〜東京ビッグトーク〜石原知事と議論する会

平成18年11月28日更新

「魅力的な都市空間の創出〜水辺から考える“東京”〜」
平成18年度第1回「〜東京ビッグトーク〜石原知事と議論する会」議事概要


テーマ  「魅力的な都市空間の創出〜水辺から考える“東京”〜」

日時  平成18年8月29日(火)17時30分から19時まで

場所  第一ホテル東京シーフォート 28階 トップ・オブ・ザ・ベイ(品川区東品川2-3-15)

出席者

写真:石原知事と議論する会の様子石原慎太郎 東京都知事

◆コメンテーター
 安藤 忠雄 さん(建築家)
 山本 容子 さん(銅版画家)

◆コーディネーター
 神田 紅 さん(講談師)

公募都民等 160人

発言要旨

 以下は、出席者の発言内容を生活文化局広報広聴部で要約し、取りまとめたものです。
 ※文中、敬称略

○神田(コーディネーター)
 講談の神田紅と申します。私が住んでおりますところは隅田川のすぐ近く、向島というところで、そこに花火を見たさに住みまして18年が経ちました。
 この場所をセッティングした理由というのも、京浜運河が流れていて28階から見ますとすばらしいながめで、そして向こう側に水上レストランがあるということです。その辺のお話も伺いたいと思います。

○石原知事
 私は知事になってますます東京に関して憤慨というか、情けない思いが募っているんです。
 日本の商工会議所の最初の会頭だった渋沢栄一は、江戸の遺産である運河を評価して、東京を近代化していくことでアジアのベニスにしようという意図があったそうです。けれども、結局、官僚が東京の水辺をこのていたらくにしてしまった。
 例えば、隅田川をご覧なさい。昔は、柳橋という花街があって、和船が来て、「新内の流しがございますけれども、お二階さんいかがですか」と。そのうちに護岸ができて、このごろはその上がり口もふさいでしまったから、全く取りつく島がない。隅田川に限りませんが、日本の河川は本当に死んでしまったんです。
 昔の木場を用途がなくなったので埋め立てして、運河が少し残っていますが、その運河がどうなっているか、行ってご覧なさい。公園を行ったり来たりするためにかけた橋が何本かありますが、その下の水路は船が通れない。せいぜいローボートをこいでいって、頭をかがめなかったら通れない。そういうばかな橋をかけて、完全に運河の機能がなくなっている。
 運河を使った水上レストランというのは、実は私の友人が言い出した。「昔、タグボートに引っ張られた土砂なんかを運んで捨てるバージが東京と神奈川県で500パイあるんだけれども、今、つなぎっぱなしで使われない。あれを使って、レストランをやりたい」と。建設省(今の国土交通省)に言ったら、どうぞと言いながら手続、書類で思った以上時間がかかったが、とにかくあそこに実現した。今、千客万来で、真似してあちこちにできるみたいです。
 歴史が新しいと言ったら新しいけれども、こんなあたりよりも隅田川のほうが情緒がある。歴史もある。何であの川を活かせないかと思うけれど、建物は全部背中を向けていて、川に沿ったところに裏口もないんです。あの護岸は崩すわけにいかないから、せめてちょっとしたモーターボートで皆さんが散歩してぽっと上がれるような、非常に簡単な桟橋をつくっていけば、賑わいも戻ってくると思います。

○安藤(コメンテーター)
 日本では江戸時代に、世界でもたぐいまれに大衆文化がしっかりと根づいて、舟遊びもでき、生活を楽しんだおかげで日本人の民族の民度が上がった。アメリカ、ヨーロッパ、それから中国と台湾、韓国で仕事をしていて、行くたびに日本人の民族の民度は世界でも大変レベルが高いなと思うのですが、実はそれがどんどん落ちてきています。
 こんなに急激に落ちて心配なのは、一つには、都市に遊びがなくなっていくことです。都市の開発のためには人間がゆっくりと遊んだり、楽しんだりする場所よりも、売上げと利益が優先されてきました。そろそろ我々は人生85年ぐらいあるわけですが、それは一つには、まちに好奇心があるところ、生活を楽しむところがある場合に限っているのではないかと思います。東京にはもともとそういう場所が確保されていたのに、今は全部、例えば品川、汐留あたりでも、ご覧のようにびっしりと超高層ビルが立ちはだかっている。都心の方には風も来ないという計画は大丈夫なのかなと考えています。
 ロンドンでは、この20年だんだんよくなってきて、川を向いて建物が建ち始め、テムズ川沿いを散歩できるようになっています。東京でも、今言われた水上レストランに初めて行ったときは、意外といいところがあるなとびっくりしました。そういうところが少しでもできて、それがおもしろいと思う人たちが出てくると、まちはよくなるだろうと思います。
 もともとこれだけ水運のしっかりした、海を活かしたまちであったわけですから、もう一回見直していくといいのではないでしょうか。東京は、東京駅から皇居、それから官庁街から明治神宮までに至る緑は意外と世界でも類のない美しさです。これをもう一段階レベルアップしたら、意外と東京もよくなるだろうと思います。
 それからもう一つ、海の方をしっかり使えるといいなと思っています。たくさん運河がありますから、この再利用をどうするか、みんなが考えていかなければなりません。開発のスピードが上がり過ぎて、今や市民にとっては楽しみのない場所になっているのではないでしょうか。オリンピックをきっかけにもう一段階、二段階、レベルの高い都市にならないかなと考えています。

○山本(コメンテーター)
 きょうここで言いたいことが二つあります。一つは橋のこと。もう一つは船のこと。この二つは、水辺を魅力的にするということを考えるときに大事な要素だと思います。
 隅田川には18の橋がかかっていますが、あまりに機能を優先して、橋そのものの魅力について考えることがないのではないでしょうか。
 私は外国のいろんな水辺を旅しています。例えば、パリのセーヌ川、ロンドンのテムズ川、ドナウ川にもたくさんの橋がかかっているし、ベネチアは、400もの橋でつながれた一つの島になっています。橋がいかに水辺にとって魅力的なものかという例は、世界じゅうにあります。
 日本では橋の魅力として何が欠けているのか。
 例えば、隅田川にかかっている18の橋の中に一つだけ、桜橋は車が通れないようになっていますが、もっと大きな橋で人しか通れない橋をつくることはできないのだろうか。パリのセーヌにかかっているポンデザールという木の橋は、人が通るにはとても大きくて、橋の上はまるで広場のようになっています。ドナウにかかっているチェコのカレル橋も、橋の上は車が通りません。非常に幅が広いので、大道芸人が出たり、左右でみんなが憩うことができたり、物が売られていたりします。橋がただあちらからこちらへ渡る道路という考え方ではなくて、広場というものが川の上にかかっているわけです。
 また、橋は見られるオブジェでもあります。きれいな橋は、水上を航行して見上げる人のためにも顔を持っているわけです。例えばカレル橋は、橋の両側に彫刻が並べられていて、渡る人を楽しませてくれるだけではなく、水上からその彫刻の裏側が見えます。彫刻作品というのは、ぐるっと回って初めてその作品を認識するわけですが、橋の上から一方的に見るだけではなくて、橋の外、つまり水上からその彫刻作品を完成させるという視点をもってつくられているのです。
 これから隅田川の水辺を考えるときに、人しか通れない、広場のような大きな橋をぜひつくっていただきたいと思います。
 後でもう一つ、船の話をさせていただきます。

○石原知事
 橋は、本当に情緒のあるものなんです。だから文学の主題になったり、歌の題材になったり、「ミラボー橋」なんて有名な歌もある。
 皆さん知らないでしょう。言い伝えがあって、「言問橋」とか「白鬚橋」というふうに「バ」がつかない、「新大橋」のような濁らない名前の橋が幾つかある。その橋を入ってくぐり抜けるまでに33回手をたたくと願い事がかなうと、昔はよく芸者さんに言われたんです。そういう情緒もそういう遊びもなくなったし、そういう話も伝わらなくなった。
 三島由紀夫さんの傑作の『橋づくし』という短編小説に、新橋界隈の幾つかの橋を、人に声をかけられずに話さずに渡ったら願い事がかなうなんていうジンクスもあるんだけれども、そういう余裕がなくなった。
 橋そのものもただ渡るだけの道具になってしまって、とても残念ですね。

○神田(コーディネーター)
 ここで皆様方からご提案をいただきたいと思います。
 日野市の根本将吾さん、よろしくお願いします。

○根本(都民)
 帝京大学2年の根本です。
 水辺空間を創出する上で欠かせないことは、インフラ整備ではないでしょうか。特に事故、災害時においては、大動脈である鉄道、道路といった交通機関が麻痺してしまいます。そのためにも輸送路確保のために水上交通を整備すべきだと考えます。実際に昨年、震度5強の地震が首都圏を襲ったときは、鉄道アクセスが麻痺し、自宅に帰ることができない人が発生しました。
 荒川でも車と同様に標識を設置し、河川航行ルールが統一されていますが、災害対策として機能しているかどうか、都民には見えにくい現状となっています。
 そこで、例えば、神田川付近に水上駅を新設し、内陸部から夢の島公園まで避難するために人を輸送していくのはいかがでしょうか。メリットとしては、道路交通の緩和と、水上交通はエネルギーにやさしい交通体系として認められていることから、水の都のイメージアップにつながります。
 私がこの提案をした理由は、東京都で震度5又は大規模な停電が起きたことにより、代替輸送で水上を使用しないのか常日頃疑問に思ってきたのがきっかけです。都政に反映され役に立てれば幸いです。

○神田(コーディネーター)
 水上交通を災害のときに利用できないかというお話ですが、いかがですか。

○石原知事
 それは当然のことですね。ただ、災害時の帰宅困難者というのは、都内よりも、むしろ都外から来ている人がたくさんいるんです。あなたがおっしゃったことも確かに必要ですが、都内での移動よりも、もっと遠いところから来ている人たちをどうやって帰宅させるかの問題の方がプライオリティは高い。

○安藤(コメンテーター)
 都民ももっと水辺空間を楽しまなければいけないと思います。積極的に出ていかないと、いいまちになりません。私はたまたまベニスで美術館をつくっていまして、ベニスへ行くと、船の交通は遅いけれど、結構みんなそれに乗って楽しみながら、積極的に出る。また、フローレンスにポンテ・ベッキオという、通路の両側にお店がある有名な橋があります。もともと橋をつくる費用がなかったので、お店をつくって店の権利金みたいなもので橋をつくろうかというような発想だったらしいんですけれども。そういう発想で、ベニスにもポンテ・デカルテという橋があります。これも両側にお店があります。ああいう橋、幅が広くて、お店もあり、楽しみながら行ける橋もかかるといいなと思います。国土交通省がなかなかOKしないかもしれませんが、時代も変わってきていますし、そろそろいいのではないかと思います。
 我々市民も、自分たちの責任と行政の責任をはっきりしなくて何でも悪いのは行政だと言うのは、まずいのではないかと思います。川に寄ると危ないというのでどんどん護岸が高くなって、できるだけ手すりを高くして海や川を見えなくしてきた。国土交通省も悪いかもしれませんが、市民も、「落ちたらどうするんだ」というところがあります。積極的に川を使うためには、個人責任と行政の責任とを分けて、みんなが川の方に出ていって隅田川を散歩するというふうになっていくといいと思います。
 隅田川にたくさんの橋がありますが、全部構造形式が違います。技術的な工法が違うし材料も違う。見方によって楽しみが違いますので、都民は、自分のインテリジェンスを上げないと、わからない人が見ても何もおもしろくないわけです。もうちょっとレベルアップして、自分のことは自分で楽しむんだと積極的に出ていけば、東京に発見する場所はいっぱいあります。そうしたら今度はだんだん国土交通省の方も、「出ていくのならば、もうちょっと出ていけるようにしようか」というふうになっていくと思います。

○石原知事
 安藤さん、どこか隅田川の一番おもしろいようなところ、それぞれの末端が道路につながっていないところで、橋の上の商店街みたいな新しい橋、全然コンセプトの違う橋をつくったらどうだろう。

○安藤(コメンテーター)
 いいと思いますね。橋をつくるには結構お金がかかるらしいので、そのお金がかかる分だけ両方にお店をつくったり、広場をつくったり、真ん中で芝居小屋ができる橋があってもいい。技術のレベルが上がった時代ですから夢のある橋をつくってもいいなと思います。

○山本(コメンテーター)
 橋の上からの風景がなぜあんなにロマンティックかというと、目の前に何もなくて、川の行き先、つまり東京湾に広がる大きなスペースが見えるわけです。そのスペースが気持ちいいので、みんな水縁が好きなんです。そのすばらしいビューを、東京ではどれぐらい考えているのだろうか。東京が本当に魅力的に見えるビューポイントを橋の上から探してみると、今、私が言っているいろいろなことが皆さんの中で構築されていくのではないでしょうか。
 それから、私は美術家ですから美術を見せる場所がほしいのですが、ギャラリーは土地に固定されているものですから、見る側が出かけていかなくてはいけません。そこで、船が仮にギャラリーだったとしましょう。大きな船だったら美術館だったとしましょう。そうすると、美術作品が出前できるわけです。ゆっくりと船で何かを見ながら、風景が変わるのを見ながら、ある波止場に着くと、そこにいる住民たちが絵を見る。ひととき交流があって、またその展覧会はその川をさかのぼってゆっくりゆっくり違う土地へ行くわけです。
 そういうふうに船というものを動く文化施設と考えて、それがやってきて船着場に着いたときにその土地と交流する。美術には限りません。コンサートでもいいと思います。これをもっと大きく考えますと、美術館のような大きな船をつくって、海外に日本の美術を紹介するときに、マルコポーロの時代のように大きな船に日本の作品を乗せていろんな寄港地を回って、その国との交流をしていく。その船は何年かかかってまた日本へ戻ってくる。
 こういう、船を使った文化交流という提案をして、その発信が東京であったらすばらしいなと思っております。

○石原知事
 後の方は無理ですね。経済的な効率から、誰が支出をするかという問題になります。
 ところで、お台場に向かっていく途中のレインボーブリッジから見た東京は、新しいころのマンハッタンみたいな感じで、東京の新しい風景の三指に入るものだと思いますよ。

○山本(コメンテーター)
 そうですね。でも、車だものね。

○石原知事
 車ですね。あそこで下りるわけにいかない。あの橋のつくり方も、もう一つ知恵が足りない感じがするね。

○神田(コーディネーター)
 根本さんの先ほどの話が途中から違う方角に行きましたが、東京都もいろいろな取り組みをしておりまして、災害時緊急物資輸送の目的で河川地域には50か所、港湾地域には何と102か所の防災船着場が既に整備されているそうです。そんな場所が幾つかは水上バスの発着所としても使われているということです。あるということも私たちは知らされていないし、そこをうまく利用する方法はあるんじゃないかと思います。
 次に品川区の久保恵美子さん、よろしくお願いします。

○久保(都民)
 この天王洲に住んでいる久保と申します。
 私が本日申し上げたいことは、船をもっと身近に、日常生活の交通機関として利用ができないかという提案です。現在、東京の船はほとんどが定期船で、観光目的のものが多いと思いますが、通勤や買い物、それから日常の足として気軽に利用できればいいと思っています。
 このように思ったきっかけは、香港を旅行して、九龍島と香港島を結ぶカーフェリーに乗った体験からです。観光客も地元の方も一緒になって非常に安い料金で気軽に利用しています。東京でも同じようなことができればと期待しています。
 船による移動の魅力は癒しの効果だと思います。私は以前、隅田川のほとりに住んでいました。水と触れ合う生活がどれだけ心を和ませてくれるかということを強く感じて、今も水辺に住んでいます。
 船の日常利用が可能になれば、江戸時代からの水辺文化のすばらしさに触れ、身近な問題として景観や環境にも思いが至るのではないかと思います。また、ビジネスマンにとっては通勤の苦しみから解放され、通勤の楽しみというものを味わうことができるのではないかと思っています。そして自転車が乗せられれば、シップ&サイクルということで環境にもやさしく、都民の健康にもいいのでないかと思っています。
 新しい交通利用を喚起し、水辺文化を発展させ、東京のイメージアップを図り、そして人々の精神衛生上の向上にもつながるアイディアではないでしょうか。もちろんクリアしなければいけない問題はたくさんあると思いますけれども、少しずつ実現していっていただければいいと思っています。

○石原知事
 それはもう部分的にやっていますよ。それから東京湾に限って言えば、かなりフェリーが頻繁に往復していますから使う人は使っています。都心部の、カナルが走っている地域に関して言うと、地上の交通網がこれほど整備されている大都市というのは世界にありませんから、結局皆さんそれを使われるわけで、川をプラスしても、あまり利用客はない。あなたのおっしゃることはよくわかりますけれども、統計をとってペイするものは、やっています。どうしてもここは必要だというものがあったらおっしゃってください。

○山本(コメンテーター)
 現実となると、どれだけの人が使うか調査が必要です。けれども、たくさんの人が使うからということばかりではなく、質ではかってもらいたいと思うのです。ある質の高さを持ったものを使えば、そこの魅力は上がるので、魅力度をアップするというようなはかりをもっていけば、違う調査の仕方などが出てくるんじゃないかなと期待します。

○石原知事
 そこら辺は難しいところで、ペイしない、しかし質の高い行政も必要でしょう。ただ、そこでできてくる経済的な負担というのは誰が負うかといったら全部市民が負うわけですから、税金を払う人がね。行政は、そこら辺のバランスをいかにとるかがとても難しいんですよ。

○神田(コーディネーター)
 大田区の佐藤宏さん、お願いいたします。

○佐藤(都民)
 旅行会社に勤める佐藤宏と申します。
 世界の水辺、海岸には素晴らしいヨットハーバーや美しい芝生の広場があります。
 翻って日本はというと、今ちょうど我々から見える空間にも、形や色、大きさが不統一な建物や大小の公園がいろんなところにあります。
 でもその公園では夏休みにもかかわらず、子どもたちが遊んでいません。ちょっと前に成田への車窓から見た川辺のサッカー場、野球場にも誰一人いませんでした。そこは予約がいる有料施設です。それに大田区の小学校では、多摩川の土手に行くことさえ禁止しています。放課後には早く帰りなさいと言われるし、夏休みも自由に自分たちの校庭が使えません。
 ニューヨークのセントラルパークではサッカーコートや野球場などがたくさんありますが、無料です。市民は税金を支払っているのだから、行政がちゃんと整備をしてくれています。市民も責任をもって使っていて、公共のマナー、ルールを完全に守っています。
 世界にはいっぱい見本となる場所がありますので、わくわくドキドキ出来るところに老人と子どもたちが手をつないで行ける、そういった魅力的な都市空間を、知事にぜひ、つくっていただきたい。どうぞよろしくお願いします。

○安藤(コメンテーター)
 今、子どもがものすごく過保護に育っていますから、ちょっとでも危険なところには行けないといいますか行かせない。だけど、これからは出ていくところも必要なのではないかという気がいたします。臨海地区にはそういうところがあってもいいなと思います。

○石原知事
 お台場の人工ビーチは、ある距離の海岸線だけではありますが、普通の海水浴ができるように、非常にきれいな水を流しています。お子さんたちが泳げる海岸の整備をしています。

○安藤(コメンテーター)
 この間知事と話をしていたときに、海上の森をつくると言っておられました。これができると、東京は緑のまちにするという宣言みたいなものですから、大賛成です。

○石原知事
 安藤さんは、大きな土地を、とにかく桜だけ植える公園にした。あれまた奇想天外だけど、やはりぜいたくで、非常に豊かな発想だと思いますね。

○安藤(コメンテーター)
 松下電器が幕張に1万坪空いているので全部桜を植えるということで、今年の5月にできました。ほかにもいくつか作っています。
 東京では先ほどからの話で、全部建物が川に背を向けていますね。これは一つずつ企業の建物で、改造できるわけですから、企業は真剣に川に向けて建物をつくってはどうでしょうか。企業がお金を貯めるばかりではなく1%ぐらいでも出して、自分たちのできることをできる範囲でやっていただくと、一気に東京はよくなるのではないか。一回企業家を全部集めて、知事に説明会をしていただくといいかと思います。

○山本(コメンテーター)
 知事の「海の森(仮称)」構想は私もすばらしいと思います。
 そこにヒントになればと思ってまた旅先のことを言いますと、今、パリではグランドトラム構想といってバスをやめてトラム(市電)に戻そうという運動をやっていて、郊外を円環で結ぶトラムが、大分でき上がってきているところです。これをこの間見てきたら、トラムが走る線路に全部芝生が植えられていたんです。線路だけれど、トラムが走らないときは広場になる。夜は芝生の広場がつながる。環境にもやさしい。
 ただ木を植えるだけではなく、ちょっと利用できるとか、機能を持った場所が環境的にいい場所になるということを考えていくと、おもしろいのではないかと思います。

○石原知事
 私は、きょういろいろヒントをいただきました。とても印象的だったのは、道路につながらない橋、橋そのものに商店街がある橋。要するに渡る目的じゃない橋を東京へつくりたいですね。そうすると、その刺激で隅田川そのものがよみがえってくると思うし、今の無機的な護岸を、少し金をかけてでもかけかえようと動きも出てくると思う。
 皆さん、言うのは言うけれども、あまり行かない。これだけ稠密な息苦しい東京になってしまったので、せめて人が出ていって、何もハワイやグアム島へ行かなくたって、ちょっと足を伸ばせば隅田川を見て非常に楽しかったという、新しい名所をつくりたいと思います。
 また皆さんいろいろお知恵を貸してください。頑張ります。ありがとうございました。

○神田(コーディネーター)
 東京というところは、ものすごくいろんな顔を持っている大都市だと思います。下町もあれば、超高層ビルもある、いろんな風景、いろんな顔を持っている東京に、水が結構豊富にある。私は、水を自分の住んでいるところから見るだけで、とても心が癒されるというところがあります。見ているだけでも心が和む。そういう空間を大切に、そして皆さんにとっていい空間になるように都市の機能を壊さずに、癒しの空間にもなれるようなご提案を、こうしろ、ああしろ、ばっかりじゃなくて、自分たちもこれならできますということをこれからも提案していっていただければうれしいなと思っております。
 きょうは長時間ありがとうございました。

※「海の森(仮称)」構想
 東京港の中央に位置する中央防波堤内側埋立地に予定されている、区部最大級の公園の整備計画。この計画予定地は、昭和48年から昭和62年までの間、ごみの最終処分場として使われてきた場所で、現在は広大な空間となっている。