舛添前知事「知事の部屋」

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施政方針

平成27年6月9日更新

平成27年第二回都議会定例会知事所信表明

 平成27年第二回都議会定例会の開会に当たりまして、都政運営に対する所信の一端を申し述べ、都議会の皆様と都民の皆様のご理解、ご協力を得たいと思います。

 天皇皇后両陛下におかれましては、去る5月26日、戦争で亡くなられた方々を慰霊し平和を祈念されるため、東京都慰霊堂に行幸啓されました。高島なおき都議会議長と共に両陛下をお迎えし、空襲被害の状況などをご説明申し上げました。都民を代表して、心からの感謝を申し上げます。

1 成熟社会のあるべき都市像

 さて、戦後70年、日本は敗戦の焼け野原から高度経済成長を成し遂げ、世界有数の経済大国という地位を手に入れました。その中で、1964年の東京オリンピックは日本の経済成長を進め、工業化、モータリゼーション社会を現出いたしました。経済的豊かさという一つの目標を国民全体で共有し、突き進んでいった時代であります。
 しかし、それから50年以上を経て行われる今回の大会は、当時とは異なり、成熟都市での開催であります。経済的豊かさだけでなく、真に生活の質を重視する、ゆとりある生活が求められております。社会の成熟に応じて、発想を転換していかなければなりません。例えば、高齢化が進む中で、歩道橋や間隔の短い信号が、足腰の弱くなった高齢者の支障になるということも考えられます。自動車優先のモータリゼーション社会から、自動車だけでなく、自転車、歩行者が共存するディモータライゼーション社会へと変えていかなければなりません。
 少子高齢化、人口減少が急速に進む現実と向かい合い、誰もが意欲と能力を十分に発揮して活躍できる都市を創る。社会の変化にしっかりと対応するためには、長期ビジョンで具体的に示しました10年後の姿の、さらにその先を見据えた、東京のあるべき将来像を描いていく必要があります。そこで、すでに検討に着手しております「都市づくりのグランドデザイン(仮称)」の策定に加えまして、2040年代の東京の生活像に着目した検討を開始いたします。
 四半世紀以上先の都民の生活には、様々な可能性が考えられます。「広く会議を興し万機公論に決すべし。」将来のイメージを固めていくために、今月中にも検討委員会を立ち上げ、まちづくりのみならず、医療福祉、芸術文化、ビジネス、働き方、科学技術など広範な議論を、外部の有識者や専門家と展開してまいります。最終的には、都市づくりの分野も含め、「東京のグランドデザイン(仮称)」としてまとめていきたいと思います。

2 2020年大会の先に明るい未来を開く

(都市の姿を変えるオリンピック・パラリンピック)

〈パラリンピックの準備を加速する〉

 東京をより進化した成熟都市へと高めるのが、パラリンピック大会の開催であります。先週末のIPC理事会では、フィリップ・クレイヴァン会長から、東京大会への大きな期待が述べられました。パラリンピック開催都市には、障害の有無にかかわらず同じように生活ができる、バリアフリーの環境を整えることが求められております。他者への理解や配慮が広がり、ノーマライゼーションが実現した都市になってはじめて、東京は世界一を標榜できると思います。
 現在、国や組織委員会と共に、障害のある人も利用しやすい大会施設などの基準を検討しております。車椅子席の配置や通路の確保、座っていても見やすい席の高さなど設計を工夫することで、全ての人が安心して競技の興奮を味わえるものにしてまいります。
 心のバリアフリー、情報面でのバリアフリーも進めてまいります。小中学生へのユニバーサルデザイン教育やバリアフリーマップの作成といった区市町村の取組を支援し、2020年までに都内全域に拡大したいと思います。ユニバーサルデザイン情報を一元化したウェブサイトも今年度中に構築するなど、総合的に推進してまいります。
 また、大会のレガシーとして、障害のある人もない人も、共にスポーツを楽しむ社会を遺したいと思います。例えば、スター選手にフォーカスした番組をテレビで発信すれば、障害者スポーツの魅力を広く伝えることができると思います。さらには、施設の確保や競技団体への支援、指導員の育成にも力を入れることで、パラリンピック・ムーブメントを創出してまいります。

〈2020年までの取組が東京のその後を決する〉

 東京の将来像の前提となるのが、2020年大会の成功であります。
 昨年の第二回都議会定例会で、喫緊の課題として競技会場計画の見直しを表明して以来、森会長をはじめ組織委員会と共に、再検討作業を進めてまいりました。2月のIOC理事会では、18競技の会場計画が了承されております。そして、昨晩、スイスのローザンヌで開催されました理事会において、残る10競技のうち、自転車とサッカーを除く8競技の了承が得られました。これにより、会場計画全体の見直しに目処をつけることができたと思います。都議会の皆様をはじめ、多くの関係者のご理解、ご協力に感謝申し上げます。今後、大会の成功に向けて、準備をさらに加速させていきたいと思います。
 現在、ハード、ソフトの両面から、大会後のレガシーを見据えた2020年までの取組を検討しております。都議会の皆様との議論も踏まえた上で、今年中に取りまとめ、組織委員会が策定するオールジャパンのレガシー計画にも反映させてまいります。東京都が整備する新規の競技施設については、先週、後利用の方向性を打ち出しました。今後、スポーツ施設整備の早い段階から民間の知恵とノウハウを取り入れるという画期的な手法で、大会後の具体的な運営計画を策定してまいります。
 大会開催におきましては、テロ対策をはじめ安全・安心の確保が最優先であります。レガシー委員会の中に「安全・安心部会」を設置し、治安対策、サイバーセキュリティ、災害対策、感染症対策の視点から検討を進めてまいります。様々な課題を抽出しつつ、国や組織委員会との連携も強化いたします。
 また、多くの人が参加し、自分の大会だと思うことなくして、オリンピック・パラリンピックの成功はあり得ず、ボランティア文化を東京に根付かせていかなければなりません。来週末から、ボランティアが外国人旅行者に声をかけ、外国語で案内を行う「街なか観光案内」を、新宿駅、上野駅周辺を皮切りに開始いたします。ユニフォームを着て外国人をガイドする姿が、東京のボランティア気運を、さらに高めていくものと期待しております。
 リオデジャネイロ大会も、あと1年余りに迫ってまいりました。終了後には、世界の目は東京大会に集中することとなり、文化の祭典「文化プログラム」も始まります。これに先駆けまして東京都が実施する「リーディングプロジェクト」では、伝統文化の体験プログラムや、様々な分野の芸術家が一堂に集結する「東京キャラバン」、障害者アートプログラムなど、自由で多彩な表現の世界を展開していきたいと思います。リオデジャネイロの地でも次回大会の開催地である東京を強力にアピールし、2020年への勢いをつけていきたいと思います。

 国立競技場の建替えについて申し上げます。先月、下村文部科学大臣から協力の要請があり、その際、新国立競技場の屋根や座席、整備費など、これまで明らかにされてこなかった事態が述べられました。私のみならず、全国民が驚いたことと思います。この施設は、2020年東京オリンピック・パラリンピックの主要な会場であります。国がそのことを肝に銘じ、危機感を持って整備に取り組まなければ、日本全国、そして、世界中の期待を裏切ることになります。開催都市の知事として、看過することはできません。
 国立競技場は「国立」である以上、その建替えは原則として国の費用で行うべきであります。東京都に協力を求めるならば、都民にどのようなプラスがあるのか、そのための情報は国が提供するのは当然であります。この問題について、政府は透明性を確保し、公平な視点から国民的合意を形成すべきであります。時間は限られておりますが、政府がしっかりと対応するのであれば、東京都としても、できる限りの協力をしていきたいと考えております。

(安全・安心を確保する)

 東京のグランドデザインを描く上での大きな柱は、安全・安心、超高齢社会への対応、機能的なまちづくりだと思っております。とりわけ、生命と財産を守る安全・安心、これを第一に考えなければなりません。

〈危機への対処〉

 先般のネパール地震では甚大な被害が発生し、警視庁、東京消防庁の部隊も現地で救助活動を行いました。東京でも、小笠原諸島沖でマグニチュード8を超える地震が発生しました。今後30年以内には70%の確率で首都直下地震が起こると予測されております。特に、木密地域は、東京の防災上最大の弱点であります。現在、不燃化特区の取組や特定整備路線の整備を強力に進めており、特区は52地区に拡大いたしました。しかし、細い道路が存在したり、敷地の狭い建物の建替えが進まないといった課題は依然残っております。そこで、今年度中に「防災都市づくり推進計画」を改定し、都市計画制度を活用した新たな方策などを盛り込んで、各地域を安全な市街地へとつくり変える道筋を示してまいります。
 さらに、都民一人ひとりの自助の力を高めるため、「都民の備蓄推進プロジェクト」として、各家庭における備蓄を促してまいります。普段の生活で使っている食料品などを少し多めに備えておく、「日常備蓄」という新たな考え方を提唱し、備蓄に対するイメージの転換を図りたいと思います。また、11月19日を「備蓄の日」として設定することで、気運の醸成を図ってまいります。
 集中豪雨への備えとして、土砂災害のおそれがある区域の基礎調査も急ピッチで進めております。一昨年の台風で大きな被害を受けた大島町全域の調査を、先般、完了いたしました。都内で最も危険箇所が多い八王子市内でも調査を終えた区域の結果を公表し、また、先月末には、市と合同で風水害対策訓練を実施しております。平成29年度までに都内全ての箇所の基礎調査を完了し、公表することで、警戒避難体制の整備に繋げてまいります。
 感染症対策につきましても、暑い夏を前にデング熱対策を強化しております。蚊のウイルス保有調査を例年より2か月前倒しで実施し、対象エリアも拡大いたしました。また、全国初の取組として、感染リスクの高い地点を地図情報に落とし込み、ホームページで公表してまいります。韓国で感染が広がっておりますMERSに対しても、都内での患者発生に備え、国と連携しながら、万全の体制で臨んでまいります。

〈安全・安心なまちづくり〉

 昨今、危険ドラッグや振り込め詐欺などの特殊詐欺、子供の連れ去りなど弱者が被害者となる犯罪が、都民の暮らしを脅かしております。
 本定例会には、「安全・安心まちづくり条例」の改正案を提案しており、喫緊の課題である通学路の安全確保、危険ドラッグや特殊詐欺の根絶への対応などを定めております。通学路の安全確保では、警察や学校、地域等が連携して取り組む規定を設けます。隣近所の絆で元気な高齢者が子供の通学を見守れば、子供の規範意識の向上や地域の力の再生などにも繋がると思います。危険ドラッグや特殊詐欺につきましては、犯罪の温床となる拠点をつくらせないよう、都内のビルやマンションなどを貸さないとする規定を盛り込みました。先月、協定を結びました不動産業界団体とも力を合わせ、取り組んでまいります。
 また、都内の交通事故の死者数が増加傾向にあり、警視庁を中心に対策を強化しております。今年度末には交通情勢の変化に対応した「交通安全計画」の改定も予定しております。超高齢社会の到来やICTの進展なども踏まえた検討を行い、東京都全体での取組を進めてまいります。

 都庁舎は、都民に開かれた「シティホール」であると同時に、都政の中枢、いわゆる「ヘッドクォーター」であります。その都庁舎がテロの標的となった場合、首都機能の麻痺を招き、混乱は東京だけに止まりません。都民サービスとセキュリティ、この二つのバランスに十分配慮しながら、都庁舎の警備体制を強化していきたいと思います。都民の皆様には、ご理解、ご協力をよろしくお願い申し上げます。

(成熟社会・超高齢社会への対応)

 昨年度末、都の高齢者施策の基本方針となります、新しい「高齢者保健福祉計画」を策定いたしました。今回の計画では、「団塊の世代」が75歳以上となる平成37年を見据えまして、初めて中長期の推計を行っております。例えば、今後10年間で要介護の高齢者が20万人増え、介護職員も10万人増やすことが必要になります。介護サービス基盤の整備をはじめ、成熟都市にふさわしい施策を展開してまいります。
 大都市における施設整備の最大のハードルは土地の確保であります。昨年度創設しました都有地貸付の減額制度を適用し、先般、北区で保育事業者が決まりました。また、先週には、交通局の用賀寮跡地に保育所や高齢者住宅などを整備する事業について、土地の借受者が決定いたしました。これは、公営企業用地を活用した福祉インフラ整備の第一号であります。今後も、積極的に都有地の活用を図ってまいります。
 高齢者が地域で安心して暮らせる仕組みづくりも応援いたします。リハビリテーション専門職の知識・経験を活かし、地域の介護予防機能を強化してまいります。また、見守りや外出、買い物といった生活支援サービスの提供主体をネットワーク化し、一人ひとりに最適なサービスを実現するコーディネーターを養成いたします。元気な高齢者が地域の福祉サービスを担う取組を行っている区市町村を支援するなど、高齢者が地域の担い手として活躍できる環境整備にも力を入れてまいります。

(機能的で魅力溢れるまちづくり)

〈交通戦略の推進〉

 機能的で魅力溢れるまちづくりも進めてまいります。都市活動を支える交通は、利用者本位のものに変えていかなければなりません。例えば、新宿駅では乗り換えの利便性を高めるために、交通事業者や施設管理者と協議会を立ち上げ、案内サインの改善やバリアフリーの充実に取り組んでまいります。また、自転車で東京を安全に楽しむことができるよう、2020年大会の競技会場や主要観光地周辺の7地区に「自転車推奨ルート」を設定いたしました。国道、都道、区道、市道の区別なく、自転車が走りやすい空間を200キロメートル規模で整えてまいります。両国の防災船着場を一般の船舶の利用に開放するなど舟運の活性化にも取り組んでおります。こうした具体的な施策を順次実現しながら他の地域にも拡大するため、来月には、有識者や交通事業者等をメンバーとする推進会議を立ち上げ、交通戦略の効果的な展開について検討してまいります。
 都市機能を格段に高めるのが三環状道路であります。首都高速中央環状線の全線開通後1か月時点の調査では、新宿・羽田空港間が40分から19分に短縮し、中央環状線内側の渋滞損失時間は5割減って、周辺の渋滞も緩和されました。並行して走る一般道でも大型車の通行量が減少し、歩行者の安全が高まっております。外環道の整備についても、2020年大会開催までに開通するよう、国に強く求めております。「渋滞がない世界初の大都市」を目指しまして取り組んでいきたいと思います。空の玄関口である羽田空港へのアクセス、羽田空港の機能強化にも引き続き取り組み、都市としての総合力を向上させてまいります。
 東京の交通体系に、新たな交通手段も組み込んでまいります。選手村や競技会場のある臨海部と東京の中心部とを結ぶBRTについて、先般、基本計画を取りまとめ、今後、これに基づく運行事業者の公募を行ってまいります。年度内には事業計画を策定し、燃料電池バスの導入計画や停留施設に正確に停車するシステムなど、最先端技術を実用化する道筋を示してまいります。2020年大会の象徴的な交通機関として、そして、日本が誇る高い技術のショーケースとして、全世界に発信したいと考えております。

〈活力ある都市を創り出す〉

 大会成功の先に大きく姿を変える街が神宮外苑地区であります。この地域は、スポーツのメッカであり、また、イチョウ並木に代表されるように、都市と自然が一体となった独特の景観が、都心のオアシスとして多くの都民に親しまれております。豊かな緑を保ちながら、野球場・ラグビー場に加えて、商業・文化機能を兼ね備えたスポーツの一大拠点へと生まれ変わらせ、次世代に継承いたします。2020年大会の終了後、直ちに再整備に取り掛かれるよう、明治神宮など基本覚書を締結した6者と具体的な協議を行ってまいります。
 池袋駅周辺地域の都市再生にも着手いたします。先般、国に対して、国際競争力の強化を図る特定都市再生緊急整備地域への指定を申請いたしました。指定による特例を活用して、歩行者中心の空間の拡大や木密地域解消の一層の推進、エリアマネジメントによる賑わい創出、国際アート・カルチャー都市の形成などを進めてまいります。
 こうした都市再生の動きを税制面からも後押しするため、本定例会に「わがまち特例」に係る都税条例の改正案を提案しております。よろしくご審議のほどお願いいたします。

〈都市の魅力を高める〉

 都立公園の多面的な活用も、具体的に前へと進めております。第一弾として、前回大会のレガシーでもあります駒沢オリンピック公園に、来園者が食事を楽しめるレストランやカフェを誘致すべく、現在、事業者の公募を行っております。公園に新たな楽しみ方をプラスし、さらなる賑わいを創出してまいります。生活が多様化した都市にある公園だからこそ、そのあり方も様々であると思います。緑を守りながら、保育所やデイサービス施設といった福祉施設を導入すれば、先ほど申し上げました大都市での土地の確保というハードルを越えていくことにも繋がります。都立公園の持つ可能性を大いに引き出してまいります。
 丸の内や日本橋地区では、ゆとりや豊かさが感じられる歩行者中心の都市空間の創出に向けて動き出しております。先月末から、日本橋室町の仲通りで試行的に車両の交通規制を開始しており、丸の内の仲通りでも夏を目途に実施いたします。荷捌きや荷物の搬入といった周辺の商業活動を含めて、地元への影響を検証し、特段の支障がなければ、年間を通じて行ってまいります。日比谷地区をはじめ周りの地区への拡大も検討するなど、安心して街歩きを楽しめる空間を増やし、東京の魅力を一層高めていきたいと思います。

3 東京の成長を支える基礎を築く

(経済・成長戦略)

〈国際ビジネスへの対応〉

 成熟の中で成長を続ける東京の基礎を、着実に築いてまいります。
 都民生活向上のためには、活発な経済活動が欠かせません。2020年という通過点の先に、さらなる経済の拡大を実現したいと思います。とりわけ、現代は、経済が国境を越えて動くボーダレス時代でありまして、国際ビジネスへの対応が鍵を握ります。中世ドイツの諺に「都市の空気は自由にする」というものがありますが、「東京の空気は富を生む」、そう認識されることが重要だと思います。
 4月1日には、国と協力して「東京開業ワンストップセンター」を設置し、その前日には、安倍総理や、国家戦略特区担当の石破大臣と、開所式に出席してまいりました。外資系企業、ベンチャー企業の開業手続きが一元化され、会社設立に要する時間が大幅に短縮されます。これは、開かれたビジネス環境の実現に向けた大きな一歩であると思います。引き続き、各国大使館や金融機関などと連携したPRを実施し、今後は、利用者の声を取り入れたサービス向上にも取り組んでまいります。また、同じフロアにありますビジネスコンシェルジュ東京では、外資系企業に商談・マッチングの機会を提供し、優れた技術を持つ都内の中小企業とも結びつけてまいります。是非、多くの方々に利用していただき、ビジネスチャンスを掴んでもらいたいと思います。
 「東京国際金融センター」の実現に向けた取組も進めております。東京都は、資金調達手段の多様化と調達コストの低減のため、外債を発行しております。これを、今般、海外市場に加えまして東京プロボンドマーケットに、同時に上場いたしました。海外の金融関係者に利便性の高いこのマーケットを活性化することで、東京市場の存在感を高めてまいります。また、今年度の公金管理計画では運用先に外国銀行を加えるなど、効率的な公金管理と同時に、国際金融市場の活性化も図っております。
 羽田空港周辺では、2020年に向けた国際ビジネス拠点の形成を目指し、空港跡地の基盤整備も含めて、国や地元自治体、近隣自治体と連携して取り組んでおります。医療をはじめとした先端産業と中小企業とのマッチング、クールジャパン情報の発信などの拠点整備について、特区の手法を活用し、後押ししてまいります。日本橋をライフサイエンスの拠点にする取組も着実に進めるなど、新たなビジネスチャンスを生み出し、世界から人材・企業を東京に呼び込んでまいります。
 また、長時間労働や低水準の休暇取得率が当たり前という高度経済成長時代に染みついた働き方を見直し、生産性を向上させていかない限り、成熟の中での成長は望めないと思います。とりわけ、女性が生き生きと活躍できる環境を整えていかなければなりません。先月開催した「東京の成長に向けた公労使会議」では共同宣言を採択し、出産や育児などに柔軟に対応できる制度の構築や労働時間の見直しに向けて、気運の醸成を図っていくことになりました。公・労・使の3者が一丸となって、ワーク・ライフ・バランス、仕事と生活の調和を図り、働く人が意欲と能力を十分発揮できる成熟した先進都市を目指してまいります。

〈観光ビジネスの戦略的展開〉

 昨年1年間で、都内を訪れた外国人旅行者は887万人で、過去最高となり、前年比30%という大きな伸びとなりました。日本全体でも、1300万人を超えております。観光産業は裾野が広く、旺盛な外需を取り込むことができます。東京の一大産業として捉え、戦略的に振興を図っていくことが、これからの成長には欠かせません。
 東京の魅力を力強く海外へ発信するため、庁内の海外広報体制を強化しております。東京ブランドを効果的に発信していくブランディング戦略も3月中に策定し、推進会議を立ち上げ、ウェブサイトも構築いたしました。来月には、「東京都MICE誘致戦略」も策定し、国際会議をはじめとするMICE誘致を加速してまいります。ターゲットとなります重点分野を明確化し、効果的な誘致活動を行うことで、海外の方が東京に集まる取組を進めていきたいと思います。
 海外から訪れる方々に東京の素晴らしさを直に体験してもらうことは、東京という都市を発信するのに大きな効果があると思います。都市外交の機会も活用して、ウォーターフロントの魅力、「水の都・東京」といった新しい価値も知ってもらおうと思っております。さらには、東北地方をはじめ、日本全体での旅行者誘致も進め、リピーターを数多く生み出し、観光産業を一層、盛り上げていきたいと考えております。

〈環境への取組が成長をリードする〉

 50年前の東京オリンピックは高度経済成長を推し進めましたが、この経済成長は、交通渋滞や大気汚染といった都市問題も生み出しました。成熟都市で開かれる2020年大会の先には、環境と調和した持続的な成長を実現しなければなりません。その先導的な役割を担うのが水素社会の実現であります。これまでの戦略会議を改組して、新たに都市開発事業者などをメンバーに加えた「東京推進会議」を来月設置し、官民一体となって具体的な取組を進めてまいります。この夏には、燃料電池バスの実証実験を行い、今後の普及促進に繋げていきたいと思います。都の関連用地を活用して水素ステーションも整備するなど、取組を着実に進めてまいります。
 再生可能エネルギーの分野でも成果が表れております。官民連携再生可能エネルギーファンドでは、神奈川県と埼玉県の太陽光発電所に加え、青森県の風力発電所が具体的な投資案件として決まりました。今後も、東北地方を含め、豊富な自然を活かしたエネルギー事業に投資することで、普及拡大を推進してまいります。
 エネルギー需給や大気環境など、近年の環境政策を取り巻く大きな変化に対応するため、7年ぶりとなります「環境基本計画」の見直しに着手しております。温室効果ガスの新たな削減目標の設定も含めた中間のまとめを、11月を目途に行い、年度内に策定してまいります。

〈東京が持つポテンシャルを引き出す〉

 新鮮な食材を提供する農地は、都会に残る貴重な自然でもあります。また、東京の農業は、大消費地を身近に抱えるという利点を活かすことで、さらなる成長の可能性を秘めております。都市農業の振興と農地の保全を目的に、今年3月、「都市農業特区」を国に提案いたしました。市街化区域内に農地を持つ39全ての自治体から参加表明を得ており、新たな都市農業モデルの構築により持続的な発展を図ってまいります。
 さらに、西多摩・島しょ地域の13町村についても、国家戦略特区を活用し、地域の個性を伸ばす規制緩和策を提案いたします。都内全域に特区を拡大することで、東京が持つ潜在力を引き出してまいります。

 東京の成長を考えるに当たり、区部の倍の面積を有し豊かな自然に恵まれた多摩地域には、大きな可能性があると確信しております。一口に多摩と言いましても、地域、地域で強みがあり、魅力があり、また、課題を抱えております。地域の特性に応じて、産業、福祉、観光、まちづくりなど、様々な角度から振興策を進めております。今後も、多摩地域のポテンシャルを引き出すような市町村や地元の取組を支援し、それらを結びつけることで、多摩全体の力を高めていきたいと思います。

 横田基地へのオスプレイ配備について申し上げます。安全保障に関することは国の専管事項でありますが、米軍の運用に際しましては、地元住民の生活への最大限の配慮が必要であります。国の責任において、都をはじめ地元自治体や周辺住民に十分な説明責任を果たすとともに、安全対策の徹底と環境への配慮を米国に働きかけることを要請しております。

(次代を担う若者の育成)

 教育は、「国家百年の大計」でありまして、東京と日本の成長を左右する重要な基盤であります。先般、都立国際高校が国際バカロレア認定校になりましたが、こうしたグローバル人材の育成など、個性や能力を伸ばす教育を充実してまいります。今年度から始まりました新たな教育委員会制度では、知事が総合教育会議を招集し教育委員会と協議しながら、施策の根本方針である「大綱」を策定することとなっております。第一回の会議を今月25日に開催し、今後、様々な課題についての議論を重ねることで、方針の具体的な内容を詰めてまいります。

(強固な財政基盤の堅持)

 東京の発展を着実に進めるには、強固な財政基盤が不可欠であります。都の財政は、景気変動の影響を受けて税収が乱高下する宿命を負っておりまして、これを十分に踏まえた自律的な財政運営を行わなければなりません。
 一方、国は法人事業税の暫定措置や法人住民税の国税化といった不合理な措置を、税源の偏在是正の名の下に継続しております。さらに、国の財政健全化計画策定の議論の中では、地方全体の歳出削減に加え、税収の格差是正を唱えてこれまで以上に踏み込んだ主張も出始めており、都政を預かる者として強い危機感を抱いております。国がその場しのぎの対応を繰り返す限り、東京がいくら頑張り、地方がいくら知恵を絞ったところで、日本の発展には繋がりません。不合理な措置に断固反対するとともに、辻褄合わせではない、本質的な議論を強く求めるものであります。

4 東京都の使命

 地方が活力を取り戻していくことは重要であることは論を俟ちませんが、地方創生を「大都市対地方」という図式に歪め、東京の活力を奪うことは全くの間違いであります。東京も地方も共に栄えなければ、日本の将来に大きな損失をもたらすことにしかなりません。東京は日本を牽引する機関車であります。政府は、財政健全化の達成に向けて高い経済成長を見込んでおりますが、東京にブレーキをかければ日本全体が止まってしまうことになるのであります。
 東京だけでも地方だけでもなく、日本全体で創生を目指す。石破地方創生担当大臣と面談して、首都圏における高齢化、少子化といった問題への対応は、日本の将来像に大きな影響を与えるという点で、認識を共有いたしました。そこで、先週、国と東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県が一堂に会し地方創生の連絡会議を立ち上げました。私自身も出席いたしまして、「小手先で終わらず大きな柱を立てて議論し、20年、30年、50年先を見据えたベクトルの変換を考えよう」と提案し、石破大臣は、政府に対しても要求があれば出して欲しい、と応じました。
 高齢化、少子化に伴う様々な課題に対して、国や一都三県とも連携・協力しながら対策を着実に進めてまいります。さらに、より長い時間軸で考えた場合、働き方やライフスタイル、空き家対策を含めた住宅政策、交通政策など、戦後70年間、日本が歩んできたベクトルを大きく変えるべき時期に来ていると思います。データだけを並べて机上で国家の姿を描くのではなく、生活実感に基づく地に足のついた議論を展開しなければなりません。そして、日本を、人生のそれぞれの場面で、多様な選択肢が用意されている国にしていくべきであります。
 人々の生活を見つめ、人々が活躍する土壌を整備し、そして、将来への政策を練り上げていくことが、東京都の使命であります。後に続く世代も等しく東京という都市で充実した人生を送り、東京を発展させていく。グランドデザインが必要となるのは、そのためであります。都議会の皆様方と力を合わせ、子や孫の世代にも誇れる仕事をしっかりと成し遂げ、東京と日本の輝かしい21世紀を切り拓いてまいりたいと思います。

 なお、本定例会には、これまで申し上げましたものも含めまして、条例案8件、契約案11件など、合わせて28件の議案を提案しております。よろしくご審議をお願いいたします。

 以上をもちまして、私の所信表明を終わります。ご清聴、誠にありがとうございました。