石原知事施政方針

平成24年2月22日更新

平成24年第一回都議会定例会知事施政方針表明

平成24年2月22日

 平成24年第一回都議会定例会の開会に当たりまして、都政の施政方針を申し述べ、都議会の皆様と都民の皆様のご理解、ご協力を得たいと思います。

 去る12月31日、名誉都民である松平康隆さんが逝去されました。ここに謹んで哀悼の意を表し、心よりご冥福をお祈りいたします。

1 首都東京の使命

(世界を覆う三つの波)

 さて、世界は、今、大きな厄介な三つの波に覆われております。
 その一つは、文明発展が招いた地球の温暖化であります。昨年末に開かれたCOP17(第17回気候変動枠組条約締約国会議)では、CO2の多量排出国であるにもかかわらず削減義務を忌避するアメリカ・シナ・インドが抵抗した結果、4年かけて新たな削減の枠組みを決めた後、それをさらに、5年後から実施という誠に愚劣な結末となりました。こうしている間にも事態は進み、地球は確実に滅亡の途を辿っているのです。
 二つ目は、歴史の復讐とも言うべきものであります。欧米と中東との間で起きている様々な諍いは、人・モノ・情報の交流が活発化する中で増幅されてきた豊かさへの願望、過去の歴史的怨念、宗教的対立がもたらした必然に他なりません。こうした歴史認識なくして有効な外交戦略を打ち立てることはできず、資源や食糧の多くを海外に依存する我が国が、国益を守ることは至難であります。
 三つ目は、杜撰な財政運営が招いたヨーロッパの経済危機でありまして、日本の産業経済にも多大な影響を与えております。超高齢社会に突入した我が国は、今後も社会保障費の増大が避けられず、高福祉・低負担の幻想を完全に捨て去らなければ、同じ轍を踏むことは明らかであります。

(今年1年が持つ意味)

 にもかかわらず、国の舵取りを担うべき政治には、こうした世界の大きな潮流を捉え、自ら進むべき針路を選び取ろうとする気概が全く感じられません。先のCOP17においても、我が国は卓越した省エネ技術などの強みを有しながら、指導力を発揮することができなかったのであります。
 国内においては、歴代政権が目先の利害に囚われ、その場しのぎを続けてきた間に、社会保障、税制など戦後の繁栄を支えてきた社会システムは完全な行き詰まりを見せております。大震災から1年近く経って、ようやく復興庁が創設される有様を見ても、被災地が懸命に努力する中で、国政は、スピード感を致命的に欠いていると言わざるを得ません。
 今ここで、肝心なことに手をつけずにいれば、子供や子孫たちに日本を残すことも、地球を残すこともできないかもしれません。その意味で今年は、我々の今後の命運を決める大きな意味を持つ年となる気がしてならないのです。

(首都東京が日本のダイナモとしての役割を果たす)

 こうした中、大都市としての成熟の過程で数々の試練を克服し、それをバネに変えてきた東京が行動を起こすことの意味は、決して小さくはないと思います。政治が、真の指導力を発揮することで、東京に集中・集積する様々な力を引き出し束ね、その力を、大震災を乗り越え日本の再生を果たす原動力に変えていく必要があるのです。
 日本の再生を牽引する役割を担い得るのは、東京をおいて他にはありません。自らの知恵と発想力を鍛えながら、戦略的に手立てを講じ、その持てる力を存分に発揮することで、首都東京が、日本のダイナモとしての使命を果たしてまいります。

2 日本をさらなる飛躍へと導く

(オリンピック・パラリンピック招致)

 大震災を乗り越え、日本の再生を確かなものとするためには、先ず、都民・国民が一丸となれる目標を構え、希望を指し示す必要があります。東京は、スポーツの力で人々に夢や希望を与え、困難に直面した人々を励まし勇気づけるべく、オリンピック・パラリンピック招致に名乗りをあげました。現在、被災県の関係者を交え、復興支援策の検討を行っており、今年中に具体策を定め、開催計画に反映させてまいります。
 5月の立候補都市の決定を経て、来年1月に立候補ファイルをIOCに提出し、世界との熾烈な戦いに突入いたします。この戦いは、政治力、外交力、経済力、そして人脈など日本の総力を結集して臨まなければ勝ち抜くことはできません。国の財政保証はもとより、JOCをはじめとするスポーツ界、経済界などの主体的な、かつ全面的な取組みを強く求めてまいります。東京も為すべきことは確実に実行してまいります。

(「2020年の東京」計画の策定)

 同時に、都民・国民に、再生・発展の道筋と将来への展望を明確に指し示さなければなりません。ゆえにも、大震災後の状況変化を捉えて、「10年後の東京」計画を充実・強化した、新しい都市戦略「2020年の東京」計画と今後3か年の具体的な道程を明らかにした実行プログラムを策定いたしました。この計画を羅針盤にして、東京を世界に誇る都市へと進化させ、日本をさらなる飛躍へと導いてまいります。

(高度防災都市の実現)

 先ずもって、危機に強い都市でなければ、都民・国民は将来への展望を見出せず、都市が持つ力を十分に発揮することはできません。
 都は、現在、東日本大震災を踏まえた、首都直下地震などの被害想定を見直しておりまして、この4月にそれを明らかにいたします。これを基に、昨年策定した「東京都防災対応指針」の取組みも深化させて、地域防災計画を抜本的に見直します。リスクを直視し自助・共助・公助を組み合わせ、東京を高度防災都市に進化させるべく重層的な対策を講じてまいります。

〈帰宅困難者対策〉

 人口が集中する東京において、被災時に多量の帰宅困難者が発生する事態は、混乱を止めどなく拡大させます。都民・国民の生命を守るとともに、救助・救援活動を円滑に実施し、首都の迅速な機能回復を実現するためには、社会全体で帰宅困難者対策に取り組む必要があります。
 本定例会では、企業には従業員の帰宅の抑制と3日分の備蓄を、学校には子供の安全確保を、駅やデパート等には利用者保護を求める条例を提案しております。先日実施した訓練の検証も踏まえ、東京に存在するそれぞれの主体が自らの責務に基づき行動する体制を整えてまいります。

〈木密地域不燃化10年プロジェクトの推進〉

 都市部での震災において建物の倒壊・炎上が甚大な被害を引き起こすのは、阪神・淡路大震災の例を見ても明らかでありました。木造住宅密集地域をこのまま放置することはできません。
 対策をさらに強力に進めるために、意欲ある区と連携して、都が助成の上乗せや都税の減免などの支援を行う「不燃化特区」を創設いたします。同時に、延焼を遮断する道路の整備を推し進めるべく、路線を指定して、移転先の確保など特別の生活再建策を講じることで、倒れず燃え広がらないまちづくりを加速させてまいります。

〈自助・共助・公助の力を高める〉

 地域に自助・共助の力を取り戻す取組みも進めてまいります。意欲的な防災活動を継続して行っている団体やグループを、この3月には防災隣組として認定いたします。区市町村と連携して、その活動を広く紹介することで、他の地域の取組みを誘発していきます。また、意欲はあるがノウハウがない地域には専門家を派遣して支援をいたします。施策を点から面へと粘り強く展開し、地域の防災力を高めてまいりたいと思います。
 行政による公助も充実いたします。福島で命懸けの活動を展開した東京消防庁のハイパーレスキュー隊を八王子にも増設し、多摩地域の災害対応力を強化いたします。
 また、今回の大震災で得た教訓を基に、限られた医療資源を効率的・効果的に運用するため、先月、3名の東京都災害医療コーディネーターを選任いたしました。災害時には都庁に参集し、東京DMATや医療救護班の配置について都内全域の調整を行います。さらに、都内を12の区域に分け、地域内の調整を受け持つコーディネーターも早期に設置し、体制を強化してまいります。

(環境エネルギー戦略の展開)

 東京ならではの環境エネルギー戦略も果敢に展開いたします。
 我々の存在の舞台である地球は、ポイント・オブ・ノーリターンを、今まさに越えようとしていると思います。人類が文明を発展させるためにエネルギーを多量に消費することで、自然の循環は年々、加速度的に狂い、多発する豪雨などの異常気象と呼ばれる現象も、地球の多量の氷がどんどん溶けていく状況を見れば、実は当然の正常な現象に他なりません。
 一方で、エネルギーは高度に発達した文明社会には不可欠なものであります。今、求められることは、地球の未来を考えながら、技術の進歩も見据え、現実的な期間を想定して、その間、どの程度の生活水準を望み、そのために、いかなるエネルギーをどれだけ確保するか、政治が責任ある決断を下すことであります。しかし、国は、原子力発電所が全基停止しようとする中でも、エネルギーの基本戦略を構えることもできておりません。ならばこそ東京は、地球環境問題を念頭に置きながらエネルギーを確保し、環境と経済が高度に両立した都市の実現を目指します。
 発電効率が高く、他の化石燃料に比べて環境負荷が少ない天然ガス発電所の建設では、現在、候補地の事業可能性の調査を行っておりまして、来年度には候補地周辺の自然環境に関する調査も開始します。
 また、民間の都市開発と連携して、新たな助成制度や容積率緩和といった手法を駆使しながら自立・分散型の高効率な発電システムを構築し、エネルギー需給の最適化・効率化も図ります。家庭には省エネを促しながら、太陽光発電の導入を支援もいたします。こうした取組みにより、300万キロワットの電力を新たに創出し2020年には東京産の電力を倍増いたします。
 原発代替のために電力会社がフル稼働させている老朽化した火力発電所は、故障の危険も抱えながら地球環境に悪影響を及ぼしております。そこで、これまで社会資本整備における新たな資金循環のシステムとして提唱してきたインフラファンドを、官民連携でこの夏にも創設し、電力の安定供給にも貢献してまいります。
 具体的な取組みを先導することで、国には抜本的な電力制度改革を迫り、多様な主体による低炭素で安定的な電力の創出を進めてまいります。

(東京の存在感を高める)

 日本の再生を牽引すべく、都民・国民の創意溢れる活発な行動を引き出して、都市としての魅力と存在感を高めてまいります。

〈国際競争力を高める〉

 そのためにも、アジアヘッドクォーター構想を推し進めてまいります。
 アジアにおける業務統括・研究開発の拠点ともなり得る外国企業を誘致するため、都独自の減税措置を実施し、法人実効税率を4割から2割台にまで引き下げます。また、高い付加価値を創出すべく、外国の優れた経営資源と都内中小企業が持つ高度な技術力とを結びつけていきたいと思います。
 都の主体的な取組みに加え、国からは入国審査、電力事業への参入障壁などの規制緩和を勝ち取り、外国企業が活躍しやすい環境を整えてまいります。
 こうした戦略を果敢に展開することで、5年間で外国企業のアジアの拠点を50社以上誘致し、アジアの成長を日本に取り込んでまいりたいと思います。

 円高の影響により、国内のものづくり企業が生産拠点を海外に移す動きを加速させております。産業の空洞化は、我が国の強みである技術力を低下させ、地域の活力を奪いかねません。東京の宝である中小企業の集積を維持し、新たな集積も生み出すために、区市町村と連携し、企業の共同開発・共同受注の推進など産業基盤の強化に取り組んでまいります。中小企業の競争力を高め、製品開発に向けた設備投資も促すことで、ものづくり産業を活性化し、経済にも刺激を与えていきたいと思います。

〈都市の力を引き出す道路ネットワークの構築〉

 文明工学的視点を欠いた都市経営は、東京の有する力を効率的、効果的に発揮することを妨げ、我が国の国際競争力を奪ってきました。そのため就任当初から、東京の最大の弱点である渋滞を解消すべく、三環状道路の整備を強力に進めてまいりました。
 中央環状品川線は、間もなくトンネルの掘削が完了し、平成25年度の開通に向けて最終段階に入っております。外環道の関越道から東名高速までの区間については、国がようやく2020年までに完成させる方針を示しました。これを確実に実行するために、来年度早期にはトンネル工事に着手するよう国を動かしてまいります。
 臨海部では、先日、東京港を跨ぎ湾岸道路の混雑緩和に大きく貢献する東京ゲートブリッジが開通いたしました。今後も、環状二号線や東京港トンネルの整備を進め、東京の道路ネットワークを有機的に結合させ、首都の力を最大限に発揮できる態勢を構築してまいります。

〈日本の首都としての風格を備えた都市を造形〉

 東京が日本の首都としての存在感を高めるためには、風格のある都市を造形しなければなりません。
 知事就任以来、手掛けてきた、東京の、首都の玄関口であります東京駅丸の内周辺の整備も大きく進んでまいりました。東京駅と皇居を結ぶ行幸通りを歴史を感じさせる格調高い道路として整備し、来月には、空襲で一部が焼けた東京駅が復原され、67年ぶりに創建当時の姿を現します。東京駅から行幸通り、江戸城の佇まいを残す皇居周辺が一体となった風格ある景観は、後世に残る我が国の財産になり得ると思います。
 さらに、2020年までに、緑の拠点たる公園を東京全体で日比谷公園の10個分にあたる170ヘクタールを整備し、街路樹も充実させます。緑溢れる美しい街並みを整えた、首都にふさわしい姿で東京の存在感を高めてまいりたいと思います。

(都民生活の安心を確保)

 かつて誰も経験したことのない急激な少子高齢化を見据え、東京が世界に先駆けて超高齢社会の都市モデルを構築していきたいと思います。
 とりわけ認知症は、高齢者にとっては将来への不安であり、家族にも大きな負担となります。本人も家族も安心して生活できる体制を整えるべく、今後3年間で認知症高齢者グループホームの定員を1万人分まで増加させます。働き盛りの年代でも発症する若年性の認知症についても、ワンストップの相談窓口を新たに設置し、就労継続、医療、介護の問題など多岐にわたる支援に繋げてまいります。

 少子化を打破するには、安心して子供を産み育てられる環境が必要であります。潜在ニーズも含めて待機児童を抜本的に解消すべく、都独自の認証保育所も活用しながら、保育サービスを大幅に拡充いたします。先ず、当面の3か年で2万4千人分を増やしたいと思います。子供が熱を出しても安心して預けられる病児保育所・施設も駅の近くに増設するなど、子育て家庭を社会全体で支える仕組みを構築してまいります。

 放射性物質への対策も引き続き進めてまいります。都内小売店で流通している食品について、都民、特に子供が日常的・継続的に摂取する食品などを中心にモニタリング調査を強化するとともに、芝浦と場でと畜した全ての牛肉の検査も進めます。健康安全研究センターの検査体制も強化するなど、都民・国民の安心に繋げてまいります。

(次なる日本を担う人材の育成)

〈強い若者に鍛え上げる〉

 先日の教育再生・東京円卓会議では、日本の科学技術の将来を担う人材をいかに育てていくかについての議論を交わしました。日本人に自信と誇りを取り戻させる縁ともなる、あの小惑星探査機「はやぶさ」を生んだ科学者たちのように、日本を輝かせる人材は内向き志向・安定志向からでは生まれようはずがありません。若者の旺盛な好奇心と発想力を伸ばし、実際の体験の中で様々な困難を乗り越えさせてこそ、そうした人材は生まれると思います。
 その手立ての一つとして、都は独自に高校生の挑戦を応援します。先ずは、都立高校生から志のある生徒を募り、1年間の長期海外留学を経験させます。真の国際人に成長させるため、事前に日本の歴史・文化も教え、海外から日本という国を相対的・客観的に捉える素地を養いたいと思います。

〈若者が活躍する場を提供する〉

 現下の経済情勢から若者の就職は厳しい状況が続いておりますが、東京と日本の発展のため、意欲ある若者を積極的に後押ししてまいります。
 そのため、都は、雇用就業支援の取組みを一層強化いたします。今年度開始した、実際に中小企業で数か月仕事を経験させ、正規雇用に繋げる仕組みを拡充してまいります。未就職の大学新卒者等に加え、フリーターなどの非正規雇用から正規雇用を目指す若者も対象として実施いたします。この仕組みにより、環境や健康など成長が見込まれる産業分野における中小企業の人材確保も重点的に支援してまいります。

(多摩・島しょ地域の振興)

 次に、多摩・島しょの地域の振興について申し上げます。
 来年、多摩・島しょを中心に開催される「スポーツ祭東京2013」は、豊かな自然・文化を有する地域の魅力をアピールする絶好の機会であります。準備を着実に進め、スポーツの気運を盛り上げ、オリンピック・パラリンピックの招致にも繋げてまいります。
 多摩地域では、この春に、圏央道の八王子ジャンクションと高尾山インターチェンジの区間が開通いたします。来年度末には、圏央道へのアクセス道路である新滝山街道と多摩の南北を結ぶ府中清瀬線を全線開通させるなど、多摩地域の利便性を格段に向上させてまいります。
 多摩・島しょの自然は、世界遺産に登録された小笠原諸島をはじめ、貴重な財産であります。都は、独自にレンジャー制度を整えて、貴重な自然を保護する先進的な取組みを進めてまいりました。来年度から、都の職員を現地に派遣し活動を支援することで、レンジャーのパトロール活動を大幅に強化して、比類ない自然を確実に守ってまいります。

(被災地支援)

 次に、東日本大震災の被災地支援について申し上げます。
 未曾有の大震災から間もなく1年が経過いたします。今月、警察官200人が被災県の警察本部に出向したことをはじめ、400人を超える都の職員が、東京を離れた被災地で、治安維持や行方不明者の捜索、除染作業の支援、下水道や港湾等のインフラの復旧、学校教育などにあたっております。アスリートやアーティストも派遣して、被災地を元気づける活動も続けております。東京に避難されている方々は、今も9千人を超えておりまして、都営住宅などを活用して受け入れ、就労・就学も支援するなど生活をきめ細かく支えております。さらに、都は、区市町村や民間と力を合わせ、全国の先頭に立って、被災地の瓦礫を受け入れ、安全を確認しながら順調に処理を進めております。
 被災地の復旧・復興は、日本人が一丸となって取り組まなければ為し得ません。都は、今後も、強力に後押ししてまいります。

3 平成24年度当初予算案等について

(平成24年度当初予算案)

 東京がその実行力を問われている今、これまで述べてきた政策を着実に遂行するための土台は、言うまでもなく強靱な財政であります。
 平成24年度予算案は、都税収入が5年連続で減少する厳しい状況の中、強固な財政基盤を堅持しつつ、直面する難局を乗り越え、東京のさらなる発展に向けて着実に歩みを進める予算として編成いたしました。
 複式簿記・発生主義の手法を駆使した事業評価等で無駄を炙り出し、220億の財源を確保して、全体の支出も厳しく抑制いたしました。その一方で、「2020年の東京」計画を実行するための経費を全額計上し、経済への波及効果の高い投資的経費も8年連続で伸ばしております。都債への依存度も8%に抑えつつ、基金残高も8300億円確保し、将来に向けた手立ても講じております。こうしたことができたのも、財政を立て直すべく現実と真正面から対峙し、本質的な議論をたたかわせながら、改革を重ねてきたがゆえであります。
 これとは対照的に、国の来年度予算案は、国債依存度が約5割という尋常ならざる事態に陥っております。国も、都と同様に、会計制度を根本的に改革して無駄を省き、財務諸表をきちっと提示し、職員を削減するなど、一刻も早く、為すべき改革を断行すべきであります。
 また、社会保障と税の一体改革が議論されておりますが、先般、政府が閣議決定した大綱の中に、国が道理もなく奪った法人事業税の暫定措置の撤廃に向けた方針が明記はされました。当初約したとおり、確実な撤廃に向けて、都議会の皆様のお力添えを是非お願いいたします。

(築地市場の豊洲移転)

 次に、築地市場の豊洲移転について申し上げます。
 豊洲新市場への移転を希望する事業者の不安を払拭すべく、移転資金や運転資金、移転後の新たな事業展開に必要な資金の手当てなど、経営支援策を講じてまいります。また、先般、地元中央区と築地市場の移転についての合意を交わし、今後、区と共に跡地の一部を活用して築地の賑わいを継承する方策についての検討を進めてまいります。
 老朽化した築地市場の移転は、「昭和からの宿題」であります。平成26年度の豊洲新市場の開場に向けて、着実に取り組んでまいります。

(朝鮮学校に対する補助金)

 次に、朝鮮学校に対する補助金について申し上げます。
 都は、外国人の子供を教育する各種学校の運営に対しても助成を行っております。これは、外国人の日本に対する理解や愛着を深め、我が国の将来にとっても非常に有意義なことであるとも思います。
 しかし、その学校が、同胞を誘拐・拉致した北朝鮮の影響下にある朝鮮総連と密接な関係があると指摘され、教育内容や政治的中立性などに疑念が呈されているのであれば、これは話は全く別であります。朝鮮学校に対する補助金は、予算に組み入れないことにいたしました。今後、学校運営や教育内容について徹底した調査を進めてまいります。

4 日本再浮上の道筋をつける

 さて、私は、今から四十数年前、直接、戦地に赴いてベトナム戦争を取材する中で、当時のベトナムと同じように、日本でも自由主義体制が崩壊する日が来るのではないかという強い懸念を抱き、政治家としての道を歩み始めました。
 日本が費やしてきた努力は、自由主義と市場経済の優位を証し、我が国は経済大国としてかつてない成功を手に入れました。しかし、イデオロギー対立の終焉と東西冷戦の終結は、新興国の経済的・軍事的な台頭をもたらし、文明の衝突とも言うべき対立を顕在化させ、我が国を取り巻く国際情勢は複雑化して、厳しさを増しております。
 そうした中で、今の日本人の多くは、物質的な繁栄の中に溺れ、祖先から受け継いできたはずの価値の基軸を見失い、アメリカ依存の平和に安住して、自らの足で立とうとする意欲すら失っているのです。世界観・歴史観を持たない政治家たちもまた、危機感を欠いたまま、理念なき離合集散を繰り返し、ただ自らの保身のために国民に媚びて、問題を先送りしてきました。それは、国の政治家の多くに、国家を背負うという気概がなく、何が肝心なのかを理解する力もないからに他なりません。
 私は、今また、このままでは日本は滅亡するのではないかという強い懸念を抱かざるを得ないのです。
 首都東京の知事として、日本を愛する一人の政治家として、このまま見過ごすことは絶対にできません。志を同じくする都議会の皆様と共に、時には他の都市とも手を組みながら、危機の本質にメスを入れ、東京から日本再浮上の道筋をつけるべく、渾身の力を振り絞ってまいります。皆様のより一層のご理解とご協力をお願いいたします。

 なお、本定例会には、これまで申し上げたものを含め、予算案30、条例案91など、合わせて134件の議案を提案しております。よろしくご審議をお願いいたします。

 以上をもちまして、施政方針表明を終わります。