈アジア製旅客機を大空へ〉

 東京とアジアとの関係が益々重層となる中、昨日、専門家の検討委員会から「アジア旅客機ビジョン」を提言いただきました。
 日本ではMRJが製造段階に入っております。アジア各国も航空技術を一段と蓄積しております。各国の強みを持ち寄り、大きな需要が見込まれる、観光バス2台分の座席数を持つ旅客機、中小型の旅客機を開発するならば、産業・経済など広範な領域で日本とアジアに多くの果実をもたらすに違いありません。
 ビジョンに沿い国に強く働きかけ、アジア大都市ネットワーク21の共同事業で培った都市間・企業間の連携もより深化させていきたいと思います。

〈上下水道の国際展開〉

 東京の上下水道の国際展開も、着実に進展させなければなりません。
 先般も、インドやベトナムに国際展開調査団を派遣して現地の実情を調査してまいりました。都が独自に開発し特許を取得した下水道技術の一つである河川へのゴミの流出を防ぐ効果的な装置も既にドイツ・韓国に売り込んでおります。
 大都市の現場で磨いた世界最高水準の技術力と運営ノウハウを最大限活かして、官と民の連携の旗を振りながら、世界の水・衛生環境の改善と我が国の産業力強化に貢献してまいります。

〈都市機能のさらなる向上〉

 日本経済の発展のためには、金の卵を産む鶏である東京が活力を増すよう、その都市機能を一段と向上させなければなりません。
 なかでも交通渋滞は、東京の最大の弱点であります。多大な経済損失を生んでおります。その解消に向けて、3月には都心に向かう車を迂回・分散する中央環状新宿線を開通させ、9月には交通のボトルネックである踏切を環状八号線から全て無くしました。今月には、15年の歳月をかけたJR中央線三鷹・立川間の高架化が完了したことで、開かずの踏切によって南北に分断されていた多摩の人とですね、モノの流れが大きく改善し、新たな街づくりの可能性も広がっております。
 東京の道路整備の重要性は、あるいは効果の高さは誰の目にも明らかでありますが、肝心の外環道は、国の政(まつりごと)の混乱の煽りを受けて将来的な財源確保の枠組みが雲散霧消しました。国には、文明工学的視点に立って、道路整備に来年度予算を確実に配分することはもちろん、将来の外環道整備財源も揺るぎなく確保することを強く求めます。

 日本の空港は、欧米はもとよりアジア・中東での利用が急拡大しているビジネスジェット機の受入れ体制が不十分であります。世界を股に掛けて活動する企業の経営層にとっては全く使い勝手が悪く、日本が素通りされるジャパン・パッシングを誘発する原因にもなっております。
 国際競争力の強化のためにも、我が国経済の中心地にある羽田空港でビジネスジェット機専用施設を整備するとともに、横田基地においても共用化の一歩として、その受入れを実現することが焦眉の課題であります。
 今後、我が国政府や米国政府をはじめ、広く経済界に対しても強く働きかけながら、東京ひいては日本の将来のためにこの問題に取り組んでまいります。

 東京の地下鉄は、歴史的経緯もありまして、本来一つであるはずのものが二つの事業者によって建設・運営されてきました。国は、これを本来の姿に戻しサービスや利便性を向上させるべきところを、法律を盾に教条的な株式上場の姿勢を崩さず、みすみす一元化の道を閉ざしかねません。
 「東京の地下鉄の一元化等に関する協議会」では、東京メトロの利用者への利益還元が甚だ不十分で、今のままの株式上場では投資家のためにしかならないことが判明しております。一方、都営地下鉄はバリアフリー化などを積極的に進めつつ経営を着実に改善していることを示しました。
 国には先ず株式上場を再考させ、東京の地下鉄が生み出す利益を利用者に対してより広く還元させるべく協議してまいります。

(少子高齢化を乗り越え、次世代にバトンを繋ぐ)

 日本の再生には、少子高齢化を乗り越え社会を安定させ、次代に繋いでいくための方策も不可欠であります。

〈介護保険制度の見直し〉

 先般、国は社会全体で高齢者を支える介護保険制度について、見直し案を明らかにしました。案は、高齢人口が増加する中にあって、恒久的な財源確保の議論を避け、当面の財政的な辻褄合わせに終始しています。
 制度の骨格を固め安定させる責任を負う国が医療・年金とも合わせて長期的なビジョンを示さなければ、都民・国民に不安を与えるだけであります。現場を実際に担う地方も将来への見通しが立たず、介護事業者の意欲も削ぐことになります。
 今後、国に対して、全国に先駆けて進めてきた高齢者の新しいすまいづくりや独自の工夫による施設整備なども踏まえて現場の声を伝え、介護保険が高齢者やその家族、事業者の実態に即した制度・サービスになるよう要求してまいります。

〈少子化打破〉

 高齢化とともに少子化も乗り越えなければなりません。
 先般公表された東京の合計特殊出生率は僅かに改善傾向でありますが、依然として状況は厳しいものがあります。この改善傾向をさらに向上させるためにも、子供を産み育てようとする家族に将来への展望を指し示し、子育てを確かに支えるサービスを迅速に整えなければなりません。
 今年度に開始した少子化打破緊急3か年対策に基づき、医療・保育はもとより、仕事と家庭の両立に向けて働き方の新しいモデルづくりに取り組む企業への支援に着手し、保育サービス付きの職業訓練や地域における子供見守りボランティアリーダーの育成もスタートしております。
 今後も各分野に横串を通して、重層的・複合的に施策を展開してまいります。

〈次世代を逞しく育てる〉

 子育てを社会全体で支えながら、次代を担う若者を逞しく育てなければなりません。今日の日本の繁栄は、世界と積極的に交わり、優れた文物を吸収し独自の創意工夫を加えて発展させた歴史の上に築かれております。しかし、現在の若者は、先人の足跡を一向に知らず、豊穣さや便利さに溺れて芯が虚弱でありまして、他者との摩擦・相克への耐性を備えていないため、人と交わることを避け、まして激しい議論はできません。
 これでは日本の真の再生は望むべくもなく、若者たちを目覚めさせるため、都立高校で日本の近代史を必須化し、江戸から現代に至る近代化の歴史、文化・伝統を学ばせます。また、公立学校では休み時間や放課後を十二分に活用して体を動かす時間を増やし、部活動も強化するほか、スポーツ祭東京2013や2014年のインターハイを起爆剤にスポーツを振興するなど、体力・気力を鍛え、規範意識を涵養してまいります。
 さらに、成長に応じた豊かな読書体験で知的好奇心や感性を強く刺激しながら、グローバルな時代に必須の論理的思考力や、他者と十二分に意思を交わし豊かな人間関係をも築く言語の技術といった「言葉の力」を身に付けさせてまいります。
 幼少期から本に触れる機会を増やします。学校では言語の技術に関する教員研修を実施して教える側の能力向上を図りつつ、先月初めて実施した都独自の読み解く力に関する学力調査の結果を活用して授業を改善いたします。さらに、若者が互いに読書体験を語り合う中から多くの本に出会い視野を広げる場である書評合戦などを通じて、企業や都民との連携をしながら「言葉の力」の重要性を広く社会に浸透させてまいります。
 次代を担う若者が人生を生き抜く根源的な力を身に付け、国際社会で凛とした立ち居振る舞いができるように、国際化・情報化で先端を行く東京から取り組んでまいります。

4 首都の政治家の使命を果たす

 国の利益のぶつかり合いが増す国際社会にあって、我が国は自らの領土が脅かされても毅然とした態度を全く示すことができておりません。これは、戦後、対米依存の他力本願に溺れ、「国家とは何か」「いかに国民の生命と財産を守るか」について、現実に根ざした本質的議論を忌避し続けてきた当然の帰結であります。「経済一流、政治三流」と揶揄されながらも何とか凌いでは来ましたが、今日、経済力が低下し、それが顕著となるや他国からの軽蔑に晒され、この国はまさに沈まんとしております。
 しかし、政権は国家としての当然備えるべき大局観をさえ欠いております。高福祉低負担は成り立ち得ないにもかかわらず、消費税増税について議論すら躊躇し続けており、国家破産の足音が次第に高まっております。地方分権改革も霞ヶ関の抵抗に遭い遅々として進まず、かつて野党時代に明確に反対していた法人事業税の暫定措置でさえ継続が懸念されます。

 国政が迷走を続けるのならば、日本の頭脳部・心臓部の東京だからこそできる先進的施策で我が国の航路を示すしかありません。これまでも都議会の皆様とは、「東京が倒れれば日本が倒れる」との危機感を踏まえて、真剣な議論を重ねてまいりました。東京から日本を変えることは、首都の政治家の使命と責任に他なりません。
 今後、「10年後の東京への実行プログラム」を改定し、来年度予算を通じて、国を先導する手立てを揺るぎなく講じてまいります。都議会の皆様とともに現場に立脚した現実的な取組みを進め、都民・国民に将来への展望を指し示してまいりたいと思います。

 なお、本定例会には、これまで申し上げたものを含め、条例案23件、契約案12件など、合わせて88件の議案を提案しております。よろしくご審議をお願いいたします。

 以上をもちまして、所信表明を終わります。