石原知事と議論する会

平成13年6月18日更新

都市と環境 〜文明の発達と環境との共生を考える〜
13年度第1回「石原知事と議論する会」議事概要


テーマ  都市と環境 〜文明の発達と環境との共生を考える〜

日時  平成13年5月28日(月)午後2時40分から午後4時10分まで

場所  新江東清掃工場 1階見学者説明室(江東区夢の島3番地)

趣旨  私たちは、エネルギー資源を猛烈なスピードで消費し、便利で豊かなと私生活を享受してきました。
その結果、オゾン層の破壊や異常気象の頻発など、私たちを取りまく環境は悪化し、危機的状況を迎えつつあります。文明の発達は自然破壊を繰り返してきましたが、環境負荷の少ない新しい都市づくりは、今や緊急な課題となっています。
 東京都は、温暖化対策や自動車の排出ガス対策など、環境改善に結びつく事業を推進しています。また、都会のヒートアイランド現象の緩和に向け、屋上緑化や道路の透水舗装などにも取り組んでいます。
 これからの環境問題への取組は、行政はもちろん都民一人ひとりがエネルギー消費のあり方などを考え、足元から見直していく必要があります。
 これら都市と環境の問題を題材に知事と活発な議論を行い、今後策定する「環境基本計画」などに活かしていきます。
   
参加者
13年1回知事と議論する会の写真(公募都民)
発言者 6人、一般参加者 73人
(コメンテーター)
松井 孝典さん(東京大学大学院教授)、崎田 裕子さん(ジャーナリスト)、山田 邦子さん(タレント)
(都側出席者)
知事、環境局長、生活文化局長(司会)

発言要旨
 以下は、出席者の発言内容を生活文化局広報広聴部で要約し、取りまとめたものです。

○石原知事

 環境問題というのは議論する余地のない問題。20年近く前、ホーキング博士の講演で、私たちがつくった文明のような、高度な文明を保有する惑星は全宇宙に 200万くらいあり、さらに、文明は進んでくると、加速度的にその惑星は不安定になって消滅する。つまり、そこにいる生物はその文明のために自縄自縛で滅びてしまうのだと言った。私は非常にショックを受けた。

 私は、このままで行くと、50〜60年先、人間は生きていないと思う。この地球上に生存する最多数の哺乳類である人間は、膨大なエネルギーを消耗しなければ生きていけない。そういう文明が世界を支配しつつある。

 日本でも公害が起こり産業よりも人間の生命じゃないかという一種のトレードオフの問題で考えられてきた。

 いま、東京湾の水質汚染は恐ろしい。東京湾にすんでいる貝は全部中性化してきて、繁殖能力、生殖能力がなくなってきている。いま大都会に住んでいる日本の男の子の精子の数は、30年、40年前の半分になってしまった。そういう現象がどんどん起こってる。

 一方、大気汚染も本当に激しくて、ディーゼルエンジンだけでもくい止めようということでやり始めた。依然として国はその認識がないし、本当に後手後手で大気汚染がどんどん進んでいる。

 春先になると花粉症。花粉は昔から飛んでいた。花粉症は、大気汚染との複合汚染。ところが、産業促進で、ディーゼルエンジンの軽油は値段も上げないし、ヨーロッパの10倍も含まれている硫黄分を減らす手立ても政府はしようとしない。

 例えばダイオキシンの環境基準値も、日本は先進国で一番高い。基準値の論拠はわからない。こういうことをみんな考えないと。

 文明の便益がもたらす環境汚染の原因がたくさんあるが、実は私たち自身がそれをつくっているし、その文明の便益を享受している。自分は被害者であり、同時に加害者でもある。そういう現況はみんなでもう一回考えないと、本当にえらいことになる。

 みんなが本気で哲学しなかったら人間はもたない。哲学とは存在と時間について考える学問です。時間を時間として意識し、存在を存在としてとらえ、それに対して疑義を持つのは人間だけ。この存在が危うくなるかもしれないということを考えて、これを何とか存続させる手立てを講じないといけない。

 最後に行き着くところは、私たちはあとどれだけ生きられるかということ。これは決して大げさではない。限りない循環で、物質は実質的に等質等量で変わらないのだということはうそだということが、エントロピーの発見でわかってきた。例えばダイオキシンのようなものは、高熱で焚くとなくなるけれども、低温で焚くと堆積される。その集積の上に私たちは生きている。存在というものを認識できる生物がいなくなったら、ここに地球という星があるということにはならないし、誰がそれをそう認めるかということになると、恐ろしいなという気がする。

 みんながその気になって手分けしてやらないと、チリも積もれば山になって、この山が世界を覆いつくせば、結局、その下で人間は静かに死んでいくということになる。このごろ、その実感が非常に強くある。

 きょうの話し合いをヒントに、これからも責任を果たしていきたい。

○松井さん(コメンテーター)

 20世紀に人類が月に立ったということが一番大きなこと。人類が月という一番高いところに立って、人類や地球のことを俯瞰(ふかん)して見ることができるようになった。俯瞰して見ると宇宙とか地球とかあらゆることを含めた全体がわかる。全体の中で我々はどういう存在なのか。

 人間中心主義的にものを考えていてはだめ。自分が知っている範囲で物事が解決できると信じ込んでいるが、すべての矛盾を外側に押しつけているだけ。だから、地球規模になると、環境問題を解決する手立てはほとんどなくなってしまう。

 20世紀に成立したいろいろな概念とか制度をもとに21世紀を考えたら破綻する。

 我々の今までの生き方を変えることができるかできないかが、結局は、環境問題あるいは、この文明のあり方に関係している。

 自分が知っている範囲で物事を認識し、その中でいくら物事を解決しようと努力しても、本当はなかなか解決できない。物を大切にして、ほとんど消費しないというように生き方を変える以外にないが、そんなことはできない。だから、延命策は講じられるが、具体的にどう解決するかは難しいだろうと思う。
 景気が悪くなってどうして悪いのかという発想をしない限り、環境問題なんて成り立たない。

○崎田さん(コメンテーター)

 いま、いろいろなところで、自分たちに何ができるだろうか。政治の方はその立場で、私たち市民はその立場で、一体いま何ができるだろうかということを一生懸命に考えている。

 産業界と消費者が、同じようにいろいろ考えて、どんな社会をつくりたいのかという具体的なビジョンをきちんと話し合っていく作業が必要。

 リサイクルをもうちょっときちんと考えるリデュース・リユース・リサイクルを、まず私たち一人ひとりが自分の家でチャレンジする。

 一人ひとりの力、一人ひとりの暮らしを変えることだけでものすごく変わる。それを共有しながらみんなで変えていけば、とても暮らしやすい社会になるのではないか。

○山田さん(コメンテーター)

 私は、リサイクルということでいろいろなことをやっているが、祖母、祖父の影響が大きい。昔は物がなかった。物を捨てなかった。豆腐のパックを使ってイヤリングを作ったり、何でもとっておいて何かに使う。何かが何かに変わる、何にしようかなと考えているときが私は楽しい。買い物も好きで買ってしまうが、ごみも出ない。何だかんだやるとおさまるもの。

 農業が将来の夢。10年くらい前から新宿に住んでいる。小さいけれども土があるから何か植えようと思って、大根とかいろいろやってみたが、ならなかった。それでも、3年間、肥料をやったり、耕したりしたら、いまはもう絶好調。キュウリもトウモロコシも。まだ大きなものはならないけど、だんだんとよくなってきた。

 自分の身近なところから、生きていくってすばらしいじゃないかということを実感している。

○松本さん(都民)

 私は「緑のごみ銀行」というボランティアグループで、家庭や学校の生ごみを堆肥にして、土をつくって、花を育てている。

 こういう土を使って、都心の大きな交差点に花壇ができないか。「花のサザンクロス計画」と名付けた。大きな交差点はかなり広いし、南向きの角は1年じゅう日が当たっているので、花壇をつくるには絶好の場所。生ごみが減って緑が増えるというのはなかなかいい。屋上緑化のように、ヒートアイランド現象の緩和にもなる。容積率を緩和すると、企業も参加する。行政、企業、住民の環境パートナーシップができるのではないか。

○有賀さん(都民)

 東京都が環境問題は重要であることを強く認識して、本気でその対策を行っていることを世界にアピールしていくべき。

 東京湾のごみ埋立地に非常にいい風が吹いている。あれは東京都が抱える重要なエネルギー資源。例えばそこに大型の風車を建てた風力発電や、太陽光発電、バイオマスのような自然エネルギーを使った発電施設をつくってそこで発電を行う。

 その発電量は東京都全体のエネルギー消費から比べると微々たるものだが、それを東京都につくることに大きな意味がある。風車がそこにあるということは、環境問題というのはしっかり取り組まなければいけないものだということを、東京都民あるいはその周辺に住む人にアピールすることができる。

 教育という点に注目して東京湾に、風車やそれらの発電施設をつくってそこを公園にして、いろいろな人に訪れてもらって、環境問題に関する正しい知識を伝えて環境問題の認識を高めるための施設をつくることができないか。

○横田さん(都民)

 今、実験的に弁当の容器のリサイクルを行っている。今まではふたをつけて売られていたが、ふたをシールにした形だと、簡単にシールをはがすだけ。いままでのふたがないためにごみが半分になる。容器は、汚れて油がついている内側のポリプロピレンをはがすことで、リサイクルが簡単になり、ごみが10分の1になる。はがしたものを燃やすなどエネルギーとして利用し、使い捨て容器のごみが10分の1、20分の1に減る。

 流通に向けて、都民が、こんなものが要るんですかという提案を一つ一つしたら、すごく変わる。行政の教育を通すことと、容器の入り口に機能を持つこと、なおかつ、リサイクルできないトレーに食品を入れて売ることを規制する。ごみ全体の半分の量である家庭用の容器において、ごみは激減する。企業は、市場のマーケットが減ってしまうために非常に嫌がる。

○秋山さん(都民)

 環境問題に企業をどれだけ巻き込むかが、これからのポイント。企業は、副次的なところで環境問題に着手しているので限界がある。

 企業にとっての得である利益を確保する。例えば環境問題に貢献した企業の減税が考えられる。

 企業にとっての名誉であるネームバリューやステータスを確保させるには、広告スペースが有効。東京都には非常に大きな広告スペースが、都バスをはじめあちらこちらにある。環境問題に寄与した、環境問題に貢献した企業に対して、インセンティブとしてそうしたスペースを提供する。環境問題に貢献した企業は、東京都のこういったスペースに広告をつけられるとすることで、ステータスにもつながる。

○植田さん(都民)

 文明がどんどん発展すると、いくら個人が気をつけても、ごみは出る。それをいまはお金をかけて焼却しているが、できるかぎりバクテリアによる自然分解をして、できないものはリサイクルする、そういった考え方もこの先のごみ焼却にできるのではないか。

○荒木さん(都民)

 各人が環境問題に対して認識を持ち、身近なことから一歩一歩やっていかなければいけない。

 水というのは生命にとって最も大切なもの。汚い水が海に出ることは、いろいろな面で影響を及ぼす。下水処理の基準を少し高くして、きれいな水を流すことが大切。また、水を土中に染みこませる舗装を進める。そういうことを少しずつ積み重ねながらやっていくのが環境改善に貢献する。

○松本さん(都民)

 東京都主催の企業と行政と住民のチームワークによる環境に貢献する行動力のコンテストを開催する。マスコミに取り上げられれば、かなり大きなイベントになって継続できるのではないか。

 環境が大事なことはわかっているが、具体的にはなかなかできない。トップダウンがどうしても必要。

○横田さん(都民)

 リサイクル容器をつくったのは、阪神・淡路大震災のとき、水を大切にするということでお皿の上にラップを敷いていたことから。トレーの内側をはがれるようにして、はがせば資源ということで、思いつきました。

○松井さん(コメンテーター)

 右肩上がりという考え方をやめない限り環境問題は変わらない。右肩上がりをやめると、景気は悪くなる。世界から何を言われようが、グローバルスタンダードとは全く無縁に行くとすれば成り立つ。合意と調整のようなことをやっていたのではなかなかうまくいかない。だけど、合意と調整は民主主義の基本みたいなところもあるので、いろいろな問題が出てくる。それを21世紀に皆さんがどう考えるかによっている。

○崎田さん(コメンテーター)

 確かに、右肩上がりで上がっていく時代ではない。私たち自身が新しい暮らし方を模索する時代ではないか。

 私たちは、21世紀にがまんするとかつらくなるという発想ではなくて、新しい生きがいとか新しい豊かさを自分たちがつくるんだという発想でいくことがとても大切。

 新しい文化、生活スタイルにインパクトを与えるようなメッセージを東京から発信してもいい。

 去年はいろいろな法律が変わって、循環型社会づくり元年と言われたが、ことしは、循環型社会実践元年と言われている。私たちは、私はこれをやった、みんなもやろうよという輪を広げていったらいいのではないか。

○山田さん(コメンテーター)

 外国に行くと、なぜ計り売りをしているのだろうと思ったが、包装のことなどを考えると、計り売りはありだなと思った。

 うちの話だが太陽光を利用した設備で、球みたいなものを三つ屋根の上につけている。太陽さえ出てくれば、どこに出てもキャッチして、屈折して、どの部屋でも明るい。それは紫外線もカットされていて電気代もゼロ。工事にはちょっとお金がかかったが、そういう暮らし方もあるなと。

 家はそんなにごみは出ない。企業が、ああそうか変えようということをやっていくと、小さくても東京で畑ができたり、大根もつくれるのかな。

○石原知事

 いろいろなご意見が出て、いろいろと参考になった。風力発電はやります。あの埋立地は非常にいいところ。東京の真ん中に風車を立ててもなかなか風力発電はできないから、ああいう吹きさらしのところは非常に効果がある。東京の電力自給率は6%しかない。東京はあちこちから電力をもらっている。東京は東京で努力しなければいけない。極端なことを言うと東京湾に原子力発電所を作ってもいい。しかし、いきなり原子力発電を東京でするという訳にはいかない。風力発電で東京の電力は賄いきれないが、その一助にはなる。

 トップダウンでやるべきものはやるが、これはトップダウンと同時にボトムアップをしなかったらどうにもならない。

 必ずしも環境保全、環境をよくするということが不景気にはつながらない。環境破壊につながるような部分の生産体制はいろいろな形で考えたらいい。日本の構造改革が進み、新しい需要のための産業が必ず興る。日本の産業そのもののフレームワークが変わっていかなければいけない時期。

 それと並行しながら、一種のストイシズムというか、合理主義というものが日本にこれから必要。せめて、東京から無駄を排し、節約してその分を他にまわして使おう。

 「人間はあと何年もつか」ということで、80%の識者が50〜60年と答えてる。

 そうならないようにがんばりましょう。あなた自身のためだし、孫子のため。人間いなくなったら、地球があったとかなかったとか、そんなことは誰も覚えていないんだから。