〜東京ビッグトーク〜石原知事と議論する会

平成17年9月12日更新

「次代の日本と世界を担う若者とは…」
平成17年度第1回「〜東京ビッグトーク〜石原知事と議論する会」議事概要


テーマ  「次代の日本と世界を担う若者とは・・・」

日時  平成17年8月5日(金)16時から17時30分まで

場所  都民ホール(新宿区西新宿2−8−1 都議会議事堂1階)

出席者(敬称略)

写真:石原知事と議論する会の様子石原慎太郎 東京都知事

◆世界各国で日本語を学ぶ若者
 ティファニー・トング〔カナダ/カーソングラハム高校/17歳〕
 サイ・キンエイ 崔金瑛〔中国/吉林市朝鮮族中学校/18歳〕
 エカテリーナ・モーシキナ〔ロシア/シベリア国立大学/19歳〕
 ノラ・アセム〔エジプト/カイロ大学/20歳〕
 オリム・イシャンクロフ〔ウズベキスタン/サマルカンド国立外国語大学/21歳〕
 キム・ミジン 金美眞〔韓国/ソウル女子大学/23歳〕

◆都内の高校生
 椙本 泰介(すぎもと たいすけ)〔東京都立三田高等学校2年/17歳〕
 永澤 史佳(ながさわ ふみか)〔筑波大学附属高等学校2年/17歳〕

◆コーディネーター
 野口 健(アルピニスト)

発言要旨

 以下は、出席者の発言内容を生活文化局広報広聴部で要約し、取りまとめたものです。
 ※文中、敬称略

○野口(コーディネーター)
 まず自己紹介をお願いします。

○トング(カナダ)
 カナダのバンクーバーから参りました。初めて日本に来て、日本人は本当に礼儀正しいと思いました。すごく親切で、何でも準備してくれて、とてもいい人たちだと思いました。

○サイ(中国)
 国で日本語を勉強して、もう6年になりました。でも、日本の習慣とか文化については、日本語だけ勉強してきたので余りよくわかりませんけれども、今回、日本へ来て、いろいろ勉強になってとてもうれしく思っております。

○モーシキナ(ロシア)
 私は大学で勉強して、今年3年生になります。世界経済という学部で勉強しております。パネリストに選ばれて、ほかのパネリストの皆さんと意見交換ができるのでうれしく思っております。

○椙本
 海外に住んでいたこともあるので、その経験も生かしてこの場に参加したいと思います。

○永澤
 東京都の渋谷区で生まれ育って、典型的な日本の高校生だと思うので、よろしくお願いします。私は、日本の問題について自分の意見を持っているほうだと思うので、ここに出席しました。でも、私は日本人だから、ほかの国から見ると、そういう問題について見えていないことが数多くあって、この議論する会で、世界の国の人たちの日本からの見方を見て、もっと自分の視野を広げていけたらいいなと思っています。

○アセム(エジプト)
 初めて日本に来て、エジプトと比べて緑が多くてびっくりしました。エジプトは砂漠の国だから、緑は余り見ないです。あと、東京と京都が一番気に入りました。日本に来られるチャンスがあって本当によかった。

○イシャンクロフ(ウズベキスタン)
 中央アジアにあるウズベキスタンから参りました。日本に初めて来て、驚いたことがたくさんありましたけれども、日本語を勉強し始めたころから、日本に行くことが私の夢で、その夢がかないましたので非常にうれしく感じております。日本に来て一番感動したことは、日本のサービスと日本人の親切さだと思います。

○キム(韓国)
 韓国のソウルから参りました。今、韓国で日本文学を勉強しております。「東京ビッグトーク」に参加することができて、とても光栄に思っております。

○野口(コーディネーター)
 なぜ、いろいろある言語の中で日本語を勉強しているのですか。あと、日本に対するイメージは。

○アセム(エジプト)
 エジプトのテレビで放送されたNHKのドラマ「すずらん」で、日本の文化とか着物とか、見たことがない雪とか、気に入っていました。ずっと日本に来たかったです。それで日本語を勉強しようと思いました。

○キム(韓国)
 私の父が日本と関係がある貿易の仕事をしていて、子どものときから日本語と日本文化に自然に接しながら育ちましたので、大学の専攻を選ぶときに、私も日本語をしゃべってみたいという気持ちで日本学科を選んで勉強するようになりました。

○トング(カナダ)
 私は香港生まれで、4歳でカナダに行きました。小さいころ、香港のテレビで放送された「ドラえもん」を見ていました。日本語で話したので全然わからなかったけど、面白いなと思ってずっと見ていました。大きくなって、小学生ぐらいで、日本語も勉強したいなと思って勉強しました。

○イシャンクロフ(ウズベキスタン)
 私のまちはサマルカンドで、もともと「青の都」として知られています。最近は観光の都として発展していますから、日本人の観光客もだんだん増えています。大学1年生のとき、サマルカンドのある建造物のところで日本人と会って、そのときに日本語ができなくて英語で話していて、1日案内した後は、その日本人に日本語を勉強すると約束して、そのときから日本語を勉強し始めました。

○サイ(中国)
 私も小さいときに、サッカーの「キャプテン翼」というアニメを見て、サッカーチームのメンバー一人ひとりがすごく格好いいと思って、日本の男の人が本当にそれほど格好いいのかわかりたくて、日本語を勉強し始めました。(笑)

○野口(コーディネーター)
 実際はどうでしたか。格好いい?そうでもなかった?

○サイ(中国)
 格好いい。(笑)

○野口(コーディネーター)
 そう考えると、テレビの影響は大きいですね、知事。

○石原知事
 ビジュアルな情報は、いい情報でも悪い情報でも、一番伝達しやすいし、受け取りやすい。今はそういう媒体が進んだことで、世界は時間的、空間的に狭くなったと思います。
 そういう世界の中で、我々と違って若い世代は本当にみずみずしい感性を持っているので、大人が与えるような常識にとらわれずに自分の感性・感覚で判断をして違う文化に接することで、本当の交流が深まっていくと思います。だから、こういう若い諸君が、できれば頻繁に日本に来て、そして日本の人たちも向こうに行って、こういう人たちの案内で向こうの風物を愛でる文化に接することで、本当の親善、本当の相互理解が進んでいくと思います。
 日本にアーサー・ビナードさんという詩人がいます。この人は日本語で詩集を書いて、その詩集が非常によくて、数年前に、日本の代表的なサンボリスムの詩人の記念の中原中也賞をもらいました。その人と対談して、とても面白かった。
 彼はあるとき、漢字という象形文字に興味を持って、最初は中国文化に興味を持って、それから語学としての日本語の面白さに惹かれて日本に来て、長く日本にいる人です。
 彼はアメリカ人で、日本語と英語との対比でいろいろなことも書いているけど、例えば、ものをかむとコリコリする、それが舌触り、歯触りがいい、そういう食べ物がありますね、日本に。「コリコリ」という表現は英語では絶対にできないそうです。そういうことを幾つか例を引いています。
 とにかく一流の詩人で、その感性でヨーロッパ語と日本語の対比をして、面白い人です。ああいう人がもっと今日集まった諸君の中から出てもらいたいですね。

○モーシキナ(ロシア)
 私が勉強していた学校ではいろいろなコースがありまして、例えば体育とか美術コースもありまして、そのコースの中で日本語コースは一番おもしろそうでしたので、私はやってみたいという気持ちがありました。やってみて、その後はどんどん興味が深くなりまして、日本語の勉強を続けました。

○野口(コーディネーター)
 皆さん、いろいろなきっかけで日本語を勉強されてきたわけですけれども、実際、日本に来てみてどうですか。ギャップがありましたか。そして、これから日本とどうかかわっていきたいのでしょうか。

○イシャンクロフ(ウズベキスタン)
 4月に卒業したばかりで、ウズベキスタンに帰ったら就職する予定ですけれども、やはり日本語ガイドの仕事を続けていくと思います。来る前にアルバイトとしてやったことがありますので、これからは自分の仕事として続けていきたいと思います。

○キム(韓国)
 日本文学の中で、平安時代文学と江戸時代文学を3年生のときに勉強しました。そのときから面白いなと興味を持つようになって、今、江戸文学を選んで、深く研究してみたい気持ちです。
 ソウルにいるときに、浮世絵で東京のいろいろなところが描かれたものを見ながら、東京に行ったら、浮世絵で見たところが今はどんな形なのか見てみたいという気持ちでした。例えば日本橋へ行ってみました。浮世絵で日本橋の絵を見たときの感じと、今は全然違う景色になっているので、これは違うなと思いました。

○石原知事
 たまたま江戸の時代の話が出たけど、スーザン・ハンレーという、プリンストンの社会学の女性の先生が書いた『江戸時代の遺産』という本があります。それはなかなか面白い本で、中世、近世は長くて暗い時代だったけど、江戸時代は鎖国をして外国と付き合わなかったことによって逆に自家発酵して非常に成熟した。だからいろいろな天才も出てきたわけです。

○トング(カナダ)
 私は、日本は男女平等ではない、男性が偉いと思っていると聞いたのですが、実際に来てみると、みんなすごく優しいというイメージがありました。もちろん、カナダよりは平等ではないですけど、イメージよりも男性の方が優しいと思いました。
 ただ、愛知に行ったときにホームステイしたのですが、お母さんも仕事をしているのに、帰ったら、晩御飯をつくるのもお母さんだし、掃除とかも全部お母さんだし、ご飯を食べた後、みんなただ座っていて、お皿をシンクに持っていくこともしないので、ちょっとびっくりしました。

○サイ(中国)
 日本に来る前から、先生に、日本人はお互いにとても気を配っていると聞きましたけど、日本に来て自分の目で見て、やっぱりと感心しました。中国の場合は、人が困っていたら、多くの場合、助け合うとしたら悪いほうに考える人が多いです。ほかの人の助けを引き受けようとする人は少ないです。だから、日本人はお互いを信じて助け合うことはすばらしいと思いました。

○野口(コーディネーター)
 次の質問です。これからは日本人組も入ってくださいね。
 僕は仕事で特に韓国によく行きますが、びっくりしたのは、韓国の若い学生が、日本の政治について熱心に議論しているんです。僕は高校まで海外にいたのですが、高校時代、やはり、みんなよく、日本はどうすべきだとか、そういう議論をしていました。でも、今、日本では、若い人が自分の国に対して、こうあるべきだという議論は、ものすごく少ないです。皆さんの国はどうですか。

○サイ(中国)
 普通、友達とは余りしていません。もし自分に興味があったら、テレビとかインターネットで調べて、いろいろな考え方を引き受けることもできます。

○モーシキナ(ロシア)
 ロシアでもやはり同じだと思います。友達だったら、そんなに話題になりません。

○野口(コーディネーター)
 日本組はどうですか。

○椙本
 全くしていません。そういう話を人としても、アメリカであったテロのときしか、友達との間では話したりしなくて、日本はこうあるべきだとかいうのは、余りないです。

○永澤
 私も全然したことがないです。

○イシャンクロフ(ウズベキスタン)
 ウズベキスタンでは、同級生などは、日本の政治とか経済に興味を持っていると思います。日本の新聞に載る首相のスピーチとか、関係がある記事とか、アメリカの軍隊の削減についてとか、そういうことについて先生と一緒に読んだことがあります。

○トング(カナダ)
 カナダでは、なぜ首相がこんなことをするとか、友達ともちょっと話したりします。
 それと、私が住んでいるBC州(ブリティッシュ・コロンビア州)というところでは、18歳以下の若者のための国会みたいなものがあって、そこではみんな討論しています。直接、政治家の皆さんにも意見を言えます。

○キム(韓国)
 韓国の場合、一般的な会話の中にそんなことを言うことは余りないですけど、自分が興味を持っていることを実際にやってみて、考えを深めることができるようなことを、積極的に探してやる友達も結構います。

○野口(コーディネーター)
 今、日本で、ニートと呼ばれている人たちがいることを知っていますか。
 ニートというのは、働くのが嫌だったり、人前に出るのが嫌だったりして家にこもってしまっている若い人たちです。そういう人が日本ではものすごく多いです。
 皆さんの国では、そういう話はありますか。

○キム(韓国)
 去年、学校の先生から、日本のニートについて話を聞たことがあります。その1か月後に、韓国も日本のようになるかもしれないという記事を読んだことがあります。

○野口(コーディネーター)
 この間、僕は山へ登るためにチベットに行きました。チベットには貧しい人がいっぱいいます。食べていかなければ、仕事をしなければ生きていけないわけです。そういう彼らには「ニート」という発想がないだろうなと、僕の仲間が言っていました。それはそうだなと思いました。

○イシャンクロフ(ウズベキスタン)
 日本は先進国で若者たちがぜいたくな暮らしを送っていますから、そのせいでニートが増えてきたと思います。ウズベキスタンはまだまだそういうレベルまで達していないから、ニートの心配はないと思います。

○モーシキナ(ロシア)
 ロシアでは、こういう問題はまだ出ていないと思います。学生たちは、卒業してから仕事を探しながら、アルバイトとかを必ずしていると思います。

○サイ(中国)
 中国では、大学生の人数がだんだん多くなって、職場を探すこともだんだん難しくなって、職場を探すのにがんばっている人はたくさんいるけど、ニートという言葉はありません。

○トング(カナダ)
 カナダでは、18歳になったらみんな親から離れて外に住むようになり、大学に行きたい人はアルバイトでお金を集めて大学に行きます。何もしなくて家で引きこもっていると、食べ物はないから、ニートは余りないと思います。

○野口(コーディネーター)
 ニートの人たちをどう思いますか。

○永澤
 私は、ニートはかなりみっともないと思っています。ニートになれるということはお金に余裕があるということだけど、そういう人は親に頼って生きていて、親が死んでからどうするかということを全く考えていない人間なので、私は軽蔑しています。

○石原知事
 ニートの問題というのは、それぞれの国家社会の緊張感の問題に関係があると思います。恐らく、ニートが非常に多いのは日本とアメリカでしょう。
 私の友人に斎藤環君という精神病理学者がいて、彼が扱っている登校拒否とか引きこもり、ニートの連中に、もし日本に徴兵制度があったら君どうするかと聞くと、90%は自分は行きたいと言うそうです。
 例えば、韓国は徴兵制度がありますよね。やはりそれは軍事的な緊張があって、南北の問題はだんだん緩和されてきたけど、今でもそういう制度がある。あるいは、社会的な全体の貧困感とか豊かさ、食糧の問題、その他いろいろな問題がいろいろな緊張を生んでいて、そういう国にはニートは出ない。
 結局、これは私たち大人の責任で、社会全体が子どもたちを甘やかしすぎた。寒いと言えばすぐに暖房、暑いと言えばすぐに冷房、おなかがすけばすぐに間食。大脳生理学的に、脳幹という一番大事な部分が今の子どもたちはやせてしまっている。そのかわり、幹が細いのに何かの具合でたくさん実のなりすぎたリンゴの木みたいで、脳幹が支えている大脳には、コンピュータをちょっと操作すればいろいろな情報がどんどん入ってくる。そういう大脳の情報の刺激に耐えかねて、ちょっと風が強く吹くと、木全体がポキンと折れてしまう。そういう状況が日本の若い子どもたちにある。
 コンラッド・ローレンツという、ノーベル賞をもらった有名な動物行動学者が言っていますが、子どものときに肉体的な苦痛を味わわなかったような子どもは、大人になって非常に不幸な人間になると。肉体的な苦痛とは何かというと、親からたたかれるとかの虐待ではなくて、我慢を強いられることです。おなかがすいたからといっても、すぐにごはんを出してもらえない、水を飲んで我慢するとか、親に言われた仕事を遊びたいけど我慢してするとか、そういう作業の中でこらえ性ができる。日本の子どもはこらえ性がないから結局ニートになってしまうし、また、それを社会全体が放置して。ニートなんて格好いいように聞こえるけど、みっともない。無気力・無能力な人間のことです。

○野口(コーディネーター)
 働かない人は食べなければいいんですけど、日本は親がみんなごはんをあげますからね。そういう意味では、もっと厳しくていいと思います。

○石原知事
 皆さんそれぞれ日本にやって来て、日本語を勉強して、日本の文化に触れて、自分の国と日本と、人間たちのものの感じ方、表現も含めて、文化の上でこういうところが違うなという体験をしたら、どんな例でも結構だから、具体的に教えてくれないかな。
 日本に呉善花(オ・ソンファ)さんという優れた女性の評論家がいます。彼女の日本と韓国の比較文化論はものすごく面白い。日本人もカーッとなると怒るところがあるし、韓国の人もすぐに怒るでしょう。そのカーッとなりやすいところの違いは、韓国は、トウガラシ・キムチの辛さ、日本の場合はワサビだと言っています。ワサビは、お寿司にワサビがたくさん入っていて辛すぎても、お茶を飲んだり、水を飲んだりするとすぐに治るけど、キムチをたくさん食べると、水を飲んでもいつまでもハアハアと辛いままだと。とっても面白い比較文化論です。
 自分の国と日本はこういうところが本質的に違うなということがあったら教えてください。

○キム(韓国)
 最近、日本では韓国ブームです。この前、名古屋でホームステイをしたときに、近所のお母さんの友達が、私はイ・ビョンホンさんが大好きよと言いながら、私が泊まった最初の日にうちにいらして、一緒にイ・ビョンホンさんについて2時間ぐらい一生懸命に話したのですが、ちょっとびっくりしました。わずか1年か2年の短い時間に、韓国がブームになって、このくらい広がるのは本当にすごいと思いました。日本では、ブームが起こったらすぐに広がるのではないかということを感じました。

○石原知事
 韓国の人から眺めれば、今の日本の韓国ブームはおかしなことだと思うし、私から眺めてもおかしいんですよ。日本人というのはそういうところはヒステリアで、新しいもの、何か珍しいものがあると、すぐに飛びつく。
 世界の中でのアジア、中でも、特に間近な韓国とか中国、香港も含めて、そういうところの共通性は、文化はそれぞれ微妙な形で違っても、大きな共通項がある。それはとても大事だと思うし、また、本質的に全然違うところもヨーロッパなどとはあって、それはそれでお互いに尊敬し合ったらいい。
 この間、「風の丘を越えて」という韓国の映画を見たときに感動して、本当に涙を流した。これは何かというと、やはりアジアなんですね。アジアではない人たちから聞けば、なんだ、日本人と韓国人は一緒になってと言うかもしれないけど、やはりぬぐいがたいものがある。
 そういう点で、また同じ質問をしますが、皆さんそれぞれ、日本に来て、日本の文化に接して、ここが本質的に違うなとか、同じ人間だからここは似ているなとか、そういう事例・経験があったら教えてください。

○トング(カナダ)
 広島で高校生と話し合ったとき、みんな余り意見を言わなかったけど、1人がすごく自分の意見があって、自信満々で話しました。私は聞いてよかったと思ったのですが、話したとき、ほかの高校生は笑っていました。カナダでは、どんなバカな意見を言ってもみんな絶対に笑わないし、静かに聞き終わって、また自分の意見を言います。そこで、ほかの人が意見を言うときに笑うのは、文化が違うのかなと思いました。

○石原知事
 本当のデモクラシーが日本にはまだないんですよ。フリーな、開かれた討論に日本人はまだ慣れていない。それから、議論するのが日本人は下手。だから相手の意見もまじめに聞き取りにくい。それは、これから世界が狭くなればなるほど日本人が体得しなければならない姿勢だと思います。あなたがおっしゃるとおり。ちょっと難しい話をすると、みんなニヤニヤ笑ったり、茶化したりして一生懸命に聞かないでしょう。オープン・マインドというか、自分自身を自由にして人の意見を聞くということ。自分の耳で聞き、自分の目で見届けることが日本人はなかなかできない。そこが残念だと思います。

○アセム(エジプト)
 日本は、エジプトとは違って、交通機関とか信号のルールが厳しいと思います。エジプトなら、ルールはないです。信号を守らない人は多いです。自由に道を渡ったり、本当に自由に動いたりします。

○野口(コーディネーター)
 逆に、エジプトなどは、ルールがない分、すべてを信用しないでみんな気をつけているから、死亡事故が少ないね。

○モーシキナ(ロシア)
 名古屋にホームステイしていたとき、名古屋のごみの分別が本当に厳しいなと思いました。ロシアの場合は、分別は全くしなくて、ごみは全部一緒に捨てていますから。

○野口(コーディネーター)
 日本海はロシアのいろいろなものが捨てられている。ですから、日本に来て、そういうごみの分別が厳しい中で、いろいろなことを感じながら、それを持ち帰ってほしいです。そういうことがロシアでも広がっていけばいいですね。

○石原知事
 そのわりに日本人はエベレストに行ったらごみを捨てるらしい。
 野口君は、若くしてエベレストのピークまで行ったけど、その途中に余りにもたくさんのごみが捨ててあって、なかんずく日本や韓国、中国人が使ったごみがたくさんあって恥ずかしいので、次の年から、ヒマラヤのごみを回収しようとキャンペーンをやってきた人です。

○野口(コーディネーター)
 世界中の登山隊が来ているので見ていたら、ごみをきれいに持って帰る登山隊と、捨てる登山隊と、はっきり分かれました。きれいに持って帰る隊はドイツ、デンマーク、ノルウェー、スイス、ニュージーランド。ごみをいっぱい置いていくのは、日本、韓国、中国、インドネシア。これは国民性だなと思いました。
 海岸に行くと、韓国と中国とロシア語のごみがすごいです。日本語もそうです。山も海も一緒です。日本だけがやっても意味がないし、韓国だけがやっても意味がない。世界中の人が集まって、みんなで考えていかなければいけないと思います。

○椙本
 聞いた話ですけど、日本だったら、普通、社長とかお偉いさんが先に帰ってから部下の人たちが帰りますよね。だけど、ノルウェーは違って、給料の分だけ働けという考えで、後に社長とかが時間を決めて帰る感じです。早い段階でみんな帰るので、時間の使い方がうまいです。趣味の仕方とか。

○石原知事
 確かに、日本人は自分の時間の使い方が下手ですね。若い人たちはこれから変えていったらいいと思う。私の3番目の息子なんかは、興業銀行に行っているときに、用事がなくなったので、さようならと帰ると、それですごくそしられて、支店長がいる間はみんな帰らないと。バカな話だよね。自分の人生の余った時間は自分で使えばいいのに、日本人はそういうところが、本当の自我があるようでないですね。

○野口(コーディネーター)
 海外から日本に帰ってきて思ったんですけど、僕の母がエジプトの人で、僕が幼稚園のころ、母と電車とかバスに乗ると、例えば、日本の子どもとお母さんが乗ってきて、子どもが靴をはいたままイスに上がっていたわけです。僕の母は、他人の子どもの頭をパシンとたたいて怒る。そしたら、その子どものお母さんが、「何をするの」とうちの母に怒ってきて、母がそのお母さんをバシンとひっぱたいて(笑)、激しかった。子どものときはそれが恥ずかしかったけど、今思うと、他人の子どもを注意できるというのはすごい。そういうのは皆さんの国ではありますか。

○石原知事
 昔は日本はそうだったんですよ。まちで遊んでいても、うるさいおじいさん、おばあさんが、そこで遊ぶなとか、木に登ってはいけないとか、やかましいとか言われたけど、このごろはみんな何も言わなくなった。
 ついでに言わせていただくと、今、東京はいろいろなキャンペーンをしています。他人の子どもでも怒ろうと。「子どもには大人からしかられる権利がある」というのは、キリスト教の伝道者の賀川豊彦が言った言葉だけど、それは当たり前のことで、裏返せば、大人には子どもをしかる責任があるんです。ところが、このごろの大人はしからない。
 2年ぐらい前、MXテレビの「Tokyo, Boy」で、渋谷の歩道橋に小学6年生の子どもを連れてきて、座ってゲームをさせた。人通りが一番多いのに、だれも注意しない。もう1人子どもを送って、3人で幅を広くとって邪魔させたら、1時間ぐらいたってやっと、46、47歳ぐらいの男性が、「なんでこんなところで遊ぶんだ、邪魔だ。こんなところで遊ぶな。向こうへ行ってやれ」と怒ってくれたので、テリー伊藤が飛んでいって感謝状を差し上げた。(笑)
 もっとも、「石原さんに言われて、この間、電車の中でタバコを吸っている中学生を注意したら殴られた」という人もいるんです。大人も子どもをしかるときに勇気がいる時代になりました。子どもが悪いことをしているのを見たら、大人が3〜4人、示し合わせてタッグを組んで怒らないと、このごろは刺したりするから怖いですね。これもみんな我々の責任。子どもを甘やかしすぎた。

○イシャンクロフ(ウズベキスタン)
 ウズベキスタンでは、子どものしつけに大きな注意が払われていると思います。ウズベキスタンのことわざによると、「1人の子どもが5つの親の教育を受けている」と言います。なぜかというと、住んでいるところで、周りの近所の人がその子どもに注意を払っています。子どものころに注意を払わないと、将来、その子どもがもっと大人になったら、その人たちに被害を与えるかもしれません。

○キム(韓国)
 韓国も、他人の目を日本のように気にして、私がこうやればその人がどう思うかと思うのが自然な考え方で、日本と韓国のそんな考え方は似ていると思います。
 でも、韓国語で“おばあさんが一番怖い人、強い力を持っている”ということわざみたいなものがあって、うちの母も、道で中学生とか高校生がタバコを吸ったりすると、中学生なのにここでタバコを吸うのはだめだとパッと言います。うちの母だけではなくて、母の友達とか、同じ年齢の方々もみんな、危ない、よくない行動をしている中学生とか高校生がいると、必ずパッと言います。

○サイ(中国)
 中国の家族は、今、普通、子どもは1人。少数民族であれば2人まで許されます。法律で決まっていて、子どもが1人、お母さん、お父さん、おばあさん、おじいさんが、この1人の子をとても大事にします。愛しすぎるんです。だから、この子はだんだんわがままになります。1978年から法律ができて、今、その子たちが大人になっていろいろな問題も起こっています。だから、普通の場合、ほかの子については、そうしてはだめだという言葉をかけることは余りしません。

○石原知事
 若い諸君には、過去よりも、未来、将来がはるかに大きな分量として開けているので、どうか率直に、本当に自分自身の目で見て、耳で聞いて、自分の頭で判断して、いろいろな物事に対する反応も、評価もしていただきたいと思います。
 若い人たちがどうやってコミュニケートしていくかは、これからの日本と、皆さんそれぞれの国との関係をつくっていくので、そういう点では、日本語という難しい言葉を皆さんが勉強してくださっているのは、私にとってとてもありがたいことだし、どうかがんばってください。

○野口(コーディネーター)
 今日はいろいろなテーマでお話をしたのですが、その中で、自分がやってきたことを考えていくと、自分たちが何かをやったことで社会が変わるということがあればがんばれると思います。
 例えば、今、日本の富士山でごみを拾っていますけど、最初、ごみを拾いにいっても、拾った次の日にもごみがたくさんあって、どうせ自分がやっても変わらないかなと思いました。でも、我慢してやっているうちに、3年、5年とたってみたら、一緒にごみを拾う人が増えました。5年前は中高年以上の人しか来なかったんですけど、特に若い人が増えて、先週は1,300 人集まったのですが、平均年齢が20.3歳でした。確か、今、富士山の5合目から上のごみはもうないです。
自分がやることによって、何かそこで社会的な影響があること、それがやりがいだし、使命感になってくると思います。若いときというのは、自分がやってもどうせ世の中は変わらないと思う人が多いけど、その中でとにかくやり続けていれば、必ず変化があると思います。
 ぜひこの世代で、こういう機会をもっとつくって、連携をとりながらいろいろやっていきたいなと思っていますので、これからも一緒にがんばっていきましょう。(拍手)