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報道発表資料  2018年09月10日  東京都労働委員会事務局

[別紙]

命令書詳細

1 当事者の概要

  1. 申立人組合は、企業の枠を越えて組織される、いわゆる合同労組であり、平成22年4月25日に結成された。本件申立時の組合員数は196名である。
  2. 申立人支部は、組合の下部組織として、24年8月28日に結成された労働組合である。支部の組合員は、法人の学校に勤務する英語ネイティブ非常勤講師であり、本件申立時の組合員数は5名である。
  3. 被申立人法人は、東京都に所在するY2(以下「学校」という。)及び大阪府に所在するY3を運営する学校法人である。

2 事件の概要

  1. 平成25年6月7日、申立人組合及び同支部は、被申立人法人の学校に勤務する英語ネイティブ非常勤講師であるA1、A2、A3、A4外2名が組合の支部を結成したことを法人に対し通知するとともに、A5組合員に対し法人が通知した雇止めの撤回等を求めて団体交渉を申し入れた。
  2. 法人の学校では、毎学期、学期が始まる1週間から2週間ほど前に、当該学期の非常勤講師予定者に対し、守るべきルールや授業担当上の留意点、契約内容などを説明する講師会と称するガイダンスを集団開催方式で実施していたが、26年度前期から、英語ネイティブ非常勤講師については、集団開催方式での講師会を開催せず、校長との個別面談方式へと変更した。
  3. A1は、英語を使ってコミュニケーションをすることを重視した科目であるECSの授業を、非常勤講師として担当していた。
    27年2月、A1は、次学期の担当授業やコマ数の希望を記載するアベイラビリティ・シートに、1時限目から3時限目までの3クラスについて、月曜日から金曜日までの各5コマが担当可能であると記載して法人に提出したが、法人は、3時限目のECSのクラスについて、同人に木曜日と金曜日の2コマのみを割り振り、月曜日から水曜日までの3コマは、他の講師に担当させた。
  4. A2は、ECSの授業に加え、法人から依頼を受け、23年度前期から25年度前期にかけて、オープンキャンパスにおけるECSの体験レッスン及び高校生向け特別授業を担当していた。しかし、A2は、25年度後期以降、ECS以外の授業を一切依頼されなくなった。
  5. 27年7月9日、法人の職員であるZ1は、ビラ配布をしていたA3に対し、「恥ずかしくないの?」、「郷に入っては郷に従え。」等と発言した。
  6. 27年10月22日及び28年9月8日の団体交渉において、組合らは、法人に対し、日本語の就業規則の写しを交付するよう求めたが、法人は、これに応じなかった。
  7. 27年11月30日の団体交渉において、組合らは、法人に対し、A4の学生満足度調査の結果を開示するよう求めたが、法人は、これに応じなかった。
  8. 本件は、下記1.ないし6.が争われた事案である。
    1. 法人とA1との27年度前期の講師契約において、同人が担当可能とした月曜日から水曜日までの3時限目のECSの授業について、同人と契約せず、他の非常勤講師に依頼したことは、組合員であることを理由とする不利益取扱いに当たるか否か。
    2. 26年度後期以降、法人がA2に対して、オープンキャンパスにおけるECSの体験レッスン及び高校生向け特別授業を依頼しなかったことは、組合員であることを理由とする不利益取扱いに当たるか否か。
    3. 27年7月9日のビラ配布に際して、法人職員Z1がA3に対して発言した内容は、支配介入に当たるか否か。
    4. 26年度前期以降、法人が、英語ネイティブ非常勤講師に対する講師会を集団開催方式で行わなくなったことは、支配介入に当たるか否か。
    5. 27年10月22日及び28年9月8日の団体交渉において、組合らが日本語の就業規則の写しの交付を求めたことに対する法人の対応は、不誠実な団体交渉に当たるか否か。
    6. 27年11月30日の団体交渉における、法人によるA4の担当授業に関する学生満足度調査についての説明は、不誠実な団体交渉に当たるか否か。

3 主文の要旨

  1. 組合員A2に対し、平成26年度後期及び27年度前期に、オープンキャンパスにおけるECSの体験レッスン及び高校生向け特別授業の依頼を行ったものとして、その賃金相当額を支払うこと。
  2. 組合らが組合員A4の担当コマ数に関して団体交渉を申し入れたときは、学生満足度調査の結果を説明するなどして、誠実に応じること。
  3. 文書の交付及び掲示
    要旨:法人が、1.A1に対し、26年10月13日以降、オープンキャンパスにおけるECSの体験レッスン及び高校生向け特別授業の依頼を一切していないこと、及び2.A4の担当授業数を減らしたことを議題とする27年11月30日の団体交渉において、誠実に対応しなかったことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されたこと。今後、このような行為を繰り返さないように留意すること。
  4. 第1項及び第3項の履行報告
  5. その余の申立ての棄却

4 判断の要旨

  1. A1が担当可能としたECSの授業を他の非常勤講師に依頼したことについて
    アベイラビリティ・シートには、授業可能な時限として提示されたコマの全てを、法人が依頼することを保障するものではない旨が明記されていること、実際、A1は、26年度前期にも同一クラスを他の講師と分担したことがあり、一方、同一クラス3クラス分の各5コマを全て担当したことはないことが認められること等から、法人の取扱いが、不自然な取扱いであるとまではいえない。
    A1の27年度前期の担当コマ数は、26年度と同じく12コマであるから、同人はコマ数減の不利益を受けておらず、また、非常勤講師の平均コマ数を上回っているから、同人が非組合員に比して不利益を被っていたということもできない。
    したがって、法人がA1を殊更に不利益に取り扱ったとみることは困難であるから、当時の対立的な労使関係等を考慮したとしても、法人の取扱いが、組合員であるが故の不利益取扱いであるということはできない。
  2. A2にECSの体験レッスン及び高校生向け特別授業を割り当てないことについて
    1. 法人は、ECSの体験レッスン及び高校生向け特別授業は学校の教育理念や教育方針の理解が必要となる学生募集業務であるため、まず専任教員に担当を依頼し、専任教員が担当できない場合には非常勤講師にも担当を依頼するとしており、A2への依頼がなくなった理由として、25年度後期以降、勤務可能な専任教員が増加したこと等を主張する。
      しかし、法人は、専任教員へ依頼する割合を増やす一方で、27年度前期から、派遣契約の非常勤講師への依頼を増やしており、学期ごとの講師契約を反復継続して学校の教育理念や教育方針を相当程度理解しているA2等の直接契約の非常勤講師に依頼せず、法人と直接契約を結んでいない派遣契約の非常勤講師への依頼を増やしていることは、矛盾である。そうすると、専任教員への依頼を増やしたのも、派遣契約の非常勤講師への依頼を増やしたのも、組合員である直接契約の非常勤講師への依頼をしないためであるとみざるを得ない。
    2. それまで授業担当の実績があったA2に対する、ECSの体験レッスン、英会話セミナー及び冬期プレップスクールの依頼が、全て同じ25年度後期以降に一斉になくなっているという時期的整合性をみると、依頼がなくなった契機は、25年6月7日の支部結成や同人の組合加入の通知であるとみざるを得ず、また、その後も同人に対し一切依頼しない取扱いを変えていないことは、同人が組合員であることを理由とした不利益取扱いであるというべきである。
    3. 以上のとおりであるから、本件申立ての1年前である、26年10月13日(26年度後期)以降、法人がA2に対し、オープンキャンパスにおけるECSの体験レッスン及び高校生向け特別授業の依頼を一切していないことは、同人が組合員であるが故の不利益取扱いに該当する。
  3. 法人職員Z1のA3に対する発言について
    「嫌だったら辞めればいいよ。」、「恥ずかしくないの?」、「郷に入っては郷に従え。」等のZ1の発言は、それ自体不穏当なところがあるものの、一般職員である同人は、法人の利益代表者又はそれに近接した地位にある者であるとはいえず、同人の発言に法人の関与があったとは認められないから、上記発言は、使用者の行為であるということができず、支配介入には当たらない。
  4. 講師会について
    法人が、講師会における組合の勧誘活動を認識し、これを妨げようとしていたとまで認めるに足りる事実があるとはいえないし、本来、講師会という業務の場における組合活動は、組合らに当然に認められるものではなく、また、講師会の前後の時間等における組合への勧誘活動であっても、法人が、組合らに対して、組合活動の機会として保障すべきものであるということはできない。
    そして、集団開催方式の講師会では、英語非常勤講師予定者に伝達したい内容が一人一人に十分説明できたか、講師予定者が理解しているかを確認することが困難であると感じたため、個別面談方式に変更したという法人の変更理由には、それ相応の合理性が認められることを考慮すると、法人が殊更に組合活動を妨害する意図をもって、個別面談方式に変更したとまでいうことはできない。
    したがって、法人が英語ネイティブ非常勤講師に対する講師会を集団開催方式で行わなくなったことは、組合らの運営に対する支配介入には当たらない。
  5. 27年10月22日及び28年9月8日の団体交渉において、組合らが就業規則の写しの交付を求めたことに対する法人の対応について
    法人は、就業規則の写しを交付しない方針やその理由について、一応の説明を行っており、法人が就業規則の写しの交付を拒否したことにより、団体交渉の進行が阻害されたといった事実は認められない。
    また、組合らが具体的な交渉事項を指摘して、それに関連する就業規則の内容の説明を求めた場合には、法人は、交渉事項に関連する限りで、就業規則の該当箇所の条文を読み上げることにより、少なくとも団体交渉に必要な範囲内では就業規則の開示に応じる姿勢であったということができる。
    したがって、法人の対応は、不誠実な団体交渉に当たるとまではいえない。
  6. 27年11月30日の団体交渉における法人によるA4の担当授業に関する学生満足度調査についての説明について
    1. 法人は、団体交渉において、A4の学生満足度調査の点数は示さず、学生コメントの一部のみを読み上げたが、学生コメントを示したといっても、あくまでも一部であり、A4の授業が良くないとの意見があったという事実が確認できるにすぎず、学生満足度調査の結果については、悪いというだけで、具体的な点数や講師全体の中での位置付け等を一切示していないのであるから、法人が学生満足度調査について、十分な説明を行ったということはできない。
    2. 学生満足度調査の結果は、A4のコマ数減の直接の原因であり、今後、契約不更新の理由ともなり得るものであることを考慮すると、少なくとも法人は、A4のコマ数減の理由や今後同人が改善すべき点等について、組合らが理解できるよう、学生満足度調査の結果の十分な説明に努める必要があったというべきである。そして、学生満足度調査そのものを開示しなくても、A4の具体的な点数や講師全体の中での順位等を示したり、調査結果を要約して同人の評価の全体的な傾向を説明するなど、法人の主張する開示に伴うリスクを回避しつつ、コマ数減の理由として必要な範囲で調査結果の説明を行うことは、十分に可能であったと考えられる。
    3. したがって、法人の対応は、不誠実な団体交渉に該当する。

5 命令交付の経過

  1. 申立年月日 平成27年10月13日
  2. 公益委員会議の合議 平成30年8月7日
  3. 命令書交付日 平成30年9月10日

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