石原知事施政方針

平成24年6月5日更新

平成24年第二回都議会定例会知事所信表明

平成24年6月5日

 平成24年第二回都議会定例会の開会に当たりまして、都政運営に対する所信の一端を申し述べ、都議会の皆様と都民の皆様のご理解、ご協力を得たいと思います。

1 日本のために東京が行動を起こす

 我が国が、戦後、独立を回復してから、今年で、ちょうど60年が経過いたします。しかし、日本人は、独立を回復した後も長きにわたって、アメリカ依存の平和を当たり前のこととして考えてきました。アメリカに奉仕し、その引き替えに手に入れた経済的繁栄が永久に続くような錯覚に陥り、現実を見ずとも権利さえ主張すれば何でも叶うという自堕落な風潮が国中に蔓延してきたのであります。
 我々の周りでは、シナが海軍力を膨張させ、覇権的な海洋進出を続け近隣の国々を脅かし、同胞を誘拐し拉致した北朝鮮は、ミサイル実験を強行し核兵器の開発を続けております。ロシアは、我が国の領空近くに爆撃機を飛行させるなど威嚇行動をとっております。自らの手で自らを守るという当然のことを放棄し、各国が国益を構えてしのぎを削る国際社会の本質から目を背け、事なかれ主義を貫いてきた報いが、今、自らの生命・財産を脅かす危機となって、現れているのであります。
 国の政治家たちは、危機を叫んではみても、具体的な行動は一向に見えず、本当に危機を自覚しているようには思えません。こうした中にあっては、東京こそが「天は自ら助くる者をのみ助く」という人の世の公理を思い起こし、一地方という垣根を越えてでも、国家のために行動を起こさなければならない。この国の未来はありません。

(尖閣諸島の購入を決断)

 都は、豊穣な海、豊かな自然など尖閣諸島の有する特長を活かして、東京のためにも、都民のためにも、そして国家のためにも、施策を実行すべく、3つの島を購入する決断をいたしました。小笠原諸島と伊豆諸島を擁する都が、国の無為のまま荒廃した島々を蘇らせることで、国土保全にも繋げてまいります。
 これに対しては「中国との間には領土問題があることを認めるようで得策ではない」などと、もっともらしく語る向きもありますが、これこそ戦後、我が国で幅を利かせてきた、安易な事なかれ主義に他なりません。
 シナは、海底資源埋蔵の可能性を知るや、我が国が尖閣諸島の領有を開始してから80年近くが経った昭和46年になって、この島々がシナ固有の領土であるとの荒唐無稽な主張を始めました。近来、付近に漁船などを出没させて領海侵犯を繰り返し、一昨年には厚い装甲を備えた漁船と称する特殊船が、我が国の巡視船に体当たりするなど、実力行使に出てきました。昨今、外国の資本がこの国のあちこちの土地を買い占めている現況の中で、一刻も早くあの島々の権利を個人から公の所有へと切り替え、領土と排他的経済水域を確かに守る手立てを講じる必要があります。
 弱腰な態度に終始し不作為を決め込む国に代わって、都は、日本の実効支配を強化すべく、石垣市や沖縄県とも連携しながら、豊穣な海や豊かな自然など島の特長を活かした活用方法について検討してまいります。
 東京が起こした行動に対しては、全国から多くの賛同の声や拠金が寄せられております。心から感謝申し上げます。こうした国民の国家を想う志は、我が国を救う大きな大きな縁になると思います。これを力にしながら、国の賃貸借契約の切れる来年の4月の所有権移転を目指して取り組んでまいります。

(横田基地の軍民共用化の実現に向けて)

 続いて、横田基地の軍民共用化の問題について申し上げます。
 人と物の交流が都市や国家の活力と繁栄を左右する現代において、空港容量の確保は、その国の浮沈に直結する大事な問題であります。
 今から9年前、都は、我が国最大級の滑走路を有する横田基地の軍民共用化の実現に向け、日米両政府を動かして交渉の端緒を拓きました。しかし、その後、日本政府は、特に外務省は、平時はほとんど使われていない兵站基地である横田基地について、軍事運用上の理由から共用化は困難とするアメリカの主張を鵜呑みにし、日本の国益そのものであるこの問題に、真剣に取り組んでこなかったのです。
 私は、こうした国の態度に業を煮やし、先の訪米では国務省の要人とも直談判してまいりましたし、帰国後、野田総理にも直接要請して、先の日米首脳会談の中でこの問題を再び、取り上げさすことができました。
今後、この新たな動きを確かな足掛かりとして、先ずは日本側において体制を固め直し、一枚岩となって、アメリカとの実質的な交渉に臨んでまいります。
 外交は本来、国の役割でありますが、都は、これからも日本のため必要とあらば、いつでも行動を起こし、国を突き動かしてまいります。

2 東京が日本のダイナモとしての役割を果たす

 政治・行政の不作為は、後々まで都民・国民に多大な損失を及ぼすことになります。東京は、国家存亡の危機を乗り越えるために、日本のダイナモとして、為すべきことを果断に実行してまいります。

(エネルギー危機への対処)

〈抜本的な電力制度改革〉

 大震災以降、エネルギーの問題が我が国に重くのしかかっております。戦災からの復興と高度成長を実現してきた我が国の電力供給体制は、今や制度疲労をきたしており、その改革は避けられない課題であります。そのためには先ず、最大の電力会社であり、制度疲労の象徴とも呼ぶべき様々な問題が露呈した東京電力の構造改革が不可欠であります。
 料金値上げを盛り込んだ総合特別事業計画も策定されましたが、家庭や中小企業への影響も大きいことから、コスト削減をさらに前倒しするなど改革を加速させなければなりません。都は、首都東京の行政を預かる責任者として、株主や大口ユーザーの立場も利用し、株主総会を含め、あらゆる機会を捉えて、経営の透明化や競争原理導入によるコスト削減など具体的な要求を行ってまいります。合わせて、実績のある公認会計士を社外取締役として送り込み、改革の実行を迫ります。
 さらに、電力会社による地域独占の電力供給体制を改め、市場自体の競争性も高めていかなければなりません。先般、経済産業大臣に対して、市場開放の数値目標を示した上で、新規参入を促進する手立てを講じるよう要求いたしました。都独自でも具体的な取組みを進めております。奥多摩にある都の水力発電所で生み出す電力は、条例によって東京電力のみを売却の相手方としてきましたが、他の事業者にも売却可能とするよう検討を進めております。また、水道や都立高校といった都の施設では、今年度から東京電力以外の事業者とも供給契約を結び、調達先の多様化を図っております。地域独占の電力会社に頼らない東京産の電力を創出する取組みである天然ガス発電所の建設では、3か所の候補地において事業化が可能であるとの調査結果が出ました。次のステップとして、周辺の自然環境について調査を進めてまいります。

〈暑い夏を迎えるにあたって〉

 今年もまた、間もなく暑い夏を迎えます。昨年の夏は、都民・国民・企業それぞれの懸命な努力で節電を実現し、過度に電力を使ってきた我々の生活を見直すきっかけともなりました。
 この夏の東京電力管内の電力需給見通しは、昨年よりは改善しているものの、電力不足を補うため、現在稼働させている老朽火力発電所は、故障のリスクがつきまとい、地球環境にも悪影響を与え続けております。我々は、これからも節電を継続し、定着させていかなければなりません。
 そのためには、昨年の経験を基に、合理的な節電を進める必要があります。都民・国民・企業の皆様には、自らの周りを改めて点検し、照明の照度を落とすことや省エネ型機器への切り替えなど、日常的な節電を行うようにお願いします。また、万一の電力需給逼迫時に備えて、時間帯を限ってさらに節電を上乗せする方策をあらかじめ用意しておくようお願いいたします。
 そうした取組みを後押しすべく、大規模事業所には、省エネ取組事例を具体的に紹介し、導入を促します。中小企業には、電気料金の値上げの影響も緩和すべく、無料の省エネ診断に加え、業種別の省エネ研修会を開催いたします。さらに、電気の使用状況を監視・制御する装置の導入も支援するなど取組みを充実させております。家庭には、専門家を派遣して節電方法をきめ細かく助言するとともに、熱中症に備えて自治会や民生委員など地域の力による高齢者の見守りも実施いたします。

〈原子力発電所の稼働に関する都民投票〉

 直接請求によって、本定例会に提出されている「東京電力管内の原子力発電所の稼働に関する東京都民投票条例案」について申し上げます。
 エネルギーは、国家を支える重要な基盤の一つであります。経済産業は、エネルギーを消費して新たな富を生み出し、それが医療、福祉、教育、防災、治安などにまわり、高度に発達した社会を支えているのです。今、政府が為すべきは、現実的な期間を想定して、その間、我々がどの程度の経済成長を目指し、そのために、いかなるエネルギーを、どれだけ確保していくのかの大きなシミュレーションを行うことです。そして、その結果を国民にも示して、センチメントではなく理性的な討議の下で、政治が責任ある決断を下さなければなりません。
 原子力発電所の稼働の是非は、国家の安危を左右する問題であります。政府が安全性はもちろん、経済性、産業政策、温暖化対策、安全保障などを複合的に考慮した上で、専門的な知見を十分に踏まえて、冷静に判断すべき事柄であると思います。
 直接民主制が、間接民主制を補完する重要な手段であることは論を俟ちませんが、ただ観念的に原発の是非のみを問い、その結果が錦の御旗が如く力を持つならば、国を滅ぼす危険なことにもなりかねません。
 ゆえにも、本条例案には反対であります。都議会の皆様には、賢明な判断をいただくようお願いいたします。

(高度防災都市の造形を加速)

 喫緊のエネルギー問題に加えて、都民・国民の抱える大きな不安が、災害対策であります。
 先般、都は、最新の科学的知見を踏まえて、首都直下地震を再検証し、海溝で起こる元禄型関東地震や活断層で起こる立川断層帯地震も対象に加えて、被害想定を見直しました。最大震度7の地域が現れるなど明らかになった事実も直視し、9月には地域防災計画の見直しの素案を打ち出すなど、高度防災都市の造形を加速させてまいります。

〈木密地域不燃化10年プロジェクト〉

 今回の想定では、火災や建物の倒壊により大きな被害が発生するという東京の弱点が、改めて浮き彫りになりました。木造住宅密集地域の不燃化は焦眉の急であり、助成の上乗せや都税の減免などを行う「不燃化特区」の先行実施地区を、8月を目途に選定いたします。
 一方、木密地域は細やかな人情に溢れる地域であり、そこに息づく「共助」の精神を防災力の向上に結びつけてまいります。地元消防署や消防団員の方々が町会・自治会などの防災訓練を支援し、初期の消火活動を担う人材も育成いたします。先日認定した「防災隣組」とも合わせて、「共助」の力で街を守る取組みを展開してまいります。

〈津波・高潮対策〉

 津波に関する想定では、地盤沈下を見込んでも波が東京湾の防潮堤を越えることはなく、現在の高さで防護可能としております。しかし、これに安住して対策を怠っては、「想定外」という言葉を再び繰り返すことになりかねません。水門や防潮堤などの耐震性を総点検し、必要な強度を備えるよう整備を着実に進めてまいります。島しょ地域については、今後、港ごとに具体的な津波高を想定した上で対策を講じてまいります。地震発生後、津波到達までの時間が短く、高台へ避難する暇がないと想定される大島の岡田港については、避難施設の整備に着手いたします。

〈日本の頭脳・心臓を一刻たりとも止めない〉

 震災発生時に、救援・救助活動の動脈となる道路が閉塞しては、発災直後の最も重要な時間をいたずらに失うことになります。このため、この4月から緊急輸送道路の沿道建物に耐震診断を義務付けております。診断では現状を明らかにし、助成や低利融資制度により耐震性の向上を後押ししてまいります。合わせて、耐震性を有する建物を表示するマークを配布し、建物の性能を広く知らせることで都民・国民の意識を高めてまいります。耐震化の取組みは、まだ緒についたばかりでありますが、ビル所有者の方は、地震を我がこととして捉えて、社会への責務を果たしていただくようお願いいたします。
 都民の生命・生活に直結するライフラインの施設や病院なども対策を進めてまいります。三郷浄水場には、被災時にも安定した給水を確保するため、2万キロワットの発電設備の増設に着手いたします。また、震災時の衛生環境の悪化を防ぐため、下水道管の耐震化をさらに進めるとともに、汚水を処理する水再生センター同士を連絡管で相互に結ぶことで、一方のセンターが被災した際にも、汚水を処理できる体制を整えます。災害医療の中心的な役割を担う都立広尾病院には、災害発生時にも医療活動が可能となるよう、新たな常用発電機の設置に着手いたします。

 一方、国や全国知事会では首都のバックアップ・機能分散という議論が、またぞろ繰り広げられております。震災リスクを口実に無駄な箱ものづくりが他方で行われれば、国力を益々衰退させることになります。首都の防災力向上こそが先決でありまして、そのためにも、国は、道理もなく奪った法人事業税を東京に速やかに返還すべきであります。確実な撤廃に向け、都議会の皆様の一層のお力添えをお願いいたします。

(東京の魅力を高める)

 都民・国民の安全・安心を守りつつ、機能性の向上や生活に潤いを与える魅力ある空間の創出など、都市としての総合力を高めてもまいります。

〈機能的な都市の実現〉

 都市の機能性の欠如は、東京で活動する主体の力を削いでまいりました。かつてアジアの中心的地位にあった東京が、他のアジア都市の猛追を受けている所以は、文明工学的視点に欠いた政治・行政の不作為にあります。東京の未整備な環状道路はその最たるものでありまして、知事就任以来、交通渋滞の解消に全力で取り組んでまいりました。その要となる外環道は、事業者となる高速道路会社も決まりました。今年度トンネル工事に着手する運びになりました。2020年までの確実な完成を、国に求めてまいります。

〈都市の風格を高める〉

 首都としての風格も高めてまいりたいと思います。緑の拠点たる公園を整備し、街路樹の充実を図り、緑溢れる都市の姿を、この秋に上野恩賜公園や井の頭恩賜公園などで開催する「全国都市緑化フェア」で発信したいと思います。「隅田川ルネサンス」事業など、水の都・東京を復活させる取組みとも合わせて、美しい街並みの再生を進めてまいります。
 東京では、67年ぶりに復原された丸の内駅舎に加え、東京スカイツリーや渋谷ヒカリエといった新たな魅力が次々生まれております。4月には東京都美術館が、世界の名品と出会える、新たな文化の発信拠点としてリニューアルするなど、芸術文化の魅力も高まっております。この機を捉え、外国人旅行者を積極的に呼び込んでまいりたいと思います。10月には各国財務大臣・中央銀行総裁が集まるIMF(国際通貨基金)・世界銀行の総会が東京で開催されます。震災後も変わらない東京の魅力を感じてもらうことで、オリンピック・パラリンピックの招致実現にも繋げてまいります。

(被災地支援)

 次に、被災地支援について申し上げます。
 先般、震災に加えて原発事故や風評被害に苦しむ福島県のPRを兼ねて、都の呼びかけによって、裏磐梯での関東知事会が開催され、その場で、今後も福島をはじめ被災地を連帯して支援していくことを決議いたしました。とりわけ福島を強力に支援するため、都は、民間の協力を得て、キャンペーンを継続的に展開し、都内主要駅や都のイベントで特産品を販売するほか、被災地応援ツアーとともに観光PRを重点的に行ってまいります。また、互いの友情を心に長く刻むために、福島と東京の桜の木を贈り合う桜の交流プロジェクトを実施いたします。福島から贈られた桜の木は、「全国都市緑化フェア」で、都民に披露いたしてまいります。
 被災地のインフラの復旧や災害に強い新たなまちづくりも後押ししてまいります。都は、被災地が求める即戦力の人材を供給すべく、都・区市町村などのOBや民間の技術者を任期付技術職員として採用し、9月から最長5年間、被災地に派遣いたします。目に見える形で街が復興していくことは、懸命に立ち上がらんとする被災地の人々を勇気づけることになると思います。この全国初の試みを広く紹介し、今後のモデルケースともしてまいります。

(オリンピック・パラリンピック招致)

 日本の再生を果たしていく上で明確な目標となる、2020年のオリンピック・パラリンピック大会については、先月、ケベックで開かれたIOC理事会で、東京都が立候補都市に選ばれました。予測された当然の結果であり、厳しい戦いはまさにこれからであります。改めて気を引き締め、先ずは、来年1月の国際プロモーション開始に向けて、開催計画と招致戦略にさらに磨きをかけてまいります。
 来月から開催されるロンドンオリンピックには、私自身も現地に赴きまして、IOCなどの関係者に対して、東京の優位性をしっかりと訴えてまいりたいと思ってます。同時に、国家を背負って勝負に挑む日本代表の選手も応援いたします。日本人が国家との一体感を感じるこの機会を梃子にして、都民・国民の招致気運をさらに盛り上げてまいりたいと思います。
 日本を復活させるためには、オリンピック・パラリンピック招致を絶対に実現しなければなりません。JOCをはじめスポーツ界、経済界など国家の総力を挙げた取組みを強く求めてまいります。東京も為すべきことは確実に実行してまいります。

3 日本のために

 さて、現在の国政は、消費税の税率引き上げなどを巡って混乱し、惨憺たる状況を呈しております。政治家主体の政治を唱えた与党は、官僚を使いこなせず、マニフェストなる実現不可能な数々の約束が重しとなって政治を前に進めることができないのであります。しかし、これに対抗する野党もまた、中央官僚に操られながら長い間政権を担ってきた自分たちの責任を棚上げにしております。
 日本は今、国家としての大事な歴史的岐路に差し掛かっております。国政が機能不全に陥っている中で、進むべき針路を指し示すことができるのは、国政の担い手とは対照的に、高い志と現実感覚、実行力を兼ね備えた地方の政治家たちであります。わけても首都東京の政治家たちには、傾いたこの国を立て直す大きな使命と責任があると思います。
 日本のために、この東京を国家再生の起点とすべく、全力を尽くしてまいります。皆様のご賛同とご協力をお願いするものであります。

 なお、本定例会には、これまで申し上げたものを含めて、条例案15件、契約案7件など、合わせて25件の議案を提案しております。よろしくご審議をお願いいたします。

 以上をもちまして、所信表明を終わります。