石原知事と議論する会

平成15年5月1日更新

東京の未来を語る〜首都東京の再生に向けて〜
平成14年度第3回「石原知事と議論する会」議事概要


テーマ  東京の未来を語る〜首都東京の再生に向けて〜

日時  平成15年3月6日(木)午後3時から午後4時30分まで

場所  東大和市民会館(ハミングホール) 大ホール

趣旨

 今都は、改革意識に乏しく、スピードの遅い国に先駆けて、独自の改革に取り組んでいます。東京の再生から日本の再生につなげていくため、目指すべき東京の姿や望ましい都市構造のあり方を活発に議論することが必要です。
 活力と魅力ある首都東京の未来について、知事とコメンテーター、都民が語りました。

参加者


(公募都民)写真:知事と議論する会会場の様子
 700名 ※うち発言者4名

(コメンテーター)
 内館 牧子 さん(脚本家)
 米長 邦雄 さん(永世棋聖)

(コーディネーター)
 白石 真澄 さん(東洋大学助教授)

(都側出席者)
 石原 慎太郎 都知事

発言要旨
 以下は、出席者の発言内容を生活文化局広報広聴部で要約し、取りまとめたものです。

○白石(コーディネーター)

 本日の「石原知事と議論する会」は三つのパートに分け、はじめは、石原知事、コメンテーターの米長さん、内館さんの発言後意見交換、次に、都民の発言と意見交換、最後に東京再生のために何が必要かというコメントの順で進めていく。

○石原知事

 日本という国はこの辺で変わらないと大変だ。司馬遼太郎さんとよく話をしたが「日本という国は、100年変わらない」と。明治憲法ができ、その前から太政官制度というものがあり、これが全くそのまま続いている。中央集権国家。これが全然変わっていない。官僚統制の中央集権国家が何をやってきたかというと、お役人は、絶大な権力を持っているために勝手気ままなことをしてきて、時代が変わり世界が変わっているのに発想が未だに変わらないから、国がやることは全部遅くて、自信がない。右に行ったり左へ行ったり効果がない。

 歴史的な停滞の中で、日本の心臓部、首脳部である東京の都市計画も計画性がない。環状線もストップしたままだから、東京は幹線道路が足りなくてマヒ状態だ。三多摩は特に南北の道路がない。やはり道路というものは、文明の伝達機関で、アクセスとしてどうしても必要。特に三多摩がいろいろなハンディキャップを背負っているのは、東京のような細長いまち、東西の動線はあるが、東京の西の部分の三多摩から南につながる幹線道路がないことだ。これからの計画で、私は考え直さなければいけないと思っている。

○白石さん(コーディネーター)

 内館さんは秋田生まれで、東京に住んでいるが、いまの東京をどのように感じているか。

○内館さん(コメンテーター)

 日本はちょっとおかしな方向にいってしまったと感じる。

 教育というものは、基本的には社会に出た後でどのくらい本人が自分の足で立って歩いていけるかという力をつけるものだ。教育委員になり一番考えたことは、結果平等ではなく、正当な競争原理があってしかるべきではないかということだ。

 もう一つは、子どもたちが、何かをやる前から冷笑して引いていることである。まっとうな競争を是とし、斜に構えない子どもたちをつくるような教育ができないかと、私はいま考えている。

○白石さん(コーディネーター)

 将棋の道ですぐれた教育者であり、子どもの才能を引き出す経験をお持ちの米長さんはいまの教育の現状をどのようにみているか。

○米長さん(コメンテーター)

 教育委員としては、教育以前の原点に戻すところに3年余りかかり、これからいよいよ始めるところだ。原点に戻すというのは何かというと、教育は、子どもを幸せにするためだけのもので、そのために、学校をつくり子どもを通わせる。学校は、先生を尊敬している子どもと、子どもから尊敬されている先生とで成り立っていることだ。

 子どもの一番大事なことは、笑うことと泣くことであるが、子どもから表情が消えてしまった。大いに笑い大いに泣くことができるように、いろいろなことを始めた。

 まず、学校ではいかなることがあっても校長が一番偉い、校長第一主義ということを徹底的にやった。それから、学校同士も競わせる。都立高校改革は、約200校の都立高校があるので、200タイプの学校をつくった。荒療治といいますか、私たちが目指す教育というのは、子どもの幸せのためにあるのだという一番の原点を教師も、役所にいる人も、教育委員も忘れてしまっては困る。それが一番大事なことで、この原点に戻すことに全勢力を注ぎ込んで今日に至っている。

○白石さん(コーディネーター)

 知事、教育の課題をどのように感じているか。

○石原知事

 一番変わってきたのは、都立高校だ。学区制は全部廃止し、学校同士がそれぞれ競争する形になってきた。必ずしもそれが教育の最終目的とは思わないが、大学も暗中模索していて、この2人からも意見を聞きながら、通っておもしろい、いままで日本になかった大学を都立大学としてつくり直そうと思っている。

 子どもの教育の最高、最重の責任者は親である。ローレンツの有名な言葉がある。子どものころ、寒さをがまんするとか、苦しいけれど仕事を果たすとか、肉体的な苦痛を味わったことがない人間は、大人になってから非常に不幸な人生を送る。いかに教育委員会が重視しても、学校の先生が頑張っても、最後に親が甘やかしたらだめということだ。

○須郷さん(都民)

 私は、いま保育園の現場に勤めていて、小さい子どもを毎日みている。自分の子どもは高校受験と大学受験を終えたところだ。その経験から、どうしてこんなに大変な思いをして子どもは教育を受けなければならないのか、それにかかる親の負担がとても大きいことを痛感している。

 競争原理というが、そのスタートに立てない子どもすらいる現実も、皆さんに知っていただきたい。

○白石さん(コーディネーター)

 行政に望む手だてを具体的に。

○須郷さん(都民)

 小学校に入ると1人担任制で、学校の先生はクラスに1人しかいない。30人なり40人なりの学級で勉強をするときに、障害を抱える子どもがついていけるのか。普通学級ではなく、障害児学級に入ってしまえば話は簡単かもしれないが、普通学級の生活を望む場合には、複数担任制が望ましい。

 落ちこぼれをつくらないためにも大人の手をもっと差し伸べてほしい。

○石原知事

 肉体的、あるいは、見えない部分でハンディキャップを負っている子どもは、やはり気の毒だと思う。特別のケースとして、その人たちの面倒を見る施設があり、東京は他県に比べて一番お金をかけていると思う。

 ただ、子どもが内面的に弱いだけで、それをエンカレッジ(encourage=力づける)する、場合によっては脳幹を刺激する形で競争心を培っていくことは、やはり親の責任だと思う。

 小さなケースをいちいちつまびらかにはしないが、何でもかんでも行政が行うことはできない。

○米長さん(コメンテーター)

 例えば、盲・ろう・養護学校においては、給食に関しては、無料とすることを教育委員会でも決めている。

 また、複数担任制も設け、複数のほうがいいという授業は、できるだけ複数にすることもやっている。

○内館さん(コメンテーター)

 教育委員になってから、養護施設などの視察をしている。とても感激したのは、体や心に障害を持った子どもたちが、施設や学校で大変にのびのびとやっていて、それによりかえってアップしていくということが明らかにあることを実感した。

 落ちこぼれをつくらないようにするためには、学校でする教育と家庭での養育を厳然とわけること。基本的には私は親がやるべきことはとても多いと思う。

 親が一生懸命にやっていることもよくわかるが、学校の先生たちも大変一生懸命にやっている。その中でどうするかといったときに、いまの教育現場では、学校にすべてを頼りすぎていると感じる。

○白石さん(コーディネーター)

 大気汚染や地球環境の悪化など、マクロな問題が大きくなっている中で、東京都は国が責任を持って対処すべき広域的課題はきちんと整理をしている。首都圏では1都3県、7都県市などが集まり、自治体が連携してやっていくような課題もあり、ディーゼル車の走行規制をスタートさせようとしている。

○石原知事

 松井孝典という東京大学で宇宙物理学をやっている学者に言わせると、文明が地球をスパイルしてここまできた。ここまで地球を追い込んだのは、私たち自身の責任だ。非常に不自然な循環を文明がつくったからだと言っていたが、私はそうだそうだと納得するわけにはいかないし、これはどうにかしなければいけない。

 抽象的な言い方になるが、開高健が「明日世界が滅びるとも、今日あなたはリンゴの木を植える」という言葉を色紙に書いている。私たちは、子孫に対する責任があり、志の問題として、いまできるだけのことをしなければいけない。

 排気ガスの問題もそうだ。大気汚染を含めて、自動車が出す排気ガスが原因だとするなら、誰がそうしたかというと、私たちと車だ。文明の恩恵が私たちに文明の毒も注いで、自分たちが加害者であり被害者であることを認識し、自分自身のためよりも子孫のために、少しでもくい止める努力を私たちはしないといけない。

○白石さん(コーディネーター)

 車の中でディーゼル車が占める割合は2割だが、自動車から出される窒素酸化物の7割をディーゼル車が占めている。また、東京都で肺ガンで亡くなる人の16%ぐらいが、自動車から出される浮遊物を原因としているというデータもある。

○渡辺さん(都民)

 地球温暖化問題は、全地球への影響であり、しかも先進国、特にエネルギーをたくさん使っているところの責任になる。これからはエネルギーを最小限にするように交通を変えていかなければいけない。

 欧州の環境問題に先進的に取り組んでいる都市は、新しいハイテク技術を駆使した路面電車「トラム」を積極的に取り入れ、クリーンで大変いいものができるという結果が出ている。東京にもハイテクの路面電車を取り入れることをぜひ提案したい。これは、バスとかモノレールなどよりもはるかにエネルギー効率がすぐれていて利便性が高い。

○石原知事

 東京での路面電車のユーティリティは、かなり高いと思うが、幹線道路に路面電車を走らせるだけでは交通事情が改善するかというと、なかなかそうはいかない。解決されない問題がある。東京中に路面電車を走らせると言っても、車はどうするのか。全部を止めるわけにはいかない。路面電車は有効な手だての一つだと思うが、これを構えることで他の問題の解決はできないという、パズルみたいな絡み合った状況がある。

○白石さん(コーディネーター)

 松山や熊本、岡山等、いずれも路面電車が走っている都市は、東京と比べて都市規模も小さい。自動車からいかにほかの交通機関に代替させるか。交通機関の乗りやすさ、料金体系で、インセンティブをつけるというソフトを組み合わせたり、路面電車をどう入れるかという以前に、利便性の問題やソフトをどう組み合わせていくかということを議論していく必要性があると感じる。

○斉藤さん(都民)

 東京の未来は、やはり世界のモデル都市という形で行くべきだ。最近、都内でも、世界に誇れるような建造物がたくさん出てきて、首都機能が高いレベルにきている。環境問題、教育問題、医療、福祉などのソフト面を充実していければ、東京を世界に誇れるような都市にできるのではないか。また、それをつくれるような能力、潜在的な力が我々にあるのではないかという意味で、行政面でもこれを活用していけるのではないかと思う。広い意味では、安全、安心の問題を充実していくべきだ。

○井場さん(都民)

 まちが発展することが大事だと思うが、その一つの鍵は、若者が多く集まるかという点だ。東京に世界の若者をいかに呼び寄せるかが大事である。その仕掛けづくりとして、東京に江戸時代の長崎の出島のような特区をつくることを提案する。

 お台場のような広い敷地に、土地を各国に無償貸与し、建物をつくり人も住まわせ、国別に文化的治外法権の特区をつくる。そこに各国から1万人ぐらいずつ人を呼び寄せて交流することで新しい価値観も生まれるのではないか。

○石原知事

 出島のようなイングリッシュ・スポークンのテリトリーをつくれというのは、これはなかなかおもしろいアイデアだが、これだけ東京がぐちゃぐちゃになってしまうと、なかなかそうはいかない。

 留学生の措置も含めて、もっともっと多くの外国人が日本、東京にやってくる措置を講じなければいけない。東京にやってくるお客さんは外国人だけではなくて日本人もたくさんいるわけで、どこに何があるのかよくわからないし、観光資源の情報提供が遅れているので、そういう努力もこれからしていきたい。

○白石さん(コーディネーター)

 都民の方から、教育、犯罪の少ない安心・安全なまち、新しい交通体系である路面電車、出島をつくって若者を呼ぼうという四つの視点から意見があった。

 コメンテーターの内館さん、米長さん、そして石原知事はどのように感じられたか。

○内館さん(コメンテーター)

 私は、どうしたら東京から日本を変えられるかと考えたとき、誤解されるとは思いますが、やはり、若者と子どもを突き放せと。例えば、みんなメールを打ちながらまちを歩いている。どう考えても、1人になることが怖い、1人になることができない、他人と合わせることばかりを考えざるをえないという子どもたちを、私たち大人がつくった。家庭教育の欠如を感じる。

 先ほどの質問の方にまるで反するみたいなことですが、突き放して自分で前を向き、人と合わせなくても歩いていける子をつくらないことには変わらないのではないか。それは、学校でやることではなくて、私は家庭教育でやることだと思う。突き放して、少しひとりで考えろ、ひとりになってみろということを、強烈に家庭の中でもやらなければいけない。決して、愛情が足りないということではないということを、子どもたちにわかってもらえば、教育も東京都もずいぶん変わってくると確信している。

○米長さん(コメンテーター)

 一つは、やはり若者をもう少し自然な姿に教育していくということが大切だと思う。それには、子どもを生むことが非常に大事だ。いまある政策は、子どもを生んだら1人いくらかかるかで、これではよくない。子どもを生むということは非常に大事なことだ。

 どのような状態でも、生きるということが大事なことであって、生きることの一番のキーワードは恐らく、金まみれの世の中になったことから離れて、土を大切にするか、木を大切にするか、水を守るか、ポイントが一つずれたところに焦点を当てるということだ。

 そして、生きていることに感謝するべきだと思う。

○石原知事

 皆さんの話を聞いていて、みなさんそれぞれ日本人で、国のこと、東京のこと、このまちのことを考えてくださっている。決して皆さんが満足していない。このままでいいのかなという懸念をそれぞれ持っていることがよくわかり、とてもうれしいし、心強い思いだ。

 先ほどどなたかが発言されたが、日本はいろいろな力を持っている。特に東京は持っている。それを有効に使うことを、役人に言っても国はわからないから、けんか腰でやっていく。

 このまちも、東京も、皆さんの力、知恵でよくしていこう。私も一生懸命に頑張ります。