〜東京ビッグトーク〜石原知事と議論する会

平成18年3月17日更新

「スポーツと都市」
平成17年度第2回「〜東京ビッグトーク〜石原知事と議論する会」議事概要


テーマ  「スポーツと都市」

日時  平成18年1月31日(火)15時から16時30分まで

場所  都庁大会議場(新宿区西新宿2−8−1 都庁第一本庁舎5階)

出席者

写真:石原知事と議論する会の様子石原慎太郎 東京都知事

◆コメンテーター
 川淵 三郎 さん(財団法人日本サッカー協会キャプテン)
 原田 宗彦 さん(早稲田大学教授)
 大林 素子 さん(スポーツキャスター)

◆コーディネーター
 白石 真澄 さん(東洋大学助教授)

公募都民等 400人

発言要旨

 以下は、出席者の発言内容を生活文化局広報広聴部で要約し、取りまとめたものです。
 ※文中、敬称略

○白石(コーディネーター)
 東京マラソンの開催が平成19年2月に決まりました。東京都庁前を出て、トップランナーを含む3万人が、臨海副都心のゴールを目指して競います。
 また、石原知事が、2016年に開催されるオリンピックの東京への招致を表明されました。
 本日は、スポーツイベントを東京で開催する意義について考えてまいります。
 まずは石原知事、東京でオリンピックをというのは、オリンピックを機に東京の大改造ということですね。

○石原知事
 このごろ日本は元気がない。これだけ総体的にいろんな可能性や力を持っている国が周りの国からなめられているので、「日本なめたらあかんぜよ」という表示にオリンピックをやりたいというのも一つの要因です。
 IOCが規定しているルールはなかなか厳しくて、昔と変わりましたし、例えば、8万人入れなくてはいけないので、今ある神宮のスタジアムは全然規格にならない。東京ではちょうどそのころ築地の市場が空くし、夢の島の埋め立ても完成して、あちこちに更地ができる。既存の施設でも、ちょっとリニューアルすれば、例えば武道館とか駒沢のいろんな施設が使えます。東京が日本の(2016年オリンピック開催都市の)候補になることには自信を持っています。
 大事なことは日本の持っているいろんなポテンシャリティ。例えば金融資本力、技術力。日本独特のとんでもないオリンピック、日本でしかできないオリンピックをやりたいと思って考えております。
 その一つのプレランニングというかキャンペーンとして、来年の2月に東京シティマラソンをやります。この間ニューヨークに行って(ニューヨークシティマラソンを)見ましたが、あんなに道路の悪いところだと思わなかった。これに比べて、成田から都心へ帰ってくると、鏡のごとき道路面で感心したんです。日本のもついろいろなアドバンテージを踏まえて、日本全体のキャンペーンのためにまず東京のシティマラソンを成功させ、そういう実績を踏まえて、東京で2度目のオリンピックをやりたいと思っています。
 皆さんのいろんなアイデアを、突拍子もないアイデアでも結構ですので、寄せていただきたい。日本人の知恵をもってすれば画期的なオリンピックができると思うし、来年2月の東京大マラソンだってとんでもないお祭りになりますよ。それを、ぜひ皆さんのお力で成功させたいと思いますのでよろしくお願いします。

○白石(コーディネーター)
 川淵キャプテン、御自身もオリンピックに出場され、そして、Jリーグの立役者として今まで活躍されてきたわけですが、スポーツイベントが都市をどういうふうに変えていくのか、各地での事例などもご覧になっていますよね。

○川淵(コメンテーター)
 13年前にJリーグがスタートしたとき、東京にJリーグのクラブは無かった。最大の理由は、東京都では、Jリーグのクラブに入る条件の一つだった1万5,000人以上収容できるナイター照明を持った競技場が確保できなかったことです。今は府中に味の素スタジアムという5万人ぐらい入るすばらしいスタジアムがあって、13年前とは変わりましたが、世界の大都会を見渡したところ、東京という都市のスポーツ施設はまだ貧弱だと思います。
 そういった意味では、スポーツに対して大きな興味と関心を持っている石原都知事の在任中に、ぜひ大きな方向性を出してもらいたいと思っています。
 競技スポーツ施設というのは、トッププレーヤーがプレーし、それを見る多くの観客を動員でき、そしてボランティアが多く活動できる場所。いろんな意味で、人間が生きていく上で必要な部分は、スポーツ環境が充実していけばいくほど満たされるという感じをもっています。
 宮城県のスタジアムがいい例ですが、日本では、競技場をつくるとなると、場所がないからといって遠くて行きづらい場所につくってしまう。
 その点東京は、どこに行くにもアクセスがよく、世界でもきわめて珍しいというぐらい便利な場所です。しかも都知事によると、結構空き地が多いらしい。そういうところに、夢、希望、勇気といったものを与える施設があることで、子どもたちが大きな夢を持ち、多くの人が大きな感動を味わい、あるいはボランティア活動でいろんな手助けをしていく機会を持てることが、いかにすばらしいか。
 今度ドイツで行われるワールドカップでは、スタジアムに行くとき、観戦チケットを持っている人には、公共交通機関を全部無料にするんです。予め入場料金の中に組み込まれていて、切符を買って乗る必要がないという配慮は、利用者にとってプラスになる話ですよね。スポーツの施設をつくることによって、そういうおもしろい発想がどんどん出てくる。それも一つの値打ちではないかと思います。
 例えば、車を一切通さないようにして自転車を使わせれば、市民の健康にもプラスになるし、自動車の排気ガスも減らせるなど、いろんな意味がある。
 日本で例えばオリンピックを開催することになると、世界各国から多くの人たちが訪ねてくる。それをきっかけに、そういう人に対していかに住みよいまちにするかということでのまちの変化が生まれるわけです。日本が大きく変わっていくきっかけにもなり得ます。

○白石(コーディネーター)
 原田先生は現在、最近のオリンピック招致事情とか、イベントによる経済効果などを研究していらっしゃいます。

○原田(コメンテーター)
 今回、「スポーツと都市」というテーマが、こういった大きなイベントで掲げられたことは、画期的なことではなかったかと思います。
 日本の大きな都市の都市経営の中でのスポーツというのは、教育委員会とか、せいぜい生涯学習の領域で、大きなイベントといっても国体や高校総体があるぐらいで、教育とか体育の世界から離れられなかったんです。
 ところが、世界を見ますと、スポーツというのは文化であり、産業であり、エンターテイメントであり、地域活性化の手段、あるいはさまざまな都市の目的を達成する触媒(キャタリスト)となっています。
 アメリカでは、かつては自動車産業で繁栄した都市をモーターシティとか、鉄鋼業でスチールシティとかいって、それをプライドに都市をつくっていましたが、今はスポーツシティとかメジャーシティ−我々にはNFLがある、あるいはNBAがある、あるいはメジャーリーグの野球のチームがある−というのが、都市の格を決める大きな要因になっています。
 大阪は2008年のオリンピックの招致に失敗しましたが、大阪の中にスポーツが根づいて、国際スポーツ課もできましたし、それはそれで招致の効果があったと思います。
 もし東京でやるならば、鉄板が熱くないといい肉が焼けないということで、スポーツに対して鉄板を熱くする必要がある。東京都内を見ても、サッカー専用スタジアムはできましたが、まだ十分ではない。例えば今、プロのバスケットボールが日本各地で起きていますが、体育館がない。するスポーツとしての体育のための体育館で、客席はないし、ビールは売れないし、上靴に履きかえないと入れない。マジソンスクエアガーデンのような、世界から観光客が来て、そこですごいイベントを見るというような施設が、まだまだ足りないのではないかと思います。
 ヨーロッパでは、国家の枠が外れて都市対都市の闘いになっていて、そのときの重要なコンテンツがスポーツです。ヨーロッパ共同体では毎年スポーツ都市を決めて、去年はロッテルダム、今年はシュツットガルトと、そこにいろんなイベントを集中させて都市を盛り上げようという試みもなされています。
 都市とスポーツを違う視点から見ることによって、東京の将来的な発展の仕方も変わるだろうし、このたび実施が決まったマラソン、将来的にはオリンピックといったものが、物理的な都市の改造ではなくて、世界の中での都市格を考えた場合の東京のポジショニングに非常に役に立つのではないかと思っています。

○白石(コーディネーター)
 大林さんは88年のソウル、92年のバルセロナ、96年のアトランタと、過去3回のオリンピックに出場されています。

○大林(コメンテーター)
 選手のときは、当たり前のように体育館があって、お客さんがいて、きれいな場所で試合をしていればいいという状況で、17年間ずっと戦ってきましたが、引退してやっと周りの方に目が向けられるようになりました。「いろんな方々の力で大会が成り立っているんだ」とか、「こういう大会をするためには何が必要なのか」とか、そういうところにやっと足を踏み入れた段階で、勉強する立場だと思っています。
 イタリアのセリエAでプレーをする機会があったのですが、スポーツが国の文化の一つとなっているところは絶対的に強いし、芯がしっかりしている。選手にもそれだけの知名度や保証があるなど、ある意味でスポーツ選手であることがステータスとなるような要素があることが、そのスポーツが栄える大きなテーマだと思います。
 女子バレーの場合で言いますと、何といっても東京オリンピック「東洋の魔女」からスタートしています。ですから、私たちにとって、東京オリンピックがすべてにおいてのスポーツの最初のような感覚があります。
 残念ながら私はそのとき生まれていなかったので、単純に、自分の国でオリンピックをやってみたい、そのときに何か携わって、スポーツの歴史を変えるお手伝いができたらいいなと、最近考えています。
 3回のオリンピックに出て、身近な施設はやはり選手村ですが、国によって様々です。一つのマンションとか棟が与えられて、選手がそれぞれ振り分けられて、終わった後は分譲マンションになったりするわけです。女子バレーの隣が男子バレー、その隣が水泳とか、アットホームなマンションに住んでいるような感じだったんですが、バルセロナのときは、男子と女子と棟が別々だったんです。なのに、バスルームが普通のガラス張りで、外から丸見え。「わぁ、何だこれは、結構アバウトな感じでつくられる選手村もあったんだ」と思いました。外国の選手なら気にしないんでしょうけど。
 それは余談になりますけれども、東京でやったら、世界じゅうに自慢できるようなすごいものができるんだろうなと思うと、夢が膨らんできます。
 経済とか、東京が発展するために、そういうのも一つのテーマとして大事なんですけれども、私としては、盛り上げるためにいろいろやりたいということで、きょうは出席させていただきました。

○白石(コーディネーター)
 選手村とか、選手のバックアップ体制については、どういう議論が進んでいるんでしょうか。

○石原知事
 まだそこまで行っていません。日本人のホスピタリティからいったら、選手村に滞在する外国の選手に必ず満足していただけるものができると思っていますが。
 ロンドンは、コンパクトで便利なオリンピックをやれるということも評価の対象になって開催都市に決まったようですが、東京はもっと便利な、選手にとっても移動に時間のかからない条件を備えています。23区をとってみても、世界の中で、これだけの広さに、地下鉄を含めて電車の駅がこれほど多い都市というのはないんです。これは競技に参加する人たちにとって大きなメリットになるし、観客たちも便利な移動ができると思います。
 美濃部都政のときに凍結を宣言してずっと解かずにきた環状線を、私が就任してから凍結解除して、遅れを取り戻そうとしていますが、この中央環状、圏央道が整備されたら、東京は、渋滞がなくなって非常に便利なまちになります。そういう点で、オリンピックの候補地として自信があるし、環状線も、国からの金も引き出し、完成するつもりでいます。東京の都市としての磨きをかけるために、オリンピックが大きな引き金になると思っています。
 ワールドカップを日本でやったときにフーリガンが来て、場末の安い宿屋に泊まって、近くの商店街にある焼鳥屋とかおでん屋で食べてみたら、えらくうまくて感動した。また、イギリス人でフランスのプロヴァンス地方のことを書いた有名なジャーナリストが日本に来て、「私は日本に来るのが遅すぎました、プロヴァンスよりずっと日本の方が物がうまい」と言っていました。日本には世界に向かって隠された魅力がたくさんあるんですよ。
 もう一つ、日本人は自己主張をしない。アメリカにはあちこちすしバーがあります。これは日本人が売り込んだんじゃない。アメリカ人が勝手に発見して、ダイエットのためにもいいということになってすしがはやったんだけど、なぜか日本人はおずおずして、「これはすばらしいよ、食べてみませんか」と言わない。そういういい意味でのおせっかいを、私たちはこれから身につけていかないと。
 もう一回繰り返しますが、「日本なめたらあかんぜよ」と、しみじみと悟らせるためにも、私は東京のオリンピックを絶対成功させたい。

○白石(コーディネーター)
 きょうはお二人の都民の発言を予定しています。まずは渋谷区にお住まいの工藤さん。

○工藤(都民)
 私は、スポーツイベントは、まちを一種のお祭りに巻き込むものだと考えています。
 お祭りというものは、かかわる人々の間に、肩書とかすべてを超えた不思議な連帯感を生み出してくれると思います。
 私は、大学に入学しましたときに、地方から来た同級生に、出身県のことを非常に誇らしげに自慢されました。そのときに、私を含め東京在住、または東京を幾つか目の都市として暮らす人たちの中のどれぐらいの人たちが、私たちが住んでいる東京というところを、ふるさとまたはふるさとの一つと誇らしげに言えるのかな、思っているのかなと、非常にさみしい思いがしました。
 スポーツは、する、運営する、応援する、サポートする、そして見るだけの人たちにも、関わる人それぞれに、スポーツというものを通じてならではの、言葉が要らない、わかりやすい感動を与えてくれます。
 大学で入った運動部では、出身県に関係なく、そんな感動をみんなで共有することができました。スポーツで結ばれた縁は、私にとって一つのふるさとをつくってくれたと思っています。
 一人でも多くの東京在住の人が何らかの形でスポーツイベントにかかわることができれば、少々ばらばらな東京というまちに、かけがえのない一体感を生み出して、それがいずれふるさと東京というものにつながっていくと信じています。
 そして、もし可能であれば、例えば、それを身につけておけばイベントに関わったことがあるとわかるような、小さな思い出の品などがあれば、それをきっかけに人と人との会話がはずむのではないかと思います。

○白石(コーディネーター)
 大林さん、かつて参加されたオリンピックでも、ボランティアの人たち、例えば通訳とか医療とか警備とか、いろいろな立場の人たちが支えてきたわけですよね。

○大林(コメンテーター)
 はい。選手村の掃除をしてくれたり、シーツを取りかえてくれるのはボランティアの方中心だったんです。健常者の方じゃなくて、例えば足が不自由だったり、何かハンディキャップがあっても、できることをやるから、何か手伝いたいからという方に支えられたと感じました。
 私も東京出身で、地方に行くと、都市の人が中心になってみんなで盛り上げている一体感というか、アットホームさにあこがれていました。私自身はその中に入ったけれども、自分がやることは全くなかったので、つくり上げる喜びというのはわからないんです。だから、そういうものによって生まれるものがあるんだろうなと、今改めて感じました。

○白石(コーディネーター)
 川淵キャプテン、多くの人が参加するには、まちなかにいろんな競技施設がないとだめだと思いますが、いろいろ海外を回る中で、商店街の近くにスタジアムをつくったりする例もあるそうですね。

○川淵(コメンテーター)
 オランダのアイントホーヘンというところは、まちのど真ん中にスタジアムがあって、スタジアムの外側がみんな商店街なんです。日ごろ皆さんが接しているところで試合をするから、アットホームな雰囲気です。また、南米に行くと、リバープレートのスタジアムの中には幼稚園も小学校もあって、宿泊所もあって、レストランもある。
 日本の場合、スタジアムの中での利活用はないに等しい。いろんな規制があってだめだという。何でそういうところまで規制するのか。
 もう一つ、別のことで言いたいのですが、こういうイベントをどこかでやる場合に、必ず皆さんが言うことは、経済波及効果です。経済波及効果という言葉、僕は大嫌いです。もちろんそれなりに意味があるとは思うけれども、そのためにやるんじゃない。経済波及効果は一過性のものです。そんなことのために、こんなむだな金を使うなという議論に行ってしまいがちだけど、そうではないわけです。
 何のためにやるかというと、日本人のすばらしさ、日本の文化、歴史、伝統のすばらしさ、そういうことを世界に知ってもらうこんないい機会はないからです。日本人を世界に発信するということはどれだけ大切なことか。世界の人は日本人のことをほとんどわかっていませんよ。
 日本人の歴史や文化、やさしさ、思いやり、本当のすばらしさというのは世界に例を見ません。数学者の藤原正彦さんの「国家の品格」に書いてあることですが、日本人のもっている本当のよさはどんどん失われている。徳川から明治維新前後の日本人の本当のすばらしさを10としたら、今1か2かというところかもしれない。しかし、1か2でも、世界から見れば本当にすばらしいんです。それをもう一度取り直そうと。
 2002年ワールドカップのときに世界中の人が、日本人はすばらしいと感動してくれた。それこそが値打ちで、日本人がそれを知ることで日本人のよさをもう一度取り戻すきっかけになる。そういうことが、このイベントの持つ本当の意味です。
 経済波及効果はごく一部のことで、それを大上段に振りかぶるのはやめてほしいと思います。

○白石(コーディネーター)
 原田さんはこれまで、イベントによる一過性の経済効果よりも、イベントとかスポーツを長期的な視点で、遺産として都市経営に活かすというような御提言も数々されていますね。

○原田(コメンテーター)
 今のオリンピック運動・オリンピック運営は、スポーツだけではなく、人類の恒久的な平和に資するという視点から、環境の問題とか、都市の持続的成長に力を入れています。
 そういうことで、われわれはレガシーという言葉を使います。レガシーは遺産という意味ですが、オリンピックあるいはビッグイベントにおいても、“レガシーは何か”これが非常に重要な問題になります。
 余り、経済波及効果、16日間の期間の効果だけをやってもいけない。経済波及効果はどうしてもセルフサービスリサーチみたいなところがあって、投入する数字を変えるとかなり調整が可能だということもあります。残念ながら、経済波及効果を検証した人はだれもいない。検証しようがないという問題も含まれているということです。ですから、経済波及効果よりは、10年、20年、30年あるいは100年の効果、例えば東京オリンピック後、1964年から今に至るまでどういう効果があったかというのをもう一度検証して、「やっぱりやった方がいいんじゃないか」、「いや、ちょっと待てよ」みたいな議論が必要かと思います。
 パラリンピックとオリンピックは別物だったのが、今は一体化されている。こうなると、バリアフリーのまちづくりとかユニバーサルデザイン、案内表示の問題等、すべての人にとって住みよい都市づくりという視点に問題が移ってきますので、16日間のスポーツのお祭りではなく、未来永劫とは言いませんが、かなり長期にわたって都市の健全な発展、あるいは持続的な発展に資するものであると言えると思います。

○白石(コーディネーター)
 もうお一方、都民の発言があります。大田区にお住まいの大原さん、お願いします。

○大原(都民)
 私はスポーツに携わるNPO法人理事です。この法人は総合型地域スポーツクラブの確立を目的とし、私はバスケットボールのコーチとして携わっています。
 東京オリンピックの開催をきっかけに、ピラミッド型の、地域に根づいたスポーツ環境と育成体制を確立することを提案します。
 私は日本のトップと言われるところで現役時代を過ごし、その後、指導者として、世界と日本の指導体制やスポーツ環境のギャップを痛切に感じてきました。
 そこで、平成12年に文部科学省から出されたスポーツ振興基本計画に基づいた総合型地域スポーツクラブの活動を、私は、世界に出て行く子を育てたいと思ってやっています。
 現在、子どもたちを取り巻くスポーツ環境は劣悪で、中学校、高校のクラブ活動は頽廃しています。
 中学校の指導要綱の中にはクラブ活動は存在しないそうです。そこで一部の熱心な教員のいる学校以外のクラブは今までの流れだけで行われていて、スポーツも、一般生活に遵守すべきルールが存在していません。要はあいさつをしない子どもたちが多くなっているということです。その結果、やる気のある子どもの気力まで頽廃させてしまっている現状を、多くの現場で見てきています。
 総合型地域スポーツクラブは、まだ言葉の認知度が低くて、行政とタイアップすべき事業であるにもかかわらず、都内の各区役所の認識の違いが歴然としてしまっています。また、従来の中体連、高体連という輪切りの組織が、クラブチームでの活動を阻んでいます。
 現在は、バスケットボールという単一種目から私が始めたクラブですが、ただ単にスポーツの場所を提供するだけではなく、スポーツに従事する人材の育成や、彼らのセカンドキャリアの受け皿まで視野に入れ、体系化を考えています。そうすると、地域の中でスポーツを核にした循環が生まれてくるのではないかと考えます。
 今回の東京オリンピックは、戦後60年間でつくり上げた日本のスポーツ環境を変えていく大きなターニングポイントだととらえ、大きな期待をしています。行政の御理解とバックアップを切に期待しています。

○白石(コーディネーター)
 息子も少年野球チームに入っておりますが、少子化の中で、例えばきょうはピッチャーの子が熱で休んだから試合ができないと、選手自体がそろわないようなチームも出てきていますし、中学校の状況を見ると、熱心な先生が土日一生懸命やってくださって、先生はいつ休むんだろうというような状況も生じていて、子どもたちのスポーツを取り巻く環境も大きく変わってきているように思います。
 キャプテン、サッカーを通じて人材育成もやっていらっしゃいますがいかがでしょうか。

○川淵(コメンテーター)
 行政サイドにいろんなことを頼むだけでは人は育たない。ボランティア活動に熱心な人、スポーツに理解がある人、そういう人がいない限りは、世の中いい方向にはいかないと思います。
 今、中学校が特にそうですが、部活動ができにくい。サッカーも、少子化で、隣の中学校、あるいは三つぐらいの中学校で一つのチームをつくる方向に動きつつあります。そのときに何が問題かというと、顧問になり手がないこと。「三つも一緒で、もしけがしたり、何かあったときどうするんだ」ということで、どんどんみんな遠ざかっていく。そういうとき、スポーツに対する愛情・情熱を持った人がその地域社会の中に何人いるかで、世の中変わっていくと思うんですよ。
 子どもたちがスポーツを楽しむ場所づくりや指導者、仲間づくりを率先してやっていこうという気持ちを持った人が、共鳴する人を集めて活動すること以外、余り変わりようがないですね。上からこうやれと言ったって、そうなるものではない。
 今、サッカー協会はそういう活動をしています。いろんなケースを多くの人に知らしめることが次の新しい展開につながると思っていますので、今後とも続けていきたいと思います。

○白石(コーディネーター)
 原田さんは、スポーツと次世代の育成についてどんな御意見をもっていらっしゃいますか。

○原田(コメンテーター)
 今、学校体育あるいはクラブ活動といったものが転機を迎えています。少子高齢化で、子どもの数が減ってきますが、例えば学校の場合、運動部の数は減らないで運動部に所属している子どもの数が減ってきて、全部がくしが抜けたような形で一斉にだめになるケースがあるんです。また、中学校によっては、「うちはサッカーと卓球とバスケットの三つのクラブだ、ほかはやらない」ということで、他のスポーツをやりたい子は行くところがない。
 そうなると、地域に受け皿として、子どもたちを預かれるクラブがあるのか。地域のスポーツクラブは同じ世代の人が楽しみでやっていて、そこにガンガンやっている中学生が入ってきたら現実問題として困る。
 ですから、そういったクラブをもう少し組織化して、そういう子どももシステマティックにできるように、総合型あるいは広域スポーツセンターをつくろうとしているんですが、今まさに過渡期の状況で、受け皿としての総合型が育っていないのが現状です。
 そこで期待できるのが、本当の機能体として活躍しているJリーグのクラブです。しっかりした指導者を雇って運動部をつくるということで、地域の受け皿になる可能性がある。例えば大阪のガンバユースは、近隣のサッカー少年を集めて、そこで育成している。そういったクラブが全国に100もできると、トップスポーツの育成に関してはいい方向に向かうと思います。
 バレーボールやバスケットボールは企業スポーツが中心ですので、まだ地域スポーツまでしっかり育っていない。もう少し事業化を進めて、プロリーグとは言いませんが、しっかりしたキャッシュフローのある事業としてスポーツをやると、トップスポーツの下に子どもたちの育成が可能になる。
 時間がかかると思いますが、多分今の方向性は間違っていないという感じがします。

○白石(コーディネーター)
 総合型地域スポーツクラブと地域スポーツクラブは、どう違うんでしょうか。

○原田(コメンテーター)
 総合型は、これまで単独のスポーツで同一世代でやっていたクラブをまとめて、まさにヨーロッパ型の総合型・複合型のスポーツクラブにしようということです。異なる種目を全部一つのクラブの中でやるので、理想を言えば、子どもたちが三つか四つのスポーツをやりながら、それを高めていくということも可能になってきます。組織づくりがかなり難しくなるので、そこにはマネージャーが必要だと言われています。

○川淵(コメンテーター)
 Jリーグスタートのとき、サッカーだけではなく老若男女だれでもが楽しめる施設づくりと指導者づくりを、みんなにお願いしたんです。
 例えば湘南ベルマーレは、ビーチバレーで、アジア大会で金メダルをとった選手がいる。ソフトボールのチームも持つようになった。鹿島アントラーズはバスケットボール、テニスを常にやっている。いろんなクラブが、いろんなスポーツをやるようになった。地域社会の子どもたち、大人の人も含めて一緒に楽しめるようなことをJリーグはやっているんです。
 しかし、それをやれる施設が今までなかった。去年初めて浦和レッズが埼玉に、ラグビー、サッカー、野球、テニス、サイクリングその他、ヨーロッパのどこに出してもトップクラスというぐらいのすばらしい施設をつくりました。これこそがJリーグの目指す総合型スポーツクラブ、そういういいサンプルを初めてつくってくれたんです。
 総合型でなくてはいけないということはありませんが、より多くの人たちがどんなスポーツでも楽しめるような場所という点からいうと、総合型が望ましいということです。

○石原知事
 大田区の発言者のコメントにありましたが、思いがけないところに行政の構えるバリアは確かにあると思います。せっかく好意のある方々が何かやろうというときに、行政が動けば解決できる問題があったら、東京ロケーションボックス※1のように、そういう問題の受付のようなカウンターをつくりたいと思います。そこが、地域の教育委員会に話して、もうちょっと融通つけろということは指導できると思うし、そうでないと、好意を持った人たちの意志が生きてこない。
 きょう、「心の東京革命※2」のリーダーの多湖先生も来ていらっしゃるんですが、いろんな話をしていると結局、最後に行き着くところは教育。行政が子どもたちに「テレビゲームをやるよりも外で遊んだ方がおもしろいよ」という水口をつくる努力を、多角的にする必要があると思うんです。
こういう機会に、皆さんそれぞれの地域社会の中で具体的にどうするかということも考えていただきたい。皆さんのお知恵・申し出を参考にして、行政は行政で、やるべき手段は幾つもあると思います。ぜひ具体的なオファーをしていただきたいと思います。

○白石(コーディネーター)
 今御紹介のあった多湖先生に、突然ですけれども若干のコメントをお願いできればと思います。

○多湖 輝 心の東京革命推進協議会(青少年育成協会)会長
 心の東京革命推進協議会の会長を仰せつかっております多湖輝と申します。
 「心の東京革命※2」の基本的な構想は、人間の品格です。今、品格を失った人間が余りにも日本に多すぎる。
 もう一つは、先ほど話題に出た国家の品格。日本が持っていた伝統文化の中にすばらしいものがたくさんあるのに、戦後、惜しげもなく捨ててしまった。これを何とか回復していく。我々は根本を見直しながら、もっと自信を持って日本の伝統文化を勉強すべきです。一番わかりやすいのは武道とか装いの道、江戸しぐさ※3。そういうものに対してもう少し関心を持つべきです。

○白石(コーディネーター)
 ありがとうございました。
 キャプテン、お願いいたします。

○川淵(コメンテーター)
 石原都知事から、子どもたちが外に遊びに出なくなったという話がありました。エアコンのきいた部屋でテレビゲームをしたほうがよほど楽しいわけです。そういう子どもたちを外に出さないとだめなんです。しかし、出ろという命令だけでは出るわけがない。
 子どもたちが行きたくなる場所、「あの指導者と一緒にやりたいな」と行きたくなる指導者、行きたくなる仲間。この三つの条件を、大人たちが子どもたちにどう与えてやるか、これがすべてだと思います。
 小学校の芝生のグラウンドもその一つ。芝生のグラウンドができれば、運動が嫌いな子だって、遊ぶなと言ったって、休み時間にみんな裸足で飛び出して走り回るんですよね。
 そういう環境を与えることが、我々が一番やらなければならないことだと思っています。

○石原知事
 子どもたちを何とか体を動かすスポーツに引っ張り出す努力を、みんなでしようじゃないですか。

○白石(コーディネーター)
 本日は、スポーツイベントを通じて、住みよい都市づくり・千客万来の都市づくりを進めていこうという共通認識ができたのではないかと思います。
 選手や観客、ボランティアなど、参加者一人一人がスポーツの楽しさを実感し、多くの人々が都市で交流し、ふれあうことによって、一体感も醸し出されます。スポーツを通じて、単にスポーツをするだけではなく、観光や都市再生の契機になっていくのではないかと実感しました。
 2007年に開催する東京マラソン、そして2016年東京オリンピックの招致を視野に入れて、これからますます石原知事のリーダーシップを発揮していただき、スポーツイベントを盛り上げていただくような期待とともに、このイベントを終わります。

※1 東京ロケーションボックス
 東京都におけるロケーション活動の円滑化を図り、映画やドラマ等を通して東京のもつ様々な情報、文化、魅力の発信力を高めることを目的として開設された、撮影許可等に関する総合窓口

※2 心の東京革命
 次代を担う子どもたちに対し、親と大人が責任をもって正義感や倫理観、思いやりの心を育み、人が生きていく上で当然の心得を伝えていく取組

※3 江戸しぐさ
 江戸の商人や住民たちが人間関係を円滑にし気分よく共生していこうとする思想から生み出された、他人を思いやる行動様式