ここから本文です。
2017年02月23日
生活文化局
本日、東京都消費者被害救済委員会(会長 村千鶴子 弁護士・東京経済大学現代法学部教授)から、「タブレット端末を利用した学習サービスの解約に係る紛争」(平成28年7月4日付託)があっせん・調停不調により終了したと知事に報告がありましたので、お知らせします。
サービス内容:タブレット端末を使った小学生・未就学児童向け算数学習サービス
料金体系:基本料金(12か月分一括払い約3万2千円)+利用料金(月締め翌月払い)
<本件申立人らの利用状況等> ※1 年齢等は契約当時
|
平成27年に、書店やショッピングモールの体験コーナーで、小学生の子らがタブレットを使った学習体験をした。その際、相手方から、タブレット端末に配信された算数の問題を解く学習サービスで、月額2、3千円の基本料金の他に、成果課金のような利用料金がかかると説明された。また、リーフレットには、「先取り」や「学校で進む速さよりも、早くお子様が進んではじめて利用料金を頂きます。」と記載されていたため、申立人らは、月々2、3千円で、学年よりも上の学習に進めば利用料金が課金されると思った。その場で相手方ウェブサイトから申込むと1週間自宅で体験ができるというので、子が希望したこともあり申し込んだ。基本料金は12か月分を初月に一括で支払った。
初月の利用料金が高額だったため問い合わせると、利用料金は、クリアしたステージ数の累計から算定した利用速度に応じて課金する※2とのことだった。
実際の利用状況では、申立人Aの子(未就学児)は、短期間で小学生のステージに到達したものの、掛け算のステージでは、適当に答えを入力し間違った場合は答えを見て次に正解を入力して進めていた。また、申立人Bの子(小学2年生)は、小学1、2年生の問題を何ステージもやっていた。
申立人らは、理解して上の学年に進む仕組みでなかったことや学年以下の学習に対して高額な利用料金がかかることに納得できなかったため、解約を申し出て返金を求めた。相手方は、支払済みの基本料金12か月分と利用料金は規約どおり返金しないという対応だった。
※2 ステージとは、小学校の学習内容を分割して相手方が独自に設定した学習段階のこと。サービス開始時点から通算したクリアステージ数により速度が決まるため、クリアしたステージがなかった月でも、利用料金が発生する場合がある。
(相手方)RISU Japan株式会社 文京区本郷三丁目21番8号
委員会が示したあっせん案及び調停案の内容
基本料金については、以下の点から、申立人らは利用した月分の基本料金を負担すれば足りる。
消費者契約法10条は、消費者の権利を制限又は、消費者の義務を加重する条項で、消費者の利益を一方的に害するものは無効としている。
本件では、契約直後に12か月分を前払いした基本料金を、中途解約した場合も一切返金しないとの規約を相手方は定めていた。基本料金は、本件学習サービスを12か月利用するための料金と考えられることから、利用していない分の基本料金を含め一切返金しないとする規定は、民法等の適用による場合に比べ※3、消費者の権利を制限する特約といえる。また、解除時期を問わず返金を一切認めないことは、全額を没収するに等しいことから、消費者の利益を一方的に害する特約に当たり無効と考えられる。
※3 本件契約は民法656条の準委任契約と考えられ、準委任契約は、当事者は損害を賠償すればいつでも解除ができる。
消費者契約法9条1号は、消費者契約の解除の違約金等を定める条項について、事業者に生じる平均的な損害の額を超える部分は無効であるとしている。
本件において、実質的には違約金として基本料金全額を徴収するのであれば、平均的な損害の額を超えていないかが問題となる。平均的な損害の額とは、同種の契約の解除に伴い発生する損害の平均額である。
本件では、相手方は多数の消費者と取引を行っており、一人が解除したことによって発生する損害を他の多数の消費者との取引によって補うことが可能である。したがって、中途解約時以降の基本料金相当分全額を申立人から徴収する特約は、平均的な損害の額を超える額を徴収するものであり、無効と考えられる。
消費者契約法3条1項によれば、事業者は勧誘の際には、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容について必要な情報を提供するよう努めなければならない。
本件では、利用料金の課金方法について、利用規約には具体的な記載がなく、料金表や料金について説明したウェブサイトへのリンク先の表示もなかった。その上、相手方は、勧誘時に手渡したリーフレットには「先取り」と表示し、学校よりも上の学習をすれば成果料金のような利用料金がかかると説明するなどしていた。
申立人はこれらの表示や説明により、先取り学習で「学年よりも上の学習」をした場合に、利用料金が発生すると認識していたが、実際の課金は累計ステージ数から利用速度を算定し、「先取り」していなくても課金されるものであった。課金についての申立人の認識の誤りは、民法95条の錯誤に当たり、利用料金に関する合意については無効と認められる。
相手方の説明が不十分だったことや申立人の認識の誤りを鑑みると、申立人は、「学年より上の学習をした分」の利用料金を負担すべきと考えるのが妥当だろう。
本件のようにウェブサイトから申し込む契約については、電子消費者契約特例法が適用され、申込時に契約内容を示した上で申込みの意思があるかどうかの確認を求めていなければ、消費者の重過失の有無を問わず、錯誤無効が認められる。
相手方の確認画面は、申込時に消費者が料金システムの内容について確認を行う表示がされていなかったのではないかという点が問題となっていて、仮にそうであれば料金システムについて錯誤無効もありうる。
タブレット端末を利用した教育サービスは新しいサービス分野であり、ドリルなどの紙ベースでの教材とは異なり、質や仕組みなどを消費者が容易に知ることができないという特色がある。事業者はこの特色を踏まえて、勧誘の際や広告等で誘引する際には、サービスの内容について、消費者が具体的に理解できるように説明することが必要である。
特にサービスの対価は、契約の重要な要素であるから、利用料金の課金の仕組みや支払時期や方法、契約の解除に関することや解除の際の清算ルールについて、消費者が容易に理解できるように説明するべきである。
また、広告の表示が誇大広告とならないように配慮すべきことは当然であるが、事業者内部だけの判断では消費者が広告表示からどのような情報を受け取るか十分に把握できないこともあるので、第三者である消費者団体等の協力を得るなどして、適切な広告表示はどうあるべきかを検討するような工夫をされることが望ましい。
なお、ウェブサイトから契約の申込みを受け付ける場合には、電子消費者契約特例法と特定商取引法の通信販売の規制を踏まえて、申込時に消費者がサービス内容や支払金額などを確認できる画面を設定すべきである。
近年商品化が進んだ本件事案のような新しいサービスは、消費者がサービス内容や取引条件を理解するのが難しい場合が少なくない。消費者被害防止のための経験値が乏しいこともあり、都や区市町村は相談事例を収集・分析した上で、必要な情報を速やかに消費者に提供するよう努められたい。
本件のような学習サービスは、特定商取引法に規定する特定継続的役務提供といえるが、期間が2月を超え、金額が5万円を超えるものが規制対象であるので、契約締結時点で確定している契約金額が5万円に満たない本件については、特定商取引法の規制は及ばないと考えられる。今後このような事案は増加していくであろうことから、本件のような事案についても特定継続的役務提供に該当することを明確化するよう改正の検討をされることを望む。
東京都は、都民の消費生活に著しく影響を及ぼし、又は及ぼすおそれのある紛争について、公正かつ速やかな解決を図るため、あっせん、調停等を行う知事の附属機関として東京都消費者被害救済委員会を設置しています。
消費者から、東京都消費生活総合センター等の相談機関に、事業者の事業活動によって消費生活上の被害を受けた旨の申出があり、その内容から都民の消費生活に著しく影響を及ぼし、又は及ぼすおそれのある紛争であると判断されたときは、知事は、委員会に解決のための処理を付託します。
委員会は、付託を受けた案件について、あっせんや調停等により紛争の具体的な解決を図り、個別の消費者の被害を救済するとともに、解決にあたっての考え方や判断を示します。
紛争を解決するにあたっての委員会の考え方や判断、処理内容等は、東京都消費生活条例に基づき、広く都民の方々や関係者にお知らせし、同種あるいは類似の紛争の解決や未然防止にご活用いただいております。
※別添 東京都消費者被害救済委員会委員名簿(PDF:126KB)
問い合わせ先 東京都消費生活総合センター活動推進課 |
Copyright (C) 2000~ Tokyo Metropolitan Government. All Rights Reserved.