- 報道発表資料
恩賜上野動物園情報 ジャイアントパンダの繁殖期の対応について
恩賜上野動物園(園長 福田豊)で飼育しているジャイアントパンダの繁殖期が近づいてきたため、今後、発情の兆候が見られた場合は速やかに交配などに向けた環境を整えられるよう、準備を進めてまいります。
つきましては、繁殖期の対応についてお知らせいたします。
1.対象動物
ジャイアントパンダ
リーリー(オス)
2005年8月16日 臥龍保護センター生まれ
ジャイアントパンダ シンシン
シンシン(メス)
2005年7月3日 臥龍保護センター生まれ
ジャイアントパンダ リーリー
2.繁殖について
ジャイアントパンダの繁殖期は一般的には年1回、2月から5月にやってきます。この期間中にメスの妊娠の可能性が高まるのは数日間だけです。
当園では自然繁殖をめざしており、メスの交配適期を見極め、交配のための同居を行う予定です。
なお、メスのシンシンについては、現在、血圧に高い値が見られ、投薬治療を続けていることから、個体の状態について注意深く観察をしており、動物の健康第一で取り組んでまいります。
3.繁殖期の対応
繁殖期のリーリーとシンシンの状態・行動などを確認しながら、原則として以下の対応をしてまいります。
1)同居の実施について
交配のため、リーリー(オス)とシンシン(メス)の同居を数日の間に複数回実施する予定です。
2) 展示について
開園中に強い発情の兆候が見られた場合、パンダが繁殖に集中できる落ち着いた環境を整えるため、西園「パンダのもり」ジャイアントパンダ舎及びキジ舎周辺の立入り規制を行います。これにより、ジャイアントパンダ全頭(リーリー、シンシン、シャオシャオ、レイレイ)及びキジ類の展示は中止となります。ご理解・ご協力いただきますようお願いいたします。なお、シンシンは放飼場工事のため、1月26日より原則展示中止となります(下記「4.放飼場の工事について」参照)。
展示の有無についての情報は、恩賜上野動物園ホームページ(東京ズーネット(外部サイトへリンク))や
恩賜上野動物園公式ホームページ
恩賜上野動物園公式X(旧Twitter)
※動物の健康状態などの理由により、レッサーパンダ舎を含む「パンダのもり」全域を立入り規制する場合があります。予めご了承ください。
西園「パンダのもり」 ジャイアントパンダ繁殖期規制エリア
4.放飼場の工事について
1月26日(金曜日)から、放飼場工事のため、展示場所の変更を予定しています。なお、シンシンは原則として非公開となります。詳しくは恩賜上野動物園公式ホームページをご覧ください。
5.現在の状況
リーリーは、逆立ち排尿やマーキング、体のこすりつけの回数が増えるなど、繁殖期によく見られる行動があらわれています。一方、シンシンには今のところ外陰部の形状変化や体の一部を冷やすなどの行動の発現、発情期特有の鳴き声など発情を示す兆候は見られていません。
6.過去の経過
シャンシャンを出産した平成29年(2017年)の経過
発情期
- 平成28年 12月8日頃 オス(リーリー)に繁殖期に見られる行動があらわれる
- 平成29年 2月15日頃 メス(シンシン)に発情兆候が見られ始める
- 平成29年 2月22日 展示中止
- 平成29年 2月27日 同居実施、交尾行動を確認
- 平成29年 2月28日 メスの発情が収束に向かう
- 平成29年 3月1日 展示再開を報道発表
- 平成29年 3月2日 展示再開
交尾後
- 平成29年 5月16日頃 シンシンの採食量減少、休息時間の増加などの変化が見られ始める
- 平成29年 5月20日頃 尿中のホルモン代謝物に変化が見られる
- 平成29年 5月25日 出産に向けシンシンの展示を中止
- 平成29年 6月12日 出産
シャオシャオ・レイレイを出産した令和3年(2021年)の経過
発情期
- 令和2年 11月中旬頃 オス(リーリー)に繁殖期に見られる行動があらわれる
- 令和3年 2月23日頃 メス(シンシン)に発情兆候が見られ始める
- 令和3年 3月4日 同居の準備(臨時休園中)
- 令和3年 3月6日 同居実施、交尾行動を確認
- 令和3年 3月9日 メスの発情が収束に向かう
交尾後
- 令和3年 5月23日頃 シンシンの採食量減少、休息時間の増加などの変化が見られ始める
- 令和3年 5月20日頃 尿中のホルモン代謝物に変化が見られる
- 令和3年 6月4日 再開園するが、出産に向けシンシンの展示を中止
- 令和3年 6月23日 出産
7.撮影について
ジャイアントパンダに関する近況報告は、定期的に恩賜上野動物園ホームページにてご報告しています。提供している画像・映像の報道使用ご希望の際は、上野動物園教育普及課へお問い合わせください。なお、展示を中止した場合、ジャイアントパンダに関する状況報告については別途お知らせいたします。
参考
ジャイアントパンダ(食肉目 クマ科)
(ワシントン条約附属書1、IUCNレッドリスト:VU(絶滅危惧2類)、東京都ズーストック種)
※「附属書1」「2類」の数字の正しい表記はローマ数字です。
学名
Ailuropoda melanoleuca
英名
Giant panda
分布
中国南西部(四川省、陝西省、甘粛省)の標高2600~3500メートルの寒冷湿潤な竹林
生態等
基本的には単独行動で行動圏5~15平方キロメートル、昼夜の別なく行動するが明け方と夕方が活発です。
ジャイアントパンダの繁殖などに関する一般的傾向について
1.性成熟
性成熟はオスで6.5~7.5歳、メスで3.5~4.5歳。
2.繁殖期
繁殖期は一般的に2~5月。秋に発情するケースもある。繁殖期には、行動量の増加、においつけ、水浴びによる体冷やしの増加、食欲減退、恋鳴きなどが見られる。発情期間は2週間ほどであるが、そのうち受精できるのは数日間だけある。
3.妊娠期間
交配後、83~200日の妊娠期間を経て出産する。妊娠期間は個体差がある。これは、着床遅延【注1】があるためで、受精してから着床するまでの時間が1日のものもあれば数週間かかるものもある。着床までの時間によって妊娠期間が変わる。
【注1】着床遅延(ちゃくしょうちえん)
受精卵がすぐに子宮内膜に着床せず、胚盤胞の状態でしばらくの間子宮内に浮遊し、それから着床・発育を始める現象。温・寒帯に分布するクマ類やイタチ類、鰭脚類、カンガルーなどに認められている。着床までの時間によって妊娠期間が変わる。
4.妊娠時に認められる変化
1)食欲の変化
出産の30日前頃から食欲が減退し、餌を残すようになる。出産間際には食欲が廃絶する。
2)行動の変化
出産の15日前頃から巣づくり行動が認められる。出産間際には行動が不活発になる。
3)体の変化
出産の30日前頃に乳頭が確認されるようになる。出産間際には陰部の腫脹、乳房の腫脹が認められる。
4)ホルモンの変化
出産前の3.7週~8週に尿中のプレグナンジオール(妊娠の維持に必要な黄体ホルモンが代謝された物質)値の上昇が認められる。出産間際にはこの数値が下がる(血液で検査した場合、プロゲステロン(妊娠に必要な黄体ホルモン)値が上昇する)。
5.妊娠の確認
妊娠時に認められる変化により推測するが、偽妊娠【注2】という生理現象がみられるため、確定診断は難しい。
【注2】偽妊娠(ぎにんしん)
偽妊娠は病気ではなく生理現象の一種である。排卵すると、受精しなくても妊娠と同じ経過をたどることが知られている。発情の後、妊娠しなくても、尿中ホルモン値の上昇、動作の不活発、長い休息時間、食欲不振、乳頭の明瞭化、乳房の腫脹、巣作り行動など妊娠した場合と同様の現象が現れる。これを偽妊娠と呼ぶ。出産することがないまま日数が経過し、上記の変化が認められなくなって終息する。
参考文献
张志和・魏辅文著『大熊猫 迁地保护 理论与实践』(ジャイアントパンダ 域外保全 理論と実践)、科学出版社 (中国)、2006年
東京都恩賜上野動物園編『ジャイアントパンダの飼育 上野動物園における20年の記録』、東京動物園協会、1995年