令和8年第一回都議会定例会 知事施政方針表明
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令和8年第一回都議会定例会の開会に当たりまして、都政の施政方針を述べさせていただきます。
まず初めに、昨年明らかとなりました都営住宅等事業会計に係る消費税の未申告事案につきまして申し上げます。
都政を預かる者として、都民の皆様の信頼を大きく損なう今回の事態を重く受け止めております。本事案では、過去の誤りへの向き合い方や情報の共有・発信に対する姿勢が消極的であるといった組織運営上の課題が明らかになりました。目の前の困難を直視すること、思い込みや前例に囚われないこと、悪い情報ほど速やかに報告することの重要性を改めて徹底すべきと認識したところであります。本事案を変革の契機と捉え、都民の皆様の信頼回復がなされますよう、全庁を挙げて、速やかに具体的な取組を進めてまいります。
1 はじめに
不確実な「明日」を「安心と希望」へと変える
さて、世界は大転換の時を迎えております。国際秩序、気候変動、技術革新。目も眩むような変化の前で、現状維持の発想は、衰退を早めるだけであります。我が国は変化の大波の只中にいます。今こそ、長年停滞を続けてきたこの国の空気を大きく転換していかなければなりません。何が起こるかを見通せない不確実な「明日」を、この東京で「安心と希望」へと変えてまいりましょう。
真の成長力を育む戦略と予算と執行体制
為すべきは、変化の先に待つ未来の姿を見据えながら、本当の意味での成長力を育むことであります。
こうした考えの下、都政の羅針盤たる「2050東京戦略」のPDCAサイクルを徹底し、取組の進捗状況に応じて目標の上方修正や施策の充実・強化を図りました。さらに、私たちを取り巻く環境の変化にしっかりとキャッチアップするため、政策目標の数につきましても全体で312件へと拡充させております。
そして、今回編成した一般会計予算の規模は、9兆6530億円。施策の効率性・実効性の向上を図る観点から事業評価を徹底しまして、そして確保した財源は過去最高となる1350億円に上ります。戦略を推進するために必要な体制もしっかり確保いたしました。
「人」と「未来への投資」で成長のうねりを起こす
今、我が国が問われる「本当の意味での成長力」。その鍵の一つは、「人」であります。一人ひとりが存分に力を発揮することで生まれる活力が、経済を伸ばし、社会を変えていく原動力となるのであります。次世代を育み、自己実現を応援し、命と健康を守る、そうした「人」に焦点を当てた都政という揺るぎなき信念を形にし、都民の皆様の共感へ繋げていかなければなりません。
もう一つの鍵は「未来への投資」です。どのように産業を伸ばすか、どのような人材が社会から求められるのか、常に世界と未来に目を向けながら東京に眠る可能性を見出し、戦略的に将来に備えていくことが求められております。
こうした想いで練り上げた数々の政策で、日本のマインドセットを変えるような地に足のついた力強い成長のうねりを起こし、「明日は今日よりも良くなる」という実感を都民の皆様に届けてまいります。
2 一人ひとりが自己実現を追求しいきいきと輝く社会を創る
これより主要な政策について申し述べてまいります。 まずは、一人ひとりの自己実現を応援し、いきいきと輝く社会を創る取組であります。
「叶えたい」を支える切れ目のない支援を貫いていく
我が国の少子化に歯止めがかからない中、昨年11月までの都内出生数の速報値は、前年同期比で1.0%の増加となりまして、通年で9年ぶりに増加することが確実となりました。婚姻数も同様に4.6%、こちらも通年で2年連続の増加が確実であります。一人ひとりの「叶えたい」を支える切れ目のない支援を貫き、この流れを力強く確かなものにしていきたいと思っています。折しも今年は令和八年。末広がりや無限大を連想する数字の「八」をキーワードに、「結婚のきっかけにしたい特別な1年」と位置づけました。結婚したいという希望を応援するキャンペーン「TOKYO八結び」を展開し、8月8日など「八」にまつわるイベント開催等を通じましてムーブメントを起こしていきます。さらに、将来の妊娠・出産に向けて正しい知識を身につけ健康管理を促すプレコンセプションケアを、中高生や大学生など多くの方に知っていただく取組を充実させました。不妊治療に係る経済的負担のさらなる軽減も図り、子供を持ちたいという希望を強力に後押しいたします。
女性活躍の場を広げ、性別に囚われず誰もが輝ける環境を創る
先の定例会で可決いただいた全国初の女性活躍推進条例に魂を入れて、女性の自己実現を全力で応援していきたいと思います。そのためにも、事業者の主体的な取組を促す指針の作成や普及啓発など、条例の理念や内容を確実に浸透させていきます。「キャリアアップしたい」「起業したい」「自分に合った働き方を見つけたい」といった女性の想いに応えていくために、相談の機会やセミナー等も充実いたします。さらに、男性中心のイメージが強い建設業や運輸業の現場でも、女性専用設備の整備等を促すことで女性が働きやすい環境づくりを推進し、働き方の選択肢をグンと広げていきたいと思います。言うまでもなく、女性が輝く社会は男性も輝く社会です。男女共に育業から復帰した後も子育てと仕事の両立が図れるよう環境整備に取り組む企業を支援いたします。今年の夏に改定する男女平等参画推進総合計画の下、あらゆる分野で誰もがその個性や能力を発揮できる東京を創り上げてまいります。
チルドレンファーストの視点で子供たちの可能性を引き出す
社会のあり方そのものが問われるような変革の真っ只中であります。018サポートや高校等授業料の実質無償化など、これまでも都の先駆的な取組が国を動かしてまいりました。将来を見据えて、チルドレンファーストで「人」を育てていくことが、最大の「未来への投資」であります。
こうした想いを形にする取組の一つが、魅力ある都立高校への改革であります。デジタルの力や柔軟かつ自由な発想を取り入れ、学びたいという意欲に存分に応えていく、そうした「新たな教育のスタイル」を展開するコースを令和10年4月に複数の高校でスタートいたします。また、全面的にこのスタイルを実施する新たな高校をその翌年に新設するため、着実に準備を進めます。一方で、AIが急速に社会に浸透するにつれ、世の中を支えるために不可欠な技能・技術を有する人材の重要性が改めて認識されています。都立工科高校と産業との連携を強化し、そうした技術系人材をしっかりと育てていきます。
激動の時代を生きていく子供たちにとって、豊かな国際感覚がますます重要となっています。新たに3週間の短期留学制度を設け留学の裾野を広げるほか、海外大学への進学も後押ししてまいります。
多様な児童・生徒にきめ細かな対応を行うニーズが高まっています。不登校が続く生徒が校内の空き教室で学校生活を送るチャレンジクラス設置校を拡大するなど、生徒の状況に応じた適切な学びの場を充実します。また、障がいのある生徒をサポートするインクルーシブ教育推進教員を特別支援学校に新たに配置するなど、特別支援学校と都立高校のネットワークを強化し、障がいのある生徒に対する理解や支援のスキルを現場に一層広げていきます。
子供たちがスポーツや芸術文化に親しむ機会である公立中学校の部活動を持続可能にしていかなければなりません。地域への展開、外部人材の活用、複数校連携による拠点化、こうした3つの選択肢の中から、各地区や学校がそれぞれにとって適切な方法を組み合わせる「東京モデル」を来年度から導入いたします。教員の負担を軽減しながら、今後も生徒たちの豊かな活動機会を確保していきます。
チルドレンファーストの社会を築くためには、子供たちに寄り添い、その思いや意見にしっかりと耳を傾けることが大切です。意欲ある区市町村を支援し、子供の声を政策に反映する動きを都内全域へと拡大していきます。不安や悩みを抱える子供の交流や相談、学習支援などの機能を担う地域の居場所づくりをはじめ、思春期のメンタルヘルスやヤングケアラーといった喫緊の課題への対応も強化し、子供たちの健やかな成長を支えます。
いきいきと心豊かに暮らし続けられるChōju社会を実現
高齢者の方々が住み慣れた地域で心豊かに暮らし続けられる環境の整備をさらに進めなければなりません。安全・安心でコミュニティの形成にも配慮された「高齢者いきいき住宅」の認定制度を来年度構築します。また、小規模事業者の事務負担を軽減し介護サービスに注力できるようにするため、業務改革の取組等を支援するほか、複数の事業者の業務を集約するバックオフィスを開設します。要介護認定に係るアナログでのやり取りをオンライン化し認定期間の短縮に繋げるなど、介護分野のデジタル化、いわば介護DXも進めます。介護職員が育児や介護を理由に離職する事態を防ぐ取組を支援するとともに、福祉の仕事体験プログラムを通じて次世代を担う小中学生に福祉分野に対するポジティブなイメージを広げるなど、短期的・長期的な視点で人材確保も推進いたします。
さらに、認知症になっても誰もが安心して暮らせますよう、拠点となる病院を中心に医療機関同士が連携することで認知症のある人を身近な地域で受け入れられるようにする「TOKYOオレンジ医療システム」の構築に着手してまいります。
誰もが安心して地域で生活できる真の共生社会を創る
東京2020大会、そして世界陸上・デフリンピックの経験を推進力にして、東京をもっとインクルーシブなまちへと進化させます。
受けられる支援やサービスの幅が変わることで保護者が介護離職等を余儀なくされる「18歳の壁」問題が顕在化しています。18歳を境に生活環境が変わることがないよう、夕方以降や長期休暇期間中の朝の時間帯などの地域における居場所づくりに取り組む区市町村を支援します。障害福祉サービスを支える人材確保も課題です。介護職員の資格取得や、外国人介護人材の受入れ・定着をしっかりと支援します。さらに、障がいのある方などが継続して働ける環境も整えていかなければなりません。ソーシャルファームについては、関心を持つ企業や都民等の交流を活性化するなどして事業者のさらなる参入に繋げます。都庁では、障がい者のうち就労に困難を抱える難病の方にも採用選考の対象を広げ、障がい者雇用を一層進めます。
年々、都内外国人が増えています。そこで、在住外国人向けに日常生活のルールやマナーについて理解を促す情報発信を充実するほか、公立学校に通う外国人児童・生徒に日本語を教えるカリキュラムを強化し、地域住民と外国人の方々が共に安心して暮らせるようにしていきます。
こうした様々な取組を通じて、多様性に溢れ調和のとれた真の共生社会を創り上げてまいります。
3 世界一レジリエントで持続可能な環境先進都市を築く
続いて、都民の皆様の命と暮らしを守ることを第一に考えた、世界一レジリエントかつ持続可能な都市を築くための取組についてであります。
東京の特性を踏まえた対策で大規模災害への備えを固める
昨年度に見直した「防災都市づくり推進計画基本方針」を踏まえまして、より強力に不燃化を進める整備プログラムを今年度末に改定します。木密地域における区市の新たな防火規制と合わせた老朽建築物の建替えを強力に後押しするとともに、高齢化により建替えが進まない地域への新たな支援策などを講じます。さらに、国内各地で発生した火災も教訓に、特に危険性の高い空き家を対象として、除却費用への大胆な支援も行うことといたしました。木密地域の解消や空き家の早急な除却を加速し、「燃えない・燃え広がらない」まちを築いてまいります。
安全・安心な暮らしを守る無電柱化も、「電柱を減らす」「電柱を増やさない」の両面で進めていきます。今後5年間で重点的に整備する路線や整備目標を定めました「東京都無電柱化計画」の新たな方針を本日公表いたします。この方針の下、重点整備地域を環状七号線内側から環状八号線内側へと拡大するなど、取組の強化を図ります。本定例会におきましては、このような防災性向上の必要性が高い地域で宅地開発における電柱・電線の新設を原則禁止するための日本初の条例案も提案しております。加えまして、関係事業者間の円滑な情報共有に資するプラットフォームの構築や、設計データの3D化など様々な取組を組み合わせ、無電柱化のさらなるスピードアップに繋げてまいります。
また、いかなる時でも、基幹ライフラインである水の供給を止めてはなりません。災害対策と強靭化を新たな柱に位置づけ、持続可能な水道事業の実現を目指した次期経営プランを年度内に策定してまいります。
マンション防災の推進をはじめ避難者への支援を強化する
先日、避難者の生活支援全体に係る基本的事項を取りまとめました「東京都避難者生活支援指針」の素案を公表いたしました。避難場所に応じまして、「避難所」「在宅」「被災地外」の3つに分類し、どこにおいても安全・安心な生活が可能となるよう、必要な備えを区市町村と連携して進めます。多くの都民が共同住宅で生活する東京では、マンション防災の取組が鍵となります。災害時でも生活を続けられる「東京とどまるマンション」の防災対策の充実と普及を通じて、在宅避難しやすい環境づくりに繋げます。また、地元自治体と連携して、耐震診断を実施していないマンションを新たに個別訪問するなど、耐震化を強力に促していきます。地域防災力の底上げも図るため、マンションと町会・自治会が合同で行う防災訓練を一層後押しします。在宅避難に必要な物資を一つにまとめた「TOKYO防災キット(仮称)」の都内小学生への配布や、家具類の転倒等防止対策の促進も通じまして「備えよ常に」の精神を東京全体に浸透させ、人々の行動変容を促します。
風水害対策や暑さ対策など気候変動の影響から都民の命を守る
激甚化する風水害や災害級の暑さから、都民の暮らしを守り抜いていかなければなりません。河川の氾濫を防ぐため、来年度、新たに境川金森調節池と谷沢川分水路で取水を開始いたします。環状七号線の地下空間を活用する地下河川は、事業化に向けた学識経験者による委員会を来月立ち上げ、取組を着実に進めます。都市ならではの課題である内水氾濫への対策も重要です。リスクが高い67の重点地区から下水道の幹線や貯留施設等の整備を図り、雨水の排水能力を高めます。避難所や緊急輸送道路周辺等におきまして市町村が行う下水道管の再構築も新たに支援します。そして、今後も24時間365日、安定的に下水道機能を発揮できますよう、強靭性だけでなく持続可能性も基本コンセプトといたしまして、下水道事業の新たな経営計画も年度内に策定いたします。
今年の夏も猛暑が予想されています。命を守ることを最優先に、ためらうことなくエアコンを使用していただけますよう、今夏限定の特別措置として、夏場の水道料金の基本料金を無償といたします。また、低所得世帯向けにエアコン購入の支援も来年度に限り実施するほか、リスクの高い子供や高齢者、障がい者、そして働く人々など、それぞれのニーズに応じたきめ細かな支援も用意いたしました。都民の皆様には早め早めの暑さ対策を心がけていただきたいと思います。
世界をリードする覚悟で脱炭素化の歩みを加速する
地球温暖化の影響がますます深刻化する現状を鑑み、脱炭素化の歩みを加速いたします。昨年の補正予算で規模を大幅に拡大した太陽光発電や蓄電池の導入支援を来年度も継続するとともに、窓やドアの断熱化への補助も充実させ、脱炭素型ライフスタイルへの転換を推進いたします。そして、薄く・軽く・曲がる日本生まれの太陽電池「Airソーラー」は、民間施設へ設置を広げるとともに、非常時に避難所となる区市町村の施設への設置も新たに後押しをすることで需要の創出に繋げます。こうした太陽光発電の普及拡大だけでなく、パネルのリサイクル体制の充実に向けた取組も強化いたします。
海に囲まれた日本の特徴を存分に活かせる洋上風力発電は、我が国のエネルギー安全保障上も重要な意味を持つものであります。来年度以降、伊豆諸島海域が速やかに促進区域に指定されますよう、国や事業者が実施すべき風況等の調査を都が先んじて実行するなどして、プロジェクトを着実に推進していきます。
水素エネルギーの社会実装も戦略的に進めます。中央防波堤埋立地に、敷地内の太陽光発電で生産した電力のみで大規模にグリーン水素の製造を行う施設を国内で初めて整備します。また、その場で水素の製造を行う地産地消型水素ステーションという新たなビジネスモデルにも民間企業と共同で挑み、コスト削減による水素の供給拡大に繋げてまいります。
環境に優しいモビリティのさらなる普及を加速するため、一定台数のZEVを一括で導入する事業者に対しまして相談から導入まで切れ目のない支援を行うとともに、EVバイクの普及に向けた環境整備も推進します。
一方で、CO2の利活用の促進を図ることも必要です。来年度から国の排出量取引制度が本格的に始まるこの機を捉えまして、都内企業のカーボンクレジット創出に関わる取組を支援します。併せて、清掃工場等で排出されたCO2を回収し利活用するサプライチェーンの構築にも取り組むなど、世界の脱炭素化をリードしてまいります。
持続可能な都市にふさわしい循環型経済を構築する
持続可能な都市にふさわしいサステナブルな循環型経済を構築していきます。近年、不用意に捨てられたリチウムイオン電池が原因で、廃棄物処理施設等での火災が増加しています。ごみの中から電池を検知する機器等の処理施設への導入を緊急的に支援するとともに、区市町村等と連携して、電池の適切な分別を促す普及啓発や広域的な回収を推進し、再資源化の気運を醸成します。また、区部で発生するごみの最終処分場はあと50年程度でいっぱいになると見込まれております。全体の約7割を占める家庭ごみを削減するため、自治体を越えた食品廃棄物の広域的な回収ルート構築を後押しし、分別収集とリサイクルの促進に繋げます。次世代航空燃料でありますSAFにつきましても、身近な店舗やマンションと連携し、原料となる廃食用油の回収拠点を増やします。
4 暮らしの基盤を下支えする
続いて、物価高騰などの影響から、都民の暮らしの基盤を守り抜くための取組について申し上げます。
東京アプリを活用して都民の皆様の暮らしを下支えする生活応援事業は、先日、申請の受付を開始いたしました。これに加え、臨時的な対応として、アプリの対象外となる15歳未満のお子さんを対象に1万1千円を支給いたします。さらに、生産性向上や新たな市場・分野への展開によりまして経営力の強化に力を入れる中小企業を支援し、得られた成長の果実を従業員の賃金引上げに繋げていただくことで、持続可能な賃上げ環境を実現していきます。
都民の命や健康を支える医療体制も、暮らしの重要な基盤であります。物価高騰の影響が依然厳しい現状を踏まえ、来年度に限った措置といたしまして、都内民間病院への臨時的かつ緊急的な支援や、急性期病院への臨時的な支援を行います。また、患者の待ち時間短縮に向けたデジタルツール導入など医療DXの推進や、女性特有のがんの早期発見に繋がる検診受診の後押しなど、誰もが安心して満足度の高い医療を受けられる環境整備を進めます。
5 国内外から積極的な投資を呼び込み日本経済をリードする
次に、国内外から積極的な投資を呼び込み、我が国の経済成長を力強く牽引していく取組であります。
新産業の創出を梃子に経済に新たな活力を生み出していく
先端技術や新しい発想で新産業の創出を加速することが、経済に新しい活力を生み出します。そこで、スタートアップをはじめイノベーションを牽引する企業を世界に飛躍させるため、持続可能な社会の実現に挑む伸び盛りの新興企業を厳選し、大胆な資金サポート等で集中的に支援します。さらに、新たな官民連携ファンドを呼び水に、民間を含めた大きな資金の流れを作り、成長を強力に支えます。先般のパリ訪問では、現地のスタートアップ支援拠点で開催したイベントに参加し、東京をビジネスや成長のパートナーとして期待する熱気を肌で感じてまいりました。4月のSusHi Techでは、こうした国内外のエコシステムプレイヤーが東京に集い、そこから生まれる新たな交わりを、次なるイノベーション創出に繋げてまいります。
技術の進化を戦略的視点から先読みし、将来の経済をリードする新しい産業を重点的に支援することも極めて重要です。AIや半導体、量子コンピュータなど、我が国全体に波及効果を生み出す分野について、技術実装に向けた研究開発や生産拠点の整備を後押しするとともに、新産業の種でもあるディープテックの事業化を新たに支援します。
都民生活や行政サービスの向上には、もはやAIの活用が欠かせません。都庁全体でAIの適正かつ効果的な利活用を進めるため、「東京都AI利活用ガイドライン(仮称)」を年度内に策定いたします。同時に、都市のレジリエンスの一つとして極めて重要性が高まるサイバーセキュリティにも、新たにAIを導入し攻撃の予兆を検知する仕組みを構築するなど、技術の進歩を的確に捉えた先進的な対策を講じてまいります。
デジタル都市を支えるインフラがデータセンターであります。施設のエネルギー効率や再エネ利用状況などを評価する認定制度の創設など、環境に優しいデータセンターの整備を促します。また、事業者と住民の円滑な対話のポイントや、事業者との調整の目安となるような好事例を整理したガイドラインを年度内に策定いたします。認定制度とガイドライン、そしてデータセンターの情報を早い段階で把握する都独自の仕組みを三位一体で運用し、まちと調和した整備を後押ししていきます。
国内外から投資の流れを呼び込むには、金融市場を活性化して国際金融都市としての存在感を高めなければなりません。海外の資産運用業者や、都民の課題解決に資する外国企業のニーズに応じた支援を行い、東京進出を促進します。また、成長企業にとっての一つの課題が、上場前後での継続的な資金調達であります。官民連携ファンドを組成し、投資のモデルケースを生み出すことで、国内外の機関投資家を含めた民間投資を促すとともに資本市場の活性化に繋げます。東京や日本への高い関心を具体的な投資に結び付けるため、都内企業の国際戦略の展開に向けた海外IRの強化や必要な人材の育成も支援します。加えて、利便性の高さから新たな決済インフラとして期待されるステーブルコインの社会実装に向けた動きを後押しするなど先駆的な挑戦も行いながら、国際金融の舞台で世界をリードしてまいります。
「伝統と革新」を強みに、観光を持続可能な成長産業へと成熟させる
観光をさらに盛り上げ、持続可能な成長産業へと成熟させていきます。
この春、お台場海浜公園に、新たなランドマークとなる世界最大級の噴水「東京アクアシンフォニー」が誕生します。これを契機に、国内外の多くの方々に臨海部の魅力を堪能していただきたいと思います。都立施設の夜間開放も充実させるなど、ナイトタイム観光という東京の新たな強みをさらに磨き上げます。来月の江戸東京博物館のリニューアルオープンを機に、伝統芸能や季節の風物詩といった都内各地で脈々と受け継がれる江戸文化の魅力を国内外にアピールしていきます。また、令和17年度の開業を目指して東京国際クルーズふ頭の第2バースの整備に着手し、世界的に高まるクルーズ客船の需要も戦略的に取り込みます。
一方で、観光と地域住民の暮らしとの両立も極めて重要です。そこで「TOKYOクリーンアップムーブメント」を新たに展開します。区市町村や交通事業者などと協働して「ごみは持ち帰る」という日本の美徳に対する外国人旅行者の理解促進やリサイクルステーションの整備等に取り組み、清潔で快適な都市環境の維持を図ります。近隣住民とのトラブルを招く「違法民泊」についても、ワンストップ相談窓口を新設するほか、外国人旅行者への注意喚起を強化し、適正な民泊利用を促します。
こうした観光を取り巻く変化を踏まえ、東京都宿泊税条例の改正案を本定例会に提案しています。課税のあり方の見直しや、使途のさらなる明確化を進め、都民生活や都市環境と調和のとれた観光振興の実現に向けて、今後も有効に活用してまいります。
中小企業や農林水産業の成長を応援する
都内経済の屋台骨である中小企業にとって、技術や人材を次世代にいかに引き継げるかが、今後の成長を左右します。後継者のいない中小企業がM&Aを含めた事業承継により存続する道を拓くため、地域金融機関等と連携した支援を行います。特に、民間の投資対象となりにくい小規模な企業に対しましては、ファンドを組成して外部承継に向けたアプローチを進めてまいります。
大消費地に近い東京の農林水産業は大きなポテンシャルです。東京産キャビアの生産を目指したチョウザメの養殖手法の確立や島しょ部で獲れるクロマグロのブランド化など知恵と工夫で新たな価値を生み出します。また、生鮮品等の流通効率化に向けた豊洲市場でのDX導入を推進するなど水産業の活性化に繋げます。さらに、作業負担の軽減をはじめ各業界が抱える課題解決のため、スタートアップが持つ革新的な技術等の活用を後押しするなど、東京の農林水産業の持続的な成長を促します。
6 社会の構造的変化を踏まえた大きな都市づくりを推進する
次に、都市づくりであります。人々の価値観や社会の変化、老いゆくインフラなど都市が直面する課題から目を逸らすことなく、「人」を輝かせる舞台づくりを進めます。
変化の先を見据えた「人」が主役のまちを創る
例えば、この5年間で新たに開園した都立の公園は、東京ドーム約40個分に上ります。重要なのは、こうした「人」が主役のまちづくりをより一層前へと推し進めることです。ビルの屋上などに気軽に集える農的空間の創出や、クラウドファンディングを活用した農業者を応援するプラットフォームの構築、空き家等の遊休地を緑空間に転用する取組等を通じまして、都市の中で「人」と緑の距離をグッと近づけてまいります。外濠については、玉川上水と繋げて東京湾に至る水の流れを生み出すことで水質を浄化する実施計画を今年度内に策定します。日本橋川につきましても、周辺開発と連携した親水空間の創出や水質改善を目指す具体的な実施方針を取りまとめます。また、都における生物多様性の保全・回復を推進する「自然環境デジタルミュージアム」の拠点を昭島市内に整備いたします。さらに、明るく開かれた動物愛護の中核施設「動物愛護相談センター」の板橋区内への移転整備を丁寧に進めるなど、都民の皆様が自然や生き物を身近に感じられる憩いと潤いに満ちた都市環境を一層整えてまいります。一方で、都市に張り巡らされた道路空間に、ゆとりと賑わいという価値を加える新たな取組「東京ストリート+」も推進し、ウォーカブルなまちにしていきます。
子育て世帯等が手頃な家賃で住むことができるアフォーダブル住宅を充実させていきたいと考えております。東京都住宅供給公社と連携して6年間で合計1200戸供給するほか、オフィスビルなどのリノベーションや都有地を活用するなど新たな手法を駆使した取組にも挑みます。
空き家については、その発生を防ぐ取組を強化するとともに、若者の挑戦を応援する住まいや施設への改修など新たなアイデアを取り入れながら、積極的な利活用の流れを生み出します。
大都市であっても、地域における人と人との繋がりは極めて大切です。そこで、地域福祉の要となる民生・児童委員の活動を力強く支えるため、幅広い年代での担い手の掘り起しや、仕事と両立しやすい環境づくりを進めます。また、人が集い、人が交わる商店街も地域の重要なコミュニティの一つであります。若者や女性の参画を促す取組を後押しして賑わいと活気を創出していきます。
芸術文化やスポーツも、都民の豊かな暮らしに欠かせない存在です。秋冬の東京を彩る多様なイベントを結び都市の新たな魅力へと高める「東京国際文化芸術祭」や、ベイエリアを舞台に東京のアートシーンを世界に発信する国際美術展「TOKYO ATLAS」を起爆剤にしまして、アートをもっと都民に身近な存在にしていきます。年齢、性別、障がいの有無などに関わらず、多様な方が一緒に楽しめるeスポーツの振興にも力を入れていきます。また、昨年の世界陸上とデフリンピックは、人々に夢と希望を与えてくれる国際スポーツ大会の魅力を、改めて実感させてくれました。この流れを一層広げていけるよう、今後も関係団体等と協力してまいります。
ハード・ソフトの取組で将来にわたり首都東京の都市機能を支える
人手不足が様々なところに影響を及ぼす中、いかに都市機能を維持していくかが極めて重要な課題として突き付けられています。例えば、さらなる高齢化が予想される都におきましても、地域公共交通の確保は都民生活に直結する大きな問題です。こうした観点から、先月、「東京における地域公共交通の基本方針」の改定に向けました中間まとめを公表いたしました。不足するバス運転手の確保のため、女性や就職氷河期世代等の採用拡大はもとより、都営バス営業所の上部空間の活用や民間バス事業者への支援を通じた職住近接の環境整備、さらには運転の仕事を目指す都立高校生への後押しなど幅広い対策を講じてまいります。同時に、テクノロジーも存分に活用しなければなりません。来月、都営バスへの自動運転導入に向けた実証実験を臨海部で実施します。昨年高尾で発生した事故を踏まえまして、安全対策を徹底しながら、都内各地で自動運転の実装を進めます。
バスの運転手だけではありません。警察や消防の道を進む学生等の奨学金返還を新たに支援するとともに、区市町村の技術系人材の不足に対応する人材バンクを構築するなど、首都東京を支える担い手の確保を強力に推進してまいります。
広い視野としなやかな発想で東京ならではの都市像を描いていく
都市づくりは国家百年の計。将来を見据え、今後の都市づくりのあり方をしっかりと描くことが重要です。2050年代の東京の都市像とその実現に向けた方針などを示す「都市づくりのグランドデザイン」の改定に向け検討を進めておりまして、年度内に中間のまとめを公表いたします。都民の皆様から意見を伺いながら、広い視野としなやかな発想で未来への種を蒔き、世界をリードするような東京ならではの姿を描いてまいります。
7 多摩・島しょのまちづくりが東京を持続可能な都市にする鍵となる
最後に、持続可能な東京に欠かせない、豊かな自然と多様な地域性に溢れた多摩・島しょの個性を活かしたまちづくりについて申し上げます。
多摩地域の個性が活かされ、活発な交流で活力とゆとりのあるまちへ
多摩都市モノレールは地域を南北に結ぶ多摩の基幹的な交通インフラであります。その箱根ケ崎方面への延伸を、今後のまちづくりの起爆剤とするため、来年度、延伸に先駆けたリーディングプロジェクトを展開し、地元の気運を高めていきます。そして、令和9年度中に、新たに多摩都市モノレールをシルバーパスの利用対象に追加し、多摩のさらなる発展に向けて地域の活性化を促してまいります。再生に取り組む多摩ニュータウンでは、今年度末までに実行プログラムを取りまとめます。諏訪・永山、多摩センター、南大沢という3つのエリアで、それぞれ特徴を活かした先行プロジェクトを展開し、他の地域へ取組を広げていきます。さらに、多摩地域の特産の茶葉を活かし、煎茶の伝統を守りながら、国内外で人気が高まる抹茶生産にも力を入れ、「東京抹茶」としてブランド化するなど、農業や観光をはじめとする多摩の産業も盛り上げます。
多摩川上流には、都が120年以上にわたり管理する広大な水源の森が広がっています。多くの命を育むこの森を守り継ぐため、今後10年間の方針を示しました次期管理計画を年度内に策定します。野生動物との共生や山林火災から森を守る取組など施策をアップグレードいたしまして、確実に未来へと繋いでまいります。
また、目撃が相次ぐツキノワグマの保護と都民の安全・安心の確保に向けましては、市町村と連携した防除対策の強化など、都独自に緊急的な対策を講じていきます。
島ならではの課題に対応し、賑わいと活力溢れる地域を創る
島しょ地域につきましては、昨年の台風被害から学んだ教訓を活かし、島の強靭化に力を入れてまいります。光ファイバーケーブルの損傷防止や「空飛ぶ基地局」と呼ばれるHAPSの活用検討など多角的な対策で通信の確保を図ります。掘削によらない簡易な整備手法を導入しまして、無電柱化を加速させるとともに、本土からの支援が困難な事態を念頭に、都と八丈町が連携して、物資輸送の拠点となる防災倉庫も整備いたします。
また、水道管の老朽化や災害時のバックアップ機能の不足、水道事業の運営体制の脆弱さも顕在化しました。これを踏まえ、まずは各町村が抱える技術面の課題把握を進め、島しょ水道等の持続可能性の確保に向けまして、都としての対応のあり方を検討してまいります。
八丈島では、春の訪れを告げる「フリージアまつり」が3月に開催されます。多くの方々にお越しいただけるよう誘客キャンペーンを実施するなど、さらなる復興に向けた取組もしっかりと進めます。
島々の観光を盛り上げるには、交通サービスの充実が不可欠であります。AIデマンドタクシー等の社会実装に向けた取組を新たに新島でも展開します。さらに、地方の国際空港と連携しまして、島しょ地域への多様なアクセス手段をメディアや旅行関係者等にPRし、より多くの旅行者の獲得に繋げてまいります。
8 おわりに
さて、国政では本日、衆議院議員選挙後の特別国会が始まりました。都民・国民の皆様が一票に託した大きな期待にどう応えるのか、世の中が不安定な今こそ、どっしりと構え、今後の国のあり方を丁寧に議論しながら、日本を明るい未来へと導いていかなければなりません。
「失われた30年」と言われますが、振り返れば、地方分権の議論が本格化したのも、少子化の問題がクローズアップされた1.57ショックも、どちらもおよそ30年前のことです。この間、パイの切り分け方ばかりを論じていたことが、日本の縮小をもたらしたのだと、このように思います。まずはパイそのものを大きくしなければなりません。何を変え、何を守るのか。「強く豊かに」というスローガンを掲げる国と共に、新たな協議体において、東京ひいては日本全体の真の成長に向けた議論を進めてまいります。
我が国は歴史的な転換点を迎えております。首都東京から明るい未来のモデルを示す意味は極めて大きいものがあります。不確かな明日を、安心と希望に変える。都議会議員の皆様、都民の皆様と共に、「人」が輝き、活力に溢れ、安全・安心な世界で一番の都市を目指して、全力を尽くしてまいります。
なお、本定例会には、これまで申し上げましたものを含めて、予算案33件、条例案61件など、合わせまして125件の議案を提案いたしております。よろしくご審議をお願いいたします。
以上をもちまして、私の施政方針表明を終わります。