知事の海外出張

平成19年11月9日更新

「地球温暖化について考えるシンポジウム」について

 都は、9月13日、JICA地球広場(港区広尾)にて、独立行政法人国際協力機構(JICA)と共催で「地球温暖化について考えるシンポジウム」を開催しました。

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吉川環境局長
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西澤学長

 このシンポジウムは、地球温暖化の影響を理解するため、首都大学東京の西澤学長の基調講演や民間企業で環境対策に積極的に取り組む企業の方のパネルディスカッションのほか、JICAのフィジーオフィスから現地視察中の石原知事が海面上昇や海岸侵食の深刻な影響の状況を報告しました。
 会の冒頭で、吉川環境局長は、温暖化が年々深刻な状況になっていることを危惧し、「地球温暖化は遠い将来である、あるいは誰かが解決してくれる、という考えでは、もはやその回避の突破口を見出すことはできません。」と訴え、都の最重要課題の一つとして10年間で集中的に気候変動対策「カーボンマイナスプロジェクト」に取り組む姿勢を改めて示し、理解を求めました。

 基調講演は、環境問題について早い時期から警鐘を鳴らしてきた、首都大学東京の西澤学長による「地球温暖化について考える」というテーマで行われました。西澤学長は、人類とエネルギーのかかわりを中心に、20世紀以降のエネルギー消費量が急激に増大しているデータを説明しました。

 第二部では、フィジーに出張中の石原知事が、JICAのテレビ会議システムにて現地の様子を報告しました。フィジーの前に訪れたツバルは、地球温暖化の影響を直接受けている島国で、「世界で最初に沈む国」とも言われています。総面積は約26平方キロメートルで、港区よりひとまわり大きい程度、人口は1万人ほどで、標高は高いところでも5メートルほどしかありません。
 知事は現場を見ることの重要性を語り、「今まで凍結したものが溶解し、太平洋や大西洋の水位が増しているのは間違いない。地球も自転していますから、その自転の遠心力が一番かかる赤道に近いのフィジーなりツバルなりが、北なり南から溶けて流れ出た海水がさらに膨らんで高潮による塩害を起こしている。原因はいろいろあるでしょうが、地球温暖化の引き金はCO2の排出ですから、そのCO2の排出をどうやって食い止めるかが大きな課題であると思います。」と語り、「国家全体が動かないと地球は救えない。ツバルのような国は世界中からフォーカスを浴びている。あの国を沈めずに支えるくらいのエンジニアリングは日本の力でできますし、経済力もありますから。日本がその気になって援助して、技術を使って護岸をして、あの国を沈めずに助けてあげることは、とっても大事だし、日本の存在感にもつながるし、世界中からも評価を受けると思う。」と国に対して働きかけを行うことを明言しました。
 その後、現地の写真をもとに、東京の会場に対し知事自ら説明を行いました。

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生中継でフィジーから報告する知事(左)
とラロニウ代理高等弁務官(右)
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現地の写真を知事自ら説明

 続いて、ツバルのサミュエル・ラロニウ代理高等弁務官からの報告がありました。ラロニウ氏は、報告の中で温暖化を何度も「脅威」と表しました。「その脅威は緊急で差し迫ったものであり、すぐに解決策が必要である。国土が狭く低いということは、地球温暖化にとって最も脆弱な国である。潮位の上昇で沿岸は侵食し、さんご礁はブリーチング(漂白化)してしまい、死んでしまった。ほとんどの地域で農業が難しくなり、食料は輸入に頼らざるを得ない。輸入された缶詰などに依存した食生活は、糖尿病等の健康問題にもつながる。地球温暖化はツバルにとっては、ヒューマンセキュリティ(人間の安全保障)に関する問題にもなっている。」と現状を具体的に語り、京都議定書の達成に向け、日本や東京が積極的に取り組む姿勢に賛辞を送りました。
 第三部は環境問題に積極的に取り組んでいるコスモ石油(株)の鴇田(ときた)氏と富士フィルム(株)の五所(ごしょ)氏、JICA国際協力専門員の川西氏によるパネルディスカッションが行われました。
 鴇田(ときた)氏からは、石油を扱うコスモ石油であるからこそ、環境問題に真剣に取り組むべきという企業姿勢のもと、「コスモ石油エコカード基金」といったカード会員からの年間500円の寄附制度や、日本だけでなく、中国・パプアニューギニア・ソロモン諸島・キリバス共和国・フィリピン、そしてツバルなどでのさまざまなプロジェクトが紹介されました。
 五所氏は、富士フィルムグループ全体で「企業理念を本業だけでなく、社会貢献活動でも具現化する」ことを目指し、将来世代の環境教育としての「みらいグリーンマップ」の取組や、富士フィルム九州では熊本県が広く進める水資源の保全活動へ貢献することで、地域と共存することを目指し、南阿蘇村の協力を得て、白川上流域の植林を推進していることなどを紹介しました。
 川西氏は、気候変動対策には「緩和策」と「適応策」が車の両輪のごとく機能することが重要であると述べました。緩和策とは、温暖化の原因を断つことを指し、CO2等の排出削減や植林による吸収促進が主となります。一方、適応策とは、緩和策の実現によっても避けられない気候変動の負の影響への対策をいいます。
 JICAでは、気候分野におけるフィジーとの協力として、地域気象センターの建設や機器整備等の無償資金協力や、大洋州諸国の気象予報官への研修の実施等を行い、適応能力を高めることで気候変動への脆弱性を小さくすることの必要性を述べました。

 最後に都民へのメッセージとして、川西氏は「遠い南の島であっても、地球はひとつでつながっているんだと実感を持ってほしい。その実感を行動に移すことが大事」、五所氏は「文明社会が弱い国に影響を及ぼしていることを忘れずに、小さな行動を積み重ねていく」、鴇田氏は「『大地は子孫からの預かり物』です。大地への感謝、恩返しする気持ちを忘れずに」と、しめくくりました。

 当初の定員を大幅に上回る約280人の聴衆が、知事のレポートやパネリストの企業等での取組状況、特に気候変動の影響を直接受けている南太平洋諸島の現状について熱心に聞き入りました。