石原知事と議論する会

平成13年3月9日更新

世界との交流促進のために 〜首都圏における航空のあり方〜
平成12年度第3回「石原知事と議論する会」議事概要


テーマ  世界との交流促進のために 〜首都圏における航空のあり方〜

日時  平成13年2月19日(月)午後2時から午後3時40分まで

場所  羽田空港ビル 6階ギャラクシーホール(大田区羽田空港3−3−2)

趣旨  21世紀には地球規模での交流の活発化が予想され、空港は都市にとって不可欠な社会資本になっています。しかし、首都圏は増大する航空需要に対応できず、空港機能の充実が喫緊の課題となっています。
 また、多摩地域では、横田飛行場が返還されることを基本としつつ、返還までの対策として、民間航空との共同利用を国に強く要望しています。
 東京都は12月に「航空政策基本方針」を取りまとめ、首都圏における航空のあるべき姿、政策の方向及び取組方針などを明らかにしました。首都圏における航空のあり方は、首都圏が日本の活性化の牽引車となり、日本の国際競争力を維持するうえで重要なテーマです。
 このため、発表された「航空政策基本方針」を素材のひとつとして、首都圏における航空のあり方について都民のみなさんと意見交換を行います。
   
参加者
12年度第3回知事と議論する会の写真(公募都民)
発言者 8人、一般参加者 150人
(コメンテーター)
白石真澄さん(ニッセイ基礎研究所主任研究員)、杉浦 一機さん(航空アナリスト)、棚橋 泰 さん(東京都参与)
(都側出席者)
知事、関係局長、政策報道室理事(司会)

発言要旨
 以下は、出席者の発言内容を政策報道室都民の声部で要約し、取りまとめたものです。

○石原知事

 きょうは大演説をするので覚悟して聞いてほしい。「運輸は文明のアクセス」の言葉のとおり、物を運ぶことが、情報、人を運び、近代を確立する要因の一つとなった。国家が近代国家として先進国として、栄えていく条件の一つが国際空港だと思う。それに対する配慮がほとんど歴代の日本政府になかった。佐藤さん(故佐藤栄作首相)が羽田では狭くなるから国際空港をつくろうとしてから、今日までかかっている。国家事業となると日本人ほど拙劣で時間と金をかけるものはない。東京からワシントンまで4時間で飛ぶ超音速機を受け入れる飛行場がなければ先進国の首都たる要件にならないが、日本にはない。4年後の平成17年には国際線が、平成22年には国内線もパンクする。どうするかを政治家も役人も国民も全然考えない。

 第3の首都空港をどこにつくるか様々な案が出ているが、成田の体たらくを見ればいつできるかわからないから、私は今ある羽田の滑走路沖合に桟橋方式で 4,000メートル滑走路をつくろうと考えた。これができると年間21万便の発着が45万便に増える。アメリカNIC(国家情報会議)の日本についての中期分析予測が去年の暮れに出た。あと15年経つと、日本はアメリカ、EUと並んで三極をなす地位は保てない。世界で十六、七番目の経済国になっているだろうという。さらに未発表の部分では、日本は力を持ちながらアジアで強いリーダーシップを取ろうという意志が全くないという。恐らくずるずる滑って、そういう体たらくになると思う。だから、国のために東京都の専門家たちが考えて今度の案を出した。

 私は議員のころから横田があの形であるのはおかしいと思っていた。横田は日本で一番大きな管制空域を持っていて日本の飛行機が入れない。太平洋側で羽田に向かうアプローチが、本来10車線で走れるところを2車線に制限されているから正面衝突しそうになった。10車線で走っていれば管制塔が間違ったにしても、あんな事故は起こらずに済んだ。アメリカがいいように使っている。日本の中にアメリカの国土がある。私は反米でも嫌米でもないが、どう考えてもおかしい。私は安保を支持するが、これは別の問題だ。横田は兵たん基地でベトナム戦争で物資の中継基地となったが、今はほとんど使われていない。アメリカ軍がコントロールしているので飛行場に斜めから入ったり、ヘリコプター訓練で町の建物の上でホバーリング演習したりしている。そういうばかなことがずっと続いていることを皆さんは知らない。政治家も知らない。役人は知っているが、見て見ぬふりをする。何でこれが私たちの空にならないのか。日本の管制官がコントロールしたら、アメリカの飛行機だって日本の飛行機だって飛べる。ジョイント・ユースで国内線に使われるようになったら、新宿から電車で30分で行ける。

 この問題は日本全体で考えないといけない。玄関が狭くて客が来なかったら国はますます衰弱する。騒音の問題は補償すればいい。首都圏の空港で羽田のように立地条件のいいところはない。国際化し、新しい滑走路をつくったらいい。役人や国の政治家がやらないなら、国民でやりましょう。都は先頭切ってやります。日本の近い将来を支える空港整備を羽田からやりましょう。よろしくお願いします。

○白石さん(コメンテーター)

 首都圏の空港整備については、4つの観点から国家的な課題として取り組むべきである。1)利用者の利便性向上。2)地方との人、物、情報の交流の活発化による地方経済を含めた我が国全体の経済活性化。3)国際社会における我が国の経済的地位の維持向上。4)21世紀の基幹産業に成長しうる旅行、観光産業の基盤強化。

 基本認識として、首都圏の空港容量の有効活用は日本全体の問題との認識を持つ必要がある。また成田と羽田の共生なしには首都圏の国内、国際需要に対応できない。千葉県民の理解の上に、成田の機能確保と拡充が今後の最大課題である。加えて、羽田の再拡張を行うことで初めて首都圏と地方を結ぶ国内線ネットワークが完備する。さらに枠拡大努力で羽田の国際化が可能になり、首都東京の国際競争力が強化される。

 そのためには2つの緊急課題がある。1)国内線ネットワーク完成が地方経済活性化を含めた緊急課題。現在の羽田の処理能力では地方と東京とを結ぶ路線拡充、特に朝夕ピーク時の地方からの増便要求に応えられていない。来年7月の発着枠拡大の前倒し実施、さらに管制能力向上、誘導路確保により年間4万回増加が可能。抜本的解決策として、羽田の再拡張を早急に決定着工する必要がある。2)国際線需要への対応と利便性向上が日本の経済的地位を左右する課題。現在の成田増便余力はゼロ。2002年に成田B滑走路が供用開始されるが2015年に限界が来る。

 首都圏の空港整備を考えるために7点を提案したい。1)長期的な空港整備のグランドデザインを描く。常に将来を見渡し一定の余力と、質的、コスト的にも国際的に優位な空港をつくるべきである。2)成田の2期と羽田の再拡張のグランドデザインを描き、その後さらに第3空港の必要性の有無を検証する必要がある。3)グランドデザイン検討に当たっては、成田と羽田の一体的運用を視野に入れるべきである。4)羽田空港の処理能力の拡大策。現在東京上空の飛行ルートが規制されているが、見直しを含めた処理能力の向上策が不可欠である。5)アクセスの抜本的改善。羽田、成田、都心を30分で結ぶ軌道系、道路が必要である。6)羽田の国際化については、様々な要素をにらみながら慎重に進める必要がある。まず国内枠を拡充した上で、さらに国際枠ををどうしていくかの議論が必要である。7)騒音問題を含め、羽田、成田両空港の地元住民の方々の理解を得る最大限の努力をすべきである。

 最終的に再拡張後の羽田については、40万回を確保して国内線ネットワークを完成する。プラスα10万回以上を確保して近距離の国際路線を中心に発着させる。2期完成後の成田については、中、長距離の国際路線を中心に拡充。路線により、それぞれが役割分担をする絵姿もあるのではないか。

○杉浦さん(コメンテーター)

 21世紀の航空政策は市民の立場に立って作るべきである。ライト兄弟が初めて空を飛んだのは1903年。現在では五、六百人乗りの飛行機が時速 1,000キロで飛ぶ時代になった。この1世紀を振り返ると、前半は飛行機が安全に飛ぶ技術開発に終始した。残りの半世紀に顕著だったのは、国家が航空をいかに利用するかという大きな観点があった。民間航空でも軍事力をバックアップするための輸送力として育成補助したり、外貨を獲得するために航空会社を育成してきた。利用者の利便性は二の次だった。ところが20世紀の最後、東西冷戦の終結、ボーダーレス社会になって、利用者のための航空政策が考えられるようになった。それが規制緩和であり、航空自由化である。国家の意思と別に、利用者にとって便利で使いやすい空港や航空政策が重要である。日本でも航空自由化が数年前から始まった。都が全国の自治体に先がけて、昨年末に基本方針をまとめたことは大変意義がある。都は国の立場でなく、都民の声に耳を傾けて政策を立ててほしい。

 利用者の立場に立った航空政策という点で、現在の首都圏の空港は時間とコストがかかりすぎる。コストアップは皆さんの生活での負担が増える。ひいては日本人が自分たちの首を絞めている結果になる。2番目は都民の立場として現在の首都圏の空港が首都にふさわしい空港かどうか。ニューヨークでは3つの空港で9本の滑走路が国際線に使われている。ロンドンでは3つの空港で8本の滑走路が国際線に使われている。首都圏のぜい弱な国際空港が都民にとってマイナスになっているだけでなく、世界の航空ネットワークにも迷惑をかけていることを認識すべきだ。アジア諸国では90年代半ばから続々と、21世紀半ばまで使える新しい空港が開港している。その最後がソウルのインチョン国際空港。ここは2020年を想定して超音速旅客機を含めて受け入れ態勢ができ、今年開港する。この構想ができたのが1989年ころである。そのとき日本でようやく首都圏で第3空港がいるという議論が始まった。しかし日本では、いまだ空港の候補地もできない段階である。この国の未来の空港政策に大変疑問を感じている。今世紀は大交流時代で人々の交流が盛んになるだろう。中でも航空が重要な役割を果たすであろうと言われている。しかし、現在の首都圏の空港は極めて貧弱な状況にあることを憂える。きょうは都民の皆さんから具体的なお話が聞けることを楽しみにしている。

○棚橋参与

 国は今まで首都圏の空港問題に危機感を持ってこなかったことは確かである。しかし、都はもっと関心を持ってこなかった。都は首都圏の空港整備に、積極的に国に提言したり要求したことは全然なかった。むしろ羽田空港はうるさいから沖へ出ていって国内線専用にという陳情すらしていた。石原知事になってから 180度転換し、国際空港の必要性、国内空港の拡充について積極的姿勢に変わった。これは画期的なことだし、きょうの会を通じて都の気持ちを結集していけば必ず物事は転換していくと思う。

 首都圏の国際空港の問題について、4点申し上げる。1)首都圏空港の問題解決は緊急で一刻の猶予もできないという認識を強く持つべきである。第3空港の話がやっと動き出したり、成田を何とかしなければということがあるが、第3空港をつくるとして15年は最低かかる。成田もあの体たらくではいつできるかわからない。もっと緊急な手を打っていかねばならない。2)何をやるか。総合策しかない。第3空港だけとか成田をどうするかも大事だが、現在ある羽田や横田基地を有効に使うことを真剣に考え、これらを組み合わせて総合的に問題を解決していくしかない。3)総合策をとるときに、羽田は大変いい空港であることを再認識すべきである。羽田空港はロンドンのヒースロー空港より大きいし、ニューヨークのニューアーク空港の 1.8倍の広さがある。これらの空港は、それぞれ3本の滑走路で運用されている。ヒースロー空港は年間44万回の離着陸をさばいている。ニューアークは46万回、対して羽田は24万 5,000回である。2004年に増やすといっても27万回が限度。羽田は運用に問題がある。4)都市が空港の利便を享受するためには、都市の住民も犠牲を払うことを認識すべきである。世界の主要都市圏の空港は、ニューヨークでもパリでもロンドンでも内陸型で、飛行機が町の上を飛んでいる。ところが、東京だけは上空を旅客機が離発着することはない。都民は何も犠牲を払わないで空港の利便だけを享受している。犠牲をかぶっているのは千葉県民である。国際線の成田は千葉県民の頭上を飛んでいる。国内線の羽田は海上と千葉県の上。都民は何もかぶらないで2つの空港の利便だけを享受している。都民も少し我慢するから千葉県の人も我慢してください。でなければ話は通らない。

○高橋さん(都民)

 羽田に住んでいる。空港は非常に便利なものだが、地元の人間は騒音、排ガス公害に悩まされている。騒音の始まりは昭和34〜35年から。飛行場も大型化し、滑走路もないのに大きな飛行機が飛んでくる。やりきれないと住民の反対運動が始まった。大型飛行機が住宅の隣接地に飛んできて、健康被害どころではない状況が生まれた。鼻血の出る人まで出て、騒音のストレスだとわかった。昭和40年代に入って政府が飛行機の便数を多くして、滑走路を延ばしたり拡張しだした。これはたまらん、何とか移転しろと始めて、大田区議会も飛行場撤去を決議した。その延長線上で沖合移転が始まった。移転を政府に決意させるために地元の代表と国会議員が政府に押し掛けた。騒音がひどくて滑走路まで座り込みをした。国の経済拡大となれば、やむを得ないと漁師も廃業した。補償という見返りはあったが、海があれば子々孫々働く場が提供された。だから相当の覚悟をした。30年代から始まった騒音が、昨年沖合移転で全部仕上がったら今度は、羽田の住民の上空に飛行機を飛ばすようになった。国が一方的にやったわけでなく、空港周辺の代表者団体がすべて了解していることがわかった。住民が40年かかってようやく静かさが生まれたと期待したが、一部の代表者が住民を無視してこういうことをしていいのか。私は了解できない。16日に夜間の国際便が飛んで、行った人はよかったと言っているが、24時間化なんて、またあの時代が繰り返すのかという恐怖がいっぱいである。

○石原知事

 沖合展開は騒音、環境対策ではない。キャパシティーが足らなくなったから動かした。

○長谷川さん(都民)

 私たちは、利用者にとって空港が分散するのは使いにくいし、既存インフラを有効活用できることから羽田の再沖合展開をやるべきと主張してきた。数年前、運輸省に提言したが、東京港の航路問題と騒音問題から全く考えられないということだった。一昨年ころからスタンスが変わり、羽田の再拡張も検討項目の一つとなった。昨年秋、定期航空協会と都が相次いで沖合展開を提言した。私たちにとって心強い。

 再沖合展開をする上で課題が2点ある。1)東京港第一航路の問題。船の安全確保と空港の再拡張を両立させてほしい。第一航路は都が管轄している。首都圏全体として空と海をどうバランスさせるか、知事は強いリーダーシップを発揮してほしい。2)空域問題。滑走路を増やしても、空域、航空路の問題を解決しないと便は増えない。成田、羽田発着便はほとんど千葉県上空を通過している中で、東京都上空通過も主体的に検討して住民の理解を得ないと、容量拡大や国際化の議論に入れないと思う。横田の空域については、安全性の面からぜひ強力に返還に向けて頑張ってほしい。

 羽田の国際化について、もともと国内線の拠点空港であり、日本経済全体にとって今の羽田の天井が悪影響を及ぼしている。一方成田空港も滑走路1本だけで2本目も長さが足りない。4,000メートル滑走路2本の国際標準並みにしてほしい。しかし、成田に国内線を持っていくのは現実的に不可能なので、羽田は本来の国内線拠点空港としての役割を果たしてほしい。その上で、拡大した容量を国内、国際どう使い分けるかを国民的議論の中で決めていく必要がある。羽田と成田を20〜30分で結ぶ鉄道ができれば、一体的運用が可能となるので、都として積極的に検討してほしい。そうすることで容量拡大後の成田、羽田の役割分担を議論する選択肢が増える。

○齋藤さん(都民)

 昨年9月まで海外で生活していた。頻繁に日本にビジネスで帰ってきた。現地を夜出発して、朝成田について、会社に向かい仕事をするというパターン。成田の手前、九十九里上空で着陸待ちでグルグル旋回して、やっと降りたら電車が全然ない。30〜40分待ってやっと急行が出る状態なので、京成の普通の特急に乗ったら、平日朝のラッシュに遭い途中の駅で降りて、何とか午後に会社に着いたという笑えない話。ビジネスマンにとって、現状で成田は満員で不便な空港。フランスのドゴール空港は3機が並行着陸できる。成田は出発時も、滑走路に出て離陸するまでに1時間もかかる。羽田の国際化を急がないとビジネスマンも日本に来なくなる。

○増田さん(都民)

 うちの近くに横田基地がある。騒音などマイナスの問題もあるが、東京都内と八王子、福生を比べると差があって、それほど発展していない。横田の共用化が実現すれば、物資、情報が入り、横田周辺地域は発達する。日本の発展を考えれば、騒音問題は我慢できると思う。知事が発言した「日本人ほど金と時間がかかる」や「政治家が日本の空港のことを全然考えていない」も当たっていると思う。日本の空港に関する公共事業関係費の充当率はとても低い。アメリカでは35%を空港整備に充てている。日本の空港の施設利用料の高さも、公共事業関係費が余り充てられてないので、我々利用者が負担させられている。国の援助がもっと必要だと思う。

○沢田さん(都民)

 ここ(羽田)に来て意外と静かだなと思った。横田は F15トムキャットなど様々な飛行機が飛んで来る。騒音は物心ついたころからある。一番いやなのは「他人事だからムカつく」ということ。これが日本の航空ならそばに入間基地もあるが、まあいいかなという感じだが、アメリカがあんなところで自由なことをやっているのかと思うと。高校が羽村で、隣が横田だった。授業中にトップガンの世界が上空で繰り広げられるすさまじい世界だった。周辺の治安も非常に悪い。それなら国際便をガンガン乗り入れて、アメリカ人だけが使うのでなく、みんなで使う。風俗街も一挙に撤去してきれいな町になるのではないか。反対派もいるが、これだけ騒音がひどかったので、大型機が飛んできても大丈夫だと思う。

○土田さん(都民)

 年間7万マイル平均、飛行機で海外に行って仕事をしている。成田に帰ってくるときに違和感がある。 1,300万人の人口を擁する東京都に外国の客を迎え入れる玄関がない。隣の庭を借りて乗り降りしなければならないのは不便である。羽田や成田は検討に入っているが、一番のネックになるのは横田である。現在横田は軍用機ばかりではない。アメリカの民間航空(チャーター便)も乗り入れている。国内の飛行場を日本の航空会社が利用できないのはおかしい。確かに民間人がうろちょろしたら軍事機密は保てないので、今ある貨物の引き込み線を使って直通電車を走らせ、基地の中に乗客を降ろさないで搭乗口まで行くのも一つの選択肢だと思う。箱崎に東京エアシティターミナルがあるが余り利用されていない。そこでCIQ(税関・出入国審査・検疫)業務を行って横田まで連れていけばいい。第3空港を考える前のつなぎとして、一日も早く横田を共用できるようにお願いしたい。チャーターでも何でも1回飛ばしてしまえばいい。何とかなる。

○工藤さん(都民)

 昭和39年、空港騒音がピークのころに生まれた。当たり前のように飛行機の音を聞いて育った。飛行機の音に慣らされてきたので騒音として感じたことがない。ある意味で生活の音になってしまった。都民は日本の首都に住んでいることを改めて考える必要があると思う。首都東京でないとできないことがある。都民の誇りとプライドを忘れてはいけない。

 首都としての使命を踏まえれば、首都圏における空港は日本の顔で玄関でなければならない。世界的な人、物の流通拠点となるべく、アジア地域のハブとなっていくべきである。空港は地域経営の中に位置し、地域経済、文化を含めて社会的に貢献するものでなければならない。

 空港までの国内アクセスの問題や、国賓が来日すれば羽田を使うことからも羽田が中核をなしていくのは自明のこと。次世代に日本を引き継いでいくにはここで撃沈してはいけない。情報の流通は極めて速くなっているが、物や人が停滞していたのでは追いついていかない。世界の主要地域とポイント・ツー・ポイントで結ぶ経路や便数の拡大は我々が背負っていかなければならない。義務や我慢ではなくミッションである。アジアのリーダーシップ確立のためにも、首都圏空港の完全国際化や24時間化は積極的に進めなくてはいけない。その中で3つの空港が一つの機能として動く仕組みを作っていけばと思う。日本では、空港だけが国から預けられたお荷物のように独立して存在している感がある。空港が地域のお荷物ではなく、地域社会への貢献を含めたデザインの仕方を進めていって、地域との協調を実現していくべきである。空港を核とした都市デザインや、都市デザインの中でどう空港が位置していくのかという大きな枠組みの中でとらえていく必要がある。

○能美さん(都民)

 仕事と観光で年20回ほど成田を利用している。私自身、自家用パイロットで先ほど知事が言った空域をよく飛んでいる。世界との交流促進のために「韓国、中国日帰りで。グアム、サイパンは1泊で満足」となればと思う。まず、羽田は国際空港として使わなければ韓国、中国日帰りはありえない。羽田で一番問題は、大島が見えてから30分近く千葉の上空を大きく回されること。大阪から直行すると羽田は30分だが、今50分かかっている。複数のアプローチルートをつくるには、空域の見直しをする必要がある。空港へのアクセスは、都の政策資料では20分台が必要と書かれていたが、都心から電車で20分以内にしてほしい。空港間のネットワークは、羽田から成田、横田まで1時間以内が必須条件と考える。加えて、国際線で20分前チェックインができる空港にしてほしい。羽田で2社同時のキャンセル待ちをすると、ビル内を走り回ることになるが、例えば搭乗券の中にチップを組み込んで、何番の人がどこにいるか一目りょう然でわかるトレースシステムも技術的には可能である。セキュリティの列を解除する新型のセキュリティを検討してほしい。航空機の低騒音化、上昇効率アップ、発着枠拡大による小型化と便数増加により、行けばすぐ乗れる新幹線感覚の飛行機が必要と思う。韓国に日帰りで行ける社会になればいいと思う。

○石原知事

 皆さんからのご意見大変参考になりました。空港は簡単にできるものではないが、私たちが提唱した桟橋方式は、中でつくって海上で地盤ができた後組み立てればいい方式だから短期間にできる。棚橋さんが言ったように素晴らしい空港がすぐできるものではない。あるものをどう補強して、この国に来るお客さんをうまく迎えるか。総合的に手だてを尽くさないと日本は沈没する。

 飛行場へのアクセスの問題は、環状線つくるのを場所によっては35年凍結している。東京都区内の車の平均時速は17キロ。おばさんが自転車こいだ方が速い。環状線もそういう体たらく。飛行場に行くための時間、高速道路の入口までも時間がかかる。一事が万事で東京は何でもそう。先ほど騒音の話も出たが、伊丹はもっと悪い状況にある。無理やり我慢しろというわけではない。もちろん補償もする。軍用機と違って民間機は改良されているから全然騒音が違う。成田に夜11時12時に飛んで来られないなら、真夜中は国際線を羽田に入れたらいい。

 インターネットの時代でどんな情報も自分の部屋で取れる。人間は自分の感性、情念で、フェイス・ツー・フェイスで相手に会って確かめて初めて情報になる。そのための人間の行き来を国家がインフラとして保障しなかったらこの国にやって来ない。インターネットの情報だけで満足できないから人間が行き来する。日本を沈没させないために、折り合うところは折り合って、今あるものを存分に活用する手だてを講じて航空ニーズを支えていく算段をしないと、あちこちしびれたまま自分で立ち居振るまいができない国家になってしまうと思う。

○白石さん(コメンテーター)

 貴重なご意見非常に勉強になりました。都の航空政策基本方針を見ると、いろいろな選択肢やアイデアが盛り込まれている。ぜひこれを時間軸に沿った形で整理し、短期的に既存資源の有効活用という手段で手をつけていくべきところは何か。どこと交渉して何年までに解決していくのか。中長期的に少し後回しにしていいところはどこなのかといった具体的なアクションプランを示し、国民的議論の波を広げていければと感じた。

○杉浦さん(コメンテーター)

 空港の環境問題は20世紀後半から世界で重視されるようになってきた。かつて少数派を切り捨てる形で空港づくりを強引に進めていた。科学的に問題点をクリアーにし、問題点をまな板にのせて解決を図ってきたのが、ミュンヘンであり成田である。

 話を聞いていて、飛行機が大きいから、ジェット機だから騒音が大きいというのは完全に誤解である。開発が新しいか古いかで変わってくる。1980年代以前はより大きな飛行機を空に飛ばすことが目標だったので、騒音は二の次だった。80年代以降に開発された飛行機は騒音も小さくなっている。今横田にジャンボが入ったとしても、最新型であれば軍用機よりもかなり騒音は小さい。飛行機は10年単位で大変なスピードで進化している。初期と現在のジャンボ機では騒音も雲泥の差になっている。こういう状況を皆さんにも知ってほしい。マイナスの要素も正面から取り組んで科学的に解明、解決していく作業が必要だと思う。

 きょう出た問題を継続的に理論的に解決するにはどうしたらよいか。提案したいのは、都民のための都立大学を使って、都市計画、公害、運輸など様々な観点からアカデミックに研究、議論し、行政の中で連携しながら都市と空港のあるべき姿を考え、都民のための航空政策をさらに深めていけばいいと思う。

○棚橋参与

 緊急だという危機感をもっと都民は持ってもらいたい。今は何とか成田に行けば外国に行けるし、帰って来られる。まあ不便だが行けると安住している。事態はそんなものではない。間もなくパンクし、外国に行こうと思っても満員で行けなくなる。今、既に外国から来る人は大変不便している。緊急事態だという危機感をみんなが持つべきだと思う。

 空港はいかようにでも使える。不自由な使い方をしているのを思い切って直せばいい。空港は風向きと天気に左右されるが、1年で1回でもそういう天気で具合が悪い時には、その滑走路から入れない、その飛び方はできないとなると、1年中のスケジュールが全部それで制限されてしまう。そのときだけ別の飛ばし方をすれば、空港の容量はぐっと上がる。羽田を思い切って使いやすいように使い、それにより都民が被る騒音その他を極力抑えて使う。さらに横田のように空いているところを活用する。これにより当面の危機状態は逃れられる。あとは思い切ってやるかどうかである。

○石原知事

 皆さんパンクという実感がないだろうが、ロサンゼルスに行こうと思っても、3日4日待たないと飛行機がない時代が来る。国内線もそう。その事態が見えているのにその措置をしてこなかった。それだけニーズがあることを知る必要がある。

 最後に、当面できることを急いでやらないとこの国は本当に沈んでしまう。航空問題に限らないが、一番肝要なのは早いということ。すぐやる先べんを東京からつけようと思っているので、都民の方々が早くやれ、どうしてこんなに時間がかかるんだと声をそろえて言っていただくことで政治が動く。選挙のたびに石原さん頑張ってね、ということではだめ。ガミガミと国民は政治家に言わないと役人も動かない。私はこのごろ都庁でガミガミやっているので少しものが動き出したと思うが、やはり空港問題は国の問題である。

 皆さん、羽田はこれだけあるから有効に使おう。もっと具体的に総合的に使う算段をしないと、目と鼻の先に飛行場があって、アメリカに行こうと思っても3日ぐらい待つような話にそのうちなる。脅しではなく数字で見えているのだから。政府が動かないなら都民、国民が動いて、政府にしゃんとさせて、空港問題をみんなでやりましょう。ありがとうございました。