舛添前知事「知事の部屋」

ごあいさつプロフィール施政方針記者会見活動の紹介知事と語ろう知事の海外出張交際費

施政方針

平成28年2月17日更新

平成28年第一回都議会定例会知事施政方針表明

 平成28年第一回都議会定例会の開会に当たりまして、都政の施政方針を申し述べ、都議会の皆様と都民の皆様のご理解、ご協力を得たいと思います。

1 将来を見据えた首都・東京の取組

 私の東京都知事としての任期は、折り返し地点を迎えました。この2年間、「世界一の都市・東京」という目標を掲げ、都議会の皆様と様々な議論を交わし、東京をいかに発展させるか、都民生活をいかに充実させるかを考えてまいりました。これまでの議論や経験を踏まえ、さらに政策を充実させていくこと、成果を最大化していくことが、今の私に課された使命であると考えております。

(東京を取り巻く環境)

 21世紀初頭のこの時代に、日本の首都・東京の国際社会における重みは、かつてなく増しております。前回大会の1964年は、日本人の海外渡航が自由化された年でありました。その後、日本人は海の向こうに渡る旅行者数を年々増やし、海外からの入国者数を上回ってまいりました。しかし、昨年、これが45年ぶりに逆転し、日本人の出国者以上に多くの旅行者が、海外から訪れました。前回大会の時には、距離の遠さが不安視されました極東の島国、その首都東京は、今や世界中の注目を浴び、人々を惹きつけております。
 この半世紀で、時代は大きく変わってまいりました。国際社会のボーダレス化が進む一方、世界人口の半数以上が都市で生活するようになりました。国境を越えた人・物・資本・情報の自由な移動が価値を生み出す時代にあって、都市同士がそれぞれの魅力を競い合い、切磋琢磨しております。同時に、治安や大気汚染、感染症など、都市が抱える課題も国境を越えて広がってまいりました。こうした共通の課題に、連携して対処していかなければなりません。もはや、世界との関わりを意識することなくして、都市の経営は成り立たないものとなっております。

(リオデジャネイロ大会の先に)

 今年は、リオデジャネイロの地で、オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されます。出場する選手たちの心躍る活躍を期待しております。同時に、中東をはじめ国際情勢が混迷を深める中で、この「平和の祭典」が、明るい光を導いてくれることを願ってやみません。ちなみに、本日、私が着用しておりますこのネクタイは、そのリオ大会のネクタイでございます。
 リオ大会の開催期間中は、次回開催都市・東京をアピールする絶好の機会であります。リオ市内にジャパンハウスを設置し、また、市長から大会旗を受け取るハンドオーバーセレモニーにおきましても、東京と日本の魅力を鮮烈に印象づけてまいります。そして、この大会が終われば、東京は、世界中のさらなる注目を集めることになります。

(東京のグランドデザイン)

 私は、今こそ、世代を超えて、東京を大きく飛躍させるための基礎を固める時だと考えております。後の時代の人々が、「あの時期に、しっかりとした基礎を築いてくれたから、今の素晴らしい東京がある」、そう思ってもらえる取組を進めなければなりません。これができますのは、2020年大会の開催を控えた今をおいて、他にありません。私たちは、間違いなく、後の歴史に問われる場所に立っていると思います。
 将来に向けて進化する東京の方向性を明確に位置づけるため、2040年代のあるべき姿をグランドデザインとして描く検討に入っております。都市づくりの分野を取りまとめ、その後、これを包括した形で、東京全体のグランドデザインを策定いたします。
 かつて後藤新平は、関東大震災後の東京の姿を、先見性をもって描き出しました。震災後という緊急事態の中にありながらも、首都のあるべき姿を見据えて作成した壮大な計画は、皆様ご承知のとおり、南北方向の昭和通り、東西方向の靖国通りという幹線道路をはじめ、その後の東京の骨格を形づくりました。一方、現在におきましては、都市活動の連続性を踏まえつつ将来を描くという、緊急時とは違った意味での難しさもあります。それでも、現在の延長線上だけを考えるのではなく、そこに理想や夢、希望を込めていくことが重要であります。これが、後の時代に活動する人々の目標となり、活力に繋がっていくからでもあります。
 安全・安心に包まれ、快適な生活を享受し、優しさに溢れ、誰もが生き生きと活躍する街。世界中の誰もが憧れ、一度は訪れたい、住んでみたいと思う街。普遍的な価値を具えた都市に東京を進化させていく、その姿を示すことが重要だと考えております。

(東京の発展の大前提は安全・安心)

 東京を発展させるための大前提は、安全・安心の確保であります。
 あの東日本大震災から、間もなく5年が経過いたします。その後も、河川の氾濫や土砂災害、噴火などが相次ぎ、都内でも大島の土砂災害や多摩山間部の大雪被害などが発生いたしました。自然災害への備えを、着実に講じてまいります。自助・共助・公助という三つの力を効果的に組み合わせ、たとえ災害が起こっても、被害を最小限に抑える強靱な都市を築いてまいります。
 また、東京の友好都市でありますパリやジャカルタが、テロの被害に見舞われました。国際社会は、経済面での結びつきを強めながら、他方で心理的な乖離や憎悪、断絶を深めるという危うい二律背反を抱えております。こうした事態は、世界有数の国際都市、オリンピック・パラリンピック開催都市として、益々、注目を集める東京にとりまして、決して他人事ではありません。確実に、備えを固めてまいります。

(一人ひとりの活躍が東京発展の原動力)

 東京を発展させる原動力は、都民・国民一人ひとりの活躍であります。人々が持てる能力を十二分に発揮して輝ける環境を整えることが、都市の発展に繋がります。女性や高齢者、障害のある方の活躍を全力で支えてまいります。そして、生産性を向上させ「働き方改革」を進めることが、時間的なゆとりを生み出し、人生をもっと豊かにしてくれると思います。例えば、週休3日という考え方もあります。ワーク・ライフ・バランスを実現することで、持続的な経済成長と生活の質の向上を両立させてまいります。
 こうした中、私が懸念しておりますのが、貧困の連鎖、格差の拡大という問題であります。貧困の連鎖という、本人の努力を超えたところに存在する障壁を取り除かなければ、生き生きとした活躍など望むべくもありません。あるいは、一度失敗しても、再チャレンジに取り組めることが必要であります。将来の成長へのマイナス要因に、今ここで対処し、豊かさを実感できる社会を目指してまいります。

(地域の力を高める)

 もう一つ、東京発展の鍵は、地域の力を高めていくことにあると考えております。一括りに東京というだけでなく、多様性溢れる都市を築いていくことが重要であります。
 東京は、23区、多摩、島しょと、それぞれに魅力を放っており、その中にも地域、地域の特色があります。その強みを伸ばしていくことが、都市の総合力を高めることになります。知恵を絞れば、新たな強みを発見し、あるいは、弱みを強みに変えていくことも可能であります。例えば、昨今、問題となっております「空き家」も、都市のストックとして有効に活用できれば、地域の活性化に役立てることができます。都内の区市町村をはじめ、地域の可能性を引き出す地元の頑張りを支え、それらを効果的に結びつけていきたいと思います。

(2020年大会を起爆剤に、発展を加速させる)

 そして、オリンピック・パラリンピック東京大会を成功させ、2020年という年を、その後の東京の加速度的な発展を引き起こす「大変革点」にしたいと考えております。大会の経済効果は、先般、日本銀行が発表した試算によると、30兆円に上るとのことでありました。しかし、そこで終わらせるつもりはありません。2020年までの貴重な時間を最大限活用し、この価値をさらに高めてまいります。
 国際的なビジネス環境を整えて外国企業を呼び込み、日本企業のイノベーションも引き起こすことで、高い付加価値を創出いたします。東京と日本が持つ最先端の技術を世界に披露し、その実力を示してまいります。観光を一大産業として振興し、伝統と革新が融合した都市、水の都・東京といった洗練された魅力を、訪れる全ての人に堪能してもらいます。成長戦略を果敢に展開すればするほど、オリンピック・パラリンピックの波及効果は高まります。東京から日本の再生をリードし、新たな富を生み出してまいります。

(「ゆとりある成熟社会」を目指す)

 安全・安心の確保を前提に、人々が活躍しやすい環境を整え、2020年大会の大いなるレガシーの下で、私が目指しますのは、「ゆとりある成熟社会」であります。前回の東京オリンピックは、高度経済成長に向けた、いわば「成長」を目指した大会でありました。しかし、この成長は、経済的豊かさと同時に、渋滞や環境問題といった都市問題も生み出しました。2020年は、より良い「成熟」を目指す大会であります。オリンピック・パラリンピックのレガシーが、その後の東京と日本の底流に流れる価値を決定づけていきます。2020年大会を、何としても成功させ、そして、「世界一の都市・東京」を実現いたします。仕事や家庭だけでなく趣味も含めて、もっと人間らしく、全ての面で都民生活の質を向上させたいと思います。常に活力に満ちた都市活動の中で、ゆとりある生活を楽しむことができる、そうした都市に東京を高めてまいります。
 今や東京は、ロンドン、ニューヨーク、パリと渡り合う世界有数の大都市であります。都市としての総合力をもって、堂々と国際社会で伍していける力を持っております。この総合力をさらに高め、正攻法で都市間競争に臨む。私は、これが21世紀の東京の立場だと考えております。

2 平成28年度予算案

 こうした考え方の下、平成28年度予算案は、「『世界一の都市』の実現に向けた取組を加速化・深化させ、力強く前進させる予算」と位置づけ、一般会計総額7兆110億円の規模で編成いたしました。「東京都長期ビジョン」による事業展開には1兆2500億円を計上しております。あるべき将来を見据え、タイミングを逃すことなく、政策手段を総動員して、成果を最大化する。明るい未来に向けた「投資」を、今こそ、果敢に実行してまいります。
 都の財政は、景気の波に大きく左右される特徴を有しております。皆様ご承知のとおりでございます。こうした中におきましても重要な施策を揺るぎなく推進していくため、基金への積立てに加え、昨年を上回ります325件の既存事業の見直しを行い、約300億円の財源を確保いたしました。今後も、強固な財政基盤の維持・構築を不断に進めてまいります。

3 オリンピック・パラリンピック開催都市としての着実な準備

 これより、主要な政策について申し述べてまいります。

(二つの世界的なスポーツイベントを成功に導く)

 まず、2019年ラグビーワールドカップ、2020年オリンピック・パラリンピックについてであります。
 ラグビーワールドカップは、2020年大会の成功を占う重要な試金石でもあります。今年6月には、日本代表とスコットランド代表の試合が味の素スタジアムで行われます。この貴重な機会を活かし、本番さながらに取り組むことで、気運醸成や運営手法の向上を図ってまいります。
 そして、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会であります。夏のリオ大会が終われば、いよいよ東京の番であります。「史上最高の大会」に向けまして、着実に準備を進めてまいります。都が整備します恒久施設のうち、アクアティクスセンター、有明アリーナ、海の森水上競技場の3施設について、先般、設計・施工を行う事業者を選定いたしました。本定例会には、これに関する契約案を提案しております。ご審議のほどを、よろしくお願いいたします。
 世界的なイベントを成功させるためにも、海外諸都市との友好関係が重要であります。東京という都市を気に入ってもらえば、この街をもっと楽しみたい、もっと滞在したい、もっとここで盛り上がりたい、そういう気持ちも強くなります。今月末には、アンヌ・イダルゴ・パリ市長の東京訪問も予定されております。都市外交を通じまして、東京の魅力を積極的に海外にアピールし、多くの都市と友好を深めてまいります。
 先月、東日本大震災の記憶を風化させないようイベントを開催いたしました。私も出席し、被災地の復興なくして日本の再生はあり得ないとの決意を、改めて強くいたしました。リオ大会中には、ライブサイトを都内のほか被災三県に設置いたします。引き継がれたオリンピック・パラリンピックフラッグを活用したイベントも展開し、リオの興奮と感動、2020年大会への期待を被災地に届けていきたいと思います。

(障害者スポーツの振興)

 障害者スポーツの環境を、パラリンピックを通じて劇的に変えてまいります。今後4年間の集中的・重点的な取組を担保するため、今回、障害者スポーツ振興基金200億円を新たに設けました。選手の発掘を進め、競技団体が行う競技会や合宿などの支援を拡充し、さらに、2020年大会への出場が期待される選手を「東京ゆかりパラリンピック出場候補」に認定して、強化活動を支援してまいります。障害者スポーツができる場についても、区部・多摩それぞれの障害者スポーツセンターの改修に加えまして、都立の特別支援学校の体育施設を活用し、また、区市町村の体育施設のバリアフリー化も支援いたします。
 スポーツ環境だけでなく、道路の段差解消などハード面のバリアフリーや心のバリアフリー、情報面でのバリアフリーを推し進め、2020年の先に、全ての人に優しい街・東京を実現してまいります。

(大会を契機とした東京の進化)

 2020年大会の準備は、それ自体が東京の進化に直結いたします。

〈ボランティア文化が根付いた都市に〉

 大会を契機に、東京の街にボランティア文化を定着させてまいります。今般、「共助社会づくりを進めるための東京都指針」を策定いたしました。この指針に基づき、都民の社会貢献活動を活性化し、様々な課題への解決力を高めていきたいと思います。さらに、障害のある方のボランティア参加については、国内外の活躍事例を調査し、都における支援体制の検討も始めます。障害のある方もボランティア活動をやってもらうんだ、こういう姿勢を新たに出したいと思って、どう支援するか。例えば、障害のある方と健常者がペアになって、障害のあるアスリート、お客様が来られた時に、しっかりと障害者の目線でお支えすると。こういうことを考えたいと思っております。それから、外国人の方が参加しやすい環境も、大使館などとの連携の下、整えてまいります。また、大会開催時には、大規模なボランティアの確保など、運用体制の構築が重要になります。過去の大会の調査結果を踏まえ、大会関連ボランティアの裾野拡大や都市ボランティアの運用体制についての戦略策定に取り組んでまいります。

〈オリンピック・パラリンピックを契機とした人材の育成〉

 オリンピック・パラリンピック教育は、愛称も「ようい、ドン!」と決まりました。4月から、都内全校で実施してまいります。
 オリンピック・パラリンピックの精神を身近に感じ、深く理解するためには、実際の体験や活動を通じて学んでいくことが効果的であります。スポーツへの親しみや障害者理解を深め、ボランティア活動を充実させてまいります。さらに、「世界ともだちプロジェクト」で多様な国々について学びながら、世界の多くの人々と交流を行い、相互理解を促進していきたいと思っております。昨日、パレスチナのアッバース大統領が、おいでくださいました。そして、平和の象徴であるオリーブの木を東京都にお贈りくださいました。パレスチナの子供たちと交流をする、そういう小学校にこれを植樹して、東京とパレスチナの末永い絆の証としたいと思っております。被災地をはじめ全国各地の子供たちとの交流も通じて、オリンピック・パラリンピックの素晴らしさを日本全体に広げていきたいと思います。
 グローバル人材の育成につきましては、「英語村(仮称)」を平成30年度に臨海部で開設するため、来月末から事業者の公募を開始し、民間のアイデアやノウハウを取り入れた準備を進めてまいります。国際社会で活躍する上では、日本人としての自覚、助け合いの精神などが不可欠であります。こうした点からも、人間として踏まえるべき倫理観や道徳性を身につける教育の重要性が、一層高まっております。この4月から、全都立高校で、道徳教育とキャリア教育を一体化させた都独自の新教科「人間と社会」を実施いたします。社会との関わりの中で自らの生き方を考え、行動する力を育ててまいります。

〈東京の文化を世界に〉

 2020年大会を、文化の祭典としても成功させてまいります。
 世界中から多くの人が集まるリオ大会では、これまで都内で展開してまいりましたリーディングプロジェクトをリオ市内で実施し、東京の芸術文化の魅力を発信してまいります。アール・ブリュットにつきましては、現状調査や専門家の意見も踏まえまして、展示交流拠点の検討を進め、同時に、都内各所で展覧会を開催いたします。劇場・ホールの不足という指摘に対しましては、詳細な状況調査を実施し、分野ごとに団体からも直接意見を聴取しております。民間の取組も引き出しながら、必要な対策を検討してまいります。

4 少子高齢・人口減少社会を見据え、誰もが活躍できる社会へ

 次に、福祉先進都市を実現し、誰もが生き生きと活躍できる社会をつくり上げるための政策展開について申し述べます。

(福祉先進都市の実現)

 少子高齢化という課題が、東京に重くのしかかっております。子供を安心して産み育てられる環境、年をとっても安心して暮らしていける環境の整備に全力を挙げてまいります。
 とりわけ、保育や介護サービスを支える人材の不足が、深刻となっております。これらの人材の掘り起こし、マッチング、職場定着までを、総合的に支援してまいります。さらに、保育士養成施設の卒業予定者に保育所などへの就職を促す取組や、介護職員の宿舎を借上げる場合、費用の一部を補助する取組も始めます。先ほど申し上げました空き家の活用、これもここに位置づけたいと思っております。福祉先進都市実現の鍵を握る、こうした人材の確保・定着に積極的に取り組んでまいります。また、ここのところ報道されておりますけれども、川崎市の老人ホームで発生しました転落死に鑑みまして、このような悲惨な事件が二度と起こらないよう、引き続き、都内有料老人ホーム等への指導を徹底して行ってまいります。
 子育ての分野では、待機児童解消に向けた取組の一つとして、国家戦略特区の活用を進めております。荒川区に続きまして、先日、世田谷区の都立祖師谷公園に保育所を設置する区域計画が認定されました。今後、さらにこれを拡大してまいりたいと思ってます。また、増加する子供の虐待相談に対応するため、児童福祉司や児童心理司を増員し、児童相談所の体制を強化いたします。
 高齢者施策につきましても、特別養護老人ホームの整備では、都からの提案が受け入れられ、賃貸物件での整備を認める要件緩和が実現する運びとなりました。認知症に対しては、若年性認知症総合支援センターを、区部に加えて多摩地域に新たに設置し、多岐にわたる相談にワンストップで対応してまいります。
 医療機能の強化も、図ってまいります。都立広尾病院は、渋谷区にあります旧青山病院跡地等を活用し、移転改築いたします。自然災害やNBC災害、テロなどに対応する新たな災害医療の拠点「首都災害医療センター(仮称)」として、平成35年度の開設に向け、準備を進めてまいります。多摩地域では、神経病院を改築し、都の難病医療拠点として整備いたします。多摩総合医療センター、小児総合医療センター、神経病院、この都立3病院の連携強化を軸に、多摩メディカル・キャンパスを再構築し、多摩地域全体の一層の医療水準の向上に取り組んでまいります。

(誰もが活躍できる社会に向けた東京の挑戦)

〈負の連鎖を断ち切る〉

 先ほど申し上げました貧困の連鎖でありますが、この貧困の連鎖を断ち切るために、学びや仕事に意欲ある人々を全力で支援いたします。都は、食事の提供や学習支援を行う子供の居場所づくりに取り組む区市町村を、独自に支援してまいります。また、庁内各局で構成する「子供・子育て施策推進本部」に「子供の貧困対策推進連携部会」を新たに設置し、首都大学東京の「子ども・若者貧困研究センター」で行う調査研究の知見も活かしながら、様々な取組を進めてまいります。
 非正規雇用対策では、3年間で1万5千人を正規雇用化するという目標の早期実現に向けまして、来年度は社内での正社員への転換に取り組む企業への助成規模を大幅に拡充いたします。若者や就職氷河期世代への支援も合わせ、年間7500人の正規雇用化を目指してまいります。さらに、不登校・中途退学への対策を強化し、望まない非正規雇用に繋がる根を事前に断ち切るなど、人生の各段階で貧困の連鎖を防いでいきたいと考えております。

〈誰もが活躍できる社会へ〉

 そして、ワーク・ライフ・バランスを進めることが、人々の生活にゆとりを生み出します。働き方改革に取り組む企業に奨励金を支給し、同時に、コンサルタントを派遣して具体的なアドバイスを行うことで、生産性の向上を図ってまいります。
 女性や高齢者、障害者が活躍しやすい環境も整備いたします。女性が輝く社会を目指し、このたび、自治体初となります「女性活躍推進白書」を策定いたしました。しっかりと、このデータ分析を行いまして、克服すべき課題と取組の方向性を示してございます。元気な高齢者が、福祉施設や地域でのボランティアなどで、豊富な経験や知識を活かして活躍することも応援してまいります。さらに、障害者の安定的な雇用の促進に向けて、国に先んじて、正社員や期間の定めがない雇用での採用・社内転換を促進する独自の制度を創設いたします。一定水準を上回る賃金での雇用を要件とするなど、障害のある方の処遇改善に確実に結びつけてまいります。

(安全・安心が実感できる都市へ)

 続きまして、安全・安心の確保であります。

〈テロ対策・救急体制の強化〉

 国際的なテロは年々、増加傾向にあり、警察官の増員など体制を強化いたします。また、サイバー攻撃による情報流出の脅威が深刻化しておりまして、中小企業の優れた技術も標的となりかねません。先月、都と警視庁、中小企業支援機関で相互協力協定を締結いたしました。オール東京の体制で、サイバーセキュリティに関する普及啓発や情報共有、相談体制の構築を進めてまいります。総合的な危機管理専門人材の育成にも、取り組んでまいります。
 また、救急の出動件数がここ数年、過去最高を更新し続けております。救急現場は、時間との勝負であります。需要の多い場所・地域において、時間ごとの需要に合わせた機動的運用を実施いたします。昨年末からの東京駅での試行結果を検証し、エリアを拡大して本格運用することで、必要な救急処置を迅速かつ適切に受けられるように努めてまいります。

〈災害に強いまちづくり〉

 東京の防災上、最大の弱点であります木造住宅密集地域の不燃化につきましては、来月、「防災都市づくり推進計画」を改定いたします。緊急時における車両の通行や住民の避難のため、生活道路の計画的な整備を進めてまいります。併せて、沿道の建替えを促し、不燃化を加速化いたします。また、敷地の細分化を防ぐ地区計画の策定を区や市に促すなど、今後、市街地が木密地域とならないよう、未然防止も図ってまいります。対策を着実に進めるため、今年度の最終補正予算案では、「防災街づくり基金」に2000億円を積み増ししたいと考えております。
 マンションは、都内の主要な居住形態である一方、老朽化や居住者の高齢化、管理組合の機能低下などが懸念されております。そこで、来月末、全国初となります「良質なマンションストックの形成促進計画」を策定いたします。管理不全の予防・改善、耐震化や建替えなどを促し、マンションの質の向上を図ってまいります。

5 首都・国際都市として発展し、日本を元気に

 昨年、フィナンシャル・タイムズグループが、アジア太平洋地域の都市を対象に、投資に関する将来性の調査を実施し、その結果を発表いたしました。第1位はシンガポール、東京は第2位であります。しかし、人口1000万人以上のメガシティ部門では第1位となっており、その評価は大きく高まってきております。国際経済都市としてさらに活性化することで、アジアのビジネスの中心という、かつての地位を取り戻したいと思います。

(都市機能を進化させるインフラ整備)

 さらには、品川・田町や渋谷、竹芝、北青山など都心の至るところで、街のリノベーションを促進いたします。サービスアパートメントなど、外国人が滞在しやすい環境も整ってまいります。空き家の問題に対しましては、地域住民の集会施設、交流施設への転換を支援するなど、都市機能や地域活力を高める資源としての有効利用に取り組んでまいります。
 国際競争力の強化には、交通機能の向上も不可欠であります。羽田空港について、国は夏までに、飛行経路の見直しに関する方策を示すこととしております。都は、地元の理解が深まり、協議が円滑に進むよう積極的に協力してまいります。隣接する空港跡地を活用したプロジェクトにつきましても、国家戦略特区の区域計画が認定されました。都市計画法の特例を活用することで、新たなイノベーションに繋がる産業交流施設や、日本の魅力を発信する拠点の形成を促してまいります。
 また、道路渋滞は時間的・経済的損失以外の何物でもありません。外環道につきましては、関越道・東名高速の間を2020年大会開催までに開通させるよう、強く国に求めるとともに、都も用地取得などを進めてまいります。残された東名高速・湾岸道路の間についても、国は先週、計画検討協議会を立ち上げました。具体化に向けまして、国や関係機関と共に取り組んでまいります。来月には、「東京における都市計画道路の整備方針」を策定いたします。骨格幹線道路や都県境の道路の整備を着実に推進し、東京全体の機能を向上させる道路ネットワークの形成を進めてまいります。

(中小企業の活躍を支援)

 2020年大会を控えましたこの時期は、東京だけではなく、全国の中小企業にとっても、数多くのビジネスチャンスを掴む絶好の機会であります。先日、国や経済団体、そして都議会の皆様のご参加の下、「中小企業世界発信プロジェクト」のキックオフフォーラムを開催いたしました。新たな発注情報を掲載するポータルサイト「ビジネスチャンス・ナビ2020」の事前利用登録も開始しておりまして、4月にはこのサイトを本格的に稼働させてまいります。
 都内には高度な技術力を有するものづくり中小企業が集積しておりまして、医療系の大学や病院、機器の製造・販売を行う事業者も多数存在しております。このポテンシャルを活かしまして、国際的にも成長が見込まれます医療機器分野での共同開発を進めてまいります。医産学連携の支援拠点を、来年度、日本橋に整備し、情報交換やマッチング機会の提供、試作品開発への支援も行うことで、革新的な成果に繋げたいと思っております。
 新たな事業への果敢な挑戦も支援してまいります。潜在的な創業希望者を掘り起こすため、関心のある誰もが気軽に利用できる支援拠点を整備いたします。創業支援に実績のある民間事業者と中小企業振興公社がタッグを組み、アイデアの構想から事業の立ち上げまで、ワンストップで支援してまいります。
 中小企業の海外展開では、販路開拓先としてニーズの高い海外都市において、経済団体と連携して優れた技術をPRし、海外取引の拡大に繋げます。東京の国際競争力を強化し、日本経済の活性化に貢献してまいります。

(環境政策の推進)

 昨年末のCOP21は、条約締約国の全てが参加する新たな枠組みを構築いたしました。参加各国が目標を達成できるか否かは、その国を代表する都市の取組にかかっているとも言えます。世界有数の大都市であり、日本の首都である東京の責務として、スマートエネルギー都市をつくり上げていかなければなりません。この東京の決意を明らかにするため、新たな「環境基本計画」を年度内に発表いたします。消費電力に占めます再生可能エネルギーの割合も、現行目標は2024年までに20%程度にするという高いものでありますが、その先の意欲的な目標について、新たに設定してまいりたいと思っております。また、このたび、東京都の申請に基づきまして、JRの品川車両基地跡地開発が、世界大都市気候先導グループ・C40の「クライメット・ポジティブ開発プログラム」に参加することにもなりました。
 水素社会の実現に向けた取組も、前へと進めてまいります。先日、日本科学未来館で参加型イベントを開催し、家族連れなど多くの人で賑わいました。特に、子供たちが目を輝かせて、「こうして水素ができるんだ」「こうして電気になるんだ」、これを自転車を漕いだりしてやって、皆さんもテレビ番組なんかで、ご覧になったと思いますけど、こういう、この都民に参加していただく。そして、水素社会を実現していただく。こういう、大きな可能性を秘めたこの水素エネルギーについて、正しく理解する機会を、今後とも積極的に提供してまいりたいと思っております。「百聞は一見にしかず」、燃料電池自動車の試乗会も実施するなど、先ほど申し上げましたように、目で見て手で触れられる普及啓発に取り組んでまいります。

 なお、本定例会には、「緑の東京募金」を再編し、これまでの緑を増やす取組に、新たに花で街を彩る視点を加え、「花と緑の東京募金」とする条例案を提案しております。2020年大会も見据えて、「おもてなし」の気運を醸成し、東京を花と緑で溢れる都市としてまいります。我々が海外の都市に行った時に、素晴らしく、こう窓なんかに花飾っているところがございますね。これ見ると、やっぱり素晴らしいな。我々、江戸の昔から朝顔で、こうきれいに庶民が飾るっていう伝統がありますので、是非ですね、「花の街・東京」ということを、みんなで実現したいと思ってます。

(観光を一大産業に)

 そういう観点からも、観光を一大産業へと高め、その広い裾野を活かしていくことで、東京のさらなる成長に繋げたいと思っております。
 官民一体となりました、今日ここにつけておりますけど、この「&TOKYO」のPRを展開し、東京ブランドを国内外に浸透させてまいります。宿泊施設において、トイレの洋式化や案内表示の多言語化などを進めまして、受入環境の充実を図ってまいります。大田区では、皆さんご承知のように、国家戦略特区の規制緩和を活用して、民泊の取組も始まりました。環境に優しいユニバーサルデザインのタクシーやリフト付き観光バスの数も大幅に増やしていきたいと思っております。さらに、東京と東北とを結ぶ観光ルートに続きまして、中国・四国地方とのルートを新たに開発するなど、東京から全国の魅力を発信し、外国人旅行者と日本各地の橋渡しをしてまいります。
 ロンドン、ニューヨーク、パリ。東京の前を行く世界の大都市と比べ、何が見劣りしてるのか、何が足りないのか。実は、夜の景観であります。光り輝く美しい大都会の姿は、多くの外国人旅行者を惹きつける力を秘めております。新たな観光資源として「光」に注目し、戦略的なライトアップで街の魅力をより一層高めるための検討を進めてまいります。東京駅をライトアップする。そうすると、「もうやめてくれ」っていうくらいに、人が集まる。これが光の魅力であります。
 それから、次は船であります。舟運も活性化して、手軽に使える生活の足、そして東京を訪れる全ての人を惹きつける観光資源に育て上げてまいります。羽田から臨海部・都心部を結ぶ定期航路の社会実験を実施し、日の出と竹芝を周辺の賑わいと一体となりました舟運の拠点として整備してまいります。両国では、船着場を増設し、観光の基点ともなる施設「両国リバーセンター」を整備いたします。交通系ICカードの利用や鉄道駅からの案内サインの充実といった、利便性の向上も検討してまいります。また、臨海副都心での新たな客船ターミナルの整備を着実に進め、さらなる誘客に繋げてまいりたいと思っております。
 観光を取り巻く状況の変化に速やかに対応するため、「観光産業振興アクションプログラム(仮称)」の策定に取り組んでおります。昨日、第一回目の会議を開催し、幅広い分野の有識者から、多角的で有益な意見をいただきました。5月を目途に、取組の方向性を示してまいります。

(公営企業における施策展開)

 続きまして、交通、水道、下水道の公営企業では、優れた技術を活かし、社会のニーズに応える新たなサービスを積極的に展開してまいります。
 水道局では、沈殿池をはじめ浄水施設の全ての池を覆うなど危機管理に万全を期すと同時に、浄水場で発生する水素の活用に関する研究も行い、世界に誇るシステムをさらに進化させてまいります。下水道局では、道路を掘り返さずに下水道管を内側から補強する技術を活用し、都心の古い管の再構築を進めるほか、浸水対策や合流式下水道の改善を着実に推進いたします。都営交通では、利用者の増加に対応した大江戸線の輸送力増強や勝どき駅、泉岳寺駅の大規模改良など、周辺のまちづくりと連係した事業にも取り組み、東京の発展を支えてまいります。

(豊洲市場の開場)

 さて、いよいよ今年の11月7日、豊洲市場が開場を迎えます。本定例会には、これに関わる条例案を提案しております。4日間という限られた期間で移転作業を完了し、盤石の態勢で開場の日を迎えられますよう、今回の予算案には、事業者負担を軽減する追加支援を盛り込みました。
 豊洲への移転を円滑、確実に実施し、最新鋭の設備をフル活用して食の安全・安心をしっかりと守っていく。そして、市場関係者の方々と共に「豊洲」を、築地を引き継ぐ東京の新たなブランドへと育て上げてまいります。

6 多摩・島しょ地域の振興

 続きまして、多摩・島しょ地域の振興について申し上げます。
 2019年には、ラグビーワールドカップの開会式と開幕戦が東京スタジアムで開催されます。見込まれます都内の経済波及効果は約824億円であります。さらなる試合の開催についても、今後、組織委員会に求めていきたいと思っております。会場周辺へのファンゾーン設置や、街を美しく飾るシティドレッシングの実施など、大いに盛り上げてまいります。2018年には、開幕1年前イベントを開催いたします。この勢いを、2020年オリンピック・パラリンピックまで繋げることで、世界中から多くの人々を集め、多摩地域への注目を一層、高めてまいります。
 かねて申し上げておりますとおり、多摩地域の発展なくして東京の発展はあり得ません。2020年の先にも持続的な発展を遂げていくため、長期的な視野に立った方策が必要となっております。先月開催いたしました「東京のグランドデザイン検討委員会」では、都心に住む人が、週末には自然豊かな土地で過ごすライフスタイルも紹介されました。新しい暮らし方、考え方といった要素も取り入れ、東京のグランドデザインなどの検討を踏まえつつ、新たな多摩の振興策の策定に着手いたします。
 多摩・島しょ地域は、その多くの部分が自然公園に指定されており、来年度には、「自然公園ビジョン」の策定を予定しております。環境との調和を図りながら、都心に近く、手軽に自然を体感できる、そういう強みを活かしました、新しい時代にふさわしい自然公園のあり方を検討してまいります。また、多摩産材の、商業施設など民間での利用を促進し、持続的な森林循環の実現を図ってまいります。
 観光面では、多摩・島しょの魅力を効果的に伝えていくことが重要であります。海外旅行博への出展や有名な旅行雑誌への広告掲載など、認知度を向上させ、多くの観光客を呼び込んでいきたいと思います。
 災害対策の面では、旧立川政府倉庫を購入いたしまして、多摩地域全体の防災性を高めてまいります。備蓄を強化し、災害発生時には全国からの支援物資の集約・配送拠点として活用するなど、広域的な防災力を強化いたします。島しょ地域におきましては、岡田港、新島港、神津島港への津波避難施設の整備を着実に進めるなど、備えを固めてまいります。
 このほか、伊豆諸島の5村6島に超高速ブロードバンドを導入するため、海底ケーブルの敷設工事を実施いたします。島しょの高校に島外の生徒が進学し、ホームステイをいたします「離島留学」も、この4月から神津島において始まります。雄大な大自然の中で、島の温かい人情に触れながら学ぶ経験は、これからの人生の大きな財産になると思います。今後、この取組を、他の島にも広げていきたいと考えております。

7 2020年の先を光り輝くものに

 これまで、東京を発展させるための数々の施策につきまして、申し述べてまいりました。言うまでもなくこうした取組は、東京都の力だけで成し遂げられるものではありません。国としっかり連携し、国に先駆けた施策も展開することで、東京から日本の再生を確かなものにしていきたいと思います。都内区市町村はもとより、全国の自治体との関係も一層密にし、互いの魅力が合わさることで、日本全体を盛り上げるよう取り組んでまいります。
 今年は、選挙権年齢の引下げがあります。新たに選挙権を得る18歳以上の方々は、日本の将来の決定権を最も長く委ねられることになります。若い世代から大いに声を上げ、東京と日本の将来のために、積極的に社会に関わって欲しいと期待しております。
東京都は、都市が進化する未来の姿を示し続けてまいります。2040年代の東京のグランドデザイン、それを実現するのは、今の若者たちであります。私は、2020年の先も東京を光り輝くものとするため、世代を超えて子や孫の時代においても東京と日本が発展していくため、都議会の皆様方と力を合わせまして、全力を挙げて都政運営に当たる決意でございます。ご理解とご協力のほどをよろしくお願い申し上げます。

 なお、本定例会には、これまで申し上げましたものを含めまして、予算案30件、条例案76件など、合わせて126件の議案を提案しております。よろしくご審議のほどをお願いいたします。

 以上をもちまして、私の施政方針表明を終わります。
 ご清聴、ありがとうございました。