舛添前知事「知事の部屋」

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施政方針

平成26年9月17日更新

平成26年第三回都議会定例会知事所信表明

 平成26年第三回都議会定例会の開会に当たりまして、都政運営に対する所信の一端を申し述べ、都議会の皆様と都民の皆様のご理解、ご協力を得たいと思います。

 はじめに、デング熱対策について申し上げます。現在、厚生労働省や関係する自治体と協力して、ウイルスを媒介する蚊の駆除を行い、発生抑制対策を講じるとともに、蚊を捕獲しての検査を強化しております。先週、塩崎厚生労働大臣と面会し、これからも国と都が力を合わせていくことを確認いたしました。デング熱は、ヒトからヒトに直接感染するものではなく、予後も比較的良好であります。都民・国民の皆様には冷静な行動をお願いいたします。
 国境がボーダレス化し、人や物の移動が活発となった現代において、地球温暖化も進み、我が国でも感染症のリスクが高まってきております。2020年のオリンピック・パラリンピックも見据え、国とも連携し、有識者、医療関係者、現場の保健所職員などをメンバーとする対策会議を立ち上げることにしました。蚊を媒介とする感染症をターゲットに、今回の対応の検証や疫学的な分析を行い、対策強化に繋げてまいります。

 このたび名誉都民の候補として、長嶋茂雄さん、三橋國民さん、山田洋次さんの三名の方々を選定させていただきました。
 長嶋茂雄さんは、「ミスタープロ野球」として誰からも愛される国民的スターでありまして、日本代表監督としてチームをアテネオリンピックに導くなど野球界の発展に尽力し、人々に希望や活力を与えてこられました。
 三橋國民さんは、第二次世界大戦下のニューギニアで激戦と飢餓を切り抜け、戦友への「鎮魂」と「平和への祈り」を造形美術で表現されるとともに、戦争を知らない世代に平和への思いを講演してこられました。
 山田洋次さんは、日本を代表する映画監督として「男はつらいよ」など人間ドラマに焦点を当てた作品で多くの観客を魅了し、また、作品を通して「ふるさと」東京を広く都民・国民に発信し続けてこられました。
 お三方は多くの都民が敬愛し、誇りとするにふさわしい方々であります。都議会の皆様のご同意をいただき、来月、名誉都民として顕彰したいと考えております。よろしくお願い申し上げます。

1 2020年とその先の明るい未来に向かって

(長期ビジョン(仮称)中間報告)

 さて、今般、2020年オリンピック・パラリンピック開催時の東京と、今から10年後となる2024年の東京の姿を描いた長期ビジョンの中間報告を取りまとめました。「世界一の都市」という東京の将来像の実現に向けて説明責任を果たすため、社会や都民生活に及ぶ効果と状況がわかる政策目標を定め、それを可能な限り数値化して目標年次も明らかにしております。今後、都議会の皆様との議論を踏まえ、都民や区市町村の意見も取り入れて、年末には最終的な形を取りまとめ、3か年の実施計画と共に示してまいります。
 ビジョンの財政的な裏付けとなります平成27年度予算は、積極予算を編成したいと思います。しかし、漫然と前のやり方を踏襲し、時代にそぐわない施策を放置したままでは、財政が硬直化して、都民の新しいニーズに応えることは困難となります。そこで、各局が自ら施策の見直しを行った場合、削減額の2倍まで新規の予算要求を認めることで、インセンティブを働かせる仕組みを導入いたしました。都政のスピードを加速させるため、補正予算という手法も活用していきたいと思います。

(新しい都政のかたち)

 変化の速い今の時代に「マンネリズム」のやり方では、都民生活を豊かにすることはできません。行政を司る立場の政治家が、変化を恐れず「悪しき前例踏襲」と「意味ある行政の継続」、この二つを正しく見極めてこそ、社会と経済は活性化すると思います。行政内部の固定観念を拭い去り、規制を緩和することで、東京に集まる人材や富を活用し、地域や企業の力を引き出す。そういう新しい政策を展開してまいります。そうなれば、ビジネスチャンスも生まれて新たな富が創出され、これを有効に活用して防災や治安、福祉・医療、教育の充実を図り、都民生活の質の向上を実現する。さらには、新しく生まれた富が地方の振興にもまわることで日本全体の発展に繋がる。そういう新しい都政のかたちをつくってまいります。

(1964年大会から50年)

 1964年10月10日、大秋晴れの下、オリンピックマーチの演奏と共に各国選手団の入場を迎えたあの日、人々は、オリンピックが映し出した輝くような未来に、新たな時代の到来を感じ取ったのであります。
 その未来予想に導かれるように、日本全体が豊かになり、我が国は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と称えられる地位にまで上り詰めました。しかし、その後は「失われた20年」という下り坂の中で、デフレによる経済の沈滞は人々の気持ちまで暗くし、私たちは、自信と誇りを失っていったのであります。その流れを変えるのが、2020年のオリンピック・パラリンピックであります。
 まずは、2020年という目標に向かって、東京の発展を加速させなければなりません。しかし、そこがゴールではありません。この大会を、2020年の先も明るい未来にしていくための跳躍台にしなければならないのであります。政治家の役割は、高い理想を掲げ、人々に夢と希望を示すことであります。前回大会から、ちょうど50年を迎えた今、その決意を新たにしております。

2 2020年とその先の将来を見据えた政策展開

(2020年オリンピック・パラリンピック)

〈競技会場整備計画の再検討〉

 2020年大会を成功に導くためにも、まず全力で取り組まなければならないことは、競技会場整備計画の再検討であります。IOC、IPCをはじめ国内外の競技団体とコミュニケーションを密に図り、精力的に検討を進めております。
 なかでも、東京都が整備を受け持つ施設で、今年度中に基本設計を予定している6つの施設について優先的に検討を進めてまいりました。そのうち、水泳会場となるアクアティクスセンター、ボートとカヌーのスプリント競技の会場となる海の森水上競技場、バレーボールの会場となる有明アリーナ、この3施設については、近隣県も含め他に活用可能な施設が存在しない、あるいは極めて限定されるなどの理由で、現計画の予定地が妥当であると判断するに至りました。今後、速やかに基本設計に入り、後利用を考えた施設規模、整備費の圧縮などの詳細をさらに詰めてまいります。また、残りの施設につきましても鋭意検討を進め、全体として、来年2月までにIOC及びIPCに提出する大会開催基本計画に反映させてまいります。

 明後日から21日までの3日間、仁川で開かれますアジア競技大会視察のため、韓国に出張いたします。国際大会の運営状況や競技施設を自分の目で確認し、今後の参考にしたいと思っております。現地ではJOC主催のレセプションに参加し、IOC委員をはじめ関係者との信頼構築にも努めてまいります。

〈都民・国民の皆様と共に〉

 東京には開催都市としてオリンピズムの精神を普及させていく責務があります。そこで来月、スポーツ界、公・私立の学校関係者、学識経験者などからなる「東京のオリンピック・パラリンピック教育を考える有識者会議」を立ち上げ、教育プログラムの検討を開始いたします。多くの子供たちがオリンピック・パラリンピックに触れることを通じて、国際社会の平和と発展に貢献する人材という最高のレガシーを残していきたいと思います。
 大会成功のためには、都民・国民の理解と協力が不可欠であります。東京都知事が出席したのは6年ぶりという夏の全国知事会議で、2020年大会を全国で盛り上げ成功させようと提案し、全知事の賛同を得て、推進本部が設立されました。これで、47都道府県が一致協力していく体制が整いました。また、区市町村やJOC、JPC、組織委員会とも連携し、1964年大会の50周年を記念して、そのレガシーを振り返る様々なイベントを、体育の日を中心に都内各所で開催いたします。是非とも多くの皆様に足を運んでいただきたいと思います。

〈2019年ラグビーワールドカップの開催地への立候補〉

 次に、2019年に日本で開かれますラグビーワールドカップについて申し上げます。ラグビーワールドカップは、延べで約200万人が観戦し、42億人が視聴する世界的なスポーツの祭典であります。新国立競技場で、オリンピック・パラリンピックに先駆けて開催される世界規模の大会となり、運営能力など東京や日本の実力を世界にアピールできる絶好の機会にもなります。東京都は、ラグビーワールドカップ2019の開催都市への立候補に向けた検討を進めてまいります。関係方面と調整の上、来月末には正式な結論を出したいと思います。

〈2020年大会を契機に東京の魅力をさらに高める〉

 2020年大会は、東京の魅力を世界に発信していく大きなチャンスであります。この機を捉え、その魅力をさらに磨き上げてまいります。
 芸術文化は都市の価値を構成する重要な要素であります。私は、文化の面でも2020年のオリンピック・パラリンピックを史上最高の大会にして、東京を世界一の文化都市に引き上げたいと考えております。今後、具体化が進むオリンピックの文化プログラムにも、多彩で魅力的な内容を盛り込んでいかなければなりません。これらを実現するには、グローバルな視点から文化政策を捉え、文化面での国際的地位を向上させる具体策を講じていかなければなりません。
 まず、東京都自身が文化についての確固たる世界戦略を持つ必要があります。そこで新たな「文化ビジョン(仮称)」を策定することにいたしました。年明けには素案を公表し、都議会の皆様にご議論いただいた上で、年度内に策定したいと思っております。
 また、日本庭園が持つ魅力を発信するため、都立庭園だけでなく、都内にある国公立や民間の庭園にも呼びかけ、外国人観光客向けの庭園周遊ツアーや共通パンフレットの作成など、庭園文化の魅力を広くアピールしてまいります。こうしたことに限らず、都立公園は、大きな可能性を秘めていると思います。例えば、公園にかけられている規制を緩和することで、保育所を整備できないか、新しい賑わいを利用できないか、防災施設へ活用できないかなど、これまでにない知恵と発想で、公園の魅力を高めながら、一石何鳥にもなる政策を実現してまいります。

 外国人旅行者が快適に過ごせる環境も整えてまいります。都営バスに続き、都営地下鉄の主要駅に無料Wi−Fiを導入するなど、欲しい情報に手軽にアクセスできる環境を充実し、利便性を向上してまいります。デジタルサイネージの活用方針も定め、多言語化の取組を進めてまいります。2020年に向けて語学ボランティアの育成を進め、こうした取組を契機にボランティア文化も根付かせていきたいと思います。
 また、2020年大会を控え、飲食店などでの受動喫煙を防止するため、有識者や業界団体等の意見を聴く検討会を設置いたします。幅広く意見を伺いながら、検討を進めてまいりたいと考えております。

(都市外交の新たな展開)

〈ソウル特別市を訪問〉

 「平和の祭典」でありますオリンピック・パラリンピックを成功させるためには、世界の都市や国との友好関係の強化が不可欠であります。
 友好都市であるソウル特別市への訪問では、朴元淳市長と、地下鉄の安全対策についてお互いの強みを共有し合うことや、PM2.5などの大気汚染対策、スポーツ面での交流、博物館同士の事業連携を進めることなどで合意いたしました。官邸と密に連絡をとりながら準備を進めたものでありまして、朴槿恵大統領との会談では、安倍総理の日韓関係改善に向けた見解を伝えてまいりました。
 今回の訪問で、韓国のマスコミの論調も良い方向に変わってまいっております。都市のレベルで交流・協力を積み重ね、結果として国の外交を側面から補強・補完する、そうした都市外交を展開したいと思っております。

〈ヘイトスピーチ〉

 朴槿恵大統領との会談では、ヘイトスピーチに対する懸念も共有いたしました。「表現の自由」が憲法で保障された重要な権利であることは論を俟ちませんが、特定の国民や民族に対して憎悪と敵意の感情に満ちた侮蔑的な言葉を浴びせることが許されていいはずがありません。しかし、この問題への対応は東京だけでは限界があります。安倍総理にもお話しし、総理の指示の下、対策の検討が始まっております。民主主義、自由、そして基本的人権という価値が共有されない社会に明るい未来はありません。政府とも協力して、人権意識の普及啓発に努めてまいります。

〈今後の都市外交の方向〉

 今月初めには、ロシアのトムスクで開かれましたアジア大都市ネットワーク21の総会に、吉野利明議長と共に、出席してまいりました。また、帰路、友好都市のモスクワに立ち寄り、ソビャーニン・モスクワ市長とお会いしてまいりました。
 アジア大都市ネットワークは、都市間の交流・協力関係を推進するのに大いに役立ってまいりました。例えば、感染症のプロジェクトでは、新型インフルエンザのほか、デング熱などの熱帯感染症についても知見を共有してまいりました。東京も、自らが持つ先進的な技術やノウハウを活用して、共通する課題の解決に取り組み、アジアの発展に貢献してまいりました。こうした取組は大変、有効なものであると思います。しかし、発足以来10年以上が経過し、近年は総会の出席者もトップではなく、代理となるケースが増えてきておりました。そこで、現在のネットワークを抜本的に見直していくことを総会で提案・議論し、合意いたしました。今後、事務局を務める東京が会員都市からの意見を集めることとなります。
 東京自身、2020年に向けて、もっと広く海外都市の先進的な事例を学び、相互協力を行い、また、その魅力を発信していかなければなりません。もとより、都市外交に投じることができるマンパワーや財源には限りがあります。2020年大会まで6年を切った中、都市外交を効率的、戦略的に進め、最大の効果をあげていくため、新たな都市外交の基本戦略を年内に策定することにいたします。その内容を、長期ビジョンの最終報告と来年度予算にも反映してまいります。
 また、海外における東京の認知度を上げ、評価を向上させる都市広報の取組を強化していくため、来月、「海外に向けた都市広報を考える有識者会議(仮称)」を立ち上げます。各分野の有識者からアイデアをいただき、効果的なプロモーションに結びつけてまいります。

 現在、西アフリカ諸国で流行が見られるエボラ出血熱につきましては、現地で、医療スタッフ用の個人防護具などの医療資機材が不足しております。そこで、外務省、厚生労働省、JICAと連携して、都が新型インフルエンザ対策用に備蓄している個人防護具を、シエラレオネ、リベリアをはじめとする西アフリカ諸国に提供することにいたしました。第一弾として、個人防護具10万セットを提供し、さらなる要請があった場合には、政府とも連携し、追加で支援してまいりたいと思っております。

(安全・安心な都市の実現)

〈訓練を重ね、防災対策を磨き上げる〉

 長期ビジョンで描きました東京の姿を実現していくためには、都民の安全・安心の確保が大前提であります。それなくして、人々が活発な都市活動を行うことはできません。
 先月末には、杉並区と合同で、首都直下地震を想定した総合防災訓練を実施し、木造住宅密集地域では、消防団や地域の方が主体となって消火・救出訓練を行いました。こうした住民が行う訓練の参加者を増やすため、東京消防庁は、学校行事やイベントに併せた訓練を企画するなど、さらに積極的に取り組んでまいります。また、臨海部では負傷者の搬送、支援物資の受入訓練を行い、「首都直下地震等対処要領」の内容を検証いたしました。今回の総合防災訓練には、ソウル特別市と、台湾からは台北市、新北市の救助部隊、台湾赤十字組織の方々にも参加いただきました。大災害時にはお互いに助け合う、こうした協力の絆を大切にしていきたいと思っております。先般、東久留米総合高校の生徒たちによる宿泊防災訓練の様子も視察しましたが、訓練を通じて、自助・共助の力を高め、公助の練度を上げ、東京の防災力の向上を図ってまいります。
 多摩・島しょ地域の防災対策も、着実に進めてまいります。
 昨年10月の伊豆大島で発生した土砂災害につきましては、大島町が今月中に復興計画をまとめる予定であります。都は迅速な復興と防災力の強化を支援してまいります。先月には、広島でも土砂災害が起こりました。犠牲になられた方々には深く哀悼の意を表します。都内にも多摩・島しょ地域を中心に、土砂災害のおそれのある箇所が1万5千か所あります。2020年までに土砂災害警戒区域・特別警戒区域の指定を終え、警戒避難体制を整備するなど、ソフト面の対策を進めてまいります。集落の孤立を防ぐための道路整備など、ハード面の対策と合わせ、危機管理を徹底してまいります。
 また、南海トラフ地震が発生すれば、島しょ地域に巨大な津波が短時間で押し寄せる危険があります。到達するまでに高台に避難することが難しいような場合には、津波避難タワーなどを整備してまいります。

〈東京の治安を守る〉

 都民生活を守る上で、防災と並んで重要なのが、治安対策であります。私は知事として、東京の治安は高い水準にある、そういう自信を持っております。そして、2020年を控えた今、これをさらに高いレベルに引き上げていかなければなりません。
 6月に池袋で起こった交通死亡事故をはじめ、社会問題となっているのが、危険ドラッグであります。事故を受け、福祉保健局と警視庁、厚生労働省が合同で、店舗への一斉立入調査を実施いたしました。先日、危険ドラッグの分析を行っている健康安全研究センターも視察してまいりました。対策をさらに推し進めるため「薬物の濫用防止に関する条例」を改正し、警察官の立入調査権限や薬事監視員の薬物収去権を新たに付与したいと思います。
 さらに、高齢者などを狙った卑劣な振り込め詐欺も、全国的に増加傾向にあります。物理的なテロだけではなく、サイバーテロの対策も強化していく必要があります。2020年東京オリンピック・パラリンピックを見据え、益々、複雑・多様化してくる犯罪に対処するため、警視庁では、今般、「『世界一安全な都市、東京』実現のための警視庁ビジョン」を策定しました。これを基に、都民・国民のご理解をいただきながら、対策を推し進めてまいります。

(福祉先進都市の実現)

 続いて、福祉先進都市の実現に向けた取組について申し上げます。
 今年4月1日現在の待機児童数は8,672人であり、保育サービスを充実させてきたにもかかわらず、過去最高となりました。これは、保育サービスを利用したいという潜在ニーズが顕在化したものだと思います。生活の質の向上を都民が実感できるようにするには、こうしたニーズに対し、直ちに対策を講じていかなければなりません。
 保育所などを整備する上で、東京にとって最大のネックは、土地の問題であります。そこで、都有地に福祉施設を整備する場合、従来、貸付料が一律5割の減額であったものを、基準となる地価よりも高い部分は9割減額することで、都心部など地価の高い地域での整備を促進します。また、国有地や民有地を借りる場合の補助制度も創設するほか、区市町村における保育所整備や定員増の取組を加速してまいります。さらに、都営住宅や公社住宅の建替えの際に建物を高層化して、今後、10年間で30ヘクタールを超える土地を生み出すほか、地元ニーズに結びつけられるよう、区市町村にも必要な情報を提供してまいります。こうした取組を一刻も早く開始するため、本定例会に補正予算案を提案しております。このほか、都営地下鉄の高架下や上下水道の施設跡地など公営企業用地の活用も進めてまいります。
 また、都は、民間事業者による地域開放型の事業所内保育施設の設置を促進しております。都自らも、2016年度を目途に、都庁内に地域開放型の保育施設を設置してまいります。

 なお、大気汚染訴訟の和解に基づく医療費助成制度につきましては、和解条項を踏まえ、必要な経過措置を講じた上で制度の見直しを行いたいと思います。本定例会に、そのための条例改正案を提案してあります。ご理解のほどをお願い申し上げます。

(人々、企業が生き生きと輝く東京の実現)

 日本経済を牽引する機関車の役割を担う東京は、海外との激しい都市間競争に晒されております。この競争に勝ち抜くために、東京に集まる人々と企業の力を最大限引き出さなければなりません。

〈人々の活躍こそが東京の力〉

 東京の経済を活性化する第一の鍵は、女性の力にあると思います。昨日、都庁で「女性が輝くまち・東京シンポジウム」が開催され、国内外の第一線で活躍する女性から、体験に基づく貴重なご意見をいただきました。こうした意見を、都が事業者団体などと設置する「女性活躍推進会議」の議論に反映し、女性の登用や継続就業の取組に繋げてまいります。さらに、産業、医療、教育、地域など各分野での先進的な取組を「女性活躍推進大賞」として表彰し、東京全体に発信してまいります。
 女性ならではの感性に加え、若者の豊かな発想力や高齢者が培った経験と人脈も、東京の持つ大きな潜在力であります。女性、若者、高齢者がそれぞれの強みを活かし起業・創業できるよう、創業予定者の発掘・育成から成長段階まで、一体的に支援してまいります。

 先日、都立学校のプログラムで海外留学を経験した生徒たちと懇談する機会を得ました。語学力の向上に加え、異なる文化の中で生活することで、自分とは違う価値観を知り、世界の多様性を身をもって認識したことを、それぞれの体験を交えながら話してくれました。国際機関で働きたい、水素社会を実現したい、といった将来の夢も語ってくれました。大きな希望と目標を持って、それを実現しようと頑張っている姿に、東京の明るい将来を垣間見た次第であります。
 教育は、身につけば絶対になくなることのない、人生の大きな財産であります。高校生や首都大学東京の学生が海外に留学することに対する支援、都立国際高校のバカロレア認定の取得など、グローバル人材の育成を進め、世界で活躍する力のある若者を東京から育ててまいります。

〈東京の成長戦略〉

 かつて金融市場として活況を呈していた東京も、この20年間のデフレを経て地盤沈下し、往年の輝きを失ってしまいました。この輝きを取り戻さなければ、日本の再浮上はあり得ないと思っております。先日開かれました「東京国際金融センター推進会議」では、財務省、金融庁、国土交通省、経済産業省、外務省、日本銀行、金融業界などの関係者が一堂に会して、具体的な取組を展開していくことで合意しました。とりわけ、ビジネス交流拠点の活性化、国際金融会議の開催・誘致、経済の活性化に向けた都の資産活用、グローバル人材の育成、これらについて分科会を立ち上げ、取り組んでまいります。また、ファンドという手法を使って、東京都の信用力を基に民間の出資を促せないか、1600兆円にも上る個人の金融資産を有効活用できないか、福祉施設の整備に活用できないかなど、様々な可能性を探っていきたいと思います。
 これからも、東京への集積のメリットを最大限発揮し、さらに世界中から資金・人材・情報を呼び込む政策を進めてまいります。

 東京と日本の成長のためには、新たな技術革新、イノベーションも欠かせません。エネルギー分野で有望な水素の活用については、自動車メーカーが燃料電池車の市場への投入を発表するなど、本格的な動きも出始めております。資源小国・日本、地球環境問題、災害時の非常用電源の確保、こうした難題の解決に資する水素には、革新と呼ぶにふさわしい要素が詰まっていると思います。現在、メーカーやエネルギー関連企業からメンバーを集めて議論を行っております。それを踏まえて、長期ビジョンの最終報告では、具体的な数値目標を定め、その実現に向けて戦略的に取り組んでいくことで、東京の本気度を示してまいります。

 東京のものづくりを支える中小企業も支援してまいります。中小企業の高い技術力を製品へと結実させなければなりません。都立産業技術研究センターの多摩テクノプラザを視察しましたが、電磁波の測定施設など最新の分析機器や加工機器を備えており、先端技術を駆使した製品の海外展開に大いに活用できるものであります。こうした技術革新に向けた支援を行い、東京のものづくりの底力を高めてまいります。

〈国家戦略特区〉

 先週、国家戦略特区の担当である石破大臣と面会し、東京をグローバルビジネス都市に変える手段である国家戦略特区を動かすよう求めてまいりました。東京都は、区域会議を開く準備が整っております。
 都市再生の分野では大胆な容積率設定などを盛り込んだプロジェクトをスピーディーに展開していきたいと思います。また、都市の賑わいを創出するため、道路に関する規制も緩和していきたいと思います。来月、丸の内仲通りと行幸通りを会場として、都内産の食材や花をふんだんに使ったイベント「東京味わいフェスタ」を開催いたします。地元区と協力して、期間中は仲通りを歩行者天国にするなど、今回のイベントをモデルとして検証し、今後は、特区の規制緩和を活用することで、このような取組の拡大に繋げてまいります。
 医療の分野では、革新的な医薬品などの研究開発を推進するため、規制緩和に取り組んでまいります。雇用の分野でも、ベンチャー企業やグローバル企業の活動を後押しするために、雇用労働相談センターの今年度中の開設を実現したいと思います。
 さらに今後は、法人設立手続きのワンストップサービスや書類の英語対応が可能となるよう取り組んでまいります。ジェネリック医薬品の審査権限を有する東京版PMDAも実現していきたいと思います。すでに特区に指定されている9区と準備中の9区に加え、多摩地域を含め区域の拡大も目指してまいります。

(東京の都市機能を進化させる)

 羽田空港の機能強化について、7月、国の委員会が都心上空を飛行する案を示し、これを基に先月、関係者間の協議が始まりました。
 四方を海に囲まれた我が国が、2020年オリンピック・パラリンピックを成功させ、さらにその先も成長を続けていくためには、首都圏の国際空港機能の強化が必要不可欠であります。それゆえ、地元の区市の皆様の理解を得た上で、羽田空港の容量拡大を是非とも実現したいと思います。騒音や安全性への懸念に対しては、国に丁寧な説明と正確な情報提供を求めてまいります。
 また、羽田周辺など臨海部の道路ネットワークの充実も重要な課題であります。国や大田区、神奈川県、川崎市と協議し、かねてより国に要請してきた国道357号の多摩川トンネルの整備を、羽田空港周辺と川崎側の京浜臨海部を結ぶ連絡道路の整備と同時に進めることで合意を得ました。
 2020年大会では選手村と多くの競技会場ができ、大会後も大きく発展が見込まれる臨海副都心一帯の交通体系も充実させていく必要があります。BRTを想定した中規模の新たな公共交通の整備やバス路線の新規開設にも取り組むほか、環状2号線が通る虎ノ門エリアへの日比谷線の新駅設置など都市再生と連動した取組を進めてまいります。
 首都東京の都市機能にさらに磨きをかけ、利便性を向上させ、国際競争力を高めることで、日本の経済成長を牽引してまいります。

3 おわりに

(地方法人課税を巡る不合理な国の措置に対抗)

 次に、地方法人課税を巡る不合理な国の措置について申し上げます。
 言うまでもなく、真の地方自治の実現には、地方自治体が自らの権限と財源に基づいて行財政運営を行うことが不可欠であります。本来、とるべき筋道である地方税の充実・強化を図り、総体としての地方税財源の拡充に努めるよう、国に強く求めてまいります。
 東京は日本全体の成長を牽引する機関車であり、その燃料とも言える財源を、偏在是正と銘打った不合理な財政措置により奪うことは、国全体にとってマイナスであります。法人事業税の暫定措置や法人住民税の国税化は直ちに撤廃し、地方税として復元すべきであります。また、法人実効税率の引下げに関連して、法人二税の超過課税の廃止を求める意見もありますが、超過課税は、憲法で保障された地方の課税自主権に基づくものであり、地域の実情に応じた行政運営を行う上で必要不可欠であります。
 これからも、都内区市町村、そして、志を一にする他の自治体とも連携し、国に対抗してまいります。都議会の皆様のより一層のお力添えをお願いいたします。

(日本全体の発展のために何をなすべきか)

 国際社会で都市間競争が激化する中、東京対地方という内向きの発想では日本の発展は望めません。地方創生担当でもある石破大臣とも、東京と地方が共に元気にならなければならない、そういう考えで一致いたしました。この国を成長軌道に乗せるためには、2020年のオリンピック・パラリンピックを梃子に、地方の魅力と東京に集まる富や知恵とが結びついて相乗効果を発揮することが必要なのであります。
 先ほど申し上げましたように全国の知事が賛同して、2020年大会を成功させようという体制をつくりました。企業・人材の東京への集積を活かした東京国際金融センター推進会議や国家戦略特区も前に動かしてまいります。2020年大会は、多くの外国の方が東京だけでなく日本各地を訪れる機会にもしていかなければなりません。こうした東京と他の自治体が力を合わせていく取組、「世界一の都市」を目指した政策、この二つを総合的に展開していくことが、日本全体の発展に繋がると確信しております。
 2020年のオリンピック・パラリンピックは、日本再浮上のラストチャンスであります。首都東京の知事として、開催都市の長として、日本の明るい未来を切り拓く使命を果たしてまいります。都議会の皆様のご理解、ご協力をお願い申し上げます。

 なお、本定例会には、これまで申し上げたものも含め、予算案1件、条例案22件など、合わせて34件の議案を提案しております。よろしくご審議のほどお願いいたします。

 以上をもちまして、私の所信表明を終わります。ご清聴ありがとうございました。